りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

白酒・甚語楼の会

2/4(火)、お江戸日本橋亭で行われた「白酒・甚語楼の会」に行ってきた。
 
・門朗「元犬」
・甚語楼「のめる」
・白酒「突き落とし」
~仲入り~
・白酒「親子酒」
・甚語楼「阿武松
 
甚語楼師匠「のめる」
記憶はないんだけど酔っ払ってどこかにぶつかったかしたらしくひどいタンコブができた、と言う甚語楼師匠。
私はまぁ結構お酒は飲む方ですけどそして酒癖もあまりよろしくないことは自覚しておりますけど、ただ私の場合は人に迷惑をかけることはない。ただ自分だけがひどい目にあって破滅する、というタイプの酒癖の悪さです。
 
…ぶわはははは。
でも酒癖が悪くて人に迷惑をかけてないって言いきれるのはすごい。私なんかほんとに迷惑かけっぱなし…とほほ。
いやでも気を付けてください…タンコブ危ないらしいので…。
 
そんなまくらから「のめる」。
この噺って面白い人と面白くない人がすごくはっきりしてる。リズム感が物を言う噺なのかな。
甚語楼師匠はとにかくリズム感が抜群に良くて半拍ぐらいの間でぐわっぐわっとたたみかけてくるから、もうほんとに楽しい。
そして「一杯のめる」の男のリアクションが思っているより激しいので、そこでまた笑ってしまう。
うーん。かっこいいー。
 
白酒「突き落とし」
ウィルスの問題でクルーズ船が停泊していることについて。
あれに乗ってる芸人は地獄でしょうね、と白酒師匠。
おそらくあのレベルの船であればシルクドソレイユを落ちてもう一度落ちて…ぐらいのレベルの人たちは乗ってますよ。でもそういうところは契約がきっちりしてますから、日にちが延びたからと言って気安く余計に公演をしたりはしないですよ。
そうすると噺家に「落語ならいくらでもできるでしょ」って言って頼んできますよ。
ああいう密封空間ってちょっとしたことで空気が悪くなっちゃうんですよ。
例えば昼間行ったホエールウォッチングでクジラが見られなかった、なんてことがあると、もう一気にお客さんたちの雰囲気が悪くなっちゃう。
そんな中で落語やってもウケるわけがない。「あーだから落語はつまんねぇんだよ」なんて言われちゃったりしてね。
あの船に乗ってる噺家と…あとキルト教室とかの先生は今まさに地獄を見てるはずです。
 
…ぶわはははは!!おかしい!!笑った笑った。
 
そんなまくらから「突き落とし」。
金のない連中が吉原に行って一芝居うって若い衆をお歯黒どぶに突き落として逃げてきちゃえという酷い計画を立てて出かけて行く、という噺。
まぁひどいんだけど、明らかにみんなに「棟梁」って持ち上げられてる男がおよそ大物感がないし、言ってる連中も「そうは見えないけど」「見えないでしょ」ってふざけていて、これならわかりそうなもんじゃないか、というツメの甘さがおかしい。
どうせお金を払わないんだからと、たらいをあつらえたりビールケースを注文したり…それが逃げる時のアクセントになっていて面白い。
楽しかった。
 
 
白酒師匠「親子酒」
聞き飽きた噺でも面白い人がやればこんなに面白いという見本のような「親子酒」。
酔っぱらってどんどんぐずぐずになっていく大旦那が傑作で笑った笑った。

 
甚語楼師匠「阿武松
相撲の親方は声が太くていかにも親方らしい。
おまんまの食べ過ぎのせいで武隈関のところをくびになってしまった小車はいかにも素朴な青年。
ご飯をすごい勢いで食べる客がいると聞いて宿屋の主が見に行くんだけど、「何か事情がありそうだね」と話をしている間にも小車が何度もおかわりをするのが面白い。
主が優しくてさっぱりしていて、ああ、この人にめぐりあえてよかったーとしみじみ思う。
次の日に連れて行く錣山関は武隈よりももっと威厳があって大物感がある。
紹介された 小車が大きな身体を小さく丸めて挨拶をする、というのが目に浮かんで涙…。
小車の身体を改めた親方が「いい!」「いい!」と何度も大きな声を出すのがおかしい。
 
楽しくてじんわりとあたたかい「 阿武松」。ストーリーを知っていても後半の展開には涙。とてもすてきだった。

生命式

 

生命式

生命式

 

 ★★★★

死んだ人間を食べる新たな葬式を描く表題作のほか、著者自身がセレクトした脳そのものを揺さぶる12篇。文学史上、最も危険な短編集 

人間が死んだ人間を調理して食べる、人間が死んだ後の骨や皮や髪の毛 で家具や洋服を作る、死から生を生む「生命式」が受け入れられるようになった世界。それが道徳的に忌み嫌われていた時代からまだたったの30年しか経っていない。

私たちの考える「常識」「善悪」「尊厳」「正常」ってなに?それは本当に正しいの?そんな問題を突きつけられているような作品たち。

正直「もうええわ…」と投げ出したくなる作品もあったけど、でも目が離せない。理解しきれてない部分もあるけど、すごい作家だなということは分かる。

私たちが夢中になって韓国文学を読むように、海外でもこの人の作品が読まれるといいな、と思う。

小満ん夜会

2/3(月)、社会教育会館で行われた「小満ん夜会」に行ってきた。
 
・ぐんま「初天神
小満ん「厄払い」
・茶楽「富久」
~仲入り~
小満ん「うどんや」
 
ぐんまさん「初天神
わーい、ぐんまさん。
出てくるなり笑いが起こり「わかりますよ、みなさんの気持ちは。痛いほど伝わってきてます。…え?おまえ?なんで?」
いやまさか小満ん師匠の会でぐんまさんを見ようとは思ってなかったから…。でも嬉しい!見るほどに好きになるよ。
群馬の物産展を歩くような「初天神」。とっても面白かった!
ぐんまさんの新作、聞いてみたい。
 
小満ん師匠「厄払い」
まくらでは節分の時の厄払いについてたっぷりと。
厄年の人は年の数の豆と小銭をおひねりにしてまくという風習が昔はあった。
小満ん師匠も子どもの頃、母親に言われてそうしたんだけど、「振り向いたり戻ったりしたらいけない」と言われてその場は仕方なく離れたんだけど、次の日気になって見に行っていたらなくなっていて、自分の厄を押し付けたようでちょっと罪悪感を覚えた、というのは面白い。
そんなまくらから「厄払い」。
与太郎さんがご機嫌でかわいい。おじさんの言うことをいちいちまぜっかえすんだけど、小満ん師匠だとそれがシャレがきいていて「うまいこと言うなー」と感心してしまう。
与太郎が厄払いの途中で「うんまぁこれぐらいやればいいや」と逃げて行くのもおかしかったー。
 
茶楽師匠「富久」
おおお。茶楽師匠の落語は小満んファンに受け入れられているようで、なんか嬉しい。まるで自分の手柄のように。って私の手柄でもなんでもないけど。
スピーディで軽くて楽しくてきれいな「富久」。
火事場に駆け付けた久蔵が受付を頼まれて火事見舞いに来た人たちに挨拶をして帳面につけてもらうんだけど、久蔵の如才なさが出ていてとてもきれい。
でもお酒を見ると飲みたくて飲みたくて何度も番頭に「お酒をお持ちいただきました」と言いそのたびに番頭に「そっちにやっておいておくれ」とあっさり言われるのがおかしい。
ようやくお許しが出ると待ってました!と飲み始め口数が多くなるおかしさ。
そして「もう終わりしていいよ」と旦那のお許しが出てからは飲むほどに酒癖の悪さがにじみ出てくる。
その後の展開もスピードがあって見ていて気持ちいい。上がったり下がったり…のまさにジェットコースター。
 
火事が起きた時に「お前がしくじった旦那の家があるところじゃないか」と声をかけてくれたり、本人がいないからと荷物を全部運びだしてくれたり…久蔵の近くにいる人たちの優しさが伝わってきて、なんかいいなぁーと思った。
茶楽師匠、とっても素敵だった。
 
小満ん師匠「うどんや」
3代目小さんの「うどんや」芥川龍之介夏目漱石が好きだった、という話。
夏目漱石が小さんの落語をまねした、という話は面白いなぁ。
そして「うどんや」はネタ出しだったんだけど、「実は先ほど楽屋帳を見ていたら、私2年前にここでやっていたんですね」「まぁ、2年前ですからこの2年で私の芸が…落ちたところを見ていただくというのも…」とにっこり。
 
そんなふうにして始まった「うどんや」。
酔っ払いが絡む、うどんやが謝る、のふわふわした会話の繰り返しが楽しい。
でもこの日の「うどんや」、酔っ払いが帰ってからうどんやに声をかけて食べ始めたおねえさんの色っぽいこと。そしてうどんを食べながらのろけるのがもうなんともいえずかわいくてしゃれてて…サゲも素敵だった!
帰る時に師匠に「あれは?」と聞いたお客さんがいて「オリジナルです」とのこと。
小満ん師匠の落語って誰にも真似できない小満んワールドが広がっていて、それを大の大人が面白いお話を聞かせてもらう気持ちで集まってきている感じがしてすごく楽しい。
 

高架線

 

高架線

高架線

 

 ★★★★★

風呂トイレつき、駅から5分で家賃3万円。古アパート・かたばみ荘では、出るときに次の入居者を自分で探してくることになっていた。部屋を引き継いだ住人がある日失踪して…。人々の記憶と語りで綴られていく16年間の物語。注目の芥川賞作家、初めての長篇小説。 

面白かった!

家賃3万円のオンボロアパート「かたばみ荘」。不動産を通さないかわりに、住人がこのアパートを出て行く時には次の住人を探さないといけないシステム。
この部屋に住んでいてしばらく失踪していた三郎を中心に、同じ部屋に住んでいた人や彼らにかかわりのある人たちが自分語りをする。

彼らの話から浮かび上がってくる誰かが誰かを大切に想う気持ち。友情とか自分がどうしても譲れないものとか、親しくても踏み込んでいかない感じがじんわりと温かい。

西武線沿線の描写も見事で(なにせ地元…!)きれいになる前の駅舎とか商店街とか西武線が高架になる時の瞬間とか…「ああ、わかる!」って何度もうなづいてしまった。

初めて読んだ滝口さん作品。面白かったから他の作品も読んでみたい。

いろは亭

2/1(土)、梶原いろは亭へ行ってきた。


・幸太「寄合酒」
・兼太郎「紀州
・小もん「金明竹
・小助六禁酒番屋
~仲入り~
・鷹治「時そば
・扇兵衛「初天神
・だるま食堂
・鯉橋「蒟蒻問答」

 

助六師匠「禁酒番屋
浅草の昼の部の出番の後に、小痴楽師匠と水口食堂に飲みに行って、途中で米助師匠も合流してお会計してくれて、その後もう少し飲みなおそうかとお店の人に声かけたら「あなた方…いい加減にしたらどうです?」と追い出された、というのがおかしかった。
お酒のまくらから「禁酒番屋」。
助六師匠の「禁酒番屋」は何回か見ているけど、テンポが良くて軽くて楽しい。
「やらせてくださいよ」と言う店の若い衆の気の良さと、番屋のいかめしい侍が久しぶりに酒にありつける!とうきうきしたり飲んでるうちにろれつが回らなくなるのが、わかっているのに何度でも笑ってしまう。
楽しかった。

 

鯉橋師匠「蒟蒻問答」
大学の落研の先輩が国会議員になりその留守番で里光師匠と交代で議員会館に通ったという話。「ちょうど月末の10日間だったので下席は里光と交互出演でした」に笑う。
鯉昇師匠の物まねがそっくりで大笑い。
そんなまくらから「蒟蒻問答」。

頼りになる親分、いい加減な偽和尚、ざっくりした寺男権助、問答をしに来た勇ましい旅の僧侶、と人物がくっきり。
親分のしぐさにいちいち「ははぁーー」となる旅の僧侶がおかしくて、楽しい~。
とても楽しい「蒟蒻問答」だった。

アルジェリア、シャラ通りの小さな書店

 

アルジェリア、シャラ通りの小さな書店

アルジェリア、シャラ通りの小さな書店

 

 ★★★★

1936年、アルジェ。21歳の若さで書店“真の富”を開業し、自らの名を冠した出版社を起こしてアルベール・カミュを世に送り出した男、エドモン・シャルロ。第二次大戦とアルジェリア独立戦争のうねりに翻弄された、実在の出版人の実り豊かな人生と苦難の経営を叙情豊かに描き出す、傑作長編小説。ゴンクール賞、ルノドー賞候補、“高校生のルノドー賞”受賞! 

フランス統治下のアルジェリアで書店兼出版社「真の富」を開いた伝説の出版人エドモン・シャルロの章と、書店の解体整理を行うリヤドの章が交互に語られる。

カミュ、ジッドらの本を出版し文学賞受賞の喜びを味わいながらもレジスタンスの一員と見なされ投獄されインクや紙不足に苦しみ破産してしまうシャルロ。
書店はその後国立図書館となるが国が実業家に売ってしまったため貴重な本や手紙類が全てゴミの山と化す。

自由な思想が弾圧され本や書店が破壊される。どの国も同じ過ちを何度も繰り返すのかと思うと辛いが、読後感は不思議と爽やかだった。

雲助の会

1/30(木)、赤坂会館で行われた「雲助の会」に行ってきた。
 
・ぐんま「権助魚」
・雲助「徳ちゃん」
~仲入り~
・雲助「品川心中」
 
ぐんまさん「権助魚」
出囃子が鳴って間違った扉から出てくるぐんまさんに大笑い。
高座に上がって「わかります。わかってますよ。みなさんの気持ちは伝わってきますよ。”え?ぐんま?大丈夫なの?”…よっぽど他の前座がいなかったんでしょうか(笑)。でも大丈夫です。私だってわきまえてますから。古典やります。まさかここで新作なんてやりません」
インフルエンザに気を付けてくださいと言った後に「あと一つみなさまに気を付けていただきたいことが」と、銭湯に行ってタイガージェットシーン似のインド人に気に入られてしまった、という話。
これがもうおかしくておかしくて大爆笑。
雲さまファンのお客さんの心もがっちり掴んですばらしい~。いやでも雲さまのお客さんって「おれはめったなことじゃ笑わねぇよ」というような雰囲気じゃないんだよな。なんかとっても明るくて面白好きな雰囲気。居心地がいい。
 
まくらから噺に入ったんだけど、なんかぎくしゃくしていて笑いが起きると、「あれ?へんだな?あれ?…新作に頭を侵されてて古典のまくらの入り方がわからなくなっちゃった」。
…ぶわははは。
権助魚」、おかみさんが無駄に色っぽくて(笑)面白い。なんとなく会話はぎくしゃくした感じもちょっとあったけど、でもちゃんと古典。
でも時々「群馬ネタ」を入れてくるのがおかしい。
あとまくらで喋っていたインド人の歌と踊りが盛り込まれてたのも面白かった。

雲助師匠「徳ちゃん」
お客様から時々言われることがあります。「雲助さんが吉原に行ってた時はどうでした?」
私が10歳の時に吉原はなくなりましたからどんなませたガキだったからといってさすがに行ってません。
でも私が噺家になったばかりの頃は今みたいにソープランドばかりじゃなく、昔の建物をそのまま「旅館」として使ってるお店もあって、まだ風情も残ってました。
勉強のために通いましたが…と言ってそのころの思い出をあれこれ。これがとっても楽しい。
噺家だということがいつからかバレて、通りかかると「噺家!今日も泊っていきなよ!」と声をかけられるように。
「今日は金がねぇんだよ」と言うと「いいよ。あるだけで」。
おお、これが「なじみ」になるっていうことか、とちょっと嬉しくなって上がると、普通の部屋じゃなくて布団や座布団なんかが置いてある部屋に通された。そこではおかみが座布団カバーにアイロンをかけていて「これやってくれたら今日はタダでいいよ」。
さすがにアイロンは断りました、に大笑い。
そんなまくらから「徳ちゃん」。雲助師匠の「徳ちゃん」は初めて!うれしい~。大好きな噺。
 
笑ったのは花魁を見立てる時に最初「その真ん中にある白いの!」「これは…白い瀬戸物ですよ、お客さんいやだなぁ。花魁はこの奥にある黒い方ですよ」「え?そこでわだかまってるのが花魁?」。
わだかまってる…ぶわはははは!!最高。
花魁が芋をかじりながらやってきて、それをぺっ!と吐き出したり、「おめぇ芸人け?おら、芸人好きだ。やわらけぇ手ぇして…ええなぁ」と言って、ぶちゅっ。それを「うわっ!」と手で押さえるしぐさのおかしさ。
言葉の選び方や細部がおかしくて最高だった。笑った笑った。
 
雲助師匠「品川心中」
花魁が色っぽくてでもちゃっかりしていて、善さんがおまぬけでお人好しで、二人の様子や品川の海が目に浮かんでくる。
海から上がった善さんに犬が吠えかかってくるところがすごくおかしくて(雲助師匠の顔!)大爆笑。
夜中に訪ねて行った親分の家のドタバタにも大笑い。
後半の仕返し部分も好きなので通しで聴けて嬉しかった~。
 

中央駅

 

中央駅

中央駅

 

 ★★★★★

韓国文壇界、新進気鋭の若手作家による長編小説!

日経新聞に書評掲載など、 国内でも反響の大きかった
『娘について』の著者、キム・ヘジンが、
絶望の淵に立つ男女の愛を描き出す…本邦初訳!

これがどん底だと思ってるでしょ。
違うよ。底なんてない。
底まで来たと思った瞬間、
さらに下へと転げ落ちるの―― (本文より)

路上生活者となった若い男、同じく路上で暮らしながら、
毎晩、際限なく酒をあおる病気持ちの女。
ホームレスがたむろする中央駅を舞台に、
二人の運命は交錯する。『娘について』
(亜紀書房刊)を著したキム・ヘジンによる、
どん底に堕とされた男女の哀切な愛を描き出す長編小説。

主人公は若い男のホームレス。彼がどういう人間で、なぜそうなってしまったのかという事情は一切語られない。

ある晩ふらっと現れて彼の隣で眠り、翌朝全財産が入っている彼のスーツケースを盗んで消えていった女。彼女を探しだして半殺しにしてやると息巻くが、いざ彼女を見つけると離れることができなくなる。
毎晩身体をかわすようになり、男はほんのわずかな希望を抱いてはまた落ち…を繰り返す。
これは愛なのだろうかと男は何度も自問するが、間違いなく愛だったのだとも思えるし、彼が捨て去ったつもりの未来を夢見る道具だったのかもしれないとも思える。

とてもヘヴィな物語で読んでいて何度も目を逸らしたくなったけれど、物語の吸引力が凄くて引きずり込まれるようにして読んだ。キム・ヘジン…凄い作家だ。

紀伊国屋寄席

1/29(水)、紀伊国屋寄席に行ってきた。
 
・歌つを「たらちね」
・一花「黄金の大黒」
・さん助「今戸の狐」
・金馬「試し酒」
~仲入り~
・正楽 紙切り
・一朝「藪入り」
 
さん助師匠「今戸の狐」
今から申し上げる「今戸の狐」という噺は三大噺。
三大噺っていうのはとても難しくて、お題をねじこむだけじゃだめで、どれか一つをサゲに使わないといけない。大変な力量が必要です。
実は私も…小さな落語会で毎月三大噺にチャレンジしているんですが、これがとても大変で。
この間もそちらの会でお客さんから出されたお題が「初雪」「赤羽」「麒麟がくる」。
もう困り果てまして…。
 
…うおおお。この間の駒込の会の時の話してる!なんか珍しい!
というか、三題噺だったの?これ?へー。
 
そんなまくらから「今戸の狐」。
駒込で見た時よりすっきりしたかな、という印象はありつつも、やっぱり少しわかりにくい噺なのかなぁ、という感じは否めず…。
でも良助のキャラクターがなんかさん助師匠にぴったりだし、あと妙に色っぽい小間物屋の女房も面白いし、私は好きだなー。
前座の大変さをあれこれ語りながらも良助自身は「お前は年だから」と師匠に免除してもらってるっていうの、面白い。
あとやくざ者と良助の会話がまるでかみ合ってないのに、良助が得意になって自分の狐を見せるところも好き。
楽しかった。
 
金馬師匠「試し酒」
この間寄席で見た時は座ることが出来なくて立って話をされていたけど、今日はいったん幕が下がって釈台を前にしての高座。
以前に比べると少し喋りにくそうなところもあるけれど、矍鑠としていてほんとに素晴らしい。
お酒を飲みながらほんとに顔がどんどん赤くなってくるのはなぜ?
豪快で楽しい「試し酒」。よかったー!
 
正楽師匠 紙切り
この日出たお題が「豆まき」「志ん生師匠」「金馬師匠」「つかこうへい」「チコちゃんに叱られる」「同窓会」。
金馬師匠はまさに「試し酒」をやっている金馬師匠。釈台があって扇子を大きく広げてお酒を飲んでるところ。
「同窓会」のお題には「同窓会っていってもいろんなのがありますよね。卒業してすぐの同窓会もあれば何十年も経ってからの同窓会も…。何十年も、の方ですね?そうだと思いました」と言って、老人たちが楽しそうに立食で飲んだり喋ったりしているところ。(ほんとに楽しそうな様子がうかがえたのすごい!)
 
「つかこうへい」のお題には「え?つかこうへい?ああ…このホールでいろんなお芝居をね…されてましたもんね…どうしよう…ほんとにわからない…でも初めてのお題って…ワクワクする…わくわく…できないとは言わないんです、切るんだ…俺は切るんだ!」
出来上がった作品も素晴らしくて感動ーー。素晴らしかった。
 
一朝師匠「藪入り」
くまさんのチャーミングなこと!
「なぁおっかぁ」と何度も何度も話しかけておかみさんが「もううるさいよ!」という、この二人の会話がとても自然であったかい。
帰って来たかめちゃんもきちんとはしているけどとても子供らしくてかわいい。
かめちゃんの顔を見ることもできずやくざ者みたいな言葉になるくまさんもチャーミング。
おかみさんがお金を見つけてくまさんに言って、くまさんが「あのやろう」となるところ、そういう性格がわかるから、見ていて不自然な感じがないし、真相がわかってけろっと謝るところもいいなぁ。
手紙のところ、かめちゃんとの会話で涙涙。
とても素敵な「藪入り」だった。私の中でベストかもしれない。

柳家小三治独演会

1/28(火)、習志野文化ホールで行われた「柳家小三治独演会」に行ってきた。
 
・小八「道灌」
~仲入り~
・三之助「替り目」
小三治「長短」
 
小三治師匠「初天神
まくらなしで「初天神」。
おとっつぁんが「あの時かかぁが羽織をすぐに出せばよかったんだ」と何度もぶつくさ言うのがなんか小三治師匠らしくて好き。
子どもはちゃっかりしていて生意気を言うけどとても子供らしくていやらしさがない。
おっかさんの言うのをまねして「新しい羽織を買ったからってすぐに着たがって」とか「(お仕事に行く?)うーそだー。おいら、顔見ればわかるもん」と言うのも、すがすがしい。
二人で歩いていて、子どもはあっちこっちに目が行って目がキラキラ、おとっつぁんは人の多さにうんざり…というのも見ていると浮かんでくる。
「ごほうびになんか買って」と言った後に「後の励みにならねぇよ」っていうのも好き。
凧をねだられて買うときもぶうぶうのおとっつぁんが凧が上がったとたんに、それまでの暗いトーンからぱーっと明るくなるのもいいなぁ。
広い空に高く上がる凧が目に浮かんでくる。素敵。
この日の高座、屏風の上に凧が飾られていて、この噺にぴったり。しかも私、最前列のど真ん中という神席だったので、表情や小さなしぐさなどよく見えて至福だった~。
 
小三治師匠「長短」
この頃冬になると歌う歌があります。と「公園の手品師」の話。
小三治師匠が語るフランク永井さんのエピソード。
売れっ子でスターで豪邸に住んでいてジャガーに乗っていて。
一緒にゴルフにも行ったけど、あの人のゴルフときたら…球がまっすく飛ばないで、隣のホールの方まで曲がっていって、そこから戻ってきてグリーンに乗る。実にけしからんゴルフでしたよ、に大笑い。悪く言ってもリスペクトと好意が伝わってくる。

そんなエピソードの後に「公園の手品師」。これがもう低音で素敵なんだ…。音程とかビブラートとかっていううまさもそうだけど、いわゆる歌の上手い人にありがちな「どや」がなくて…歌も静かで耳をすませて聴く感じ。素敵。
 
友だちのまくらから「長短」。
小三治師匠の長短はいつも短さんに目がいくんだけど、今日は長さんに心奪われた。
のんびりしていて穏やかな長さん。短さんにガミガミ言われるたびに「わかったよぅ」と言うのがなんともいえずかわいい。
あと「教わることはきらい」と言い切った短さんが「俺がおせぇてもか?」と言われて「お前は別だよ!」と言うところにも二人の長いつきあい、関係性が出ていて好き。
こんなにかわいい80歳って…どういうこと…。
大雨の中やっぱり行ってよかった。 

かわいい見聞録

 

かわいい見聞録

かわいい見聞録

 

 ★★

猫のしっぽ、ソフトクリーム、シジミ、毛玉…?あれもかわいい、これもかわいい。王道&意外な30の「かわいい」そのヒミツを探るコミック&エッセイ。日常のなかの「かわいい」探しの旅、始まります!

やはり私はこの人の漫画が好きなんだな…。
漫画だと余韻が深いっていうか細かいニュアンスみたいなのが伝わってくるんだけど、文章だとそれが薄まってしまう気が…。

私的にはちょっと残念でしたわ。

楽屋半帖

1/27(月)、駒込落語会で行われた「楽屋半帖」に行ってきた。

 
・さん助「猫の茶碗」
~仲入り~
・さん助「大河は八時」(「初雪」「麒麟がくる」「赤羽」)
・さん助「今戸の狐」
 
さん助師匠「猫の茶碗」
最も古い落語家「三笑亭可楽」の話から文晁と蜀山人のエピソードなどあれこれ。
こういうまくらってとても楽しい。
聞いたことがある話もあれば(文晁が朱を塗った河骨花を蜀山人が見て「珍しい」と言って欲しがるので文晁が渋々譲ってやったのだが、家に帰って水をかけたら普通の黄色い花に戻ってしまった)、聞いたこともない話も。
寄席のようなものが出来た時には武士も町人も席を同じくして聞いたり自分が話したりした、というのは面白いな。
これはいったいどんな噺につながっていくんだろうと思っていたら、なんとこれが「猫の皿」だった。
 
噺に入ってからも、茶店の親父と道具やがずいぶん長い間世間話。
昔江戸にいたという主人に「いつまでいたのか」と聞くと、あの上野の戦の時まで、と。
あれはほんとに酷い戦だった。最初の内は彰義隊だ、官軍だと言って戦っていたが、最後はもう誰が誰だかわからないぐらい入り乱れての殺し合い。あれですっかりいやになってこちらまでやって来た、と店の主人。
嫁さんをもらって子どもも生まれたが嫁は亡くなり子どもたちは東京へ行き、今はこうして一人暮らしをしている、と。
長話の末にお茶を入れに行く時に「こら、小僧。そんなところにいちゃだめじゃないか」と猫に声をかける。
それで道具屋が猫と茶碗に気が付く、という展開。
 
「猫の皿」って季節を感じさせる風景とか田舎の描写がいいな、と思うんだけど、そういうのはあまりなかったかな。
でも二人のいつ終わるとも知れない会話はなんか面白かった。
そこからの展開はわりとポンポンとスピーディ。
ちょっと笑っちゃったのが、道具屋が猫を抱くんだけど、あまり猫に見えない(笑)。なんか妙にでかい…そして触るのもいかにも慣れてない感じ。
「所作!」と心の中で突っ込み(笑)。
 
さん助師匠「大河は八時」(「初雪」「麒麟がくる」「赤羽」)
頭を上げるなり「雑排」に入ったさん助師匠。おお、またこのパターン。
なんか「雑排」久しぶり~と喜んでいたら、「初雪や~」のくだりをいくつかやっていきなり終了。
「いきなり終わったな。唐突だったかな。ここにあんまり時間かけられないからな」(ぶわははは)
で、「あー終わった終わった」とさん助。
「この会もあと少しだ。三題噺の地獄からもようやく逃れられる。はぁー」と言いながら電車へ。
駒込なぁ。これ一駅なんだけど田端で乗り換えないといけないんだよな。これがめんどくさいな。一度田端まで歩いてみたけど、一駅っていってもすごい遠くて30分ぐらいかかっちゃってさ。あれはひどい目にあったな。さ、乗り換え乗り換え。よし、あとはこれで一本。あーー赤羽か。(パチパチ!)」
なんて言っていたさん助。「川口」と聞いて「あと一駅だ。あーなんでかあと一駅って思うと眠くなっちゃうんだな。なんでだろうな。ぐーーーぐーーー」。
眠り始めたさん助。そこへアナウンス。「次はナイロビーーナイロビーーー!」

「え?なんで?さっき川口だったのになんでナイロビ?うわっあつっ!あっついなぁ。(と羽織を脱ぐ)なんだよどういうことだよ。なんでナイロビ?はっ、気づいたら周りは顔の黒いやつばかりだ。ってことはほんとにここはナイロビ?」
慌てていると「あなたーどうしましたー」
いきなり日本語で話しかけられる。
「わ、日本人がいた!」
「ええ、ここで日本人に会うのは珍しいことです。あなたはどうしてここへ?」
「いやわからないんです。京浜東北線に乗ってたはずで川口っていうアナウンスは聞いたんですけど、はっと気づいたらナイロビって」
「ああ、そういうこと、時々ありますね」
「あるんですか?!」
「ええ、あります。ところであなたは何をやってる人ですか」
「私は落語家です」
「ああ、自称」
「自称じゃないですよ!落語で食べてるんです」
「へー」
「あなたは?」
「私はマサイラマ保護区に勤めてます」
「というと?」
「いろんな動物を保護しているんです」
 
というわけで、その人について行くことにしたさん 助 。一緒にパトロールを手伝うことに。
動物を殺して儲けようとするハンターがいるのでこうして毎日パトロールが欠かせないのだという。
ハンターと動物におびえながら男について行くさん助。
「ぱおーーん」
「あ、象だ。こわいっ!」
「ええ、やつら結構獰猛ですから。足でつぶされたらひとたまりもない。」
「あ、バッファローだ!」
 
…いろんな動物が出てくるんだけど、出てくる動物がやたらと吠えて狂暴に暴れまわる。中にはペンギンもいて、これもまた変な所作。
これはこの展開は…と思っているとついに…「近頃はキリンをねらうハンターも多いです。でもキリンはああいうかわいらしい顔をしてるけどすごく危険です。象なら一思いに殺してくれるからいいけど、キリンは少し急所を外していたぶりながら…」
「ああ、やめてください」
そしてハンターも銃で一撃ちではなくナイフで喉を切り裂いてくるので痛い時間が長く続くらしい。
というわけでさん助の怯えもピークに。
「今何時ですか?」
「六時です。」
「ハンターは?」
「まだ出ません」
「今何時ですか?」
「七時です。そろそろ…」
なんて言ってると、出たー。ハンター。そして銃で撃たれて走ってくる象!
また別の動物も走って来た!
「あれはもしかしてキリン?キリンですか?」
「いや。麒麟がくる、は、八時」
 
…ぶわははははは。
しっちゃかめっちゃかでめちゃくちゃな噺だったけどサゲだけ妙にきれいに決まった。
ばかだー(ほめてます)。
 
さん助師匠「今戸の狐」
今戸焼のまくら。
浅草には今戸焼の狐やねずみなどを売ってる店があるとか。
狐の顔を描いたりする内職が昔はあった、というまくらから「今戸の狐」。
 
名人可楽の弟子で前座の良助。
なにやらこそこそ何かをやっているところにご近所の 小間物屋の女房が訪ねて来る。
良助の部屋をのぞき見して今戸焼の彩色の内職をやっていることを知り自分もやりたいという。
この女房が元は千住で女郎をやっていたらしく、「コツのサイ」と呼ばれているんだけど、シナを作って早口でああだこうだというのがすごくおかしい。
前座は大変なんだといろいろ言い訳をする良助だけど、実は前座働きも通いも師匠から免除されていて家賃も払ってもらっていて、「どんだけなまぬるいの!」と言われるのがおかしい。
 
一方、師匠の家に住み込んでいる前座たちは毎日寄席で働き、唯一の楽しみは仲入りの時に売るくじのお金。これだけはそのまま小遣いになるので今日はいくら儲けた!と大盛り上がり。
それを通りかかったやくざな男がばくちをやってると勘違いし、師匠を強請って金を巻き上げようと乗り込んでいく。
ばくち用語で「コツ」「狐」などと言うので前座たちは良助が作っている狐を欲しがってるのかと思い、良助宅を紹介。
男が勇んで出かけて行って良助に掛け合うと、良助も今戸焼の狐を買いに来たのだと思って…。
 
…一度だけ白酒師匠で聞いたことがあったけど、その時は多分噺の内容を把握できてなかった。
ちょっと込み入ってるよなー。でも面白-い。
びくびくしている良助がさん助師匠にピッタリでおかしかった。

レンタルなんもしない人のなんもしなかった話

 

レンタルなんもしない人のなんもしなかった話

レンタルなんもしない人のなんもしなかった話

 

 ★★★★★

本書は2018年6月3日に「レンタルなんもしない人」というサービスがスタートした時から、2019年1月31日「スッキリ」(日本テレビ)出演まで、半年間におこった出来事をほぼ時系列で(だいたい)紹介するノンフィクション・エッセイです。本当になんもしてないのに次々に起こるちょっと不思議でこころ温まるエピソードの数々。 

 twitterでは見てるけどこうしてまとめられるとなんとなくこの方のやりたかったことが少しだけわかるような気がする。
実験して観察して考察する、いかにも理系な感じ。これがもう少し文学的というか情緒的になると長続きしないんだろうな、と思う。

人として線の細いところと太いところがあってそのバランスが絶妙。面白い人だなと思うけど、面白すぎないところもいいのかも。
あとやっぱり面白いことが好きなんだろうな。読んでいて何度か声を出して笑ってしまった。
なんもしないにこだわって時にはちょっと頑張って「なんもしないをしている」ところが垣間見れたのも面白かったな。

それにしてもいろんな人がいるなぁ。人間って面白い生き物だな。

あれも凌鶴これも凌鶴

1/26(日)、道楽亭で行われた「あれも凌鶴これも凌鶴」に行ってきた。

・凌鶴「蘇生奇談」
・凌天「吉岡治太夫
・凌鶴「近衛秀麿
~仲入り~
・凌天「矢取勘左衛門」
・凌鶴「前座ポスト」

 
凌鶴先生「蘇生奇談」
健康の秘訣は腹八分目、というようなまくらから「 蘇生奇談」。
初めて聴く話。
植木屋の五兵衛がお得意様の造り酒屋に仕事に行くと主人にせんべいを勧められる。
自分は大食いなのでちょっと食べるくらいだと逆に腹が空いてしまうので要りません、と言うとならば何枚食べられる?と賭けになる。
50枚食べてお金をもらった五兵衛。
次の日は鍋に入った汁粉。
その次の日は焼酎。
酒にそれほど強くない五兵衛がべろべろで家に帰り、女房に引っ張られた拍子に倒れ、胸を打ちつけて気を失ってしまう。
医者が診て死んだと言われ棺に入れられて埋められるが、実は気を失っていただけだったので目覚めて起きだす。
途中で会った巡査も一緒に家に帰ってみると…。
 
こんな講談もあるんだ!なんか落語みたいだ。
五兵衛さんがのんきで優しくていいな。楽しかった。
 
凌鶴先生「近衛秀麿
日本のオーケストラの祖、 近衛秀麿の一代記。
なんという劇的な人生なんだろうと思うけれど、それもこれも戦争があったせいなのだよな。
軍国主義になって戦争に負けて今度はそちら側の人は戦犯になる。
巻き込まれて命を落とす人たちが本当に哀れだ。
秀麿は家柄も良くて大臣の兄を持って…恵まれていたんだろうけど、それだけに危険と隣り合わせだったともいえる。
ネルソンとのエピソードには涙が出た。
ユダヤ人の音楽家を大勢救ったのは勇気ある行動だったなぁ、と思う。
いろいろ感じるところが多い話だった。
 
凌鶴先生「前座ポスト」
この世界、師匠に「破門だ」と言われてしまうともういることができなくなる。これは実に残念なこと、と 凌鶴先生。
落語家だと協会を変えて別の師匠に入門しなおす人もいるみたいだけど、それでもその時はまた前座からやり直し。それもなんかもったいないような気がします。
自分は、結婚式の時に母親から強いリクエストがあったので師匠である一鶴先生に来てもらった。
そこで師匠が披露してくれた講談が妖怪軍団修羅場。結婚式で妖怪かい…と思ったけど、そういう常識外れのところが魅力の師匠だった。
母親が師匠と話をしていた時も「〇〇くん(弟弟子)がいい感じに育ってきていてねぇ。彼は売れますよ!実にいい!」と 凌鶴先生のことには触れず弟弟子をべた褒め。
まぁ母親が「〇〇くんがいるから一門も安心ね」と納得していたから最終的にはよかったけど…。
そんなまくらから、「前座ポスト」。入門して8年目ぐらいの時に作った話だとか。
 
久しぶりに一鶴先生の旅の仕事のおともに呼ばれた凌鶴。
普段は師匠がグリーン車、自分は自由席なのに、この日はどういうわけか師匠の隣の席。
そして師匠が「このお弁当、君が食べていいよ」「肩でも揉もうか」とやたらと親切にしてくれる。
なんかおかしいなと思いながらも楽しく過ごしていると師匠が「あのね…実は…今日君にきてもらったのは仕事じゃないんだよ」
「え?」
「君…最近前座ポストというのができたのは知ってるかい?」
「ああ、なんか聞いたことあります」
 
いらなくなった前座を破門にするのではなく前座ポストに入れることで、逆に弟子が欲しい師匠や相性のいい師匠が見つかるかもしれない、という画期的なシステムがこの度導入されることになり、新しもの好きの一鶴先生がなんと 凌鶴を前座ポストに入れることに…!
「え、だって私…前座じゃありませんよ。二ツ目ですし。言っちゃなんですけど私よりダメな弟子もいるじゃないですか!」
「そうなんだよ。でもほんとにダメな人をポストに入れても拾ってもらえないじゃない。その点君はほら…ちゃんとしてるから…」
 
…ぶわはははは!
この後の展開もすごくおかしくて…あと細部がたまらないんだ…面白くて。
凌鶴先生ってなんか…勇気がある(笑)。
最高に面白かったから、戦記物や張扇をこれ見よがしにバンバン叩くような講談はちょっと…という人は 凌鶴先生の新作を聴くといいと思うよ!まじでまじで。

短篇集ダブル サイドB

 

短篇集ダブル サイドB (単行本)

短篇集ダブル サイドB (単行本)

 

 ★★★★★

 老境を描いた詩情豊かな作品「昼寝」。息もつかせぬ「ルディ」。兵役を控えた若者たちを描いた「ビーチボーイズ」。奇天烈な宇宙SF「ディルドがわが家を守ってくれました」。暗示的な「膝」。全8篇どこから読んでも傑作!日本の読者へのメッセージも!

サイド Aからあまり間をおけずに読めてよかった。

「昼寝」に描かれるどうしようもない絶望と小さな希望にヒリヒリする。
子どもがいたっていなくたって行きつく先は不自由な体と死ぬのを待つだけの日々なのだろうか。それでも認知症を患った初恋の人の手を握るシーンは美しい。

「ルディ」自分の価値観や善悪が吹き飛ぶような暴力。積み上げてきたつもりのものが失われていく無力感。お互いを憎みあいながらももうお互い無しでは生きていけないような…私とルディはいったい誰と誰なのだろう。

アスピリン」は理解も納得もしていないけど慣れるのだけが上手な彼らが他人とは思えなかった。

「ティルドがわが家を守ってくれました」は「銀河ヒッチコックガイド」にも共通するユーモアがあって好きだ。八方塞がりの現実、もう逃げ道は宇宙にしかないのかも。

描かれているのは絶望的な状況ばかりなのに少し笑える。このユーモアがたまらなく好きだ。
とてもよかった!