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☆2026年本屋大賞受賞☆
【第9回未来屋小説大賞】
【第2回あの本、読みました?大賞】沈みゆく列島で、“界隈”は沸騰する――。
あるアイドルグループの運営に参画することになった、家族と離れて暮らす男。内向的で繊細な気質ゆえ積み重なる心労を癒やしたい大学生。仲間と楽しく舞台俳優を応援していたが、とある報道で状況が一変する女。ファンダム経済を仕掛ける側、のめり込む側、かつてのめり込んでいた側――世代も立場も異なる3つの視点から、人の心を動かす“物語”の功罪を炙り出す。
「神がいないこの国で人を操るには、“物語”を使うのが一番いいんですよ」
めちゃくちゃ面白かった!
何を隠そう、私も推し活経験者。
コロナ禍、オーディション番組にハマり、そこで結成されたあるグループをデビュー前から応援するようになり、まさにこの小説に描かれているように、動画の再生回数を上げようとしたり、音楽系のサブスクで曲が上位にランクインされるように流したり、twitterでトレンド入りするようにタグを付けてつぶやいたりしていた。
twitterで推し活用のアカウントを作って同じ推し活仲間との交流もあって、出来立てのファンダムということでお互いにテンションも高かったし無敵感もあった。
だからここで描かれているファン同士の交流で心が潤う感じとか達成感とかそういうの、すごく分かるし、そこから生まれる依存や弊害も経験済みなので、読んでいてもう痛い痛い。
「イン・ザ・メガチャーチ」には3人の登場人物を中心に話が展開していく。
洋楽好きでレコード会社に入社し、若い頃は仕事に情熱を注いでいたものの、洋楽を聴く人が減り音楽事業から離れて15年になる久保田慶彦。妻と離婚し大学生の娘・澄香と月に一度ビデオ通話をすることだけが楽しみだが、実際には話題もなく…しかし手放す気もなくくすぶっている。
幼いころから洋楽を聴いて育ち、留学をして英語の勉強をするつもりで入った大学で、帰国子女や留学経験者の多さから劣等感を持つようになり、やはりくすぶっている慶彦の娘の澄香。
倫太郎という2.5次元俳優の推し活を生きる糧にしている派遣社員の澄川絢子。
慶彦が同期で今も音楽事業の最先端で活躍している橋本から、次に売り出すグループの物語戦略に力を貸してくれと言われるところから物語は始まる。エンタメ系IT会社の国見からグループを成功に導くためには信徒獲得と教義の布教が大切、と言われ、いわゆる推し活をさせる側のノウハウが語られる。
推し活をしている自分からするとこの国見のワードがまた痛いこと…。
いわくファンはプロデューサー気質、アナリスト気質、学級委員気質、疑似恋愛気質、信徒気質の5つの気質に分類できる。この中で信徒気質を持つファンを獲得することが熱いファンダムを作り出しグループを成功に導くことができる、と。
そして私はここに区分されているファンの5つの気質でいうと、間違いなく信徒気質。一番カモにされるやつ。その理由は、ここで書かれているように、私が物語好きだから。視野を狭くするのが得意だから。
タイミングよく情報を与えるだけで、信徒は勝手に物語を作り上げ勝手に燃えあがり売り上げに貢献する動きをする。まさにそう。
でも実は物語で人を惹きつける商法が推し活だけではなく、政治や宗教もそうなのだ。それがこのタイトルに繋がっている。
この物語の中は何度も「視野を狭める」「視野を拡げる」というワードが出てくる。
推し活に依存していた女性がその対象を失って(推していた2.5次元俳優が自殺)呆然としている時、彼が自殺するわけない、何らかの陰謀に巻き込まれたんだという考えに傾倒していき、そういう団体に取り込まれていく。
彼女自身がしきりに自分は今まで視野が狭かったが今になって視野が拡がったと言うのだが、読んでいて「視野が拡がるってなに?」という違和感がある。
その答えは推し活で常軌を逸した行動を取るようになった澄香が教えてくれる。
結局誰だって、信じる物語を決めて生きているだけだ。それが世界平和だったり自己啓発だったり陰謀論だったりするだけで、皆各々のドラッグで自分の脳を溶かしながら死ぬまで生きるだけだ。
澄香の父で今は搾取する側の仕事をしている慶彦の言葉。
何が本当に対象のためになるのかとか、何が今最も本質的な行為なのかという問いは、”視野を拡げて考えて見ると”という呪文を唱えさえすれば、その答えを永遠に反転させられる。
つまり、どの角度から見ても間違いなく本質的に正しい答えなんて、どこにもない。
どこかで、”この視野で、ある程度の確率で、間違う”と覚悟を決めるしかないのだ。
(中略)
本質的であろうとすればするほど、何の行動にも出なければどこからも裁かれないという考えに吞み込まれる。そんなことに何の意味があるんだとか、それが最適解じゃないのにとか、そんな冷笑だけが両手に溢れ、人生の砂時計をただ眺めているだけになる。
推し活を描いているということで話題になった作品だが、まさに今の日本を切り取っていて凄かったし、最初から最後まで面白くてページをめくる手が止まらなかった。














