りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ぼくは落ち着きがない

 

 

ぼくは落ち着きがない

ぼくは落ち着きがない

  • 作者:長嶋 有
  • 発売日: 2008/06/20
  • メディア: 単行本
 

 ★★★★

青春小説の金字塔、島田雅彦『僕は模造人間』(86年)、山田詠美『ぼくは勉強ができない』(93年)。偉大なる二作に(勝手に)つづく、00年代の『ぼくは~』シリーズとも言うべき最新作!「本が好き!」連載中に大江賞を受賞したことで、ストーリーまでが(過激に)変化。だから(僕だけでなく)登場人物までがドキドキしている(つまり落ち着きがない)、かつてみたことのない(面白)不可思議学園小説の誕生。 

熱心ではない文化部独特の緩めの空気がリアルに伝わってくる。

「部室」という場所があるからこそ集まるメンバー。特別親しいわけでも会話が弾むわけでもないけれど、学校の教室で居心地の悪さを感じる人たちの避難所。

主人公の望美は、誰もが何かの役を演じてるように感じ、定型文的な会話に感じる安心感と違和感を感じている。

特別輝いたり涙があったりするわけじゃないけれど後から考えればあれが青春だったと思うのだろう。

「本を人に勧めるのは何か違う思う」とか「本は役に立つ!」とか「この世界では時々正しい方じゃなく格好いい方が勝つ」とかぐっとくる一文があった。

家族じまい

 

家族じまい (集英社文芸単行本)

家族じまい (集英社文芸単行本)

 

 ★★★★★

札幌近郊の美容院のパートとして働く智代は、子どもたちが独立したいま、夫とふたりで暮らしている。夫にも自分にも老いを感じ始めたある日、妹から母が認知症になったという電話が。横暴な父から離れるため、実家とは長らく距離を置いてきたが、母の様子を見に行くことになり――。別れの手前にある、かすかな光を描く長編小説。 

 痴呆で子どもに返ってしまった母親、その介護に苦しみながら助けを求めることのできない父親、親にされた仕打ちを忘れることが出来ず距離を置く長女、苦しい生活で張りつめた状態から解き放たれたことでむしろ見たくないものが見えて酒に逃げ込む次女。

しんどいけれど目をそらすことが出来ず一気読み。

物語に救いも答えもなく、自分はどんな老後をむかえどんな風に死んでいくのだろうと考える。
唯一分かるのは最後は一人なのだということと家族をお仕舞いにする選択もあるということだった。

持続可能な魂の利用

 

持続可能な魂の利用 (単行本)

持続可能な魂の利用 (単行本)

  • 作者:松田 青子
  • 発売日: 2020/05/19
  • メディア: 単行本
 

 ★★★★

「どうして親は私に殺しのテクニックを叩き込んでくれなかったのだろう」会社に追いつめられ、無職になった30代の敬子。男社会の闇を味わうも、心は裏腹に男が演出する女性アイドルにはまっていく。新米ママ、同性愛者、会社員、多くの人が魂をすり減らす中、敬子は思いがけずこの国の“地獄”を変える“賭け”に挑むことに―。「おじさん」から自由になる世界へ。 

読み始めた時はSFなのかと思いきや、語られるのはまさに今私たちが生きている世界。
「おじさん」が作る「おじさん」だけが、自分たちだけが得をする世界。
「おじさん」というのは中年男性だけではない。若い男もいれば女だって「おじさん」になる。
そして少女の未熟さやかわいらしさを消費する「おじさん」たち。そんな世界に少女や女性たちが…。

政治家が実は日本をたたもうとしていた、というのはリアルすぎて鳥肌。あ、そうだったのか、と思ってしまった。

これは日本版の「キム・ジヨン」だという感想も目にしたが、確かに…。
自分が思い出したくない過去を思い出さずにいられないような作品だった。

さん助ドッポ2020

 10/17(土)、深川江戸資料館小ホールで行われた「さん助ドッポ2020」に行ってきた。
2か月ぶりの落語会。
在宅勤務になって通勤がなくなったことと、あつ森(「あつまれどうぶつの森」というゲーム)にはまって森にこもりっきりになって、すっかり出不精になってしまった。
あんなに落語会や寄席に通っていたのが嘘のように家にこもってゲームして、radikoで深夜ラジオ聞いたりyoutubeでゲーム実況見たりの日々。

こちらの会はコロナで延期になっていたのがようやく開催。さすがにこれに行かないわけにはいかないでしょう。

 

・さん助「十徳」
・おさん「猫と金魚」
・さん助「安兵衛狐」
~仲入り~
・さん助「ねずみ穴」

 

さん助師匠「十徳」
「下足番のさん助です」という挨拶に笑う。
確かにさん助師匠が扉の所にいて開けて出迎えてくれていた。
扉を開けたままにできるストッパーがあったので、これを挟めばいいのに…と思いつつ私はそのまま入ってしまったんだけど、親切なお客さんがそれを設置してくださったらしい。
「私一人ではできませんでした…下足番も満足にできてないですね…」

江戸っ子は宵越しの銭を持たないというまくらから「十徳」。
宵越しの銭を持たないのとこの噺って結びつかなくない?あれ?ほんとは違う噺をしようと思っていて変えたとか?違うかな。

ご隠居がいかにも人が良くてざっくばらんでいい感じ。
「なんで十徳っていうんです?」と聞かれて「知らない」と答えると「だめですよ。ご隠居がそんなんじゃ。あたしとは出来が違うんですから。何か意味があるでしょう?しぼりだして!」と懇願するのがおかしい。

仕方なく隠居が「こじつけだよ」と言って話すのだけれど、全く理解せずに「それでどういう意味なんです?」と繰り返すのも、指を折って「そういうことか!」と納得した様子を見せても、ほんとは分かっていないのでは?という風にも見えるのがさん助師匠らしい。

最初から最後までばかばかしくて楽しかった。

 

おさん師匠「猫と金魚」
さん助師匠は自分の2年先輩で前座を2年ほど一緒にやってとてもお世話になってます、とおさん師匠。

お世話になってますって言っても…まぁあの…いろいろごちそうになりました、と。
で、いろんなお店に食べに行ったんだけど、二人とも全然喋らなくてただ黙々と食べるのであっという間に食べ終わってしまう。
食事の後は喫茶店に入ってコーヒー。喫茶店っていうのはゆっくり飲み物を飲みながら話を楽しむ場所だと思うんですけど、ここでもお互い何もしゃべらず。そしてさん助師匠はコーヒーもせっかちにすぐに飲んでしまうので、そのペースに合わせないといけなくて猫舌の自分は結構きつかった。

そんなまくらから「猫と金魚」。
番頭さんのまぬけぶりがわざとらしくなくてなんともいえずおかしい。
「猫にとって屋根なんてもんは庭みたいなもんだ」と言う主人に「お言葉を返すようですが、屋根は猫にとっても屋根です」と大真面目に返すのも、笑ってしまう。
旦那のたとえ話にいちいち引っかかって言い返すのがおかしいんだけど、その中で「たい焼きにはあんこ」と言われて「クリームもあります」はツボにはまって笑った。

テンポがよくてバカバカしくて楽しかった。

 

さん助師匠「安兵衛狐」
源兵衛がひねくれている自分のことを「いやな性分だな」と言うのが独特。
墓を見ながら酒は案外陽気で楽しそう。
源兵衛に幽霊のおかみさんができたことを知ってうらやましがる安兵衛は確かに「ぐず安」で愚痴っぽい感じ。
安兵衛がお墓に行って狐を捕まえた男に声をかけるあたりからなんか少しテンポが悪くなった感じでなんとなく楽しさが薄まってきたのはなぜだろう。
長屋の連中が怪しがって安兵衛宅を訪ね「お狐様じゃないですか」と言うと、あっという間に狐に戻って出て行ってしまう。
それを聞かされた安兵衛が出会った場所を訪ねて行って再会するんだけど「もどってきてほしい」と言うと首を横に振る狐。安兵衛が諦めて「短い間だったけど楽しい時間だった。ありがとう」と言うのに、ちょっとうるっときてしまった。

 

さん助師匠「ねずみ穴」

店が焼けて商売の元を貸してもらおうと竹次郎が家を訪ねて行った時の兄がもういかにもそういうことを言いそうっていうか、ああ、やっぱりこの兄はそういう人物だったんだなと感じさせる。
さん助師匠、意外とこういう意地の悪い人物が似合う。

もともとあんまり好きな噺じゃないせいもあるけど、全体的にもっさりした印象。
できれば違う噺が聴きたかったな。

結婚の奴

 

結婚の奴

結婚の奴

  • 作者:能町 みね子
  • 発売日: 2019/12/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 ★★

人生を変えるような恋愛だの結婚だのは無理だが、ひとりは嫌だ。ゲイの夫(仮)と、恋愛でも友情でもない生活をつくるまでを綴った能町みね子の最新作。 

 結婚というのは「生活」なので年を経るほどに恋愛要素が薄まっていくことは間違いないが、相手を好きだという気持ちがなければ結婚なんか続けて行けるのだろうかと思ってしまう私は恋愛至上主義におかされているのかもしれない。
能町さんはとてつもなく利己的にも感じられるが正直なだけなのかもしれない。

こういう風に自分の人生を設計していく生き方もあるんだなと思いながら読んだけど、正直ピンとこず。
頭かたくなってるかな、自分。

御社のチャラ男

 

 

御社のチャラ男

御社のチャラ男

  • 作者:絲山 秋子
  • 発売日: 2020/01/23
  • メディア: 単行本
 

 ★★★★★

社内でひそかにチャラ男と呼ばれる三芳部長。彼のまわりの人びとが彼を語ることで見えてくる、この世界と私たちの「現実」。すべての働くひとに贈る、新世紀最高“会社員”小説。 

タイトルが秀逸。
最初、この男は「チャラ男」ではないだろうと思いながら読んでいた。もっと悪質じゃないか、と。でも読み進めるうちにこの人を「チャラ男」と呼ぶのは、今の日本の社会の生ぬるさであり優しさであり生きる術でもあるのかもしれないと思えてきた。

会社で働く空気を巧みに伝えているし、人は一方から見ただけでは分からないということや、今の日本が「ヤバい方向」に進んでいることや、この後起こるであろう「とんでもないこと」を予言もしているすごい小説。
だけど思わず吹き出してしまうようなユーモアにも満ちている。読みながら何度も「うまいなぁ」と思った。

ここに登場する人たちは、見たくないものに焦点を合わせないようにして自分の陣地を守ろうとしながらも、誰かのことを大事に思ったり心配したりもしている。絶望と希望、両方を感じた。めちゃくちゃ面白かった。

あなたならどうする

 

あなたならどうする (文春文庫)

あなたならどうする (文春文庫)

 

 ★★★★

病院で出会った男と女の行き場のない愛―「時の過ぎゆくままに」。カルト宗教の男を愛してしまった女の悲劇―「あなたならどうする」。冷酷非情に女を乗り換える男の理屈―「うそ」。他に「東京砂漠」「ジョニィへの伝言」など昭和歌謡曲の詞にインスパイアされ生れた9つの短篇。愛も裏切りも全てがここにある。 

 昭和歌謡のタイトルがついた短編集。冒頭に歌詞が載せられているんだけど、知ってる曲は懐かしく、知らない曲は「え?ほんとにこんな歌詞だったの?(凄い歌詞だけど大丈夫?)」とドキッとする。

人生の岐路に立たされた時、逃げ込むようにして恋愛や性愛に走る男女。
次から次へと隙のある女性の生活に入り込みぽいっと捨てる男。

恋愛が生きていく上の単なるスパイスの人もいれば、「運命の出会い」と思い全てを捨てて飛び込んでしまう人もいる。愚かよのう…と思いながらも、自分にも思い当たる節がないわけでもなく、ちょっと胸がちくっとする。

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい

 

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい

  • 作者:大前粟生
  • 発売日: 2020/03/11
  • メディア: 単行本
 

 ★★★★

“男らしさ”“女らしさ”のノリが苦手な大学2年生の七森。こわがらせず、侵害せず、誰かと繋がりたいのに。ジェンダー文学の新星!鋭敏な感性光る小説4篇。ぬいぐるみと話すサークル“ぬいサー”の、生きにくく、どうしても鈍くはなれない若者たちの物語。 

いまだ男社会、マッチョイムズが続く社会の中でそれと「闘う」と想像しただけで腰が引けてしまうヘタレな自分はそんな時「男もつらいけど~女もつらいのよ~♪」の歌って目を逸らす。
これを読むと辛いのは女だけじゃないな、と思う。

この物語に出てくる人たちはとてもセンシティブでとても優しい。それゆえに弱い。
弱い人に「強くなれ」もセンシティブな人に「鈍くなれ」も違う。
彼らにとって息をするのも苦しくなるような生きづらい世の中だけど、少しでも分かり合える人を見つけて居心地のいい場所を見つけて折り合いをつけて生きていく。それしかないと思う。

この本もきっとそんな人たちがちょっとほっとする場所になるかもしれない。

サキの忘れ物

 

サキの忘れ物

サキの忘れ物

  • 作者:記久子, 津村
  • 発売日: 2020/06/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

★★★★

アルバイト先に忘れられた一冊の本。それは誰からもまともに取り合ってもらえなかった千春がはじめて読み通した本となった。十年後、書店員となった彼女の前に現れたのは。(『サキの忘れ物』)。前の東京オリンピック以来の来日で、十二時間待ちの展示の行列に並びはじめた主人公がその果てに出会った光景。(『行列』)。ある晩、家の鍵をなくした私は居場所を探して町内をさまようことに。一篇のなかに無数の物語が展開!(『真夜中をさまようゲームブック』)。

短編集。
些細なことで本の少しだけ会話したり関わりを持ったことが、その後の人生を変えていくこともある。それはきっと自分では意識していなくても変わりたかったり出口を探していたりしたからなのかもしれない。

表題作は以前読んだ津村さんの作品…喫茶店でのなんてことない会話やコンビニの店員さんとの挨拶に救われる話を思い出させる。
「河川敷のガゼル」もいい。写真を撮り情報を集め発信する女性とただひたすらにガゼルの姿を目で追う少年。不思議な光景が何故かリアルだった。

 

晴れの日散歩

 

晴れの日散歩

晴れの日散歩

  • 作者:角田 光代
  • 発売日: 2020/02/27
  • メディア: 単行本
 

 ★★★★

京都の卵サンドのおいしさに震え、ドラマロスになり、レモンサワーをこよなく愛す。年を重ねても変わらない、角田光代のかけがえのない日常。オレンジページ人気エッセイ第四弾! 

大好きな角田さんのエッセイ。
食べ物の話や好きなこと、苦手なこと、テーマは設けずに「些末なこと」が書かれているが、「わかるわかる」や「なるほど、そんな捉え方があるのか」に溢れていて楽しい。

角田さんと言えば、で知れ渡った「肉好き」や「料理好き」を時を経てやんわりと否定しているところも、誠実さがにじみ出ていて好きだなぁと思う。

年齢とともに変わっていくもの、変わらないもの、薄まっていくものと色濃くなっていくもの。
長年エッセイを読み続けているだけにその変化も楽しめた。
そしてトトはんの写真がファンには嬉しい。

コロナの時代の僕ら

 

コロナの時代の僕ら

コロナの時代の僕ら

 

 ★★★★★

「今まさに読まれるべき本」「コロナ後を考えるうえでも有意義」「感染症の科学についてわかりやすく解説されている」など、感想を続々頂戴しています。私たちは今を、そしてこれからをどう生きるべきか。考える助けとなる一冊です。

話題の本をようやく読んだ。

日本のクルーズ船での感染、イタリアの感染者数が目を見張るほどの勢いで増え続けていた時を思い出す。
ものすごい昔のことのように感じるがほんの半年前のことなんだな…。
あの時期にすでにこういう文章を書いていたことに驚くし、これを書いたのが「素数たちの孤独」の作者であることにも驚く。

そしてパンデミックが国民を分断しヘイトを増長し政治腐敗を白日のもとにさらすのは全世界共通なのだな、ということも知る。

とても面白かったし心が鎮まる文章だった。

祝祭と予感

 

祝祭と予感

祝祭と予感

  • 作者:恩田 陸
  • 発売日: 2019/10/04
  • メディア: 単行本
 

 ★★★

大ベストセラー『蜜蜂と遠雷』、待望のスピンオフ短編小説集!大好きな仲間たちの、知らなかった秘密。入賞者ツアーのはざま亜夜とマサルとなぜか塵が二人のピアノの恩師・綿貫先生の墓参りをする「祝祭と掃苔」。芳ヶ江国際ピアノコンクールの審査員ナサニエルと三枝子の若き日の衝撃的な出会いとその後を描いた「獅子と芍薬」。作曲家・菱沼忠明が課題曲「春と修羅」を作るきっかけになった忘れ得ぬ教え子の追憶「袈裟と鞦韆」。ジュリアード音楽院プレ・カレッジ時代のマサルの意外な一面「竪琴と葦笛」。楽器選びに悩むヴィオラ奏者・奏へ天啓を伝える「鈴蘭と階段」。巨匠ホフマンが幼い塵と初めて出会った永遠のような瞬間「伝説と予感」。全6編。 

 「蜜蜂と遠雷」の続編。というには少し物足りない。それぞれの登場人物たちのスピンオフ。登場人物うろ覚えということもあって、ふーんへーほー…ぐらいの感想しかない。
蜜蜂と遠雷」と間を置かずに読んだ方がよい。

木になった亜沙

 

木になった亜沙

木になった亜沙

 

 ★★★

誰かに食べさせたい。願いがかなって杉の木に転生した亜沙は、わりばしになって、若者と出会った―。奇妙で不穏でうつくしい、三つの愛の物語。 

 生まれた時から世間とずれている…ないがしろにされたりスルーされる人たちが主人公の3作品。
孤高の彼らが少しだけ世の中に歩み寄ろうとすると、近寄ったことでますますその世界は砕けおかしなことになっていく。
でもこれは悲劇なのだろうか。案外そうでもないのかもしれない。そう思わせるのが独特。

最終話は日常と非日常の境がさらに曖昧でふわっと異世界に行った主人公が何食わぬ顔で日常を生きているのが不思議なような面白いような。今の自分には合わなかったけど違う時に読んだらもっと楽しめたのかもしれない。

わたしに無害なひと

 

わたしに無害なひと (となりの国のものがたり5)

わたしに無害なひと (となりの国のものがたり5)

 

 ★★★★★

十六の夏に出会ったイギョンとスイ。はじまりは小さなアクシデントからだった。ふたりで過ごす時間のすべてが幸せだった。でも、そう言葉にすると上辺だけ取り繕った嘘のように…(「あの夏」)。誰も傷つけたりしないと信じていた。苦痛を与える人になりたくなかった。…だけど、あの頃の私は、まだ何も分かっていなかった。2018年“小説家50人が選ぶ“今年の小説””に選出、第51回韓国日報文学賞受賞作。

大切なことから目をそらし、大事な人の手を離し、求められている時に振り向かず手遅れになってから何度も思い出してしまうのはどうしてなんだろう。
「わたしに無害なひと」という言葉の分かっていなさ…身勝手さ…でもこういう風に誰かのことのカテゴライズした経験は自分にもあって、だからこそこれらの物語が痛い。

救いがない物語が多いけれど、なぜか少しだけあたたかい。
「ショウコの微笑」も好きだったけど、この短編集もとてもよかった。
最後に収められた「アーチディにて」は読み終わって涙がこぼれた。

柳家小三治 夏の会 昼の部

 8/10(月)、よみうりホールで行われた「柳家小三治 夏の会 昼の部」に行ってきた。

 

・小はぜ「富士詣り」
・三三「金明竹
~仲入り~
・小八「夏泥」
小三治「小言念仏」

 

本当に久しぶりの小三治師匠。
お元気そうな姿にほっとして嬉しくて泣きそうになる。
小三治師匠の落語会は中止続き。頑張って取ったチケットが無駄になり、でも確かに小三治師匠や会に行ったお客さんが感染するようなことになったら…と思うと中止もやむを得ないしなぁ。

久しぶりの小三治師匠は、今まであまり人に話していなかったけれど、ある凄い方が師匠の落語を聞きに行きたいと連絡を下さって国立演芸場が厳戒態勢を敷いたこと…しかし結局それが来られなくなったこと…そんなことが数回あった後、今度は招かれて行って落語をしたという話。
その時にやったのは「青菜」だった、というのは…すごい話だなぁ…。
それからこの間テレビで渥美清さんと藤田まことさん2人を特集した番組を見た、という話。
藤田まことさんには会うことはできなかったけれど、渥美清さんには一度会ったことがある。永六輔さんが間に入ってくれて、和田誠さんと一緒に行って…。
ああ、そういえば和田誠といえば彼の奥さんは面白い子で。私は彼女がまだ出たての頃…「男が出るか女が出るか?」と大声を張り上げてた頃から知ってるんだけど。
会うまではあれはわざとウケると思ってやってるんだろうと思っていたんだけど会ってみたら違ってた。彼女は内面に激しい物を持っていてそれが湧き出してきている。本当に面白い人でそれになによりシャンソンが素晴らしかった。二人が結婚するという報告を受けた時は、これは素晴らしい夫婦になると思った。お互いにとっていい相手だと思ってとても嬉しかった。

で、渥美清さんと一緒に鰻を食べに行ったんだけど…と話しかけたところで、また袖から「師匠、時間が!」の声。
あああーーーその話聞きたかったーー。なにせ私は今年に入ってから寅さんに大ハマりしていて見まくっていて、渥美清さんのこともどういう人だったんだろうと興味があったのだ。
声をかけられた師匠は大慌てで「渥美清さんは一言も発しませんでした。間に入った永さんに一言二言答えただけで。ああ、こういう人なんだなと思った。でも素敵だなと思いました」と。


それからこの間横浜で5か月ぶりに落語をやったら言葉が出てこなかった、という話に。
自分は落語の会話を頭で覚えてやっていなくて、自然に登場人物が出てきてしゃべりだす、というような落語をやってきた。
今になってそれを後悔している。普通に覚えてやっていたら、と。
横浜ではちょっとやけくそになってお客さんからリクエストなんか取ったら…「文七元結」なんて言う人もいて。
そんな話、何十年もやってねぇよ。
で、ためらいながら「青菜」って言ったお客さんがいて、ああ、青菜いいな、と思ってやり始めたんだけど、やり始めてから気が付いた、これは結構厄介な話で。


…で、この日は時間もなかったので「短い噺を」と言って「小言念仏」。
この日の小言念仏では、「飯がこげくせぇぞ。え?お隣?お隣だって飯はこげねぇほうがいいんだから言ってこい。え?行きたくない?お隣とは気が合わない?…おかしいなぁ。こんなセリフはなかったはずなんだが」。

ぶわはははははは。
師匠は不本意だったかもしれないけど、こんな面白いセリフがふわっと出てくるなんて、やっぱり小三治師匠は落語の世界に生きてるんだなぁと思う。
決まり切ったセリフ、展開、サゲ、その面白さももちろんあるけど、登場人物が何言いだすかわからない、そんな落語の楽しさを教えてくれるのが今の小三治師匠なのだ。