りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

さん助ドッポ

10/29(月)、お江戸両国亭で行われた「さん助ドッポ」に行ってきた。

・さん助 ご挨拶
・さん助 初代談洲楼燕枝の述「西海屋騒動」第二十三回「お庄の家にて」
~仲入り~
・さん助「長者番付」

さん助師匠 ご挨拶
この季節、お寺での落語会が結構多いというさん助師匠。
そういう会ではよく色紙にサインを書いてくれと言われることがある。来ていただいたお客さんに抽選でプレゼントしたりするらしいのだが、自分は気の利いた絵がかけるわけでもなければ字がうまいわけでもない…。それなのに20枚ぐらい書かなきゃいけなかったりするとなんか申し訳ない気持ちになる。
(さん助師匠の「ものすごい字」は毎度この会で配られるあらすじでみんな見ているので、お客さんがみんな「うんうん」とうなづく)

で、色紙といえば…近所にリサイクルショップがあってそこにとある噺家のサイン色紙が飾ってある。ちょっとした言葉とイラストとサインで、毎日そこを通る時に見ては励まされていた。
特に披露目の頃はいろいろ理不尽なことも多く気持ちがくさくさしていて、そういう時にそのサインを見ると「がんばろう」という気持ちになれた。
それがその店が来月で閉店することになり、そのサイン色紙も売り物として値札がつけられた。
毎日見て励まされていたあの色紙に「3000円」という値札が付けられて、なんだかたまらない気持ちに…。
これはもう自分が買うしかないだろう!そんな気持ちになって店の中に入って手に取って見たら、3000円じゃなく30000円だった!
そっと棚に戻しました…。さすがに3万円は出せません…。

…ぶわはははは!面白い!!
なんかでもあるあるだなー。私もそういうことあるなー。自分としては清水の舞台から飛び降りる気持ちで手に取ったら桁が違ってた、っていうやつ。
誰のサインだったのかな。気になる。

さん助師匠 初代談洲楼燕枝の述「西海屋騒動」第二十三回「お庄の家にて」
なんか1か月前なのにえらい昔の気がすると思ったら、先月は西海屋お休みだったんだ。

三好町をあとにした義松とお糸は白子の在(今の和光市)に着く。
雨が降って来たので目についた家の縁側を借りようと家の中をのぞくと、中には40過ぎの婆(40過ぎで婆呼ばわり!なんだとぉ?!)と15歳ぐらいの若者。
若者が二十両を婆に渡すと「こんなものはもらえねぇ」と婆。
しばらく押し問答をしていたが、「預かっておく」ということでようやく収まるが、婆は「おめぇのことはみんなに自慢して歩きたい」と言った後、「仇を打つには…」と口走り、若者に止められる。
若者は出ていく時にちらりと義松の方を見ていなくなり、見送る婆は二人に気づく。
雨宿りをさせていただいていたと義松が言うと、家に入ってお茶でも飲んでくれと婆。

二人が上がると婆は、自分は西海屋に出入りをしていた直十の妻のお庄と名乗り、先ほど帰って行ったのは西海屋の跡取りになるはずだった松太郎だと言う。
訳あって松太郎は自分たちが預かって育てたようなものだが、松太郎はそんな自分たちに恩義を感じているのかなにくれとなく親切にしてくれて、直十が亡くなった今は自分の様子を見にこうして訪ねてきてくれるのだ、と。
またこの村にやってきたならず者が無銭飲食をしたり、役人が捕まえようとしたのを逆に襲い掛かったりするもので誰も手出しができず困っていたのだが、それを松太郎が相撲で倒し牢屋へ入れることができた、その褒美にともらった二十両を自分にくださったのだ、と言う。
松山の在に善導和尚(花五郎)という元相撲取りの和尚がいて、その人に指南を受けたので松太郎は腕っぷしも強いし頭もいいのだ。

それを聞いて義松は、自分とお糸が駆け落ちして盗賊に襲われて離れ離れになったとき助けてくれた善導和尚、それから自分を西海屋に口利きしてくれた直十、その妻がこの婆であることに気づくが、お庄が自分に気づいてないことを幸いと名乗り出ないことにする。

礼を言って家を出ようとするとまた雨が強くなったので、二人はお庄の家に泊めてもらうことにする。
二人はごちそうになり暖かい布団に横になって寝たのだが、明け方前に義松は起きだし、お糸を起こし「一仕事するぞ」と声をかける。
するとお糸は「これのことだろう」と二十両が入った財布を見せる。
すでにお糸は財布を盗んでいたのだった。
そして二人はお庄が起きだす前に家を出て再び旅へ。
歩き通してくたくたになった二人、庵から木魚の音と尼の声が聞こえてきたのでそこを訪ね休ませてほしいと言うと、尼は「今自分は朝げの準備をしていたところなので、麦飯でよければ…」と快くあげてくれる。
二人ががつがつと麦飯を食らっているのを見てその尼が「義松とお糸が二人揃っていてよかった」と言う。
その言葉に仰天した義松。「お前はいったい何者だ」と尼に言うのだが、この尼の正体は次回のお楽しみ…。


…懐かしい人たちがいきなりぞろぞろ出てきた!
直十、お庄、そして松太郎に花五郎。
松太郎は、清蔵が松太郎を殺して店を乗っ取ろうとしているのに気づいて、母親のお貞が直十に預けて死んだことにした子。
おおお、こういうとき、便利だ、ちゃんと書いてるじゃないか昨年のあたしエライ。
しかもこれに「義松はどうなったんだよ」って書いてて笑う。

それにしてもちょっと雨宿りって言って親切にされたらしっかりその家の金を盗むってほんとにクソみたいなやつらだな、この二人は。
助けなきゃよかったですね…花五郎…。
って義松がこうなったのはもとはといえば花五郎が伴蔵とお雪を殺したせいなのか。
だから「因縁」って言いたいね?ほんとに圓朝といい燕枝といい「因縁」っていえばそれで説明になると思ってるから嫌になるぜ。
松太郎はいいもんなんでしょうね。これで松太郎も不幸な生い立ちのせいでねじくれた人格だったらいったいどうしたらいいのさ。

そしてこの尼。様子がいいとか雰囲気があるとか言ってたけどだれよ。
まさかお静?でもそれに義松が気づかないなんてことある?女房だったんだよ?
でもまさか頭を丸めるなんてことは思いもしなかった…とかなんとかいって説明をつけるつもりか?
お貞かなと思ったけどお貞は死んでたわ、もう。ううむ…。

 

さん助師匠「長者番付」
「長者番付」の前半部分が寄席でよくかかる「二人旅」です、とさん助師匠。
そうだったのか。「長者番付」って小三治師匠の音源でし聞いたことない気がする。

昔、池袋の文芸坐で落語会があって、ニツ目時代に呼んでいただいた。その時主催者から「柳家らしい噺をしてほしいので長者番付をお願いします」と言われた。
笑いどころも少ないし長いし…と思ったんだけど、主催者から言われたので仕方なくやったら50分ぐらいかかっちゃった。
その時出演者の中に喜多八師匠がいて「おい、お前このあと空いてるか」と誘っていただいて高田馬場の店に連れて行っていただいた。
そこで師匠から言われたのが「お前がああいう噺をやりたいという気持ちはわかる。だけど落語家っていうのはまず商売を考えなきゃいけないんだ。商売として考えたらあの噺をあそこでかけるってことはないだろう」。
いやあれは主催者から言われたから…という言葉がのどまで出かかってたけど黙ってました…。
他の出演者も主催者から言われたみたいですけど、みんな断ってたみたいでした…。
そして夜中の3時ぐらいになってさすがにもう帰りたいと言ったら師匠から「俺とキスしたら帰してやる」と言われまして…喜多八師匠ってキス魔だったんですね…女だけじゃなく男とも…。
で、師匠とキスして帰りました。師匠の唇は意外と柔らかかった、という思い出…。

…ぶわははははは!!面白いっ!今日は珍しくまくらが面白い(←失礼)!
でもいいなぁ、喜多八師匠。素敵だなぁ…。
いやでもいくら言われたからって50分はないでしょう。ニツ目の「長者番付」50分は地獄やで。

そんなまくらから「長者番付」。
寄席で「二人旅」見るたびに思うけど、面白くない噺だよなぁ~。特に若手がやって面白いと思った試しがない。
でもベテランの師匠がやるとなんともいえず楽しい時があるのだよなぁ。なんかいつまででも聞いてられるっていう感じ。
きっと難しい噺なんだろうな。

さん助師匠、この噺が好きなんだろうなというのが伝わってくる。
なんか楽しげなんだなー。旅をしている二人が。
疲れたー昼食にしようーって言う男の顔がなんともいえずおかしい。さん助師匠の顎を出した顔、好き!それだけでばかばかしい。とっても落語向きな顔だと思うんだなぁ。
景色を楽しめと言われて、景色なんか面白くないとか、山は無駄だから削って海を埋めちゃおうとか…なんか楽しいなぁ、こういうどうでもいいような会話が。
二人で大喜利やるところ、繰り返しがもやっとするのでドキドキ。そういえばさん助師匠の「しの字嫌い」は意味不明だったな。ああいう精巧さが求められる噺は向かないね(←ひどい)。
「一膳めし」の看板もさん助師匠がもやっとするので、客の方が「そうじゃないでしょ」という雰囲気になるのがおかしい。

後半部分、めんどくさいわーこの田舎の造り酒屋の番頭。
適当言って言い逃れをしようとする男に、全く空気を読まないもう一人の男の対比が面白い。
でも確かに笑いどころが少ないから通しでやる人がいないのも納得だなー。
さん助師匠の落語協会のページの「持ちネタ」のところに「長者番付」って書いてあって、書いてあるけど見たことないよ~と思っていたので、見られてよかった!

 

第368回 圓橘の会

10/27(土)、深川東京モダン館で行われた「第368回 圓橘の会」に行ってきた。
毎月この会がとっても楽しみ。特に今回は谷崎潤一郎の作品をやられると聞いて、いったいどんな物語なんだろう?谷崎作品を落語って?と楽しみだった。


・まん坊「位牌屋」
・圓橘「茶の湯
~仲入り~
・圓橘 谷崎潤一郎作「お国と五平ー恋の逃避行ー」

圓橘師匠「茶の湯
前方のまん坊さんの「位牌屋」を聞いて、あれは私が教えました、と圓橘師匠。
私も師匠の小圓朝に直接教わった。いわゆる三遍稽古だったんですが、私は3回じゃ覚えられなくて7回ほどやってもらって師匠も相当うんざりしていました。
その後他の噺を教わった時は1度で覚えられたりしたので…どうやって覚えたらいいかわからなかったんでしょう。
それで思い出したんですが、圓生師匠がニツ目を育成する会を行った時、私の兄弟子がその会で「位牌屋」をかけまして…やはり師匠に教わっていて、あの煙草の葉をくすねる仕草…袂に入れるのは圓生師匠がやられていた形でうちの師匠は座布団の下に入れる仕草だったんですね。それを兄弟子がやっているのを見て圓生師匠が「煙草を入れるのは座布団の下じゃなく袂です」とおっしゃったら、兄弟子も頑固な人でしたので「私は師匠にこう教わりました!」と言い張って、その場がしーーーーんとなったことがありました。

…きゃーー。なんか素敵な話を聞けてしまった。どきどき。

「道楽の理に落ちたのが茶の湯なり」そんな川柳の紹介から「茶の湯」。
おおお、圓橘師匠が茶の湯!なんかちょっと意外!

一番初めにご隠居が定吉を呼ぶところ。背筋がピンとして張りのある厳しい声で威厳のある上品なご隠居。
そこに「へーい」とやってきた定吉がこれがまた愛嬌のある、くりっとしたかわいい小僧。
この二人のはっきりした年齢と身分の差があって、だからこそおかしいんだ、この噺は…と初めて気が付いた。

お前はあたしの用事ができるようにそばにいなきゃいけないと言われた定吉が、隣との垣根を壊して覗いてきたと言うのがかわいい。
変なことやってましたよと報告されて「それは琴だな…風流だな…」と感心するご隠居が本当に上品でじんわりとおかしい。
定吉に何かやったらいかがです?と言われたご隠居が「茶の湯をやろうかと思っている」と言いながら「しかし教わったのが小さい頃だったから二三忘れたところがある」。
「小さい頃に教わると忘れないって聞きましたよ」と言われて「私のは本当に小さい頃だから」と大真面目に答えるのが、ご隠居が本当にきちんとしてるだけにおかしい。

最初に入れる粉がわからないと言って定吉が「買ってきました」と青きなこを差し出すと「ああ、そうそう、これ」とにっこり。
きちんとしたご隠居とやってることのギャップが大きいからいちいちおかしい。でもそれがどかんという爆笑じゃなく、くすくす…という笑い。なんだろう。ご隠居がきちんとやってるからあんまり大笑いしちゃ悪いような…そんな気持ちになってる不思議。

買ってきてもらった青きなこを慣れた手つきでかき回して「おや?泡立たないな」と言った後に「なにか泡立つものを入れ忘れたんじゃないか」。
定吉がムクの皮を買ってくると「そうそう、これ」とまたにっこり。
飲むところもそれほどしつこく何度もやらなくてももう十分面白い。

長屋の3人もキャラクターがくっきり。
物知りと呼ばれ続けたい豆腐屋さん、自分のおかみさんや母親に「恥をかくな」と言われる頭、そしてしゃちこばった手習いの師匠。
引っ越しの件も三人三様で面白い。

3人で茶の湯に挑んで、最初に手習いの師匠が飲むときに妙な手つきをするのがもうおかしくておかしくて大爆笑。それもそんなに長くはやらずに自信を持って?すすっとやるおかしさ。それを他の二人も真似するおかしさ。
別にお茶を器にべーーーっと戻したりしなくても十分面白いんだなぁ…。

訪ねてきた客人が利休饅頭を畑に向かって投げると、それをほっぺたで受けたのがお嬢さんというのは初めて聴いた。
今まで聞いた中で一番好きな「茶の湯」だった。面白かった!


圓橘師匠 谷崎潤一郎作「お国と五平ー恋の逃避行ー」
これは以前かけた時は50分ぐらいになってしまいお客様からも「長いから上下に分けたらどうか」という声をいただきました。
今回はかなり刈り込んで短くしましたが、まだ発展途上なのでどうか一緒にこの噺を育てて行くお気持ちで聞いてください、と。
私は知らなかったのだが、「お国と五平」というのは戯曲でお芝居でよく上演されているらしい。

広島の武家に嫁いだお国。お国に横恋慕した友之丞はお国の夫・伊織を闇討ちする。お国は友之丞を仇討するために従者・五平とともに旅に出たが、すでに3年の月日が経ってまだ友之丞は見つからない。
身体の具合が悪くなり宇都宮で2か月寝込んでいたお国がようやく良くなり旅を再開したところ。

どこからともなく尺八の音が聞こえ、お国は「あれは宇都宮で私たちの後を追うように付いてきた虚無僧の吹く尺八ではないか」と怯える。そして「あの虚無僧は友之丞ではないか」と言うのだが、五平は「臆病者で我々から逃げている友之丞がわざわざ我々に付いてくるわけがありません」と言う。
「でも油断はしないように」と言うお国に「わかりました」と五平。
現れた虚無僧に話しかけ、顔を見せるように問うと…それはやはり友之丞。
友之丞と分かればここで仇討をと五平が斬りつけようとすると命乞いをする友之丞。
自分はお国のことが忘れられず二人に付いてここまで来た。宇都宮では隣に部屋をとっていた。だからあの晩のこと(お国と五平は男女の仲になっていた)も自分は知っている…。そして五平に向かって伊織への忠誠心で仇討のお供を申し出たのではなく、仇討をして名を上げて末はお国と一緒になろうと思っているのであろう、と脅すように言う。

またお国に向かって、最初は自分といい仲になっていたのに、自分が剣の腕もなく出世の見込みがないと思って伊織に乗りかえた、と恨み言を言い、しかしそれでもなおお国のことが忘れられないのだ、と言う。

友之丞の言葉に一瞬怯む二人だったが、最後は覚悟を決めた友之丞を斬りつけて殺す。お国は「臆病者と言われてきた人だけど、こうして死んでしまえば罪のない仏」と言って、友之丞の亡骸のまわりに花を飾り手向けようとするが風が吹いて花は散り散りになる…しかしまた花を手向けるお国。
その姿を見て、お国の心が実は友之丞にあったことを五平は悟る…。

…おおお。
最後のシーンがとても美しく抒情的。
足に豆が出来て痛いというお国を心配して五平が草鞋を脱がせて治療というシーンで、出た!谷崎の足フェチ!と思わずニヤニヤしてしまった私を許して…。

初めてだったので今回は筋を追うのに精いっぱいだったけど、楽しかった。

最初の悪い男

 

最初の悪い男 (新潮クレスト・ブックス)

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 ★★★★★

43歳独身のシェリルは職場の年上男に片想いしながら、孤独な箱庭的小宇宙からなる快適生活を謳歌。9歳のときに出会い生き別れとなった運命の赤ん坊、クベルコ・ボンディとの再会を夢みる妄想がちな日々は、上司の娘が転がり込んできたことにより一変。衛生観念ゼロ、美人で巨乳で足の臭い20歳のクリーだ。水と油のふたりの共同生活が臨界点をむかえたとき―。幾重にもからみあった人々の網の目がこの世に紡ぎだした奇跡。ミランダ・ジュライ、待望の初長篇。 

最初の方はあまりに痛々しくて読んでいてしんどくて、ほんとにこれに感動できる?私には合わないかもと思っていたけれど、どんどん感情移入していって最後は涙涙。

今まで自分が得たことのないようなものを得るとそれを失うのが怖くてそのことばかり考えてしまうけれど、失ったとしても全てを奪われるわけではない。
自意識過剰で思い込みが激しい主人公のシェリルのこと、最初は「むり!」と思ったけれど最後は大好きになった。

喪失と再生の物語。確かにアーヴィングにも似た後味があった。
そしてエピローグでまた涙。これ、映画化を意識してる? 

2018 桂扇生独演会

10/26(金)、池袋演芸場で行われた「2018 桂扇生独演会」に行ってきた。
談幸師匠目当てで行ったお芝居に出ていらして、なんかとってもチャーミング!と思い、それから寄席で見て「おもしろい!」と思っていた師匠。
もっとたっぷり見てみたいなぁと思っていたら、こんな会があったので寄席に行った時に前売りを買って、行ってみた。
なんとなくお客さんがたくさん来ているような気がして早めに行ってみたのだが案の定満員!すごいっ!

・市朗「牛ほめ」
・扇生「宗論」
・扇生「厩火事
~仲入り~
・扇生「らくだ」


扇生師匠「宗論」
客席を見渡して「満員ですね…。これなら私、帰りません」。
ぶわはははは。きっと今噺家さんはみんなこれ言ってるんだろうな。ジュリーの公演ドタキャンのニュース聞いて私もまっさきに思ったもの。「寄席は客が一人でもやるのに」。
今日は「らくだ」をネタ出ししているので…そしてこれが非常に長いので前半二席は軽くやります、と言って陰陽のまくら。
我々の楽屋で「陽」と言ったらにゃん子金魚先生。こちらが一番の陽。一方陰といったら小三治師匠。小三治師匠が入ってくるともう師匠の陰のエネルギーがすごくて、楽屋にいる連中もみーんな下を向いて同じように陰になっちゃう。
そんなまくらから「宗論」。
それはそれは陽気な「宗論」(笑)。若旦那の「ワレワレノーシンズルトコロノカミハー」に客席は大爆笑。
ばかばかしくて楽しかった。


扇生師匠「厩火事
お崎さんがとってもチャーミング。
旦那の話にいちいち突っかかる時の笑顔がとてもかわいくて思わず笑ってしまう。
間がいいからわかっていても笑ってしまう。
客席の反応もいいから相乗効果でどんどん面白くなる感じ。
よかったー。


扇生師匠「らくだ」
50分といっていたけどたっぷりの「らくだ」。とても楽しかった。
兄貴分は結構迫力があって怖い。
一方屑屋さんはとても気が小さそう。でも陽気だから見ていて結構楽しい。ああ、そうか。屑屋さんのキャラクターがこの噺全体の雰囲気を作るんだ!
そしてこの日はお客さんがとても陽気だったので、前半のちょっとした笑いどころでわっと笑いが起きる。
たいてい「らくだ」って前半はしーん…となって緊張感が走るけど、こんな風に前半から笑いが起きるとなんとなく聞いていて気楽でいいわ。

兄貴分が前半怖かっただけに、後半酒を飲んで立場が逆転したところの爽快感が大きい。
三杯飲んで「あなた…勧め上手なんだから」と嬉しそうに言う屑屋さん、最高。「よし決めた、今日は帰らねぇぞ」に兄貴分が慌てるおかしさがたまらない。
焼き場のところまでたっぷり…だったのも満足感が高い。

楽しかった!

 

中野新橋寄席

10/25(木)八津御嶽神社で行われた中野新橋寄席を見に行ってきた。

・小はぜ「真田小僧
・今松「開帳の雪隠」
~仲入り~
・今松「首ったけ」

小はぜさん「真田小僧
こちらの会ではニツ目3人で前方を回しているらしいんだけど、ここ何回か小はぜさんが連続で出ているらしい。
他の二人が売れっ子なので自分にまわってくることが多いんだけど、この会に出られるのはとても嬉しくて、でもこれだけ続くとお客さんにも「もう小はぜはいいよ」と思われているんじゃないか、その分次回からの出番が減ってしまうのではないかと語る小はぜさん。

…小はぜさん、まくら苦手ね…(笑)。
きっと言いたいことは自分はこの会に出たいからこれからも出してねってことなんだと思うけど、伝わりづらい…特に年を取った人というのは大雑把になるっていうか細かい機微が受け取りづらくなる傾向にあるので、え?なに?出たくないの?って思われてしまうのではないかと心配。
僕はこの会に出るのはとても名誉に思っているのでこれからも出していただけたらうれしいです、でいいのでは。おばちゃん心配になっちゃう。がんばれ。

そんなまくらから「真田小僧」。
小はぜさんの「真田小僧」、おとうさんが金坊を悪く思いすぎな気がするんだなー。
口では悪く言ってもやっぱり自分の子どもがかわいいから半分喜んでだまされてる感じがあってほしい、個人的には。

今松師匠「開帳の雪隠」
今松師匠がさらりとやられた小噺がツボにはまった。
御開帳を見に行って御朱印をおでこにおしてもらおうと仲良し4人組。
中で一人だけ「俺は行かないよ」と固辞する男が。
たった一度押してもらえば極楽に行けるんだよ、ありがてぇじゃねぇか。
他の3人がどんなに勧めても「おれはいやだ」の一点張り。
じゃ押さなくていいから一緒に来いというと、それならいいよと付いていく。
帰りに4人で茶屋に寄ると店のおばあさん「今日は御開帳を見に行かれたんですか」と話しかけてくる。
見に行って御朱印も押してもらった。で、この中で一人だけ押さなかったやつがいるんだけどばあさんわかるかい?と聞くと「ああ、そうですねぇ」と四人の顔をまじまじと見てから「一番端の方じゃないですか」。
「おお、たしかにそうだ。さすが長年見てきた人にはわかるんだな。やっぱりこいつ一人だけご利益がないんだろ?」と聞くとおばあさん。「いえ、端の方がこの中で一番賢そうです」。

いいなぁ。すごい皮肉が効いてて。
今松師匠これを言ったあとに「あ、またこういう場所でこんなこと言っちゃった」と、ペロリと舌を出したのがまたおかしくて。
そういうところ、好きだなと思った。

そんなまくらから「開帳の雪隠」。
こういう姑息な金儲けがいかにも嫌いそうな今松師匠。
だからといって意地悪~くやるわけじゃなく、なんとなくこのおじいさんもおばあさんにかわいげがあるのが面白い。
面白かった。


今松師匠「首ったけ」
おおお。そうめったに聴く話じゃないのに、先週小満ん師匠で聞いたばかりのこの噺を今度は今松師匠で聞ける幸せ。
半ちゃんのぼやきがとてもリアルで共感できる。そうだよねぇ。やってられないよねぇ。そしてここで「やってらんねぇ帰るぞ」って騒ぐと「野暮」って言われちゃうんだよねぇ。わかってるけど言うなら言え!って気持ちになるよね。
そして呼ばれた若い衆の物言いが確かに癪に障るわ。言われていちいちはんちゃんが「おおっ」「なに?」と身体を引くのが面白い。
花魁も結構誠実に引き止めてくれてるんだな。でもはんちゃんのことを軽く見てることは間違いない。
そういうのがなにげないやりとりから伝わってきて、自分がはんちゃんになったような…引き止めてる花魁になったような気持ち。

引き止められても「帰る!」と強く言い張りながら「だったらお帰り」と言われて「なにを?帰れと言ったな!」と怒るはんちゃんのめんどくささ。
それが向かいの店で若い衆にうまいこと言われてその気になってしまうお手軽さ。
こういう人間の弱いところを笑い話として描くから、私は落語が好きなんだなぁ。

サービスしてもらってすっかりいい気になって向かいの店から「やーい」と自慢する男のしょうもなさと可愛らしさよ。

吉原が火事だと聞いて「男の見せどころ」と駆けつけるはんちゃんもおかしいけれど、すっかり色香の抜けきった花魁たちが逃げてくる様子を見ている野次馬もおかしい。

ちょっと意地が悪くて皮肉が効いた噺を2席。今日の今松師匠は少し皮肉が勝っていたかな。
でも楽しかった。

名もなき王国

 

名もなき王国

名もなき王国

 

 ★★★★★

売れない小説家の私が若手作家の集まりで出会った、聡明な青年・澤田瞬。彼の伯母が、敬愛する幻想小説家・沢渡晶だと知った私は、瞬の数奇な人生と、伯母が隠遁していた古い屋敷を巡る不可思議な物語に魅了されていく。なぜ、この物語は語られるのか。謎が明かされるラスト8ページで、世界は一変する。深い感動が胸を打つ、至高の“愛”の物語。 

面白かった!最初から最後まで夢中になって読んだ。すごく好き。

フィクションにとりつかれ書くことにとりつかれた人たち。
現実と虚構の境目が曖昧になり、自分自身が曖昧になる。
それは現実が自分の手に余るほど辛いから。こんな現実は受け入れられないから。それに引き換え空想の世界の自由で魅力的なこと。現実逃避と笑えば笑え。想像力があるから私たちは生きていけるのだ。

痛ましい物語だったけれど不思議と読後は爽やかだった。

らく兵の落語おろし

10/23(火)、宮益坂十間スタジオで行われた「らく兵の落語おろし」に行ってきた。

・談洲「猫と金魚」
・らく兵「真田小僧」 
・らく兵「目黒のさんま」
~仲入り~
・らく兵「茶の湯


談洲さん「猫と金魚」
ヒップホップダンスを教える資格を持ってるからダンス(談洲)、と自己紹介。
それから自分の父は天然でした、とお父さんのエピソード。
「朝からこの歌が頭から離れない」と言って朝からずーーっと♪がーりがりくん、がーりがりくん、がーりがりくん~♪と歌い続けているお父さん。「これ何の歌なんだろう?」…ガリガリくんだよっ!
とか、「(お父さんの)頭はどうなってんだよ!!」とキレたら「白髪染めだ!」。…色を聞いてるんじゃねぇよ!
とか。
このおとうさんの話がツボすぎて笑いが止まらなかった。

そして落語はものすごい改作版の「猫と金魚」。
「金魚を上げろ」で揚げちゃうし、「そうじゃない、金魚を下ろせ」で3枚に下ろしちゃうし、旦那もそれ味わっちゃうし、そのたびに金魚屋が通りかかって代わりの金魚を買っちゃうし、のなんでもあり状態。
自由な前座さんだなー。前職では千原ジュニアの懐刀だったって後でらく兵さんが言ってたけど、なんかほんと心臓強そう。笑二さんの後が続いてこないけど、この人なら大丈夫そうな気がする。

らく兵さん「真田小僧
志ら乃師匠にお仕事をいただいて九州に行ってきたというらく兵さん。
二人のほかに志ら乃師匠のお弟子さんになった声優の山口勝平さんも一緒だったのだが、みなさん知ってますか山口勝平さんを。コナンの新一役の人ですよ!らんま1/2ですよ!大御所!しかも超売れっ子!なのにその山口さんが自分は前座ですから…と最初から最後まで自分が一番下という立ち位置で荷物は持ってくれるわ、タクシーを止めれば全員の荷物を荷台に入れてくれるわ、タクシーに乗る時は真ん中に座る、という徹底ぶり。
ああ、もう人間としてのレベルが全然違うんだな…できる人っていうのはこういう人のことを言うんだな、と驚きの連続でした。
自分がとにかく前座の頃、ダメ前座だったので。

すごいなーーと思ったのは、飛行機から降りるときって結構時間かかるじゃないですか。出口に向かう人の列ができると、そこにどういうタイミングで入ればいいかわからない。私なんかもともとそういうのが苦手なもんで、入ろうとして、「あっ」「ああっ」「あ、どうぞ」なんてやってるうちに、気が付くと一番最後になっちゃう。
それが山口さんは上の棚から荷物を出してですね、列ができるかできないかぐらいのタイミングでぐわっと後ろからの人たちをせき止めて「さ、どうぞ!!」って志ら乃師匠と私を先に行かせてくれたんです。あのせき止め…あれはすごかった。お前は黒部ダムか!!っていうぐらいのせき止めでしたから。それがすごくスマートで。もうびっくりですよ。

…山口さんの「できる」エピソード、一番熱く語ったのが飛行機から降りるときのせき止め力っていうのがなんかおかしい。
いやわかるけど、言いたいことは。
そしてそういう時に全く列に割り込めないというらく兵さん。せっかくのコワモテなのに中身は全然そうじゃないんだね。素敵。

そんなまくらから「真田小僧」。
訪ねてきてくれた男の人がサングラスをしていたことを「なんか世間に後ろ暗いところがあるのかな、色の付いたメガネをかけてね」って。さりげなく挟み込む言葉が巧みな金坊。
そして金坊の巧みな話術に、おとうさんついに「金払う!頼む、払わせてくれ!最後まで聞かせてくれ!」と絶叫。わはははは。
面白かったけど、小三治師匠が聞いたら怒るだろうなー…。(この間の一琴師匠への公開小言を思い出した)

らく兵さん「目黒のさんま」
お殿様があまりお殿様っぽくない。やんちゃが勝ちすぎてる?
焼き立てのさんまに醤油を垂らした様子が激しすぎてヒップホップになってるのがおかしい。
面白いんだけど、なんとなくちょこまかしていて落ち着かなかったかな。
私この噺大好きなんだけど、目黒ののどかな風景とか、漂ってくるさんまの香りとか、鷹揚なお殿様の様子とか…そういうところが好きなのかも。面白さを追求するとそういう味わいが少なくなってしまうという面はあるかなぁ。


らく兵さん「茶の湯
定吉がとてもかわいい。
そしてあくまでも知ったかぶりを貫こうとするご隠居がおかしい。
椋の皮には毒性があったというのは初めて聞いた。危ないって…!ご隠居!
茶を口に含んだ時の顔が漫画っぽくてとても楽しい。昔読んだ絵本「シナの五人兄弟」を思い出した。あの中に、海をまるっと飲み込むお兄さんが出てくるんだけど、その絵にそっくり!
何が笑ったって、茶の湯でやつれはてた隠居と定吉の様子。ほんとにげっそりして地獄を見たという迫力があったなー。
楽しかった。

 

いちのすけのまくら

 

いちのすけのまくら

いちのすけのまくら

 

 ★★★★★

落語のイントロ「まくら」を、ガラケーで書いてみました。噺家春風亭一之輔、初のエッセイ集。「忖度」「相撲」「ノーベル賞」「解散」「○○ファースト」「金メダル」「○○ハラ」など旬のお題に合わせて綴られていく、まさに読む「まくら」!俳優・東出昌大との対談も収録! 


高座だと余裕釈釈でふてぶてしいくらいだけど、こうして文章を読むと、実は繊細で気の弱いところもあるのだなと驚く。両方のバランスがいいからあの面白さをずっと維持できているのかもしれない。

噺家はもめ事を嫌うとか空気を読みすぎるきらいがあるとかギャラの交渉が苦手とか、一之輔師匠でもそうなんだ?!という驚き。それでも言いにくいことを冗談めかしてトントーンと言えてしまうところが強みなのかな。
芯が明るいからカラっとしてて嫌味がないし、繊細さも持ち合わせているけどやはり全体的には「太い」印象。

「同じ噺ばかり」と文句を言う客は前列に座ってメモとってる客に多いの言葉に苦笑い。すびばせん!
見に来すぎなのだと言われると返す言葉もないのだが、「いつもの」をトランス状態になって楽しむ域にはまだ達しておりません。

 

二喬会

10/20(土)、日本橋社会教育会館で行われた「二喬会」に行ってきた。

・駒六「手紙無筆」
・さん喬「ちりとてちん
・南喬「らくだ」
~仲入り~
・南喬「粗忽の釘
・さん喬「たちきり」


さん喬師匠「ちりとてちん
なんか客席が微妙な雰囲気。なんでだ?さん喬師匠のファンが多いと思うんだけど、笑い少な目?さん喬師匠も少しやりにくそうに見えたけど気のせいかな。そのせいかいつも以上に丁寧だった気がした。

ちりとてちんを食べてうぇってなるところ、白目を剥いたのがめちゃくちゃおかしかった。さん喬師匠が白目を…!って。


南喬師匠「らくだ」
人間にはいろんな人間がいて、いい人間に悪い人間。付き合いやすい人間に意地の悪い人間。また悪い奴のところには似たようなやつが寄ってくる。
そんなまくらから「らくだ」。

兄貴分がかなり怖い。脅し文句も「鼻から息がしたくねぇのか」「どてっ腹に風穴開けられてぇのか」「土の中に埋められてぇのか」と具体的(笑)。
屑屋さんはそんなに小心者という感じではなくあくまでも普通の人。
何か言われると「いやですよ」とちゃんと断るんだけど、ものすごい脅し文句を言われて「わかりましたよ」と言うことをきく。「嫌になっちゃうなぁ」「おかしなことになっちゃったなぁ」というぼやきがリアルなんだけどどこかユーモラス。
樽を借りて来いと言われて「四の五の言ったら」に「かんかんのうですか」と言うのも、だんだん面白くなってきたというよりは、そう理解したからという感じ。

樽を断られて「かんかんのう、おもしれぇじゃねぇか」と言われて「そうですか。またお座敷か」のつぶやきも、面白がって言ってるというよりは、またやるのか嫌だなぁの方が強い。

お酒を勧められて一杯目から「あ、うまい酒」と気づくのも自然で、ああ、お酒嫌いじゃないんだなというのがわかる。
二杯目飲んで「うまいな」とまた味わって三杯目には「こりゃたまんねぇな」。

酔っぱらってきて、「死んだ人を悪く言いたくないけどこのらくださんというのは酷い人でしたよ。弱い者いじめをするんだ」と言って、酷い目にあったことを言ったあとに「あたしは何度殺してやろうか思ったかわからない。匕首を懐に入れて出かけようとしたこともあります。でも殺したらそれで終わっちゃう。もう終わりなんだ、なにもかも。親も女房も子どもも…あたしがお縄になったら次の日からどうするんですか」と語るところでは、このくず屋さんの人間性がぐわっと迫ってきて涙が出てしまった。

素晴らしい「らくだ」だった。とても自然でユーモアもあってやわらかくて…最初から最後まで噺に引き込まれた。私はこの師匠の落語が好きだなぁとしみじみ思った。

 

南喬師匠「粗忽の釘
私が寄席で見て南喬師匠を好きになったのがこの噺だったと思う。
特別なクスグリがあるわけじゃないし、大工さんの粗忽ぶりもとんでもなく粗忽というのではないんだけど、とても自然でとても面白い。
「え?」って目を見開いて引くしぐさだけでめちゃくちゃ面白いんだよなぁ。
好きだー。


さん喬師匠「たちきり」
さん喬師匠はやっぱりこういう噺のイメージが強いなぁ。
弱い若旦那、恋煩いで死んでしまう花魁。もやもや~。

鈴本演芸場10月中席昼の部

10/20(土)、鈴本演芸場10月中席昼の部に行ってきた。


・門朗「道灌」
・ぴっかり「桃太郎」
翁家社中 太神楽
・吉窓「本膳」
・さん助「手紙無筆」
・正楽 紙切り
・小里ん「親子酒」
・馬石「反対俥」
・アサダ二世 マジック
・正朝「目黒のさんま」
~仲入り~
・ペペ桜井 ギター漫談
・圓太郎「粗忽の釘
・菊太楼「長短」
・小猫 動物ものまね
・玉の輔「井戸の茶碗


門朗さん「道灌」
普段聞かないような「道灌」だった。文蔵師匠仕込みなのかな。やたらとウケようとする前座さんより、笑いどころが少ない噺をきちんとする前座さんのほうが好き。
門朗さんの印象がちょっと変わったな。


吉窓師匠「本膳」
いつものまくらのあとに「本膳」。寄席で吉窓師匠というと「大安売り」ばかり聞いてる、と思っていたけど、ブログを検索してみたら案外いろいろな噺を聞いていた。思い込みって怖い。
先生が里芋をつかめなくて膳の上に落としてしまうのを見た村の人が「本膳なんちゅうのは難しいもんだべなぁ」と感心するおかしさ。
肘で付くところなんかもう村の人たち半分「違う」と思いながら、面白がってやってるんじゃないかな、というのが伝わってきて楽しかった。


さん助師匠「手紙無筆」
おじさんの手紙で持ってきてほしいと言ってるのが「本膳」だったから、もしや本膳つながりでこの噺を?さん助師匠がそんな気の利いたことを?するわけないから偶然か?(←失礼)
ちょこちょこちょこちょこ言って終わった。わはははは(←最後まで失礼)。


馬石師匠「反対俥」
まくらで「隅田川馬石と申します。名前だけでも覚えて帰ってください」と言った後に、江戸の時分には俥屋というのがたいそう流行った。いまも観光地に行くといますね、俥屋。浅草は地下鉄の駅を上がったところに俥屋がいて、一人で観光してる風の女の人とかがいると必ず声をかけてくる。
で、乗せたらゆっくり行きながら観光案内。
「おねえさんは今日は観光?どちらから?」
「ええ。遠くから」
「え?めんどくさい客だな…。ええと左に見えるのが江戸時代から有名な川で」
「あ、江戸川?」
「惜しい。違います。」
「じゃ多摩川?」
「あー離れた。離れちゃいましたよ。」
「えーーもうわからないーー」
「これは隅田川です。ほら、有名な落語家がいるでしょ。隅田川馬石。あの隅田川
そう言われるように、がんばります。

…ぶわはははは。面白い!女の客がなよっとしてちょっとめんどくさいのがこれだけの間にも伝わってくるっていうのがすごい。

そして「反対俥」。この日のお客さんがなかなか難しくてぶわっと盛り上がりそうになるんだけど、すぐにしーんとなっちゃう…。このお客さんにこの噺がほんとにぴったりはまって初めて会場が一つになった感じ。馬石師匠、すごい。


圓太郎師匠「粗忽の釘
おかみさんに「釘を打っておくれ」と言われるところから始まり、お隣に行ってなれそめを惚気て、「この後の話はまた次の機会に」と言ってくまさんが家を出るところで終わった。
こんな終わり方初めて見たけど、とっても洒落てる!


玉の輔師匠「井戸の茶碗
まくらなしで「井戸の茶碗」。うわーーー、トリの玉の輔師匠って初めて見たけど、なんかとっても新鮮。いつもと違う!
と思ったら、落語の中にいつものまくらを挟み込んで来たり、下ネタを入れてきたり…。
「千代田卜斎とおっしゃってどうやら医者をされているようです。なんでも昼間は消毒をして夜は梅毒を治して歩いてるようです。夜にってことはおそらく屋台を引いて売り声は”ばいどくーばいどくー”」。ぶわはははは。

とても軽くてちょっとふざけていてでも基本的にはちゃんとしてる「井戸の茶碗」。
面白かった。

あの家に暮らす四人の女

 

あの家に暮らす四人の女

あの家に暮らす四人の女

 

 ★★★★★

謎の老人の活躍としくじり。ストーカー男の闖入。いつしか重なりあう、生者と死者の声―古びた洋館に住む女四人の日常は、今日も豊かでかしましい。谷崎潤一郎メモリアル特別小説作品。ざんねんな女たちの、現代版『細雪』。 

とても面白かった。

杉並区にある古い洋館に暮らす四人の女たち。
お嬢様育ちな70歳の母・鶴代、その娘で刺繍作家の娘・佐知、佐知の友人で影が薄いが実は毒舌な雪乃、雪乃の同僚でダメンズ好きな多恵美。そして彼らを守るように洋館の東屋に古くから住む山田という老人。

絶妙の距離感で暮らす女たちの生活が実に楽しそうでこれはある意味女性’sドリームなのではないかと思う。
家事を分担して、べたべたした付き合いや干渉はせず、でもお互いを思いやって時々は部屋を訪ねて悩みを話す。
楽しいからこそこの暮らしがいつ終わってしまうんだろうと不安を感じながらも、それでも永遠に続く何かはないのだからと自分に言い聞かせ、それよりは今を楽しもうとする佐知に共感を覚える。

この物語の語り手は?という謎は後半に明らかになるのだが、開かずの間を開いた時のエピソードには声をあげて笑ってしまった。読んでいた場所が家でよかった。最高。

変わったタイプ

 

変わったタイプ (新潮クレスト・ブックス)

変わったタイプ (新潮クレスト・ブックス)

 

 ★★★★

月旅行を目指す高校時代からの四人組。西部戦線からの帰還兵のクリスマス。変わり者の億万長者とその忠実な秘書。男と別れたばかりの女がつい買ったタイプライター。離婚した父母のあいだをゆききする少年。内戦で祖国を追われ、ニューヨークに上陸した移民。ボウリングでパーフェクトスコアを出し続け、セレブに上り詰めた男―。世界が驚いた、小説家トム・ハンクスのデビュー作。良きアメリカの優しさとユーモアにあふれ、人生のひとコマをオムニバス映画のシーンのように紡いだ、17の物語。

 

いい意味でとても真っ当な小説でトム・ハンクスはやっぱり私が思ってたような人だった!と嬉しくなった。
「ニューヨーカー」を愛読していていつか自分もここに載るような作品を…と書きためていたものをこれもこれもと差し出した、ようなイメージ。(勝手な想像)

めちゃくちゃバイタリティの溢れる女性と付き合って振り回される「へとへとの三週間」、国民的人気女優の相手に抜擢された俳優が映画のプロモーションで経験する日に非常を描いた「光の街のジャンケット」、女優の卵がNYに出てきて途方にくれる「配役は誰だ」、両親が離婚し父親に引き取られた子どもが久しぶりに母と一日を過ごす「
特別な週末」などがとても好みだった。
私はトム・ハンクスの出た映画だと「ユーガットメール」が大好きなんだけど、あの映画にも通じる優しさと甘やかさがあって、それにうっとり…。

ただ全体的に肩に力が入ってる感じがあって読んでいて少し肩が凝るというか疲れてくる。この半分の薄さでもう少し凝縮してあったら嬉しかったかな。

田辺凌鶴独演会 これも凌鶴、あれも凌鶴

10/17(水)、道楽亭で行われた「田辺凌鶴独演会 これも凌鶴、あれも凌鶴」に行ってきた。
凌鶴先生を見たのは、貞寿さんの真打披露目の時と講談の定席に行ったときの二回。
押しの強い芸が苦手なので、凌鶴先生のふわりとした講談に心がときめき、もっとたっぷり聞きたいなぁと思っていたところ、道楽亭での独演会を見つけたので「これだ!」と思い行ってみた。

・凌鶴「安宅郷右衛門 道場の賭試合」
・いちか「安政三組の盃 羽子板娘」
・凌鶴「有馬頼寧
~仲入り~
・いちか「井伊直人
・凌鶴「ゴジラに入った男 中島春雄

凌鶴先生「安宅郷右衛門 道場の賭試合」
今日が初めての道楽亭だという凌鶴先生。
とっても雰囲気のいいお店ですねとぐるりと店内を見渡して、「ああ、あそこに本棚が…あの空いたところに私の本も置いてほしい…」。
今日はいちかさんにも来ていただいて…私のところに弟子が入る前はよくいちかさんに手伝っていただいてた。いちかさんは私の今の師匠…一鶴が亡くなった時私はまだニツ目だったので姉弟子である一邑の預かり弟子になったのですが、その一邑の弟子です。ですから私は兄弟子になるんですね。
こうやって私がいちかさんの面倒をみてるアピールをしているというのは、私の仕事がなくなったときにいちかさんに仕事を分けてもらえるよう…という下心があるわけでして。
そして、「私も古典もできないわけじゃなんだぞというところで1席目は古典を」と「安宅郷右衛門 道場の賭試合」。
初めて聴く話。講談はまだほんとに初心者だから初めて聴く話が多くて嬉しいなー。(そもそも話でいいのか?読み物というべき?)

剣術の師匠をしている郷右衛門は、昼間から酒を飲んで酩酊している。
弟子が来ても自分で稽古をつけず、上の方の弟子に代稽古をさせる。そのくせ月謝はきっちり取る。
どんどん弟子は減り道場もぼろぼろになってきたある日、勝負をしてもらいたいとやってきた若い男。
自分はまだ若輩者で勝てる見込みはないので、自分が負けたら十両払う。万が一自分が勝ったらそれ相応のものをいただきたい。
それを聞いた郷右衛門。賭けづくで勝負をするとは無礼ではあるが面白い。では私が負けたらこの道場はあなたにあげましょう、と言う。
勝負をしてみると、酩酊状態の郷右衛門 があっさり負けて、道場を引き渡して出て行ってしまう。
弟子たちは迷うふりだけしたものの「通いなれた道場なので」と誰も郷右衛門 に付いていく者はいなかった。
道場を譲り受けた男がお金をかけて道場をきれいに整え道具も揃え離れていた弟子たちも戻ってきたころ、訪ねてきたのが郷右衛門 。あの時とまったく同じセリフを言って勝負となるのだが…。

剛毅な郷右衛門 が魅力的で気持ちいい。
笑いどころもたくさんあって、ぐっと話に引き込まれる。凌鶴先生の十八番の話なのかな。とても楽しかった。

いちかさん「安政三組の盃 羽子板娘」
とてもきれいでかわいらしくてチャーミング。そして前座さんとは思えない落ち着きがある。
これも初めて聴く話だったけど、江戸っ子で気の強い美人のお染がお殿様に傍惚れされて3年の約束で妾になるのだが、3年が過ぎても家に帰してもらえず、お殿様のことも男性として好きになれず、とりあえずおとなしく過ごしているのだが、ある時本妻の家に連れて行かれ、酒を飲まされて…。
酒癖が悪いというお染が酒をぐいぐい飲んで啖呵を切るところが気持ちよかった!
しかしこの後座敷牢に入れられてしまうお染。ひぃーー。もし私がその時代に生きてたら絶対座敷牢送りだわ。ってそもそも見初められないから問題なしか。わははは。


凌鶴先生「有馬頼寧
講談はもともとこうやって講釈台を出して本を読むものだったけど、今ほとんどの講談師は本を出さず覚えてやっている。
自分でもずっと本を出さずにやっていたけれどそれだと覚えるのに精一杯になってしまって、作った新作を何本もかけられない。
それである時からこうやって本を出して読みながらやるようにしたら、作った新作をたくさん発表できるようになった。
だから若手にもこのスタイルを勧めるんだけどみんな「へーそうですか」とは言うけど真似する人はいない。
美学の問題なんでしょうね。
そんなまくらから「有馬頼寧」。

有馬頼寧の一代記。
華族として生まれ、やはり同じ華族の娘と結婚したものの、家に住み込んでいた女のことを好きになり、断られても断られても迫りついに男女の仲となり駆け落ちしようとアメリカ留学を試みるが反対され諦める。
その後、夜間学校を設立したり、プロ野球チームのオーナーになったり、理事長として競馬の建て直しに貢献し現在の「有馬記念」の元となるレースを発案したという…。

女性によろめきながら、仕事はきちっとこなして業績を残した有馬頼寧の生涯を、ユーモアを交えながらたっぷりと。
こういう新作を作られているのか。面白い~。


いちかさん「井伊直人
おお、これは聞いたことがある。
剣術の指南番なのだが賭け碁に夢中になって借金だらけになってしまった井伊直人
ここに嫁に来た女。直人の言うことはなんでも聞き逆らったことがなかったが、ある日直人に勝負を挑む。自分が負けるに決まっているがもし自分が勝った時にはあなたは家を出て剣術の修行をしてきてください、と言う。
いざ戦ってみると妻の腕はかなりのもので、家を追い出されてしまう直人。
1年修行をして帰って来たものの家にあげるまえに私と勝負を…と妻。戦ってみると…。

1席目もそうだけど、こういう強い女性の話を聞くとすかっとする~。
それにしても家を持ち崩すほど賭け事に夢中になる夫に正面切って反対できないという…ほんとに男尊女卑だったんだなぁ…。


凌鶴先生「ゴジラに入った男 中島春雄
私、前座の頃にすみれ先生から女性を紹介したいんだけどと言われたことがありまして。
その女性、素人さんだけど講談を勉強していて結構これが上手なのよ、という話で。
そう言われた時に思い出したのが今いちかさんがかけた「井伊直人」。
その女性と付き合って結婚してある日妻から「講談で勝負いたしましょう」と言われて、師匠の一鶴とすみれ先生の前で二人で披露するんです。すると妻の方が全然上手で…うちの師匠というのは空気を読むようなことはしない人ですからいいと思えば後先考えずいいと言って妻の方に軍配…そしてすみれ先生もそういうタイプだった場合、二人ともが妻の方がうまいと言って、私は勝負に敗れて家を出なければならなくなる…。
そんな考えが浮かんでそのお話はお断りしたんですが。
今でも「井伊直人」を聞くとそれを思い出します。

…ぶわはははは。何を言い出すかと思ったらおかしすぎる!
なんか凌鶴先生ってきれいで知的な人だけど脱力系のユーモアがあっていいなぁ。

それから東宝シネマズにあるゴジラ像、新宿西口から見えるんですね、と。
そんなまくらから「ゴジラに入った男 中島春雄」。
戦争から帰って来て東宝の大部屋役者になった春雄。どうしても俳優になりたかったというよりは食べて行くための仕事として役者を選んだ。
エキストラやスタントマンのような仕事をこなす中で、黒澤明監督の映画で役を得たこともあったがそのシーンは全てカットされていた。
火に飛び込むスタントが買われて、春雄はゴジラの中に入る役を得る。その時に円谷と初めて一緒に仕事をする。
ゴジラの着ぐるみはものすごい重さで入るとものすごい暑さと息苦しさ。そしてとにかく重いので一歩を踏み出すこともできない。
しかし春雄は戦争に行っていて身体も鍛えていたのでどうにか一歩踏み出せた。
ゴジラ役にはもう一人やはり同じく身体能力の相当高い俳優が入り、二人で交代で撮った。
ミニチュアを壊すので基本的に一発撮り。
春雄は上野動物園に毎日通い、動物の動きを観察して演技に取り入れた。
公開初日、普段春雄は自分が出た映画を見に行くことはめったになかったのだが、ゴジラは観客の入りも気になって見に行くと、渋谷のシアターの前は大行列。
映画が始まって観客の様子を見ると、息を殺して見守っていて、思わず「わっ」と声があがるようなこともあり、ヒットを確信した。
その後、ゴジラの続編などに出演、円谷が亡くなるまで活躍し続けたが、東宝が斜陽になり大部屋が解散、ボーリング場の経営に乗り出したタイミングで自分もそちらへ異動。
しかしその後アメリカでゴジラブームが起こり、春雄はファンミーティングに招待されたり、その実力を見直されることに。

…とにかく内容が面白かったので夢中になって聞いた。
語りも淡々とした部分と勢いよくたたみかけるような部分とがあって、話に引き込まれるけど疲れない。
私はどうも講談で語られる武士伝や悪人の話にそれほど魅力を感じなくて、むしろ外伝的なものやちょっと力の抜けた物語に惹かれる傾向にあるので、凌鶴先生の講談はまさにドンピシャリだった。
うわーーー!あたしったらまたすごく自分の好みにぴったり合った人を見つけてしまった。二回見てそれを見抜く自分の嗅覚すばらしい(←自画自賛)。

小満ん夜会

10/16(火)、日本橋社会教育会館で行われた「小満ん夜会」に行ってきた。
この日のチケットを予約してメールも来たのにチケットがまだ届いてない(あるいはほかの郵便物に紛れてなくなってしまったのかも)ことに気づき主催者様にメールして再送していただいたのだが、私が最初に送ったメールで引用していたのがほかの会のメールだったため、すでに持っているチケットが来てしまう。
ぬぉーーーしまったーーーどうしようーーーと慌ててメールすると「どうぞお気軽にいらしてください」という優しい返信。
送っていただいたチケットを直接お返ししてお侘びとお礼を言わなくちゃ!と張り切って出かけて行ったのだが、会場に着くと、あれ?今日はやたらと元気なおばちゃんたちが受付?なんか雰囲気違う?と思ったら、政治団体の決起集会!日本橋公会堂じゃなくて社会教育会館だったか…またやってもうた。
そして両方の会場に何回も行ってるくせに出口を出たらどちらへ向かえばいいかわからない!
慌てて検索してナビに従って歩き出したのだが、えええ?こっちの方角?ほんとにー?見たことない景色だけどーーー。
と思ったら、社会教育会館じゃなくて永代橋が目的地になっていた!なんでや…。
結局遅刻して到着。とほほほほ…。
ねえ、これはボケ?ボケなの?

・一猿「雑俳」
小満ん「首ったけ」
・扇遊「木乃伊取り」
~仲入り~
小満ん「死神」

一猿さん「雑俳」
なんか最初出てきたころはほんとにお猿さんぽかったのに、見るたびに佇まいが落語家らしくなってきてる一猿さん。
めったに見られない後半部分までやって、すごくよかった!
扉の向こうから「初雪やー」と言うはっつぁんがおかしくておかしくて。
やだ一猿さん、いい!(いやなのかいいのかどっち。いいんじゃ!)


小満ん師匠「首ったけ」
男が吉原に通い詰める、そこには「自惚れ」があったから、というのが面白い。
「廻し」なんという今考えたら「えええ?ありえなーい」な制度が成立したのも、この男たちの自惚れによるもの。
いろんな男のところに行ってるけど俺のところに一番長くいた、だからほかの男はみなただの客で俺は間夫だ、というこの自惚れがあるが故に受け入れられたのだ、と。
これ、おもしろいなぁ。
あと「首ったけ」っていう言葉、いいなぁ。今はめったに使わないけどなんかぐっとくるもの。
JAZZのタイトルに「首ったけ」って邦題が付けられてた、という話も素敵だった。

そんなまくらから「首ったけ」。
今までこの噺を聞いて「花魁、酷いよ…」と思っていたんだけど、そうか…これはこの男のただの自惚れだったのかと思うと、花魁の態度にも合点がいく。
自分が間夫だと信じてるからこそ、夜中に花魁を呼びつけて「俺はもう帰るぞ」って言ったんだね。きっと花魁がショックを受けると思って。
花魁にしてみればこの男はワンオブゼムだったからもうお前めんどくせぇ!ってなったのか。

でもこの男、隣の店にあがってまたうまいこと言われて初回のサービスを受けてまた自惚れちゃうんだろうな。
だます方が悪いのかだまされる方が悪いのか。
なんかちょっと切ないねという気持ちでこの噺を聞いたのは初めてだったな。
男にとったらかわいさ余って憎さ百倍の花魁だけど、どぶ川に沈んでいくのを助けない…わけはないよね?最後は助けるんだよね?と希望的観測。


扇遊師匠「木乃伊取り」
小満ん師匠は我々若手…若くないと思われるかもしれませんが楽屋ではまだ若手なんです…からしたら本当に憧れの先輩で、前座の頃からとてもお世話になっていて、その会にゲストとして呼んでいただけるなんてこんなに嬉しいことはありません。
それで張り切りすぎたせいでしょうか。おとといから急に腰をやられまして…。もうとにかく立つのも大変で歩くのもよろよろ…でもこうして高座まで歩いてこられたらもう勝ったも同然です。
そんなまくらから「木乃伊取り」。

角海老に行ったっきり帰って来ない若旦那を心配する大旦那とおかみさん。
最初に「私が参りましょう」と手を挙げた番頭は確信犯っぽいけど、頭は行く時は連れて帰る気でいたんだな、と見ていて思った。
でももともと遊びが好きで粋であることを大事にしてる人だから、馴染みの幇間に見つかってしまったのが運の月、だったのだろう。
もう勘当するよりほかないと話しているとやってくる飯炊きの清蔵。
お前は飯が焦げないことだけ心配してればいいと言われるが、説得して連れ戻しに行くことに。

粋とか遊びとかわからない清蔵が親の情を説いてもまるで聞かない若旦那。
巾着だけ置いて帰れと言って清蔵が怒り出すと「だったらクビだ」と言う。
そう言われた清蔵が「だったらクビにしてもらおう。そうしたらもう主人でも奉公人でもない」と言って殴りかかろうとすると、番頭が「目が本気」と言って若旦那を止める。
この清蔵と若旦那の言い争いの場面で、普段は若旦那が憎くてイラっとくるんだけど今回はなんか見ていて清蔵の気持ちに感情移入してしまって、涙が出てしまった。
飯炊きというのは奉公人の中でも地位が下なんだろう。だから大旦那も若旦那も「お前がか?」という態度なんだと思う。
そのはっきりした上下関係を乗り越えて清蔵があそこまで言ったのは、おふくろさんへの想いがあったからこそ。その気持ちがわからないようなこの若旦那はダメだな。この若旦那の代になったら店はきっとだめになるわ。

清蔵が酒を飲んで2杯目にうまいことに気づいてほしがるようになったり、芸者に甘い言葉をささやかれて前のめりになるところ…面白かったけど、ちょっと切なかった。
多分もうここに二度と来ることはできないんだろうな、と思って。


小満ん師匠「死神」
死神が軽くてなんかとっても独自で小満ん師匠らしい。シャレのわかる遊び心のある死神って感じ。
「医者」が儲かって女房こどもを追い出すところで「顔に横皺の寄ったうるさい女房」という表現に思わず苦笑い。

さっき枕元にいたのは俺だよと死神が言って蝋燭のところに連れて行った時「これが人の命だよ。こいつをお前さんに見せてやろうと思ってな」というセリフになにかこう…この死神の余裕というか遊びを感じて、なんかいいなぁと思った。
最後のところでも蝋燭を割りばしで摘まんで火を移しに行かなきゃいけねぇと言われた男が「直接持ってっちゃだめなのかい?」と聞くと「それじゃ面白くねぇ」。
サゲも違ってて、言い終わった後に小満ん師匠がにっこり笑ったのが印象的だった。
す、て、き!

池袋演芸場10月中席夜の部

10/15(月)、池袋演芸場10月中席夜の部に行ってきた。
里光師匠初めてのトリの千秋楽。5日間って物足りなさもあるけど、若手真打がトリをとるチャンスが増えるから、素晴らしい制度だと思う。落語協会もやればいいのに。
人気の師匠で集客したい気持ちはわかるけど、正直私のような者(渋好み?ひねくれ者?)には魅力がないんじゃー。

宮田陽・昇 漫才
玉川太福「地べたの二人 ~おかず交換編~」
・笑遊「よっぱらい」
東京ボーイズ 歌謡漫談
・里光「はてなの茶碗


玉川太福さん「地べたの二人 ~おかず交換編~」
助六師匠が代演でがっかりしたらなんと太福さん!
寄席の太福さんをみて見たかったのでうれしい~。
浪曲?え?なにそれ?こわい!という人のハードルをぐっと下げる。すばらしい技を持ってるなぁ。
最初から最後まで笑いどおし。めっちゃ楽しい。
あーでも私太福さんといえば「この地べたの二人」なんだよな。他も聴いてみたい。なら、会に行けって話だな。


笑遊師匠「よっぱらい(?)」
酔っ払ってポストに話しかけるおじさんと客席を見回しながら話す笑遊師匠が見事に重なる。
面白かったけど緊張感がハンパなかった。

里光師匠「はてなの茶碗
里光師匠がトリでやったネタ、みんないいな。最終日が「はてなの茶碗」っていうのにもしびれる。
上方版では(こちらが元なのか)油屋さんは江戸っ子じゃなくて大阪から京都に来た設定。
確かに油屋さんの「一発当てたろ思って」というセリフがぴったりはまる。

油屋さんが茶金さんの店を訪ねるところ、そういえば私もこの噺を初めて聞いた時、「番頭じゃだめ!茶金さんを呼んで!」と思ったんだ。油屋さんが番頭の言葉にいらっとくるの、よくわかる。
茶金さんから茶碗をすかして「はてな」とやった意味を聞いて、えええ?となって怒った後、わかりましたとさっと帰ろうとする油屋さんがカラっとしていて好き。
また茶金さんにお金を出されて「いや、いりまへん。筋が通りませんもん」と固辞しながら、お金をちらっと見て「それじゃもらいまひょか」と手を出すところがとてもかわいい。

千両で売れて、茶金さんが油屋さんを探していてようやく丁稚が見つけて家に連れてきて、訳を聞いた油屋さんが「さすが茶金さんや。私一人だったらなんの価値もない数茶碗にこれだけの価値がついたのはあなたの仕事や」と感心して、さっと帰ろうとするところも潔くて好きだなぁ。
茶金さんが油屋さんに渡す金が半分の五百両で、そういわれて「いや、いりまへん。筋が通りませんもん」と言いながら、またお金をちらっと見るのがいい。

カラっとしたチャーミングな「はてなの茶碗」。よかった!
素敵でした。里光師匠。