りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

田辺凌鶴独演会 これも凌鶴、あれも凌鶴

10/17(水)、道楽亭で行われた「田辺凌鶴独演会 これも凌鶴、あれも凌鶴」に行ってきた。
凌鶴先生を見たのは、貞寿さんの真打披露目の時と講談の定席に行ったときの二回。
押しの強い芸が苦手なので、凌鶴先生のふわりとした講談に心がときめき、もっとたっぷり聞きたいなぁと思っていたところ、道楽亭での独演会を見つけたので「これだ!」と思い行ってみた。

・凌鶴「安宅郷右衛門 道場の賭試合」
・いちか「安政三組の盃 羽子板娘」
・凌鶴「有馬頼寧
~仲入り~
・いちか「井伊直人
・凌鶴「ゴジラに入った男 中島春雄

凌鶴先生「安宅郷右衛門 道場の賭試合」
今日が初めての道楽亭だという凌鶴先生。
とっても雰囲気のいいお店ですねとぐるりと店内を見渡して、「ああ、あそこに本棚が…あの空いたところに私の本も置いてほしい…」。
今日はいちかさんにも来ていただいて…私のところに弟子が入る前はよくいちかさんに手伝っていただいてた。いちかさんは私の今の師匠…一鶴が亡くなった時私はまだニツ目だったので姉弟子である一邑の預かり弟子になったのですが、その一邑の弟子です。ですから私は兄弟子になるんですね。
こうやって私がいちかさんの面倒をみてるアピールをしているというのは、私の仕事がなくなったときにいちかさんに仕事を分けてもらえるよう…という下心があるわけでして。
そして、「私も古典もできないわけじゃなんだぞというところで1席目は古典を」と「安宅郷右衛門 道場の賭試合」。
初めて聴く話。講談はまだほんとに初心者だから初めて聴く話が多くて嬉しいなー。(そもそも話でいいのか?読み物というべき?)

剣術の師匠をしている郷右衛門は、昼間から酒を飲んで酩酊している。
弟子が来ても自分で稽古をつけず、上の方の弟子に代稽古をさせる。そのくせ月謝はきっちり取る。
どんどん弟子は減り道場もぼろぼろになってきたある日、勝負をしてもらいたいとやってきた若い男。
自分はまだ若輩者で勝てる見込みはないので、自分が負けたら十両払う。万が一自分が勝ったらそれ相応のものをいただきたい。
それを聞いた郷右衛門。賭けづくで勝負をするとは無礼ではあるが面白い。では私が負けたらこの道場はあなたにあげましょう、と言う。
勝負をしてみると、酩酊状態の郷右衛門 があっさり負けて、道場を引き渡して出て行ってしまう。
弟子たちは迷うふりだけしたものの「通いなれた道場なので」と誰も郷右衛門 に付いていく者はいなかった。
道場を譲り受けた男がお金をかけて道場をきれいに整え道具も揃え離れていた弟子たちも戻ってきたころ、訪ねてきたのが郷右衛門 。あの時とまったく同じセリフを言って勝負となるのだが…。

剛毅な郷右衛門 が魅力的で気持ちいい。
笑いどころもたくさんあって、ぐっと話に引き込まれる。凌鶴先生の十八番の話なのかな。とても楽しかった。

いちかさん「安政三組の盃 羽子板娘」
とてもきれいでかわいらしくてチャーミング。そして前座さんとは思えない落ち着きがある。
これも初めて聴く話だったけど、江戸っ子で気の強い美人のお染がお殿様に傍惚れされて3年の約束で妾になるのだが、3年が過ぎても家に帰してもらえず、お殿様のことも男性として好きになれず、とりあえずおとなしく過ごしているのだが、ある時本妻の家に連れて行かれ、酒を飲まされて…。
酒癖が悪いというお染が酒をぐいぐい飲んで啖呵を切るところが気持ちよかった!
しかしこの後座敷牢に入れられてしまうお染。ひぃーー。もし私がその時代に生きてたら絶対座敷牢送りだわ。ってそもそも見初められないから問題なしか。わははは。


凌鶴先生「有馬頼寧
講談はもともとこうやって講釈台を出して本を読むものだったけど、今ほとんどの講談師は本を出さず覚えてやっている。
自分でもずっと本を出さずにやっていたけれどそれだと覚えるのに精一杯になってしまって、作った新作を何本もかけられない。
それである時からこうやって本を出して読みながらやるようにしたら、作った新作をたくさん発表できるようになった。
だから若手にもこのスタイルを勧めるんだけどみんな「へーそうですか」とは言うけど真似する人はいない。
美学の問題なんでしょうね。
そんなまくらから「有馬頼寧」。

有馬頼寧の一代記。
華族として生まれ、やはり同じ華族の娘と結婚したものの、家に住み込んでいた女のことを好きになり、断られても断られても迫りついに男女の仲となり駆け落ちしようとアメリカ留学を試みるが反対され諦める。
その後、夜間学校を設立したり、プロ野球チームのオーナーになったり、理事長として競馬の建て直しに貢献し現在の「有馬記念」の元となるレースを発案したという…。

女性によろめきながら、仕事はきちっとこなして業績を残した有馬頼寧の生涯を、ユーモアを交えながらたっぷりと。
こういう新作を作られているのか。面白い~。


いちかさん「井伊直人
おお、これは聞いたことがある。
剣術の指南番なのだが賭け碁に夢中になって借金だらけになってしまった井伊直人
ここに嫁に来た女。直人の言うことはなんでも聞き逆らったことがなかったが、ある日直人に勝負を挑む。自分が負けるに決まっているがもし自分が勝った時にはあなたは家を出て剣術の修行をしてきてください、と言う。
いざ戦ってみると妻の腕はかなりのもので、家を追い出されてしまう直人。
1年修行をして帰って来たものの家にあげるまえに私と勝負を…と妻。戦ってみると…。

1席目もそうだけど、こういう強い女性の話を聞くとすかっとする~。
それにしても家を持ち崩すほど賭け事に夢中になる夫に正面切って反対できないという…ほんとに男尊女卑だったんだなぁ…。


凌鶴先生「ゴジラに入った男 中島春雄
私、前座の頃にすみれ先生から女性を紹介したいんだけどと言われたことがありまして。
その女性、素人さんだけど講談を勉強していて結構これが上手なのよ、という話で。
そう言われた時に思い出したのが今いちかさんがかけた「井伊直人」。
その女性と付き合って結婚してある日妻から「講談で勝負いたしましょう」と言われて、師匠の一鶴とすみれ先生の前で二人で披露するんです。すると妻の方が全然上手で…うちの師匠というのは空気を読むようなことはしない人ですからいいと思えば後先考えずいいと言って妻の方に軍配…そしてすみれ先生もそういうタイプだった場合、二人ともが妻の方がうまいと言って、私は勝負に敗れて家を出なければならなくなる…。
そんな考えが浮かんでそのお話はお断りしたんですが。
今でも「井伊直人」を聞くとそれを思い出します。

…ぶわはははは。何を言い出すかと思ったらおかしすぎる!
なんか凌鶴先生ってきれいで知的な人だけど脱力系のユーモアがあっていいなぁ。

それから東宝シネマズにあるゴジラ像、新宿西口から見えるんですね、と。
そんなまくらから「ゴジラに入った男 中島春雄」。
戦争から帰って来て東宝の大部屋役者になった春雄。どうしても俳優になりたかったというよりは食べて行くための仕事として役者を選んだ。
エキストラやスタントマンのような仕事をこなす中で、黒澤明監督の映画で役を得たこともあったがそのシーンは全てカットされていた。
火に飛び込むスタントが買われて、春雄はゴジラの中に入る役を得る。その時に円谷と初めて一緒に仕事をする。
ゴジラの着ぐるみはものすごい重さで入るとものすごい暑さと息苦しさ。そしてとにかく重いので一歩を踏み出すこともできない。
しかし春雄は戦争に行っていて身体も鍛えていたのでどうにか一歩踏み出せた。
ゴジラ役にはもう一人やはり同じく身体能力の相当高い俳優が入り、二人で交代で撮った。
ミニチュアを壊すので基本的に一発撮り。
春雄は上野動物園に毎日通い、動物の動きを観察して演技に取り入れた。
公開初日、普段春雄は自分が出た映画を見に行くことはめったになかったのだが、ゴジラは観客の入りも気になって見に行くと、渋谷のシアターの前は大行列。
映画が始まって観客の様子を見ると、息を殺して見守っていて、思わず「わっ」と声があがるようなこともあり、ヒットを確信した。
その後、ゴジラの続編などに出演、円谷が亡くなるまで活躍し続けたが、東宝が斜陽になり大部屋が解散、ボーリング場の経営に乗り出したタイミングで自分もそちらへ異動。
しかしその後アメリカでゴジラブームが起こり、春雄はファンミーティングに招待されたり、その実力を見直されることに。

…とにかく内容が面白かったので夢中になって聞いた。
語りも淡々とした部分と勢いよくたたみかけるような部分とがあって、話に引き込まれるけど疲れない。
私はどうも講談で語られる武士伝や悪人の話にそれほど魅力を感じなくて、むしろ外伝的なものやちょっと力の抜けた物語に惹かれる傾向にあるので、凌鶴先生の講談はまさにドンピシャリだった。
うわーーー!あたしったらまたすごく自分の好みにぴったり合った人を見つけてしまった。二回見てそれを見抜く自分の嗅覚すばらしい(←自画自賛)。