りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

第368回 圓橘の会

10/27(土)、深川東京モダン館で行われた「第368回 圓橘の会」に行ってきた。
毎月この会がとっても楽しみ。特に今回は谷崎潤一郎の作品をやられると聞いて、いったいどんな物語なんだろう?谷崎作品を落語って?と楽しみだった。


・まん坊「位牌屋」
・圓橘「茶の湯
~仲入り~
・圓橘 谷崎潤一郎作「お国と五平ー恋の逃避行ー」

圓橘師匠「茶の湯
前方のまん坊さんの「位牌屋」を聞いて、あれは私が教えました、と圓橘師匠。
私も師匠の小圓朝に直接教わった。いわゆる三遍稽古だったんですが、私は3回じゃ覚えられなくて7回ほどやってもらって師匠も相当うんざりしていました。
その後他の噺を教わった時は1度で覚えられたりしたので…どうやって覚えたらいいかわからなかったんでしょう。
それで思い出したんですが、圓生師匠がニツ目を育成する会を行った時、私の兄弟子がその会で「位牌屋」をかけまして…やはり師匠に教わっていて、あの煙草の葉をくすねる仕草…袂に入れるのは圓生師匠がやられていた形でうちの師匠は座布団の下に入れる仕草だったんですね。それを兄弟子がやっているのを見て圓生師匠が「煙草を入れるのは座布団の下じゃなく袂です」とおっしゃったら、兄弟子も頑固な人でしたので「私は師匠にこう教わりました!」と言い張って、その場がしーーーーんとなったことがありました。

…きゃーー。なんか素敵な話を聞けてしまった。どきどき。

「道楽の理に落ちたのが茶の湯なり」そんな川柳の紹介から「茶の湯」。
おおお、圓橘師匠が茶の湯!なんかちょっと意外!

一番初めにご隠居が定吉を呼ぶところ。背筋がピンとして張りのある厳しい声で威厳のある上品なご隠居。
そこに「へーい」とやってきた定吉がこれがまた愛嬌のある、くりっとしたかわいい小僧。
この二人のはっきりした年齢と身分の差があって、だからこそおかしいんだ、この噺は…と初めて気が付いた。

お前はあたしの用事ができるようにそばにいなきゃいけないと言われた定吉が、隣との垣根を壊して覗いてきたと言うのがかわいい。
変なことやってましたよと報告されて「それは琴だな…風流だな…」と感心するご隠居が本当に上品でじんわりとおかしい。
定吉に何かやったらいかがです?と言われたご隠居が「茶の湯をやろうかと思っている」と言いながら「しかし教わったのが小さい頃だったから二三忘れたところがある」。
「小さい頃に教わると忘れないって聞きましたよ」と言われて「私のは本当に小さい頃だから」と大真面目に答えるのが、ご隠居が本当にきちんとしてるだけにおかしい。

最初に入れる粉がわからないと言って定吉が「買ってきました」と青きなこを差し出すと「ああ、そうそう、これ」とにっこり。
きちんとしたご隠居とやってることのギャップが大きいからいちいちおかしい。でもそれがどかんという爆笑じゃなく、くすくす…という笑い。なんだろう。ご隠居がきちんとやってるからあんまり大笑いしちゃ悪いような…そんな気持ちになってる不思議。

買ってきてもらった青きなこを慣れた手つきでかき回して「おや?泡立たないな」と言った後に「なにか泡立つものを入れ忘れたんじゃないか」。
定吉がムクの皮を買ってくると「そうそう、これ」とまたにっこり。
飲むところもそれほどしつこく何度もやらなくてももう十分面白い。

長屋の3人もキャラクターがくっきり。
物知りと呼ばれ続けたい豆腐屋さん、自分のおかみさんや母親に「恥をかくな」と言われる頭、そしてしゃちこばった手習いの師匠。
引っ越しの件も三人三様で面白い。

3人で茶の湯に挑んで、最初に手習いの師匠が飲むときに妙な手つきをするのがもうおかしくておかしくて大爆笑。それもそんなに長くはやらずに自信を持って?すすっとやるおかしさ。それを他の二人も真似するおかしさ。
別にお茶を器にべーーーっと戻したりしなくても十分面白いんだなぁ…。

訪ねてきた客人が利休饅頭を畑に向かって投げると、それをほっぺたで受けたのがお嬢さんというのは初めて聴いた。
今まで聞いた中で一番好きな「茶の湯」だった。面白かった!


圓橘師匠 谷崎潤一郎作「お国と五平ー恋の逃避行ー」
これは以前かけた時は50分ぐらいになってしまいお客様からも「長いから上下に分けたらどうか」という声をいただきました。
今回はかなり刈り込んで短くしましたが、まだ発展途上なのでどうか一緒にこの噺を育てて行くお気持ちで聞いてください、と。
私は知らなかったのだが、「お国と五平」というのは戯曲でお芝居でよく上演されているらしい。

広島の武家に嫁いだお国。お国に横恋慕した友之丞はお国の夫・伊織を闇討ちする。お国は友之丞を仇討するために従者・五平とともに旅に出たが、すでに3年の月日が経ってまだ友之丞は見つからない。
身体の具合が悪くなり宇都宮で2か月寝込んでいたお国がようやく良くなり旅を再開したところ。

どこからともなく尺八の音が聞こえ、お国は「あれは宇都宮で私たちの後を追うように付いてきた虚無僧の吹く尺八ではないか」と怯える。そして「あの虚無僧は友之丞ではないか」と言うのだが、五平は「臆病者で我々から逃げている友之丞がわざわざ我々に付いてくるわけがありません」と言う。
「でも油断はしないように」と言うお国に「わかりました」と五平。
現れた虚無僧に話しかけ、顔を見せるように問うと…それはやはり友之丞。
友之丞と分かればここで仇討をと五平が斬りつけようとすると命乞いをする友之丞。
自分はお国のことが忘れられず二人に付いてここまで来た。宇都宮では隣に部屋をとっていた。だからあの晩のこと(お国と五平は男女の仲になっていた)も自分は知っている…。そして五平に向かって伊織への忠誠心で仇討のお供を申し出たのではなく、仇討をして名を上げて末はお国と一緒になろうと思っているのであろう、と脅すように言う。

またお国に向かって、最初は自分といい仲になっていたのに、自分が剣の腕もなく出世の見込みがないと思って伊織に乗りかえた、と恨み言を言い、しかしそれでもなおお国のことが忘れられないのだ、と言う。

友之丞の言葉に一瞬怯む二人だったが、最後は覚悟を決めた友之丞を斬りつけて殺す。お国は「臆病者と言われてきた人だけど、こうして死んでしまえば罪のない仏」と言って、友之丞の亡骸のまわりに花を飾り手向けようとするが風が吹いて花は散り散りになる…しかしまた花を手向けるお国。
その姿を見て、お国の心が実は友之丞にあったことを五平は悟る…。

…おおお。
最後のシーンがとても美しく抒情的。
足に豆が出来て痛いというお国を心配して五平が草鞋を脱がせて治療というシーンで、出た!谷崎の足フェチ!と思わずニヤニヤしてしまった私を許して…。

初めてだったので今回は筋を追うのに精いっぱいだったけど、楽しかった。