りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

何があってもおかしくない

 

何があってもおかしくない

何があってもおかしくない

 

 ★★★★★

アメリカ中西部にある町、アムギャッシュ。さびれたこの町を出た者もいれば、そこでずっと暮らしている者もいる。火事で財産を失った男性が神に思いを馳せる「標識」。都会に出て有名作家になった女性と、故郷に暮らす兄との再会を描く「妹」。16歳のときに家を出た女性が実家の真実に直面する、O・ヘンリー賞受賞作「雪で見えない」。家族という存在、人と人との出会いに宿る苦しみと希望を描く9篇を収録。ストーリー賞受賞作。

「私のなまえはルーシー・バートン」の続編のような作品。あの時、ルーシーと母親の間で交わされた噂話に登場していた近所の人たちにこちらの方スポットが当たる。
前作よりこちらの方が好き。苦い話が多いので連作短編の方が読んでいてしんどさが軽減するからかもしれない。

火事で農場と家を失い学校の用務員となった男が一作目の主人公。辛い出来事だったが神からの標識もあったと信じる善良さに救われる。話してしまったためにもうだめかもしれないとちらっと思ってしまうところもリアルだ。

戦争体験や貧困で歪になってしまった家庭に育った子どもたち。思い出すのも辛い過去、目を背けたい現在、抱える寂しさ。それでも横断歩道を渡る老人に差し出す手や一緒にテレビを見てくれる優しさにほのかな希望を感じる。

とてもよかった。やっぱりいいな、エリザベス・ストラウト。もっと翻訳されますように。

 

小んぶにだっこ

1/15(火)、落語協会で行われた「小んぶにだっこ」に行ってきた。

・小んぶ「権助提灯」
~仲入り~
・小んぶ「五人廻し」


小んぶさん「権助提灯」
晦日にインフルエンザを発症しまして、と小んぶさん。
さん喬一門では毎年大晦日には師匠のお宅に伺って正月の準備をする。
自分は10番弟子で下にはやなぎというかわいい…んだからかわいくないんだかわからない弟弟子が一人いるだけなので、つまりは下っ端。一番たくさん働かなきゃいけない立場。
毎年この時期「一度でいいからインフルになってみたい。インフルになって休みたい」と思っていたら、なんと今年その夢がかなってしまった。
30日の夜に具合が悪くて風邪薬を飲んで寝たのだが次の日起きると前の日よりもっと具合が悪くなっていて熱が38.5度。
これはもしかするとインフルかも?と思い師匠宅に電話して「病院に行って検査してから行きます」。
晦日だったので近所の病院は休診。バスで開いている病院に行ったのだがさすがに混んでいる。
ようやく自分の番になりインフルの検査。こよりみたいのを看護婦さんが鼻の中に入れてきた。「ごめんね、ごめんね」言いながら。
で、それをリトマス試験紙みたいのに浸してしばらくするとお医者さんが「ほら、みて。A型にうっすら線が浮き出てるでしょ」。
自分としてはもうその線を上からなぞって太くしたいぐらい!
インフルとわかったとたん感染力が強いから裏口から帰るように言われてゴミ置き場を通ってこそこそと帰宅。
家でリレンザを吸入したんだけど、お医者さんから説明を受けてた時が具合が悪いピークだったのでちゃんと説明を聞けておらず、トントンする前に開封しちゃったので粉がお盆の上に吹き出してしまったのを、あかんあかん!と必死に吸入。まるで麻薬患者のよう…。
師匠宅に「インフルでした」と連絡して寝たんだけど、薬や痛み止めのおかげで熱は早めに下がり具合も悪くなくなった。
それでも熱が下がった後2,3日は誰とも接触するなと言われていたので仕方なく家に籠る。
普段どちらかというと人付き合いが得意な方ではないのに誰にも会っちゃいけないと言われると無性に会いたくなり他にすることもないので師匠宅に電話。「で、どうっすか?」。
師匠宅の方でもいうこともないらしく「で、どうなの?」。
毎日電話してはお互いに「どうっすか」「どうなの?」そんな会話。

…ぶわはははは。
なんかおかしい~。
「あとなんかあったっけな」と思い出しながら、テレビ収録があった話や合コンに行った話。
2回しか合コンに行ったことがないという小んぶさん。
一回目の時、相手側の女性がなぜか男たち(全員噺家)のことを「メンズ」と呼んできた、というのにも笑ったけど、二回目の合コンでは相手の3人の女性のうち一人は欠席、一人は2時間遅れてやってきて、最初からいた一人は2時間遅れの子のおかあさん、っていうのにも笑った。
あー楽しい。

そんなながいまくらから「権助提灯」。
風が強いから妾のところに行ってあげれば?と言い出す正妻がすでに腹に一物ある感じ。最初から試すつもり…というより、最初から締め出すつもり?ぐらいの感じ。
権助と聞いて旦那が「あいつきらい」と言うのもおかしいし、かといってほかの奉公人を起こすのはさすがにと思い「いいよ、権助で」と諦める感じも小んぶさんらしくておかしい。
権助は傍若無人で毒舌でこの状況を楽しんでる。
笑ったのは妾宅に最初に行ったとき、旦那が泊まると言うとお妾さんが「今日は一人でいたいの」。
…ぶわはははは!!おかしすぎる!なにそれ!
そう言われて旦那が「あ、ああ…そうか、そういう日もあるよね」と引き下がるのがおかしいし、権助が「銭っこやってんだろ?なのに帰れって!」と喜ぶのもおかしい。
戸の叩き方とかちょっと変?なところもあったけど、小んぶさんらしくて楽しかった。


小んぶさん「五人廻し」
2番目の「〇〇でげすよ」の人がすごくおかしい。
そして4人目のセリフで「3人、4人と結構巻いてる」「インフルエンザの話とかしてる場合じゃなかった」に大笑い!
5人廻せずに4人弱廻し?ぶわははは。

楽しかったー。やっぱりいいな、小んぶさんは。

抱擁/この世でいちばん冴えたやりかた

 

 ★★★★★

現代最高の物語作者の傑作二冊を合本にして初文庫化!第一部「抱擁」は二・二六事件の翌年、東京駒場の前田侯爵邸で起こる謎に満ちた事件を描くゴシック・ミステリ。第二部「この世でいちばん冴えたやりかた」には中国と日本を舞台にした奇譚の数々、七篇の名品が並ぶ。著者の代表作『遊動亭円木』の外伝三作をはじめ、表題作は天安門事件を背景にした奇想あふれる「黄河水源踏査行」の物語。

「抱擁」は以前読んだことがあったのだが、再読してまた印象が変わったような。
解説を読んでなるほど「ねじの回転」か!と。あれも読むたびに印象が変わる作品なのだよなぁ。

どの作品も息苦しくなるような濃密な空気というか湿度があって、逃れられないような気持ちにさせられる。追いかけられる夢を見ていて「ああ、もうだめだ」と観念して力が抜けるような感じ。

「この世でいちばん冴えたやりかた」は谷崎作品を思い出させる空気感。盲目の落語家や文盲の女、刺青師、邪悪な男。後味のいい話ではないけど面白い。文章が美しくて読んでいてとても楽しかった。

 

パワー

 

パワー

パワー

 

 ★★★★★

ある日を境に、女たちが、手から強力な電流を発する力を得る。最年少かつ、最強の力を持つ14歳の少女ロクシーは母を殺された復讐を誓い、市長マーゴットは政界進出を狙い、里親に虐待されていたアリーは「声」に導かれ、修道院に潜伏する。そして、世界中で女性たちの反逆がはじまった―。オバマ前大統領のブックリストや、エマ・ワトソンフェミニストブッククラブの推薦図書となった男女逆転ディストピア・エンタテインメントがついに邦訳! 

女だけが無敵のパワーを持ったらどうなるのか。
母親が目の前でレイプされ殺されるのを目の当たりにしたギャングの娘ロクシー。里親に虐待を受けていたアリー。常に知事(男性)から圧力をかけられ続けていた女市長マーゴット。ロクシーは最強のパワーを持ち無敵となり、アリーは修道院に潜伏し教祖になり、マーゴットは先にパワーを持ってしまった娘から力を与えられそのことを隠しながら政界進出を狙う。
またそれまで酷い虐待を受けてきた女たちが狂った戦士になり男を襲いレイプして殺す。
残虐な描写には目を覆いたくなるがそれは今の世界で実際に起きていることでもある。ここで描かれいてるのは現在の男性優位の世界のミラーリングなのだ。

性別の違いで「政治に向いている」とか「低く扱われても仕方ない」のではない。あくまでもパワーの違いなのだ。
女性が政治を行えば今よりも暴力的でない優しい政治になるのではないかというのは幻想であるということがこの小説を読むとわかる。

ある考古学者(男性)が売れっ子の作家(女性)に「史実に基づいた小説を書いたので読んでほしい」という手紙とともに送ってきたのが、この作品という構造になっている。
この作品を読んだ作家は、女性がメインであることが当たり前の社会にあって、過去には男性が兵士として戦い政治を行っていた時代があったのだとする考古学者の言葉を独特のユーモアと評して一蹴する。
パワーが逆転するというのはそういうことなのか、と思う。

例えば女性がレイプされたとき、誘惑するような服を着ていたからだとか、一緒に酒を飲んでいたのだから同意したのだとか言われたりする。
また痴漢して女に声をあげられると「誰がお前みたいなブスを触るか」と開き直る。
そんな現在があるからこそ、ここに描かれている女がパワーを使って男を虐待する描写を爽快に感じてしまう。

後半になってロクシーが襲われるシーンを読んでいた時「男なんかを信用するからこういう目にあうんだ!」と激高してしまった。
自分の中にそういう感情があることに驚いたのだが、女であることで「こうしなければいけない」とか「こういう振る舞いはみっともない」というのは私の中にも呪いのように存在しているのだと思った。

アリーの中の声が語る「だれが悪くてだれがよいのか。こういう質問はみんなまちがっている」という言葉、そしてこのタイトル。「侍女の物語」を思い出すなぁと思ったら解説にも言及されていた。

厚さに怯むがリーダビリティが高いのであっという間に読めてしまった。
面白かった。

田辺凌鶴独演会「あれも凌鶴、これも凌鶴」(第二回)

1/12(土)、道楽亭で行われた田辺凌鶴独演会「あれも凌鶴、これも凌鶴」(第二回)に行ってきた。
凌鶴先生をもっと見たいと思っているんだけど、定期的にやってる会が日曜日の夜や平日の昼間でなかなか行けない。道楽亭のこの会は前回も行ったけど今回は土曜日の昼間。ありがたい。


・凌鶴「山本琢磨」
・凌天「加藤清正 屏風の使者」
・凌鶴「ハドソン川の奇跡
~仲入り~
・凌天「秋色桜」
・凌鶴「介護民俗学者 六車由実


凌鶴先生「山本琢磨」
1週間ぐらい前から喉のところがぽっこり腫れてきたという凌鶴先生。痛くもなんともないけど気になる。来週健康診断に行くことになっているからそこで見てもらおうと思いつつ、奥さんに「ここってなんだろう?」と聞くと「甲状腺?」。
その言葉を聞いてふと思った。「こうじょう…こうじょう…向上?おおっ。年の初めに甲状腺が目立つってことは、今年は芸が向上するのか!」。
喜んでいると奥さんが「喜ぶのは早いわよ。向上せん…。」

…ぶわはははは。その会話まるごと落語みたいだ。弁護士のような折り目正しい風貌の凌鶴先生が真面目な顔してそんなことを言うからおかしくてたまらない。

それから毎月やられている自分の会のチラシについて。
そうそう!これを見た時思わず「ぶわははは!」と笑ってしまったんだけど、毎月やられている新作ネタおろしの会「新宿 田辺凌鶴の会」のチラシは、右手をぐわっと高くあげたポーズをとる笑顔の凌鶴先生の写真、それをめくると隔月の第一日曜日にやられている新作講談再演の会「田辺凌鶴 新宿新作R」の会のチラシが入れ込まれていて、こちらが同じポーズの凌鶴先生の写真なんだけど真っ白な見事な髭が付いていて、凌鶴先生の師匠一鶴先生にそっくりな写真!

見た時、なんてお茶目!と大笑い。実はこれ合成なんだそう。
ほんとは付け髭をつけて一鶴先生っぽくして撮ってみようという話になっていたんだけど、チラシを作ってくださってる方が試しに一鶴先生の髭の部分を合成してみたら、驚くほどぴったりとはまって、「こ、これは…このままでよいのでは」ということになったとか。

「なんか自分で言うのもなんですけど、ほんとに一鶴にそっくりなんですよね。骨格が似てるんでしょうか。自分でも怖いぐらい…。」
…いやほんとに。どちらかというと真逆のイメージがあるお二方だけど、こうして見るとそっくりっていうのが、ああやっぱり師弟なんだなぁというのを感じさせて深い。

そんなまくらから新作講談「山本琢磨」。
山本琢磨は坂本龍馬の従弟にあたる人なのだが武術に優れ師範代をつとめるほどだったのだが大の酒好きで酒癖が良くない。
ある時酒を飲んだ帰り道に町人の落とした金時計を拾い、それを質屋に売りとばしたことが露見して切腹しなければいけないような事態になる。
龍馬はそんな琢磨にお金を渡して江戸を出る助けをしてくれる。「お前はこんなことで死ぬような男じゃない。一度死んだも同然なんだから自分に合った場所を見つけてやり直せ」と言われた琢磨は新潟へ。そこで前島密に出会い、函館へ行くように勧められる。

函館に行った琢磨は泊まった宿屋が盗賊に襲われた時に持ち前の剣術の腕で盗賊を捕まえ、宿屋の主人にたいそう感謝され、道場を開かせてもらう。
ロシア帝国の領事館からロシア人も道場へやってくるのだが、そのうちの一人にニコライがおり、熱心にメモをとるニコライをロシアの密偵と思いこんだ琢磨は殺害も辞さない覚悟でニコライを訪ねる。
そこでニコライにキリストの教えをわかりやすく説かれた琢磨は今まで触れたのことない思想に感銘を受け、ニコライの元を行くたびも訪れては教理を学び、洗礼を受ける。

その後、何度となく迫害を受けながらもキリスト教の布教につとめた。
東京での布教が重要と考えて建てられたのがお茶の水に今も残るニコライ堂

…面白かった~。
なによりも琢磨という人がとても人間臭くて魅力的に描かれているので、ドキドキしながら、どうなる?どうなる?と聴いた。
なにせ日本の歴史に全く疎いので、ある程度有名な人物でも全然知らなくてほんとに新鮮(笑)。
楽しかった!

凌鶴先生「ハドソン川の奇跡
2009年1月15日に起きたUSエアウェイズ1549便不時着水事故を描いた新作講談。
これがもう最初から最後まで本当に面白くて夢中になって聴いた。
カナダガンの群れに遭遇したSエアウェイズ1549便は、両エンジンが同時に停止してしまうという絶体絶命のピンチ。
この時、機長のサレンバーガーがとても冷静でかつさまざまな事故についての知識や対応方法に精通していたため、ハドソン川へ不時着するのが乗客の命を救う最善の方法であると判断し、適切な対応を行ったため、乗客全員が大けがをすることもなく助かった。

内容自体も非常にドラマチックなのに加えて、サレンバーガー機長の経歴や人柄などもとてもチャーミングで、これは楽しい!
また船が救助に駆けつけるところが講談調で言い募ったり、途中でふわっと力の抜けたギャグが入ったりというメリハリもあって長さを感じさせない。
すごいすごい。講談ってこういうのもありなんだね。忠臣蔵だけじゃないんだね。


凌鶴先生「介護民俗学者 六車由実
介護民俗学者六車由実さんを描いた新作講談。
民俗学と介護が結びつくとは!というのにも驚いたけど、聞き書きをすることで、老人側にも生きがいが生まれ、老人ホームにいる老人同士お互いに興味を持ったり敬意が生まれるというのも、すごいなぁと思った。
この間「エリザベスの友達」を読んだ時にも感じたのだが、私たちは認知症になった老人のことを「もう何もわからない人」と思い込んでしまっているのかもしれない。

講談でこういう話が聞けるというのにも驚いた。

凌鶴先生の講談を三席聴けるという幸せな会。
次回は3/2(土)とのこと。

しのばず寄席 夜の部

1/11(金)、上野広小路亭で行われた「しのばず寄席」に行ってきた。

・左利き 漫才
・蝠丸「昭和任侠伝」

蝠丸師匠「昭和任侠伝」
初席は持ち時間が短くて5~10分。すっかりそんな短い持ち時間に身体が慣れてしまったので、たっぷりした噺はできません、とおっしゃっていたので、これはもしや…もしやと思っていたら「昭和任侠伝」だった(笑)。

噺に入ったら起こしますよと言ってまくらを話して、台詞を言った後に「あ、始まりましたよ」と客席に向かって言うのが好き。
蝠丸師匠のゆる~いところ、癒されるなぁ。今年は何席聴けるかな。

寝ても覚めても

 

 ★★★★

謎の男・麦に出会いたちまち恋に落ちた朝子。だが彼はほどなく姿を消す。三年後、東京に引っ越した朝子は、麦に生き写しの男と出会う…そっくりだから好きになったのか?好きになったから、そっくりに見えるのか?野間文芸新人賞受賞作。森泉岳土のマンガとコラボした魅惑の書き下ろし小説を増補。 

恋愛の空気感を写実的に描くとこんな風になるのかな。写真についての記述があちこちにあるのだが、写真を見た時に感じる微妙な「ずれ」のようなものが、作品全体に漂っていてそれが不思議で面白い。

朝子が麦に初めて会ったとき。長い手足、低い声、そして自分に向けられた笑顔。花火の火花が散ったのは幻想なのか比喩なのか。一方的だけど完璧な「恋」。でも「恋」は終わるのだ、必ず。
自分があるようでないような朝子はもともとそういう人間だったのか麦との恋愛でそうなってしまったのかは不明だが、亮平にとっての朝子は朝子にとっての麦だったのか、あるいはもう少しリアルだったのか。

後ろめたさを感じるくらい麦と亮平が同じ顔に見えていた朝子が、再会した麦の寝顔を見て「違う」と気づく瞬間。なんかわかる気がする。きっと魔法は溶けたのだ。そして魔法が溶けてからが本番なのだ。多分。

面白かった。映画も見てみたいな。

ナイト・オブ・シネマ -坂本頼光&ヲノサトル 映画を語る- 第1夜

1/7(月)、日暮里サニーホールで行われた「ナイト・オブ・シネマ -坂本頼光&ヲノサトル 映画を語る-」第1夜に行ってきた。
先日春陽先生の会で見た坂本頼光さん。ものすごく面白かったので活弁をもっと見てみたい!と思っていたら、ヲノサトルさんとのトークショーがあったので、面白そう!と行ってみた。

坂本頼光&ヲノサトル  トーク
坂本頼光&ヲノサトルジャックと豆の木
坂本頼光&ヲノサトル戦艦ポチョムキンよりオデッサの階段
~仲入り~
坂本頼光&ヲノサトル  トーク
坂本頼光「サザザさん第一話」
坂本頼光&ヲノサトル  トーク

エドウィン・S・ポーター監督の「ジャックと豆の木」にヲノさんが音楽、坂本さんが活弁で語るというスタイル。
1902年の作品なのだが、白黒だし無声だしストーリーを知らないと見ていてもわからないだろう。それに音楽と活弁が入ると物語の世界にぐっと引き込まれる。
坂本さんのツッコミみたいのも入るのでそれがまたおかしい。
活弁ってこういうものなのか!面白い!

それからヲノさんによる「実験コーナー」ということで、「戦艦ポチョムキン」の「オデッサの階段」のシーンを最初はオリジナルの曲+活弁で、それからヲノさんの作ってきた音楽+活弁でさまざまな変化を楽しむというもの。
これが事前にどういう音楽なのかわからない坂本さんが最初の数小節を聞いてその印象からテーマを決めて別の話に作り直すのがものすごい瞬発力でびっくり!しかもめちゃくちゃ面白い!
悲劇的なシーンがzozoの100万円プレゼントに殺到する民衆の図に入れ替わったのは大爆笑だったし、ヲノさんが舞台上でお腹を押さえて身悶えていたのもおかしかった。
坂本さんは相当心臓バクバクだったと思うけど、頭の回転の速さと引き出しの多さを見せてもらって、かっこよかった!
仲入りの後は「サザザさん」の第一話。これももちろんめちゃくちゃ面白かった。

あとは二人のトークで構成されていたんだけど、とにかく二人の話が面白い。
もっともっとたっぷり聞きたくなるし、特に坂本さんは話し足りなさそうだったなぁ。
坂本さんの結婚式の営業に行ってホリエモンに肩を叩かれたという話。うわーー怒られる!!と思って「すすすみません!あれ(サザザさん一話)を作ったときは自分はまだ25歳そこらの若造で何もわかってなくて金を持ってる嫌な奴!という印象しかなくて。今は何作か著作も読んでますしそんな風には思ってないので…」と謝ったら(謝ってない気もするが(笑))、「いやいや。出所して最初にあれを見たときはもうこんなに笑ったことはないというぐらい笑ったよ。また(自分を)使ってください」と言われたという話。たまらん!
映画の話ももっと聞きたかったなぁ。

坂本さんは結構いろいろ会もやられているようなので、また見に行こう。
こちらの会も次回は7/22ということなので今から空けておこう~。

フリン

 

フリン (角川文庫)

フリン (角川文庫)

 

 ★★★★

高校生の真奈美は、カレと入ったラブホテルで、自分の父親が同じマンションに住むOLの葵さんと一緒に歩いているのを目撃してしまう(「葵さんの初恋」)。元カレと逢瀬を繰り返す主婦、人生最後の恋に落ちた会社員、壮絶な過去を持つ管理人の老夫婦…。ある川辺に建つマンションを舞台に繰り広げられる反道徳の恋。愛憎、恐怖、哀しみ…様々なフリンの形を通じて、人と人の温かさ、夫婦や家族の関係性を描ききった連作短編集。 

不倫をテーマにした連作短編だけど恋愛の角度や重さや後味は見事にバラバラでそこが面白い。

若い女性の純粋だけど間違った方向に真っ直ぐ行ってしまった感のある「葵さんの初恋」。
熱情も夢も希望もないただ倦んでいるだけの結婚生活と不倫を描く「シニガミ」。
一番ロマンティストなのが老齢に差し掛かった男と女(「最後の恋」「年下の男の子」)というのも皮肉だけど、リアル。

「魔法が溶けた夜」の恋愛で自分を輝かせていた女がただの中年女に戻る瞬間、こわっ。でもそういうことなのかもしれない。結局その輝きに魅せられる「観客」がいるから輝いているだけで、そういう存在がいなくなったら輝きは失われるものなのかもしれない。爽快。

最終話の「二人三脚」には凄みがあった。

地上のヴィーナス

 

地上のヴィーナス

地上のヴィーナス

 

 ★★★★

メディチ家の衰退、サヴォナローラの台頭、そしてルネサンスの嵐が吹き荒れる都フィレンツェで、絵筆とひとりの画家に魂を捧げた女の愛を描く。 

年をまたいで読み終わり。

私たちから見るとあり得ないほど窮屈で不自由な環境の中で知恵を絞り強い心をもって生き抜いた女性。

信仰心と自分の願望や欲望との折り合いの付け方に理解しがたいところもあったが説得力があった。面白かった。

2018年・年間ベスト

2018年、読んだ本が129冊で、行った落語が249回。
昨年が読んだ本95冊、行った落語が218回だったので、本も落語も増えてる。

落語は、誰の高座を一番たくさん見ているんだろうと集計してみた。(初めての試み!)

   1位 柳家さん助 65回
   2位 桂夏丸   27回
   3位 柳家小はぜ 26回
   4位 林家きく麿 25回
   5位 柳家小三治 23回
   6位 桂南喬   22回
   7位 柳家はん治 19回
   8位 桂幸丸   18回
   9位 三遊亭圓橘 16回
 10位 雷門小助六 15回
    10位 桃月庵白酒 15回
 11位 柳家さん光  14回
 11位 春風亭柏枝  14回
 11位 三遊亭圓馬  14回
 11位 柳家蝠丸   14回

思っていたとおりの結果ではあったが、さん助師匠を65席見てるって…。
うまくないとか余計な工夫だとか今日の高座はイマイチだったとかいろいろ書いてるけど、やっぱり私のさん助愛はすごい。売れてるわけでもないのに65席見てるってすごいよね(←やっぱりひどい)。
2位が夏丸師匠。真打披露目めっちゃ通ったもんなぁ。8位の幸丸師匠は夏丸師匠の師匠としてお披露目の会にはいつも上がられていたから、だな。
小はぜさんは鶴川の会に毎回通っていたのが大きいかな。
4位がきく麿師匠!テイトレコードや道楽亭の独演会に通ったのもあるし、寄席のトリに通ったのもあるかな。
小三治師匠が5位だけど、私が一番愛してる噺家小三治師匠ですから!(きっぱり)
南喬師匠は寄席のトリに通った結果の6位かな。
自分的に笑ったのが一之輔師匠を3回しか見てないこと。こんなに売れっ子でこんなに面白い師匠を3回しか見てないって…おれってどんだけひねくれてるんだ?わはははは。

で、年間ベスト。まずは海外編。

1位 日本人の恋びと(イサベル・アジェンデ

日本人の恋びと

日本人の恋びと

 

 人種や階級や性別を越えた愛があり、しかし一方で自分が守りたい生活、家族がある。
アルマの生き方は利己的ではあるけれど、一度きりの人生を自分に正直に貪欲に生き抜いたのだと思う。
アルマを責めることなく見守り続けたナタニエルの秘密に驚いたが、彼にも愛し愛される相手がいたことにほっとした。
フィクションに身を委ねる楽しさを堪能。楽しい読書だった。

2位 三美スーパースターズ 最後のファンクラブ(パクミンギュ)

三美スーパースターズ 最後のファンクラブ (韓国文学のオクリモノ)

三美スーパースターズ 最後のファンクラブ (韓国文学のオクリモノ)

 

野球を題材にした小説が好きだ。
野球そのものが好きということもあるけど、野球って人生そのものだなぁと感じることが多いから。
三美の弱小ぶりが後半になって鮮やかに肯定される小気味良さ。それはひたすら努力と根性で前へ進もうとしてやみくもに頑張ってきた主人公が、一流企業に就職してパワハラにあいリストラされて、今までの自分の人生を全て否定されて、ああもう俺の人生終わったーーとひっくり返って目を開けたら、抜けるような青空が広がっていたのと重なる。
まさに逆転の発想。
素晴らしかった。
韓国の作家の作品がどんどん翻訳されるけれど、とても面白くて自由で生き生きしている。迷ったときは韓国の作家を読めとアドバイスしたいぐらい。
パクミンギュ、「カステラ」「ピンポン」と読んだけど、これが一番好き。この作家、この先もずっと読み続けて行きたい。


3位 ソロ(ラーナー・ダスグプタ)

ソロ (エクス・リブリス)

ソロ (エクス・リブリス)

 


ブルガリアで生まれ育ち、不安定な政治に翻弄されて、夢をあきらめざるを得なかった主人公のウルリッヒ
彼の人生が綴られた第一楽章「人生」は失意の連続で読んでいて陰鬱な気持ちになる。
第二楽章「白昼夢」はウルリッヒの想像した世界なのか、前半に出てきた登場人物たちが飛躍し躍動する。
「実際に生きるのは選択した人生だけどそこからはみ出た部分にも意味がないわけじゃない」という言葉が胸に沁みる。
現実が自分を裏切り続けたとしても…自分の人生が満足いくものではなかったとしても、想像すること夢見ることは自由でなにものをそれを奪うことはできない。
すばらしかった。再読すると印象がまた変わる気がする。


4位 昏い水(マーガレットドラブル)

昏い水 (新潮クレスト・ブックス)

昏い水 (新潮クレスト・ブックス)

 

 こんなにリアルで、それなのに楽しい老人小説は初めて。
散りばめられたユーモアにふふっと笑い、なんかそれわかる…と苦い気持ちになり、それでも最後までこうやって生きていくのだ!とちからをもらう。面白かった~。
ドラブルは学生のときに読んで挫折していて苦手意識があったのだが印象が変わった。


5位 マザリング・サンデー(グレアム・スウィフト)

マザリング・サンデー (新潮クレスト・ブックス)

マザリング・サンデー (新潮クレスト・ブックス)

 

 前半を読んだときはジェーンには選択肢も決定権もないのだと、メイドという低い身分であること、女性であることの弱さを目の当たりにしたようで苦い気持ちになったけど、それだけで終わらないのが素晴らしい。
ジェーンが一人屋敷に取り残されてからの場面。そして受け身に見えた彼女が自転車で裏道を駆け抜けるシーンが素晴らしい。
マザリング・サンデーにジェーンが失ったものものと得たもの。そして作家として歩み始めるきっかけとなったまさにその日。
中途半端な長さなのにものすごい充足感。すばらしかった。


6位 ふたつの人生(ウィリアムトレヴァー)

ふたつの人生 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

ふたつの人生 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

 

 中編が2編収められている。一作目の「ツルゲーネフを読む声」は読む女、二作目の「ウンブリアのわたしの家」は書く女。共通するのは現実で満たされないから想像に身を任せているということ。
たった一回の甘い思い出にすがり、その思い出をたよりに生きていこうとするメアリーの姿が悲しい。
会っている時よりその後一人で思い出してその時間を生き直す時の方が幸せというのはよくわかるだけに、それに没頭するために自ら狂気の中に飛び込むメアリーの幼さと孤独が辛い。
それでも現実だけではなく想像の世界に足をおくことで人間が豊かな生を生きていくことができるのも事実。
現実の人生が苦いものでも想像の世界では幸せでいられる。想像の世界に生きることもひとつの人生といえるのかもしれない。
いつもどおり苦いとレヴァーだったがすばらしかった。大好きだ。


7位 ロマン(ウラジーミルソローキン)

ロマン〈1〉 (文学の冒険)

ロマン〈1〉 (文学の冒険)

 
ロマン〈2〉 (文学の冒険)

ロマン〈2〉 (文学の冒険)

 

 すごいすごいとは聞いていたけどこれは確かにすごかった。
上巻はソローキンを読んでいることを忘れるような抒情的で文学的な内容。
都会の生活に倦んだロマンが弁護士の仕事を辞め画家になるために懐かしい故郷に戻ってくる。そこで育ての親である叔父おばの歓待を受け、百姓たちと交流する。
後半はロマンが狼に導かれるようにして出会った娘タチヤーナに一目ぼれし求愛、そして婚礼となる。
婚礼の様子がうんざいするほど詳細に描かれそしてようやく二人になったロマンとタチヤーナが寝室に足を踏み入れたところで物語が一気に驚きの展開へ。

確かにこれは聞きしに勝る怪作、「なんじゃこりゃ!」のかなり上位を行く作品だ。
一つだけわかることは、ソローキンはおそらくこの後半を書きたいがために、それまでの細かい情景描写、うんざりするほどの感情や愛情の吐露を描いてきたのだろう、ということ。
壊すことを目的に、緻密に積み上げていったのだろう。
それは文学の限界に挑戦しているのか文学への決別を表しているのか、あるいは徹底的な人間性の否定なのか。
私にはわからないけれど、とにかくなにかもうすごいものを読んだな、という感動は残った。

8位 アクシデンタル・ツーリスト ( アンタイラー)

アクシデンタル・ツーリスト (Hayakawa Novels)

アクシデンタル・ツーリスト (Hayakawa Novels)

 

 再読。アンタイラーの中でも特に好きな作品。
パーパーうるさいミュリエルだけど彼女の闘志と感性にメイコンが惹かれていくように、読んでいる私ももうどうしようもなくミュリエルが愛しくなってくる。
宇宙人が救急車を見たら…の台詞には今回も泣いてしまった。ミュリエル自身が気が付いていない彼女の優しさやひたむきさが台詞やちょっとした描写で伝わってくる。
うまいなぁ、アンタイラー、と思う。
出てくるのは問題のある人ばかり。だけど読んでいるとたまらなく愛しくなってくる。
人生は旅。いい道連れを見つけることが旅の醍醐味なのかもしれない。
アンタイラーの新しい作品も読みたいなぁ…。翻訳してくれないかしら。


9位 誰でもない(ファンジョンウン)

誰でもない (韓国文学のオクリモノ)

誰でもない (韓国文学のオクリモノ)

 

「野蛮なアリスさん」も面白かったけど、こちらの短編集のほうがもっと好き。
狂気に囚われていたり絶望の淵に立ってる登場人物が多かったがそれでも彼らは死ぬまで生きていくのだろう。
そういう力強さがあった。

10位 地下鉄道(コルソンホワイトヘッド

地下鉄道

地下鉄道

 

 奴隷として生まれた少女コーラが一緒に逃げないかと声をかけられ、奴隷制度に反対する白人の助けを得て地下鉄道を使って北へと逃げる。この鉄道が走り抜けるシーンの美しさとこの先には自由があるのではないかという希望だけを頼りに読み進めていったが、抱いた希望はすぐに打ち砕かれていく。
奴隷の処刑を見るために公園に集まる白人の群れの描写は、アメリカだけではなくヘイトスピーチに興じる今の日本にも通じるものがあってとても恐ろしい。
これは決して過去の物語ではないのだと思った。

11位 ハウスキーピング(マリリン・ロビンソン)

ハウスキーピング

ハウスキーピング

 

 家族の喪失が描れているが、人間の生死を超えた視点(宗教?自然?人間の営みの拠り所となる「家」)から描かれているので、壮大な光景を目にした時のような感動がじわじわくる。
しあの世寄りの)だったのかもしれない。
解説を読むとこの小説は様々な文学作品を踏まえて書かれているので、挙げられた作品を読んでからまた読むとまた見えてくるものがあるのかもしれない。

12位 S.モームが薦めた米国短篇

なんてそそられるタイトル。
フォクナー、フィッツジェラルドスタインベックヘミングウェイ、ウォートンと有名どころが名前を連ねているが、どの作品も面白い。全然色あせてない。


13位 図書館島(ソフィア・サマター)

図書館島 (海外文学セレクション)

図書館島 (海外文学セレクション)

 

なんの説明もされずに出てくる、この世界独特の用語(ヴァロン、ジュート、アヴネアニーなど)に戸惑いながらも、この物語の中で様々な語り手によって語られる物語がとても面白くて強烈なので、その中に巻き込まれていき…特にクライマックスで語られる物語は魅力に溢れていて素晴らしかった。
タイトルから想像していた世界とは全く違っていたのだが、作りこまれた異世界、物語の世界に身を委ねてぐにゃぐにゃにされる楽しさを堪能した。

14位 父の遺産(フィリップロス)

父の遺産 (集英社文庫)

父の遺産 (集英社文庫)

 

数パーセントの可能性に賭けて手術を受けることも戦いなら、延命治療をしないことも戦いなのだということを教えられた。
どんな風に死ぬかということはどんな風に生きてきたかということの裏返し。ここに出てくる父親、独断的で頑固でめんどくさい人だけどなんて魅力的なんだろう。
この作品、ノンフィクションだと思って読んでいたのだが、ノンフィクションとはどこにも書かれていない。
でもフィクションなのかノンフィクションなのかということは、たいした問題ではない。
なぜならここには生身の人間が描かれてるから。ここに描かれる親子の会話。なんてことのない近所の人の思い出話や野球、ボクシングの話、先立ってしまった妻の美化された思い出、今一緒にいる女性への愚痴、悪口…こんな会話が救いになっている。
これが文学の力。素晴らしい。


15位 ネバーホーム(レアード・ハント

ネバーホーム

ネバーホーム

 

 「優しい鬼」がとても苦い物語だったので覚悟して読んだのだけれど、辛い…とても辛い物語だった。
戦争で最前線に立っていて人の命を奪うことに鈍感になった報いなのだろうか。
あるいはそうなることがわかっていたから、足が家に向かなかったのだろうか。
語られていなかったことの方に意味がある。苦いけれど素晴らしい作品。


16位 恋のお守り(ウォルター・デ・ラ・メア

恋のお守り (ちくま文庫)

恋のお守り (ちくま文庫)

 

 人間の内側にある恐怖心や不安や熱情と、外的な何か…物だったり建物だったり他人だったり…が合わさっておきる魔法のような出来事。怖いだけではなく懐かしさもあったのは、子どもの頃に自分もこんなことがあったような気がするからなのかもしれない。

17位 ファミリーライフ( アキールシャルマ)

ファミリー・ライフ (新潮クレスト・ブックス)

ファミリー・ライフ (新潮クレスト・ブックス)

 

 作者の自伝的作品ということでかなりしんどい物語だが、書くことで蓋をしていた自分の気持ちを解放することができたというところに、ほんの少しだけれど希望を感じる。
全く違う物語だが、これを読む前に読んでいた「ソロ」とも通じるテーマ。物語ることによる魂の救済を感じた。

18位 異形の愛(キャサリンダン)

異形の愛

異形の愛

 

読みたいけれど読むのがしんどそうで長いこと積んでいた本。
子どもをデザインして家族でカーニバルを営むビネウスキ一家。 彼らにとっては「異形」であること、カーニバルで稼げることが何より重要。
彼らにとって、服を着ていないと見分けがつかない「フツウ」に意味はないのである。
これが究極の愛だとは私は思わないけれど、愛する人に愛されたい、認められたいという彼らの気持ちは痛いほど分かる。
正常と異常がひっくり返った世界。彼らの価値観や暮らしを歪んでいると思いながら読んでいたが、アーティの講話のような語り)に「フツウ」が洗脳されて入信してくる様はとてもリアルで、結局のところフツウも異形も違いはないのだと気付かされる。
グロテスクだけれど美しい。不思議な世界だった。


19位 野蛮なアリスさん(ファン・ジョンウン)

野蛮なアリスさん

野蛮なアリスさん

 

 面白かったと言っていいのか悩むぐらい残酷でしんどい物語。
まさに「目を開けて見る悪夢」だが、ものすごい力があって、ヘタレな私でも目をそらすことができない、ページをめくることをやめられなかった。
インパクトのある表紙と相まって、忘れられない一冊になりそうだ。

20位 殺人者の記憶法(キムヨンハ)

殺人者の記憶法 (新しい韓国の文学)

殺人者の記憶法 (新しい韓国の文学)

 

 アルツハイマーにかかった殺人鬼キム・ビョンス。25年前に殺人はやめたのだが、唯一気にかけるのが、養女として育てた娘ウニ。実はウニは自分が惨殺した夫婦の子どもなのである。
混沌とする記憶の中で自分の言動に確信が持てなくなる。恐ろしいのは記憶がなくなることだけではなく、自分が唯一無二と思っていたそのことすら形を失うこと。
記憶とはなんなんだろう。自分とはなんなんだろう。
読んでる間、自分の思考も迷宮に入っていきそうで怖くなった。
最近韓国の若い作家の作品が次々と翻訳されているが、どれも面白くてわくわくする。


21位 白墨人形(C・J・チューダー)

白墨人形

白墨人形

 

 ホラーなのかミステリーなのかわからなかったので、不可思議なことが起きるのを受け入れていいのか疑うところなのか、ドキドキしながら読んだ。
ミステリーとしての面白さだけではなく、きちんと人間を描いている。そこがとても好き。
文句なく面白かった。

22位 デルフィーヌの友情(デルデルフィーヌ ド・ヴィガン)

デルフィーヌの友情 (フィクションの楽しみ)

デルフィーヌの友情 (フィクションの楽しみ)

 

 こんな内容だと知っていた絶対に読まなかった。眠れない夜に読んでいて心臓がきゅーーーーっとなってますます眠れなくなったし、こういう心理的に追い詰められる内容は苦手だから。
でもとても面白かった。

次に国内編。

1位 雪の階(奥泉光

雪の階 (単行本)

雪の階 (単行本)

 

素晴らしかった!
最初から最後まで好みで夢中になって読んだ。読んでいる間、谷崎を読んでいるときのような楽しさがあった。
内容は決して軽くはないのだがユーモアがあって楽しく、また文章も美しくてそこも読んでいて大変楽しかった。
奥泉作品の中では「鳥類学者のファンタジア」が飛びぬけて好きなんだけど、これも同じぐらい好き。

2位 おらおらでひとりいぐも(若竹千佐子)

おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞

おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞

 

 好き好き!読みづらいかなとおもっていたけど全然そんなことなかった。
東北弁、声に出して読むとストンと意味がわかるのが不思議。この桃子さんの心の声(柔毛突起の言)がたまらなくいい。ユーモラスで温かくて慰められる。
とっちらかる思考、衰える身体、時々襲い掛かる孤独感。しかしそれらを飼いならしながら桃子さんは生きて行く。
芥川賞受賞作品はモヤモヤな読後感の作品が多いけどこれは珍しく爽やかだったなぁ。
楽しかった。


3位 U(皆川博子

U

U

 

 オスマン帝国の強制微募で家族から奴隷として差し出された少年たち。オスマン帝国の章とUボート自沈作戦の章、どう繋がっていくのかと思ったらこれがなんと…。
何もわからないまま馬車に揺られていた少年と、海底で静かに横たわる300年後の二人の姿が浮かび上がる。
皆川博子先生の創造力の果てしなさよ…。
これぞフィクションの醍醐味という楽しさを堪能。


4位 エリザベスの友達(村田喜代子

エリザベスの友達

エリザベスの友達

 

認知症になり娘たちのこともわからなくなってしまった母の介護をする姉妹。母は90代で姉妹は70代。自分たちの行く末を心配しながらも認知症が進む母の心配もする。その虚しさや寂しさを描きながらも、絶望だけではない、安らかさも感じさせる。
認知症も悪いことばかりではないのかもしれない。施設の職員さんたちの穏やかな対応に救われる。
諦めの境地が優しくてユーモラスなところがとても良かった。

5位 ベルリンは晴れているか(深緑野分)

ベルリンは晴れているか (単行本)

ベルリンは晴れているか (単行本)

 

素晴らしい読みごたえ。
ユダヤ人がみな「悪」なわけないのに、国をあげてそう言いきってそれを支持する国民がかなりの数いること。またそれを支持したことなど一度もないのに「国民」ということで責めを追うこと。
「国」イコール「個人」ではないけれど「個人」は「国」に属していてそれに縛られ守られている。
国がどんどん望まない方向に進んでいき、学校でもそういう教育がなされ、隣人たちがお互いを監視しあい密告され殺されていく。
今の日本の状況も考えずにはいられなくて読んでいてしんどかったけれど、読んで良かったと思う。主人公をはじめ、登場人物が魅力的で生き生きとしてることが救いだった。
ミステリーとしても面白さもあった。

6位 1ミリの後悔もない、はずがない(一木けい) 

1ミリの後悔もない、はずがない

1ミリの後悔もない、はずがない

 

 恋愛は一時の感情で、恋愛関係が永続的に続くことなどないし、いつかは終わりが来て思い出に変わっていくけど、それでも誰かに大切に思ってもらえた経験は自分にとって一生の宝物だ。
由井が桐原に会えてよかった。由井の母に安伊子さんがいてよかった。そして由井が家庭を持ててよかった。
これがデビュー作とは。これからも注目したい作家さん。


7位 卍(谷崎潤一郎

卍(まんじ) (新潮文庫)

卍(まんじ) (新潮文庫)

 

 げんなりするくらいねっとりとした世界。登場人物誰一人好きになれないし、話を聞いて書いている「先生」(谷崎自身)にも嫌悪感をかんじるけど、それなのに面白い。
醜悪だけど魅力的。
細雪」を読んで以来、大好きになった谷崎。まだ読んだことのない作品がたくさんあるのがうれしい。
大切に読んでいきたい。

8位 地球にちりばめられて(多和田葉子

地球にちりばめられて

地球にちりばめられて

 

 留学してる間に祖国がなくなってしまったHirukoの元にたまたま集まってきた人たち。国も違えば言語も違う。グローバル化、右傾化する世界の中で迷子になる人たち。「本当の日本人」なんて言ってえばってる私たちだっていつ移民になるかもしれないのだ。
さまざまな背景を持ったさまざなま国の人たちが言語で結び付いてゆく。
Hirukoの話すパンスカという不思議な言語には頑なな心を弛める力を感じるし、文学の力、希望も感じさせる。
言語にこだわる多和田さんらしい作品だが、最近の作品にしたら珍しく読みやすかった。

9位 父の詫び状(向田邦子

新装版 父の詫び状 (文春文庫)

新装版 父の詫び状 (文春文庫)

 

 文章が良くてユーモアに溢れていてその時代の風景や空気を見事に表現していて、ほんとに素晴らしい。
肩肘張ってないけど読んでいて背筋がぴんと伸びてくる感じ。すばらしい。

10位 六月の雪(乃南アサ)

六月の雪

六月の雪

 

 日本が台湾を統治していた時代のことや台湾と日本の関係、国民性の違いなどとても興味深かった。
台湾には親日家が多いと聞くけど、それって日本人が自分たちに都合のいい話だけ拾って伝えているのでは?と疑問に感じていたのだが、「そういうことだったのか」と少し納得できた。
親や家族の面倒をどこまで見るのかというのは読んでいて痛いテーマであったけど、私は未来の祖母の言葉が良かった。たとえ強がりであったとしても、一度きりの人生、未来は未来の人生を生きてほしいという祖母の言葉は胸に響いた。

11位 名もなき王国(倉数茂)

名もなき王国

名もなき王国

 

 フィクションにとりつかれ書くことにとりつかれた人たち。
現実と虚構の境目が曖昧になり、自分自身が曖昧になる。
それは現実が自分の手に余るほど辛いから。こんな現実は受け入れられないから。それに引き換え空想の世界の自由で魅力的なこと。現実逃避と笑えば笑え。想像力があるから私たちは生きていけるのだ。
痛ましい物語だったけれど不思議と読後は爽やかだった。


12位 滅びの国(恒川光太郎)

滅びの園 (幽BOOKS)

滅びの園 (幽BOOKS)

 

最初は鈴上に共感して読んでいたが、ディストピアと化してしまった地球にいて日常生活を破壊されながら必死に戦う聖子たちの章を読むと印象ががらりと変わる。
死を覚悟して異世界に旅立つ若者が放つ「でも死ぬまでは生きてるんだから」という言葉がとても印象的。
SFチックな話なのに、こういうことが実際に起きるかもしれないなぁとものすごいリアルに感じた。


13位 送り火(高橋弘希)

送り火

送り火

 

 話の内容が好きじゃなくても、小説として好きだなぁ素晴らしいなぁと思うことがある。この作品はまさにそう。
こんなに陰鬱で陰湿な話はまったくもって好みではないし、読み始めてから読み終わるまで「私はなんでこれを読んでいるんだろう」と辛くて仕方なかった。
最後まで読んで「そんな…」と呆然となったけれど、しかしなにか強烈に心に残るものがある。読んでよかったと思ってる。


14位 庭(小山田浩子

庭

 

 マンションの上の階に住んでいると、土があって池があって川があって虫がいて…という暮らしを忘れてしまう。
消毒された暮らしに慣れていると、家の中に虫が入ってきたり、自分が「生き物」であることを急に思い出させられたりすると、激しく動揺してしまう。
ここに収められた短編はみな、自分のそこらへんの「弱い」部分を刺激されるようで、読んでいてぞわぞわ…。
でもそれが不快ではなく楽しい。面白かった。

15位 その話は今日はやめておきましょう (井上荒野

その話は今日はやめておきましょう
 

 年を取って徐々に衰えていくことへの不安。若い人になめられているのでは、みっともないと思われているのではという不安。それでも人を信じたい、自分の直感を信じたいという気持ち。ゆり子の気持ちが痛いほどわかる。
またそんな妻が自分には見えない膜を張ってるように感じる昌平の気持ちもリアルだ。終始ざわざわした気持ちで読んでいたが、後半は爽快だった。よかった。


16位 世界は終わりそうにない(角田光代

世界は終わりそうにない (中公文庫)

世界は終わりそうにない (中公文庫)

 

 角田さんのエッセイは大好きだけど、今回は特に心にしみた 。最終章の恋愛についてのエッセイは宝物にしたような言葉がいっぱい。

「誰も私ほど私のことを知らないし、私ほどには私のために動かない。」
なんて正しくて深い言葉なんだろう。
書評についてのエッセイもよかった。
角田さんの書評を読むと間違いなくその本を読みたくなるのだが、自分が書評を頼まれた時は「読んでみたくなること」を大事に思っている、ということがわかって、なるほど…と思った。

17位 ディス・イズ・ザ・デイ(津村記久子)

ディス・イズ・ザ・デイ

ディス・イズ・ザ・デイ

 

 Jリーグ2部サポーター小説。架空のチームのありそでなさそなチーム名とエンブレムが秀逸で楽しい。
それぞれの地方でそのチームの最終節のゲームに向かう人たち。
サッカーやチームに対する思いもそれぞれだし、人となりや抱えてる問題や心情もさまざま。
会場にいる見知らぬ人たちの会話の描写もとてもリアルで、ほんのり優しくておかしくて癒された。
楽しかった。


18位 きょうのできごと柴崎友香

きょうのできごと: 増補新版 (河出文庫)
 

 友人の引っ越し祝いに集まって飲んで帰る。京都の大学生のなんてことのない一日を描いているのだが、会話と描写のリズムがカメラで追っているようで、なんともいえず楽しい。
「つづきのできごと」の現実と小説が交差する感じも楽しかった。


19位 少女たちは夜歩く(宇佐美まこと)

少女たちは夜歩く

少女たちは夜歩く

 

 面白かった。とてもよくできた連作短篇。構成の妙。
人間はほんの小さなことで我を失い狂気にとらわれてしまう。そして見えないはずのものが見えるようになってしまうのも実は簡単なとこなのかもしれない。
怖いけれど怖いだけではない切実さがあって好きだった。

 

 

 

末廣亭12月下席夜の部

12/28(金)、末廣亭12月下席夜の部に行ってきた。

・錦平「紀州
・ぺぺ桜井 ギター漫談
・歌之介「龍馬伝
・南喬「粗忽の釘
~仲入り~
・さん助「三助の遊び」
・ホームラン 漫才
・ひな太郎「幇間腹
・才賀「台東区の老達」
仙三郎社中 太神楽
・今松「芝浜」

南喬師匠「粗忽の釘
何度見ても楽しい。
「どちらさまですか」と聞かれて「どちらさまってほどのもんじゃねぇんですよ」。
「どういうご用件ですか」
「用ってほどのもんはねぇんですよ」
ぎょろっとした大きな目と大きな手と大きなしぐさ。独特のゆったりした空気が流れて見ていてほんとに幸せだ。


さん助師匠「三助の遊び」
満員のお客さんの反応がよくて、ぴかーっと明るい「三助の遊び」。
この日は5列目ぐらいで見ていたんだけど、声もよく響いてえもいわれぬおかしさが出ていた。
花魁同士の会話が妙に色っぽくてそれが意外で楽しい。
サゲもわかりやすくきまってよかった~!
さん助納めが「三助の遊び」ってなんかとっても幸せだ。


今松師匠「芝浜」
昨年に引き続き落語納めに今松師匠の「芝浜」って素敵すぎる。
くまさんがほんとに気持ちのいい人物に描かれていて、酒におぼれていてもどこか憎めない。
おかみさんに「夢だ」と言われてストンと納得するところも、くまの素直な人柄が出ていて好きだ。
出禁のお客さんの所に行って頭を下げるところも、へりくだりすぎてないところがさっぱりしていて好ましい。
またお客の方も最初はけんもほろろだったのに魚を見てけろっと機嫌を直すところもいかにも江戸っ子という感じがして好き。

みそかの夫婦の会話もじめじめしたところがこれっぽちもなくて、「お前のおかげだ」と感謝するところが素敵。
全くくさいところやいやらしいところがなくて、だけどしみじみと夫婦の情愛がにじみ出ていて、じんわり涙。
素敵な「芝浜」。素晴らしい落語納めになった。

 

末廣亭12月下席昼の部~夜の部

12/27(木)、末廣亭12月下席昼の部~夜の部に行ってきた。
昼の部途中から入ったのだがものすごい人!途中から二階も開いて、ええ?今日平日だよね?とびっくり。
最初は桟敷の後ろの方に座っていたのだが仲入りで帰った人もいたので前の方の席に移動できた。

昼の部
正雀「掛け取り」
・小団治「ぜんざい公社」
・アサダ二世 マジック
小満ん「出来心」
~仲入り~
・彦いち「ねっけつ!怪談部」
ロケット団 漫才
・しん平 ダイエット漫談
・清麿「東急駅長会議」
・のだゆき 音楽
・小ゑん「レプリカント

夜の部
・扇ぽう「たらちね」
・さん助「十徳」
・小駒「からぬけ」
とんぼ・まさみ 漫才
・菊之丞「長短」
・夢葉 マジック
・半蔵「反対俥」
・鉄平「ざるや」
・ペペ桜井 ギター漫談
・歌之介「お父さんのハンディ」
・南喬「鮑熨斗」
~仲入り~
・文雀「八問答」
・ホームラン 漫才
・ひな太郎「そば清」
・才賀「カラオケ刑務所」
仙三郎社中 太神楽
・今松「柳家格之進」


アサダ二世先生 マジック
「今日はちゃんとやりますよ」の言葉通りたっぷり。びっくり(笑)。


小満ん師匠「出来心」
鯉こくの小噺、大好き。
新米の泥棒がどこまでも能天気で楽しい。あとこの師匠の言い回しが大好き。聞いていてニヤニヤしちゃう。楽しかった~。


しん平師匠 ダイエット漫談
今の若者は女性に興味が薄くなってきて二次元に夢中になってる。
でもあんなもの(二次元の女の子)は実在しないからね。こんなに目が大きくてこんなに短いピッチピチのミニスカート履いてここから全部足!みたいなのはね。こわいよ。こんなのが町歩いてたら。
あんなスカートで歩く女の子がいたら…俺は歩道になりたい。歩道になって横たわるね!
俺なんか63になったけどいまだに女性に興味あるもんね。10代から20代、30代、40代。50代から先はいらねぇか!

…ぶわはははは。その前に「お客が男ばかりじゃだめ、男の客はあんまり笑わないし笑っても声が低くて陰気。かといって女の客ばかりでもダメ。女性は高い声で笑ってくれていいけど、引くんだよね。え?そんなに引いちゃう?っていうくらい引いちゃう。ちょっとセクハラっぽいこととか言うとね、一斉に引いちゃうんだよね」。
そう言ってたのに、まさにその女性が引きそうなことを堂々と。

そのあと、自分がじじいになった、という話。
昔は腹筋が25ぐらい割れててまさに細マッチョ。今は腹筋は一つも割れてなくてぼよんとした腹が1つ乗ってるだけ。
あらゆるダイエット(それも楽できるやつ)を試したけど、「三食普通に食べて痩せる」とうたってる薬は全然効かない。何一つ効かない。初回お試し500円とか送料無料に乗せられてあらゆるものを買って飲んだけどだめ。
あ、でも一つだけ効いたのがあったね。やず〇の酢。あれは効いた。すこぶる体調がよくなって、まぁ朝からごはんがもりもり食べられる。三食で足りなくて間でパンも食べる。
はっと気づいたら俺痩せるためにこれ買ってたのに食欲増進して3キロ太ってた。

それから金魚運動、乗馬など、健康器具の話。
これもおかしかった。
…私この続きで痩せる下着のくだりがもう大好きなんだけど、残念ながらここまで。
笑った笑った。しん平師匠の漫談、めっちゃ楽しい。


小ゑん師匠「レプリカント
クリスマスの2日後に「レプリカント」って素敵。
酔っ払ってカーネルサンダースを連れて帰って来ちゃった大学生。そこに先輩が訪ねてきて、「お前また夕べ酔っ払ってやったな」と。
家にはほかにも今まで酔っ払って持ってきたものが多数。その一つ一つが絶妙でおかしい!!
中でも「川柳川柳」の幟。それも個人のじゃなくて末廣亭の「昼の部主任」って書いてあるやつ。それを見て「どうせ持ってくるなら後からお宝になりそうな人間国宝のやつとか持って来いよ。川柳川柳って!」と言われると「でも一部の客には熱狂的な人気があるらしいよ」。
…ぶわははははは。最高。

あとこのカーネルサンダースにコート着せてタイガースの野球帽かぶせて連れて行くところ。もう絵を想像しただけでおかしくておかしくて。
タイガースファンの酔っ払いにからまれるのもおかしいし、どうしようもなくなってカーネルを電話ボックスに押し込めるのがたまらない。
めちゃくちゃ笑えるのになんか少し物寂しくて好きだなぁ。小ゑん師匠ってロマンティストだよなぁ。
楽しかった!


さん助師匠「十徳」
出番が入れ替えで私的には残念。
一時期やっていた「十徳」、またやるようになったんだね。
こじつけで十徳の意味を説明するとくまさんが妙に感心していい気分になるご隠居がおかしい。
「じゃもう一つ教えようかな」の得意顔。
あとそれを友だちのところでやろうとして先に言われてしまったくまさんが「…そうだよーー。なんだ知ってたの?」がおかしい。
短めだったけどその分もっさり感がなくてよかったかも。わははは。


小駒さん「からぬけ」
噺の終わり方とお辞儀の流れるような動作が師匠にそっくりで、ちょっとぞわっ。


とんぼ・まさみ先生 漫才
前半はよかったんだけど、後半のコンビニ強盗の漫才がいたたまれない。そしてそうなったときに異様に長くなるのがこのコンビの苦手なところ。あかん!と思ったらさっと切り上げてほしい。


南喬師匠「鮑熨斗」
甚兵衛さんが人が良くてご機嫌でとてもかわいい。
おかみさんがそんな甚兵衛さんに「全くお前さんはあきれたね」と淡々と諦めているのがおかしい。
お金を借りに行ったところでも魚屋さんでも全部ねたばらしをしちゃうのがかわいい。
「もらえるかもらえないかはやってみないとわからないんじゃねぇかな」と言われて「もらえるんですよ!!」と自信たっぷりに言うおかしさ。
口上の「うけうけ」が「うーうーうーーーー」になるところが、ひっくりかえるぐらいおかしかった!
そして「いずれ長屋からつなぎが来ますが」のところが「うなぎが来ますが」になったり「うさぎが来ますが」になるのもおかしい。
楽しかった~。


文雀師匠「八問答」
文雀師匠は珍しい噺をしてくれるから好きだなぁ。
八尽くしの噺なんだけど、時々現代的な言い回しもあって、なんか芸協噺っぽい。
おもしろかった。


今松師匠「柳家格之進」
嫌いなこの噺が驚くほど胸にこたえてしばし呆然となってしまった。
清廉潔白な武士である格之進と正直で優しい町人の万屋源兵衛。
正直すぎて融通がきなかいところを疎まれて浪人に身をやつしている格之進を少しでももてなしたいと思った源兵衛の気持ちに嘘はなかったのに…そして二人で碁を打つ時間は身分の違いを乗りこえた楽しいものだったのに…。番頭である六兵衛の主人への忠誠心と格之進に対する嫉妬も加わって悲劇が生まれる。
町人と武士の身分の違い、価値観の違いが無くなった五十両でくっきりあらわれる。
なんの証拠もなかったとしても五十両を盗んだという疑いをもたれたというだけで「恥」になるというのは、町人には理解できない感覚で、さすがに主である源兵衛は少しはわかるからこそ格之進に五十両のことを聞きに行くことも許さなかったのだろう。
しかし格之進に嫉妬していて「うさん臭いヤツ」とさえ思っていた六兵衛は主の言うことも聞かず勝手に訪ねて行き格之進から五十両を受け取って満足する。彼にとったら金を取り戻すことが一番大切なことだったから、格之進の誇りなどには無関心なのだ。
もしもその五十両が出てきたらどうする?と聞かれて「私の首を落としてください」と言う六兵衛にとって「首を落とす」という言葉は実感のこもらないものだし、聞いている私にとってもそうだ。だから、五十両が出てきたあとに格之進に出会ってしまった六兵衛を思わず笑ってしまう。そこには覚悟とかプライドとかそういうものがないからつい笑ってしまうのだ。
父の名誉のために自分の身を吉原に売ってお金を作ってくれた娘のことを語る格之進の無念さ。
町民と交流を持ってしまったためにこういう目にあってしまった自分を責める気持ちが伝わってきて、涙が出た。

素晴らしい格之進だった。
普段はどこまでも落語らしくさらっとやられる今松師匠が、激しい感情を見せるのが衝撃だった。
とても素敵でもしかして今松師匠は元武士?なんてどうしても茶化して考えてしまう私には武士の了見はどうしたって理解できないのだった。

エリザベスの友達

 

エリザベスの友達

エリザベスの友達

 

 ★★★★★

満州国建国後、イングリッシュ・ネームをもち、華やかな天津租界で暮らした日々に、清朝最後の皇帝・溥儀と妻・婉容が交錯する、天野初音97歳。出征し帰らぬ人となった3人の兄、兄弟のように育った馬たちに再会する、土倉牛枝88歳。戦時中、郵便配達婦をして、六男二女を育て、出産の痛みに包まれた時間に回帰する、宇美乙女95歳。認知症の老女たちのなかに宝石のように眠る、輝かしい記憶たち。そのゆたかな世界を描く長篇小説。 

とても良かった。

認知症になり娘たちのこともわからなくなってしまった母の介護をする姉妹。母は90代で姉妹は70代。自分たちの行く末を心配しながらも認知症が進む母の心配もする。その虚しさや寂しさを描きながらも、絶望だけではない、安らかさも感じさせる。

認知症も悪いことばかりではないのかもしれない。施設の職員さんたちの穏やかな対応に救われる。

諦めの境地が優しくてユーモラスなところがとても良かった。

少女たちは夜歩く

 

少女たちは夜歩く

少女たちは夜歩く

 

★★★★★

狂気の恋に落ちた女子高生、奇妙な絵の修復を依頼された女、不治の病に冒された男、謎のケモノと出会った少年、死んだ人間が見える女…街の中心にある城山の魔界にからめとられ、闇に彷徨う人々。悪夢を見た彼らに救いの時は訪れるのか―ミステリーからホラー、ファンタジーまで越境する魔術師・宇佐美まことの到達点!

面白かった。とてもよくできた連作短篇。構成の妙。

どの話も身につまされてとても他人事とは思えない。
杏子の狂気にも似た執着心。環が修復している絵に見た過去と未来。戸川が入院した711号室で教えられ夫の真実。

人間はほんの小さなことで我を失い狂気にとらわれてしまう。そして見えないはずのものが見えるようになってしまうのも実は簡単なとこなのかもしれない。

怖いけれど怖いだけではない切実さがあって好きだった。