りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

フリン

 

フリン (角川文庫)

フリン (角川文庫)

 

 ★★★★

高校生の真奈美は、カレと入ったラブホテルで、自分の父親が同じマンションに住むOLの葵さんと一緒に歩いているのを目撃してしまう(「葵さんの初恋」)。元カレと逢瀬を繰り返す主婦、人生最後の恋に落ちた会社員、壮絶な過去を持つ管理人の老夫婦…。ある川辺に建つマンションを舞台に繰り広げられる反道徳の恋。愛憎、恐怖、哀しみ…様々なフリンの形を通じて、人と人の温かさ、夫婦や家族の関係性を描ききった連作短編集。 

不倫をテーマにした連作短編だけど恋愛の角度や重さや後味は見事にバラバラでそこが面白い。

若い女性の純粋だけど間違った方向に真っ直ぐ行ってしまった感のある「葵さんの初恋」。
熱情も夢も希望もないただ倦んでいるだけの結婚生活と不倫を描く「シニガミ」。
一番ロマンティストなのが老齢に差し掛かった男と女(「最後の恋」「年下の男の子」)というのも皮肉だけど、リアル。

「魔法が溶けた夜」の恋愛で自分を輝かせていた女がただの中年女に戻る瞬間、こわっ。でもそういうことなのかもしれない。結局その輝きに魅せられる「観客」がいるから輝いているだけで、そういう存在がいなくなったら輝きは失われるものなのかもしれない。爽快。

最終話の「二人三脚」には凄みがあった。