りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

2018年・年間ベスト

2018年、読んだ本が129冊で、行った落語が249回。
昨年が読んだ本95冊、行った落語が218回だったので、本も落語も増えてる。

落語は、誰の高座を一番たくさん見ているんだろうと集計してみた。(初めての試み!)

   1位 柳家さん助 65回
   2位 桂夏丸   27回
   3位 柳家小はぜ 26回
   4位 林家きく麿 25回
   5位 柳家小三治 23回
   6位 桂南喬   22回
   7位 柳家はん治 19回
   8位 桂幸丸   18回
   9位 三遊亭圓橘 16回
 10位 雷門小助六 15回
    10位 桃月庵白酒 15回
 11位 柳家さん光  14回
 11位 春風亭柏枝  14回
 11位 三遊亭圓馬  14回
 11位 柳家蝠丸   14回

思っていたとおりの結果ではあったが、さん助師匠を65席見てるって…。
うまくないとか余計な工夫だとか今日の高座はイマイチだったとかいろいろ書いてるけど、やっぱり私のさん助愛はすごい。売れてるわけでもないのに65席見てるってすごいよね(←やっぱりひどい)。
2位が夏丸師匠。真打披露目めっちゃ通ったもんなぁ。8位の幸丸師匠は夏丸師匠の師匠としてお披露目の会にはいつも上がられていたから、だな。
小はぜさんは鶴川の会に毎回通っていたのが大きいかな。
4位がきく麿師匠!テイトレコードや道楽亭の独演会に通ったのもあるし、寄席のトリに通ったのもあるかな。
小三治師匠が5位だけど、私が一番愛してる噺家小三治師匠ですから!(きっぱり)
南喬師匠は寄席のトリに通った結果の6位かな。
自分的に笑ったのが一之輔師匠を3回しか見てないこと。こんなに売れっ子でこんなに面白い師匠を3回しか見てないって…おれってどんだけひねくれてるんだ?わはははは。

で、年間ベスト。まずは海外編。

1位 日本人の恋びと(イサベル・アジェンデ

日本人の恋びと

日本人の恋びと

 

 人種や階級や性別を越えた愛があり、しかし一方で自分が守りたい生活、家族がある。
アルマの生き方は利己的ではあるけれど、一度きりの人生を自分に正直に貪欲に生き抜いたのだと思う。
アルマを責めることなく見守り続けたナタニエルの秘密に驚いたが、彼にも愛し愛される相手がいたことにほっとした。
フィクションに身を委ねる楽しさを堪能。楽しい読書だった。

2位 三美スーパースターズ 最後のファンクラブ(パクミンギュ)

三美スーパースターズ 最後のファンクラブ (韓国文学のオクリモノ)

三美スーパースターズ 最後のファンクラブ (韓国文学のオクリモノ)

 

野球を題材にした小説が好きだ。
野球そのものが好きということもあるけど、野球って人生そのものだなぁと感じることが多いから。
三美の弱小ぶりが後半になって鮮やかに肯定される小気味良さ。それはひたすら努力と根性で前へ進もうとしてやみくもに頑張ってきた主人公が、一流企業に就職してパワハラにあいリストラされて、今までの自分の人生を全て否定されて、ああもう俺の人生終わったーーとひっくり返って目を開けたら、抜けるような青空が広がっていたのと重なる。
まさに逆転の発想。
素晴らしかった。
韓国の作家の作品がどんどん翻訳されるけれど、とても面白くて自由で生き生きしている。迷ったときは韓国の作家を読めとアドバイスしたいぐらい。
パクミンギュ、「カステラ」「ピンポン」と読んだけど、これが一番好き。この作家、この先もずっと読み続けて行きたい。


3位 ソロ(ラーナー・ダスグプタ)

ソロ (エクス・リブリス)

ソロ (エクス・リブリス)

 


ブルガリアで生まれ育ち、不安定な政治に翻弄されて、夢をあきらめざるを得なかった主人公のウルリッヒ
彼の人生が綴られた第一楽章「人生」は失意の連続で読んでいて陰鬱な気持ちになる。
第二楽章「白昼夢」はウルリッヒの想像した世界なのか、前半に出てきた登場人物たちが飛躍し躍動する。
「実際に生きるのは選択した人生だけどそこからはみ出た部分にも意味がないわけじゃない」という言葉が胸に沁みる。
現実が自分を裏切り続けたとしても…自分の人生が満足いくものではなかったとしても、想像すること夢見ることは自由でなにものをそれを奪うことはできない。
すばらしかった。再読すると印象がまた変わる気がする。


4位 昏い水(マーガレットドラブル)

昏い水 (新潮クレスト・ブックス)

昏い水 (新潮クレスト・ブックス)

 

 こんなにリアルで、それなのに楽しい老人小説は初めて。
散りばめられたユーモアにふふっと笑い、なんかそれわかる…と苦い気持ちになり、それでも最後までこうやって生きていくのだ!とちからをもらう。面白かった~。
ドラブルは学生のときに読んで挫折していて苦手意識があったのだが印象が変わった。


5位 マザリング・サンデー(グレアム・スウィフト)

マザリング・サンデー (新潮クレスト・ブックス)

マザリング・サンデー (新潮クレスト・ブックス)

 

 前半を読んだときはジェーンには選択肢も決定権もないのだと、メイドという低い身分であること、女性であることの弱さを目の当たりにしたようで苦い気持ちになったけど、それだけで終わらないのが素晴らしい。
ジェーンが一人屋敷に取り残されてからの場面。そして受け身に見えた彼女が自転車で裏道を駆け抜けるシーンが素晴らしい。
マザリング・サンデーにジェーンが失ったものものと得たもの。そして作家として歩み始めるきっかけとなったまさにその日。
中途半端な長さなのにものすごい充足感。すばらしかった。


6位 ふたつの人生(ウィリアムトレヴァー)

ふたつの人生 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

ふたつの人生 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

 

 中編が2編収められている。一作目の「ツルゲーネフを読む声」は読む女、二作目の「ウンブリアのわたしの家」は書く女。共通するのは現実で満たされないから想像に身を任せているということ。
たった一回の甘い思い出にすがり、その思い出をたよりに生きていこうとするメアリーの姿が悲しい。
会っている時よりその後一人で思い出してその時間を生き直す時の方が幸せというのはよくわかるだけに、それに没頭するために自ら狂気の中に飛び込むメアリーの幼さと孤独が辛い。
それでも現実だけではなく想像の世界に足をおくことで人間が豊かな生を生きていくことができるのも事実。
現実の人生が苦いものでも想像の世界では幸せでいられる。想像の世界に生きることもひとつの人生といえるのかもしれない。
いつもどおり苦いとレヴァーだったがすばらしかった。大好きだ。


7位 ロマン(ウラジーミルソローキン)

ロマン〈1〉 (文学の冒険)

ロマン〈1〉 (文学の冒険)

 
ロマン〈2〉 (文学の冒険)

ロマン〈2〉 (文学の冒険)

 

 すごいすごいとは聞いていたけどこれは確かにすごかった。
上巻はソローキンを読んでいることを忘れるような抒情的で文学的な内容。
都会の生活に倦んだロマンが弁護士の仕事を辞め画家になるために懐かしい故郷に戻ってくる。そこで育ての親である叔父おばの歓待を受け、百姓たちと交流する。
後半はロマンが狼に導かれるようにして出会った娘タチヤーナに一目ぼれし求愛、そして婚礼となる。
婚礼の様子がうんざいするほど詳細に描かれそしてようやく二人になったロマンとタチヤーナが寝室に足を踏み入れたところで物語が一気に驚きの展開へ。

確かにこれは聞きしに勝る怪作、「なんじゃこりゃ!」のかなり上位を行く作品だ。
一つだけわかることは、ソローキンはおそらくこの後半を書きたいがために、それまでの細かい情景描写、うんざりするほどの感情や愛情の吐露を描いてきたのだろう、ということ。
壊すことを目的に、緻密に積み上げていったのだろう。
それは文学の限界に挑戦しているのか文学への決別を表しているのか、あるいは徹底的な人間性の否定なのか。
私にはわからないけれど、とにかくなにかもうすごいものを読んだな、という感動は残った。

8位 アクシデンタル・ツーリスト ( アンタイラー)

アクシデンタル・ツーリスト (Hayakawa Novels)

アクシデンタル・ツーリスト (Hayakawa Novels)

 

 再読。アンタイラーの中でも特に好きな作品。
パーパーうるさいミュリエルだけど彼女の闘志と感性にメイコンが惹かれていくように、読んでいる私ももうどうしようもなくミュリエルが愛しくなってくる。
宇宙人が救急車を見たら…の台詞には今回も泣いてしまった。ミュリエル自身が気が付いていない彼女の優しさやひたむきさが台詞やちょっとした描写で伝わってくる。
うまいなぁ、アンタイラー、と思う。
出てくるのは問題のある人ばかり。だけど読んでいるとたまらなく愛しくなってくる。
人生は旅。いい道連れを見つけることが旅の醍醐味なのかもしれない。
アンタイラーの新しい作品も読みたいなぁ…。翻訳してくれないかしら。


9位 誰でもない(ファンジョンウン)

誰でもない (韓国文学のオクリモノ)

誰でもない (韓国文学のオクリモノ)

 

「野蛮なアリスさん」も面白かったけど、こちらの短編集のほうがもっと好き。
狂気に囚われていたり絶望の淵に立ってる登場人物が多かったがそれでも彼らは死ぬまで生きていくのだろう。
そういう力強さがあった。

10位 地下鉄道(コルソンホワイトヘッド

地下鉄道

地下鉄道

 

 奴隷として生まれた少女コーラが一緒に逃げないかと声をかけられ、奴隷制度に反対する白人の助けを得て地下鉄道を使って北へと逃げる。この鉄道が走り抜けるシーンの美しさとこの先には自由があるのではないかという希望だけを頼りに読み進めていったが、抱いた希望はすぐに打ち砕かれていく。
奴隷の処刑を見るために公園に集まる白人の群れの描写は、アメリカだけではなくヘイトスピーチに興じる今の日本にも通じるものがあってとても恐ろしい。
これは決して過去の物語ではないのだと思った。

11位 ハウスキーピング(マリリン・ロビンソン)

ハウスキーピング

ハウスキーピング

 

 家族の喪失が描れているが、人間の生死を超えた視点(宗教?自然?人間の営みの拠り所となる「家」)から描かれているので、壮大な光景を目にした時のような感動がじわじわくる。
しあの世寄りの)だったのかもしれない。
解説を読むとこの小説は様々な文学作品を踏まえて書かれているので、挙げられた作品を読んでからまた読むとまた見えてくるものがあるのかもしれない。

12位 S.モームが薦めた米国短篇

なんてそそられるタイトル。
フォクナー、フィッツジェラルドスタインベックヘミングウェイ、ウォートンと有名どころが名前を連ねているが、どの作品も面白い。全然色あせてない。


13位 図書館島(ソフィア・サマター)

図書館島 (海外文学セレクション)

図書館島 (海外文学セレクション)

 

なんの説明もされずに出てくる、この世界独特の用語(ヴァロン、ジュート、アヴネアニーなど)に戸惑いながらも、この物語の中で様々な語り手によって語られる物語がとても面白くて強烈なので、その中に巻き込まれていき…特にクライマックスで語られる物語は魅力に溢れていて素晴らしかった。
タイトルから想像していた世界とは全く違っていたのだが、作りこまれた異世界、物語の世界に身を委ねてぐにゃぐにゃにされる楽しさを堪能した。

14位 父の遺産(フィリップロス)

父の遺産 (集英社文庫)

父の遺産 (集英社文庫)

 

数パーセントの可能性に賭けて手術を受けることも戦いなら、延命治療をしないことも戦いなのだということを教えられた。
どんな風に死ぬかということはどんな風に生きてきたかということの裏返し。ここに出てくる父親、独断的で頑固でめんどくさい人だけどなんて魅力的なんだろう。
この作品、ノンフィクションだと思って読んでいたのだが、ノンフィクションとはどこにも書かれていない。
でもフィクションなのかノンフィクションなのかということは、たいした問題ではない。
なぜならここには生身の人間が描かれてるから。ここに描かれる親子の会話。なんてことのない近所の人の思い出話や野球、ボクシングの話、先立ってしまった妻の美化された思い出、今一緒にいる女性への愚痴、悪口…こんな会話が救いになっている。
これが文学の力。素晴らしい。


15位 ネバーホーム(レアード・ハント

ネバーホーム

ネバーホーム

 

 「優しい鬼」がとても苦い物語だったので覚悟して読んだのだけれど、辛い…とても辛い物語だった。
戦争で最前線に立っていて人の命を奪うことに鈍感になった報いなのだろうか。
あるいはそうなることがわかっていたから、足が家に向かなかったのだろうか。
語られていなかったことの方に意味がある。苦いけれど素晴らしい作品。


16位 恋のお守り(ウォルター・デ・ラ・メア

恋のお守り (ちくま文庫)

恋のお守り (ちくま文庫)

 

 人間の内側にある恐怖心や不安や熱情と、外的な何か…物だったり建物だったり他人だったり…が合わさっておきる魔法のような出来事。怖いだけではなく懐かしさもあったのは、子どもの頃に自分もこんなことがあったような気がするからなのかもしれない。

17位 ファミリーライフ( アキールシャルマ)

ファミリー・ライフ (新潮クレスト・ブックス)

ファミリー・ライフ (新潮クレスト・ブックス)

 

 作者の自伝的作品ということでかなりしんどい物語だが、書くことで蓋をしていた自分の気持ちを解放することができたというところに、ほんの少しだけれど希望を感じる。
全く違う物語だが、これを読む前に読んでいた「ソロ」とも通じるテーマ。物語ることによる魂の救済を感じた。

18位 異形の愛(キャサリンダン)

異形の愛

異形の愛

 

読みたいけれど読むのがしんどそうで長いこと積んでいた本。
子どもをデザインして家族でカーニバルを営むビネウスキ一家。 彼らにとっては「異形」であること、カーニバルで稼げることが何より重要。
彼らにとって、服を着ていないと見分けがつかない「フツウ」に意味はないのである。
これが究極の愛だとは私は思わないけれど、愛する人に愛されたい、認められたいという彼らの気持ちは痛いほど分かる。
正常と異常がひっくり返った世界。彼らの価値観や暮らしを歪んでいると思いながら読んでいたが、アーティの講話のような語り)に「フツウ」が洗脳されて入信してくる様はとてもリアルで、結局のところフツウも異形も違いはないのだと気付かされる。
グロテスクだけれど美しい。不思議な世界だった。


19位 野蛮なアリスさん(ファン・ジョンウン)

野蛮なアリスさん

野蛮なアリスさん

 

 面白かったと言っていいのか悩むぐらい残酷でしんどい物語。
まさに「目を開けて見る悪夢」だが、ものすごい力があって、ヘタレな私でも目をそらすことができない、ページをめくることをやめられなかった。
インパクトのある表紙と相まって、忘れられない一冊になりそうだ。

20位 殺人者の記憶法(キムヨンハ)

殺人者の記憶法 (新しい韓国の文学)

殺人者の記憶法 (新しい韓国の文学)

 

 アルツハイマーにかかった殺人鬼キム・ビョンス。25年前に殺人はやめたのだが、唯一気にかけるのが、養女として育てた娘ウニ。実はウニは自分が惨殺した夫婦の子どもなのである。
混沌とする記憶の中で自分の言動に確信が持てなくなる。恐ろしいのは記憶がなくなることだけではなく、自分が唯一無二と思っていたそのことすら形を失うこと。
記憶とはなんなんだろう。自分とはなんなんだろう。
読んでる間、自分の思考も迷宮に入っていきそうで怖くなった。
最近韓国の若い作家の作品が次々と翻訳されているが、どれも面白くてわくわくする。


21位 白墨人形(C・J・チューダー)

白墨人形

白墨人形

 

 ホラーなのかミステリーなのかわからなかったので、不可思議なことが起きるのを受け入れていいのか疑うところなのか、ドキドキしながら読んだ。
ミステリーとしての面白さだけではなく、きちんと人間を描いている。そこがとても好き。
文句なく面白かった。

22位 デルフィーヌの友情(デルデルフィーヌ ド・ヴィガン)

デルフィーヌの友情 (フィクションの楽しみ)

デルフィーヌの友情 (フィクションの楽しみ)

 

 こんな内容だと知っていた絶対に読まなかった。眠れない夜に読んでいて心臓がきゅーーーーっとなってますます眠れなくなったし、こういう心理的に追い詰められる内容は苦手だから。
でもとても面白かった。

次に国内編。

1位 雪の階(奥泉光

雪の階 (単行本)

雪の階 (単行本)

 

素晴らしかった!
最初から最後まで好みで夢中になって読んだ。読んでいる間、谷崎を読んでいるときのような楽しさがあった。
内容は決して軽くはないのだがユーモアがあって楽しく、また文章も美しくてそこも読んでいて大変楽しかった。
奥泉作品の中では「鳥類学者のファンタジア」が飛びぬけて好きなんだけど、これも同じぐらい好き。

2位 おらおらでひとりいぐも(若竹千佐子)

おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞

おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞

 

 好き好き!読みづらいかなとおもっていたけど全然そんなことなかった。
東北弁、声に出して読むとストンと意味がわかるのが不思議。この桃子さんの心の声(柔毛突起の言)がたまらなくいい。ユーモラスで温かくて慰められる。
とっちらかる思考、衰える身体、時々襲い掛かる孤独感。しかしそれらを飼いならしながら桃子さんは生きて行く。
芥川賞受賞作品はモヤモヤな読後感の作品が多いけどこれは珍しく爽やかだったなぁ。
楽しかった。


3位 U(皆川博子

U

U

 

 オスマン帝国の強制微募で家族から奴隷として差し出された少年たち。オスマン帝国の章とUボート自沈作戦の章、どう繋がっていくのかと思ったらこれがなんと…。
何もわからないまま馬車に揺られていた少年と、海底で静かに横たわる300年後の二人の姿が浮かび上がる。
皆川博子先生の創造力の果てしなさよ…。
これぞフィクションの醍醐味という楽しさを堪能。


4位 エリザベスの友達(村田喜代子

エリザベスの友達

エリザベスの友達

 

認知症になり娘たちのこともわからなくなってしまった母の介護をする姉妹。母は90代で姉妹は70代。自分たちの行く末を心配しながらも認知症が進む母の心配もする。その虚しさや寂しさを描きながらも、絶望だけではない、安らかさも感じさせる。
認知症も悪いことばかりではないのかもしれない。施設の職員さんたちの穏やかな対応に救われる。
諦めの境地が優しくてユーモラスなところがとても良かった。

5位 ベルリンは晴れているか(深緑野分)

ベルリンは晴れているか (単行本)

ベルリンは晴れているか (単行本)

 

素晴らしい読みごたえ。
ユダヤ人がみな「悪」なわけないのに、国をあげてそう言いきってそれを支持する国民がかなりの数いること。またそれを支持したことなど一度もないのに「国民」ということで責めを追うこと。
「国」イコール「個人」ではないけれど「個人」は「国」に属していてそれに縛られ守られている。
国がどんどん望まない方向に進んでいき、学校でもそういう教育がなされ、隣人たちがお互いを監視しあい密告され殺されていく。
今の日本の状況も考えずにはいられなくて読んでいてしんどかったけれど、読んで良かったと思う。主人公をはじめ、登場人物が魅力的で生き生きとしてることが救いだった。
ミステリーとしても面白さもあった。

6位 1ミリの後悔もない、はずがない(一木けい) 

1ミリの後悔もない、はずがない

1ミリの後悔もない、はずがない

 

 恋愛は一時の感情で、恋愛関係が永続的に続くことなどないし、いつかは終わりが来て思い出に変わっていくけど、それでも誰かに大切に思ってもらえた経験は自分にとって一生の宝物だ。
由井が桐原に会えてよかった。由井の母に安伊子さんがいてよかった。そして由井が家庭を持ててよかった。
これがデビュー作とは。これからも注目したい作家さん。


7位 卍(谷崎潤一郎

卍(まんじ) (新潮文庫)

卍(まんじ) (新潮文庫)

 

 げんなりするくらいねっとりとした世界。登場人物誰一人好きになれないし、話を聞いて書いている「先生」(谷崎自身)にも嫌悪感をかんじるけど、それなのに面白い。
醜悪だけど魅力的。
細雪」を読んで以来、大好きになった谷崎。まだ読んだことのない作品がたくさんあるのがうれしい。
大切に読んでいきたい。

8位 地球にちりばめられて(多和田葉子

地球にちりばめられて

地球にちりばめられて

 

 留学してる間に祖国がなくなってしまったHirukoの元にたまたま集まってきた人たち。国も違えば言語も違う。グローバル化、右傾化する世界の中で迷子になる人たち。「本当の日本人」なんて言ってえばってる私たちだっていつ移民になるかもしれないのだ。
さまざまな背景を持ったさまざなま国の人たちが言語で結び付いてゆく。
Hirukoの話すパンスカという不思議な言語には頑なな心を弛める力を感じるし、文学の力、希望も感じさせる。
言語にこだわる多和田さんらしい作品だが、最近の作品にしたら珍しく読みやすかった。

9位 父の詫び状(向田邦子

新装版 父の詫び状 (文春文庫)

新装版 父の詫び状 (文春文庫)

 

 文章が良くてユーモアに溢れていてその時代の風景や空気を見事に表現していて、ほんとに素晴らしい。
肩肘張ってないけど読んでいて背筋がぴんと伸びてくる感じ。すばらしい。

10位 六月の雪(乃南アサ)

六月の雪

六月の雪

 

 日本が台湾を統治していた時代のことや台湾と日本の関係、国民性の違いなどとても興味深かった。
台湾には親日家が多いと聞くけど、それって日本人が自分たちに都合のいい話だけ拾って伝えているのでは?と疑問に感じていたのだが、「そういうことだったのか」と少し納得できた。
親や家族の面倒をどこまで見るのかというのは読んでいて痛いテーマであったけど、私は未来の祖母の言葉が良かった。たとえ強がりであったとしても、一度きりの人生、未来は未来の人生を生きてほしいという祖母の言葉は胸に響いた。

11位 名もなき王国(倉数茂)

名もなき王国

名もなき王国

 

 フィクションにとりつかれ書くことにとりつかれた人たち。
現実と虚構の境目が曖昧になり、自分自身が曖昧になる。
それは現実が自分の手に余るほど辛いから。こんな現実は受け入れられないから。それに引き換え空想の世界の自由で魅力的なこと。現実逃避と笑えば笑え。想像力があるから私たちは生きていけるのだ。
痛ましい物語だったけれど不思議と読後は爽やかだった。


12位 滅びの国(恒川光太郎)

滅びの園 (幽BOOKS)

滅びの園 (幽BOOKS)

 

最初は鈴上に共感して読んでいたが、ディストピアと化してしまった地球にいて日常生活を破壊されながら必死に戦う聖子たちの章を読むと印象ががらりと変わる。
死を覚悟して異世界に旅立つ若者が放つ「でも死ぬまでは生きてるんだから」という言葉がとても印象的。
SFチックな話なのに、こういうことが実際に起きるかもしれないなぁとものすごいリアルに感じた。


13位 送り火(高橋弘希)

送り火

送り火

 

 話の内容が好きじゃなくても、小説として好きだなぁ素晴らしいなぁと思うことがある。この作品はまさにそう。
こんなに陰鬱で陰湿な話はまったくもって好みではないし、読み始めてから読み終わるまで「私はなんでこれを読んでいるんだろう」と辛くて仕方なかった。
最後まで読んで「そんな…」と呆然となったけれど、しかしなにか強烈に心に残るものがある。読んでよかったと思ってる。


14位 庭(小山田浩子

庭

 

 マンションの上の階に住んでいると、土があって池があって川があって虫がいて…という暮らしを忘れてしまう。
消毒された暮らしに慣れていると、家の中に虫が入ってきたり、自分が「生き物」であることを急に思い出させられたりすると、激しく動揺してしまう。
ここに収められた短編はみな、自分のそこらへんの「弱い」部分を刺激されるようで、読んでいてぞわぞわ…。
でもそれが不快ではなく楽しい。面白かった。

15位 その話は今日はやめておきましょう (井上荒野

その話は今日はやめておきましょう
 

 年を取って徐々に衰えていくことへの不安。若い人になめられているのでは、みっともないと思われているのではという不安。それでも人を信じたい、自分の直感を信じたいという気持ち。ゆり子の気持ちが痛いほどわかる。
またそんな妻が自分には見えない膜を張ってるように感じる昌平の気持ちもリアルだ。終始ざわざわした気持ちで読んでいたが、後半は爽快だった。よかった。


16位 世界は終わりそうにない(角田光代

世界は終わりそうにない (中公文庫)

世界は終わりそうにない (中公文庫)

 

 角田さんのエッセイは大好きだけど、今回は特に心にしみた 。最終章の恋愛についてのエッセイは宝物にしたような言葉がいっぱい。

「誰も私ほど私のことを知らないし、私ほどには私のために動かない。」
なんて正しくて深い言葉なんだろう。
書評についてのエッセイもよかった。
角田さんの書評を読むと間違いなくその本を読みたくなるのだが、自分が書評を頼まれた時は「読んでみたくなること」を大事に思っている、ということがわかって、なるほど…と思った。

17位 ディス・イズ・ザ・デイ(津村記久子)

ディス・イズ・ザ・デイ

ディス・イズ・ザ・デイ

 

 Jリーグ2部サポーター小説。架空のチームのありそでなさそなチーム名とエンブレムが秀逸で楽しい。
それぞれの地方でそのチームの最終節のゲームに向かう人たち。
サッカーやチームに対する思いもそれぞれだし、人となりや抱えてる問題や心情もさまざま。
会場にいる見知らぬ人たちの会話の描写もとてもリアルで、ほんのり優しくておかしくて癒された。
楽しかった。


18位 きょうのできごと柴崎友香

きょうのできごと: 増補新版 (河出文庫)
 

 友人の引っ越し祝いに集まって飲んで帰る。京都の大学生のなんてことのない一日を描いているのだが、会話と描写のリズムがカメラで追っているようで、なんともいえず楽しい。
「つづきのできごと」の現実と小説が交差する感じも楽しかった。


19位 少女たちは夜歩く(宇佐美まこと)

少女たちは夜歩く

少女たちは夜歩く

 

 面白かった。とてもよくできた連作短篇。構成の妙。
人間はほんの小さなことで我を失い狂気にとらわれてしまう。そして見えないはずのものが見えるようになってしまうのも実は簡単なとこなのかもしれない。
怖いけれど怖いだけではない切実さがあって好きだった。