りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

さん喬師弟八人会昼の部

12/24(月)、日経ホールで行われた「さん喬師弟八人会昼の部」に行ってきた。

・一猿「商売根問」
・喬志郎「ドクトル」
・左龍「佃祭」
喬太郎「偽甚五郎」
~仲入り~
・さん喬「寝床」
・さん助「景清」


一猿さん「商売根問」
ふつうにやってちゃんと面白い。いいなぁ一猿さん。


喬志郎師匠「ドクトル」
さすがにもう少しどうにかしたほうがいいのでは…。面白い面白くないは好き好きだからしょうがないけど、いたたまれないっていうのは勘弁してほしい。
これは喬志郎師匠の作った新作なの?あまりにも内容がないよう…。面白いのが手をぐるんぐるん回すとマイクがその音を拾ってブンブン言うところだけっていったい…。
助手の名前を「稲葉くん」にして笑いを取ってたけどどうかと思うぜ。

左龍師匠「佃祭」
ああ、ほっとする…。左龍師匠ありがとう…。不安な気持ちを払拭してくれて感謝。
季節外れな気がしないでもないけど、とても気持ちのいい「佃祭」で、送ってくれて去って行く船頭の後ろ姿が目に浮かぶようだった。
与太郎の悔みには涙が出た。よかった。


さん喬師匠「寝床」
さん喬師匠の「寝床」は何回も見ているけど、見るたびに少しずつ変わっていて、ああ、得意ネタでもいつも同じじゃないんだな、と思う。
今回は声試しがいつも以上の激しさで笑い成分多め。
最初は優しくていろんな人のことを思いやっていた大旦那がどんどん不機嫌になっていくの…まるで師匠自身の姿を見てるようで、笑った笑った。


さん助師匠「景清」
昼の部のトリがさん助師匠ということを会場に着いて知ってガッツポーズ。うれしい~。
「鼠穴」かなと思っていたら意外にも「景清」だった。
さん助師匠の「景清」は何回か聞いているけど、ちょっと今回はテンポが悪かった?少しもっさりした印象。
それでも定次郎の短気でひねくれてるところは出ていてチャーミングだったし、なにより観音様が出てくるところがたまらなくいい。鳴り物が入って「え?きょうは鳴り物入りかい?」っていうのも好き。
観音様に「お前は悪行が過ぎるから目は開かない」ときっぱり言われて「あーー開かないって観音様に請け負われちゃったよ…」とがっかりする定次郎。
「が、お前のおふくろに免じて死ぬまでの間、景清の目を貸してやる」。
「ええ?景清って昔の人でしょ?相当古いんじゃないの?かちかちじゃないの?」
「そう思って夕べから水に漬けてある」のばかばかしさ。
みんながやってる「景清」だとなんで「景清」なのかわからないけど、最初と最後でちゃんとタイトルの意味がわかるし、サゲもばかばかしくて落語らしくて好き。

さん助師匠の落語、好きだなぁとしみじみ思った。
おそらくうまい下手で言ったら決してうまくはないんだけど、なんかわくわくするような楽しさと奥行きがあってそこがたまらなく好き。
さん助師匠がこだわるところとか面白がるところが好きなのかな。いや時々は「そこは普通にやった方が面白いのに」と思うこともあるけど、やりたい落語があるところに惹かれる。
さん喬師匠に「お前はうまくなるな」と言われたというさん助師匠だけど、うまくなったらきっともっと説得力が増すと思うから、もう少しがんばってうまくなったほうがいいと思うなー(←大好きだと言いながら結局最終的に失礼な感想になってしまうのはなぜだろう?)。

一度だけ

 

一度だけ

一度だけ

 

 ★★★

一年に一度でいい。熱く、熱い、夜が欲しい。

30代姉妹で二人暮らしを続ける派遣社員ひな子と介護ヘルパー弥生、彼女らの母親・淑江とその妹・清子、二組の姉妹の物語。夫が遺した財産で自由きままに暮らす清子はひな子を誘い、往復ビジネスクラスの一人180万円かかるブラジル旅行に出かけた。日本に残された弥生はひな子が不在の間、「毎日新しいことをするルール」を自分に課すのだが……。一年に一度、ステージ上の誰もが光り輝くリオカーニバルの煌めく美しさと、一見平凡に見える日常が時折放つ輝きの強さを丁寧に描く九年ぶり、二作目の長編小説。

 

益田ミリさんの漫画が好きだ。日常の中でいろんなことを感じてその中には黒い気持ちもあるのだけれどそれを小さなつぶやきや表情の変化、ニュアンスで表現している。

それが小説となると全く別物で、主人公二人のずるさだったり弱さがストレートに表現されているので、読んでいてちょっと薄っぺらく感じてしまった。
清子おばさんはチャーミングだったけど、主人公の姉妹や彼女たちの母親の魅力が伝わってこない。
でも漫画だったらきっとこの母親も…ほんの少ししか出てこない父親の魅力も表現されていたような気がする。 

 

第370回圓橘の会

12/22(土)、深川東京モダン館で行われた「第370回圓橘の会」に行ってきた。

・まん坊「時そば
・圓橘「二番煎じ」
~仲入り~
・圓橘 太宰 治 原作『新釈諸国噺』 「赤い太鼓」大岡政談風に

まん坊さん「時そば
おおお。「時そば」って意外と難しい噺なんだな、とまん坊さんの高座を見て思った。
お世辞のきかせかた、そばの食べ方、会話のテンポ。
後から出てきた圓橘師匠が「あれに教えた時、最初のそばは食べて温かく、二番目のそばは食べても温まらない感じにと教えたんですが、できてなかったですね」「ニツ目になることがもう決まっているのでこういう噺もできるようにならなきゃいけない。勉強です」と。なるほど。


圓橘師匠「二番煎じ」
集まったのがいかにも大店の大旦那という感じ。威厳があって品がある。
それだけに寒さに身を縮めて拍子木を懐の中で鳴らしたり提灯を着物の中に入れているギャップが楽しい。
また大宮の旦那が歌うように言われると「私の芸をどこで誰が聞いてるかわからない」と言いながら気取って三味線の口真似をしたり、黒川の旦那の謡いの調子がものすごく大仰だったりするのがとてもおかしい。
また若いころは吉原にいて火の回りをやっていたという辰さんがいかにも粋で素敵。
番小屋に帰って来てから黒川の旦那が酒を出すと月番が怒り出すの、威厳があるだけにとても怖くて、それだけに「土瓶から出る煎じ薬ならいい」と言う茶目っ気が嬉しくなる。
また月番が黒川の旦那に「口火を切ってくれたから出しやすくなった」と感謝するのも素敵だ。
肉を食べる段になって「私、歯が悪いものですから」と言ってはもぐもぐもぐもぐやって「あなた、歯が悪くないですよ!」と突っ込むのもおかしい。
侍もとてもコワモテなのでそれが「いい煎じ薬だ」「明日も持ってきなさい」と言うおかしさ。
「二番煎じ」はこうでなきゃ!という「二番煎じ」だった。かっこいい!!


圓橘師匠 太宰 治 原作『新釈諸国噺』 「赤い太鼓」大岡政談風に
これこれ、これをたのしみにしてきたのだ。
井原西鶴の原作を太宰治がパロディにしたもの、らしい。長い話なのでこれをいかに刈り込むかが課題、とおっしゃいながら。

昔、都の西陣に徳兵衛という染物屋がいた。女房以外の女を知らず趣味も将棋を指すぐらいのもの、酒も二合以上飲むことはなく、染物屋にしては珍しく期日を守る実直な男。
それがなぜか貧乏神にとりつかれたようにいつも金に困っていて、ある年の暮れにもうどうにもままならなくなったので夜逃げをするしかなくなってしまった。
町内の者は徳兵衛の困窮ぶりに気づき、いったいいくら借金があるのだと聞けば八十両と言う。それならみんなで10両ずつ出し合って助けてやろうということになり、大みそかの夜に男が10名徳兵衛の家にやってきて、百両を手渡す。
また男たちは酒や肴も持ち寄ってきており、感涙にむせぶ徳兵衛とその妻に、一緒に宴会をして楽しい年越しにしようと言う。
女房はいただいた百両をありがたく神棚にあげ、男たちは大宴会。女房は戸締りが大事と思い、家じゅうの戸の鍵を締めて回る。
あくる日になって男たちは帰って行くが、神棚にあげたはずの金がなくなっている。戸締りもしたし泥棒が入った形跡もなく、これはあの男たちがやったのではないかと騒ぐ女房。
徳兵衛はあんなによくしてくれた男たちのことを疑うのか?と女房をたしなめ、なかったことにしようとするのだが、この噂が大岡様の耳に入り、徳兵衛と女房、それからそこにいた男と女房、もし女房がなければ最も近親の女を連れて出頭せよとのお達し。
大岡様は集まった男たちに向かい「それだけの金を持って行ったならなぜそこで帰らなかったのだ。宴会をするのがいけない」と小言。それから、くじで10名の男に順番を付けて、その順に毎日一組ずつ赤い太鼓を担いで村を決まった順番に従ってぐるりと回って戻ってくるように申し遣わす。
物見高い江戸っ子が見物にやってきてヤンヤとはやし立てる中、太鼓を担ぐ男とその女房(女房がないものは姉妹や娘)。村はずれまでやってくるとさすがに見物人もいなくなりそのあたりに来ると女房の小言が始まる。
「お前がかっこつけて金をめぐんだりするからこんなことになるのだ。うちだって金に余裕があるわけじゃないのに。」
「あなたのせいでこんな見世物みたいになって恥ずかしい。それをあなたは恥ずかしいとも思わず得意になって」
「いつもはケチなお前がこんな風に金を出したのは徳兵衛の女房に色目を使いたかったからだろう。そのせいであたしまでもこんな目にあって」

10名全員が担いで戻ってくると上機嫌の大岡様。
「この中で一組だけ女房に”まぁそう怒るな。この騒ぎがおさまったらかくしておいた百両をお前に渡すから”と言った者がいる。その者は命は助けてやるから盗んだ百両を徳兵衛の家の前に置くように。」そう言い渡してお裁きは終わった。

…うわーーー。面白い!!話自体がとても面白いし、女房が旦那をなじる部分がめちゃくちゃおかしい!!
楽しい~!こういう噺を聞かせてくれるから圓橘師匠ってほんとにたまらない。

噺が終わって頭を下げたあとに、圓橘師匠「お裁きものはもたついちゃいけないのに…今日はお見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません」。
え??と驚いていると「実は…お聞き及びのお客様もいらっしゃるとは思いますが、一番弟子の小圓朝が先週亡くなりました」と。

インフルエンザから肺炎をこじらせて入院していて…それでも一時は容体も安定してきたのでお見舞いに行って「4月にはお前の会をここでやるから。頑張るんだぞ」と声をかけたら「ありがとうございます。頑張ります」とはっきりした声で返事をしたのに、そのあと悪化して亡くなってしまった。
亡くなったという知らせを聞いた時は全身の力が抜けてへなへな…と崩れ落ちるようになって…今もその状態が続いている。
それでも通夜には仲間が大勢詰めかけてくれて、弟弟子の萬橘は挨拶しながら今まで見たことがないほどの号泣をして…噺家には友情というものは育たないものだと思っていたけれど、小圓朝を慕う噺家が大勢いること、弟弟子にもこんなにも慕われていたということを目の当たりにして、そのことは嬉しかった。
きっと圓橘一門はこれからいい方向に行くよな。
今まで小圓朝を見守ってくださってありがとうございました。

…私は小圓朝師匠は見たことがなかったのだが、訃報を聞いて、ええ?49歳の若さで?圓橘師匠、辛いだろうなぁと思った。
でもまくらでも何もおっしゃらなかったし、そのことには触れないんだなと思っていたので、まさかこんな風に挨拶をされるとは思ってなくて、もう涙涙だった。
弟子に先に死なれてしまうってきっと親が子供に先に死なれたぐらいのショックがあると思う。
師匠が上の方を見上げて「これからいい方向にいくよな」と語りかけたのが悲しくて…でも優しさがにじみ出ていて泣けた…。

 

柳家小三治一門会

12/21(金)、関内ホールで行われた「柳家小三治一門会」に行ってきた。


・一琴「道灌」
・〆治「佐々木政談」
~仲入り~
小雪 太神楽
小三治「錦の袈裟」

小三治師匠「錦の袈裟」
出囃子が鳴るのが早過ぎたのか、最近小三治師匠の登場に時間がかかるせいか、座布団に座る前に出囃子が鳴りやんでしまって苦笑い。

開口一番「今日はなんでいらしたんですか」。
「なんでそんなことを言うかっていうとね、今日はだめです」と小三治師匠。

この年になるとあちこち悪くなって…人からそういう話を聞くと、「ああ、そうだな」「わかるなぁ」と思ったり励まされたりするんですけど、自分が話すとなると…愚痴になっちゃうからね。こういうことを愚痴じゃなく面白く話せるようになりたいけどね。この年になっちゃったからもうだめなんでしょう。
そう言いながら話しますけど。昨日手術してきて…それに4時間かかちゃったもんだから…。

…ええええ?手術??まさかまた頸椎ってことはないよね?と思っていたら、なんとこれがインプラント
インプラント知ってますか?」と言って説明を始めて…「ああ、でもこんなふうに丁寧に説明してたらまた長くなっちゃう」と言いつつ…でもとてもわかりやすい説明。
「これでもわからなかったら…もう諦めて下さい」。

私はね、麻酔がなかなかかからないんです。体質なんですかね。あるいは、そんなもんにだまされてたまるか!っていう気持ちが強いんですかね。きっとそうなんでしょう。
今回のインプラント、初めてじゃなかったんですけど、初めてした時にね、結構偉い教授がやってくれたんですけど、何本打っても全然麻酔が効かない。
5,6本打ちましたかね。それでどうするのかと思ったらね。
「もう麻酔はやめましょう」。
えええ?麻酔なしでやるのかよ?って思ったんですけど、江戸っ子ですから。やせ我慢ですよ。「ああ、やってくんねぇ!!」って。
で、メスを出してきたんですけど、これがね…ふつうメスっていったらナイフみたいな形状のものを思うでしょ?それが違うんですよ。鉞みたいなものを出してきやがってね。それで麻酔が効いてない状態であごの骨のところまで切るんですから。
痛いの痛くないのってもう…「ああーーーだめーーーいたいーーー」って…濱っ子なら言うところですよ。

いやでももうこれは本当に痛かった。もう二度と麻酔なしで鉞はいやだ!って思いましたよ。

それで昨日ね。昨日もやっぱり麻酔が効かないんですよ。でももう前回のことがあるからあれは嫌だ!って思ってたらですね。ようやく6本目ぐらいでしたかね、効いてきました。効いたんですよ、麻酔が!
結局そんなこんなで4時間かかったんです、手術。
でも麻酔が効いたって言ってもね、あごの骨のところまで穴開けるんですから。痛いですよ。

そして昨日あんなに効かなかった麻酔が今頃になって効いてきた…。

…ぶわはははは。
もうまくらが止まらない小三治師匠。

「今日は調子がいいな。あ、調子がいいっていうのはね。こうやって話してると、ああれもあったこれもあったってどんどん沸いてくる。話したいことが。でもこれやってるとどんどん長くなる。あ、今日やりますよ、落語みたいなもんもね。それを聞きに来たんでしょ。やります、落語みたいなものもね。」

自分で言いながら「あんまりだな」と言ってぷっと吹きだすのがおかしくて、言いたい放題言ってる師匠がかわいくてたまらない。

それからクジラの話。
戦後、食べるものがない時代にクジラは貴重なタンパク源だった。
買い食いや外食を決して許してくれなかった母親の目を盗んで父親が買ってくれたクジラベーコン。新聞紙に包んだそれを父がポケットに入れて、二人でそこに手を突っ込んで歩きながら食べた思い出。
かわいそうだっていう気持ちもわかる。でもそれを言うなら牛だってかわいそうだよ。
反対する人を批判する気はないけど…と言いながら…師匠の言いたいことわかる!と思った。

あと最近はあまりサインを書かなくなりましたけど、私が最近書くのは「如遊」。これ何て読むんですかと聞かれますが「あそぶがごとし」です。
一生懸命修業するのだって、いろんなことから逃げて生きるのだって、最後は「遊ぶが如し」ですよ。「遊」っていうのは悟りの先に行きつく境地。

…実は私、小三治師匠のサイン持っているのだ。
ご本人から直接いただいたわけじゃなく、とある落語会の新春プレゼントに毎回応募していて何年目かに当選!これが届いた時は嬉しかった~。今も私の宝物。
これどういう意味なんだろうと思って調べたり、きっとこういう気持ちで書かれたんだろうなと想像していたんだけど、師匠から直接その話が聞けてとてもうれしかった…。

そんな長いまくらから「錦の袈裟」。
小三治師匠の「錦の袈裟」、久しぶり!
与太郎がとってもかわいい。そして町内の連中が錦のふんどしが1本足りないってなって「与太郎はいいよ」と言うのを「だめだよ、与太郎だって町内の仲間なんだから」ってさらりと言いかえすところ、いいなぁ。

恐妻家の与太郎が家に着いて「おじゃましまーす」と言うのもおかしいけど、おかみさんに「吉原に行ってもいい?」とお伺いを立てるのも、おかみさんが「ばかだねこの人は。吉原に行っていい?っておかみさんに断って行く人がありますか!」とあきれるのもおかしい。
袈裟の輪を「高貴な方のしるし」と思い込んで訳知り顔に「あの方がお殿様だよ」と他の花魁に説明する年上の花魁にも大笑い。

楽しかった!また聞きたいな、小三治師匠の「錦の袈裟」。

穴あきエフの初恋祭り

 

穴あきエフの初恋祭り

穴あきエフの初恋祭り

 

 ★★★

重ねたはずの手紙のやりとり、十年ぶりに再訪したはずの日本、そして私とあなた。輪郭がゆらぐ時代のコミュニケーション、その空隙を撃つ七篇の物語。 

 物語ありきで展開していくのではなく、言葉がすべって思わぬ方向に転がっていくようなイメージ。前半に収められた作品は好みだったけど、後半はちょっと置いていかれちゃった感。
言葉を大切にしながら、音で聞いて自由に想像してるような。日本人だけど日本人じゃないような。不思議な世界。

私には少し難解だった。多和田さんは短編より長編の方が好きだな。

ベルリンは晴れているか

 

ベルリンは晴れているか (単行本)

ベルリンは晴れているか (単行本)

 

 ★★★★★

総統の自死戦勝国による侵略、敗戦。何もかもが傷ついた街で少女と泥棒は何を見るのか。1945年7月。ナチス・ドイツが戦争に敗れ米ソ英仏の4カ国統治下におかれたベルリン。ソ連と西側諸国が対立しつつある状況下で、ドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が、ソ連領域で米国製の歯磨き粉に含まれた毒により不審な死を遂げる。米国の兵員食堂で働くアウグステは疑いの目を向けられつつ、彼の甥に訃報を伝えるべく旅出つ。しかしなぜか陽気な泥棒を道連れにする羽目になり―ふたりはそれぞれの思惑を胸に、荒廃した街を歩きはじめる。最注目作家が放つ圧倒的スケールの歴史ミステリ。 

素晴らしい読みごたえ。

ユダヤ人がみな「悪」なわけないのに、国をあげてそう言いきってそれを支持する国民がかなりの数いること。またそれを支持したことなど一度もないのに「国民」ということで責めを追うこと。
「国」イコール「個人」ではないけれど「個人」は「国」に属していてそれに縛られ守られている。
国がどんどん望まない方向に進んでいき、学校でもそういう教育がなされ、隣人たちがお互いを監視しあい密告され殺されていく。

主人公アウグステの頑なな態度や行動が最初読んでいて「謎」だったけれど、最後まで読んでそういうことだったのかと納得した。
そして彼女がまだ少女であることに胸が痛む。
彼女の相棒となるカフカの過去と現在に苦い気持ちになったけれど、それでも彼とて生きるためにこうするしかなかったのだとも思え、憎むことはできない。

今の日本の状況も考えずにはいられなくて読んでいてしんどかったけれど、読んで良かったと思う。主人公をはじめ、登場人物が魅力的で生き生きとしてることが救いだった。
ミステリーとしても面白さもあった。

大江戸悪人物語finale

12/17(月)、 日本橋社会教育会館で行われた「大江戸悪人物語finale」に行ってきた。

・松麻呂「井伊直人
・松之丞「慶安太平記 正雪の最期」
~仲入り~
・龍玉「真景累ヶ淵 聖天山」


松麻呂さん「井伊直人
おお、初めて見られたぞ、松鯉先生のところの新弟子くん。
イキオイはあるけど、なんか講談の真似をしているような語り口。度胸がよさそうだから、これから徐々に良くなっていくんだろうな。


松之丞さん「慶安太平記 正雪の最期」
毎回あらすじ部分が長すぎる。初めて来た人のためにってことなんだろうけど。毎回正雪がどんなに天才だったかというのを繰り返し語られて、それでこんな結末かよ!と思ってしまう私はおそらくこの会に向かない(いまさら…)。
さんざん非道なことをしておいて、最後に「いい夢だった」ときれいに終わられても…うーん。


龍玉師匠「真景累ヶ淵 聖天山」
前回があまりに陰惨でどよ~んと暗~くなって帰ったんだけど、最後まで聞くと不思議とカタルシスがあった。
結局は「因縁」の一言に尽きるのか。
それにしても新吉という人はもともと小心者のくせにものすごく残酷になったりでもまた小心者に戻ったり…女に翻弄されているだけのようでいて、でも結局女のことなどどうでもいいようにも見えて、そういう意味では正雪よりも人間らしく感じた。
根っからの悪人ではないけれど、感情に流されて酷いこともしてしまう、という…。
龍玉師匠は淡々としているんだけど凄みがあって説得力があったなぁ。

ああでもこういう話は好きじゃないわ…つくづく…。と思ってしまう私はこの会に通う資格はないのだろう。
しばらく陰惨系はお休みしたい。

第185回朝日名人会

12/15(土)、有楽町朝日ホールで行われた「第185回朝日名人会」に行ってきた。

・駒六「真田小僧
・わん丈「お見立て」
・扇辰「雪とん」
正蔵「小間物屋政談」
~仲入り~
・小里ん「提灯屋」
小三治うどん屋


小里ん師匠「提灯屋」
なんともいえず楽しい。字の読めない連中のわいわいがやがや。ただで提灯をもらってこようという「判じ紋」のばかばかしさ。
どんどん警戒心を高める提灯屋の恨みのこもった睨みがすごくおかしい。
楽しかった~。


小三治師匠「うどん屋
長い長~いまくら。
北海道のテレビで密着番組の取材があったらしくその話をしながら、昔バイクで北海道を旅行しながらあちこちで落語会をした時の話、手術の話…話しがあちこち飛びながらぐるぐる回り道しながら…「調子出て来たぞ」。
「あ、調子が出てきたっていうのはね、こうやって話をしながら、あ、あれもあった、これもあった、ってどんどん浮かんでくるのね」。

…ぶわはははは。
まくらが弾む時の小三治師匠は調子がいい証拠なんだよね(笑)。だからファンからすると、もっともっと話して~時間なんかどうでもいいから!ってなるんだけど、こういう会でこれだけ時間を延ばしてもらえるのは珍しい。なんだいい会じゃないか「朝日名人会」(笑)。

で、北海道の話から稚内はもう北海道の端っこだ、というような話しをして、「私の死神では」と言った瞬間にわかった!稚内終点先生!!
稚内終点先生って小三治師匠が考えた名前って初めて聞いた!そうだったんだー。大好きなフレーズ。いいよね、稚内終点先生。
そこまで話してから「あ、そうか。この会はネタ出ししてるんだ。…だから俺は嫌いなんだ、ネタ出しって」。

…ぶわははは。この流れで「死神」やってもいいな、っていうのが頭をよぎったのかな、もしかして。

そしてネタ出ししている「うどん屋」を頸椎を悪くしてからできなくなってしまった、という話に。
真打の披露目で最後の手締めを頼まれた時も音が鳴らなくて…って…きっと小八師匠のお披露目の時のことだな、それって。ああ…そうだったのか…。

で、何年もやってないから忘れちゃったんだよ。それで楽屋で「どういう噺だったっけ」って若手に聞いてたから、出囃子が鳴ってもなかなか出て来れなかったんだよ、と。
「こんなことを落語に入る前に話すのはかっこ悪いけど。まぁやってみます。でもこれからもっともっとよくなるから。まだまだうまくなるつもりだから。」
その前に一度拍手が起きたんだけど、そう言った後になんと「拍手してくれ」の意思表示。うわーーー小三治師匠がこんなことするの初めて見た。なんか胸がいっぱいだ。なんだろう、意欲もすごいし、正直な自分をさらけ出す勇気っていうか腹の括り方っていうか。
ハードル上げてやりづらくないのかしら、という心配をよそに「うどん屋」。

久しぶりだから探り探り、という感じはあったけれど、酔っぱらいのめんどくささと温かさ。
かわいがっていたみぃ坊の婚礼帰りの嬉しさと寂しさ。
じんわりと伝わってきて、いいなぁ…。
風邪っぴきのうどんを食べる様子のおいしそうなこと。
予定より1時間ほどオーバー。楽しかった!

第24回林家しん平親子会

12/14(金)、東田端ふれあい館で行われた「第24回林家しん平親子会」に行ってきた。

・きなこ「孝行糖」
・しん平「時そば
・あんこ「佐々木政談」
~仲入り~
・しん平「芝浜」


しん平師匠「時そば
ラーメンについてのまくらが死ぬほどおかしかった。
昔はラーメンって今みたいな食べ物じゃなかったよね。「シナソバ」って言って黄色い縮れた麺に鶏ガラに醤油味のスープでペラペラのチャーシューとナルトが入ってて…あれを夜中に屋台で食べてると「俺、こんな時間にこんな悪いもん食ってる」っていう背徳感があって…あれが楽しかったんだよね。
それが今はラーメン作るのに魂こめちゃってるもんね。魂こめて作るようなもんじゃないでしょ。ラーメンなんて。もはやあれは違う食べ物だよね。
とんこつラーメンも最初に出てきた頃は獣臭くてね。今は製法も洗練されてきたけどね。あれ、豚の骨髄を溶かしてるんだよね。骨髄を溶かすって…豚の側から見たらとんでもねぇ食いものだよ。俺が豚だったら震え上がるよね。がはははは!!な?オレ詳しいだろ?痛風になってラーメン食べられなくなったけど、テレビのラーメン特集とかめちゃくちゃ見てるから、詳しいのよ。

今はなんでも食べ物がやわらかくなっちゃったね。それもこれもなめらかプリンのせいだね。みんなあのなめらかプリンがいけないね。
昔のプリンはさ、固かったよね。だからプリン型からなかなか出てこなかったよね。こうひっくり返してポン!なんて叩いてもさ、出てこないのよ。固くて。
今のプリンなんかそんなことしたらぐずぐずぐず~ってなっちゃうからね。やわらかすぎて。だめだよ、あれじゃ。すっごくうまいけどね。なんだ好きなんじゃねぇかなめらかプリンも。がははは!!!
あとプッチンプリン。あれはプリンじゃないね。別の食べ物。それでなんか入ってるねイケナイ物が。だから1つ食べるとまた食べたくなっちゃう。白い粉とか入れてんじゃないの?…関係者がもしいたら…怒んないでね!
せんべいもさ、昔は噛みきれないほど固いせんべいだったよね。5分くちゃくちゃやっててもまだ噛みきれなくてね。あれをかじり切った時の快感ね。「俺の歯、まだまだいけるぜ!」っていう。
今の若い子なんかもう固いもんを食ってないからあんなせんべいは噛みきれないね。

…あれこれ言った後に豪快に笑うのがもうおかしくておかしくて。大好き。
そんなまくらから「時そば」。
2番目の男のとほほ加減がすごくばかばかしくておかしい。笑った笑った。


しん平師匠「芝浜」
こちらの会で前に一度やったことがあったらしいんだけど、リクエストが多いので…ということで「芝浜」。しかもその時とはやり方を変えて…ということらしい。

最初にくまさんが酒でどんどんぐずぐずになってお客さんからも呆れられて出入り禁止になって仕事に行きたがらないところがとてもリアル。
女房に起こされて嫌々でかけるんだけどそれも「ああーやだ…ほんとに嫌だ、魚屋なんて商売」と愚痴たらたら。
それでも女房が起こす時間を間違えたせいで日の出を目にすると「ああ、ありがてぇ…。こんなものを見られるなんて…。ありがてぇなぁ」。
なんかこのくまさんの人物像がとても魅力的。

財布を拾って大はしゃぎするくまさんに調子を合わせるおかみさん。
「夢」と言い張ってくまさんをだますところでは全く迷いを見せないところが気持ちいい。
最初は「そんなわけねぇだろ」と言っていたくまさんだけど、財布を拾ったのが夢で友だちを呼んで散在したのが現実と分かると、おかみさんに頭を下げて「今回の事はなんとかしてくれ。そのかわり、これからは酒をやめて本気で働くから」。
あんなにぐずぐず言ってたのに、覚悟を決めた様子が気持ちいい。

3年経って、大みそかに借金が一つもないと聞いて、心から驚いておかみさんに礼を言うくまさん。
財布のことが夢ではなかったと聞いて「あの時俺がどんなに惨めな気持ちになったか」と恨み言を言いかけるのだけれど、おかみさんから理由を聞いて、「お前のおかげだ」「お前はすげぇよ。ほんとにかかあ大明神だよ」と頭を下げるのが、さっぱりしたくまさんの性格が表れていてとっても素敵だ。

…じめじめしたところが全然ない、気持ちのいい「芝浜」だったー。よかったーー。

 

池袋演芸場12月中席昼の部

12/14(金)、池袋演芸場12月中席昼の部に行ってきた。
芸協の寄席に来るの久しぶりな気がする。蝠丸師匠のトリを見るために有休~。


・あんぱん「牛ほめ」
・蝠よし「元犬」
瞳ナナ マジック
・金の助「強情灸」
・可風「反魂香」
ぴろき ウクレレ漫談
・米福「締め込み」
・圓遊「時そば
~仲入り~
・ナイツ 漫才
・右團治「誕生日」
・寿輔「自殺狂」
・うめ吉 俗曲
・蝠丸「鼠穴」


あんぱんさん「牛ほめ」
もしやこの「牛ほめ」は兄弟子の小笑さんに教わったのでは。ところどころ、変な間があって小笑さんの顔が浮かんできた…。


可風師匠「反魂香」
初めて聴く噺。
男が真夜中隣に住む坊主の念仏で眠れなくなり文句を言いに隣家を尋ねると「これには深い訳がある」と坊主。
なんでも吉原の高尾太夫と深い仲になったのだが、高尾は先代の藩主に見初められてしまう。
自分はあなたに操をたてますと誓った高尾は藩主に殺されてしまうのだが、別れる時に高尾が反魂香を坊主に渡し、これを火にくべたらいつでもあなたの前に現れます、と約束してくれた。
それで夜な夜なこの反魂香を火にくべて念仏を唱え高尾との逢瀬を楽しんでいると言う。
最初は信じなかった男だが、目の前に高尾の幽霊が現れると、自分も3年前に妻を亡くしてしまった。妻に会いたいのでその反魂香を自分にも分けてくれと言うのだが、坊主は応じない。
仕方なく男は薬屋に行き反魂香を求めようとするのだが薬の名前が思い出せず、反魂丹(腹痛の薬)を買ってきてしまう。
男が女房に会おうと反魂丹に火をくべると…。


結構細かいギャグが入ってとっても楽しい。
可風師匠、こういう変わった噺もされるんだ!もっと見たい!


ナイツ 漫才
結構攻めてるネタで楽しかった~!
サッカーのワールドカップのネタで日本の時間稼ぎなプレイが物議を醸しましたね、という話題の後、塙先生がちょっと後ろの下がって黙って、土屋先生が「え?あと6分時間稼ぎ?あんた何守ってんの?さっきウケたので一点?そんなつもり?」って言うの、めっちゃおかしかった。


右團治師匠「誕生日」
古典よりこういう噺の方がいい!調べたらこれって文枝師匠の新作なんだね。ほぉ。

 

蝠丸師匠「鼠穴」
今日はとっても上品なお客様と評判、と蝠丸師匠。
確かにそんなに笑わないんだな…大勢いるけど。おそらくお年寄りが多いのですぐに反応できないのと、相当わかりやすくないと難しい感じ…。
「だからってヤケになって電気を消したり笛を鳴らしたり…あれは卑怯です」と寿輔師匠の「自殺狂」をいじったの、おかしかった~。

そんなまくらから「鼠穴」。うおおおー蝠丸師匠で聴くのは初めて!うれしいーーー。

おにいさんがちゃんといやな感じ。
10年後に訪ねて行った時に貸した三文の他に二両入ってることを確認した後「たいしたもんだなぁ。」と言ったあと「返さないよ。あたしはいったんもらったものは返さないたちなんだ」ってお兄さんの因業ぶりがチラリ。これが火事になった後の冷酷な態度に説得性を与えてる。

うなされている竹次郎を起こして悪い夢を見たと聞かされて、「火事のあとに商売の元を借りに来て?ああ、あたしは千両ぐらい貸したか?え?貸さない?そんなこしたの…?」と言った後に、「夢の中でも嫌な役だなぁ~」と頭を抱えたのおかしかった~。

サゲが蝠丸師匠らしく…変えてあったのも面白かった。 

バッタを倒しにアフリカへ

 

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

 

★★★★★

◎バッタ被害を食い止めるため、
バッタ博士は単身、モーリタニアへと旅立った。
それが、修羅への道とも知らずに……。

◎『孤独なバッタが群れるとき』の著者が贈る科学冒険ノンフィクション!

この人は一体何者なのだろう、なぜこの本を書いたんだろう?という疑問を胸に読み始めたのだが、なるほど…研究を続けるためだったのか。ものすごいバイタリティ。

言葉も通じない、文化や考え方も違う国に飛び込んで、味方を作りながらバッタの研究にまい進する姿がカッコいい。
また干ばつに襲われてバッタがいなくなってしまった時に「浮気」と称して別の虫の観察をしたりフランスへ渡るという柔軟なところも素敵だ。

料理もおいしそう!(でも「砂漠料理を味わいたければせっかくの料理に砂を一つまみ入れるとよい」のキャプションに大笑い)

自分で道を切り開くとはこういうことを言うのだな、と思う。素晴らしい!

 

任務の終わり

 

任務の終わり 上

任務の終わり 上

 
任務の終わり 下

任務の終わり 下

 

 ★★★★★

相棒のホリーとともに探偵社を営むホッジズのもとに現役時代にコンビを組んでいたハントリー刑事から現場にきてほしいと連絡が入った。事件は無理心中。6年前に起きた暴走車による大量殺傷事件で重篤な後遺症を負った娘を、母親が殺害後に自殺したものとみられた。だがホッジズとホリーは現場に違和感を感じ、少し前にも6年前の事件の生存者が心中していたことを突き止める。これは単なる偶然なのか?一方、6年前の事件の犯人、ブレイディは脳神経科クリニックに入院していた。大規模な爆破事件を起こそうとして直前で阻止されたブレイディは、その際に脳に重傷を負い、後遺症で意思疎通も困難な状態にあった。だが、その周囲で怪事が頻々と発生する。看護師、師長、主治医…彼らに何が起きているのか?エドガー賞受賞の傑作『ミスター・メルセデス』でホッジズと死闘を演じた“メルセデス・キラー”が静かに動き出す。恐怖の帝王がミステリーに挑んだ三部作完結編、得体の知れぬ悪意が不気味な胎動をはじめる前半戦がここに開始される! 

なにがショックって「ミスター・メルセデス」三部作の二作目を飛ばして読んでしまったってこと!ぬかりすぎやで。

「ミスター・メルセデス」は実に真っ当なミステリーだったけど、今作は…。
そうなのだ、キングは物語がどちらに転ぶか分からないから、そっち?そっちもありでしょ?というのが読んでいてスリリングなところで。
「ミスター・メルセデス」が出た時にすでに「三部作」とうたわれていたということは、もともとこの展開を考えていながらのあの一作目だったのか。かーーーっ。

いつものように分厚さに怯むけれど、物語の吸引力がすごいのでぐいぐい読める。
ホッジズ、ホリー、ジェローム。この3人がそろえば無敵!と思っていたので、もしかしてヤツを倒せば癌も消滅するのでは?!というわずかな希望を抱いていたんだけど…そう都合よくはいかないのね…。

飛ばしてしまった二作目も読みたい!

末廣亭12月上席夜の部

12/10(月)、末廣亭12月上席夜の部に行ってきた。
結局この芝居、4回通った。たいてい夜の部ってお客さんが少な目だったりするけど、この芝居は毎日大勢のお客さんで、千秋楽は立ち見も出るほど!すごいっ。
きく麿師匠のお客さんや応援しているファンが通ったというのももちろんあるだろうけど、話題が話題を呼んで「行ってみようかな」と来た人もたくさんいて、しかもそういう人のリピート率も高かったと思う。
すごいなー。ほんと今回はきく麿師匠の底力を見せてもらったなぁ。


・小里ん師匠「にらみ返し」
~仲入り~
・駒治「レモンの涙」
翁家社中 太神楽
・天どん「ひろっちゃった!!」
・文蔵「時そば
・正楽 紙切り
・きく麿「スナックヒヤシンス」

駒治師匠「レモンの涙」
ニツ目の頃は「ガールズトーク」率が大変高かった駒治師匠。この芝居はめちゃくちゃ攻めてる。
悪役プロレスラーの噺で客席がぐわーーーっと盛り上がる!
しかもここに出てくる「レモンティアードロップス!」がその後に続く人たち共通のフレーズになる楽しさ。
すごい援護射撃。

翁家社中 太神楽
太神楽の中で和助さんが一番好きで一番うまいと思っているんだけど、この日は傘の曲芸で「昔は回していたけど今は回さなくなったもの」を回すとか、太神楽が生まれた瞬間(和助さんの創造)とか、いつもと違う趣向もあり。
太神楽を初めて見るお客さんも多かったようで反応がすごくよくて大盛り上がりだった。すごい!


天どん師匠「ひろっちゃった!!」
ネガティブとポジティブの二人組がお金の入った茶封筒を拾うという話。
ポジティブな人のどこまでもポジティブな思考も面白いけど、ネガティブな人の悲観的過ぎる思考が面白い。
拾うところで「芝浜やれなくなるだろ!…誰がやるんだよ!」、お金を数えるところで「ひぃふぅみぃ…。」「変な数え方するなよ!時そばやるつもりだったらどうするんだよ!」。
わはははは。


文蔵師匠「時そば
絶対やるだろうなと思っていたらやっぱり「時そば」に入ったので客席は大盛り上がり。
真似する男が文蔵師匠らしくコワモテなのが妙におかしい。
蕎麦屋に向かって「てめぇ、なんで逃げるんだよ!」「あなたみたいな人相の人が追いかけてきたら誰でも逃げますよ!」に大笑い。

正楽師匠 紙切り
「クィーン」とリクエストされて「はい、ご苦労様。…なんでも切れると思ったら大間違い」と言いながら、フレディとブライアンを完璧なフォルムで!もうもうもう素敵すぎる、正楽師匠。


きく麿師匠「スナックヒヤシンス」
出囃子ではなく「We will rock you」のBGMで登場。
ああ、それであの方は「Queen」をリクエストしたのか!お客さんまで援護射撃ってすごくない?!
まるでロックコンサートのように場内が盛り上がり、それを普通に座ってお辞儀をして沈めるきく麿師匠が素敵。
異様なほどの盛り上がりだから緊張しただろうなぁ。
でもちゃんといつものまーろさま。さすがです。
そしてこの感動的な雰囲気の中で「スナックヒヤシンス」のばかばかしさよ。わははははは。

最初のママとチーママの会話。柿ピーの食べ方がすごくうまくて、意味があるようなないような会話が楽しくて、会場が一気にちょっとひなびた場末のスナックになるのが小気味いい。
そしてあの腰に手を当てた変な踊り。もうどうしてこういうのを考え付くかなー。
また山田の悪口を言う二人、山田の何も動じない感じもリアルで「恋の坂道発進」の歌のくだらなさがたまらなくて、やーーー笑った笑った。

最後は立ち上がって寄席の歌。
一度幕が下がってからまたQueenが流れて幕が開いたら木久翁師匠はじめ、一門と出演者が勢ぞろい。
素敵ーーー。

お披露目かっていうぐらいの盛り上がりでなんか感動して涙が出ちゃったよ。ほんとすごい。
末廣亭のきく麿師匠のトリが恒例行事になりますように。

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12/3

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12/6

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12/10

 

朝の九時落語

12/9(日)、UNA galleryで行われた「朝の九時落語」に行ってきた。

 

・さん助 立ち話
・さん助「狸札」
・さん助「鮫講釈」


さん助師匠 立ち話
噺家という職業だと話好きとか話がうまいと思ってる方がいらっしゃるようですけど、決してそんなことはありません、とさん助師匠。
私はほんとに話ベタで説明ベタでたどたどしくなっちゃう。

噺家になった時先輩から言われたのが「芸名で頼まれた仕事は断っちゃいけない」でした。
なのでニツ目になりたての頃は身の程も知らず頼まれればなんでもやってました。
でも何回かやってこれだけはだめだと思ってそれ以降断ってる仕事があります。それが司会の仕事。
結婚式の司会もやったことがありますけどもうダメダメで。それ以来、断るようにしてたんですけど、ある時同級生から結婚式の司会を頼まれまして。断ったんですけど、どうしても私に頼みたいと言われて、だったら下手だけどやるよ、でもお金はいらないからね、と言ってやりました。
最後に新婦からの挨拶があったんですけどその中で自分たちはこれから夫婦になって頑張っていきます、それから司会をしてくださった落語家さんも頑張ってください、って…なぜか司会をやった私に励ましの言葉をくれた、という謎の幕切れで…。

昨日、自分の会があったんですけどそこで最近見た映画「ボヘミアンラプソディ」がいかによかったかというのを…この感動をお客さんに伝えたいと思ったんですけど、言えば言うほど何も伝わらないというのを、ひしひしと感じました…。


…ぶわははは。
確かにさん助師匠の話ベタはすごい。全然説明できてないもんね。
ボヘミアンラプソディ」二回見た私(そしてまた今週も見る!)にも、伝わってこなかった(笑)。ある意味すごい。

さん助師匠「狸札」
うわ、さん助師匠の「狸札」、初めて聴いた!
狸がかわいくて、八五郎もほんとに気のいい男で、気持ちいい。
義理堅い狸が八五郎がカラッケツと知って「大きなお金に化けましょう」「どうせ同じなんですから大きなお金に」と何度も言うのがいじらしい。それに八五郎が「それはいけねぇよ。そういうことはしたくない」と言うのもいいな。

わりと丁寧な「狸札」で若干長めかな、と思っていたんだけど、落語の後に「じつはこの噺は前座の頃はよくやってたんですけど、それからほとんどやってなくて。ニツ目になってからは二回ほどやったんですけど、私その時サゲを間違えちゃいまして。”札を持ってきました”じゃなくて”がまぐちを持ってきちゃいました”と言って、お客さんがしーん!!としたことがあって。それがトラウマになってやってなかったんですけど、久しぶりにやってトラウマを払拭できました」と。

さん助師匠「鮫講釈」
お、「鮫講釈」!
船が出るところと江戸っ子二人のやりとりは楽しいんだけど、後半がね…と思っていたら、講釈がよくなってる!
あのみんなを不安に陥れる下手すぎる講釈じゃない!
いいよいいよ絶対そのほうが。
長くやるなら若干下手な部分と妙に流暢な部分があるとメリハリがあっていいかもしれないけど。
普通にやっても十分ヘンなんだから。それでいい!

…ってすごい失礼だな。わはははは。

面白かった。

さん助 燕弥 ふたり會

12/8(土)、お江戸日本橋亭で行われた「さん助 燕弥 ふたり會」に行ってきた。


・さん助「馬のす」
・燕弥「佐々木政談」
~仲入り~
・燕弥「釜泥」
・さん助「鼠穴」

 

さん助師匠「鼠穴」
兄さんの複雑さがとてもリアル。
最初に訪ねて行った時、歓迎してくれて「奉公したい」と言ったのを「奉公じゃつまんねぇ。自分で商売ぶて」と言いながら「これを元手に」と渡してくれたのがたったの三文。
10年経ってその三文を返しに行くと「利子ってわけじゃねぇけど」と渡された二両を見て、自分がどういう気持ちで三文を渡したかを話す。
弟がそうとは知らず恨んだりして申し訳なかったと謝ると、「わかってもらえればそれでいい」と本当に嬉しそうで、ああ、本当にそういう気持ちだったんだろうなぁと思わせる。

しかし火事になって弟の家が丸焼けになり商売のもとを貸してもらいたいと訪ねるとけんもほろろ
女房子供もいると言うと「おれが持ってくれと頼んだわけじゃねぇ」。
その表情を見ると、ああ…やっぱりこういう人だったんだ、と思う。

お兄さんが弟に「出ていけ」と手を挙げるところや、弟が見返り柳のところで泥棒にぶつかられるところ、声の大きさや動きの大きさに迫力があって最後を知っているのにドキっとして苦しくなる。

うわーーー、さん助師匠の「鼠穴」すごくいい!!
ネタ出しされたときから、きっといいのでは…と思っていたけどやっぱりいい。

こういう嫌な噺は結構間違いないよなぁ、さん助師匠。
そしてあのお兄さんの嫌な感じ…あれはもしかすると「西海屋騒動」をこの何年かずっとかけ続けていたことが生きているのかもしれない、なんてことをふと思った。

素晴らしかった。これから何回かかけるともっともっと良くなっていくんだろうな。
また見たいな。