りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

波 (新潮クレスト・ブックス)

 

 

波 (新潮クレスト・ブックス)

波 (新潮クレスト・ブックス)

 

 ★★★★★

あの日から、私の世界は闇に閉ざされた。津波に家族を奪われた女性の魂の記録。2004年のクリスマスの翌日、スリランカの南岸に滞在中の一家を巨大な津波が襲った。息子たちと夫と両親を失った経済学者の妻は絶望の淵に突き落とされる。家族の記憶に苛まれ、やがてその思い出が再起を支えた――マイケル・オンダーチェ、テジ ュ・コールら絶賛の手記。 

スリランカを襲った大津波で夫と二人の息子、両親を失った女性の回想録。

当たり前に続くと思っていた日常が一瞬で失われ「なぜこんな目にあうのか」「何かの罰なのか」という問いと自責の念だけが残る。
何も知りたくない何も思い出したくない一刻も早く彼らのもとに行きたいという状態から、何が起きたのかを知りたい彼らとの日々を実感したいという気持ちになるまで。

こうして書くことがセラピーになったのかもしれないが、なんという喪失…読んでいて辛くて何度も涙した。

自然の前で人間がどれだけ無力であるか。そして私の日常があるのもたまたま運が良かっただけなのだということを思い知る。
読んでいて辛かったが読んでよかったと思う。

さん助 燕弥 ふたり會

3/9(土)、お江戸日本橋亭で行われた「さん助 燕弥 ふたり會」に行ってきた。

・市松「牛ほめ」
・燕弥「短命」
・さん助「鮫講釈」
~仲入り~
・さん助「鴻池の犬」
・燕弥「茶の湯


さん助師匠「鮫講釈」
船の仕事から帰ってきたばかりのさん助師匠。
最初は面が割れてなかったから良かったんだけど、高座に上がってからは大浴場で「あ、さっき落語やってた人ですよね?高座を見た時は年寄りだと思ったけど意外と若いんですね」等と声をかけられることも増えて、しんどかった…。芸能人の気持ちが少しだけ分かった…。
そして船の食事はフルコース。噺家仲間から、船を降りた時は「日高屋のたんめんが食いたくなった」だの「俺は餃子チャーハン」だのと聞いていて、自分は降りたら何を食べたいと思うだろうとわくわくしていたんだけど、実際に降りた時はもう何も食べたくなかった…。
船酔いはしなかったけど降りてから今酔ってる…。今日浅草の代演に行ってきたんだけど、座布団の上に座ったら頭がぐらぐらしていて、「長短」をやったんだけどまんじゅうを食べてるところでなんかぼーっとしてきてお客さんに「そろそろ飲みこめ!」と声をかけられてしまった。

…ぶわははは。
さん助師匠が船の仕事に行くと聞いて「だ、大丈夫?」と心配していたけれど、思っていたより元気でほっとした~。
そしてこういういろんな経験がきっと芸のこやしになっていくのね…と。

そんなまくらから「鮫講釈」。
この噺を選んだのって、トメ公が「俺は船は嫌いだ!」と叫ぶから(笑)?
最初に鈴本で聞いた時は講釈の部分の下手さがあまりにもあまりで客席が不穏な空気になっていたけど、見るほどによくなってきてる(←上から目線。すびばせん!)。
普通にやっても下手なんだから普通で十分!(←ひどい)

さん助師匠「鴻池の犬」
ほんとは先ほどの高座でやらなきゃいけなかったのに、上がった途端にそのことをケロッと忘れてしまってた、とさん助師匠。
この間ドッポで聞いた「鴻池の犬」。
いい!なんでこの噺がこんなに泣けるんだ?不思議すぎる。

一人大阪を目指して旅するシロと一緒に旅をするおかげ犬。
いろんなことを教えてくれて気遣ってくれて何度も「お前も一緒に伊勢へ行こう」と誘ってくる。それでもシロの身の上話を聞くと「兄貴に会えるといいな」と心から応援してくれる。この二匹が別れるシーンは涙が…。なんでフツウの人情噺で決して泣かせるようなことをしないさん助師匠が、犬の別れはこんなに情感たっぷりなんだ。しかも最初は「さよなら」って擬人化した表現なのに最後の「ふん」っていうのは明らかに獣の吠え声。これで決してきれいとはいえない二匹の姿がふわっと浮かび上がってくるのだ。

今回はサゲを間違えなかったっぽい?でも「しーこいこい」じゃなく「黒こいこい」になってたのはわかりやすかったのかそうでもなかったのか。むむむ。

燕弥師匠「茶の湯
微笑み交じりに高座にあがって「いやぁ…鴻池の犬ってああいう噺でした?」「人情話じゃん!」「さん喬師匠直伝らしいですよ。でも…あんな風にやってたかなぁ?」。
「さん喬一門の中であの人が一番師匠に似てないって思っていたんですけど…なんかところどころ師匠を感じるところがあったのが不思議でしたね。面白いもんですね。私も自分が一門の中で一番師匠に似てないって思ってたんですけど、寄席で”猫と金魚”をやったときに…それも師匠に教わったわけじゃなく甚語楼兄ぃに教わったんですけど、それを金馬師匠が聴いていてくださって”師匠に似てるな”って言われて…嬉しいようなそうでもないような複雑な気持ちになりましたけど。面白いもんですね。師弟って」

…あーー燕弥師匠のこういうところが大好き。優しいよなぁ…。
芸風が全然違う二人だけど、さん助師匠が燕弥師匠を慕う気持ちがよくわかるなぁ。包容力があるっていうかまなざしが優しいんだわ。

そんなまくらから「茶の湯」。
「青きなこ」「むくの皮」「ともし油」を買ってくる定吉に「お前は物知りだな」と心の底から感心しているご隠居のかわいらしさ(笑)。
そしてご隠居も定吉も長屋の3人もみんな少しずつ変な人なのがおかしい。
え?燕弥師匠ってこんなだったっけと驚くほど、弾けた「茶の湯」。やってる師匠も楽しそうだし、聞いていてとても楽しい。

弾けた「茶の湯」楽しかった。

国立演芸場3月上席

3/9(土)、国立演芸場3月上席に行ってきた。

・吉緑「桃太郎」
三木助「だくだく」
・めおと楽団ジキジキ 音曲漫才
・きく麿「歯ンデレラ」
・小里ん「ろくろ首」
~仲入り~
・ホームラン 漫才
・歌武蔵 いつもの
マギー隆司 マジック
小満ん「小言幸兵衛」


三木助師匠「だくだく」
正直苦手な噺家さんだけど、「だくだく」悪くなかった。
先生が隣の部屋に住んでるのって志の輔師匠の「だくだく」はそうだったと思うけど、志の輔師匠仕込み?


きく麿師匠「歯ンデレラ」
年齢層高めの客席を意識?
国立のお客さんって笑いが少な目な印象があるけど、ネタがぴったりマッチしていてこの日一番笑いが多かったと思う。
きく麿師匠、すごいなー。このメンツでこの雰囲気でこの噺でしっかり笑いを取るんだから。
かっこよかった!


小里ん師匠「ろくろ首」
淡々と…笑い欲しがらず…。
首が伸びるところを見る与太郎の視線の動きが見事。私にも伸びる首が見えたもの。


小満ん師匠「小言幸兵衛」
最後に花火職人が家を貸してくれと来るところまで。
途中で一瞬意識を失ってしまい申し訳なかった…。すすすびばせん。

松鯉・伸治二人会 第一回

3/7(木)、上野広小路亭で行われた「松鯉・伸治二人会 第一回」に行ってきた。

・松麻呂「井伊直人
・松鯉「屏風の蘇生」
・伸治「らくだ」
仲入り
・伸治「あくび指南」
・松鯉「出世の高松」

松鯉先生「屏風の蘇生」
「屏風の蘇生」は以前末廣亭で聞いたことがあった。

紀伊国屋文左衛門が大勢のおともを連れて吉原へと赴く。
おともには芭蕉の弟子の中でも筆頭に名前が挙がる宝井其角、絵師の多賀朝湖、書家の佐々木文山。
店の主人が誂えた金屏風に文山に一筆書いてほしいので間に入ってお願いしていただきたいと文左衛門を訪ねてくる。
文左衛門が文山に頼むと快く引き受けた文山だったが、今日はすでに酒を飲んでいるので、後日屏風を家まで届けてほしい、と言う。
それを聞いた主人、屏風にはすでに多賀朝湖に絵を描いてもらっており、届けるのは手間だし屏風が傷つく恐れがあるので、この場で書いてほしいと言い張る。
その時に主人が「多賀朝湖ですらここで描いてくださったのですから」と言った、この一言にカチンときた文山。
そこまで言うならこの場で書いてやると言って筆を取ったが怒りに任せて「此所小便無用」と書く。
それを見た主人、家宝にしようと思っていたのに台無しだと泣くと、それを見た其角がこの書に「花の山」と付け加えて、一度は台無しになった屏風を蘇生させた、という話。

松鯉先生の講談は声を張り上げたりしないのに、ものすごい緊張感があって、でも時々ふわっと笑えるユーモアもあって、素敵だ。


伸治師匠「らくだ」
圓歌襲名のパーティに行ってきたという伸治師匠。
帝国ホテルで料理長が挨拶をし、乾杯のワインは1本10万円ぐらいする高級なもの。いったいどれだけお金がかかっているんだ!と思ったが、自分は下戸で酒が全然飲めない。でもめったに飲めるものじゃないんだからとちょびっとだけ舐めてみたけど味はわからない。残りは同じテーブルにいた飲める噺家にあげてしまったのだが、同じテーブルには同じく下戸の遊三師匠。二人で「おれたち人生損してるなぁ」と嘆きあった。

そんなまくらから「らくだ」。
伸治師匠の「らくだ」は何回か見ているけど、今まで見た中で一番笑いの多い「らくだ」だった。
もう師匠が楽しそう!
月番のところに行って大家のところに行ったあと、兄貴分が「この後もう一軒行ってもらいてぇ。大家の所」と言ってしまい「あ、大家の所は今行ったんだ。八百屋だ八百屋」と言ってから「間違えちゃった。こういうところで間違えると後で笑いが起きなくなっちゃう」と言うので、もう大笑い。
戻ってきた屑屋さんが酒を飲んで「いい酒だ。これは10万円の酒だ」と言うのもおかしかった。
こんなに笑える「らくだ」は初めて。楽しかった~。


伸治師匠「あくび指南」
兄貴分に「一緒におけいこに付き合ってくれ」と頼みに来た男。「あくびの稽古」と聞いて驚いた兄貴が「あくびってあれか?口からふわーっと出るやつか?」と聞くと「そうだよ。口から出るやつ。これが尻から出たら屁だ」と答えると、兄貴が「屁の御稽古ならちょっと行ってみたいがな」と言うのがおかしい。
そして四季のあくびに始まって、上級者向けの寄席のあくび、そして師範級の臨終のあくび。
あまりに飲みこみの悪い生徒にあくびの師匠があきれかえると「見捨てないでくださいよー。臨終のあくびまで行きたいんっすから」と言うのもおかしい。

ふわふわ楽しい「あくび指南」。いいなぁ伸治師匠。


松鯉先生「出世の高松」

家康の息子鶴千代が京都にいた時、おしまという女中にお手が付き解任する。
江戸へ戻ることになった鶴千代はおしまから子どもができたことを告げられると、今はまだ公認できないが自分の子であることの証拠の品として、書付と短刀、香木をおしまに渡す。
おしまは実家に戻るが両親とも亡くなってしまい、路頭に迷ったおしまはぼてふりをしている叔父を頼って行く。
そこで男の子を生んだおしまはそのまま死んでしまう。
叔父夫婦は子供を寅松と名付けて大事に育てるが、雨降りで商売に出ることができず食うに食えず困った時に、そういえばおしまが残した風呂敷があったとおろして中を見る。その価値が分からない夫婦だったが、香木の香りに誘われて道具屋の七六という男が家を訪れ、風呂敷の中身を見て「寅松の父親は水戸の中納言様だ」と分かる。
4人は江戸へと赴き、寅松が中納言の子どもであると判明。
跡継ぎはすでに千代松(のちの水戸黄門)に決まっていたが、寅松は藩主になる。

初めて聴く話。
今とは価値観や倫理観も違うけれど、そのギャップも説得力のある語りで埋められて違和感がない。
叔父夫婦がざっかけない人物でユーモラスでそこに救われる。
渋かった~。

帰れない山

 

帰れない山 (新潮クレスト・ブックス)

帰れない山 (新潮クレスト・ブックス)

 

 ★★★★★

街の少年と山の少年 二人の人生があの山で再び交錯する。山がすべてを教えてくれた。牛飼い少年との出会い、冒険、父の孤独と遺志、心地よい沈黙と信頼、友との別れ――。北イタリア、モンテ・ローザ山麓を舞台に、本当の居場所を求めて彷徨う二人の男の葛藤と友情を描く。イタリア文学の最高峰「ストレーガ賞」を受賞し、世界39言語に翻訳された国際的ベストセラー。 

とてもよかった。

主人公もその父もブルーノもこんな風にしか生きられなかったのだろうかと苦い気持ちになるが、美しく壮大で時にものすごく過酷な自然を前に人間が無力なように、人生も思うようにはいかないものなのかもしれない。

それでも少年時代の冒険や再会してからの家作り、恋をして未来を夢見て。一時でも最高に幸せな時間を過ごしたことは自分のなかに残る。決してすべてを失ったのではないしその時間が無為だったのではない。
そう思える後味。素晴らしかった。

鈴本演芸場3月上席夜の部

3/6(水)、鈴本演芸場3月上席夜の部に行ってきた。

・歌奴「近日息子」
・馬石「鮑熨斗」
~仲入り~
・二楽 紙切り
・菊之丞「愛宕山
翁家社中 太神楽
・雲助「淀五郎」


馬石師匠「鮑熨斗」
お金を借りに行くところと魚屋さんのシーンを省いて甚兵衛さんが買ってきた鮑をおかみさんに見せるところから。
省いた分甚兵衛さんがおかみさんから言われた内容や魚屋さんに鮑を勧められた件を喋るんだけど、それを聞いたおかみさんが「あんた今日はよくしゃべるわね」と言ったのがすごくおかしい。そう言おうと思ったのではなくふわっと出てきたって感じで、いつもの「鮑熨斗」を知ってるだけに大爆笑。
そこから口上の稽古が始まるんだけど、甚兵衛さんが「承りますれば」も「お嫁後様」も言えないとおかみさん「うん、いいや。そこは勢いで。旦那が察してくれるから」。
「で、ここからが肝心だよ」と教わった甚兵衛さんが伊勢屋を訪ねる。
甚兵衛さんにお天気の挨拶をされた旦那が「お。何か改まったことを言おうってんだな」と聞く姿勢になるのも、何言ってるかわからない甚兵衛さんに「待っておくれ。察するから」と言うのも、馬石師匠らしく優しい反応で好き。
旦那が鮑を突き返すところも「縁起が悪いんだよ」と申し訳なさそう。
魚屋さんに口上を教わって甚兵衛さんがやってくると「お。敵討ちに来たな」と楽しそうなのもいいなぁ。
もうとにかく二人のやりとりが楽しくて、最初から最後まで爆笑の渦だった。
すごーーーい。馬石師匠、すてきーーー。大盛り上がりだった。


菊之丞「愛宕山
なんとこの位置で「愛宕山」とは!うれしい!
山登りのシーンは省いてかわらけ投げの場面から。
小判を投げる旦那に一八が「もったいない!」「バカなことを!」と言うのでムッとする旦那。
傘をさしてふわふわ降りようという一八が怖くてなかなか一歩が踏み出せず「そうか、目をつぶればいいんだ」と言ってぎゅっと目をつぶって行こうとするんだけど飛ぶ寸前に「あー、だめだ。目が開いちゃう」。
そのトントントーンというテンポの良さ。
お金を拾うシーンも刈り込んでいるんだけど、一八の金への執着がにじみ出ていて楽しい。
「どうやって上がるー?」と聞かれた一八が着物を裂いて縄をこしらえるしぐさもかっこいい。
この位置でもこれだけ刈り込んでもめちゃくちゃ面白い「愛宕山」。見事だった~。


翁家社中 太神楽
花籠鞠の曲芸や傘の曲芸(「以前は回していたけど今では回さなくなったもの」シリーズ)、皿廻し(包丁!)等、いつものじゃない曲芸。
この二人、いい!!
安定の仙三郎社中に、冒険する翁家社中って感じ。楽しかったー。


雲助師匠「淀五郎」
歌舞伎のシーンがすごくかっこいいので引き込まれて見ていると、團蔵が「うわっひでぇ芝居だな、こりゃ」とつぶやくので、ああ、そうか、これは淀五郎が演じてるシーンなのか、と我に返る。
淀五郎が「私の芝居にまずいところがありますでしょうか」と訪ねに行くところ。淀五郎は若者らしいし、團蔵は威厳がある。厳しい言葉を投げつけるがそれほど皮肉には感じられない。むしろ淀五郎の頭に血が上っているので何を言われても意地悪にしかとれない、という印象。

落ち込んだ淀五郎が訪ねる中村仲蔵。仲蔵について少し説明した後「あさってこの人の噺はやりますから気になる方はいらしてください」と雲助師匠が言うので大笑い。
淀五郎の話を聞いて「皮肉屋と言われてるけど、芝居のことだったら教えてくれると思うんだけどなぁ」と言う仲蔵が、悪いところがあったら直してやるから、と言って淀五郎の芝居を見るところ。
顔をしかめて「こりゃひどい」という表情をするのがちょっとユーモラスで笑いが起きる。
「お前、今回の役がついて嬉しかったかい?」。この言い方のやさしさ。そして「お前を引き上げてくれたのが團蔵で、あいつは相手がどんな芝居をしたってちゃんと演じることはできる。それをあえてやらないのはなぜだと思う?お前に見込みがあるからだよ」という言葉。
心の持ち方から細かなしぐさまで教えてくれる仲蔵にじーん…。そして「これぐらいやればいいと思うんだがな。これでもだめならまた相談においで」という包み込むような優しさが、雲助師匠のやさしさと重なって泣ける…。

かっこよくて優しくて素敵な「淀五郎」だった。満足~。

鈴本演芸場3月上席夜の部

3/5(火)、鈴本演芸場3月上席夜の部に行ってきた。

・二楽 紙切り
・菊之丞「替り目」
・ストレート松浦 ジャグリング
・雲助「つづら」


二楽師匠 紙切り
お客様から「縄文時代」の注文で切り始めた二楽師匠が「あらかじめ言っておきますけど、じゃ次は弥生時代、という注文は受け付けませんよ」。
ぶわはははは!最高!


菊之丞師匠「替り目」
ノリノリの弾むような高座で楽しい楽しい。
こんなに聞き飽きた噺なのに楽しくて笑いどおしだった。
「お寝なさいと言うからこっちは意固地になるんだ」と言う旦那に言われた通りに「いっぱいいかが」と言った女房に「じゃもらおうか」。
そう言われた女房が「いんちき!」と言うと旦那が「そう!いんちき!いんちきなの!」と答える、その表情と絶妙な間。
女房がおでんを買いに出かけたと思って一人語りを始めた旦那が「どーーもすみません」と鼻声になる…その言い方と絶妙の間。
菊之丞師匠ってきっと音感がすごくいいんじゃないかな。気持ちのいい音楽を聞いてるような…体から喜びが湧き上がってくるような楽しさだった。


雲助師匠「つづら」
ネタ出しされている今回の芝居。聞いたことのない演目だったのでぜひとも聞きたかった。

「着ている着物が汚い」といじめられて帰って来た子ども。
母親のお兼は「ちょうどこれをお前に縫っていたんだよ」と言って新しい着物を差し出す。
息子はとても喜んで「これ着てもう一度遊びに行ってくる!」と出かけて行く。その姿を見て「これでよかったんだ…」とつぶやくお兼。
そこに亭主が帰ってくる。博打で義理の悪い借金をしてしまった亭主。鬼熊というやくざ者が毎日のように仕事場や友だちの所にまで借金の催促に来るからもう誰も金を貸してくれない。
「今日鬼熊は来たかい?」と聞くお兼に「それが不思議なことに今日は来てない。この間まで金を返せないならお前(お兼)を売れとまで言っていたのに、何を企んでいるのか気味が悪い」と言う亭主。
どうにもしょうがないから成田の叔父さんの所に行って金を借りてくるから2,3日留守にする、と言う亭主を「家のことはあたしが守るから」と送り出すお兼。
亭主が長屋を抜けて行こうとすると声をかけるおばさんがいて、話があるから上がってくれと言われ、茶を出される。
最初は言い淀んでいたおばさんだが請われて言うには、お兼が間男している、と言う。しかも相手は伊勢屋の旦那。
そんな馬鹿なと最初は信じなかった亭主も、自分が留守の時に旦那がこっそり家に来ていると聞き、おばさんの家で待ち伏せをすることに。
そんなこととは知らないお兼のもとに伊勢屋の旦那が訪ねてくる。
出された酒を飲みながら、お兼の手荒れした手や作った煮物を褒める旦那。
自分は女房に先立たれて以来女気はなかったが、まさかこんなことになるとは…悪いことだとはわかっているかそれでもこうなってしまったのも縁だ…と言う旦那に、「いろいろありがとうございます」と頭を下げるお兼。
そこへ血相を変えた亭主が「開けろ!」と帰ってくる。
慌てて旦那をつづらの中に隠すお兼。
亭主はすぐにこのつづらの中に男が入っていることに気づくのだが、お兼はそんな亭主に向かって「なぜ今日になって鬼熊が来なかったのか。金を返したからだとは思わないのか」と言う。
そして自分のことは気のすむまで殴っても構わないが、つづらだけは開けてはだめだ、そうしたら今度はあたしは美人局になってしまう、と言う。
事情を察した亭主は「わかった。このつづらは絶対に開けない」と言い「でも俺はやりたいことがある。決して手荒なことはしないから」と言ってつづらを背負って伊勢屋へ…。

まず、お兼が縫物をする手つきが本当にきれいなのに目が釘付け。ああ…ものすごく所作が美しいんだ、雲助師匠は。
借金を返すためにはこうするしかないと考えたお兼。義理の悪い借金をしてどうにもならなくなった亭主。そしてお兼に夢中になって道を踏み外してしまった旦那。
それぞれのキャラクターがくっきりしていて誰の気持ちも理解できるからたまらない気持ちになる。
だけど後半の展開が落語っぽくてちょっとおかしい。
ぐわっと涙ぐみながらも、わはははと笑ってしまう。
この間の浅草見番の会もそうだったけど、落語の奥深さをまざまざと見せつけられた感じ。しかも全然大仰じゃなく。
来てよかったー。すばらしかった。

82年生まれ、キム・ジヨン

 

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

 

 ★★★★★

ある日突然、自分の母親や友人の人格が憑依したかのようなキム・ジヨン。誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児…彼女の人生を克明に振り返る中で、女性の人生に立ちはだかるものが浮かびあがる。女性が人生で出会う困難、差別を描き、絶大な共感から社会現象を巻き起こした話題作!韓国で100万部突破!異例の大ベストセラー小説、ついに邦訳刊行。 

どんな衝撃的な物語なのかと身構えて読んだが案外フツウのことが書いてあるだけだった。でもこれをフツウと思ってしまうのは、自分が今までの人生でそう感じるように仕向けられてきたのだと言われればそうなのかもしれない。
なんだフツウの話じゃんと思いながら、自分が今まで見ないようにしていたものを振り返らずにいられないから、すごい作品なのだ。

声高にフェミニズムを叫ぶことにどうしても抵抗を感じてしまうのだが、主人公を「これは私だ」と多くの人たちが感じてしまうのは、正しい状態とはいえないよなと思う。

日本では女性は低く見られていたことは紛れもない事実だが、一方で男性が優位で生きやすかったのかといえば決してそんなこともないと思う。
女性だからといって差別されたり低く扱われてきた歴史があったことやそういう差別がいまだに残っているということは間違いのない事実だが、女性対男性と分けることにはどうも違和感を感じてしまう。

どうも歯切れの悪い感想になってしまうのだが、もやもやした読後感。このもやもやはなんなんだろう。

イデアの影-The shadow of Ideas

 

イデアの影-The shadow of Ideas (中公文庫)

イデアの影-The shadow of Ideas (中公文庫)

 

 ★★★★

 この世は、すべて幻なのです。現実なんてものはない。ただ、映っている影だけが見える。そうではありませんか?―主人と家政婦との三人で薔薇のバーゴラのある家に暮らす「彼女」。彼女の庭を訪れては去っていく男たち。知覚と幻想のあわいに現れる物語を繊細かつリリカルに描く衝撃作。

面白かった。なんかもっと理系な(?)作品を書く人だと思っていたので、こんなふうに幻想的で抒情的な作品を書くのかと驚いた。

夢と現実が入り混じり本当に起こったことは何だったのかがよくわからない。でも最初は不幸にしか見えなかった彼女が幻想が進むにつれて徐々に幸福そうになってきたからそれはそれでいいのか。

幸福と不幸、生と死が混じりあって不思議な後味。この夢か現かわからない世界でわざと間違った行動をとるような楽しさを感じながら読んだ。
哲学的な知識がある人が読めばもっと深い読み方ができるのかもしれない。

にぎわい座名作落語の夕べ 第198回

3/2(土)、横浜にぎわい座で行われた「にぎわい座名作落語の夕べ 第198回」に行ってきた。
最初にぎわい座のサイトでこの会のメンツを見てびっくり!全員大好きな師匠!これは…私のために作ってくれた番組ですか。だったら行かないわけにはいかないね!

・やまびこ「子ほめ」
・里光「まんじゅう怖い」
・圓馬「ふぐ鍋」
~仲入り~
・馬治「おかめ団子」
・南喬「猫の災難」


里光師匠「まんじゅう怖い」
ロングバージョンの「まんじゅう怖い」。
「まんじゅう怖い」は芸協の方が全然面白いんだよなぁ。これは上方の師匠がいらっしゃるせいなのか、あるいはどなたか創始者がいるのか。
若い連中のワイワイガヤガヤが楽しい。語るエピソードがどこまでもばかばかしくて、話も脱線して長講(!)になっていくのがすごく楽しい。もうそうやっていつまでも好きな物、怖いものの話をしていて~って思う。
楽しかった~。


圓馬師匠「ふぐ鍋」
脱腸の手術のまくら。手術を二回に分けたせいで、毛も半分しか剃ってもらえなかったというのと、傷口を確かめるためうら若き美人看護師さんたちに代わる代わる患部を見られる話、何度聞いても笑ってしまう。
そんなまくらから「ふぐ鍋」。
圓馬師匠がやられると旦那がとても品が良く立派な旦那で、それだけに旦那とお客のやり取りがバカバカしくておかしい。
お互いにふぐを口に入れそうで入れない…口をひくひくさせたり、鼻の穴をぐわっと広げたり…タコみたいな顔がおかしくてしょうがない。
そして一口食べると今度はその美味しそうなこと。
なんかとても弾けていてめちゃくちゃ楽しい「ふぐ鍋」だった。
見たい見たいと思っていた圓馬師匠をようやく見られたヨロコビ!


馬治師匠「おかめ団子」
この噺が馬治師匠にとってもぴったりでびっくりした。
団子屋さんを訪れる大根売りの多助さん。なまりがあって身なりは薄汚れているけど実は結構きれいな人…という描写があって、それが今までは「ほえ?」って感じだったんだけど、馬治師匠を見ていると、ああっこういう人だったのかも…!と納得(笑)。
悪心を起こしてしまうのもリアルででも憎めないところがあって、この不思議な噺が初めて腑に落ちた気がする。
それにしても昔の人はおおらかだなぁ…。団子屋の主人、多助のことを全く責めないどころか、娘の気持ちを聞いたらなんの迷いもなく婿にするんだもんなぁ。今では考えられないことだな…。


南喬師匠「猫の災難」
酒飲みの意地汚さが実に自然でかわいくて全くもって憎めない。
兄貴分もすごくおおらかで、途中で「このやろう、なんかおかしいと思ったらお前酔っ払ってるな」って言うんだけど、その言葉に少し笑いが混じっていて全然責めていないのが、二人のいい関係がにじみ出ていて、聞いていてニコニコしてしまう。
ああーー南喬師匠の落語っていいなぁ。大仰なところがなくて自然でおおらかで楽しい。
しぐさが大きいのもとってもチャーミングなんだよなぁ。
すごく楽しい「猫の災難」だった。満足~。

あれも凌鶴、これも凌鶴 第3回

3/2(土)、道楽亭で行われた「あれも凌鶴、これも凌鶴 第3回」に行ってきた。

・凌鶴「徂徠豆腐」
・凌天「木村の梅」
・凌鶴「レジの行列」
~仲入り~
・凌天「梨割弥三郎」
・凌鶴「金栗四三


凌鶴先生「徂徠豆腐」
お腹が空いた徂徠先生が身もだえるところから。
「おとうふやさん」と呼ばれて入ってくる豆腐屋さんは徂徠先生に「声が大きい…もっと小さい声で」と言われると次からは「おまちどうさま…」と小さな声を出すような優しい人物。
お腹ぺこぺこの徂徠先生のお豆腐の食べ方はなんか落語っぽい。しぐさと表情から、あーーお腹空いてるんだなぁーーおいしいんだなぁーーというのが伝わってくる。

何日か通った後で徂徠先生が豆腐の代金を払うことができないと知ったお豆腐屋さん。部屋の中を覗き込んで「本ばかりだ」「あなたあれでしょ…学者の先生でしょ」。そして徂徠先生の事情を聞くと「えらい!」「じゃこうしましょう」とすぐにおからを持ってくることを申し出てくれる気の良さ。
徂徠先生も「食べ物を恵んでもらうほど情けないことはない」と言うのだけれど、豆腐屋さんに「じゃ出世払いにしましょ」と言われると「そうであれば…」とすぐに従う。

立派になった徂徠先生が訪ねてきても誰だかわからない豆腐屋さんに徂徠先生が小さな声で「そうか。なりが変わったからわからないのだな」と言って「大きいお金もないくらいだから小さいお金もない…」と小さめの声で言うのもとってもチャーミング。

「今の自分があるのはあの時のお豆腐のおかげ」と静かに語る徂徠先生には涙が溢れてきた。
困窮して食うに食えない時に毎日おからを持ってきてくれるのももちろんありがたかっただろうけど、豆腐屋さんが「先生は絶対に出世なさる方だ」と信じてくれたことがきっと心の支えになったんだな、と感じた。
じんわりと温かい気持ちになる素敵な「徂徠豆腐」だった。


凌鶴先生「レジの行列」
ネットで読んだ話を凌鶴先生が脚色を加えて作ったという新作講談。
何をやっても長続きしない女性。大学で入ったサークルも次々辞め、入った学部も自分が本当に勉強したいものではなかったと辞めてしまう。
大学に入りなおそうと勉強するも不合格になり諦めて就職。
職場も社風が合わなかったり給料が安かったりブラックだったり人間関係が嫌になったりして次々辞めてしまう。
実家から「もう帰ってこい」と言われてアパートを引き払おうと引っ越しの準備をしている時に、自分が小学生の時に書いた文集を見て、ピアノを長いこと続けていてピアニストになるのが夢だったことを思い出す。
あの頃はコツコツ頑張ってたし、長年続けていたじゃないと思い、引っ越すのをやめて東京でもう少し頑張ってみようと決意。
そのことを宅配業者のお兄さんに話すとお兄さんは彼女を励ましてくれる。
ちょうどその時に一度面接で落ちたスーパーからパートで働かないかと電話がかかってきて、これも運命なのかもしれないと働き始める。
一生懸命レジ打ちの練習をし、ひたむきに頑張って、お客さんにも気を配る彼女にいつしかお客さんの中にファンが増えてきて…。

…どこにでもいるような女性の話だけれど、続かない気持ちもわかるし、ふとしたきっかけで自分が少し変わるとまわりの態度も変わってくるということも共感できる。
何をやっても続かないダメな自分とひたむきに頑張る自分の境界線なんて実はほんの僅かの違いなのかもしれない。
こういう講談って他の人で聞いたことがない。すごくいいと思う!
凌鶴先生の新作講談、もっといろいろ聞いてみたい!


凌鶴先生「金栗四三
なんと「いだてん」で話題になる前にすでに「金栗四三」の新作講談を作っていたという凌鶴先生。なんという先見の明!
でもそうか。ものすごい偉人とか超人よりも市井の人のきらりと光る生きざまを講談にしている凌鶴先生とクドカンの作るドラマには共通点があるのかもしれない。
大河ドラマなんて「黄金の日々」以来見ていなかった私が本当に久しぶりに楽しみに見ている「いだてん」。なので前から聞いてみたかったのでとてもうれしい!

いいなぁと思ったのは四三が自分には何が欠けていたのだろう、どこが自分の弱点なんだろうと考えた時に、一人で走る、あの孤独が辛い…と考え、いやでも何も一人で走る必要はないのではないか、仲間と励ましあって走るのもいいのではないか、と駅伝に向いていくところ。
今ドラマで見ている四三と重なる部分があって、面白いなぁと思った。
グリコの話も面白かった!

凌天さんのされた話は二つとも初めて聴く話だった。
二つとも面白い話だったなぁ。特に「木村の梅」、面白かった。権力のある人にきちんと進言できる人がいたというのはすごいな…。それはちゃんと聞く耳を持ってるという信頼があればこそ、なんだろうけど。
今の政権じゃ無理だね。ハダカノオオサマ。

不気味な物語

 

不気味な物語

不気味な物語

 

 ★★★★

死と官能が纏繞するポーランドの奇譚12篇――
生誕130年を迎え、中欧幻想文学を代表する作家として近年大きく評価が高まっているステファン・グラビンス 

 読んでいて、あれ?この感じは覚えがあるぞと思ったら同じ作者の「狂気の巡礼」を読んでいた。

建物や場所にとりついた何かに知らないうちに巻き込まれたり、夢が現実を侵していったり…。でも結局のところ人間の情念や思索が狂気を導いているように感じる。文学的なので怖いだけではない美しさもあっていい。

「シャモタ氏の恋人」「サラの家で」「追跡」「情熱」「偶然」「投影」が好き。

白酒・甚語楼ふたり会

2/28(木)、お江戸日本橋亭で行われた「白酒・甚語楼ふたり会」に行ってきた。

・市朗「牛ほめ」
・甚語楼「無精床」
・白酒「百川」
~仲入り~
・白酒「強情灸」
・甚語楼「五人廻し」


甚語楼師匠「無精床」
噺家はきれいごとじゃなきゃいけない」というのは入門した当初から師匠に口をすっぱく言われてきた。
自分はもともと無頓着な方だが、洋服、着物、髪の毛などに気を付けるようになった。
中でも床屋、これがめんどくさい。すごく無駄な時間に思えてしまう。
さっと行ってさっと済ませたいので近所の千円カットに行っているんだけど、同じ床屋にニツ目のわさびも通っていることがこの間明らかになった。
私は床屋に行っても世間話をしたりしないんだけど、わさびがどうやら親方に私のことを話したらしい。
先日行ったら親方が「聞きましたよ~。噺家さんなんですって」と話しかけてきた。
それ以来、私が行くと鬼丸のラジオは流れているわ、落語のことをあれこれ聞かれるわ、サービスなのか30分ぐらいかけてカットしてくれるわ…。さっと行ってさっと帰れなくなってきた。
親方はもともと落語に興味があったらしいんだけど、そのわりにわさびのことはいまだに「ナスビ」と言い間違えてる…!

そんなまくらから「無精床」。
いやもうこれがおかしいおかしい。
床屋に入って来た男の気の良さが伝わってくる。愛想よくくるんだけど、それが親方にいちいち通用しないおかしさ。
といって親方もひねくれてはいるけど決してめちゃくちゃなことを言ってるわけでもなく、悪いと思ったときは「悪かったな」と謝ることもあるのが面白い。
水があんまり汚いんで自分で井戸まで行って汲んでくるよ!と言うお客に親方が井戸の場所を説明するんだけど、それが何軒か人の家を横切って行った末に宿屋に一泊しろ、というのに笑う。
また髪の毛を剃るしぐさとかそういう細かいところがとてもきれいで、だから説得力が生まれるんだなーと思う。
楽しかった~。


白酒師匠「百川」
書類を書かなきゃいけなくていろいろ聞きたいこともあったので協会に行ってきたという白酒師匠。
そこで協会の人にあれこれ聞いていたら「そんなことも知らないの?」と言われ、「そんなこととはなんだ!」と激高。こういう時穏やかに対応すればいいとわかっちゃいるけど、きぃーーっとなってしまう。
するとそこに入って来たのが小満ん師匠。「おやおやどうしたんだい?」みたいにお互いの話を聞いてくれて「そりゃそうだな」「それはいけないな」と両方の意見を汲んで諭してくれる。
最終的には白酒師匠に「書類は書いちゃいけないよ」。
思わず「そうですね…」と言いたくなるけど、書かなきゃいけない書類なのだ!
いやでもほんとに小満ん師匠というひとはいつも穏やかでニコニコしていて粋で物知り。それでいて全く自慢するようなこともなく、「こういうことがあったよ」といろんなことを教えてくれてどれも面白い。
お客様に連れられて幇間を連れて料亭で遊んだ、なんていう話もほんとに面白いし勉強になる。
中には政治家がらみの絶対ナイショの話もあって「師匠、それまくらで喋らないんですか」と言うと「いや、これはさすがにまずいからね」。「じゃ墓場まで持っていくつもりですか?」と聞くと「いやそれはもったいない」。
だからきっと死が近づいてきたら話すはずです。お楽しみに。

…さすがの白酒師匠も小満ん師匠には毒をはかないのね。わはははは。

そんなまくらから「百川」。
白酒師匠の「百川」が面白くないはずがない。
とにかく百兵衛さんが最高にいい。
すごい自然。なのに何言ってるかわからない。そしてとってもかわいい。
前半が爆発的に面白かっただけに後半失速した感じがしたのがちょっと残念だったな。


白酒師匠「強情灸」
おおお。白酒師匠で「強情灸」は初めて。
ちょっと早い段階で熱がりすぎてしまった?おかみさんが窓を閉めてから熱がり方がおとなしくなったのが面白かった(笑)。
ものすごーく熱くなった時の顔がめちゃくちゃおかしくて大笑いだった。


甚語楼師匠「五人廻し」
地方で落語好きが集まってグループを作り、そのグループで落語家を呼んで会をやる、ということが結構ある。
とある地方の落語会。発起人がいて同じように落語が好きで集まって来た人や特に落語が好きというわけじゃないけどなんか面白そうだからと入って来た人など…発起人もおじいさんだし集まってきてる人たちもおじいさん。
自分はニツ目の時に呼んでもらって以来、年に1度か二年に1度ぐらい呼んでもらっている。
代表をやってるおじいさんとは電話で話をしたり、東京に来てると連絡があれば一緒に飲んだりもする。
それが先日「会をやるから来てほしい」と連絡があったんだけど、いつものおじいさんじゃなく別の人からの連絡だった。
新しく連絡してくれた人のことももちろん知っているんだけど、なぜそれまでずっと代表をやってた人じゃなくなったのか…。結構な年だったから亡くなったのかなと思った。
というのはこの会の趣旨が、祝儀はやるけど不祝儀はやらない、だったから。
ほんとだったら長年の付き合いだから亡くなったりしたら連絡が来るところだけど、「不祝儀はやらない」という方針だから連絡もなかったのかな、と思った。
で、会があって行ってみたらやっぱりその代表のおじいさんはいない。それどころかその人の話題さえ出ない。会が終わって打ち上げがあって二次会に行き…いよいよ気になって「あの人は亡くなったんですか」と勇気を出して聞いたら、なんと亡くなってなかった!
その真相が…ぶわはははは。めっちゃおかしい。それを聞いて甚語楼師匠が「ええええ?」と落語の中の人みたいに大きな声を出したのがほんとにおかしかった。大爆笑。

そんなまくらから「五人廻し」。
1人目の男がとても共感できる人物なのがおかしい。
花魁が来てくれっていうから来たのにこの扱い。だいたいなんだよこの部屋…あっちにもこっちにも落書き。あーー読んだら余計に悲しくなってきた。読まなきゃよかった。
こんなことなら来なければよかったなぁ。こんなところに来てお金使ってこんな汚い部屋で俺なにやってるんだろう。
って言ってたらあれ?足音?来た?来たね?いやもう来てくれたらそれでいいんだ。何も文句はないんだ。
あー顔が笑っちゃう。だめだめこんな顔してちゃ。だめだ、顔が戻らない。
え?通り過ぎちゃった?なんで?だったら通らなきゃいいじゃない!

…そういう経験したことないけど、わかるわかる!!ってなるし、顔がつい笑ってしまうっていうところがすごくかわいくてすごくおかしい。

その後の江戸っ子(いどっこ)気取りの田舎者がハンパなくなまってるんだけど、自信満々で声が大きくておかしい。
強面の士官風の男が最初から最後まで命令口調で、でも哀愁が漂ってるのもおかしい。
そして「〇〇でげしょ」の男。それまでコワモテだったのが急になよっとしてヘンテコな口調でそれがおかしくてしょうがない。しかも最初は知った風のことを言ってたのに、徐々に常軌を逸していくおかしさといったら。
最初から最後まで楽しくて笑いどおしだった。楽しかった!

柳家小はんの会

2/27(水)、湯島天神参集殿で行われた「柳家小はんの会」に行ってきた。


・さん福「のめる」
・小はん「棒鱈」
~仲入り~
・小はん「火事息子」


さん福師匠「のめる」
のんびりした口調で最初から最後までとても楽しかった。
そもそも「口癖言ったら1円やる」っていうどうでもいいような賭けだから、相談されたご隠居もやる方もやられる方ものんきなもんで、それが「よし言った!」っていうところだけちょっと勢いづくのが面白いんだな。


小はん師匠「棒鱈」
酒癖の悪い男のグズグズ言うのがとてもリアルでほんとに酔っ払ってるみたい!いるいるこういう酔っ払い。
隣の侍が「まぐろのさしみ」のことを「まぎろのさしむぅ」と言うのがすごくおかしくて、それを聞いた男が同じように「まぎーろのさしむぅーって言いやがる」と真似するのもおかしい。
歌うところは驚くような大きな声で動作も激しい。
小のぶ師匠もそうだけど、こういうところをすごく情熱的にやるのがいいなぁ。
酔っ払いの頭が重くなって扉を倒すところも激しくておかしいし、胡椒を持った板前が必死に止める様子もおかしい。
楽しかった。


小はん師匠「火事息子」
町火消しと定火消しのまくらで、「定火消し」またの名を「臥煙」と申しまして、「臥煙」の
「が」は「巨人を一つにしちゃったような字」というのには大笑い。
小はん師匠のこういうところ、大好き。めちゃくちゃチャーミング。
そういえば私も昔、「こざとへん」と言われてわからなかった時に、「棒が一本立っていて、そこに旗が揺れてるの」と説明されたことがあったな。センスいいな。
臥煙は大部屋に集まって寝ていて、部屋の真ん中に丸太のようなものがありそれを枕にして寝ていた。火事が起こるとその丸太の端を槌で叩いて起こした、というのは初耳。
そんなまくらから「火事息子」。

勘当された若旦那が勝手口からこっそり帰ってくる。
女中のお清に小さな声で声をかけ「さっき知らない女中に声をかけたら変な顔をされちゃったよ」と言い、「〇〇はどうした?」「××は?」と様子を聞く。
「おっかさんはどうしてる?」と聞くと、具合が悪くて二階で寝ていると言われ、二階に行き母親に声をかけると、「ああ、お前かい!」と母親。
母親は、お前が勘当になって家にいなくなってからもう生きていてもしょうがないと思うようになり何も食べなくなったら病になってしまったという。
そう言われて若旦那は「じゃあ俺が帰って来なかったらおっかさんの病気は治らないのかい?」と驚き、そんな酷い話があるもんかとうなっていると、他の臥煙に「どうしたんだ?悪い夢でも見ているのか?」と起こされる。

まくらで聞いた臥煙の寝間が目に浮かんでくるし、勘当された若旦那が今も父母を懐かしく思う気持ち、ことに母親に会いたいと思っている気持ちが伝わってきて、じーん…。
そして若旦那を起こした仲間が「さては夢を見ていたな」と言って、自分が見た夢の話をあれこれとするんだけど、これがまたすごくバカバカしくて笑ってしまう。
「お前は珍しく博打嫌いだから」というセリフもあって、おそらく臥煙の中でも浮いているけれど、家にも帰れない若旦那の姿が目に浮かぶ。

それからご近所が火事になった実家の様子。
大旦那が心配して訪ねてくる人たちの応対をしつつ、風向きが変わったからもう安心だ、とほっとしていると、番頭がやってきて「目塗りをしないとしましがつかない」。
そう言われた大旦那が定吉に目塗りに使う土を持ってくるように言い、番頭に梯子に上るように言う。
梯子に上っておっかながっている番頭と、下から不器用に土を放る大旦那が…ほんとにだめそうで大笑い。
駆け抜けてくる臥煙の姿を描写するときは大きな声で迫力がある。

親子の対面のシーンでは、厳しい顔を見せてすぐに「帰れ」と言う父親と、どこまでも甘い母親。
旦那を責めるおかみさんがとてもチャーミングだし、厳しいことを言いながらも息子の身を案じていることが伝わってくる旦那の優しさもいい。
とてもあたたかくてじんわり泣ける「火事息子」。よかったー。

 

愛の顚末 純愛とスキャンダルの文学史

 

愛の顚末 純愛とスキャンダルの文学史

愛の顚末 純愛とスキャンダルの文学史

 

 ★★★★★

悲恋、秘められた恋、ストーカー的熱情など、文学者たちの知られざる愛のかたちを追った珠玉のノンフィクション。

小林多喜二――沈黙を貫いて亡くなった小林多喜二の恋人、田口タキ。多喜二に深く愛されながらも、自分は彼にふさわしくないと身を引き、それゆえ伝説的な存在になった。
近松秋江――女性に対する尋常でない恋着を描いて明治・大正の文学史に特異な足跡を残した近松秋江。いまでいうストーカーのごとき執着と妄執は、「非常識」「破廉恥」と評された。
三浦綾子――旭川の小学校教師であった三浦綾子は、敗戦による価値観の転倒に打ちのめされ退職、自死を図る。光を与えたのはクリスチャンである一人の青年だったが、彼は結核で逝き――。
中島敦――母の愛、家庭のぬくもりを知らずに育った中島敦が選んだ女性は、ふくよかで母性的な人だった。だが彼女には親同士が決めた婚約者がいた。そこから中島の大奮闘が始まる。
原民喜――最愛の妻を失ったときから、原民喜はその半身を死の側に置いていた。だが広島で被爆しその惨状を目の当たりにしたことで、彼は自らの死を延期したのだった。
他に梶井基次郎中城ふみ子、吉野せい、宮柊二など。

 

 以前は作家の人となりは知りたくないと思っていたけれど今はとても興味がある。

素晴らしい作品を書く作家が素晴らしい夫ではないことを証明するようなエピソードが多いけれど、身勝手さや弱さも含めて文学的だ。

書くことが生きることとも、また死ぬこととも繋がっているように感じる。

愛を持って描きながらも少し距離を置く、作者の作家への距離感がとてもいい。
積んでる「狂うひと」も素晴らしいに違いない。読まなきゃ。