りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

今夜、すベてのバーで

 

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

 

 ★★★★★

 薄紫の香腺液の結晶を、澄んだ水に落とす。甘酸っぱく、すがすがしい香りがひろがり、それを一口ふくむと、口の中で冷たい玉がはじけるような……。アルコールにとりつかれた男・小島容(いるる)が往き来する、幻覚の世界と妙に覚めた日常そして周囲の個性的な人々を描いた傑作長篇小説。吉川英治文学新人賞受賞作。薄紫の香腺液の結晶を、澄んだ水に落とす。甘酸っぱく、すがすがしい香りがひろがり、それを一口ふくむと、口の中で冷たい玉がはじけるような……。アルコールにとりつかれた男・小島容(いるる)が往き来する、幻覚の世界と妙に覚めた日常そして周囲の個性的な人々を描いた傑作長篇小説。吉川英治文学新人賞受賞作。

 ★★★★★

面白かった。

巻末の対談を読むとアル中や入院中に出会った人とのエピソードはらもさんの体験に基づいた話のようだが、いやぁ…壮絶だなぁ。そしてらもさんの早すぎる死を知っているだけに、なんて破滅的な生き方だったんだろうと思う。

アル中について書いてる本を肴にウィスキーを毎日一瓶あける主人公の皮肉なことよ。
知識があったり自分のことを俯瞰して見る冷静さがあっても、何かに依存してしまいにっちもさっちもいかなくなってしまう。人間って弱いものだよなぁ…。

何かに依存せずにはいられない弱さと愛する人のために立ち直ろうと決意する優しさ。両方あるのが人間で、特にアルコールについては自分も決して他人事ではなく…作中のアルコール依存症テストではしっかり「重篤」で、まずいなーという想いを新たにした。

霊安室で医者と殴りあうところとラストがとても美しく強烈な印象を残す。また死者は卑怯だというさやかの言葉が心に残る。

人間の弱さや脆さを見せつけられるようだが、それでもどこか達観した明るさとユーモアがあってそこが独特だ。よかったー。
中島らも作品、もっと読もう。

さん助ドッポ

11/24(金)、お江戸両国亭で行われた「さん助ドッポ」に行ってきた。


・さん助 初代談洲楼燕枝の述「西海屋騒動」第十四回「三七日」
~仲入り~
・さん助「鼻ほしい」
・さん助「茗荷宿」
・さん助「いかけや」


さん助師匠 初代談洲楼燕枝の述「西海屋騒動」第十四回「三七日」
いつものように立ち話から。
私はこの世界に入る前からベテランの師匠が好きで、入ってからもすごく好きなんです、とさん助師匠。
末廣亭の中席に入っていて、自分の後の出番に小はん師匠と栄枝師匠が交互で入っていた。
両師匠ともとても早めに楽屋入りされていて自分が行くとすでにいらっしゃっていた。
初日、火鉢の前に座っていると小はん師匠が話しかけてきた。「あなた…どこに住んでるの?」
ああ、私のことを何も知らないけど聞いてくださったんだなと思いながら答えると「ああ、そう」。
その後もそんなふうに少し話をできるようになってきたので、前から気になっていたことを聞いてみた。
というのは小はん師匠はいつも着物でいらっしゃるのだが、なんかとても変わった羽織を着ていて、それは合わせなのかなんなのかが気になっていたのだ。
すると小はん師匠「これはね…デニム」と。
ええ?と驚くと、おかみさんが着物を仕立てられるので、自分で生地を買ってきて作ってもらったのだと。本当は「若いやつらに負けないように」ダメージジーンズみたいにしたかったらしいのだがそれはおかみさんに止められた、と。

一方栄枝師匠にも「師匠は外国のロックにお詳しいんですか」と聞いてみたら「私はオリビアニュートンジョンと仲がいいのだ」と意外な答え。なんでもまだ彼女が有名じゃなかったころからのファンでファンクラブを作ったのは自分でコンサートの時は友達を50名ほど募ってペンライトを振ったのだ、とか。
話しはじめると止まらない栄枝師匠。
さん助師匠が自分の出番が近くなったので扉の方に移動すると、なんとそこまで付いてきてまだ喋っていた…。

…ぶわはははは。楽しい~!楽しすぎる~。
私もベテランの師匠方が大好きなので、そういうエピソードを聞けるのは本当にうれしい。
さん助師匠の見た目全然若く見えないから、そういう師匠方も違和感なくしゃべれるんじゃないか。ありがたや~。

そんな立ち話から「西海屋騒動」第十四回「三七日」。

久兵衛と清蔵の罵りあいに割って入ったのが勝五郎。久兵衛は他の人だったら知らないようなことを知ってるのだから兄に間違いないだろう。たった一人の兄をそんな風に罵ってはいけないと言うと、清蔵は「勝の言うとおりだ。私もついかっとなってすまなかった。兄さん、許してください。これからは私が兄さんの面倒を見ます」と謝る。
そう言われた久兵衛も謝り和解する。
しかしこれは清蔵が敵を欺くには手なづけたほうがいいと考えたからだった。

長屋の空き部屋に久兵衛を住まわせたのだが、しばらくすると久兵衛の具合が悪くなり起き上がれなくなる。
しかし清蔵もお静も見舞いにも行かず、ただ一人義松だけが膳を運んだり薬を飲ませたりかいがいしく世話をしていた。

ある日、義松が久兵衛のところを訪ねると「私の面倒をみてくれるのはお前だけだ。お前の望みを聞かせてくれ。叶えてやりたい」と言う久兵衛
最初は「とんでもない」と言っていた義松だったのだが、久兵衛に「お前は見た目もいいし優しく振る舞っているのが目の奥に暗いものがある。うわべは主人に忠義を尽くしているようだが実はそうではないだろう」と言われると「自分は8歳の頃から賭場に出入りし、育ての親を殺した身の上。生まれついての悪性は隠しきれるものじゃない」と身の上話をし、「店の金をちょろまかしたりすることはできるが、主人の女房に手をつけることはできない」と「お静を自分の女にするのが自分の望みだ」と言う。

それを聞いた久兵衛は「わかった。だったらお前の望みをかなえてやる。私が死んだ三七日にお静といい仲になれるようにしてやる。」そう言うと、自分の舌を噛み切る。
あたり一面に血しぶきをあげながら今度は下唇も噛み切って死んでいく久兵衛の死にざまを見届ける義松。

簡単な葬式は行ったものの墓参りにも行かない清蔵とお静。義松一人は久兵衛の墓へ詣り一心不乱にお経をあげている。
三七日になった時、お静が「この日ぐらいは世間体もあるから私が墓参りに行く」と言い出し、義松と二人墓参りへ。
墓の掃除をして花を手向けお経をあげる義松の姿を見つめるお静は、今まで気にも留めていなかった奉公人の美男子ぶりに初めて気づく。
お清めをしようとお静に誘われ料理屋へあがると、お静がふんだんに祝儀を与えたせいか店の者は遠慮して誰も上がってこない。
そこで二人で酒を飲んでいるとお静が「あたしは面倒なことは嫌いだ。お前は私のことが好きだろう。」と義松に迫り、二人は割りない仲になってしまう…。

…うひょー。久兵衛、簡単に死んじゃったー。こりゃまたお得意の毒を盛ったのか、清蔵よ。邪魔者はすぐに患って死んじゃうもんなー。
そしてここへ来て義松がまた浮上してきた。お静とそうなるか、そうですか。
義松が30歳とか言ってたけど、時系列がよくわからん…。でもそうよね、結構な年月が流れているはずだから、それぐらいの年になっていても不思議はないわよね。

しかしなんていうかこう…男と女の場面も案外多いわね、西海屋騒動って。
そしてさん助師匠にそういう場面をやられるとなんかこう目のやり場に困るっていうか…ははははやくそこはちゃちゃっと終わらせて、と思ってしまうのだった。


さん助師匠「鼻ほしい」
この間末廣亭で聞いた「鼻ほしい」。あの時は時間も押していたので結構刈り込んでいたと思っていたんだけど、今回もそんなに変わらなかったような。
浪人が鼻がなくなってしまったいきさつみたいのをもう少しちゃんと話した方が分かりやすい気がしないでもない。病で鼻がなくなるって…?梅毒じゃないの?

いやしかしもうあのふがふがした喋り方がイケナイおかしさ。これで笑うって人としてどうなのよと思いながらもおかしくておかしくて。
浪人のまじめな人柄が伝わってくるだけに余計におかしかなし。

後で、自分が前座の頃この噺を高座にかけているのを袖で見ていて「こういう噺をよくやるなぁ」と思っていたけど、まさか自分がかけるようになるとは、なんて言っていたさん助師匠。
面白かった!


さん助師匠「茗荷宿」
「茗荷宿」というと白酒師匠!なので、それと比べるとなんかこう…帯に短し…な感じがしてしまうのだな。
江戸っ子二人組が泊まりかけてあまりのひどさに泊まらずに帰ってしまう一件は結構面白かったんだけど、常客の飛脚が百両入った胴巻きを預けていると女房に聞いて、夢の中で殺しに行く、という部分はいらないような…。
次の日、茗荷の湯にお口直しの梅干しと思ったらそれも茗荷っていうところが面白かっただけに、もっと茗荷のフルコースをたっぷりー!という不完全燃焼感が。

でもダメダメな宿屋の主人に、おっちょこちょいの飛脚というのは面白かった。もっとコンパクトになったら面白いと思う(またしても上から目線。すびばせん)


さん助師匠「いかけや」
「いかけや」と言えば喜多八師匠で、小辰さんも最近よくやられているけど、私この噺あんまり好きじゃなくて今まで一度も面白いと思ったことがない。
小辰さんが子どもがわーーっとやってくるところをすごく大きな声でやるの、好きじゃなくて、なんでわざとあんなに大きな声を出すんだろう、と思ってしまって…。

でもさん助師匠が子どもがわーーーっと大きな声を出すところはすごくおかしくて、これはもうほんとに好みの問題なんだと思うけど、大きな声を出しただけでおかしいって最強!と思った。

子どもたちが来ることに気づいたいかけやが「うわー来たよ。迷惑株式会社(だったっけ?)が。来なくていい来なくて」とぶつくさ言うところから、子どもが大人びた口調でなんだかんだ言うところ、そのやりとりはおもしろかったんだけど、その後の失速がすごかった(笑)。
鰻屋のところに入ってからは前半の楽しさがなくなってなんとなくぐずぐずに…。

多分私がこの噺を好きじゃないのは、あまりにもいかけやと鰻屋がかわいそうになっちゃうからだと思うんだな。
この人たちが子どもとのやりとりを面白がってる感じがあればもっと楽しめる気がする。
鰻屋が「おまえ…うまいこと言うな」とちょっとにかっとした時は見ていて少し面白い!と思ったから。

しのばず寄席 夜の部

11/21(火)、しのばず寄席夜の部に行ってきた。
しのばず寄席は開演が早いので諦めていたのだが、頑張ればトリには間に合うぞ!と気がついてトリだけ見るために入場。それもこれも、このチケットのおかげ。もうすでに3000円の元はとれているのであとは行けば行くだけ得なのだ~。ひゃっほい。


遊吉師匠「城木屋」
落語の起源についてとてもわかりやすく説明されて、さすが大学で講師をされているだけのことはあるなぁ…。三笑亭可楽という方が一番最初に落語家を名乗った人でその人が背が低かったから「山椒は小粒でぴりりとからい」をもじって「三笑亭可楽」。その人は客から題を募って三題噺をやったりしていた、と。
要するに落語っていうのはダジャレとか小噺が長くなったっていうようなものでね、と
いうまくらから「城木屋」。うおお、「城木屋」は小満ん師匠でしか聞いたことがない!こういうあんまりされない噺を聴かせてくれるのかー、遊吉師匠は。うれしい!

奉公先の娘に横恋慕して恋文を渡しそれがおかみさんにバレて注意されるとその家の金を持ち出してとんずらするというとんでもない番頭。
その娘が結婚すると聞いて無理心中を図ろうと家に忍び込み娘を殺そうとするのだがそこで気が付かれお縄になる。

お調べの席で最初はしらを切っていたのだが、もう逃れられないと思ったところで、今度はそのいきさつを東海道五十三次でシャレて返事をする…。

おいおい!っていう噺だけど、遊吉師匠のかる~い口調でかる~く話されると、不快な感じは全然なくて、ただただばかばかしい。
楽しかった!

結婚のアマチュア

 

結婚のアマチュア (文春文庫)

結婚のアマチュア (文春文庫)

 

 ★★★★★

 結婚30周年を祝うパーティが開かれた晩、「それなりに楽しい結婚生活だったわよね」と振り返るポリーンに、「地獄だった」と夫のマイケルはつぶやく。それはいつもの夫婦喧嘩のはずだったのだが―どこにでもいる夫婦の60年間を、円熟味あふれる筆致で巧みに描く。しみじみおかしくてほろ苦い“身につまされる”小説。

アンタイラー再読三冊目。

パールハーバーの日に出会い劇的なひとめぼれをし結婚したマイケルとポリーン
恋愛ドラマであればそこで「めでたしめでたし」で終わるところだが、結婚はゴールではないし恋愛感情も永遠に続くわけではないので、それからの60年がそれぞれの視点から語られる。

長い結婚生活の間にお互いの嫌なところが目に付いたり性格の不一致が浮き彫りになったり、お互いの弱みをしっているだけに喧嘩の時に急所を突いてしまったり…。

特にポリーンのように直情的な性格だと喧嘩の絶える時がないわけで。
マイケルの悲嘆や後悔もわからないではないけれど、それでもポリーンにもいいところはたくさんあるわけで。

そんな結婚生活を「それなりに幸せ」と思うか「地獄」と思うかはお互いに感じ方にもよるし性格にもよるのだろう。

結婚30周年目にマイケルが起こした行動には読んでるこちらもびっくりし傷ついた…。くーーーそういう展開もありかー。
アンタイラーは本当にその人のキラッと光るところを描くのがうまいからなんどかぐっときて泣いてしまった。

特に後半の末っ子ジョージの語りがとてもいい。夫婦って…家族って…。相性もあるししんどいことも多いけどなくてはならないものだよなぁ、としみじみ。
よかったー。再読してアンタイラーの描く世界が本当に好きだということを実感している。

大江戸悪人物語2017-18 [ episode 4 ]


11/20(月)、日本橋社会教育会館で行われた「大江戸悪人物語2017-18 [ episode 4 ]」に行って来た。


・まん坊「平林」
・松之丞「慶安太平記より戸村丹三郎」
~仲入り~
・龍玉「真景累ケ淵よりお久殺し」

まん坊さん「平林」
喋りが安定していないのでちょっと聞きづらいのだが、ところどころすごく面白いところがあって、さすが萬橘師匠のお弟子さん。
「寿」を「姑」と読む小噺も面白かった。

松之丞さん「慶安太平記より戸村丹三郎」
まっちゃん祭りが終わって気が抜けているという松之丞さん。
やる気はあるけど力が出ない、というの、よくわかる。
テレビ番組のコメンテーターの打診もきているそうで、売れるってこういうことなのねー。むー。

今回は主人公正雪は出てきません。最後の方にちょこっとだけ名前が出るだけです。
そんなまくらから「戸村丹三郎」。

ある日、品川の遊郭の前で若い衆に声をかけられている浪人風の男・丹三郎。
この場面で若い衆が口をとがらせてちゅうちゅう音をたてるのだが、「これは客を呼び込むときのBGM」と松之丞さん。これはどうやって音を出すのですかと自分の師匠に聞くと、うちの師匠が至近距離で「ちゅうちゅうちゅう」とやって見せてくれました、に大笑い。あのコワモテの松鯉先生が…。ぶわははは。

「あがってくださいよ」と言われて「金がないからあがれない」と言うのを、若い衆が「あなたなんかは顔がいいから、上がれば花魁の方が金を払ってくれますよ」。
そう言われた男は「ならば」と上がり、言われるがままに酒や肴を注文し3日居続ける。
さて勘定をと言われた男。「それは花魁が払ってくれる」と言うので、若い衆が「まさかあの言葉を本気にしたのか」とびっくり。
騒ぎを聞きつけた店の主人が男の部屋を訪ねるのだが、本気で言われた言葉を信じていた率直さに心を打たれ「では知り合いの口入屋を紹介するからそこから奉公に出るか」と言うと「そうしてくれるとありがたい」と言う。

口入屋の主人も鷹揚な口のききように驚くものの率直な人柄が気に入り柳生宗矩の家で奴として働くことになる。
もともと武芸を極めたいと思っていた丹三郎にしたらまさに渡りに船。どうにかして宗矩に武芸の手ほどきを受けたいものだと思いながらも、下働きの身ではどうすることもできない。
そんなある日、宗矩が供の者を連れて浅草寺に出かけた折、酔っ払いの侍がからんできた。
家来の者が酔っ払いの相手をしないのに苛立った丹三郎はその侍を相手に大立ち回りをして退ける。
その後、宗矩に呼ばれ「大した腕前であった」と褒められた丹三郎は「褒美の金はいらないので自分と勝負をしてもらいたい」と言う。
それに対して宗矩は「お前は武芸はこれ以上は上達しないからあきらめろ」とにべもない。
どうしても納得できない丹三郎は宗矩に木刀で挑むのだが、あっという間に腕をとられひねられてしまう。
実力の差をまざまざと見せつけられた丹三郎。
それまでの憧れや愛はあっという間に憎しみに変わり、宗矩を倒したい、さらには宗矩がつかえている徳川家も倒したいと思うようになる。
そこにつけこんだのが幕府転覆を企て仲間を募っていた正雪。
かくして丹三郎は正雪の部隊に引き入れられるのである。

…うーん。面白い。
3か月に一回なので前の話を結構忘れちゃってるのだけれど、話し始める前に簡単にあらすじを話してくれるし、まぁとにかく毎回メリハリがあって面白いので、夢中になって聞いてしまう。
松之丞さん、前はとにかく押しが強い印象だったけど、最近はそうじゃなく静かに喋るなかにも凄みがにじみ出てきている。すごい。

 

龍玉師匠「真景累ケ淵よりお久殺し」
死んだ豊志賀の布団の下から「お前がこの先もらう女房7人まで呪い殺す」という書置きを見つけた新吉はぞーっとし、その書置きを持っていたくないので棺の中に忍ばせる。
墓参りもするが気味が悪いのであまり遅くならない時間に行くようにしていた。
ある日、墓参りに行くと、そこでお久とばったり会う。
お久は継母が「お前は新吉と割りない仲になっているのだろう」と自分を折檻するのでもう耐えられない。羽生村のおじさんのところへ移り住みたいが女一人ではどうすることもできない、と言う。
新吉は「ならば私も一緒に行こう」と言い、二人で駆け落ちすることに。

羽生村に着くともうあたりは真っ暗。雨が降り雷が光る不気味な夜。
もうすぐおじさんの家だから先を急ごうと新吉が言うのだが、お久は泥に足をとられずるずると落ちてしまう。
お久が「痛い」と言うので何事かと新吉が近づいてみると、草むらに置きっぱなしだった草刈の鎌がお久の足を切り裂き血を流している。
手拭いで傷を縛ってどうにか先へ進もうとするのだが、お久の様子がおかしい。
お前は今はこうやって駆け落ちしてくれたけど、また別の女に言い寄られたら私を棄てるのだろうなどと言いはじめ、そんなことはない、いやそうだ、などと言い争ううちにふと顔を見るとお久の眼の下にできものができそれが腫れ上がり豊志賀の顔に…。
新吉は恐怖のあまり、持っていた鎌でお久に向かっていきめった切りにしてしまう…。

これが豊志賀の呪いなのかと暗闇の中逃げる新吉はそこに潜んでいた男と鉢合わせをする。
男は雷が怖いと見えて草むらに隠れていたのだが、新吉に気が付くと襲い掛かってくる。
どうにか男を振り切って逃げる新吉はようやく一軒の人家を見つける。一晩泊めてくれないかと声をかけると中には爺さんが一人。
入れてくれるが泊めることはできないという。
というのはこの家は爺さんの家ではなく、この爺さんも雨をしのぐために入っただけだという。
この家の主は出かけていて留守なのだと。

そんな話をしていると一人の男が入ってくる。これがこの家の主。
爺さんは帰っていき、甚蔵と二人きりになる。
これが先ほど襲い掛かってきた男で名前を「土手の甚蔵」、江戸を追われてこの村に住みつき、博打をやったりする渡世人
お前も江戸を追われてきたのだったら、兄弟分にならないかと持ち掛けられ、渡りに船と受ける新吉。
甚蔵は新吉がお久を殺したと気づいていて金目当てで殺したのだったらその金を奪おうと思っていたのだが、新吉から事情を聞いて「じゃ金はないのか?」と驚く。
豊志賀の話を聞いて「えらいもんを背負い込んじまったな」と嫌な顔をするが、「まぁこれも因果か」と新吉を家に置くことにする。

…いやぁーこわいー。
でも甚蔵とのやりとりは落語らしいおかしさもあって笑ってしまう。
やっぱり緩急がないと聞いていてしんどいばかりだもんな。そういうところもうまいなぁ。

こうやって知らない噺を続きもので聞くのって楽しい~。

こはぜのたび

11/18(土)、御茶ノ水・素音洞で行われた「こはぜのたび」に行ってきた。


・小はぜ「狸鯉」
・小はぜ「浮世床(通し)」
~仲入り~
・小はぜ「妾馬」


小はぜさん「狸鯉」
満員のお客さんにうれしそうな小はぜさん。
喜びを表しながらも「でもたくさん入らなくても…お客さんが少なくても…一名でもいいです。向かい合って顔を見ながらやりますから」と付け加えずにはいられない小はぜさんが素敵。

ここへ来る前、チラシを入れに落語協会に行ってきた、という小はぜさん。
10時すぎだったんだけど黒門亭に並んでいるお客さんがすでに5名ほどいらした。黒門亭には必ずくる男性が何名かいて…それ以外の方も並んでいて、そのうちの一人が「あら、小はぜさん」と話しかけて来てくれた。
「ずっと応援してるんですよ」と言って下さったけど…。
そう言って会場を見まわして「まだいらしてないみたいですね。応援してくださってるんだったら黒門亭じゃなくてこちらの会ですよね!」。

…ぶわははは。
小はぜさんらしからぬ言葉に思わず吹きだしたよ。

そんなまくらから「狸鯉」。
鯉に化けた狸を兄貴分のところに持って行き、「すぐには食べないだろうからその隙に逃げちゃいな」と言っていたのに「いますぐ調理して食べる」と兄貴に言われて動揺を隠せない男。
「え?だってかわいそう…」「世話になったのに」「なんか…悪かったなぁ」
前に聞いた時より狸に思いやりを見せるのがおかしかった~。


小はぜさん「浮世床(通し)」
小はぜさんが「浮世床」ってなんか少し意外~。あ、でも小はぜさんのことだから通しでやるのかも!と思っていたらやっぱり…。

将棋、本、かくし芸、夢とやったけど、夢がよかったなー。なんかかわいいんだよな、小はぜさんが女にでれでれするところがとっても。
あとで「私みたいな前座からニツ目になってまだ1年なんていう者が、おいしいところだけやるのはまだ早いと思うから、通しでやりたい」と言ったのが、とても小はぜさんらしくて素敵だなぁと思った。
二ツ目になって覚えた噺が幾つで上がってない噺があと幾つ…。来年からまた自分がどんな噺をやりたいと思って覚えていくのかが楽しみ、なんてことをおっしゃっていたけど、ほんとにこれから先小はぜさんがどんな噺家さんになっていくのか、楽しみだなぁ。

小はぜさん「妾馬」
黒紋付きで出てこられたので、「妾馬」かなと思ったやはりそうだった。

鶴川で聞いた時よりもまたよくなっていて、すばらしい。
何も足したりしていないし、どちらかというと抑え気味にやられているのに、兄心が伝わってきて、じーん…。
ぞんざいな口をきいても、もともとに品があるから悪い感じが全くしない。

お殿様も品があって鷹揚な感じが伝わってくるし、なんかすごいなぁ…これがまだ二ツ目になって1年目なんだから。

この噺はとても小はぜさんに合ってると思った。すばらしかった。

 

国立演芸場11月中席夜の部 三代目桂小南襲名披露興行

11/17(金)国立演芸場11月中席夜の部 三代目桂小南襲名披露興行に行ってきた。

山上兄弟 マジック
小遊三「蒟蒻問答」
~仲入り~
・襲名披露口上(可龍:司会、金太郎、小南、南なん、鯉昇、小遊三
・南なん「不動坊」
・鯉昇「ちはやふる
東京ボーイズ
・小南「箒屋娘」

小遊三師匠「蒟蒻問答」
問答のまくらから「蒟蒻問答」。わーーー!
小遊三師匠、この披露目にもほとんど全部に出て、噺もいろいろ変えて…「蒟蒻問答」なんて面倒な噺だと思うんだけど、それをかける素晴らしさ。好きだなぁ。
お寺にはいろいろ符丁があったと言ってあれこれ並べてから…「今思い出せるのはこんなもんかな」がリアルで笑った。

蒟蒻屋のおやじの「いーよーそんなの適当にやれば」の大物っぷりが板についていて楽しかった~。

襲名披露口上(可龍師匠:司会、金太郎師匠、小南師匠、南なん師匠、鯉昇師匠、小遊三師匠)

南なん師匠の口上、「春日部ですから」の文句のあとに、「みなさんの応援をよろしくおねがいします」とさらにシンプルになっていた。

鯉昇師匠の口上。小南師匠の落語を「楽屋の仲間が袖で聞いていて楽しい落語です」。なによりうれしい言葉だよなぁ。素敵だなぁ。


南なん師匠「不動坊」
夫婦のご縁のまくらで「もしやもしや」と思っていたらやはり「不動坊」だった。がーん…。
もう南なん師匠には「不動坊」しか聞かせてもらえないような気がしてきた…。しくしく…。
毎日「不動坊」をやってるわけではなく、そのほかの日は違う落語をやっているだけに…ショック。
ってこんな風に噺でがっかりするのは本当に失礼だし、そんな風に思ってしまうのは私が南なん師匠を追いかけすぎてしまったせいだから、しばらくもう行くのよそうと思う。あーー南なん師匠の「不動坊」を聞きたいよー!と思えるようになるまでは行かない。決めた。


鯉昇師匠「ちはやふる
私時々床屋に行きます、と鯉昇師匠。
みなさんが「お前が床屋に?行く必要ある?」と思われたことは伝わってきましたけど、行くんです。行くようにしてるんです。
みなさん見ての通り私の頭は床屋さんが本気を出せば3分で終わる。本気出さなくても6分もあれば十分なはず。なのに毎回40分かかる。なんで40分かかるんだろう。そう思ってこの間薄目を開けてみたら、床屋の親方、私の耳元でハサミをただかしゃかしゃ言わせてただけだった。

でもそういう風に時間をかけないと手を抜かれたと言われるんでしょう。
時間が信用になる商売っていうのがあります。私どもの商売もそうです。
今まで出てきた噺家も合わせて全員で40分もやればほんとは終わるんです。でもそれだとお客さんがなんか損をした気分になってしまう。だからこうやって無駄話をして時間を延ばして落語を始めて「このあたりでよかろう」というところでおしまいにするんです。

…ぶわはははは!おかしい~!!
その後の9時のサスペンスドラマの話もおかしかった~。
そんなまくらから「ちはやふる」。
前に聞いた時よりさらに進化していて楽しい!モンゴルの草原にぽつんとたった豆腐屋。そこに千早が来てからの展開が前と違って、背中を押されて飛んで行ってしまって終わり。戻ってこない。
ほっとした竜田川が豆腐を桶にぽちゃんと落としておしまい。

いやぁ面白かった。最高だった。


小南師匠「箒屋娘」
これもまた先代小南師匠の噺らしいけど、いやぁ…独特だなぁ。特に笑いどころがあるわけではなく、でもこれはもともとそうなのか今の小南師匠がそうだからなのかわからないけど、若旦那の喋りが独特で少しエキセントリック。
前はこれがちょっと苦手だったけど、このお披露目で見慣れたせいか、これはこれで一つの味だな、と思うようになってきた。

楽しかった。

夢見た旅

 

 ★★★★★

南部の片田舎で暮らす逃避願望の強い主婦。この日常には、うんざり、いつかは夫を捨て、生活を捨て、どこかに旅立ちたい。子供の頃から「夢見た旅」に出たい。そんなことを考え家出資金を調達に行った銀行で、主婦は銀行強盗に出会い、人質として車に乗せられ連れて行かれる。二人の逃避行には、やがて青年の子供を妊娠した少女も加わり、三人は微妙な人間関係をつくることになる。まるでハリウッド映画のようなストーリー。これぞ、アン・タイラーといえる傑作。 

アンタイラー再読二冊目。

この家から出たいと夢見ながらも生まれ育った場所から離れることが出来ない主婦シャーロットが、ある時強盗の人質になって思いがけぬ逃亡の旅に出る。
ピストルで脅しながら乱暴なことを言いながらも、どこか幼さが残る強盗と旅をしながら自分の半生を振り返る…。

動くこともままならないほどの肥満の母と鬱状態の父に育てられたシャーロット。陰気な家から出たい出たいと思いながらも家に縛りつけられ逃れることができない。
幼馴染のチョイ悪と思っていたソールと結婚することでついにこの家を出て行けるかと思いきや、ソールは牧師になってこの家で暮らすと言いだす。
そんな家に今度はソールの兄弟たちが戻ってきて、自分の家族だけでなく夫の兄弟たち、果ては夫が連れて来た「罪深き人たち」の世話までしないといけないシャーロット。
トラベラーズチェックを財布に入れ、夫を捨てて家を出ようと思っていた矢先、銀行で強盗に人質にされてしまう。

神に目覚め(たのか?ほんとうに?ほんとのところはよくわからない)妻のやることなすこと非難の目を向ける夫ソール。今度こそほんとに好きになれない夫キター。
シャーロットにもイライラするけどでももうこれは出るしかないよ!いいよ、もう!出ちゃえ!読んでいて何度もそう思った。

事を荒立てることが嫌いで騒ぎが嫌いで不満を抱きながらも一歩を踏み出せないシャーロット。
そんな彼女を非難し、その後見直して想いをぶつけてきた人もいたが、その人も去り…。
シャーロットがどうして本当に家を出る決心をしたのか、人質になったのがどんなタイミングだったのか、読んでいるとわかってくる。

あきらめの境地で「動かない」を選択してきた自分を悔いていたけれど、自分は本当にずっと動かないでいただけなんだろうか。
そんなことはない。なぜなら人生そのものが旅なのだから。そして自分がどうにかこうにかやってきたのだから。

こんなにもやもやいらいらする話なのに最後まで読んでのこの爽快感はいったい。うーん、たまらない。よかったー。

 

第139回練馬区民寄席~小三治・一朝~

11/16(木)、練馬文化センター小ホールで行われた「第139回練馬区民寄席~小三治・一朝~」に行ってきた。


・小多け「たらちね」
・小八「噺家の夢」
・一朝「天災」
~仲入り~
・小菊 粋曲
小三治「公園の手品師」~「出来心」


一朝師匠「天災」
大好きな「天災」を大好きな師匠で聴ける幸せ。
どんなに乱暴でぞんざいな口をきいても、まるっきり腹にないことが伝わってくるので、聞いていてからっと明るい。
「なにぉー?」なんていうのも、ただただおかしい。

大家さんに先生に会いに行けと言われて「なんだかよくわかんねぇけどわかったよ」と出かけていき、先生の話にもいちいちまぜっかえしたりしていたのに、「天災」と聞いてストンと腹に落ちて「いいことおせぇてもらっちゃった!」とご機嫌で帰っていく江戸っ子のかわいらしさよ。

そのあと真似してことごとくめちゃくちゃになるのがもう楽しい楽しい。
いやぁ…素敵だった。一朝師匠、大好きだ。


小三治師匠「公園の手品師」~「出来心」
今年の夏が変だったからもう冬は来ないんじゃないかとおもったけど急に寒くなってどうやら冬が来るらしい。
イチョウの葉が黄色くなって散り始めるとこの歌を歌いたくなる。
といって「公園の手品師」。
1番をうたって拍手が起きると「まだ早い。二番がある」と笑わせて、「何も二番まで歌うことはないか」と言ったかと思うと、やはりまた歌い始める。
フランク永井さんにこの歌が好きだと言ったら涙をぽろりと流された、という話から、「でもあの人は胡散臭い人だった」と言ってフランク永井さんの話になるのかなぁと思ったら「胡散臭いと言ったら政治家」と政治の話になったり…。
今日もまくらたっぷりだね!と思っていたら、わりとあっさりやめてどろぼうのまくらから「出来心」。

わーー、「出来心」久しぶり。しかも通しって!
小三治師匠がされる噺の中で一二を争うぐらい好きな噺なのでうれしい!

呑気な泥棒は空き巣に入っても羊羹食べたり雑炊食べたり。足音がして「まずい!なんとかしなきゃ」と言いながら、雑炊をもう一匙すするのがおかしい。
泥棒に入られたと気付いた八が「あー大変…でもなんでもねぇな。家にはなんにもねぇんだから」と言って、「そうだ、店賃を持って行かれたことにしよう。おーやさーん。おーやさーん。あっしのところに泥棒がはいりやした。おーやさんてばよー。泥棒おーやー」
当たり前のセリフだけで思わず吹き出してしまう調子のよさ。たのしい!

大家さんが「盗られたものを言え」といって八つぁんが一つ覚えの「花色木綿」をなんにでもつけちゃうのがおかしいし、それに対して「そんなもんに裏が付くか」「なんか言ってるよ」と適当にかわす大家さんにいつもじーんときてしまう。

楽しかった~。いいもの見た~。満足満足。

 

末廣亭11月中席夜の部

11/15(水)、末廣亭11月中席夜の部に行ってきた。

・たま平「牛ほめ」
・さん助「京見物」
・ぺー 漫談
・小はん「親子酒」
・さん福「権助魚」
マギー隆司 マジック
・小団治「ぜんざい公社」
・南喬「粗忽の釘
~仲入り~
・喬之助「締め込み」
笑組 漫才
・圓太郎「浮世床(本)」
・左橋「目黒のさんま」
・勝丸 太神楽
・左龍「百川」


たま平さん「牛ほめ」
昨日、時間が押していてイライラしたので、この日は前の日より20分遅く入ったら、すでにたま平さんの高座の最中だった。
汗だくの熱演。
ニツ目昇進の高座だから気合が入ってるんだね。
昨日は「つまらないまくらを長々とやりやがって」なんて思ってすまなかった!


さん助師匠「京見物」
まくらなしで江戸っ子が旅をしているところから始まったので「お、二人旅か」と思っていると、京都にやってきた江戸っ子がやいやい言っていて、一人が「京都の名物と言えば水になんとかにかんとかに(全然覚えてない)…京女」。
それまで疲れた疲れたーばかり言ってた男が急に大きな声で「え?なに?女が名物なの?!」
「なんだお前、女と聞いたら目の色が変わったな」
「そうだよ。おれ、女と聞いたら元気になっちゃうの。女がどうしたの?どこにいる?いい女は?女女女!」
「お前落ち着けよ。京都は水がよくてその水で洗うから京都の女はすべからくいい女だ」
「え?待って。それおかしくない?だって同じ水で洗うんだから男もいい男になるはずだよ」
「そ、それは…それはだな…男は湯に入るときもドボンと入ってすぐ出ちゃうけど、女はゆっくり入って丹念に体を洗ったり顔を洗ったりするからきれいになるんだよ」

そんな話から、二人でお湯へ行っていい男になって、それから京女に面を見せようじゃないかということになり、お湯屋はどこか聞いてみろ、ということに。
「あそこにどこぞのおかみさんが立ってるからそこに行って聞いてこい」と言われた男。
「え?おかみさん?…あ、あれ?おかしいよ、京女だけどきれいじゃないよ。なんかひどいよ」
「うるさいな。そういうのもあるんだよ」
「おかみさーん、おかみさーん」
「おい、おかみさんっていうのは失礼だよ。呼び方があるんだよ。ほらなんていったっけ、おいはん、とか」
「おいはーんおいはーん、お湯屋さんはどこ?どこにある?」

そこからは京言葉がわからない男たちがおかしな意味にとって、最終的には八百屋で丸裸になるという…とにかくばかばかしい噺。
あとで調べたら、祇園会の導入部分?みたい。
聞いたことがない噺に当たるとすごくうれしい!楽しかった!


小はん師匠「親子酒」
お酒のまくらから「親子酒」。
正直「親子酒」はおそらく寄席で一番多く聞いてる噺で普段だったら嬉しくもなんともないんだけど、小はん師匠の「親子酒」はほんとにチャーミング。
1本だけの約束で飲んで、もう一本と頼むときに、「お酒も一人じゃ寂しいでしょ」というのがもうほんとにかわいくて。
こういうかわいさって出そうと思っても出せないものだよなぁ、としみじみ。


小団治師匠「ぜんざい公社」
小団治師匠、いつ見てもオリンピックのまくらとこの噺だなぁ…。「ぜんざい公社」、全然おもろないのに…。他の噺を聴きたいなぁ。


南喬師匠「粗忽の釘
聞き飽きた噺がなんでこんなに面白いんだろう。
粗忽ぶりもそんなにハイテンションではなくナチュラルな感じで、でもそれがするっと抜けてる面白さ。
おかみさんとの会話とか、訪ねて行った家の人との会話とか、すごくありそうな感じで、なのにすとーんと抜けてるからたまらなくおかしい。

「なんの用でいらしたんですか?」
「いや。用ってほどのもんじゃないんですよ」
そのやりとりだけですごくおかしい。不思議だなぁ。

見るたびに、この師匠の落語がものすごく好きだ、と感じる。うおおおー。


圓太郎師匠「浮世床(本)」
前に見た時は本を読みだす時におしりをやたらともぞもぞしていたんだけど、今回はそれほどおしりはもぞもぞしてなくて、でもそのかわり顔が…口がふにゃっと不自然に曲がっていくのがもうおかしくておかしくて。
聞きたがってる男たちがからかってやろうとしているわけじゃなく、ほんとに読んでもらいたがってる真剣さとの対比がすごくおかしかった。

 

デンジャラス

 

デンジャラス

デンジャラス

 

 ★★★★★

君臨する男。寵愛される女たち。文豪が築き上げた理想の“家族帝国”と、そこで繰り広げられる妖しい四角関係―日本文学史上もっとも貪欲で危険な文豪・谷崎潤一郎。人間の深淵を見つめ続ける桐野夏生が、燃えさかる作家の「業」に焦点をあて、新たな小説へと昇華させる。


細雪」が大好きなだけに、そのモデルとなった女たちと谷崎潤一郎自身の物語と聞けば、野次馬的な興味とともにその世界観を汚されたくないという思いもあったのだが、いやーすごい。どこまで真実なのかはわからないけれど、ちゃんとその世界を壊さず、それでいて別の小説としての世界をつくりあげていて、あっぱれとしか言いようがない。

小説家の側にいてインスピレーションを与え描かれることの悦びと捨てられる哀しさ。
谷崎にすがるしかない身の寄る辺なさと誇りと嫉妬。

帝国の王である谷崎に憧れ恐れ従いながらも、最後には真っ向から対峙した重子の勝利だったのだろうか。
いやぁ面白かった。

末廣亭11月中席夜の部

11/14(火)、末廣亭11月中席夜の部に行って来た。

・まさみ・とんぼ 漫才
・たま平「湯屋番」
・さん助「鼻ほしい」
・ぺー 漫談
・小はん 旅の小噺
・さん福 悋気の小噺
・アサダ二世 マジック
・今松「替り目(通し)」
・南喬「壺算」
~仲入り~
・喬之助「初天神
笑組 漫才
・圓太郎「強情灸」
・左橋「目黒のさんま」
・勝丸 太神楽
・左龍「甲府ぃ」

たま平さん「湯屋番」
時間が押しているのになんでまくらを省かないんだろう…。
ニツ目に昇進してのまくらは仕方ないにしても、二つ目のまくらは別に面白くもないしいらないよなぁ…。
しかも「湯屋番」。早く番台上がれー早くご新造さん家に上がれーとっとと蚊帳に入れーとじりじりしてしまって何回か時計を見てしまった。すまん。
本人もちっとも笑いが起きないので焦ったのか、セリフを間違えたり口癖が出ちゃったり…。
この日お客さんが非常に笑い控え目で、演者がムキになったのか?前の漫才もだらだらと長く、悪循環な感じ。

さん助師匠「鼻ほしい」
まくらなしでいきなり噺に入ったと思ったら、おお!この笑わないしーんとしたお客さんに「鼻ほしい」!勇気あるー(笑)。
案の定大多数のお客さんはぽかーんだったけど、私は笑った…。さん助師匠がふがふが言ってるのがおかしくておかしくて。
家に帰って来ておかみさんに訴える姿に悲哀がにじんでいたのもなんかとってもおかしかった。

小はん師匠 旅の小噺
ほらー。時間が押してるから小はん師匠が小噺だけだよー。きぃー。
旅のまくらだったから「二人旅」か!とわくわくしたんだけど、残念だったー。


アサダ二世先生 マジック
声がかすれていて「風邪?」と思ったら花粉症らしい。
「だから今日は手品だめだ」と言いながら、最近よくやっている江戸時代の手品。
楽しい。


今松師匠「替り目(通し)」
前の師匠方が短めに切り上げて行ったので、ここからは普通の時間配分に。
「替り目」は寄席でほんとによくかかるので正直ちょっと残念な気持ちだったんだけど、よかった、今松師匠の「替り目」は。
もうなんだろう。今松師匠の酔っ払いがすごく自然で何気なくてでもすごくおかしくて、いつものセリフも楽しくてずっと聞いていたい感じ。
しかもめったに聞かない通しだったので、うぉおおー!と心の中でガッツポーズ。
サゲを聞いて、そうか!だから「替わり目」なんだ!とすかっと気持ちいい。よかった!


南喬師匠「壺算」
「壺算」もたいして好きな噺じゃないんだけど、なんでこんなに楽しいんだ。
なんだろう。会話のテンポというか間合いというか、それがもう楽しくて、聞いていてウキウキしてくる。
身体の使い方も好きだなぁ。ちょっと体を斜めに引いたりとか、ぱっと前に出たりとか、そういう加減がすごくよくて気持ちいい。
好きだなぁ、この師匠の落語。


左龍師匠「甲府ぃ」
こういうしーんとしたお客さんにはむしろあってたかもしれない「甲府ぃ」。
正直長い間「これのどこがおもしろいの?」と思っていたんだけど、最近この噺の良さがようやく少しわかってきた、かな。
最初と最後の売り声がとても効果的に響いてよかった。

今日の人生

 

今日の人生

今日の人生

 

 ★★★★★

 むなしい日も、幸せな日も、おいしいものを食べた日も、永遠の別れが訪れた日も……。益田ミリさんの人生がつまり、初めて「死」について書いた著者の転換点となる最高傑作・コミックエッセイ。

 アシカの「おまえマジかよ」で笑い、海外で言われた言葉が聞き取れずバカにされた時に感じた「言葉を学ぶのは誰かにバカにされたくないからではない」という気持ちにはっとし、本を読むことは自分の世界に「手すり」をつけてるという言葉にうなづき、映画のパンフレットを買った時レジの女性が「当館ではこれが最後の一冊です」と言ってくれたことに対して、(私が)いい気分になると思ってわざわざ言ってくれたのだ、そういう風に仕事をしている人なのだとあって、そういうふうに感じるって素敵だなと思ったり。

いつにもましてぐっときた。いいなぁ。益田ミリの世界。大好き。

噺家の卵 煮ても焼いても

 

噺家の卵 煮ても焼いても: 落語キッチンへようこそ! (単行本)

噺家の卵 煮ても焼いても: 落語キッチンへようこそ! (単行本)

 

 ★★★★

落語も料理も、調理人の腕次第!五代目柳家小さんに入門して50年、洋食屋の倅が当代きっての古典落語の料理人になるまで、そして弟子11人を育て上げるまでを、たっぷり語ります!?

師匠のこと、弟子のこと、落語との向き合い方。サービス精神旺盛なさん喬師匠らしく、たっぷり書いてあってとても面白かった。

どの一門でもおそらく最初の方の弟子ほど師匠のことを恐れていて、小三治師匠よりさん喬師匠の方が小さん師匠を恐れてない感じがしたし、喬太郎師匠よりやなぎさん方がさん喬師匠を恐れてないんだろうな、と感じた。

個人的には大好きなさん助師匠のことを「間口が広い」「面白い噺家になりました」と書いてあったのがとても嬉しかった!

曾根崎心中

 

曾根崎心中

曾根崎心中

 

 ★★★★★

著者初の時代小説
300年の時を超え、究極の恋物語がふたたび始まる。

============
愛し方も死に方も、自分で決める。

ーー
江戸時代、元禄期の大坂で実際に起きた、醤油屋の手代・徳兵衛と、
堂島新地の遊女・初の心中事件をもとに書かれた、
人形浄瑠璃の古典演目『曾根崎心中』の小説化に、角田光代が挑みました。

原作の世界を踏襲しながら、初の心情に重きを置き、
運命の恋に出会う女の高揚、苦しみ、切迫、その他すべての感情を、
細やかな心理描写で描ききり、新たな物語として昇華させました。

運命の恋をまっとうする男女の生きざまは、
時代を超えて、美しく残酷に、立ち上がる―
この物語は、いまふたたび、わたしたちの心を掻きたてます。

とても面白かった。

お初と徳兵衛の置かれた状況が短い文章からも伝わってくるので、今見ると短絡的に思える二人の心中にも納得がいく。
とてもシンプルなストーリーなのに、お初の心情がとてもリアルで哀れにも思ったし、あっぱれとも思った。

どこまでが原作通りでどこからが角田光代の味付けなのか気になる。
原作にも挑戦してみようか。なんていう気になったぞ。