りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

夢見た旅

 

 ★★★★★

南部の片田舎で暮らす逃避願望の強い主婦。この日常には、うんざり、いつかは夫を捨て、生活を捨て、どこかに旅立ちたい。子供の頃から「夢見た旅」に出たい。そんなことを考え家出資金を調達に行った銀行で、主婦は銀行強盗に出会い、人質として車に乗せられ連れて行かれる。二人の逃避行には、やがて青年の子供を妊娠した少女も加わり、三人は微妙な人間関係をつくることになる。まるでハリウッド映画のようなストーリー。これぞ、アン・タイラーといえる傑作。 

アンタイラー再読二冊目。

この家から出たいと夢見ながらも生まれ育った場所から離れることが出来ない主婦シャーロットが、ある時強盗の人質になって思いがけぬ逃亡の旅に出る。
ピストルで脅しながら乱暴なことを言いながらも、どこか幼さが残る強盗と旅をしながら自分の半生を振り返る…。

動くこともままならないほどの肥満の母と鬱状態の父に育てられたシャーロット。陰気な家から出たい出たいと思いながらも家に縛りつけられ逃れることができない。
幼馴染のチョイ悪と思っていたソールと結婚することでついにこの家を出て行けるかと思いきや、ソールは牧師になってこの家で暮らすと言いだす。
そんな家に今度はソールの兄弟たちが戻ってきて、自分の家族だけでなく夫の兄弟たち、果ては夫が連れて来た「罪深き人たち」の世話までしないといけないシャーロット。
トラベラーズチェックを財布に入れ、夫を捨てて家を出ようと思っていた矢先、銀行で強盗に人質にされてしまう。

神に目覚め(たのか?ほんとうに?ほんとのところはよくわからない)妻のやることなすこと非難の目を向ける夫ソール。今度こそほんとに好きになれない夫キター。
シャーロットにもイライラするけどでももうこれは出るしかないよ!いいよ、もう!出ちゃえ!読んでいて何度もそう思った。

事を荒立てることが嫌いで騒ぎが嫌いで不満を抱きながらも一歩を踏み出せないシャーロット。
そんな彼女を非難し、その後見直して想いをぶつけてきた人もいたが、その人も去り…。
シャーロットがどうして本当に家を出る決心をしたのか、人質になったのがどんなタイミングだったのか、読んでいるとわかってくる。

あきらめの境地で「動かない」を選択してきた自分を悔いていたけれど、自分は本当にずっと動かないでいただけなんだろうか。
そんなことはない。なぜなら人生そのものが旅なのだから。そして自分がどうにかこうにかやってきたのだから。

こんなにもやもやいらいらする話なのに最後まで読んでのこの爽快感はいったい。うーん、たまらない。よかったー。