りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

三遊亭天どん&宮田陽・昇 落語漫才落語会 天にどんと陽が昇る(第二回)

12/22(木)、日暮里サニーホールで行われた「三遊亭天どん&宮田陽・昇 落語漫才落語会 天にどんと陽が昇る(第二回) 」に行ってきた。
この会、ずいぶん前からtwitter宮田陽・昇先生が漫才落語「芝浜」をやると流れてきて、漫才で芝浜って?!とすごく興味を惹かれたのだ。フツウにやっても面白い宮田陽・昇先生、こういうチャレンジもするところがほんとに素晴らしい!


・希光「時うどん」
・天どん「引っ越しの夢」
宮田陽・昇 漫才
~仲入り~
・トークコーナー(宮田陽・昇&天どん)
宮田陽・昇 漫才落語「芝浜」
・天どん「公園の悪いおじさん」


希光さん「時うどん」
まくらも面白いし噺も面白い。私の好きな上方落語の要素がたっぷり。好き。

天どん師匠「引っ越しの夢」
いつものようにネガティヴなことを言ったかと思うとポジティヴに変えてみたり、「私はいったいどっちの方向を目指しているんでしょう」と天どん師匠。
なんとなくトーンを決めかねているような?でもこれっていつものことだっけ?
そんなまくらから「引っ越しの夢」
腕が長いから吊戸棚を抱えるしぐさが映えるんだー。


宮田陽・昇先生 漫才
わーい。寄席以外で宮田陽・昇先生を見るのは初めてだからときめく!
いつもの日本地図や最近やってる差別語を使わない表現や武士、ネガポジ表現なんかの漫才。何度見てもおかしいんだけど、この日は昇先生の脇のにおいを陽先生が嗅いで「グッド!」と言うのが入っていて、それがちゃんと落語漫才「芝浜」につながって行ったのがすごかった!ってこんな説明じゃまるで伝わらないぜ。(笑)
陽先生が消臭スプレーのCMのガイジンさんっぽいからすごくはまってておかしかったなぁ。


トークコーナー(宮田陽・昇先生&天どん師匠)
サンタ帽をかぶった希光さんが出てきていきなりバイオリンを弾きだしたのでびっくり。しかもとてもうまい。バイオリンってほんとに難しい楽器だから素人が弾くと音が安定しなくて苦笑いしか出ないんだけど、すごく音がきれいで伸びやかなのにびっくり。
無言のまま二曲目を弾きだしたのもシュールだった。
トークコーナーはとてもぐだぐだで、これ必要だったのかな…。天どん師匠に物ボケを無茶ぶりされた陽・昇先生が気の毒だったわ。


宮田陽・昇先生 落語漫才「芝浜」
「芝浜」の筋を追いながら、陽先生がひたすらボケて昇先生が突っ込むというスタイル。
もういちいちバカバカしくて笑った笑った。
陽先生のボケが突き抜けてて昇先生のツッコミの間が抜群にいいから、無理のある企画でも無理を感じさせないのがすごい。


天どん師匠「公園の悪いおじさん」
こういう噺だったんだ。タイトルだけは聞いたことがあったから何となく想像はしてたんだけど。
あの漫才の後だとちょっと分が悪かったかなぁ。いつも以上に陰気でちょっとストーリーにのりきれなかった。

末廣亭12月下席夜の部(1日目)

12/21(水)、末廣亭12月下席夜の部に行って来た。
トリプルヘッダーの疲れも癒えないまま末廣亭昼の部に通い続け、その芝居も終わり心身ともにがっくりなワタクシ。
いやしかし待てよ。
まだ私が一生懸命働いていたころ(←今も働いているが今は一生懸命じゃな…もごもご)、毎晩終電で家に帰り「コンピュータの疲れはコンピュータでしか癒せない」と言ってPCを立ち上げてブログを書いたりゲームをしてたりしていたではないか。
ということは、落語の疲れは落語でしか癒せないのだ!末廣亭の疲れは末廣亭でしか癒せない!
とおかしなテンションで末廣亭へ向かう。


・扇辰「雪とん」
・歌之介 漫談
~仲入り~
・菊千代「雑排」
・ペペ桜井 ギター漫談
・朝馬「蜘蛛駕籠
・南喬「粗忽の釘
・勝丸 太神楽
・今松「三井の大黒」

扇辰師匠「雪とん」
仲入り後からでいいかなと思っていたのだが、いやもう少し前に入ろうと思ったのは代演が扇辰師匠だったから…。
長いこと苦手だったのに不思議なもんだなぁ。

鈴本で見て「いいっ!」と思った「雪とん」。
浅めの出番だからショートバージョンだったんだけど物足りなさは感じず、テンポがよくむしろ面白く感じた。
船宿のおかみさん、田舎者の若旦那、糸屋の娘、食わせ物の女中、そしてお祭り佐七。
それぞれの人物がくっきり。
佐七がお糸の袖をつっと引っ張って、明かりをふっと吹き消すだけで、なんともいえずかっこいい。
 
菊千代師匠「雑排」
一回も…くすりとも笑えなかった。
さん助師匠の「雑排」があんなにも狂気じみて面白いのって逆にすごいことだな、と改めて思ったのだった。

ペペ桜井先生 ギター漫談
好き好き。毎回同じでも全然いい。ペペ先生が出てきてくれたらそれでもう幸せ。


朝馬師匠「蜘蛛駕籠
浅草で見た時はいつも漫談だけだったので今日もきっと同じでしょと思っていたので、おお、落語もちゃんとするんだ!(←とんでもなく失礼)と。
やりながら「この噺疲れるな…そのわりにウケないし。噺を間違えたな…」。

…ぶわははは。
でもあの浅草でウケる漫談より私はこっちの方がうれしい。


南喬師匠「粗忽の釘
南喬師匠は小三治師匠のトリの時に通って見ていて毎回面白くて大好きになっていたので、うれしい!

八っつぁんの粗忽ぶりがわざとらしくなくて、なんかこういう人ほんとにいそうですごくおかしい。
「落ち着かせていただきます」と上がり込んでからの「ええ。特に用事ってぇんじゃないんですよ」っていう変な落ち着き方が確かにほんとに落ち着いていてたまらなくおかしい。
そしてサゲも違ってるんだよな。これって小南師匠風味なんだろうか。
もっと見たいな、南喬師匠。


勝丸さん 太神楽
なんだろう、このインチキ感(笑)。


今松師匠「三井の大黒」
職人の地位が低くなっている。もっと職人を大事にしなくちゃいけないというまくらから「三井の大黒」。

京にいる甚五郎のもとに「大黒様を彫ってください」と使いがくるところから。
引き受けたもののその気になれないのか毎日酒を飲んでぶらぶらしている甚五郎。
京にも飽きたから江戸へでも行くかと金を手に江戸へ向かう。
そこで江戸の大工が仕事をしているところを見ながら「仕事がぞんざいだ」「まずい」とぶつくさ言って大工たちからポカポカ殴られているところへ、棟梁の政五郎がやってくる。

江戸へ来る前の場面が扇辰師匠や扇遊師匠にはなかったんだけど、これがあることで、甚五郎がもともと酒を飲んでごろごろしていることが多かったことや、江戸へぶらっとやってきたことがわかる。

また甚五郎もそんなに天然って感じではない。ぽんしゅーというあだ名もつかない。
甚五郎が名前を聞かれてごまかしたとき、政五郎は「自分の名前を忘れる奴があるかよ。」と言いながらも「まぁまぁいいや」とそれ以上深追いしなかったりと、大物っていうか大雑把っていうかそういう印象。

初日に現場に行って「木を切れ」と言われて、ぴったりくっつくほどの腕前を披露したものの、帰って来てそのまま二階へ上がり、政五郎から「若いもんが失礼なことをしてすまない。」と謝るとそのままなんの仕事もせずに寝たり起きたり。
おかみさんが文句を言い始めたので政五郎は甚五郎を呼んで「お前さんもいつまでもぶらぶらしてないで仕事しろ」と言って自分が行ってる現場に連れて行くと、確かにとても腕がいいことがわかる。
この腕前なら大丈夫だろうと他の現場に行かせてしばらくすると、客から苦情が来る。

政五郎が甚五郎を呼んで言う。
京都と江戸では仕事の仕方が違うのだ、と。
京都では丁寧な仕事をするが江戸は火事が多いこともあって丁寧よりも早いことの方が重要視される。
お前の仕事は丁寧で見事だが江戸では歓迎されない。
腕を磨こうと思って江戸に来たのだったらそれは無理だ。江戸にいてもお前の仕事の足しにはならないから帰った方がいい。
でも今すぐ帰ることはない。何か小さいものでもこしらえて小金を貯めてから帰れ。

なるほどーーー。
なんか今までこの噺に感じていた疑問というか違和感がすべて払拭された感じですっきり!
初日に見事に木を切って帰って来てそれ以降二階でぶらぶらするようになったのは、気を悪くしたわけじゃなく、もともとそういう人だったんだ!
あといきなり大黒を作り始めるのではなく、政五郎に連れられて大工仕事もしていて、腕が見事ではあるけれど江戸で求められる大工の仕事とは違う、ということでそこから大黒を彫る流れになったのか。
猫の手も借りたいぐらいだったのにいきなり彫り物をするっていう流れが「ん?」だったんだけど、なるほどー。

甚五郎が風呂へ出かけていき政五郎が仕事を見てみようと二階へ上がって大黒を目にして「これは生半可な大工じゃない」と分かるのだけれど、そこもごくあっさり。
客が訪ねてきてあいつが甚五郎と分かっても、そんなに恐縮したり扱いが変わったりもしないけれど、自然に「先生」と呼ぶ。

ああっ、いいなぁ今松師匠の落語って。
ごくあっさりしているんだけど何も不足がないし、説明してるわけじゃないけどストンと腑に落ちる。
やっぱり私はこういう落語が好きだなー。
その語りの中にすべてが入っていてその世界がしっかりしているから、安心して身をゆだねられる。
素敵だ。今松師匠。

末廣亭12月中席昼の部(10日目)

12/20(火)、末廣亭12月中席昼の部に行って来た。
千秋楽なので気合を入れて有休とって。


・竹もん「味噌豆」
・吉幸「家見舞」
・一矢 相撲漫談
・圓満「道灌」
・笑好「動物園」
チャーリーカンパニー コント
・夢丸「ろくろ首」
・歌蔵「代書屋」
・章司 江戸売り声
・柳好「子ほめ」
・小南治「いかけや」
東京ボーイズ 歌謡漫談
・松鯉「赤穂義士伝より殿中松の廊下」
~仲入り~
・くま八「雑俳」
・京太・ゆめ子 漫才
遊雀「堪忍袋(前半)」
・金太郎「たらちね」
ボンボンブラザーズ 曲芸
・南なん「ねずみ」


夢丸師匠「ろくろ首」
この浅めの出番で「ろくろ首」をやってしまう夢丸師匠が好きだー。さすがに駆け足だったけど、その心意気がほんとに素敵。ほんとに夢丸師匠っていくつ噺を持ってるんだろう。すばらしいな。


小南治師匠「いかけや」
やっぱりちょっと珍しい噺をしてくれる小南治師匠。それだけでポイントアップだなー。
いやしかし全然芸風が違う一門だなぁ。南なん師匠、小南治師匠、金太郎師匠。師匠の小南師匠ってどんな落語をされる方だったんだろう。聞いてみたくなってきた。


東京ボーイズ 歌謡漫談
いつもと違うパターンで、菅 六郎先生が歌を踊るというのでもううれしくなっちゃった。私、好きなんだよねぇ、六郎先生。
楽しかった~。ウクレレと三味線のコードが合ってないのだけ気になる(笑)!


遊雀師匠「堪忍袋(前半)」
前半の夫婦喧嘩のところまでだったんだけど、めちゃくちゃ面白い!
弁当の梅干しに飽きたから梅干しをたくあんに変えてくれと亭主が言うと、女房が「なにぉー(野太い声)」とすごんだ、と聞いた大家さん。二人の間に入るのだが、二人ともそれぞれに言い分がある。

女房が「この人(旦那)が嫌味っぽく、梅干しばかりだなって言うんです」と言うと、旦那が「梅干しばかりだなっていうのは事実を述べただけだ。嫌味じゃない。嫌味って言うのは、梅干しか珍しいじゃねぇかっていうのが嫌味」っていうのに笑った~。
寄席のこれぐらいの出番の遊雀師匠ってまたいいねぇ…。最高。


南なん師匠「ねずみ」
おお、これは鯉昇師匠の「ねずみ」。間違いない。そういえば前にも一度聞いたことがあったな、南なん師匠の「ねずみ」。

甚五郎と客引きの子どもの会話がかわいい。
「お客さん、夜は布団で寝たいですか?」をあの独特の口調で言われるとそれだけでなんかほのぼのおかしい。
またお客がどんどん来るようになって、一階と二階合わせて100人近く泊まってるとかっていうばかばかしさ。

地味な噺だけど、なんかこのちょっと童話っぽいところが南なん師匠の語りとあってて楽しかった。

千秋楽を「ねずみ」で締めるって南なん師匠らしいな。
ほんとに楽しい10日だった。そして私は10日中8日行ってしまった。南なん師匠の落語を毎日見られるの、幸せだったなぁ。

スキャナーに生きがいはない

 

 ★★★★

1950年、あるSF雑誌に無名の新人の短篇が掲載された。異様な設定、説明なしに使われる用語、なかば機械の体の登場人物が繰り広げる凄まじい物語…この「スキャナーに生きがいはない」以来、“人類補完機構”と名づけられた未来史に属する奇妙で美しく、グロテスクで可憐な物語群は、熱狂的な読者を獲得する。本書はシリーズ全中短篇を初訳・新訳を交え全3巻でお贈りする第1巻。20世紀から130世紀までの名品15篇を収録。  

 「〇〇みたい」と説明できない独自な世界感と語り口。
異様としかいいようがないような設定や世界の中で、描かれるのは心のありよう。

絶望的な世界の中で希望を見い出し、ハッピーエンドのその後に不穏な未来がちらっと見える。
それでも愛があればどうにかなる!と受け止めていいのかな。

未来に対してまるで希望を抱けてない私にもほんの少しの希望を見せてくれたような気がする。
ドSFなのに不思議と読みやすかった。

末廣亭12月中席昼の部(9日目)

12/19(月)、末廣亭12月中席昼の部に行ってきた。


南なん師匠「阿武松
わーい、南なん師匠の「阿武松」初めて!
この芝居はこれで7日通ったけれど全部ネタを変えてくれて本当にうれしい。やっぱりトリって特別だなぁ。
そしてよく寄席のトリにありがちな決まった噺じゃないところがまたいいっ!

大飯喰らいの長吉、親方の武隈に呼び出されてクビにされてしまう。この武隈がとてもコワモテというか迫力がある。
南なん師匠の落語って、出てくる登場人物のキャラクターがとてもはっきりしているし、表現が若々しいと思う。

そもそも大飯喰らいだから相撲にでもなれと言われて田舎を出てきた長吉。こんなんでは田舎には帰れない。だけど江戸にもいられない、と川に身を投げて死のうと思うが、武隈親方からもらった金を持ったまま身を投げるのは金に申し訳ないと思い、宿に泊まり思う存分米を食って死ぬことに。

あまりの食いっぷりに宿屋で女中が騒いでいるとそれを主の善右衛門が気が付いて、女中に注意をする。
うちの商売は宿屋だ。お客様がご飯をたくさん食べて頂くことはありがたいことじゃないか。それをそんな風に噂をするな。見に行こうなんて了見をおこしちゃいけない。
そう言いながら自分は気になって見に行くところがなんかかわいらしい。
こんなに食べていただいてよっぽどおいしいんですねと善右衛門が言うと「いやまずい」と長吉。
「一口食べるごとに寿命が縮まって行く」という言葉に「事情をお話しください」と善右衛門。

もうこの善右衛門がいいんだー。優しくてでもちょっとユーモアもあって。
善右衛門が自分が懇意にしている親方のところに明日連れて行ってやる、米もうちから届けてやると請け合ってやるところでは、思わず涙が…。知ってる噺なのになんか善右衛門のあたたかさにじーんときちゃって。

善右衛門から頼まれて長吉の姿も見ないうちに錣山親方が「とりましょう」と受けるところもいいなぁ…。またこの錣山親方がどーんとしていていいんだ。

長吉があっという間に出世して、武隈関と相撲をとることになったシーン。
「おのれぇ、飯の恨み…はらしてやる」とすごむのがおかしい。そしてそれを言ったあとに南なん師匠が「食い物の恨みは大きいですから。大変ですから。だからお腹を空かせてる噺家を見かけたら何か食わせてやってください。牛丼でいいですから」と言うので笑ってしまった。

とてもあたたかい南なん師匠の「阿武松」。よかった~。

柳家小三治 入船亭扇遊 二人会

12/18(日)関内ホールで行われた「柳家小三治 入船亭扇遊 二人会」に行ってきた。

・遊京「道具屋」
・扇遊「三井の大黒」
~仲入り~
・そのじ 寄席囃子
小三治初天神


遊京さん「道具屋」
高座にあがってまずは携帯の注意。
「万が一鳴ってしまった場合はすみやかに消ってください。これはご婦人に多いんですが、鳴り終わるのを待つ方がいらっしゃいます。すみやかにお切りください。あと、最近こう言うとお客様からおしかりを受けることがありまして…。それはスマホにしてから切り方がわからない、とおっしゃるんですね。実はうちの母親もそうでして…。」
笑いを交えて丁寧に説明したにもかかわらず、扇遊師匠の落語の最中に大音量で携帯の着信音が鳴り響き、しかも止まるまで止めないという…。
もうこれだけ説明してもダメってことは多分よっぽど耳が遠いか人の話を理解できないか…。
それならもう落語聴いてもわからないよね…きっと。だったらもう来ないでほしい。そういう人には!

って激昂してしまった。ぜいぜい。
遊京さんの「道具屋」。相変わらずのんびりした語り口調。
ところどこどすごく面白いんだけど、ちょっと眠くなってしまうところもあり。


扇遊師匠「三井の大黒」
小三治師匠の前に上がるっていうのは…もちろん寄席ではそういうこともあるんですが、こんなふうに二人会なんていうのは初めてで…ほんとにありがたいことで。これも師匠のおかげだと思ってます。
うちの扇橋と小三治師匠は仲がよくて、うちの師匠は本当に小三治師匠のことが大好きでした。楽屋でも二人揃うととても楽しそうで、弟子としてそういう姿を見るのはうれしいことでした。
こうして小三治師匠と会をさせていただけるというのもうちの師匠のおかげだと思って、ほんとに師匠に感謝しています。

小三治師匠との思い出というと、私がまだ前座だったころ、九州に仕事に行ったことがありまして。
小三治師匠ともう亡くなってしまった師匠と先代の正楽師匠、それに私の4人で…あれは親子寄席で子どもとその親御さんに向けてやるという会で。昼夜公演だったんですが、ネタ出ししてまして…私が「道具屋」、小三治師匠が「禁酒番屋」でした。
私が前座で一番最初に上がったんですが「道具屋」、結構ウケたんですね。お子さんたちにも笑っていただけた。
小三治師匠の「禁酒番屋」は、師匠も切腹の説明をしたり…いろいろ考えられていたんですけど、ちょっとお子さんには難しかったのか…。
すると夜の部の前になって小三治師匠が「お前、トリであがれ」と言い出しまして。
ええええ?と思ったんですけど、もちろん「それは無理です」とは言えない。
師匠が他の出演者に「いいよな?」と言うと誰も異存はないということで…。
前座ですから直前まで座布団ひっくり返したりめくりをめくったりして…その後で師匠の羽織をお借りしてトリで上がったもんですから、お客さんは驚いてましたね。「え?さっきまでうろちょろしていたやつが出てきた?!」。
…あの時以来の緊張です。今。

そんなまくらから「三井の大黒」。
扇遊師匠らしく、政五郎や江戸の大工は威勢がよくてからっとしていて明るい。
甚五郎はちょっとつかみどころがないけれど嫌味な感じは全くなくて、何かこう江戸っ子たちとは違う次元を生きているという感じ。
政五郎と甚五郎のやりとりも楽しいのだけれど、政五郎がとにかくほんとに気持ちのいい人物で見ていて楽しい。
そしてなにかこう端々に扇遊師匠の気合というか充実感というかそういうのがほとばしっていて、ああ、特別な会に来られんだ…と見ているこちらもじわじわと嬉しくなってくる。

最近の扇遊師匠はほんとにこう生き生きしていて弾むような高座だけど、その中でもほんとに気合の入った高座を見られて大満足だった。


小三治師匠「初天神
さっきまで高座に上がっていたそのじさんの生三味線で出てこられるのは本当に幸せです、と小三治師匠。
「もう文句のつけようがない」ってべた褒め。ほんとに小三治師匠、そのじさんが好きだよね(笑)。

それから扇橋師匠との思い出話。
さっきも楽屋で話が出たんですけど、もう10年以上前に「小三治」って映画がありまして。
私は見てないんです。でも見た人の話によるとそれには扇橋が結構出てるらしくて。そんなつもりはなかったんですけど結構一緒にいたんですね。
それで二人で旅行に行って温泉に入るシーンがあって…その時は湯船のほうすれすれにカメラがいて撮ってたわけで、もちろんあの見えちゃいけないところは見えないように…万が一見えた時はなんですかこう…ぼやけさせたり…しなきゃいけなかったんですけど。
扇橋がそれに気が付いて、やたらとブラブラさせながらカメラの前を行ったり来たりしてね。
あいつはそういうところがありましたから。
それでそこはカットせざるを得ないんですけど、話の流れからカットできないところもあってね…作ってる人が苦労したらしくて。

で、この映画、最初は東中野の小さな映画館で限定上映されたんですけど。それを扇橋のかみさんが見に行って「うちのおとうちゃんがたくさん出てる」って喜んでくれたんですけど後から私に「小三治ばかりうつってる」って文句言ってました。でも映画のタイトルが「小三治」ですからねぇ…。
まだ見てないんですけど、そろそろ自分でも見ようかな、なんてね。
あいつのブラブラも確かめたいしね。

あーそれで扇遊さんね。あの人が前座で入ってきたときのこと、いまもよく覚えてますよ。
高校出てすぐだったか、ちょっとしてだったか。
いい噺家になりましたね。うれしいです。

…扇遊師匠についてはその一言だけだったけど、本当に心がこもっていて、じーんときてしまった。
そんな話から「小児は白い糸のごとし」と始まったので、おお「初天神」!と思ったんだけど、そこからまた、「私に娘がいまして」と。
そんなにしょっちゅう会うわけじゃないけど、時々亭主と子供を連れて遊びに来る。
で、私は刀を3本持ってるんですけど、それはもちろん表に飾ったりしないでちゃんとしまってあるんですけど、そのことを孫が聞きつけたらしくて、「じいじは刀を持ってるんでしょ。見せてよ」。
いや、そういうもんは見せたりしないんだ、と言うと「じゃ見せなくていいからどこにしまってるか場所だけ教えてよ。誰にも絶対言わないし、何もしないから。教えてよ。ぼくだけには教えてよ。絶対言わないから」

…お前が一番危ないよ!
そんなまくらから「初天神」。

小三治師匠の「初天神」は何度も見ているけれど、扇遊師匠の力の入った高座のあとだったからなのか、なんかもう本当にノリノリで…もう楽しくて楽しくて笑いっぱなし。
金坊のコドモにありがちなダダのこね方も、父親の子どもっぽい言動もすべてがかわいくて魅力的で楽しかったー。
こんなに楽しそうな小三治師匠、久しぶりに見た気がする。

ほんとに来た甲斐があった。すばらしかった。

さん助 燕弥 ふたり會

12/17(金)、お江戸日本橋亭で行われた「さん助 燕弥 ふたり會 」に行ってきた。

・門朗「元犬」
・燕弥「壺算」
・さん助「御神酒徳利」
~仲入り~
・さん助「だくだく」
・燕弥「子別れ(中)~(下)」

 

門朗さん「元犬」
うおお、この人だれ?と確認したくなるほど面白かった。
声が大きくて堂々としていて滑舌がいいからそれだけでちょっと「お!」と思うんだけど、ところどころ変えていてそれがまた面白い。
シロの行動に「いいねぇ」といちいち喜ぶご隠居が楽しかった。


燕弥師匠「壺算」
この日、CSのカメラが入っていたんだけど、最初に電話がかかってきたときは「CS?どうせうちでは見られないな」と思ったという燕弥師匠。「さん助兄ぃにも聞いてみないとだめなんで」と返事をしたんだけど、謝礼を出しますのでと言われた瞬間に「どうぞ、入ってください」。
私、謝礼に弱いんです、と燕弥師匠。
…ぶわははは。いいなー。

「壺算」は…みんな面白い?この噺?
これだけやる人が多いってことは結構ウケる噺なんだよねえ。別に嫌いじゃないけど好きでもないのでなんかいつも「そうですか」と思って聞いてしまう。誰がやっても。


さん助師匠「御神酒徳利」
前に一度さん助師匠の「御神酒徳利」は見ているけど、なんかその時の方が楽しかったような…。それは今の私の感じ方のせいなのかもしれないけど。
なんか私の好きなさん助師匠の底抜けの明るさみたいのがあまり感じられず、特に後半ちょっとだれてしまった。うーん。


さん助師匠「だくだく」
ああ、よかった「だくだく」で。
楽しいよなぁ、この噺。なんであんなに火縄銃とかがあるのか、土蔵を描いてもらいたがるってなんなのか。そういうセンスが凄く好き。

 

燕弥師匠「子別れ(中)~(下)」
通しでなんかやりませんよ。ダイジェスト版ですよ、と言いながら、くまさんがお葬式から吉原に繰り込むところをわりと丁寧に。ここがあったほうがその後の展開に納得がいくから私はここが入ってる方が好き。
燕弥師匠、酒飲みのぐだぐだがとても似合う(笑)。

かめちゃんは素直でかわいくて、おかみさんはくまさんに未練がある風。
鰻屋さんの再会のシーンでは番頭さんが大活躍で、復縁も番頭さんが話を進めるんだけど…ここはやっぱりくまさんから言ってほしいなぁ、私的には。自分の始末は自分でつけろやー。

って燕弥師匠が悪いわけじゃないんだけど(笑)

この日は今年最後ということで三本締め。また来年も楽しみな会!

末廣亭12月中席昼の部(7日目)

12/17(土)、末廣亭12月中席昼の部に行ってきた。

・伸しん「初天神
桃之助「犬の目」
・一矢 相撲漫談
・圓満「子ほめ」
・笑好「ぜんざい公社」
・里光「のめる」
・歌蔵「熊の皮」
・章司 江戸売り声
・柳好「やかん」
・小南治「ドクトル」
東京ボーイズ 漫談
・松鯉「赤穂義士外伝 鍔屋宗伴
~仲入り~
・くま八「動物園」
・京太・ゆめ子 漫才
・小文治「幇間腹
・喜楽・喜乃 大神楽
・南なん「死神」
 
歌蔵師匠「熊の皮」
好きだなぁ、歌蔵師匠の「熊の皮」。
さん助師匠の「熊の皮」とはまた全然違うんだけど甚兵衛さんが素直でかわいい。

小南治師匠「ドクトル」
なんか喋り方が独特でちょっと癖があるんだな、小南治師匠って。ちょっと舌をぺろって出すのも少し気になる。
でも毎回変わった噺をしてくれるのはうれしいな。この噺も初めて聞いた。
医者のもとに、へんてこりんな病気にかかった患者がやってくるという噺。昭和テイストが味もあるしちょっと時代遅れでもある。微妙。

遊雀師匠「粗忽長屋
すごく大爆笑にもっていける噺もあるのに毎回それじゃなくて噺をいろいろ変えてまた笑わせ方も変えているのが素敵。

南なん師匠「死神」
わーー、南なん師匠の「死神」初めて。うれしい~!
死神がちゃんと不気味でだけどちょっとおかしい。
展開も呪文もオーソドックスなんだけど、ちょっと怖くてちょっとおかしくて南なんワールドになってる。
最後のシーンではそれまでが結構おかしくて笑ってただけに、わ…やっぱりそうなのか、とちょっと驚いてちょっと怖かった。
面白いのにちょっぴり不気味。やっぱり死神って怖いものなんだな…。死っていうのは人間にとって理解できたり取引できるものじゃないんだな、という余韻が残る。
でも後味が悪くない不思議。

国立演芸場12月中席夜の部(6日目)

12/16(金)、国立演芸場12月中席夜の部に行ってきた。

 

・小多け「たらちね」
・さん若「権助魚」
・さん助「やかん泥」
・のだゆき 音楽パフォーマンス
・白鳥「アジアそば」
・歌司「高野高尾」
~仲入り~
笑組 漫才
・喬之助「引っ越しの夢」
・翁家社中 大神楽
・さん喬「妾馬」

さん助師匠「やかん泥」
あれ?なんか元気ない?
さん助師匠を見てきて、なんか調子悪そうっていうこともあったけど、今まで見た中で一番精彩を欠いていたような気が…。
せっかくの「やかん泥」なのに犬の穴に入って行くときのしぐさもなかったし、なによりさん助師匠が楽しくなさそうに見えて、見ていてちょっと滅入ってしまった。
でも私も末廣亭昼の部をたっぷり見てきたあとで疲れてたせいもあるかもしれない?

白鳥師匠「アジアそば」
すごく楽しかった。どかんどかんウケたもんだから白鳥師匠「え?」って驚いていてそれがまたおかしい。
なんでも昼の部でも同じ噺をやってまるでウケなかったようで、この芝居はさん喬師匠目当てのじーさんが多いからどうせウケないというつもりでいたようなのだな。
でも私の隣のおじいさん二人も笑い転げてたし、確かに国立のお客さんって独特の雰囲気なんだけど、はなから敵視しちゃいけないぜぃ。

喬之助師匠「引っ越しの夢」
明るくてぱーぱーしていてすごく楽しかった。
この番頭さん、完全に職権乱用(笑)。でも喬之助師匠みたいにぱーぱーやられると陰湿な感じがなくていいな。

さん喬師匠「妾馬」
さん喬師匠の「妾馬」は何度も見ているけど、いいなぁ。三太夫とのやりとりが楽しい。そして妹に気づくシーンが好き。

末廣亭12月中席昼の部(6日目)

12/16(金)、末廣亭12月中席昼の部に行ってきた。
この日は午後休をとってたっぷり見られて満足~。トリの前に入ってトリだけ見て帰るって他の出演者の方に申し訳なくて…。

可龍「こうもり」
歌蔵「鮑のし」
宮田章司 江戸売り声
柳好「悋気の独楽
談幸「家見舞」
松鯉「赤穂義士銘々伝~大高源吾と宝井其角両国橋の別れ」
~仲入り~
くま八「牛ほめ」
京太・ゆめ子 漫才
小文治「野ざらし
南なん「井戸の茶碗
 
いつものネタも新しいネタもどれも楽しい!
 
可龍師匠「こうもり」
前にも一度聞いたことがあるんだけど楽しいなぁ。シニカルな噺家さんってあんまり好きじゃないんだけど、可龍師匠は好きだな。
寄席以外でも見てみたい。
 
談幸師匠「家見舞」
寄席で見る談幸師匠がほんとに楽しそうで自由自在で嬉しくなる。
下品な噺でも全然下品に見えない。素敵。
 

松鯉先生「赤穂義士銘々伝~大高源吾と宝井其角両国橋の別れ」
毎日違う講談をやられてるのかな。これは前にも一度聞いたことがあったんだけど、情景が浮かんでくるようでいいなぁ…。


遊雀師匠「真田小僧」この日一番ウケていた。自由自在、師匠のてのひらの上で転がされる楽しさを満喫。

南なん師匠「井戸の茶碗
わーい、南なん師匠の「井戸の茶碗」初めてでうれしい!

3人の人物がくっきりと描かれている。
清兵衛さんは正直な人だけど、やはり屑やさんなのでとっても庶民的。
千代田卜斎は裏長屋に住んで貧しい暮らしをしているけれどとても高貴でプライドが高い。
高木佐久左衛門は若々しくて血気盛んな武士。

千代田氏が生活に困窮して売った仏像に50両入っていたことが分かった時の3人の反応。
高木氏は「金で金は買えない。こんな仏像を売るとは千代田氏はよっぽど生活に困っているに違いない」。
それを聞いた清兵衛さんは「確かに千代田氏はとても生活に困ってる。娘さんもせっかくの器量なのにぼろを着ているし。このお金が入ったら助かるはず」。
千代田氏は「先祖が子孫のためにと入れておいたものにも気づかず売ってしまったのだからそれは買った人の金だ」

千代田氏がなぜそんなに固辞するのだろうといつもそこにめんどくささを感じていたのだが、南なん師匠のを見ていて、そうか…生活に困っているからこそ受け取れなかったのだ、と感じた。
苦しいからこそ気高さだけが唯一の自分の拠り所だったんだろうな、と。

清兵衛さんはとても正直だけど何も失うものがないし庶民だから思ってることはパーパー言っちゃう。
千代田氏に向かって「この50両受け取りなさいよ。そうしたら、貧乏とも、おさらば!」と言ったのがもうおかしいおかしい。笑わせてやろうという押しつけがましさが一切ないのに、たまらなく面白い。
そしてそんな清兵衛さんの言動から、庶民の気楽さっていうのが感じられて、なんとも幸せな気持ちに。

普通にやられているのにとても楽しい「井戸の茶碗」。南なん師匠が正直な清兵衛さんと重なって見えた。

雷門音助勉強会Vol.5

12/15(木)、連雀亭で行われた「雷門音助勉強会Vol.5」に行って来た。


・晴太「牛ほめ」
・音助「加賀の千代」
・笑二「猫忠」
~仲入り~
・トークコーナー(笑二、音助)
・音助「長短」


晴太さん「牛ほめ」
前座さんらしくすごく大きな声を出して素直な落語なんだけど、なんともいえず面白い。最近の前座さんの中で一番面白いと思うなー晴太さん。
一緒に行った友だちが「お?」と身を乗り出したのを見て自分の手柄のように「でしょでしょ!面白いでしょ!」と思う。
高座に上がって電気をつけてないことに気付いてあわてておりようとして足をぶつけたの…痛そうだったけど、それも含めて面白かった。(すみません!)


音助さん「加賀の千代」
師匠のところで猫を飼いだして、師匠宅が猫中心の生活になってしまったらしい。
上げの稽古に伺いたくて電話をすると「うん。でもね。うち今猫がね。」と師匠。
いやいやいやいや猫が大変でも上げの稽古に伺いたいんです!
…とはもちろん師匠に対して言えない。
「だから寄席があるときに寄席に来てくれればそこで見るから」と師匠。
いやいやいやいやそれじゃ困るんです。
…とはもちろん言えない。
でも音助さんの「…はい」に師匠が気付いてくれて話を聞いてくれた。優しい師匠なんです。
と音助さん。

なんかこういう話を聞くとすごくうれしくなっちゃうなー。
やっぱり自分と違う世界だから、なんだろうか。素敵だな、と思う。

そんなまくらから「加賀の千代」。
音助さんの甚兵衛さん、かわいいなぁ。
なんかぼけっとしていてちょっと与太郎っぽいんだけど人がよくてのんびりしている感じが出てる。

前座の頃は端正な落語をする人だなぁと思っていたけれど、二ツ目になって、爆笑系の噺にもどんどんチャレンジしていて、最初の頃は「なんか音助さんらしくない」と思ったけれど、最近は独自の味が出てきてる。
すごいなー。ほんとに成長してるんだ。ぐんぐん。

ご隠居がほんとに甚兵衛さんのことが大好きっていうのが伝わってきて、見ていてすごく幸せな気持ちになってくる。
それもこの甚兵衛さんがほんとにかわいいからなんだな。
奥さんの恐妻ぶりがクローズアップされる噺家さんもいるけど、音助さんの「加賀の千代」は甚兵衛さんとご隠居の仲の良さが引き立っていて、とても好きだった。


笑二さん「猫忠」
前座の頃クリスマスイブに師匠から電話がかかってきて「お前今日予定ある?」と聞かれた。
「ありません」と答えると「イブなのに寂しいやつだな。家でパーティやるから来るか?」。
こ、これはどうしよう…と一瞬迷った。
もしかして「罠」かもしれない。(どんな罠だ?)
いやでももう最初に予定がないって言っちゃってるし、師匠がそう言ってくださってるんだからと「ありがとうございます。お邪魔させていただきます」と返事。

行ってみると、吉笑さんは仕事があって欠席。
パーティのメンバーは師匠、おかみさん、お子さん、それに笑二さん。
うわ、これはめちゃくちゃ気まずい。しまったー。
でも師匠は優しいから食べ物を取り分けてくれたりいろいろ気を使ってくれる。
お子さんがまだ小さいのでおかみさんは早々にお子さんと寝に行ってしまい、師匠と二人リビングに残された。
すると師匠が「お前、ダイハード見た?」
「いいえ、見たことありません」と言うと「じゃ見る?」。
二人でソファーに座って「ダイハード」を見始めたんだけど、なぜダイハードかと思ったらクリスマスが舞台になっていたかららしい。
緊張していてあまり話が頭に入ってこなかったけれど最後まで見終わり、ふと見ると師匠が寝込んでいる。
「師匠、終わりました」と揺り起こし、時計を見ると0時を回っている。
これでお開きだろうと思っていると、師匠がシャンパンを開けてグラスを二つ持ってきて「メリークリスマス」。

うひょーーー。
な、なんかすごく素敵なんですけど。
吉笑さんも「うちの師匠は本当に優しい」といつも言ってるけど、ほんとなんだね。

そんなまくらから「猫忠」。
私、こういう噺大好きなんだよねー。あんまりされる噺じゃないから、こういう噺をしてくれるともうそれだけでポイントが上がっちゃう
しかも笑二さんだからただでさえ面白い噺に笑二さんらしい味付けがされて、たまらない面白さ。

あったかい刺身…。
ああ、そうだ、それで思い出した!たまさんで見たことがあるんだ。
話を聞いた兄貴が「それは化け物かもしれねぇから、耳のところを触ってみろ。人間ならなんてことないけど化け物なら反応するはずだからそうしたら”ピョコピョコ”って外に向かって言え」。

…ピョコピョコって…。なにそのばかばかしさ。
しかもそう言われた弟分が、偽物の兄貴と向かい合いながら「もしかして外で待ってる兄貴もピョコピョコだったらどうしよう。」って心配するのもおかしい。

すごく楽しかったー。
笑二さんのくすぐりって押すというよりはちょっと引くからそこがすごく好きだ。


トークコーナー(笑二さん、音助さん)
笑二さんが初めて落語に触れたのは「タイガー&ドラゴン」。
それまで笑点すら見たことがなかった(沖縄ではやってなかったらしい)。
もともとお笑いが好きだったから友達とコンビを組んで吉本の養成所に入ったんだけど、友達は三週間で辞めて帰ってしまった。
一人になってしまってどうしようと思ったときに、そうだ、落語家になろう!と。

なんかイマドキないきさつだけど、顔が古風だからチャラい感じがしないんだよなー(笑)。

で、何かお客さんから質問は…となったんだけど、私ほんとにこういうとき頭真っ白になっちゃって思いつかないんだよなー。
と思っているとお席亭から「一番よく聞いた落語の音源は?あと、ライバルだと思ってる噺家さんは?」と質問。
くーーーーいい質問!
このお席亭さん大好き。チラシのセンスもいいしブログも飾らなくて正直で面白いし素敵な人だなぁといつも思う。

音助さんは、四代目円遊、先代柳朝、先代助六って…渋い!やっぱり渋いんだなぁ音助さんって。
そういうところを普通のトークでは全然出さないから、これはほんとにナイス質問だなぁ。
笑二さんは枝雀師匠を最初に聞いたけど、一番よく聞いたのは談志(北海道の客と喧嘩してるのが入ってる「やかん」が最高!と)と、談春師匠の「高野高尾」って…意外!!談春師匠っていうのが。

そしてお互いの師匠が優しいっていう話をしていて、音助さんが「でも優しい師匠だから怒らせたら絶対いけないって思って。すごい小言の多い師匠の弟子っていつもがみがみ言われてるから右から左に聞き流すようになってる」って言ってたのがとっても印象的だった。


音助さん「長短」
おおお、これは助六師匠の「長短」だ。確かに。この間上野広小路亭で見たやつー。
あの師匠の「長短」はものすごーく独特だったから、確かにそれを習うとこうなるのね、という感じ。
弟子だからああいうふうに師匠の色が濃く出てる噺を教えてもらうっていうのはすごくいいんだろうなぁ。
とはいえ正直言って、なんとなくまだあんまり音助さんのものにはなってない感じではあった。これから変化していくんだろうな。


トークコーナーのおふたり。

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末廣亭12月中席昼の部(4日目)

12/14(水)、末廣亭12月中席昼の部に行ってきた。

南なん師匠「お見立て」
先輩師匠から「お前さんたちはかわいそうだね。吉原がなくなっちゃって」と言われたという話から始まったので、お、居残りかなと思っていると、花魁の男のおだて方(「よごれが目立たなくていいよ」が妙におかしい)。
昨日が重たい噺だったからかな、今日はひたすらに軽く明るく「お見立て」。


お茶を目につけると白目が赤くなって泣いてるように見えるよと花魁に教わった喜助。
茶殻を目にこすりつけたその顔をもくべえに向けると「きすけー。おめぇほんとに泣いているのかー」。
「ええ。いつもよりどっさり泣いております」
「顔に茶殻がついてるぞ」
「ええ。あたし泣くと茶殻が出る体質で」
その涙を見たもくべえが「ほーーー。ほーほー。」と泣きだすと、喜助が「あれ?どこかでハトが鳴いてる?」

…ばかだー。
もうほんとにばかばかしくておかしくてしょうがない。

二人で墓参りに行くときに喜助が「ほんとにねぇ。喜瀬川花魁が亡くなったなんて信じられません。あの喜瀬川花魁が。どこかで生きてるような気がします。ピンピンして酒でも飲んでるんじゃないかってあたしはそう思うんです。」と言った後、「何も喜瀬川さんだけが花魁じゃありません。ほかにもいい子いるんですから。あたしがお見立てしましょう」って、サゲにつながる伏線がちょっと張られているんだなー。
 
なんかかわいいんだなぁ、南なん師匠の「お見立て」って。
行きたくないから患ったって言っておくれよーと言う花魁も、無粋でいかにもめんどくさいお客のもくべえ大臣も、右往左往する喜助も、みんなかわいい。
だから他愛無くずっと笑えていられる。幸せ。

末廣亭12月中席昼の部(3日目)

12/13(火) 末廣亭12月中席昼の部に行ってきた。

南なん師匠「鼠穴」
火事と半鐘のまくらから「鼠穴」。
おおお、これは私が友だちに薦められて池袋に南なん師匠のトリの芝居を初めて見に行った時に聞いた噺!

酒と女で財産を失った竹次郎が奉公させてくれと兄を訪ねる場面から。
兄からお金を借りた竹次郎が家を出て中身を改めるところ。
竹次郎が「いくら入ってるかな。たくさん入ってたらいくらか飲むべえか」と気楽に言っていることからも、確かにこの時にまとまった金を渡したらちゃんとした身代は築けなかったかもしれない、ということを感じさせる。

10年たって兄のところを訪ねていくところ。
兄が「泊まっていけ」と熱心に言う様子や心から喜んでいるところを見ると、悪い人じゃないんだな、と感じる。
でも100%本当にそういう気持ちだったのかなぁという疑問もやっぱり消えなくて、それがその後の展開を見ていて「ああ…やっぱり…」と思わせる。

緊迫したつらい場面が続いて、サゲで「そうだったのか!」とほっとして、兄の「あんまりいい役じゃねぇな」という言葉でようやく笑うことができる。

昨日の「蒟蒻問答」と打って変わって笑いどころの少ない噺を丁寧にされる南なん師匠だった。
南なん師匠の落語って若々しいというか清らかというか…何も余計なものが入ってなくて素朴で、かといって変にストイックなわけでもなくてふわっとあたたかい。
だからこんなキビシイ噺でも安心して身をゆだねられるんだなぁ。
 
 

小のぶの会

12/12(月)、お江戸日本橋亭で行われた「小のぶの会」に行ってきた。

・市朗「子ほめ」
・市楽「代書屋」
・小のぶ「時そば
~仲入り~
・小のぶ「井戸の茶碗


市楽さん「代書屋」
市楽さんらしい明るくて楽しい「代書屋」。滑舌が良くて明るくて堂々としていると安心して聞いていられる。好きだな、市楽さん。


小のぶ師匠「時そば
江戸時代の時の数え方についての説明。
そうかーそうだったのかー。
最初の男が「九つ」だったのに二番目の男が「四つ」だから、ずいぶん早く出かけて行ったんだなぁと思っていたんだけど、九つは夜の0時、四つは22時のことだと。
それから「夜鷹」の説明。これは小三治師匠から聴いていたけれど、「夜鷹」にも縄張りがあってどこにでもいたわけじゃないという話や、「客二つ つぶして夜鷹 三つ食い」の川柳の「つぶす」の説明(しないで説明になってる!)とか…なんかそういうのがすごく楽しい。
なんだろう。ふつうはそういうのただの説明でしかないんだけど、小のぶ師匠の場合はその説明自体におかしみがあるっていうのかな。だから「へー」っていうだけじゃなく、「ぐふふ」って笑ってしまう。

そんなまくらから「時そば」。
最初の男が蕎麦屋に声をかけるところが、どんな噺家さんより威勢がいいので大笑いしてしまう。
小のぶ師匠ってものすごいアクションが激しいんだ。
そしてお世辞も次から次へと機関銃のように飛び出す。
そしてそれをぼんやり見ているのが与太郎さん。
これがさっきの男とは打って変わってのんびりした口調で「なんだいあれは」とぼやくのでまた笑ってしまう。

そしてからくりがようやくわかって「俺もやってみよう」と張り切ってでかけてきて、蕎麦屋に声をかけるところ。一生懸命声をかけても止まってくれない蕎麦屋。「おーい、蕎麦屋ー。おーい。…おーい。おーい。」

そしてこの男が食べるそばのまずそうなこと。汁を飲んで「なんだこりゃ。かれぇなぁ。湯を入れてくれ」。
そばもうどんより太くてべたべたしてのどにくっつく。

おそらくお客さんのほとんどがこの噺は飽き飽きするほど聴いていると思うんだけど、この激しさに場内は大爆笑。
いやぁ「時そば」をこんなに楽しくできるなんて。やっぱり小のぶ師匠ってすごい。


小のぶ師匠「井戸の茶碗
好きだと言う人も多いけれど、なんかねぇ…と思ってしまう噺。なんだけど、小のぶ師匠の「井戸の茶碗がまた想像の上をいく面白さだった。

清兵衛さんが正直だけどそれはもう庶民的で、高木佐久左衛門は若侍らしく血気盛んで、千代田卜斎は高貴でプライドが高い。
3人の人物がくっきりと描かれているので、清兵衛さんの「だから侍はきらいだよ」というセリフや、清兵衛に50両を受け取っちゃいなさいよと言われて烈火のごとく怒り出す千代田氏とかに説得力がある。

なによりも清兵衛がとても明るくておっちょこちょいなので、要所要所で笑いっぱなし。

いやぁ楽しかった。
井戸の茶碗」でこんなに笑えるとは思わなかった。
小のぶ師匠の落語はほんとに楽しいなぁ。そう思ってる人が大勢いるらしくこの日も会場は満員だった。

末廣亭12月中席昼の部(2日目)

12/12(月)、末廣亭12月中席昼の部に行ってきた。
フツウだったら昼席は行けないんだけど、末廣亭は職場から近いので裏技を使って…むふふふふ…。

 

南なん師匠「蒟蒻問答」
「落語」といってお分かりにならない方ってまだまだ多くて地方の落語会に呼ばれて行ってみると会場に入って「ええ?」っていうこと結構あります。一番多いのが座布団を何枚も並べちゃう方です。やはりテレビの影響って大きいんですね。
あれは「落語」じゃなくて「大喜利」なんです。
大喜利」と言ってもあれだけじゃなくいろんな種類があります。
こちらの寄席で夏にやるのが…ハワイアンですね。芸人が楽器を演奏したり、こんなふうに…踊ったり。

南なん師匠がハワイアンのダンスのポーズをしてる~。か、かわいい~。

あ、踊るのは女性ですよ。男は踊りません。
あと謎かけ、相撲でおとす??みたいのもありますね。(これがよく覚えてないけど面白かった。奥さんと旦那さんで相撲…吐き出して奥さんの勝ち、みたいな)
芝居をやることもあります。噺家がやる芝居だから「鹿芝居」。私も出たことあるんですよ。いやぁお見せしたかった。(見たかった!!)女形をやりました。女形

女形」の言葉に前の方のおじいさんが「見たくない!」と声をかける。
あたしは見たいよ!うるさい、だまれ、じじ…(←瞬間沸騰)

いやそれが評判がよかったんですよ。意外に。
後姿がいいって褒められましてね。こんな感じで…。
前を向いたら「ずっと後ろを向いててほしかった」って言われましたけど。

そんなまくらから「蒟蒻問答」。
江戸にいられなくなった男が蒟蒻屋の親方を頼ってくると、「お前ちょうどいい若ハゲだな。坊主になれ」。
修行なんざしたことがないからお経も読めないと言うと「そんなもんはいろはにほへとでやればいい」と言ってやりだすんだけど、これが確かにお経っぽくて笑っちゃう。

寺男の権助に弔いがないから干上がっちゃうと文句を言って「お前が弔いを断ってるんじゃないのか?」「そんなことねぇだよ」。
実は先日ばあさんが患っててと権助が言うと「ぽっくりいったか?」「ぽっくり治りやした」。
二人の会話がばかばかしくておかしい。
 
そして問答にやってきた修業僧は若々しくて血気盛んな印象で、それに対して蒟蒻屋の親方の物に動じない様子がすごくおかしい。
無言の問答のやりとりも、確かに蒟蒻屋の親方に変な迫力があって、笑ってしまう。
 
好きだなぁこういうばかばかしい噺。
そして南なん師匠のこういうはっちゃけた落語、ほんとに好き。
文句なく楽しかった!