りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

楽屋半帖

5/13(月)、駒込落語会で行われた「楽屋半帖」に行ってきた。

・さん助「のめる」
・さん助「転宅」
~仲入り~
・さん助「熊の皮」~三題噺(「うさぎのピー輔」「手ぬぐい」「餃子」)

さん助師匠「のめる」
まくらなしでいきなり噺に。なんとなく表情が硬いけど大丈夫?(表情が硬い理由は二席目のまくらでわかる)。

「のめる」。なんとなくこういう「間違える」噺って、さん助師匠自身が間違えそうでドキドキしちゃう。
でも大丈夫だった(ほっ…)。そして前に聞いた時より面白くなってる。
この噺って案外難しいんだなと感じることがあって、それは時々面白くない「のめる」に当たることがあるからなんだけど、さん助師匠の「のめる」はだれるところがなくてちゃんと面白かった。
そしてこの噺を聞くたびに思う。私も常に飲めるかどうかを探ってるから、伊勢屋の婚礼に呼ばれてるって言われたら絶対「じゃのめるな」って言ってしまいそうだな。


さん助師匠「転宅」
今日のこちらの会ですが、主催者の方といろいろ話しあって、三題噺をやることにしました、とさん助師匠。
その言葉に「ひぃーー」っと息を飲むさん助ファン。
ええええ?三題噺ってことは新作を作るってこと?できるの?無理でしょ。いいのよいいのよそんな無茶しなくても。
しかも仲入りの前にお客さんから「題」を書いてもらって、それを3つ取り出して、仲入りの間に作るって…。ハードル上げすぎでしょう。ムリムリムリ。
「な、なんかお客様が…すごく心配そうなんですが」。
心配だよー。きゃー。

そんなドキドキの発表から、どろぼうのまくら。
「だくだく」か「もぐら泥」かと思っていたら、なんと「転宅」。
さん助師匠の「転宅」初めて。うれしい~。

旦那を送り出すお菊さん。
「これはいつものとは別の金だから。いつもの分はまた後日」って旦那が言うってことは、別れ話がそもそも嘘だというのが最初にわかるってことなのか?
そのすきに家に入り込んだ泥棒、「あんなじじいがこんないい家にあんないい女を囲って!」とプンスカしてるのがおかしい。
うまそうにお酒を飲んだ後に、なんだかわからないものをずずっと食べて、「うまい!」。それからそこらへんにある小鉢を次々手に取ってずずっと食べる。全部同じ形状の食べ物ばかりが並んでる?刺身はないのか?焼き物は?(笑)
お菊さんがあがってきて、「なんだ、お前さんは」と言われると、はっとするけどまた手に取ってずずっ、に笑う。

すごく大きな声で「泥棒だ!」と脅した後、お菊さんに「ばかだね、野中の一軒家じゃないんだよ」と言われると、すごく小さな声で「どろぼうだ…」。
「ぬっと人の家に入ってそこらにあるものを飲み食いして見つかると”静かにしろ!”と脅すような男がいい」とお菊さんに言われるとすぐに「え?それ…おれ!おれだよ!」と嬉しそうなのもおかしい。
「こっんないい女をかみさんにできるなんて」「あんたみたいないい女」と何度も何度も「いい女」と力説するのも、でれでれと鼻の下の伸ばしようが激しいのも、ばかばかしくておかしい。
翌日訪ねてきた時も「あんないい女がかみさんになるなんて」「まじめにやってきてよかった」としみじみうれしそうなのがおかしい。
タバコ屋さんが「夕べの一件」を知らないと聞いて、目がきらっとなるのもおかしい。
そして「この話をするたびに、泥棒が気の毒になる」というタバコ屋の主人…やさしいな。
とっても楽しい「転宅」だった。

三題噺のお題取りでは「みなさんがハッピーになることや物を書いてください」と。
時々こういうお題に陰惨なことや政治的なことを書かれることがあってそうすると変な感じになってしまいますので、と。
私も新作の会で三題噺とか聞いてるけど、例えばわさびさんはお客さんに書いてもらった中から5つ取り出してそれを書き出して拍手の数でお題を決めて、次回作って発表するスタイル。
その方がいいんじゃないかなぁ…と思いつつ、でも次回までとかいうと時間が長い分ずっとそのことに囚われてしんどいのかなぁと思ったり。うーん…。

さん助師匠「熊の皮」~三題噺(「うさぎのピー輔」「手ぬぐい」「餃子」)
ちょっと長めの仲入りの後、座布団に座るなり「ただいま。おっかー。おっかー」。
え?「熊の皮」?
ってことはあれか、「熊の皮」の中に題を入れ込んで改作にするってことか?
そう思って聞いていると、結構スピーディだけどいつも通りの「熊の皮」。
およよ?どうするの?なになに?

すると、サゲを言って頭を下げたあと、「おつかれさまでした」。
なんとさん助師匠が落語をやって楽屋に下がって行ったところから。
「ところで燕弥くん、もう手ぬぐいとお年玉は用意した?」
お、おおっ手拭い!!
「ほんとに参るよなぁ。前座さんとお囃子さんそれぞれに一万円ずつ」。
ぶわはははは!笑いが起きると「なんでそこで見栄を張ったの?」。
「でもわずかなお金でも大勢だとバカにならないし手ぬぐいも大変なんだよなぁ」というような話をしてると、さん助師匠が「でも俺はあれよ。副業があるから」「え?副業?」。
その副業ってなに?と問われると「昔、江戸には野良犬が多くてそれが狂犬病になったり菌をまき散らすっていうんで、犬殺しっていうのがいただろ。今、みんなは知らないだろうけど、野ウサギが増えてこれが深刻な状況なのよ」。
「え?そんな話聞いたことないよ?」
「政府が必死に隠してるからね。で、そのウサギを殺すバイトをやってるんだ」。

ひぃーー。ウサギのピー輔ちゃん殺されちゃうの?そして私もウサギ飼ってるんですけど!やめてー(心の叫び)。
仕事帰りのさん助師匠がこの駒込のあたりを歩いていて「え?こんなところで落語やってる?普通の家で?怪しいな。秘密結社かよ。」という毒吐きに大笑い。
そしてこの近所にある中里公園…そこでさん助師匠がウサギを探すと…いたのだ、ウサギが。
手拭いを使って一気に仕留めようとするさん助師匠に、追い詰められたウサギが「くぅんくぅん」と殺さないでのお願い!これが耳を立てて上目遣いでめちゃくちゃかわいい!なんじゃこりゃ!(ウサギはくぅんくぅんと鳴かないけどそんなことはもはやどうでもいい)
ウサギのあまりのかわいらしさに、さん助師匠も殺すことができず、懐に入れて家へ…。そしてウサギはピー輔と名付けられる。

それからバイト先の中華屋に行ったので、おおっここで餃子が出るのね!と思っていると、なぜか餃子は出てこずに廃棄処分になるはずの白菜とニンジンをもらって家へ帰り、ウサギにやる。(え?中華屋を出した意味は?)
そうしていると電話が来て(とぅるるるるーっていつの時代の電話だ?)出ると「手ぬぐいの代金を払ってほしい」。その代金が16万円。…16万円ってなんかリアル~。
必ず払うけど今はちょっと待ってくれ、とさん助師匠。
電話を切って、やっぱりピー輔を殺すしかないかと思っているとまた電話。
出ると今度は仕事の依頼。喬之助師匠が病気で出られなくなって代演をさん助に…と言われました、と。ギャラは些少で…16万円です。
「16万!!」大喜びのさん助師匠。引き受けて電話を切ってピー輔に「これでお前を殺さないで済む」と話しかけていると、また電話がかかってくる。
ああ、やっぱり別の噺家に頼むことになりました、っていうんだ。絶対そうなんだ…。そう言いながら電話に出ると「具体的な内容を言うのを忘れてました。まんじゅうの噺をお願いします」。
ああ、よかった…それならできる、とさん助師匠。
まんじゅうも餃子もアンが大事です、でサゲ。

うおおお。私もよく覚えてたな。普段全然記憶ないのに(飲んでなくても)。
なんかきっともう二度とやられることはないような気がするのでサゲまで全部書いてみた。(記憶違いもあるかも)

なんかちゃんと面白いし、そんなに無理やりでもないし(後半はぐだぐだしたけど)、すごい!びっくりよ。やればできるじゃん!えらいぞうー!
って褒めても失礼な感じになってしまうのはなぜなのかしら…。
でも面白かった。すごいと思った。たったの15分足らずでこのクオリティ。
不安しかなかったさん助師匠の三題噺、次回も楽しみ(心配だけど)。

この会、毎月月曜日に開催ということで、次回は下記の通り。
6/10(月)、7月8日(月)、8月26日(月)。19時開演。

 

 

雲助 浅草ボロ市


5/12(日)、浅草見番で行われた「雲助 浅草ボロ市」に行ってきた。

・あられ「道灌」
・雲助「黄金餅
・菊志ん「蛙茶番」
~仲入り~
・雲助「鰻の幇間

雲助師匠「黄金餅
「さんぼう」のまくらから「黄金餅」。
最初から最後まで落語の世界で実に楽しい。金兵衛さんが明るくて軽くて気持ちのいい人物なので、隣に住む坊主を心配する気持ちも本当なら、隠し持っていた金を餅に包んで全部食べ切ったところを見て「なんて勿体ねぇことをしやがるんだ、あれをどうにか手に入れないか」と思うのも本当で、サバサバしていておもしろい。

麻布までの言い立てのところはこれ見よがしのところは全くなく淡々と言って、言い終わると「あたしもくたびれた」「お客様はほっとした」。
そう言った後に「私はこの言い立ての部分がこの噺の肝だとは思ってないんで」。
とある師匠が寄席のトリを勤めたとき、帰路も言い立てをする!と言っていたけど、後で前座に聞いたら行路ですぐに言い間違えていた、というのもおかしい。

そしてこの麻布の寺の和尚がめちゃくちゃ傑作!お経の面白さはあの「新版三十石」を彷彿とさせるほど。雲助師匠がこの和尚をほんとに楽しんでやっているのが伝わってきて楽しい楽しい。いやもう勘弁して~というくらい大笑い。
焼き場に行って「腹の所は生焼けに頼む」「仏の遺言だ」と言うのもおかしいし、焼けたところに行って崩すのを見て焼き場の大将が慌てるのもおかしい。
猟奇的な場面だけれど、金兵衛の生きる力を目の当たりにしているようで、カラッとしていてむしろ気持ちいい。
雲助師匠らしい「黄金餅」だなぁ…。雲助師匠ってほんとに優しい人だと思うなぁ。

 

菊志ん師匠「蛙茶番」
落研の襲名のまくらがすごくおかしかった。
あと地方の50人ぐらいで満員になる会に予約の電話をしてきたおばあさん。96歳になる夫も連れて行くけど夫は落語には全く興味がない。ただ置いていけないので連れて行くだけ。だから夫の分は無料にしてくれ、という無茶なお願い。
…これもすごいなー。そしてこういう電話が来た時に加藤さんがどうするのかが知りたい、というのにも笑った…。

菊志ん師匠、寄席では見るけど、こういう会で間近で見るのは初めて。
テンポがよくて間がよくて表情が豊かで隅々まできれいな芸なんだなー。クスグリもほどがよいというか神経が行き届いている感じ。
でもきっと気難しい人なんだろうな。なんでかそう確信したな。

雲助師匠「鰻の幇間
羊羹を懐にお客の家を訪ねるも不発。
主人が留守と聞いてそそくさと帰ろうとすると女中に目ざとく「何持ってるの?」と食い下がられ、「魚の方から食いついてきやがった」と言うのがおかしい。
一八が最初の方「こうやってまめに外に出なくちゃいけない」「えらい客だね。あたしを一人で遊ばせようという…」「今日はいい日だ」とえらく悦に入っているだけに、後半の展開が余計におかしい。
お客の前では酒も漬物も鰻もうまそうに食べていたのに、自腹とわかったとたんに「酒がまずい」「ぬるすぎる」「うなぎがもっさりしてる」と文句を言いだすのがおかしい。そしてこの徳利の柄がマムシ退治だったり、おちょこが天ぷら屋の開店記念品だったり、掛け軸が「富国強兵」だったり…もう一つ一つがおかしくて、次は何が飛び出してくるのかと、聞いていてわくわくする。

いやぁ楽しかったー。この噺、あんまり好きじゃないんだけど、最初から最後までほんとに楽しかった。
そしてこの会は雲助師匠がリラックスしてほんとに楽しそうにやられていていいなぁ。
落語マニアな方々が集結しているけど、難しい顔をして「ちょっとやそっとのことじゃ俺は笑わねぇんだ」という雰囲気は皆無で、みんながよく笑って心底楽しんでいる雰囲気が好きだ。

末廣亭5月中席昼の部

5/11(土)、末廣亭5月中席昼の部に行ってきた。


・り助「二人旅」
・けい木「新聞記事」
・のだゆき 音楽
・文雀「桃太郎」
・琴調「芝居の喧嘩」
とんぼ・まさみ 漫才
歌笑「親子酒」
・志ん陽「壺算」
・ペペ桜井 ギター漫談
・燕治「粗忽の釘
・小袁治「元犬」
・正楽 紙切り
・正朝「狸札」
~仲入り~
・喬の字「動物園」
・美智・美登 マジック
・一九「たらちね」
・小団治「ぜんざい公社」
・ストレート松浦 ジャグリング
小満ん「寝床」

 

り助さん「二人旅」
なんか面白い、この前座さん。どことなく…さん助師匠っぽい…なんだろう、一心不乱で回りに目が行ってない感じだけど、気が弱そうな感じもして。
ちょっと目が離せなくなっちゃった。


文雀師匠「桃太郎」
好きなんだー文雀師匠。結構珍しい噺をしてくれるから嬉しいんだけど、あー「桃太郎」かーっとちょっとがっかりしたんだけど、これもなんか面白かった。
昔の子どものくだりはなくていきなり現代の生意気な金坊。「昔々おじいさんとおばあさんが」のところで「昔々っていつ?」「おじいさんの名前は?」「どこに住んでるの?年金はちゃんともらえてる?」に大笑い。
この師匠のふわふわしたところ、好きだな。


琴調先生「芝居の喧嘩」
講談の「芝居の喧嘩」は落語とずいぶんイメージが違うんだな。
かっこよかったー。


一九師匠「たらちね」
けばだった心を落ち着かせてくれる一九師匠の「たらちね」…。よかった。(でもこの後またけば立つ…)

 

小満ん師匠「寝床」
小満ん師匠の旦那は品があって慈悲深い…素敵な旦那という雰囲気なんだけど、だれも来ないとわかってみるみる不機嫌になっていくのがちょっと意外で面白い。
かなり激しい怒りようなのに、番頭に持ち上げられると、どんどん気分がよくなっていく人の好さ…。
集まった長屋の人たちの陰口もなんか楽しい。
楽しかった!

 

種の起源

 

種の起源 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

種の起源 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 

 ★★★★

25歳の法学部生ユジンはその朝血の匂いで目覚めた。すぐに外泊中の義兄から電話があり「夜中に母のジウォンから着信があったようだが、家の様子は大丈夫か?」と尋ねられる。自分が全身血だらけなのに気づいたユジンは床の赤い足跡をたどり、階段の下に広がる血の池に母の死体を発見する…時々発作で記憶障害が起きる彼には前夜の記憶がない。母が自分の名前を呼ぶ声だけはかすかに覚えているが…母を殺したのは自分なのか?己の記憶をたどり真実を探る緊迫の三日間。韓国ベストセラー作家のサイコミステリ。 

ポケミスで韓国作家でこのタイトル。いったいどんな話なのかと思ったら…。

ある朝、血のにおいで目が覚め、いつもの癲癇の発作が起きたのか?と思うユジン。
昨夜の記憶がないまま部屋を出るとそこには血塗れの母の死体。いったい何が起きたのか、記憶のない間に自分が何をしたのか、真実を知りたいと母の日記を読み自分の行動を思い出していくうちに…。

読んでいて「少年は残酷な弓を射る」を思い出した。あれは母親の語りでこちらは本人。あのときは本人の視点からの物語を読んでその本当の意味を知りたいと思ったが、本人にも分からないのかもしれない。

しかし生まれてきた時から邪悪などということがあるのだろうか。
彼がされたこと、彼がしたこと、何をとっても救いがない。

露の新治落語会

5/10(金)、深川江戸資料館で行われた「露の新治落語会」に行った来た。


・新治「兵庫船」
・新幸「時うどん」
・新治「ちりとてちん
・さん喬「笠碁」
~仲入り~
トーク(さん喬&新治)
・新治「大丸屋騒動」


・新治師匠「兵庫船」
前にも新治師匠で聞いたことがある「兵庫船」。
広島の内陸部ではサメ(ふか)が唯一食べられる魚でお祭りの時に食べるごちそうだったことや、海のある方ではいくらでもおいしい魚が食べられるためサメはかまぼこにしていた、というまくらを振って「兵庫船」。
船が出るタイミングで三味線と太鼓がぴたっと入るのがかっこいい。いいなぁ。
同じ船に乗り込んだ者同士、出身を言い合ってそれを褒める、というのも楽しいし、なぞかけのくだりもとても楽しい。
サメが出てきて母娘の二人のうち娘の方が流した品物だけが沈んでいき、母親が「お前を海に沈めることなどできない。私が代わりに…」などと言い合っていると、それまで寝ていた男がはたと目覚め、サメなら俺に任せておけ!と。

にぎやかでふわっと楽しい「兵庫船」だった。


新治師匠「ちりとてちん
「知ったかぶりのあいつに食わせてやろう」とお世辞のうまい男を前に旦那が腐った豆腐に醤油をまぜていると、世辞のうまい男が「唐辛子も入れたらどうでしょ?」「どうせなら全部入れよう」「消毒にもなる」。
それに紙を被せてそれらしい名前を書き入れようと「ちりとてちん」と書くと「斜めに”元祖”と入れたらどうでしょ?」。
知ったかぶりの男が皿に盛られた「ちりとてちん」を前に何度も「ああ、懐かしい。ちりとてちん(おかしな発音で)」と言ってうんちくを言いながら口の近くに持っていっては「うえっ」となって皿を外し、また気を取り直して「ああ、懐かしい。ちりとてちん」…この繰り返しがリズミカルで陽気でめちゃくちゃおかしい。

いやこれがもうほんとに捧腹絶倒の「ちりとてちん」で、今まで見た「ちりとてちん」の中で一番面白かった!
新治師匠の落語ってきれいだなぁ…といつも思っていたけど、こんな一面もあったとは。笑った笑った。


さん喬師匠「笠碁」
碁を打つ二人がまだ少し若さがあるイメージ。喧嘩になる前の会話からとても親しい…気を使わない間柄なのが伝わってくる。
お互いに退屈して店の前を通ってみようと歩くところ、首の振り方がきびきびしていてすごくおかしい。
店にいる方も「こっちを向け」と首でくいっとやるのもおかしくて、微笑ましい。
碁盤を前にしてしんみりと語るのもすごくよくて、じーんときた。


新治師匠「大丸屋騒動」
名刀と悪刀のまくらから「大丸屋騒動」。
伏見の老舗「大丸屋」には先代が嫁入り道具で持ってきた村正の刀があった。それを次男の宗三郎がいたく気に入り欲しがる。最初は固辞されたのだが「だったら預からせてくれ」と言うのでそれならば…と宗三郎が持つことに。
その宗三郎、祇園の舞妓おときに入れ込み親戚から苦情が寄せられるが、兄の宗兵衛はおときの素性を調べると氏素性もはっきりしているし仲間内の評判もいいというので、二人に所帯を持たせることにする。
とはいえまずはほとぼりが冷めるまで…3か月だけ二人は会わずに別々に暮らせ、そうしたら店の暖簾も分けてやるし祝言をあげさせてやる、兄に言われ宗三郎も快諾する。
宗三郎は番頭をおともにつけてもらい木屋町三条で一人暮らし。2か月は何事もなく過ぎたのだが3か月目に入ったある日、番頭が御手水に行った隙に一目だけおときに会おうと思い立ち、村正の刀を懐に入れおときの住む富永町を訪れる。
宗三郎が訪ねてきたと聞いたおときは女中に「いないと言って追い返してくれ」と言うのだがうまくいかず仕方なく顔を見せる。
「3か月の約束を反故にしたら一緒になれなくなるから帰ってくれ」と言うおときに、酒を一杯飲ませてくれ…それが無理ならお茶を…それも無理なら水だけでも…と言う宗三郎。自分の顔を見ておときが喜ぶだろうと思っていたのに迷惑そうにされて面白くなく、脅かすつもりで村正を取り出して鞘がついたまま肩を斬りつける真似をしたのだが、鞘は勝手に外れて本当におときを斬ってしまう。
悲鳴を聞いて駆け付けた女中も斬り、心配して迎えに来た番頭も斬り…焦点の合わない目をしたままふらっと家を出ると出会うものを次々斬っていく…。
虫の知らせか宗三郎の屋敷を訪ねた宗兵衛が駆けつけると、宗三郎を役人が取り囲んでいる。
兄の私に捕まえさせてくれと頼んだ宗兵衛は宗三郎の後ろに回り込むと…。

…村正を手にしたことでいっきに悲劇へと転げ落ちていく物語。焦点の定まらぬ目で次々人を斬りつけていく宗三郎が恐ろしいのだが、最後の最後で驚きのサゲ…。ええええ?こんな噺にそんな落ちーー?
これも落語らしいといえば落語らしいのか。驚いたけど、最初から最後まで目が離せなくて面白かった。

五街道雲助・春風亭一朝・柳家小里ん 皐月「雲一里」

5/8(水)、日本橋劇場で行われた「五街道雲助春風亭一朝柳家小里ん 皐月”雲一里”」に行ってきた。

・朝七「たらちね」
・小もん「かぼちゃ屋
・小里ん「三人兄弟」
~仲入り~
・雲助「禁酒番屋
・一朝「抜け雀」

朝七さん「たらちね」
わーい、朝七さん!
「前座の菊之丞」と言ってる方がいたけど、確かに見た目はそんな感じ。でも菊之丞師匠ほど女性的な感じはしないんだよな。
なんかおまいさんというより若旦那というより…吉原の二流の店の若い衆?賭場の用心棒?そんなイメージ。
この独特な雰囲気、きれいな口調…癖になるわー。
「たらちね」もなんか普段聞く「たらちね」と少し違う。誰に教わったんだろう。
大家さんがおかみさんを連れてきて、「高砂や」を重々しく唸った(うまい!)後に、「じゃあね!」と言って去って行く…この「じゃあね」が絶妙の間と意外性があって大笑い。
面白い!好き好き。

小里ん師匠「三人兄弟」
この噺、前にも聞いたことがある!と思ったら、やはり小里ん師匠で聞いていたのだった。
遊びが過ぎて二階に軟禁状態の3兄弟。
長男と次男が二階にはしごをかけて遊びに行ってしまったことにも気づかないで、妄想で盛り上がる三男。
1人でのろける男がばかばかしくもかわいらしい。楽しかった!

雲助師匠「禁酒番屋
雲助師匠の「禁酒番屋」は初めてかも。
実に楽しそうな雲助師匠(笑)。雲さまってこういうくだらない噺をするとき、ほんとに楽しそうでいいなー。
他の人がやっているのとは少し違うところがあって…お屋敷のそばの酒屋はお忍びで飲みに来る侍が結構いたり、番屋の侍が「こういう役目はつまらない。次回やれと言われたら断ることにしよう」と話していたのが「役目の手前だ」と言って酒にありついたとたん「この役目も悪くないな」と喜んだり…こういうのは初めて聞いた。
あと酒を持ってくるように言われた酒屋が「番屋で見つかったら近藤様にも迷惑がかかるし、この店だって商売ができなくなる。まさに、ダブルプレイ、ゲッツーですよ」と言った後に「わたくしはこういうクスグリは嫌いなんですけど、師匠馬生がこうやってたものですから」。
…ぶわはははは!!
楽しかった!

一朝師匠「抜け雀」
宿屋の主人が最初から最後までとっても楽しい!
ちょっとむっとしてもすぐに気を変える人の好さがたまらなくチャーミング。
「私、鼻はえらい評判がいいんですよ」というセリフも卑屈さのかけらもなくてひたすらにかわいい。
こんなに楽しい「抜け雀」は初めて聞いた。素晴らしい!

文豪お墓まいり記

 

文豪お墓まいり記

文豪お墓まいり記

 

 ★★★★★

終戦の前日、永井荷風谷崎潤一郎がすき焼きを食べた。
あの文豪を、もうちょっと知りたい。
二十六人の作家と出会う、お散歩エッセイ!

永井荷風(先輩作家)と谷崎潤一郎(後輩作家)は七歳差です。
谷崎はデビューしたとき、先輩作家である荷風から自分の小説を褒めてもらえたことが嬉しくてたまりませんでした。
一九四五年八月十四日、二人は疎開先の岡山で再会します。終戦の前日に、谷崎は牛肉を手に入れ、すき焼きでもてなします。
……このように、文豪たちは互いに関わりながら生きていました。今は、お墓の中にいます。時代が違うので、実際には関われませんが、お墓には行けます。現代の作家が、昔の作家に会いにいきます。

二十六人の文豪たち――中島敦永井荷風織田作之助澁澤龍彦金子光晴谷崎潤一郎太宰治色川武大、三好十郎、幸田文歌川国芳武田百合子堀辰雄星新一幸田露伴遠藤周作夏目漱石林芙美子獅子文六国木田独歩森茉莉有吉佐和子芥川龍之介、内田百閒、高見順深沢七郎

 

ナオコーラさんが26人の文豪の墓を参る。彼らの生涯と作品に思いを馳せ作家としてのあり方を考えながら、お墓を掃除しお花を飾りお線香をあげる。
墓参りの前や後にはその近くでご飯を食べる。一緒に行った夫や母、編集者な作家仲間と話をする。

文豪、作品、そして日々の暮らしが地続きなのが、とても楽しい。

小説への向き合い方も興味深かった。
そして昨年読んだ「文豪たちの友情」もそうだけど、読んでいるとここに出てくる作家の作品を読みたくなる。面白かった。

きっちゅ亭

5/7(火)、紀伊国屋ホールで行われた「きっちゅ亭」に行ってきた。

松尾貴史 ご挨拶
玉川太福豆腐屋ジョニー」
・ナオユキ スタンドアップコメディ
~仲入り~
坂本頼光「喧嘩安兵衛」「サザザさん 6」
松尾貴史 物まねで朗読

太福さん「豆腐屋ジョニー」
「自信をもって言えることは、間違いなく今日この後に出てくる人たちのなかで…私が一番…まともです」。
これだけ多才で強烈な個性の人たちの中でどうしたら自分が爪痕を残せるか…。浪曲というのは落語や講談、お芝居…いろんなものが浪曲になります。
私はこの間まで映画「男はつらいよ」、これを浪曲にしたものを連続でかけていました。
で、今日は…落語で新作を作られている…白鳥師匠作の新作を浪曲にしたものを…。

そんなまくらから「豆腐屋ジョニー」。
確かにこれは初めて浪曲を聞く人にはいいかもしれない。私はこの間ノラやで聞いたところだったけれど、初めての人はほんとにあっけにとられツボにはまり大喜び!という反応。
また聞かせどころのところでおもわず拍手をすると、「いいですね。こういう時に2種類の方がおられます。思わず拍手をする人。拍手をする人を見守る人。でもみなさんせっかくですから、拍手しましょう。私、もう一度やりますから!」
二回目は拍手もぐっと増え…すごい一体感。
すばらしい!
太福さん、おそらく落語の会や講談の会なんかにゲストで呼ばれることも多いのだろう。こういう時にどうやったらお客さんをぐっと惹きつけられるか、ちゃんとわかってる!って感じがした。
かっこよかったー。

ナオユキさん スタンドアップコメディ
紀伊国屋ホールにナオユキさんって斬新!でもいつも通りのナオユキさんが素敵。
テッパンの酔っ払いの人たち。
笑ったのがあきらか歯のないおじいちゃん。ほんとにナオユキさんがおじいちゃんにしか見えないんだけど、すごいかわいい。そのおじいちゃんが「一人で飲みたいねん」「誰とも話したくない」言いながらいろいろ話しかけてくる感じとか、そのおじいちゃんが変な口まねみたいのをするのがツボで大爆笑。楽しかった!

坂本頼光さん「喧嘩安兵衛」「サザザさん 6」
ちゃんとした活弁と最高に笑える活弁と。両方もってるの、強みだよなぁ。
そして私が初めて見た頼光さんは「サザザさん 6」だったな、と思い出す。あれでハートを射抜かれたから、おそらくこの会でもハートを射抜かれた人が大勢いたのではないか、と思った。


松尾貴史さん 物まねで朗読
出始めたころ、頭のいい小賢しい器用な人、という印象があったんだけど、それは今も変わらず。きっちゅは今も変わらずきっちなんだな、と思ったな。

夢も見ずに眠った。

 

夢も見ずに眠った。

夢も見ずに眠った。

 

 ★★★★★

夫の高之を熊谷に残し、札幌へ単身赴任を決めた沙和子。しかし、久々に一緒に過ごそうと落ち合った大津で、再会した夫は鬱の兆候を示していた。高之を心配し治療に専念するよう諭す沙和子だったが、別れて暮らすふたりは次第にすれ違っていき…。ともに歩いた岡山や琵琶湖、お台場や佃島の風景と、かつて高之が訪れた行田や盛岡、遠野の肌合い。そして物語は函館、青梅、横浜、奥出雲へ―土地の「物語」に導かれたふたりの人生を描く傑作長編。 

沙和子と高之の12年間。

ずっと変わらないものなんてないし、ずっと続くことを約束されている関係なんていうものもない。

分かり合い寄り添っていたはずなのに、それぞれが変化しすれ違い疲弊していく。「結婚」なんてほんとにただの「約束」でなんの意味もないし保証もないのだということを思い知らされる。
人の心は移ろいやすく「絶対」なんてないのだ。
最初読んでゆるぎないものを感じた高之の方がこんなことにあるとは…。

久しぶりに高之と一緒にたびをして「この人のこういうところが嫌だったのだ」としみじみ思う沙和子の気持ちがよくわかる。

これが「夫婦」そして「縁」というものなのだろうか。もやもやした後味だけどとても面白かった。

私小説―from left to right

 

私小説 from left to right (新潮文庫)

私小説 from left to right (新潮文庫)

 

 ★★★★★

「美苗」は12歳で渡米し滞在20年目を迎えた大学院生。アメリカにとけこめず、漱石や一葉など日本近代文学を読み耽りつ育ったが、現代の日本にも違和感を覚え帰国を躊躇い続けてきた。Toreturn or not to return.雪のある日、ニューヨークの片隅で生きる彫刻家の姉と、英語・日本語まじりの長電話が始まる。異国に生きる姉妹の孤独を浮き彫りにする、本邦初の横書きbilingual長編小説。野間文芸新人賞受賞。

父親の仕事の関係で12歳の時に家族でアメリカに移住し20年目を迎えた大学院生の「美苗」。ニューヨークに住んで彫刻家として細々と暮らしている姉との英語交じりの長電話。

アメリカや英語に馴染みきれず、日本の近代文学を学び日本人であることを拠り所に生きようとするも、現代の日本にも違和感を感じる。

人種の問題や差別についての記述もリアルで「そういうことだったのか」と腑に落ちるところも多かった。

拗らせた人たちの愚痴という形態を取りながら、言語と思考、アイデンティティ、孤独についての深い洞察もあり、すごいものを読んだなぁという満足感。

今まで読んだ水村作品の中で一番読みづらかったが面白かった。

にほんばし落語会 雲助一朝二人会

日本橋社会教育会館で行われた「にほんばし落語会 雲助一朝二人会」に行ってきた。

・朝七「初天神
・一朝「巌流島」
・雲助「妾馬」
~仲入り~
・雲助「夏泥」
・一朝「大工調べ」

朝七さん「初天神
出ました!おまいさんな前座さん。
しばらく見ない間にますます謎の落ち着きと貫禄が出て、悪い若旦那感もぐっと増してる!
初天神」もなんかとっても独自なカラー。なんだろう。金坊もおとっつぁんもちょっと黒い。でもそんなに作為的な感じはなくてむしろ淡々としてるんだけど、時々すごみがにじみ出てしまうような…。
金坊が小さな声で「洒落が通じねぇな」とつぶやいたのが妙におかしかった。
面白いなぁ。どんな二ツ目になるんだろう。楽しみだ。

一朝師匠「巌流島」
テッパン中のテッパンだけど最初から最後までわかっていても…いやわかっているからこその気持ちよさ。
若侍に「煙管の雁首を落としたから拾え」と言われた時の船頭さんのわざとのんびり答えるところ、船を漕いで岸から離れろと言われてはっと気づいた後の軽快な漕ぎ方、離れていく若侍に江戸っ子たちが嬉しくなって声をかけるところ、裸になった若侍が船に近づくところ、すべてが一つの音楽のようにテンポよく心地よく気持ちよくて楽しい~!

雲助師匠「妾馬」
雲助師匠の「妾馬」は初めて。
八五郎が口は悪いけど気持ちのいい人物。
「お鶴が大変なことになった」と聞いて「ずらかりやがったか?」、「およとりを産んだ」と聞いて「因縁じゃぁ仕方ねぇ。にわとりを産んだ?」、「お目録を頂戴できる」と聞いて「金?そりゃありがてぇ!じゃ行ってくる!」。
お屋敷に着いて声をかけても誰も出てこなかったときにものすごい大声で「おたてまつるよーー」には大笑い。
お酒を飲んですっかりいい気持になって居並ぶ女たちを端からぐるっと見て「笑ってやがる」と嬉しそうなのもとてもチャーミング。そこでお鶴に気が付いて声をかけるのが自然でとてもいい感じ。
妹に対する情もさっぱりしていてしめっぽくないのだけれど、涙がじわっと出て照れくさそうに鼻を抑えるところも素敵。
よかったー。やっぱり雲助師匠はかっこいいな。

一朝師匠「大工調べ」
最初から最後までほんとに気持ちのいい「大工調べ」。
この噺、前半がちょっとイライラしてしまうんだけど、一朝師匠のは前半もすごくいい。
棟梁が言葉数は少ないのだけれど、大家のことが苦手でめんどくさいと思っているのが伝わってくる。苦労人らしく最初は腰を低くしているのだが…それでもにじみ出てくる職人気質。その言葉尻を捉えて決して譲らない大家。
棟梁がブチ切れてからの啖呵の気持ちのいいこと!それも、どや!ってところが全然なくて、なにをー?と勢いでキレるのが気持ちよくてすかっとする。
お奉行様からいったんは厳しく言われるも、その後のお裁きのまた気持ちのいいこと。
そしてサゲ。くーーーっかっこいいーー。


いいないいな、この二人会。とっても贅沢。
次回は9月27日とのこと。

南湖凌鶴二人会(第1回)

4/30(火)、永谷フリーサロン新宿FU-PLUSで行われた「南湖凌鶴二人会(第1回)」に行ってきた。

・凌鶴&南湖 トーク
・凌天「鬼児島彌太郎」
・凌鶴「ネパールの救急車」
・南湖「ガンジス河の仇討ち」
~仲入り~
・凌鶴「村山聖
・南湖「血染の太鼓 広島商業作新学院

凌鶴先生&南湖先生 トーク
今回、二人がそれぞれ自分の作った新作を20作ずつリストアップして、お客さんがその中からそれぞれについて2作ずつリクエストし集計して一番数の多かった話を2席ずつやるという企画。
リストアップされた作品を先生方が「こういう内容で」とか「こういういきさつで作った」とか説明していく。
作っている新作の内容も全く違うタイプだし、説明の仕方も個性が出ていて面白い。
南湖先生は「これはどこへ行ってもウケる話。テッパンですわ」「これは人情噺やね。自分の会でやって評判良かったから池袋でかましたれ!思ってやったらダダすべりしましたわ」等、エモーショナル(笑)。
凌鶴先生は、プロ野球のマスコットの中に入って人の話や80歳を過ぎてから定時制高校に行き始めた人の話など、話の内容について淡々と。
凌鶴先生も聞き始めたばかりだし、南湖先生を聞くのは初めてだし、どれも聞きたい!うぉーー。
というわけで私はどちらかというとテッパンっぽい話を投票したんだけど、投票で決まったのは二人が「これはないやろ」「これは…長いから今日はやめた方がいいかと思って一番下にしておいたんだけど」と言ってた話に決定。
きっと玄人なお客様が多かったんだろうな。でもそりゃそうだよ。せっかくこんなマニアックな会なんだもの。マニアックな話を聞きたいよね!

凌鶴先生「ネパールの救急車」
吉祥寺にあるネパール料理のお店や地元のネパール料理のお店に通って店主が読めない学校からのお知らせなどを読んであげているという凌鶴先生。
お店の主人から聞いたという実話。
ある日お店の前に救急車が止まり、それを見た店主がいたく感動。ネパールには救急車はなく有料の籠で運ぶので病院まで何時間もかかる。あんなふうに医療器具を載せてすぐに駆け付けてくれたらどれだけの命が助かるのだろう。
お客さんにそんな話をするとたまたまそこにいたお客さんが行政書士の方で 、救急車を購入するとなったら何千万もかかるだろうが、車検が切れて廃棄処分になる救急車ならことによると…と言う。ならば一緒に救急センターを訪ねて聞いてみようということになる。
話をしに行くと応対してくれたセンターの人が「通常はそういうことはしないですけど、ネパールの人たちを助けたいという気持ちが素晴らしい。話をしてみます」と。
果たして救急車は手に入るのか、そしてそれを無事ネパールに送り届けることはできたのか…。

…とてもドラマチックな内容で、言い立てもあったりして、エキサイティング!
ああ、でも世の中にはこういう出来事もあるんだなぁ…。お金持ちじゃなくても志のある人がいてその気持ちが通じると周りの人が動いてくれたり行政も動いてくれたりするんだなぁ。
よくぞこういう話を見つけて講談にしてくださったなぁ。
胸がいっぱいになった。よかったー。

南湖先生「ガンジス河の仇討ち」
まさかこれが選ばれるとは、と南湖先生。私結構わかりやすく選んでほしい話については「これはええで」とアピールしたつもりやったんですけどね。
インドには講釈師が集まって住んでいる村がありまして。これはほんとの話です。
というのはインドにはカースト制があって職業は親からその子供へと受け継がれていく。勝手に別の職業に就くことができない。家族で同じ仕事をするので職業が村ごとに偏るのは道理。
で、インドの講釈師っていうのはどういうものかというと、宗教画を巻物のように見せながら講釈で話をして伝える。この講釈が今廃れつつある。
というのは、宗教画がヨーロッパからの観光客によく売れる。
そうすると親から子に伝えるときに、話の方じゃなく絵の方ばかりに力が入るようになる。手っ取り早く金になる絵の方に力が入るから話がおろそかになり講釈が廃れてきてる。

今からする話は私が作ったのではなく、インド人の講釈師カーンくんが作った話です。カーンくんは日本が大好きでとても詳しい。なので、インドと日本がごっちゃになってます。
そんなまくらから「ガンジス河の仇討ち」。
いやこれがもう…和洋折衷というか荒唐無稽というかすごく面白い話で。
南湖先生のギャグも入って楽しい~。笑った笑った。

凌鶴先生「村山聖
「私もまだまだ未熟ですね…二人会なのでついつい力が入ってしまってもう喉がガラガラです」と凌鶴先生。
同率一位で選ばれたのがこの話で、「これは…長いんですよ…だから二人会には向かないなと思って一番下に書いておいたんですけど…」。
将棋に詳しくない私でも村山聖の名前は知ってる。「三月のライオン」で。
彼の一代記。
病気と闘いながら将棋に命を懸けた人生。
両親の献身、師匠との出会いや師匠の力強い後押し、羽生とのライバル関係。
わがままともいわれている村山だけれど、そのひたむきさに涙…。
聞き終わった後も余韻が残り、今これを書いていても胸になんともいえない思いが蘇ってくる。
素晴らしかったなぁ。聞けてよかった。

南湖先生「血染の太鼓 広島商業作新学院
講談師旭堂南北先生の実話。
広島商業に入り応援団として甲子園へ。広島商業には達川がいて、甲子園では作新学院の江川とも対決をしたという…。
その甲子園での試合の実況中継が講談になっていて、手に汗握る内容。
面白い~。
こういう話も講談になるんだ!講談ってすごく自由なんだなー。

全く違うタイプの二人のガチ対決。
見ごたえがあって本当に楽しかった。
南湖先生、初めて見たけど大好きになった。そして凌鶴先生のじんわりくる講談の良さも再確認した。

第二回目もありますように!

末廣亭4月下席昼の部

4/30(火)、末廣亭4月下席昼の部に行ってきた。
ゴールデンウィークだし平成最後の日だし夜のトリは喬太郎師匠だし混んでるだろうなと覚悟して行ったけど、10時半の時点で角のバーのところまで行列ができていて、開場してすぐに二階席も開いて満員。おそるべし。

・与いち「手紙無筆」
・小もん「金明竹(上)」
・ダーク広和 マジック
・三朝「やかんなめ」
・馬石「ざるや」
・東京ガールズ
・半蔵「代書屋」
・扇遊「一目あがり」
・紋之助 曲独楽
・小燕枝「親子酒」
・伯楽「宮戸川(上)」
・正楽 紙切り
・小さん「壺算」
~仲入り~
・海舟「三方一両損
笑組 漫才
・馬の助 漫談&百面相
・小団治「ぜんざい公社」
仙三郎社中 太神楽
・小里ん「笠碁」

小もんさん「金明竹(上)」
二ツ目になってから初めて見たかも、小もんさん。
前座時代は淡々とゆっくりと真面目に落語をやっているという印象だったけど、平成最後の日に自分の師匠がトリで自分もこうして高座に上がれて…と本当に嬉しそう。こちらまで嬉しくなっちゃう。
落語は少しのんびりしすぎかなぁ。せっかくの「金明竹」なんだから前半をはしょって言いたてのところをメインにやったらこの日のお客さん(満員。初めての人が多い感じ)は喜んだと思う。


三朝師匠「やかんなめ」
この位置で「やかんなめ」!テッパンをぶつけてきたな!
この日のお客さんに合わせてか結構くさめ。テンポよく面白かった。


馬石師匠「ざるや」
ニコニコしていて楽しそうでそんな様子に客席からも笑いが起きるほど。
平成最後の日だからおめでたい噺をということだったのかな。「ざるや」。
明るくてわかりやすくてひたすら楽しい。チャーミング!


扇遊師匠「一目あがり」
弾むような高座。やっぱりおめでたい噺!楽しかった。


紋之助先生 曲独楽
こういう満員&初めてのお客さんの時に、本当にぴったり!
最高潮に盛り上がった。
何度も見ているけどほんとにすごいなぁと思う。技もそうだけどトークとお客さんの盛り上げ方がほんとに上手。ほれぼれ。


小燕枝師匠「親子酒」
聞き飽きた噺がこんなに面白いか。
ほんとに目の前で大旦那がどんどん酔っぱらっていく…目がすわってきて動作が緩慢になってきて底なしに飲みたがる。
帰って来た若旦那もべろんべろんに酔っぱらってるけど若者らしく酔っぱらっていてその違いにも目が釘付け。
かわいかった!


馬の助師匠 漫談&百面相
お客さんが疲れてきたところで、漫談と百面相。
すばらしい。こういう技を持ってるといいなぁとしみじみ。


小里ん師匠「笠碁」
二人のおじいさんが本当にチャーミング。おじいさんだけど碁盤を前にすると子どもに戻るんだな、と感じた。
店の前を通るところを、店にいる方の目の動きだけで表現していて、じーーーっとして目をぎょろっとさせて目だけを動かすんだけど、それでめちゃくちゃおもしろい。
3回目に通るときは頭を振るところ。これもたまらなくおかしくてかわいい。

「へぼ!」「ざる!」と言い合いながら二人で碁盤の前に座ってうれしくてしょうがないのが伝わってきて、なんか涙が出た。
素敵だった。

さん助ドッポ

4/29(月)、お江戸両国亭で行われた「さん助ドッポ」に行ってきた。

・さん助  ご挨拶
・さん助 初代談洲楼燕枝の述「西海屋騒動」第二十八回「八方塞がり」
~仲入り~
・さん助「堀之内」
・さん助「王子の狐」


さん助 師匠 ご挨拶
今日は「王子の狐」をやるので、扇屋の卵焼きを買ってきました、とさん助師匠。
日本橋高島屋で買ってから来ようとUNAさんと行ったらしいのだが、なんと売り切れ。
だったら本店に行くしかないと思いつつ、もうこの時間じゃ売り切れてるんじゃないかなぁと絶望的な気持ち。でもダメもとで電話をすると「大丈夫ですよ」との返事。
それで日本橋から今度は王子へ行ったのだが、小さな店舗の前には行列。並んでいる卵焼きがあと3つだったのに前のおばさんが3つ全部買ってしまった!
もうだめか…と思ったら、なんと裏で作っているらしく、ちゃんと出してもらえた。

んまー。お気遣いなく。だいたいさん助師匠はそういうの苦手そうだし、そういうことを思いつくとUNAさんに負担がかかる一方だし、さん助師匠は落語を一生懸命やってくれればいいんですよー。
と言いながらも嬉しい。さん助師匠って落語の舞台になった場所に行ってみたり、落語に出てくる食べ物をお客さんにもふるまってくれたり…そういうところ、いいなぁ。落語愛を感じる。
そしてどうでもいいけど、さん助師匠って説明するときに「これっくらいのおべんとばこに♪」みたいな四角を作るんだよな~と前から思っていて、この日もそうだったのでおかしかった。


さん助師匠 初代談洲楼燕枝の述「西海屋騒動」第二十八回「八方塞がり」
御用聞きの石澤文九郎は義松に目を付けてどうにかして引きずりおろそうとしている。
しかし義松の方も武装して隙を見せない。
そんな時、文九郎が平三親分に話を持ち掛ける。それは武器をすべて出せば今後平三の賭場には手は出さないから自由にやっていい、というのである。
義松は危ない話だと進言したのだが平三はいい話だと思い、武器をすべて文九郎に差し出す。
しばらくして祇園祭がやってきて平三の賭場はいつも以上の客でごった返す。
その夜、義松のもとに「文九郎が今夜賭場に奇襲をかけてくるらしい」と言いに来た男(子分?)がいた。
最初は信じなかった義松だが、確かにこれは怪しいと思い、大慌てで平三のもとへ向かう。
一方平三の方は赤い木綿の鉢巻きをした男たちがやたらとあちこちにいることを危ぶんでいると、この男たちが合図の後一斉に襲い掛かってくる。これがすべて文九郎の一味。
最初は気迫で文九郎の子分たちを威嚇した平三だったが、多勢に無勢で捕まってしまう。
一人残った義松がこの様子を高いところから伺っていると、義松の後ろにこっそり近づいてきた男がどん!と義松の背中を押す。
押された義松はごろごろと転がって川に落ちてしまう。もはやこれまでかと思っていると船が近づいてきて義松を助けてくれる。
川中まで出てようやく義松が一息つくと、助けてくれた男というのが文九郎で、しまった!と逃げようとすると四方八方を船で囲まれていて、八方ふさがりになった義松はいよいよ文九郎に捕まえられてしまう。

…なんだそりゃ。
やくざの大親分がそんな口車に乗るのかよと思うし、そもそもそんな約束にどんな効力があるんだよと思うし、文九郎がどれほどの者なのかは知らないけど、やけに大勢子分がいるなぁと思う。
とにかく義松のパターンとして、追われる→逃げる道中で自分を助けてくれた人を殺す→行った先でなぜか大親分に信用されて出世する、あるいは、自分が大親分になる→女を手に入れる→追われる …なんだな。
自分に惚れぬいた女を平気で殺したかと思えば、別に思い入れもないような親分が捕まったと聞いて「親分!」と叫んでみたりする。
なんやねん!

…ってまた文句ばかり書いちゃった。次回も楽しみ。


さん助師匠「堀之内」
「王子の狐」がそれほど長い噺ではないので、と言って「堀之内」。
もうこの「堀之内」がひっくり返るほどおかしかった。
粗忽な人が粗忽な人の噺をやるとこんなに面白くなるのか!
なんたって噺の中の人がおっちょこちょいをするたびに加速していくようにさん助師匠もごちゃごちゃになってきて、お参りが済んだ帰り道でもまだ「南無妙法蓮華経」唱えてるし、家に帰ってきて金坊をお風呂に連れていく時「隣の子はこんなにすごいぞ」と話すんだけどその隣の子の名前も「金坊」。言った後に「あれ?違うな?もうわからなくなっちゃった!」。
前に聞いた時よりぐっと面白くなってた。すごいわ、ほんと。笑った。

さん助師匠「王子の狐」
男が王子を歩いていると道で狐が昼寝をしていて、それに石をぶつけると狐が起きだして、それを陰で見ていると、狐がきれいな女に化ける。
あれは誰を化かそうとしているんだ?とまわりを見渡すとだれもいなくて「あ、おれか」。
あんなにいい女じゃだまされちゃうよと言いながら眉をこするんだけど、「眉唾」なんだから唾もつけないとだめなのでは?(笑)
不思議なのはさん助師匠の「いい女」ってほんとに結構「いい女」なんだよなー。なんか意外にも色っぽい。
どんどん飲まされた狐が酔っぱらって寝込んじゃって目が覚めてお勘定押し付けられたと気づいても逃げることもできず座布団の上に座ってるって…なんかかわいらしい。
お土産の卵焼きを持って友達の家を訪ねた男が「お狐様を化かすなんて」と諫められて青くなって次の日狐の家を訪ねて行って狐の子供にお土産を渡すって…なんかかわいらしいな、この噺。
楽しかったー。
そして仲入りでいただいた卵焼きも甘くてとてもおいしかった。これを狐ちゃんも食べたのかな、なんて思うとなんか楽しいな。

雷門小助六独演会

4/29(月)、上野広小路亭で行われた「雷門小助六独演会」に行ってきた。

・小助六 ご挨拶
・金かん「子ほめ」
・音助「鈴ヶ森」
・小助六「猫の災難」
~仲入り~
・悠玄亭玉八 幇間
・小助六「佃祭」

助六師匠 ご挨拶
初めての後援会主催の独演会ということでご挨拶。
とてもきちんとしているけどきちんとし過ぎていないところが小助六師匠の素敵なところ。チャーミング。
地元で応援してくれてる方々も多いんだろうな。

金かんさん「子ほめ」
とても達者な前座さんだなぁ。芸がきれい。何も余計なことを入れてないのにちゃんと面白い。好き。

音助さん「鈴ヶ森」
芸協の若手ってみんな文治師匠に教わってるのかな「鈴ヶ森」。そもそもこの噺が好きじゃないのでがっかりしてしまう。せっかくの音助さんなのに、と。私の好みの問題だけど。

助六師匠「猫の災難」
お酒のまくらから「猫の災難」。
初めての独演会の一席目で「猫の災難」っていいなぁー。
お酒を注ぐしぐさや飲むところがほんとにきれいで美味しそう。思わずごくり。(夜の落語会までの間が結構あるから昼飲みしよう、と決意)
酒飲みの勝手な言い分もリアルでおかしい。
明るく軽く楽しい落語。気負いもなくてふわっと楽しかった。

悠玄亭玉八さん 幇間
なんと本物・現役の幇間
とてもしゅっとしてきれいな男性で…おそらく結構お年を召されているのだろうけど、全くそういう風に見えない。
漫談から粋曲、都都逸声帯模写(歌舞伎役者、歴代首相)、踊り(「どうぞ叶えて」)と、洒脱だし色っぽいしきれいだし笑えるところもたくさんあるし、すごく素敵だ。
お座敷で遊ぶ、なんてことは一生ないだろうから、こういう芸を目の前で見られてほんとに幸せだった。

助六師匠「佃祭」
「悠玄亭玉八さん 、素敵でしょう?袖でじっくり見たかったから後援会のお金を使って呼んでもらっちゃいました」。
そうだと思いました。ありがとう、小助六師匠。

神信心のまくらから「佃祭」。
次郎兵衛さんに品があって優しさとざっかけなさもあって魅力的。
身投げを助けられた女性も女らしく柔らかく、亭主はいかにも小ざっぱりしている。
次郎兵衛さんが死んだと思い込んで働く町内の人たちはいかにも江戸っ子でおかしい。
テンポもよくてダレるところのないきれいな「佃祭」だった。