りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

トリック (新潮クレスト・ブックス)

 

トリック (新潮クレスト・ブックス)

トリック (新潮クレスト・ブックス)

 

 ★★★★★

プラハの貧しいラビの家からサーカス団に飛び込み、ナチス政権下を生き抜いた老マジシャンと、ロサンジェルスの裕福なユダヤ人家庭に育ち、両親の離別に悩む少年。壊れた愛を魔法で取りもどしたい―夢見がちな少年の願いは、拗ね者のマジシャンの心をついに動かし、一族の命運を変えた戦時下の「奇跡」をも呼び覚ます。持ち込み原稿を断わられ続けること10年、スイスの名門ディオゲネス社から刊行されるや、たちまちベストセラーとなり、17ヵ国語に翻訳された話題のデビュー長篇。

 

プラハの貧しいラビの家に暮らすモシェという少年の物語と両親の不和に悩むロサンジェルスに住む少年マックスの物語が並行して語られる。

マックスは父の持っていたザバティーニというマジシャンのレコードに「永遠の愛の魔法」というのがあるのを見つけ、その魔法をかけてもらえば両親が離婚せずに済むのではないかと考えザバティーニを探し出そうとする。

落ちぶれたマジシャンと夢見がちな少年が出会ったとき、明かされなかった過去が明らかになる。

背景にはホロコーストがあり、決して甘くはない物語だけれど、ユーモアがあってマジックの楽しさといかがわしさも香り、魅力たっぷり。

素晴らしかった。

飛族

 

飛族

飛族

 

 ★★★★★

かつて漁業で栄えた養生島に、女がふたりだけで暮らしている。母親のイオさんは、九十二歳。海女友達のソメ子さんも、八十八歳。六十五歳のウミ子が、ふたりを見ている。 

国境沿いの島に住む二人の老女イオとソメ子。92歳になるイオを本土に連れて帰るつもりで娘のウミ子が訪ねてくるのだが、二人の老女の絆は強く、そして島への愛着は深い。

漁で死んだ男たちは鳥に生まれ変わったと信じ、飛ぶことを夢見て鳥踊りをする二人。台風は直撃するし店も物もないし密漁船は来るし、老人だけで住むには心配すぎる環境だけど、老女たちは海や魚や鳥と解け合うように暮らしている。

祈りとともにある暮らし。したたかさも感じさせる老人がチャーミングで楽しかった。
そして鳥踊りをする二人の老女の姿が目に焼き付いている。

「エリザベスの友達」がとてもよかったので読んでみたのだけれど、これもとても面白かった。
ほかの作品も読んでいこうと思う。

第14,5回 落語協会大喜利王選手権

4/27(土)、池袋演芸場で行われた第14,5回 落語協会大喜利王選手権に行ってきた。
一昨年行ったとき、席取りが大変だったことを覚えていたので、今回は15時45分ぐらいから並んでみた。あの時ほどは凄くなかったけど開場時にはものすごい行列。立ち見も出た。
まずはチーム分け。さん助師匠が玉の輔師匠と同じチームになりませんように…と願っていたら、なんと玉の輔師匠がジョーカーを引き、全チームに参加することに。おーのー!!
なぜ嫌なのかといえば、玉の輔師匠は下ネタしか言わないので、その回答に文蔵師匠が「だめだよ!」と隣にいる人を思い切りハリセンで叩くのだ。
前回出た時も叩かれ役だったさん助師匠。このチームだったら間違いなく叩かれ役。うわーーまた叩かれるー(涙)。

予選
Aチーム:ふう丈、粋歌、丈二、小せん、玉の輔
・「朝起きたら小学生になっていた。まず何をする?」のお題に「のだゆきのたて笛を舐める」(玉の輔師匠だったかな?)には笑った。
大笑いした文蔵師匠が「ぐわははは!びみょー。で、やっぱり楽屋行くんだ?小学生になったけど?」と言ったのもおかしかった。
・「アルファベット三文字で何かの意味をもたせてください」のお題にふう丈さんが「AAA(あたしはアサダ二世ですよ、今日のあたしはちゃんとやりますよ」と物まねでやったのもおかしかった!
・小せん師匠の回答はきれい。下ネタで客席が引いたあとに小せん師匠が答えるとほっとする。あ、いや、下ネタでも結構笑えるのもたくさんあったよ。

Bチーム:かゑる、きく麿、小傳次、百栄、玉の輔
・「芸人にあだ名をつけてください」のお題にきく麿師匠が「香りまつたけ味〆治」はなんかかわいくておかしかった。〆治ネタがはまってこの後も何回か出していてそのたびになごんだ。
・「ドミニカ第三中の生徒の間ではやっていること」に百栄師匠がなんだったか忘れたけどすごいばかばかしい遊びをたどたどしく言うのがツボにはまって笑いが止まらなかった。
・かゑるさんが主旨を理解していないようでちょっとこわかった。

Cチーム:さん助、花飛、サンキュータツオ居島一平、玉の輔
・さん助師匠がはたかれるのが心配でほとんど覚えてない。
・一平さんは丹波哲郎の真似をしてた。タツオさんが客席の反応がいまいちだと「えええ?」と声を出すのがちょっと面白かった。
・花飛さんは大喜利はうまい。

 

決勝
ふう丈、花飛、小傳次、百栄、圓歌サンキュータツオ居島一平、小せん、きく麿、玉の輔
・披露目の最中の圓歌師匠が参加。優勝賞品もたくさん用意してくださっていて、太っ腹で優しくてみんなに好かれていることが伝わってきた。
・本人を前にして圓歌師匠の物まねをするきく麿師匠。これが似てるしかわいいんだ。
・優勝はきく麿師匠。納得!

柳家小三治独演会

4/24(水)、赤坂区民センターで行われた「柳家小三治独演会」に行ってきた。

・小はぜ「狸鯉」
小三治「お化け長屋」
~仲入り~
小三治 質問コーナー

小はぜさん「狸鯉」
わーい、小はぜさん。
「狸鯉」は小はぜさんがニツ目になりたての頃、よくやっていた噺。
狸がかわいいし、男はざっかけなくて気がいいし、とても楽しい。
別れのシーンが好き。前はもう少し男がけろっとしていたけど、申し訳なさと悲しさが出てきていてよかった。

小三治師匠「お化け長屋」
この季節は花粉症でいやになっちゃう、と小三治師匠。
自分はそういうのにはならないんだと思っていたのにある時からなっちゃって一度なったら毎年なってほんとに勘弁してほしい、と。
客席を見渡して、「今日もマスクしてる方もおられますけど…ご愁傷様です」。
それから自分の前に出た小はぜさんについて。
あの者にね、聞いたんですよ、すれ違ったときに。どうだった?って。そうしたら「は、はぁ…」。
どうだった?うまくやれたか?って聞いたらまた「はぁ…」。
お客さんはどうだった?にも「はぁ…」。
はぁってねぇ?

…ぶわははは。そりゃ小三治師匠に「どうだったか」と聞かれたら「は、はぁ」としか答えようがないよなぁ。
「うまくいきました!」なんて言えっこないしかといって「だめでした」とも言いづらいし。
無理ないよーと思いつつ笑ってしまった。

それから自分は落語家ではなく噺家と呼ばれたいという話。これは何度か聞いているけど…入門して7年目ぐらいからそう名乗っていて、税務署で何度も「噺家?ってどういう意味ですか?落語家のことですか?だったら落語家のほうがわかりやすい」と言われ、何度も説明したというのも面白い。

落語にはいろんな種類の話があってというまくらから「お化け長屋」。
最初に訪ねてきた男の話への入り込み方と怖がり方と二番目に訪ねてきた男の動じなさ。
怖がられるほど調子づいて怪談に迫力が増してくる杢兵衛さん。
それが二番目の男が思わぬところに反応したりつっかかってくるので、たじたじになる杢兵衛さん。
その対比がくっきり。

この日はなにせ席が鬼のようによかったので表情やしぐさのすみずみまで見られたんだけど、いつも小三治師匠が言ってる「落語を記憶しているのではなくやってる」というのがなんとなく体感できた気がした。
師匠の調子はあまりよさそうではなかったけれど、間近で見られてしみじみと幸せを感じた。


小三治師匠 質問コーナー
「みなさんお察しの通り、時間がありません」と小三治師匠。
一席目が長すぎてもうあまり時間が残っていない。落語を二席やるつもりで上がってきたけど、もうやってる時間がない。
というわけで…今日は質問を受けましょう。こんなことはめったにやらないんですが。

…ひぃーー。席も前だからこんなチャンスはないけど私にそんな度胸があるはずもなくー。と思っていると男の人が「談志師匠との思い出は?」。

聞かれた小三治師匠。
「ああ、ここは立川流の企画だからか…」と言った後に「あの方は兄弟弟子なんですよ。私より5年上。1日でも先に入ったら先輩という世界で5年ですから…正直言って私がとやかく言えるような立場じゃないんです。でも…それこそ太鼓のたたき方から教えてもらったわけで…思い出なんかそりゃもうたくさんありますよ。あるにきまってるでしょう。以上!」

…し、師匠…。質問に答えますよと言っておいてその回答は…と思ったら、そう言い切った後に、気を取り直したように、つらつらと話し始めて…。

談志師匠が落語協会を出て何年かたったときにホールのロビーですれ違った時の話。
私は談志師匠のことはよく知らないけれど、その人柄と二人の関係性がじんわりとにじみ出てくるようで、いいエピソードだったなぁ…。
いったんけんもほろろに言ったあとに、そういう話をぽつりとしてくれる。
そういうところが好きなんだよなぁ…と思ったのだった。

もう一つぐらいと師匠が思ったところで舞台袖から「師匠!時間です」とマネージャーさんの声。
「お前ね…おれより声が大きいよ」と言った師匠がおかしかった。

鍛耳会13

4/22(月)、ノラやで行われた「鍛耳会13」に行ってきた。

・小そめ「深川裸祭り」
・太福「久六とおしゃべり熊」
~仲入り~
・太福「豆腐屋ジョニー」

太福さん「久六とおしゃべり熊」
4月は東京で22回、会があったという太福さん。少々お疲れ気味。
その中でもやはり山場となる会というのがありまして…その一つがブラック師匠との二人会。
これは…あくまで私の感想ですが…私はブラック師匠にハマらなかったです。
どうにか食らいついて行こうとはしたんですが、スケールが違いすぎて…もうエピソードとか芸とか…完璧すぎて…何を言われても「ああ。そ、それはすごいですね」しか言えなかったんですから。どうよって感じですよね…。二人会で…。完敗でした。
それから清水次郎長伝を3日間でかける、というのもやりまして。長い話なのでもちろん全部やることはできない。
なので、その中からダレ場のようなところは省いて話が動くところを中心にやりました。
今日はその時にまるまる省いた話をやります。省いたっていうことは…面白くないんです…あとストーリー的にも大きくは動かない。でもこういう要素が積み重なって敵討ちへと進んでいくわけで…。

そんなまくらから「久六とおしゃべり熊」。
親分である久六のだめだめ加減、それに対する次郎長親分のかっこよさを本人の前で堂々と語る子分の熊。
殺し合いや啖呵をきるような激しい場面はない分、ユーモラスで楽しい。落語みたい。
汗だくの熱演。うーん…かっこいいなぁ太福さん。なんか引き込まれそうなものすごい磁力を感じてドキドキ。

太福さん「豆腐屋ジョニー」
白鳥師匠の新作を太福さんが浪曲にしたというもの。
浅草のスーパーの特設売り場をめぐって、豆腐とチーズの抗争。
ロミオとジュリエットのような悲恋もあり(笑)、抗争もあり、両者の間をうまく立ち回る麻呂(笑)もあり、ちゃんと浪曲として一つの作品になっているんだけど、すごくバカバカしい。
うーん。こういう新作をもってるというのが太福さんの強みだなぁ。初めての人でも入りやすいもの。
小さなハコでたっぷり聞けて満足~。

たのしい暮しの断片

 

たのしい暮しの断片

たのしい暮しの断片

 

 ★★★★★

「この本は、大嫌いなんだけれど、それをやらないでいる方がもっと最悪になる家事のあれこれは生活につきまとうものだから、少しでも楽しく、ということを提唱しているわけではなく、言ってみれば、見つけてみれば大小問わず様々にある気持ちの良いことを日々の暮しの中に探してみた本と言えましょう。」 ――著者あとがき

「婦人雑誌」の料理のこと、ホーロー鍋あれこれ、泉鏡花の湯どうふ、猫の毛の色……。些末で豊かな日常のなかの「気持ちの良いこと」を描く、待望のエッセイ集。 雑誌「天然生活」の人気連載の書籍化!

 

 小説が結構難物だったので身構えて読んだんだけど、エッセイは読みやすくて面白かった。好き嫌いがはっきりしてて気持ちいいな。
バードウォッチングのブーツとホーロー鍋は欲しくなった。豆を煮たくなって梅干しも食べたくなる。

挿し絵もとても素敵なのでこれは買うべき本。(うさぎがかわいい!!)

朝の九時落語

4/21(日)、UNA galleryで行われた「朝の九時落語」に行ってきた。


・さん助 ご挨拶
・さん助「松曳き」


さん助師匠 ご挨拶
先月にっぽん丸に乗ってきたというさん助師匠。
どこぞの企業が借り切って…という形だったので、さん助師匠は客室に泊まらせてもらってお客様と同じ扱いだったのだが、噺家仲間に聞いてみたところ、それはかなりの好待遇だったらしい。
船にはスィートもありそこに泊まってるお客さんは食事する場所も違う。一般客がそのレストランに入ることがないようにレストランの入り口には警備員も立っていた。
ラウンジなどは一般客もスィートの客も一緒に利用するんだけど、見分け方は簡単。一般のお客さんは「これ、無料?」って聞く。

…ぶわははは!確かにそれはあるかも。
一般客と言ったってそれ相応のお金を払ってるわけで、コーヒーは飲み放題だったり、でもアルコールは有料だったりするから、そりゃ確認するよな…。

お客さんも船に乗りなれてる人が多く、また呼ばれてる芸人たちもそういう人が多かった。
この客船のメインイベントで呼ばれていた歌手はもう船慣れしていてお客さんの心をつかむのもとてもうまかった。
その人によると、お客さんと共同作業をするとぐっと盛り上がるらしい。
彼は歌が始まる前にお客さんに折り紙を配って紙飛行機を折ってもらい、歌詞に合わせて紙飛行機を飛ばさせるんだけど、これがこうやって話を聞いても別になんてこともないでしょうけど、盛り上がるんですよ。みんなで折ってここで飛ばすぞという合図があるとみんなが一斉に飛ばすと…一気に盛り上がる。

さすがだなぁと思ったけど、落語はそういう意味ではほんとにお客さんとの一体感が得られない演芸で…。サゲをあらかじめ教えてみんなで声を合わせて言う…っていうわけにもいきませんしね…。

…ぶわははは!!そりゃそうだ。
でもさん助師匠が船の仕事に行くと聞いた時はファンで心配したものだけど(大丈夫かな…メンタルやられそう…帰ってこられるかしら、と)こうしてまくらとしてしゃべることもできて、いい経験ができたのでは。
ってなんだその上から目線は。わっはっは。


さん助師匠「松曳き」
世の中にはそそっかしい人間がいるものですが、私もどちらかというとその仲間でして…とさん助師匠。
そそっかしい人間というのは思い込みが激しいんですね。私もほんとにそうでして。
私、乾パンが好きなんですけど、あれってずっとゼロカロリーだと思っていたんですね。どういうわけかあれをゼロカロリーだと思っていて、この間そう言って笑われました。
考えてみたらゼロカロリーなのは乾パンじゃなくて寒天ですね。それが私の中でいつのまにか乾パンに変換されてたみたいです。

…乾パンが好きっていうのにも驚くけど、乾パンがゼロカロリーじゃ意味がないでしょう。あれは非常時に栄養補給のために食べるものなんだからむしろ高カロリーではないと。
すごいわ、さん助師匠の思い込み…(笑)。

そんなまくらから「松曳き」。
おっちょこちょいのお殿様に三太夫
さん助師匠、意外にも(失礼!)お殿様にも三太夫にもちゃんと威厳がある。そんなにはっちゃけさせてないんだけど、それでも十分面白いので、これはいい!
植木屋のざっかけなさもよくて、「餅屋ーーー」と呼ばれて「なんかお前を呼んでるんじゃねぇのか?」「いやだよ。もう何言ってるかわかんねえんだもん」。
「呼んでいるのだからすぐに来なくてはだめではないか」と三太夫にいなされて、お殿様の前に上がってからも、三者三様の面白さ。

徐々にヒートアップしていってお殿様と三太夫がどんどん言い間違えると落語なのかさん助師匠がほんとに間違えているのかもわからなくて、もうめちゃくちゃにおかしい。

笑った笑った。楽しかったー。

朝の九時落語はこれで終わり、次回は5/18(土)15時からやるとのこと。

 

ブルックリンの少女

 

ブルックリンの少女 (集英社文庫)

ブルックリンの少女 (集英社文庫)

 

 ★★★

人気小説家のラファエルは、婚約者のアンナと南フランスで休暇を楽しんでいた。なぜか過去をひた隠しにするアンナに彼が詰め寄ると、観念した彼女が差し出したのは衝撃的な光景の写真。そして直後にアンナは失踪。友人の元警部、マルクと共にラファエルが調査を進めると、かつて起きた不審な事件や事故が浮上する。彼女の秘められた半生とはいったい…。フランスの大ベストセラーミステリー。 

 ミステリーとして割り切って読めばサービス精神満点で面白い。細かいところであれこれ「えええ?」というのはあったが(え?そこは大丈夫なのにこっちで×××なの?とか、それが動機?はぁ?とか、素人がそんな体当たり捜査?とか)映像的な面白さがあるので確かにこれは映画化してもよさそう。

それにしても被害者の方がマスコミの餌食になるというのは日本だけではなかったんだな…。
なんにしても痛ましい。

第373回圓橘の会

4/20(土)、深川東京モダン館で行われた「第373回圓橘の会」に行ってきた。

・まん坊「三人旅(びっこ馬)」
・圓橘「淀五郎」
~仲入り~
・圓橘 圓朝作怪談「牡丹燈籠」その3・香箱の蓋

まん坊さん「三人旅(びっこ馬)」
毎回見るたびに違う噺、珍しい噺で、いいなぁ、まん坊さん。
ちょっと危ないところもありつつ、楽しかった。

圓橘師匠「淀五郎」
先ほどまん坊がした噺、本当はこの後に馬子の歌が入ります…こんな具合に…。
圓橘師匠が馬を引くしぐさをしながら歌い始めると、もうそこに田舎の道が広がってくるんだ…そしてなんともいえずいいんだ歌が。すてき~。
「この歌の部分をまん坊ともう一人スウェーデン人の前座に教えたんですが、彼らがやると西洋のドレミになっちゃうんですね。何度教えてもそうなってしまう。まん坊がニツ目になるのが11月。それまでにできるようになるかどうか」。

…まん坊さんが下がると必ずその噺の解説をしてくれる圓橘師匠。
それがまたとても楽しいんだなぁ。
この日はこの間亡くなった小圓朝師匠の真打昇進の時に配られたらしい?冊子をいただけて、そこには先代の小圓朝師匠の写真やエピソードなどもたっぷり。落語マニアにはたまらない。

そんなまくらから「淀五郎」。
噺が始まって「あ、淀五郎だ!」と気づいた時のヨロコビ…。圓橘師匠の淀五郎が素敵じゃないはずがない!!
言葉数が少なくて厳しくて皮肉な團蔵
何が何だかわからなくて自信を失い困惑し極端な行動に走りそうになる淀五郎。
彼を心配し手を差し伸べる仲蔵。
全員が生き生きと描かれていて、誰を見ても「ああ、圓橘師匠そのものだ」と思う。

淀五郎の初めての判官のシーンもものすごい迫力があってとてもかっこいいのだ。うわーーすごい!!大きな声やしぐさ、音に迫力がある。
暇乞いに来た淀五郎の様子が尋常じゃないことに気づいて人払いをしてからの仲蔵の親身になって話を聞いて「ああ、よどさん…あんたは若いなぁ」「考えてごらん。あの團蔵だよ。自分は自分でちゃんと芝居はできるよ。それをわざわざそうやって不自然な形でやるのは…よどさんに見どころがあるからだよ」のセリフですでに涙が出てしまう私。
「見てやるからやってごらん」と言って淀五郎の芝居を見るところ。煙草を吸うのではなく、火鉢に当たって手を温めている。そして始まってすぐに「ああ」という顔をして早めに「うん、もういいよ。わかった」と。
「私でもそばには寄れないなぁ」と言ったあと、具体的な指摘。うううー。泣けるー。
そして次の日の本番。判官を見た團蔵が「できた」と小さな声でつぶやく、その満足そうな顔にまたじーん…。
最後のセリフもかっこよく決まって、素敵だったー。よかったー。満足。

圓橘師匠 圓朝作怪談「牡丹燈籠」その3・香箱の蓋
前回の続きから。
お露に会いたい気持ちはあるもののなかなか一人でお露の屋敷を訪ねることができない新三郎。
元気のない新三郎を心配して釣りに誘ったのが隣に住んで新三郎のお世話をしている伴蔵。
舟からお露の屋敷に近づくことができると気づいた新三郎は喜んで出かける。
お露の屋敷の近くに舟をつけて、一人で石垣をのぼって屋敷に入る新三郎。小さな声でお露を呼ぶとすぐに出てきたお露。
部屋に入り二人は想いを打ち明けあいまくらを交わす。
その後お露は「これは母から贈られた大事な品」と言って新三郎に香箱を握らせる。
二人が別れを惜しんでいるといきなり部屋の扉が開き入って来たのが父親の平左衛門。
「不義密通するとは何事だ」と刀を抜き、お露の首をはね、また新三郎も背中から斬りつけられる。
思わず大きな声を出すと、伴蔵に「旦那!」と起こされ、これが夢だったということに気づく。
ああ、おそろしや…。やはりお露の屋敷を訪ねたりしては行けないという戒めか…と思いふと懐に手をやると、そこには夢で見た香箱のふたが…。

そうだそうだ、そうだった。
おかしかったのは「二人はまくらを交わしたのでした」と言った後に圓橘師匠が「意外と早かったですね」。
…ぶわはははは!確かに!

まくらで圓橘師匠がおっしゃっていた「圓朝シェイクスピアを知っていたのか」という話も面白かったなぁ。
残念ながら次回とその次は予定があって行けず。くーー。無念じゃ。

 

第二次 市童会

4/19(金)、赤坂会館で行われた「第二次 市童会」に行って来た。
主催者の加藤さんが受付にいらして「市童をよろしくお願いします」と声をかけてくださる。一緒に行った友だちが「大好きです、市童さん」と言うと「あらまぁ!お目が高い!」。
アンケート用紙を渡されて「アンケートもよろしくお願いします。本人が作ってきたアンケート用紙です!」。
…愛が深いなぁ。なんかじーんとくる。いいなぁ。

・市童「武助馬」
・市童「だくだく」
~仲入り~
・市童「明烏

市童さん「武助馬」
こちらの会、前もここで一人の会を不定期にはやっていたんですけど、それだとリズムが掴めないし持ちネタも増えないから駄目だなと思いまして。それで加藤さんにお願いして毎月開くことにしました。
アンケートは私が作って来たので…私がこれから覚えた方がいいと思う噺、聞きたい噺、聞きたくない噺、なんでもいいので書いていただければ、と思います。

あと…何があったかな…。あ、とある企画で太鼓を叩くことになりまして…と市童さん。
私、太鼓が大好きなんです。小学生の頃、和太鼓クラブに入ってましたし、前座時代も太鼓が得意だったものですからそれで呼んでいただくこともありました。
今回は太鼓を選んでくださいと言われて企画の方とお店に行きまして…太鼓が得意と言っても全く知識もないしどうしよう…と思いながらも、でもせっかくこうして連れてきていただいてるんだからと叩いて音をよく聞いて「こちらの太鼓の方があちらのよりも寄席の音に近いでのでこちらがいいです」と言うと「あ、こちらもあちらも中身は一緒です。柄が違うだけで」。
「それを早く言ってよ!!」

…ぶわははは。
市童さん、前座時代はほんとによく見ていて、また寄席や何かの会で見ることもあったけれど、こうして一人の会に来るのは初めてだったので、まくらを聞くのは初めて。なんか新鮮(笑)!

そんなまくらから「武助馬」。
「武助馬」といえば鯉昇師匠というイメージなんだけど、市童さんはどなたに教わったのかな。芸協で「武助馬」を聞くとたいがい鯉昇師匠からだなとわかるんだけど、なんとなく鯉昇師匠のとはちょっと違っていたような…。もう少しコンパクト。
武助のやんちゃな感じと旦那の鷹揚で威厳のある感じが出ていてとてもいい。
コンパクトだったので途中でダレることもなく楽しかった。

市童さん「だくだく」
まくらの段階で「おっ!」と、隣に座ったお友だちと目を合わせる!
私、これからやってほしい噺としてアンケートの一番最初に「だくだく」って書いてた!
まだご本人には渡してないので本当に偶然。すごく嬉しい。
先生との会話でいちいち逆らう八つぁんがおかしい。「下手な絵の一つも描いてくださいよ」と言われて「そんな頼み方があるか」と言いながら付き合ってくれる先生もいい。
まぬけな泥棒とのやりとりも楽しくて幸せな気持ちに。

市童さん「明烏
渋谷らくごに毎月出させていただいていて先日は「面白いニツ目大賞」をいただいたという市童さん。
でもこれ…いただいておいてなんですけど「面白いニツ目」という名前自体、ちょっとディスられているような…。
というのは私の落語…面白いと言われることはまずないです。「市童さんの落語はなんかいいよ」とか「味がある」と言われることはありますけど「面白い」とは言われたことないです。
だから…。まぁ…そういうことですね。
先ほど今日の会のチラシに書いてあった主催者の加藤さんの言葉を読みましたけど…ええ…そうです…ほんとそうですね…。
加藤さんには…師匠の所に見習いで入って二日目にすでにお会いしていて長いことお世話になっていて…まぁ嘘つきおじさんですけどね(と言うと、部屋の外から「うそつき?!」という加藤さんの声)。
でもこちらの会も私が毎月やらなきゃだめだ!と思って加藤さんにお願いしましたし…緑太とやってるラップのも私もラップ書いてやってますし…なんか私はいつも全部やってもらってる人間と思われるみたいなんです。
緑太のことも「よかったね。いい人が見つかって」みたいに言われるんですよ!でも全部おんぶにだっこでやってもらってばかりっていうわけじゃないんですから!

…ぶわはははは。おかしい~。そういうキャラだったの?市童さんって。
「私、高卒で入門したのでほんとにそのころは子どもで…今もどう見えてるかわからないですけど…あの頃はほんとに子どもと思われて心配されてたみたいです」
そんなまくらから「明烏」。

大旦那は大旦那らしいし、源兵衛と太助のやりとりも生き生きしていてとても楽しいけど、若旦那に若干の照れがある?かな。
市童さんって前座の頃からとてもうまいというイメージがあったけど、うまいだけじゃなくて、ちょこっとやんちゃな面もあったり…表情も豊かでメリハリがあって楽しいなぁ。
三席とも楽しかったし、意外にもぶっちゃけ系のまくらも楽しかった。

 

柳家小三治独演会

4/18(木)、調布市グリーンホールで行われた「柳家小三治独演会」に行ってきた。

・小はぜ「人形買い」
小三治「馬の田楽」
~仲入り~
小三治「小言念仏」

小はぜさん「人形買い」
わーい、小はぜさんだ!しかも「人形買い」!!
独演会だから前方は小はぜさんしか出ないわけで、持ち時間もいつもより長め。
とはいえ「人形買い」は長い噺だしどうするのかなーと思っていたら、小僧さんを連れて長屋に向かうところまで。
それでもちゃんとお人形を買う場面もあったし、季節にぴったりで素敵!そして余計なモノは何も入れてないのにちゃんと面白い!
これだけのお客さんを前に「人形買い」をやるなんてすごいわー。

小三治師匠「馬の田楽」
ここはずいぶん立派になりましたね、と小三治師匠。
私にとっては…ここは一面の梨畑です。戦争の前…鉄道で来ると川があって…あとはさつまいも、梨の畑が広がっていた。
戦後、私は新宿に住んでましたけど、食べる物のない時代、くるまを引いてここまで来た記憶があります。両親がここに畑を持っていた。もしかすると借りていたのかもしれません。でも今思うと新宿からここまで…歩いて来られるのかどうなのか。
鉄道も今はずっと先まで伸びてますけど、あの頃はここらへんまでだった。この先は狐と狸ばかりでしたよ。住んでいたのは。

小三治師匠の話を聞いていたら私にも目の前に梨畑が見えるようだった。
私も子どもの頃少しだけ京王多摩川に住んでいたことがあって、そのころは今のように地下鉄ではなく高架で川があってがらーんとしていて…梨畑があったかどうかは覚えてないけど、確かにその光景は見えてきた。

それから戦争中宮城に疎開してその時隣の家に厩があってちょうど窓を開けるとそこに馬がいる気配があって…あの頃は馬とは仲良くはなれなかった。
戦争が終わって東京に帰ってきたら一面焼け野原になっていて、自分の家は父親の学校の父兄がトタンなんかを集めてきてくれて急ごしらえでどうにか住めるようになっていたけど、伊勢丹の焼け跡と富士山のほかは何も見えなかった。
そこにある日、馬を連れた男が通りかかって、その馬が家の前でぐずぐずぐずと倒れてしまい、男が馬にすがってオイオイ泣いていて、そのことは強く覚えてる。

馬のことは置いておいて…あの頃はいろんな物売りがやってきた。夏は金魚売り。金魚鉢や洗面器を天秤棒に乗せて…金魚が赤くてきらきらしてきれいだった。
自分たちも食い物に困っているくらいだからもちろん金魚を飼うようなゆとりはなかった。
でも金魚がキラキラきれいでそれが飛び出すんじゃないかと心配で…近所の子どもと金魚売理の歩いていく後ろをただただ付いて歩いた。
それから納豆売り。あれは子どもがやっていた。まだ小学生ぐらいの子ども。買いに行くと納豆と辛子を入れて渡してくれる。
あとは…おでん。おでんといえば…。
昔、ラジオでいろんな演芸番組をやっていたんだけど、その中に素人落語大賞みたいな番組があって、中学生の頃私はそれに出て連続で勝ち進んで行った。
あの時1週勝ち抜くと2千円賞金でもらえた。当時の2千円と言えば大金。自分の家は厳しくておこづかいなんかくれなかったからこれは嬉しかった。親に預けたりしないで自分で使った。
どうするかっていうと、近所で遊んでいる子供を集めてきて、おでん屋を止めて、「なんでも好きな物を食っていいぞ」って言う。
みんないつもお腹を空かせていたから「え?いいの?卵でもいい?」「ああ、なんでもいいよ。食いたい物を食えばいい」なんて言って。
顔だけ知ってるような子どもで別に義理も何にもない。食うだけ食って彼らはいなくなってそこで自分がその二千円からお金を払う。
そんなことをしてました。
法外なお金をもらって…ああいうことをしたかったんでしょう。大人みたいな顔をして。

それから家族で秩父に旅行に行ったとき、その宿屋に馬がいた。
親父が私を抱いて乗せてくれました。でも私は怖かった。馬が。全然楽しめなかった。
噺家になってから飛騨高山ファーム(だったかな)というところに何度か行ってそこで馬に乗れるようになりました。
最初は怖かったけど徐々に馬のことがかわいくなってきた。こちらがかわいいと思うと向こうもかわいいと思ってくれるんでしょうか。徐々に心を通わせられるようになった。
はらりとまたがってぱっぱかぱっぱか走る…とまではいかないけど、でも一人で乗って走れるようになった。
娘とベルギーに行った時、観光客を乗せるための馬がたくさんいて…その馬に近づいて行って、鼻先をなでてやったら馬が喜んで顔を摺り寄せて来た。よしよしなんて言って撫でていたら。
宿に帰って娘に言われました。「おとうさんがあんなに馬と仲良しになれるなんて思ってなかった」って。あれは嬉しかったなぁ。

…この日の小三治師匠、次から次へと頭の中にいろんなことが湧き上がってくるみたいで、話が止まらない。
話がどんどん脱線していくのは何度も見ているけど、この日の小三治師匠はなんかどんどん蘇ってくる光景に心を奪われているようで、そのあふれ出してくる光景が聞いてる側にも見えてくる。すごく不思議な体験。
何度も「落語やりましょう」「やりますよ、落語のようなものを」と言いながらも、その光景に心を奪われたまま…。


そんな長いまくらから「馬の田楽」。
まくらで馬のことが再三出て来たからきっと「馬の田楽」だなと思っていたけど、ちょっと不思議な「馬の田楽」だった。
まくらでちりばめられた光景にふわっと浮かび上がるような…風景の一部のような…そんな感じ。
落語としてみたら焦点がぴたっと合うというよりは少しぼんやりしてたかもしれないけど、でもそれがこの噺ととてもマッチしていて、不思議な感覚。
小三治師匠がいつも「自分が何を話し出すかわからない」「どんな落語になるか自分でやってみるまでわからない」とおっしゃっているけど、この日の落語はまさにそうだったんじゃないかなぁと思った。
すごく不思議な体験ができてほんとに来てよかったーと思った。

まくらも長かったけど噺も長かったから、終わったときにはすでに終演時間5分前。
師匠が立ち上がるのも大変そうで、ちょっとドキドキしてしまった。
もしかしてブロッサムの時のようにこれで終わりになるかなと思ったけど、ここのホールはもう少し寛大らしく仲入りに。

小三治師匠「小言念仏」
一席目がものすごく長くなってしまったことを謝る小三治師匠。
謝ってはみたものの「でもああなっちゃったんだからしょうがない」「次はもうお客さん来ないだろうな」「半分に減るかな」「でもこれだって面白い体験」と開き直ったりもしておかしい。
私はすっごく楽しかったなぁ。こんな体験、小三治師匠の落語でしか味わえないもの。
落語のうまい下手とか名人芸とか人間国宝とか私にはよくわからないけど、たくまずに面白い、想像もしてなかったものを見せてもらえる楽しさがあるから小三治師匠の落語の世界が大好きなんだ。

それでもう時間がないからこういうばやいあれしかないです。
でも見たら昨年もここでは時間オーバーして小言念仏やってるんですね。しかもあの日の小言念仏はとってもいい小言念仏だった。
それをまた今日もやろうっていうんですから…。

そう言いながら、陰陽のまくらに入りながら、また少しずつ話が脱線していく…。
昨日は俳句会があってお題の一つに「山桜」が出ました。
今、桜と言えばソメイヨシノだけど、江戸時代に桜と言えばそれは山桜のことだった。
山桜といえば…
ああ、この話はよしましょう、また長くなる、そう言いながら、またはらはらと桜の花びらが落ちてくるように、小三治師匠の中に話したいことがふわふわと落ちてくるみたいで…。
でもそこからようやく「小言念仏」。
おかしかったのは「どじょうやを入れるんじゃないよどじょうを入れるんだよ」のところで「どじょうを入れるんじゃないよどじょうやを…」と言いかけて「あ、逆だった。もうわからなくなっちゃうよ」。
ぶわはははは。また小三治師匠が落語そのものになっちゃう状態だ。楽しい~!

終わってみれば30分オーバー。楽しかったー。

ここから世界が始まる: トルーマン・カポーティ初期短篇集

 

ここから世界が始まる: トルーマン・カポーティ初期短篇集
 

 ★★★★

いずれ満開に咲こうとしている恐るべき才能の原点。「早熟の天才」は、デビュー前の若書きも凄かった! グレニッチ高校時代から二十代初めまでの、ニューヨークの公共図書館が所蔵する未発表作品14篇を厳選。ホームレス、老女、淋しい子ども――社会の外縁に住まう者に共感し、明晰な文章に磨きをかけていく。若き作家の輝けるヴォイスに触れる貴重な短篇集。解説・村上春樹。 

カポーティ10代から20代の頃の習作集ということで、全体的に物足りない?という感じも否めないが、原石を見せてもらった感の方が強くて、こういう作品を出版してもらえるのはファンにはありがたい。

こんな風に物語が次々湧き出てきて書かずにはいられない人だったのだなぁと感じたし、唐突に終わったように感じた作品が後になって絵が浮かんできたり記憶に残っていたりして、やはりすごい物語力だな、と思う。

村上春樹による解説も両方のファン心をくすぐる内容で素敵だった。

わが天幕焚き火人生 (わたしの旅ブックス)

 

わが天幕焚き火人生 (わたしの旅ブックス)

わが天幕焚き火人生 (わたしの旅ブックス)

 

 ★★★★

東京湾に面する遠浅の海岸。友人二人をひきつれて重いテントをはり、焚き火にあたりながら三人で毛布にくるまって夜を過ごした――。著者の初めてのテント体験から今日までの “テント人生”をふりかえる『わが天幕焚き火人生』。表題作のほか、1983年のパタゴニアへの旅のマゼラン海峡航行の様子を描いた紀行文『マゼラン海峡航海記』など、単行本未収録のエッセイを多数収載。
シーナワールド全開の一冊。 

 

怪しい探検隊シリーズは大好きで読んでいたけど最近あまり読んでなかった椎名誠。この間久しぶりに読んだのは孫(溺愛)本だったし(笑)。

年を取ったことは間違いないけど、それでもいまだに中身は仲間とキャンプをして魚を釣って酒を飲むことが好きなおじさんであることに安心する。若いころ、正しくあろうとしていた姿勢はいまも変わらずに、健全に年をとられていてとても素敵だ。

健康そのものと思っていたけれど長年不眠に悩まされているというのは意外。不眠に関する本も書かれているようなのでそちらも読んでみたい。

 

鈴本演芸場4月中席昼の部

4/13(土)、鈴本演芸場4月中席昼の部に行ってきた。


・与いち「手紙無筆」
・吉緑「竹の子」
・ストレート松浦 ジャグリング
・歌奴「初天神
・小袁治「芋俵」
・ダーク広和 マジック
・駒治「鉄道戦国絵巻」
・さん喬「時そば
・橘之助 浮世節
・文菊「権助提灯」
~仲入り~
・二楽 紙切り
・燕路「粗忽の釘
・菊之丞「替り目」
・ホームラン 漫才
・小ゑん「長い夜改Ⅱ」

与いちさん「手紙無筆」
寄席が初めてのお客さんが多い雰囲気の中、後ろの方で大音量で携帯が鳴ったら、兄貴分が「だから…携帯は切ってね」と注意。
お客さんもどっと笑ったし、多分それで切った人もいると思う。グッジョブ。


吉緑さん「竹の子」
この日のお客さんにこの噺がぴったりでものすごい盛り上がり。
ニツ目さんでこんなに盛り上がったら嬉しいだろうなぁ。
すごく楽しかった。


駒治師匠「鉄道戦国絵巻」
真打になってから寄席でもいろんな新作をかけるようになってとても嬉しい。
東横線が東急を脱退しJRに寝返り、残った東急電鉄の電車とJRとお戦国時代に突入するという鉄道オタクらしい新作でめちゃくちゃバカバカしくて楽しい。
噺をしながら「後ろの方のお客様が明らかに引いてるようだけど大丈夫ですか。私で引いてたらトリの小ゑん師匠の落語に付いて行けませんよ!」には大笑いだった。


菊之丞師匠「替り目」
テッパン中のテッパンでトリにつなげるいい流れの中で、帰って来て飲みたがる亭主におかみさんが「おでんでも買って来ようか?屋台が出てただろ」と言うと亭主が「ああ、出てた!ぐっつぐつぐっつぐつ!って」に大笑い。
寄席のこういう流れってほんとに楽しい~。

小ゑん師匠「長い夜改Ⅱ」
落語の新作の何が一番しょうもないって擬人化ですね。
鉄道が合戦したりおでんが喋ったりね…。私はもっと壮大な視点で…、と言って「長い夜改Ⅱ」。
トリだからたっぷり。スタバ、居酒屋、ファミレス、バー、渋谷センター街
ちゃんと時代に合うように設定を合わせていくというのが小ゑん師匠のすごいところ。
それでも漂う昭和の香りがたまらない。
なんか昼席の楽しさを満喫できたなぁ。最高。

 

活弁への招待 第五回

4/12(金)、日暮里サニーホールで行われた「活弁への招待 第五回」に行ってきた。


無声映画「太郎さんの汽車」(1929年横浜シネマ商会)説明=坂本頼光
無声映画「瘤取り」(1929年横浜シネマ商会)説明=坂本頼光 伴奏=清元延美幸
無声映画「血煙荒神山」(1929年 辻吉朗監督・大河内傳次郎主演)説明=坂本頼光 伴奏=清元延美幸
無声映画「サザザさん 第五話」説明=坂本頼光
~仲入り~
無声映画「鳥辺山心中」(1929年 松竹下加茂撮影所 冬島泰三監督・林長二郎(後の長谷川一夫)主演)説明=坂本頼光 伴奏=清元延美幸

 

無声映画「太郎さんの汽車」(1929年横浜シネマ商会)説明=坂本頼光さん
「電車の乗り方(マナー)」を子供に教えるための教育映画とのこと。
最初と最後が実写で、途中にアニメーションが入る。背景は絵でそこに切り絵を少しずつ動かしてアニメを作ったということだけど、味があっていい!
なによりも頼光さんの活弁が入ることで、古い映画が「いま」のものになるんだなー。
汽車の中の動物のやりたい放題を止める車掌の太郎さんがかわいい。

 

無声映画「瘤取り」(1929年横浜シネマ商会)説明=坂本頼光さん 伴奏=清元延美幸さん
伴奏が三味線というのがこの映画にとても合っている。というかおそらく伴奏が決まってから作品を選んでいるのかもしれない。
おなじみのこぶとり爺さんだが、絵もいいし、三味線が物語にマッチしていて、そこに頼光さんのユーモラスな説明が入るので、とても楽しい。
コブを取られるシーンに結構迫力があった。


無声映画「血煙荒神山」(1929年 辻吉朗監督・大河内傳次郎主演)説明=坂本頼光さん 伴奏=清元延美幸さん
清水次郎長物。
面白いなぁと思ったのは、次郎長と吉良の仁吉の二役を演じている大河内伝次郎。ハンサムで無声映画の時は大人気だったらしいのだが、トーキーになったら、東北弁の訛りが酷くて脇役に追いやられるようになった、とのこと。漫画みたいな話だなぁ。

任侠ものってどうも私にはあまり魅力を感じられなくて、やや目がうつろに…(笑)。

無声映画「サザザさん 第五話」説明=坂本頼光さん
待ってましたの「サザザさん」。いやもうこの第五話…最高…。あかんて(笑)。
頼光さんも「この後素晴らしい作品をやりますので。これ見てあきれて帰らないで…」と言っていたけど、確かに酷い。物置にあったふるーいインスタントラーメンを食べたタラちゃんのおなかが痛くなり下痢…なんてもんじゃなく、そこからおそろしい虫が出てきて…というストーリー。
なんでそんなものを食べさせたんだ?とみんなに責められるマツオさん。タマに「プロポーズに来た時から人間性に疑問を持ってた」って言われて「ええ?そんなにさかのぼるの?」って言ったのがおかしかったー。
めちゃくちゃ面白い。笑った笑った。

 

無声映画「鳥辺山心中」(1929年 松竹下加茂撮影所 冬島泰三監督・林長二郎(後の長谷川一夫)主演)説明=坂本頼光さん 伴奏=清元延美幸さん

原作が岡本綺堂
この映画では三味線だけでなく歌も入り、それがこの救いのない物語に彩を添える。

それにしてもひどい話や…。いじめやないかい。主人公には全く非はないのに、騙されて貶められてそれが原因で母親が自害。それに対して抗議することもできず、怒りに駆られて決闘し張本人を殺すことはできたけれど、自分も女とともに心中って…。えええー。
でも調べたら歌舞伎でやられているのとはストーリーが違っているような。 
最後まで見終わって頼光さんの活弁がどうだったという感想が全くなかったところを見ると完全に映画の世界に引き込まれていたのだと思う。

それにしても長谷川一夫のきれいなこと。びっくりするほど美しかった。