りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

春陽党大会

11/14(水)、らくごカフェで行われた「春陽党大会」に行ってきた。
仕事で遅くなり、春陽先生のまくらの途中で入場。

 

神田春陽「木津勘助」
坂本頼光「サザザさん 第六話」
~仲入り~
岡大介 カンカラ三線
神田春陽「め組の喧嘩」

 

春陽先生「木津勘助」
上方の講談を結構教わっているという春陽先生。ある時「最古の講談を教えてやろか?」と言われ、「え?最古ってどれぐらいですか?」と聞くと「縄文時代や」。
…わはははは。30分、うほうほ言うだけの講談で、これを米朝師匠が聞いてその感想を聞かれて「えげつなかったわ…」と答えた、というまくらに大笑い。

そんなまくらから「木津勘助」。
お、聞いたことある!と思ったら、この間、里光師匠で聞いていたのだった。
あの時聞いたのとストーリーは同じ。

十兵衛の鷹揚としたところと勘助のからっとしたところの対比もくっきりしていて、魅力たっぷり。
春陽先生って語りにユーモアがあってそこが私はたまらなく好きなんだけど、とても楽しかった!


頼光さん「サザザさん 第六話」
名前だけは知っていたけれど見るのは初めて。
始まると、春陽先生も楽屋から出てきて一番後ろの席へ。芸人が見たいと思う芸ってすごい。
周防監督が今撮っている映画「カツベン!」で、活動弁士役の俳優さんに活弁の指導をしているという頼光さん。缶詰状態で撮影に立ち会う日々でかなりストレスがたまっている様子。
撮影現場の様子や自分の師匠の話などとても面白かった!

春陽先生とは昔からの付き合いで気の置けない仲ということで、今日は日ごろのストレスを解消すべく自由にやらせていただきます!と、「サザザさん 第六話」

水木しげるテイストの絵にシュールな「サザエさん」という絶妙の組み合わせ。
もうめちゃくちゃ面白くて最初から最後まで釘付けになって見入ってしまった。
楽しかった~!また見たい!


岡大介さん カンカラ三線
普段は流しをされているらしい。
明治演歌をカンカラ三味線(空き缶で作った三味線)をかき鳴らしながら歌うという…渋いんだけど若々しい…昭和風味だけど新しい…不思議な感じ。


春陽先生「め組の喧嘩」
芝居の喧嘩のめ組版?みたいな物語。
威勢がよくてかっこいいけど、ギャグも入って笑いどころもたくさんあって楽しい。
講談の世界も奥が深そうでわくわくするなぁ。

 

静かに、ねぇ、静かに

 

静かに、ねぇ、静かに

静かに、ねぇ、静かに

 

 ★★★★

海外旅行でインスタにアップする写真で“本当”を実感する僕たち、ネットショッピング依存症から抜け出せず夫に携帯を取り上げられた妻、自分たちだけの印を世界に見せるために動画撮影をする夫婦―。SNSに頼り、翻弄され、救われる私たちの空騒ぎ。 

なんとも言えない気持ち悪さ。もしかして私も同じ沼に片足突っ込んでるかも?と思うだけに気持ち悪い。

「本当の旅」に出てくる三人の若者。若者といっても30を超えているから実際は中高年なのだが、本人たち自身にも中高年という意識はないだろう。
彼らが旅をしながら逐一スマホで撮影しすぐにそれをSNSにあげることで、自分たちの旅を「本当の旅」にしようとしている姿は、とてもリアルでそれだけに読んでいてなんとみいえず居たたまれない。

個人的な体験や心情をわざわざSNSにあげるのはなぜなのか。承認欲求ももちろんあるし、そうすることで自分のちょっとイタイ体験も俯瞰して見て笑うことでうまく消化したいという気持ちがあるからだ。
しかしそれが度を過ぎると命の危険が迫っていてもまだヘラヘラして自撮りするようなことに…。

日常に潜む落とし穴。それはこんな風に一瞬にしてとんでもないところに連れて行く。私自身、落ちないように気を付けてるつもりでいるけれど、実はすでに上がれない場所まで落ちてるのかもしれない。

怖かったけどとても面白かった。

なぜ柳家さん喬は柳家喬太郎の師匠なのか?

 

 ★★★★

人気師弟初の対談本!落語界きっての人気師弟が、初めてじっくり語り合った! 

タイトルからし喬太郎師匠の方が師匠より売れていることを匂わせていて失礼な気がしてしまうのだが、さん喬師匠はそんなこともう慣れっこなんだろう。
若い頃は師匠にも葛藤が多かっただろうなと思うが、この才能を潰してはいけないと、出来るだけなにも言わないようにして育てたというのが凄い。
そして明らかにさん喬師匠も喬太郎師匠を弟子にしたことで芸が磨かれて今のさん喬師匠になっているということをご本人もおそらく自覚していて、それもすごいなと思う。

ほとんど口を出さないというさん喬師匠が「あぶねぇ」と思って口を出したのが、お客さんを意識しすぎて自分を見失っているように見えたから、というのもすごいなぁ。
その場その場で自分が呼ばれた意味を考えて落語をやれと言う一方で、お客さんや企画のために落語をやっていてはいけないとも言う。
さん喬師匠自身も、さん喬には人情噺と呼ばれるようになって自分でもそれをお客さんや主催者が求めていることがわかるからそれをやりながらも、自分は滑稽噺の方が好きでそちらのほうがうまいと自分では思っている、というのも面白い。

矛盾を抱えながら、その都度こっちに傾いたりあっちに傾いたりしながら、最終的には自分の芸を磨いていく。
それが何も知らない素人でも見ていてなんとなく伝わってくるから、その複雑さや葛藤が面白くて何度も足を運んでしまうのかもしれない。

一門会を見に行くと、お弟子さんたちが実に伸び伸びしていて、ふざけるときは思いきりふざけていて、そうできる雰囲気があるのだと思う。

そしてさん喬師匠が語る小さん師匠の素敵なこと!
小さん師匠は、弟子が語る言葉を聞くほどに好きになる。こんな風に語られる師匠は本当に師匠冥利に尽きるだろうし、そんな風にして師匠の教えが伝えられていくというのは素晴らしいことだと思う。

個人的には大好きなさん助さんや小んぶさんの名前が師匠の口から出てきたのが嬉しかった~!

柳家小三治独演会 銀座ブロッサム

11/9(金)、銀座ブロッサムで行われた柳家小三治独演会に行ってきた。


・三之助「金明竹
小三治禁酒番屋
小三治「小言念仏」


小三治師匠「禁酒番屋
出囃子が終わってまだ出てこない小三治師匠。再び出囃子が始まっての登場。
頭を下げて「私、出てくるの遅かったですか?」。

こちらの会場でこうやって年に一度会をさせていただいてますけど、私そのたびに忘れちゃうんですが、こちらの会場が2階にあって楽屋が3階。だからエレベータで降りなきゃいけないんですけど、今日間違えて上がってしまって…7階?まであるんですね。
そこからまた降りてきたので遅れました。

そんなことがあったから、何か話そうと思っていたことがあったけど忘れました…なんだっけかな、ええと…。
こうやって私がなんだっけと思いだしている時間も、私の出演料に入ってるんですね(にやり)。
ここの会場は時間に厳しいんですよ。他の会場だと私の話が長くなって会が延びると「もうしょうがねぇなぁ」って主催者と会場がじりじりしながらも待っててくれるんですけど、ここは待ってくれない。それももういきなりですから。音楽が流れます。…♪ららららら~らら~らら~(蛍の光のメロディ)。
ま、ですから、仲入りの後に私がまた出てくることがあったら、その時思いだすでしょうからお話します。(←まさかこの言葉がこの後の事件(!)の前振りになるとは…)

そんなことを言いながら、句会の話。
扇橋師匠が句の世界で実はすごい人らしいというのを楽屋仲間から聞いた時は「まさか!そんなわけねぇだろう!」と思ったけど、実はそうで…。あいつが初めての句会で詠んだ句…なんだったかなぁ…光景は浮かんでくるんだけど…。
この句会は扇橋、小沢昭一永六輔(ものまねあり!)、矢野誠一江國滋…なんかで始めて、世の中を悪くしたやつらばかりが集まって、何年か前は「最後は誰が残るんだろうね」なんて冗談を言い合ってたけど、もう冗談じゃなくなってきちゃった。
でも毎月やっていて、何が楽しみってここでの楽屋話が楽しみで。あとみんなでその日に出た句の順位をつけるんだけど、私は何年やってもうまくならない。へたで。
でもこの間やった会では、女優の富士真奈美さんが来てたんだけど、彼女一人だけが私の句に一番高い得点をつけてくれた!これは嬉しかったですねぇ…。

…つらつらと話があっちに飛びこっちに飛びしながら、途中で出てきた「のど飴」というキーワードがふとした瞬間に戻ってきて、そうだ!思いだした!と、広島の造り酒屋さんののど飴がとっても美味しいという話に見事に着地(笑)。

そんな長いまくらのあとにお酒のまくら。聞き飽きたまくらでも笑ってしまう。にわとり上戸、壁塗り上戸。いるいる、こういう酔っぱらい。
そんなまくらから「禁酒番屋」。

小三治師匠の「禁酒番屋」は何回も見ているけど、この日はちょっと不思議な「禁酒番屋」。
もしかしたら飛んじゃったのかもしれないけど、「どっこいしょ」がなかったり、でもその分「水カステラ」が本当にその場で思いついた!という感じが強く伝わってきてやけにおかしかったり、番屋の侍がいつも以上に厳めしいんだけどいつも以上に泥酔していてそれがもうひっくり返るほど面白かったり。
小便を持ってきたと言われて、もう飲む気満々で「偽りものが」と言いながらべろんべろんで「役目の手前手落ちがあってはいかん。たとえ水カステラであろうと油であろうと小便であろうと…」と口を近づける様子がスリリングでおかしい。

いつもよりたっぷり長めの「禁酒番屋」。
師匠が頭を下げて高座を降りようとすると、幕の陰に立っている女性が大きく×マークを出しているのが目に入ってきて、ん???
師匠も高座の上に立って「???」。

すると女性の声で「もう時間がありません。これで仲入りをとってしまうと二席目の時間がとれません。仲入りなしで二席目をやるか、仲入りをとって二席目なしか、どちらかです」。

小三治師匠、高座に座りなおして、「今のは私とマネージャーの楽屋話でしたが…聞こえましたか?仲入りとって二席目はなしって…仲入りの後私が出てきて”それじゃ終わりです”って言って終わるってこと?そんなのありですか?どちらにするかここで決めなきゃならないの?」。

「そんな…私だっていきなり気持ちを切り替えられないよ」と言いながらも「それじゃ…私の好きな短い噺を…」と言って、陰陽のまくら。わははははは!!

ショートバージョンの「小言念仏」。
小言のたねを探しながらきょろきょろするところ、這い出してきた赤ちゃんに「ばぁ」、どじょうやを呼び込むところ、師匠ももう落語をやるつもりもなかったんだろうけど、すっとその世界に入ってしまう凄さ。
追い出しが鳴って頭を下げながら、あちゃーという小三治師匠の顔がなんともチャーミングでおかしかった~。

ほんとになにからなにまで「落語」みたい。というか、小三治師匠そのものが「落語」なんだわ。
お客さんももう文句を言うどころじゃなく、あーー面白いものが見られた!よかった!と笑いながら帰って行く人が多くて、それも素敵だった。

三美スーパースターズ 最後のファンクラブ

 

三美スーパースターズ 最後のファンクラブ (韓国文学のオクリモノ)

三美スーパースターズ 最後のファンクラブ (韓国文学のオクリモノ)

 

 ★★★★★

韓国プロ野球の創成期、圧倒的な最下位チームとして人々の記憶に残った三美スーパースターズ。このダメチームのファンクラブ会員だった二人の少年は大人になり、IMF危機と人生の危機を乗り切って、生きていくうえで最も大切なものは何なのかを知る―。韓国で20万部超のロングセラーとなっているパク・ミンギュの永遠のデビュー作!

地元に初めてできたプロ野球チームで皆の期待を一身に集めた三美スーパースターズは信じられないほどの弱小チームだった。熱狂的に応援していた主人公と親友ソンフンは恥辱にまみれた青春時代を送ることになるのだが…。

野球を題材にした小説が好きだ。
野球そのものが好きということもあるけど、野球って人生そのものだなぁと感じることが多いから。
必ずしも強いチームが必ず勝つというわけでもなかったり、勝負は2アウトからだったり、圧倒的な力の差があったとしても言ってはいけないことを言ってしまったチームがその後劇的に負けることがあったり…。

三美の弱小ぶりが後半になって鮮やかに肯定される小気味良さ。それはひたすら努力と根性で前へ進もうとしてやみくもに頑張ってきた主人公が、一流企業に就職してパワハラにあいリストラされて、今までの自分の人生を全て否定されて、ああもう俺の人生終わったーーとひっくり返って目を開けたら、抜けるような青空が広がっていたのと重なる。
まさに逆転の発想。
ツーアウトツーストライクスリーボール絶体絶命のピンチ。見送った球は実はボールだったんだよという親友の言葉が心に沁みる。

素晴らしかった。何度も読み返したい。若い人たちにも読んでもらいたい。
パクミンギュ、「カステラ」「ピンポン」と読んだけど、これが一番好き。この作家、この先もずっと読み続けて行きたい。

国立演芸場11月上席昼の部 柳家さん若改め柳家小平太真打昇進披露興行

11/8(木)国立演芸場で行われた「11月上席昼の部 柳家さん若改め柳家小平太真打昇進披露興行」に行ってきた。
何日か前に小傳次師匠がtwitterで口上の司会をさん助師匠がやる!とつぶやいていて、それを見た時から「ええええ?だだだだいじょうぶ?なぜさん助師匠が司会?」とざわざわしていたんだけど、会場に着いて落語の友だちと顔を合わせたらだれもが同じように心配していて笑った。

・市若「牛ほめ」
・伊織「寄合酒」
・さん助「黄金の大黒」
・一風千風 漫才
・小傳次「唖の釣り」
・左龍「棒鱈」
~仲入り~
・真打昇進披露口上(さん助、小傳次、小平太、さん喬、左龍)
・小菊 粋曲
・さん喬「天狗裁き
仙三郎社中 太神楽
・小平太「幾代餅」


伊織さん「寄合酒」
たいていいつ見てもこの噺でうまいとは思うけど、暗いなぁ…。なんでこんなふうに陰気にやるのかなぁ。陰気だから最後の犬をぶち殺してというのがシャレに聞こえない。しかもサゲで殺した犬をみんなで食おうじゃないかってさらに追い打ち。なぜ。


さん助師匠「黄金の大黒」
さん助師匠が話し始めて、おおっ!これは「黄金の大黒」じゃないか!と嬉しくなる。この噺、大好きなんだよね。特にサゲがかわいくて好き。そうか、お披露目のめでたい席だからこの噺!そういうこともできるんだ?!(←失礼)

大家が呼んでるから店賃の催促だろうと長屋の連中が集まってわいわい。
「どれぐらい溜まってる?」と聞かれた男が、あごを突き出して「うぃーー」と意味の分からない奇声を上げるのがおかしい。
そしておまんまをしばらく食べてない金ちゃん。「ごちそうっていうのはあれですか。普段食べられない、おいしくて珍しいものがいただけるんですか。ごはんの上にぱらぱらっと鰹節をかけて、その上からお醤油を…」って、一番のごちそうがねこまんまのかわいさ…。
食べられると聞いて大喜びの金ちゃんが、羽織の件で一喜一憂するのが、わかってるんだけどばかばかしくて笑ってしまう。
またその中のセリフで「そうだよ。口上の司会することになってるから気が気じゃないんだよ」とあって笑う。わはははは。

口上が得意と言って一番に飛び出していった元雑技団のくまさんの「とざいとーーざい」の声の堂々としているのに大爆笑。口上司会の不安をこの大声で爆発させた?
2番目に指名された金ちゃんが「まだ一回しか聞いてない」「稽古に稽古を重ねてから行きたい」と言うのも、司会を仰せつかってしまったさん助師匠の心の叫びにも聞こえてまたおかしい。
残念ながらみんなで大家さんの家に上がるところまで。近所の犬も祝いの席に参加したのは、さっき食べられたブチの意趣返しかな。

真打昇進披露口上(さん助師匠:司会、小傳次師匠、小平太師匠、さん喬師匠、左龍師匠)
司会のさん助師匠、とてもとても緊張していて、目がいっちゃってる(笑)。
でもとてもちゃんとしてた!最初から最後まで真剣そのものですがすがしいとさえ思ったのはファンのひいき目か?
口上では、さん助師匠が小平太師匠は自分の下の弟子だったけど年上で、でもなんでも素直に聞いてくれて仕事もできるので、ある時から全部やってもらうことにして、おかげで自分もどうにかなった、と。また最近小平太師匠の高座を袖で聞く機会があってその時「替り目」をやっていたんだけど、ある時点からそこには小平太師匠ではなくよっぱらいのおじさんがいて、こんなにもなったのかと感動して泣きそうになった、と。

さん喬師匠は、兄弟子たちが言うように小平太は年をとって入門してきたけど、ただ年をとっていただけじゃない、それだけの経験も積んでの入門だった、ということ。上と下をつなぐ要の役を担ってくれているのだ、ということを。また、木になっている柿は外から見ただけでは甘いか渋いかわからないけど、烏は甘い柿しかつつかないように、そうやって味が出てくるのはこれから。またそれはお客様が作ってくれるものでもある、と。
さん喬師匠が「こうして一門だけで口上の席に並べるというのは本当に幸せなこと」としみじみおっしゃっていたのが印象的だった。


小平太師匠「幾代餅」
清潔で純情であたたかい「幾代餅」。
ところどころにさん喬師匠っぽさが漂うのがとても微笑ましく…でも小平太師匠の素朴さや軽さが独自で、この噺がちゃんと小平太師匠のものになっていて、素晴らしいと思った。

「今度いつ来てくんなますか」と幾代に言われた久蔵がその言葉を真に受けて「そんなことを言って下さるんですか」と感激して「実は私は若旦那ではなくて職人です」と告白するところ。心情を激しく吐露するところが私は結構苦手で「あちゃーー」と恥ずかしくなってしまうんだけど、小平太師匠のはそんな風に恥ずかしく感じなかった。不思議。

それにしても…さん若さんのときから良かったけど、やっぱりこうして真打になると全然違っていて、なんだろう…それまできちんと積み上げてきた人っていうのは真打ちになったらこうやってご褒美のように「化ける」んだなぁ、と思う。
そう考えると、落語家の階級制度ってすごくよくできてるなぁ…。
でもこうやって次々新しく真打が登場して次々化けてしまうと、寄席に若手が定着するのってほんとに並大抵のことではないなと思う。

ブエナ寄席(AIR DO寄席 収録の会)

11/7(水)、アートスペースBAR ブエナで行われた「ブエナ寄席(AIR DO寄席 収録の会)」に行ってきた。

・柏枝「寄合酒」
・柏枝「金婚旅行」
宮田陽・昇 漫才
~仲入り~
・柏枝「夢金」


Air Do寄席ということで収録ありの落語会。
そして師匠が自分のお客様にお声がけされたということで、常連さんが多かったみたい(見たところ、男性のお客様が多かった)。
私はお客様じゃないけど大丈夫でしょうか。ドキドキ。


柏枝師匠「寄合酒」
今日は録音ということなので、私のお客様にはおなじみの噺になってしまいますがご容赦を、と言いながら、これは最近やるようになってまだ実験段階、とのこと。
これがとても面白い「寄合酒」で。柏枝師匠味(!)がとても強くて、たまらなく面白い。
言葉で説明するのが難しいんだけど、もうとにかくおかしくて大笑い。
面白かった!


柏枝師匠「金婚旅行」
おなじみの噺ということだったけど、私は聞いたことなかったかな、柏枝師匠で。
仲居さんに対する紳士的できちんとした態度と、仲居さんが出て行ってから奥さんに「新婚時代を思い出して裸で過ごそう」と言い出すところのギャップがたまらない。
素っ裸で二階から落ちて、でも平然としている旦那と、ポーカーフェイスで変なことを言う柏枝師匠が重なって、たまらなくおかしい。
これが機内で流れるのかな?ばかだー(笑)。
そして放送を意識して、カフェブエナの名前を連呼する師匠がおかしすぎる。笑った笑った。


宮田陽・昇先生 漫才
オールテッパン。わかっているのに大笑いしてしまう。楽しい!


柏枝師匠「夢金」
ここまででとても時間が長くなってしまったと謝りながら「夢金」。
これが本当に素晴らしく良かった。
強欲で金を欲しがる船頭だけど、軽くて明るくてひたすらバカバカしい。
金儲けと聞いて飛びつくも、女を殺すと聞くと「そういうことはしたくねぇ」ときっぱり。
それじゃお前にも死んでもらうしかないと聞いて「それじゃやるよ」ということになるんだけど、山分けじゃなきゃ!と、ぶるぶる震えながらもしっかり値段交渉。

侍を中州に残して漕ぎだすところが実に気持ちが良くてすかーっとする。
強欲な船頭がとても気持ちのいい人物になっていて、素敵だった!

わたしたちが火の中で失くしたもの

 

わたしたちが火の中で失くしたもの

わたしたちが火の中で失くしたもの

 

 ★★★★

家の前に母親と住む汚い子供、酒浸りの高校時代、幽霊屋敷、子供と小動物の殺し屋、通りで見つけた頭蓋骨、鎖で脚をつながれた子供、黒い水から生まれた奇形児たち、「燃える女たち」の反乱…。読み進めるうちに、底知れぬ恐怖に満ちた現実に囚われていく。ラテンアメリカ新世代の“ホラー・プリンセス”が作りだす濃密なゴシックワールド。 


圧倒的な悪意や狂気や暴力、肉体的な力の差を目の当たりにすると、自分の無力を認めざるを得なくなり腰が抜けたようになるが、ここに収められた作品にはそういう類いの恐怖で満ちていて、確かにこれはホラーだ。ジャンルとしてのホラーではなく比喩的なホラー。いやむしろホラーというジャンルを広げた作品と言ってもいいかもしれない。

忘れたくて忘れられない作品が多いが中でも表題作、「汚い子」「アデーラの家」「パブリートは小さな釘を打った」「隣の中庭」「黒い水の下」が印象的だった。

横浜にぎわい座寄

11/4(日)、横浜にぎわい座寄席に行ってきた。

・きよ彦「初天神
・鯉斗「転失気」
・丸山おさむ 形態模写
・錦平「阿武松
~仲入り~
・さん助「鮫講釈」
・うめ吉 俗曲
・伸治「らくだ」


錦平師匠「阿武松
落ち着いた口調で、いい!今までも何回か見たことがあるはずだけど?と自分のブログを検索したらタイトルだけで感想はなし。何度か見てるけどあんまり印象に残らなかったみたい?
テンポよく言葉も滑らかでとても聞きやすい。
時々入るくすぐりも噺の邪魔にならなくて好きだった。


さん助師匠「鮫講釈」
船が出ることを知らせる船頭の大きな声が伸びやかでとても良くて、おおおっこれはいいのでは?!と大きな期待感。
船を嫌がる江戸っ子とそれを無理やり乗せる兄貴分。この嫌がる方のキャラクター、好き好き。
兄貴分が船に乗ってる人たちに声をかけて自己紹介。相当かっこつけてるのが微笑ましい。
それをそっくりまねる弟分。そっくりまねるから、さっきかっこつけてた兄貴分が「はんぱもん」になってしまってるのが面白い。
それを聞いて船に乗っていた京都の人が話しかけてきて、なぞかけを。
この部分もわりとたっぷり。

そのうち船が動いてないということに気が付いて兄貴分が船頭に話しかけると「鮫が集まってきた。この中に鮫に見込まれた人がいるのでその人には海に飛び込んでもらって生贄になってもらわないといけない」。
見込まれたかどうかは物を投げて流れて行けば問題ないけど、沈んでいくとそれは見込まれた人。
ここで弟分がキセルを投げて沈むんだけどキセルじゃだめだよということで手拭を投げなおす。…なんかそれっていいの?とちょっともやもや…。

そしていろんな人が投げるんだけどどれも流れて行って最後に投げた講釈師の扇子が渦を巻いて落ちて行く。
この講釈師がえらい訛っている田舎者で、「海に飛び込む前に講釈を聞いていただきたい」と始めるんだけど、これがものすごい下手。そして下手な部分がちょっと激しく下手すぎて長すぎるので、最初は笑いが起きていたんだけどその後不穏な雰囲気に…。
一カ所だけ妙にうまいところがあってその時に「お!」となったので、もう少しうまい方の比率をあげたら面白くなるような気が…あるいは下手な部分をもう少し控えめな下手さにするか…。なんにしても、お客さんが不安になるほど下手を長くやっちゃいけないぜ。
出だしがよかっただけに残念であった(えらそうだな、おい)。不器用な人だなぁ…。でもキラっと光るところがたくさんあるからこれからやで(ますますえらそうだな、おい)。

 

伸治師匠「らくだ」
客席を見渡して「知った顔もありますね」とにっこり。この師匠の笑顔、ほんとに素敵。「癒される」って言葉、あんまり使いたくないけど、癒されるとしか言いようがない。人としてこんな風にありたいと思うけど、かなり遠いところにいるなぁ私…。

3回目かな、伸治師匠の「らくだ」は。
兄貴分が結構怖い。にらみを利かしてる感じ。
一方、屑屋さんは脅されて「行ってきまーす」と出て行って肩をすくめて振り向きながら「なんだ?あれは?…どうしてこうなった?くずーい、これだよ。これがいけなかったんだよ」。
前半屑屋さんの気の弱さが全面に出ているだけに、後半の立場の逆転がとても小気味いい。

あんなにびくびくしていた屑屋さんが徐々に目が座ってきて「自分ばっかりばくばく食ってんじゃねぇんだよ!」とすごんだり、「どこの家の釜の蓋が開かないって?」と怒鳴ったり、「今夜は帰らねぇぞ!」と宣言するのが、いいぞいいぞーー!ってなって、客席が一体になって応援する感じ。

楽しかった!

そしてこの記事素敵。
伸三さん、大好きなんだけど、雷太時代より伸三さんになってからの方が好きで、その理由がわかったような気がする。
移籍は衝撃的だったけど、そういうことだったのか。当時「なんか本人もわかってないみたい」とおっしゃっていた方がいたけど、ほんとに具体的には何も言われなかったんだね…。でも確かにすごい温情だなぁ。出した雷蔵師匠も素敵だし受け入れた伸治師匠も素敵。伸治師匠の笑顔が目に浮かんで涙…。

ロンリネス

 

ロンリネス

ロンリネス

 

 ★★★★

東京湾岸のタワマンに暮らす岩見有紗は、夫とのトラブルを乗り越えたかに見えたが再びぎくしゃくしている。そんななか、同じマンションに住む高梨と急接近し、ママ友でW不倫中の美雨ママに相談をするうちに、有紗は高梨に強く惹かれていることに気づく――

不倫の果てに家族を失い周りから白い目で見られ破滅へ向かう、そんな友だちを目の前で見ていたのに、ふとした弾みで自分も同じ穴に落ちてしまう。恋愛というのは恐ろしい。最初の約束も過去の経験も優先順位も無意味になる。

今は覚悟ができたようなことを言ってる有沙だけど、恐らくこのあと高梨の言動に一喜一憂し天国と地獄を見るんだろうなぁ。
そして一瞬歩み寄ったように見える有紗と俊平の夫婦関係も、俊平の実家の近くに引っ越すことでますます苛立ちは募り溝は深まるのだろう。

自分たちの勝手な理屈で秘密の恋を続けて行こうとする有紗と高梨をなんて愚かな…と思うけど目が離せない。

これはきっと続編があるだろうな。見たくないけど見届けたい。

鈴本演芸場11月上席昼の部

11/3(土)、鈴本演芸場11月上席昼の部に行ってきた。

・歌つを「子ほめ」
・正太郎「権助魚」
・美智・美登 マジック
・文吾「真田小僧
・歌奴「宮戸川(上)」
笑組 漫才
・南喬「ちはやふる
・玉の輔「マキシム・ド・呑兵衛」
翁家社中 太神楽
・圓太郎「蛙茶番」
~仲入り~
・ホームラン 漫才
・馬石「狸札」
・正朝「町内の若い衆」
・ペペ桜井 ギター漫談
・藤兵衛「徂徠豆腐」

 

歌つをさん「子ほめ」
とてもわかりやすくてすっきりとしていて面白い。歌奴師匠のお弟子さんなのか。なるほど。

文吾さん「真田小僧
かな文改め文吾さん。
私の好きなタイプの噺家さんではないのだけれど、本当に嬉しそうな様子に思わず大きな拍手!
まくらで「かな文」という名前を頂いた時の話。かな文は師匠の前座名だったので本当にありがたくてうれしかった。
その名前を決める時。師匠が二枚の折りたたんだ紙を用意して「どっちか選べ」。
自分が選んだ方を開けたら「かな文」だった。
それで気になるのがもう一方の紙。もしかしてそちらにも「かな文」と書いてあったら本当に感動しちゃう!見たい!と思って、師匠がトイレに行った隙にゴミ箱から取り出して開けてみたら…。
このまくら、きっとしばらく使うのかな。なんかとっても微笑ましい。

弾むような楽しくて仕方ないというのが伝わってくるような「真田小僧」だった。うまい具合に切れ場を作っておやじからお金を巻き上げる金坊がとても堅気には見えない。
驚いたのはおかみさんがとても女らしく色っぽいところ。ちょっとびっくりするほど色っぽくて、何者だこいつ?(笑)。
いいものを見た。


歌奴師匠「宮戸川(上)」
二ツ目にあがる時というのは本当にうれしいものなんです。下手したら真打になる時より嬉しいです。私もそうでした。これからも文吾をよろしくお願いします」。
なんかこういうのいいよねぇ…じーんとする。
お花さんの器量の良さを言うのに、「若くてきれい。さっき出た美智・美登とは大違い」と楽屋の方をちらっと見たのがおかしい。
宮戸川」も聞き飽きた噺だけど、くどすぎず程よく面白い。
そしてサゲで「この二人が結婚し後に男の子が生まれこの子が立派な落語家になる…橘家文吾出世の一席でした」にもじーん。


南喬師匠「ちはやふる
楽屋がひっくりかえって喜んでるのいつものまくらでどっかん!とウケる。
もうなんだろう、この喋り方、間のとりかたで、めちゃくちゃおかしいのだ。そしてこの日のお客さんがほんとにいいお客さんで反応がいいから、南喬師匠師匠もどんどん乗ってきて相乗効果的にさらに面白くなってとってもいい雰囲気。

とにかく最初から最後までとっても楽しい「ちはやふる」。
ご隠居の知ったかぶりとはっつぁんの反応が絶妙でやりとりがなにもかも面白い。
時間短縮で「在原業平」と「ちはやふる…」ははっつぁんが最初にトントーンと言うんだけど、それを聞いたご隠居が「ああ、それか。その歌の訳。そんなのは造作もないことだ。造作もないよ…。ま、お帰りよ」と帰そうとするおかしさ。
それから「竜田川は川の名前だと思うか?」と聞いてからは、適当な話を思いついて饒舌になる。
ご隠居が堂々と話をしてるからから、客席が「え?そうなの?」と一瞬ちゃんと聞くモードになる面白さ。
「ゴムマリみてぇな女だな」「女乞食は幾分弾む」聞き飽きたフレーズもいちいちおかしい。

ああっ、楽しかった。南喬師匠の「ちはやふる」。好きだ、この師匠の落語。たまらない。


ペペ桜井先生 ギター漫談
この日のお客さんが本当に良かったので、ペペ先生もやりやすそう。
ギターを弾くとしーんとなって聞き入って、ぼそっと言う一言にも「わっ!」と反応があるから、先生のギターがいつも以上に冴えわたってるように感じた。
よかったなぁ。ペペ先生も絶好調だったなー。


藤兵衛師匠「徂徠豆腐」
まくらなしで「徂徠豆腐」。
うわーー、そんなにしょっちゅう聴ける噺じゃないのに、先週の蝠丸師匠に続けてまた聞けるとは嬉しい。

徂徠先生は武士らしく堅いイメージ。
それが七兵衛を呼ぶのに、お腹が空きすぎてヘナヘナした声になるのがおかしい。
七兵衛は江戸っ子らしいカラっとした人物で、豆腐の代が払えないと聞くと家の中を見渡して「ほんとだ。なんにもねぇや。あ、でもそこに本がありますね」。
本が高価なものだと聞くと「それを売ってしのいで、出世してから買い戻せばいいじゃないですか」と言うのだが、「この本は学者の自分にとっては命より大事。売ることはできん」と言われると「えらい!!いいねぇ!」と感心する。

豆腐は商売物だし毎日ただで食べられるのも…と考えて、自分の握り飯、3つ食べるところを1つで我慢して2つ持ってきますと言うと「食べ物を恵んでもらうわけにはいかない。商売物であれば出世払いができる」と先生。それを聞いてまた「えらい!!」。
「それじゃおからを先生のエサに持ってきますよ」。
「エサエサ申すな。わしが犬にでもなったようではないか」と先生が言うと「あっしは口が悪いんで申し訳ない!」と謝りながらも、次の日から「えさを持ってきたよ!」。

風邪で寝込んで目覚めると女房が怒っていて「うなされて、ひややっこひややっこ言ってた。ひややっこっていう芸者を囲ってるんだろう!」には笑った。
「お前には話してなかったけど、これこれこういうわけ…冷奴の先生って呼んでるんだ」と言われた女房が「あたしに話しておいてくれた届けてあげられたのに」と言うのもいいなぁ…。

七兵衛さんが訪ねて行くと、先生は2日ほど前に風に舞うように家を出て行ったと隣の人に言われ、「出世したならそう言って出かけて行くはず…」と先生が亡くなってしまったのだと思い、夫婦でそれから毎日お線香をあげて手を合わせるというのにも、この夫婦の人の好さが出ていて好きだ。

それから豆腐屋が火事にあうのが赤穂浪士の討ち入りと時を同じくしていて、そのせいで先生がすぐに豆腐屋を訪ねて来られなかった、というのは初めて聴いたので驚いた。
代理で来た鳶の頭は教えられた口上をちゃんと言うことができず、七兵衛さんは全くなんのことやらわからない。
おかみさんは「あれは置き泥だよ」と言うんだけど、あたしが目当てなんだよとは言わない(笑)。だからあれは蝠丸師匠独自なんだな。ぶふふ。

先生が訪ねてきてからの再会の場面は、それまでの先生の武士らしい態度そのままで「お前さんのおかげで命永らえることができた。親戚づきあいをお願いしたい」と言うのが感動的。
素晴らしかった~。しかも最初から最後まであくまでも落語らしく…くさいところが一つもない。好きだー。藤兵衛師匠。

この日のお客さんが本当に良くて、素直に笑ってしーんとして聞き入っておおおっと驚いて感動して大きな拍手。会場全体がすごい一体感があって本当に居心地が良かった。
たまにこういうことがあるんだな…(笑)。楽しかった。

三遊亭天どん落語会『どこまで続くか!? 100番勝負』第51回

11/2(金)、道楽亭で行われた「三遊亭天どん落語会 『どこまで続くか!? 100番勝負』第51回」に行ってきた。
貞寿さんのお披露目で見て「いいなぁ」と思っていた春陽先生。
天どん師匠の会のゲストだったので「これはいい!」と思い行ってみた。

・天どん「サプライズ・ツアー」
・春陽「大高源吾」
~仲入り~
・天どん「居残り佐平次

 

天どん師匠「サプライズ・ツアー」
初めて聴く噺。
世田谷生まれの人を対象にしたツアーに参加したカップル。
ツアーで連れて行かれたのが群馬の田舎での農業体験。
彼氏が世田谷出身で参加した主人公は実は群馬県出身で農業を体験する家というのが自分の実家でびっくり。
どうにか彼氏にはばれないようにしようと思うのだが…。

天どん師匠らしい、よくわからないシチュエーションに出てくる人がエキセントリックという新作。
独自の世界観だけどなんか面白い。


春陽先生「大高源吾」
私はなんか力の入ったこれでもかこれでもかという講談より、肩の力の抜けた講談が好きみたいだ。
春陽先生の講談は全体的に柔らかさがあって、どことなく漂うユーモアがあって、でも芯があって…そこが好み。
今度は一人の会に行ってみよう!

末廣亭11月上席昼の部

11/2(金)、末廣亭11月上席昼の部に行ってきた。
わーい、圓馬師匠のトリ!待ってました!というわけで午後半休を取っていそいそと末廣亭へ。
昼席だからお年寄りのお客さんが多め。一番前にすぐに噺家に話しかけちゃうおじいさんあり。


・鯉栄「扇の的」
ぴろき ウクレレ漫談
今輔「だまされたフリ作戦」
・好楽「親子酒」
東京ボーイズ 漫談
・昇之進「取り調べ中」
・歌蔵「代書屋」
・南玉 曲独楽
米丸 漫談
~仲入り~
・鯉橋「元犬」
・コント青年団 コント
・柳太郎「引導カレー」
雷蔵厩火事
・喜楽喜乃 大神楽
・圓馬「試し酒」


鯉栄先生「扇の的」
お客さんを惹きつける力がすごい。
松之丞さんだと「く、くどい…」と思ってしまうんだけど、鯉栄先生だと「いいっ!」と思ってしまうのは、キャラクターの違い?先入観?
わからないけど、えええ?ここで終わっちゃうのーー?とまんまと思わされた。そう思ったお客さんが大勢いた雰囲気。


好楽師匠「親子酒」
いつも聞く形じゃなくて、大旦那が若旦那に店を譲り…だからこそ若旦那に酒をやめさせようと思ったという前段あり。もしかしてこれは圓生師匠の形なんだろうか。
好楽師匠って案外落語にこだわりを持っているのかもしれないけど、芸が暗くて好きになれない。


米丸師匠 漫談
あれこれまくらをふりながら、こんなことやってないで落語に入らなきゃと言いながらも結局落語はされなかった。

でも印象的な言葉がいくつもあって、もう存在だけですでにレジェンドだし、かっこいいし、出て来てくれるだけでいい!

「お前はこんな年になってもまだこうやって高座にあがって…そんなに金が欲しいのかと言われることがありますけど、そんなに金がほしいわけじゃない。金がなければ生きていけない、というだけの話」。

素敵!


鯉橋師匠「元犬」
米丸師匠のことを「レジェンドですから」と説明。93歳という年齢に客席が「ええええ?」とどよめく。
鯉橋師匠も私がはっとした「金がなければ生きていけないだけの話」という言葉にじーんときていたのに、シンパシー。
鯉橋師匠の「元犬」はちょっと変で、あーーー…鯉橋師匠ってやっぱり鯉昇師匠のお弟子さんなんだなぁ、って感じる。楽しいソフトバンクおとうさん由来の一席。

圓馬師匠「試し酒」
わーい、圓馬師匠。
お酒のまくら(酔っぱらった二人が実は親子)でどっかん!とウケる。間がいいからわかっていても笑っちゃうんだなぁ。

久蔵さんの飲みっぷりがよくて、ほんとにこきゅこきゅっと飲んでいて、だんだん顔も赤くなってきてほんとに酔っぱらってきているみたいで驚いてしまう。
気持のいい飲みっぷりに客席が「よくやった!」と思わず拍手をしたのがまた気持ちよかった~。
口は悪いけど主人思いで優しい久蔵。主人に損をさせちゃなんねぇ!という気持ちが伝わってきて、いいなぁ…。

私、この師匠の落語、ほんとに好き。
すっきりときれいな芸でいやらしさやあざとさがない。でも奥行きの広さみたいのがあって、変則的な後打ちみたいなビートがあって、そこが油断できない。
チャーミングとしかいいようがない。いいっ!

 

池袋演芸場11月上席夜の部

11/1(木)、池袋演芸場11月上席夜の部に行ってきた。

・蝠丸「徂徠豆腐」
~仲入り~
山上兄弟(暁之進) マジック
・夢花「天狗裁き
・寿輔「ぜんざい公社」
ボンボンブラザーズ 曲芸
・夢丸「宿屋の仇討」

蝠丸師匠「徂徠豆腐」
出てくるなり「今日はとっても上品なお客様で…楽屋で評判ですよ。みなさんとっても上品だからおもしろくても声に出して笑わないって」。

…ぶわははは。
私はちょうど蝠丸師匠の少し前に入ったんだけど、確かにほんとにシーンとしていて、およよ?!と思ったのだ。
おそらくそういうお客さんだったからじっくり聞かせる方の噺を選ばれたのかな。
蝠丸師匠の「徂徠豆腐」は初めてだったのでラッキー!!ありがとう、お上品なお客様方!

蝠丸師匠らしく、軽いんだけど優しさにあふれた「徂徠豆腐」。
豆腐屋の七兵衛さんが学者の先生に呼ばれてお豆腐を渡すと、先生がすごい勢いで豆腐を食べる。
その勢いが日に日に激しくなっていくのがおかしい。
そして毎日同じセリフ。5日目になるとお豆腐屋さんがすっかり覚えちゃって同じセリフを淡々と言うと、「ああ…言う手間が省けた。ありがとう…」と学者の先生が言うおかしさ。
大きいのがないくらいだから細かいお金もないと言われたお豆腐屋さん。
えええ?そりゃあなた困るなぁと言いながらも家の中を見せてもらって「あー本がたくさんある。あなたものすごい勉強家だ」。
お金を払う当てがないのだと先生が謝ると「あなた偉いよ。武士や学者はお金が払えなくてもそんなふうに謝ったりしないのに。私、あなたが気に入った!」。
食べ物を恵むんじゃない、出世払いにしましょう、というセリフも気持ちいい。

悪い風邪を引いて寝込んでしまった七兵衛さんが8日目にようやくよくなって目が覚めるとおかみさんがおかんむり。
七兵衛さんがうなされて「おからーおからー」言ってたといって、「おからっていう女とできてるんでしょ!」。
「そんな名前の女があるかよ」と言うと「え?じゃ男?お前さんそっちだったのかい?」。

豆腐屋さんが焼けてしまって、友人宅に世話になっていると訪ねてくる大工の頭。
20両を渡されて「新手の泥棒だ」と二人。
おかみさんが「これを使っちまった頃にさっきの男と紋付羽織はかまの立派な男が入ってきて、金を返せないなら別の方法で返してもらおうか、って言うんだよ」。
「俺らにそんなものないよ」
「お前さん、それがあるんだよ。一つだけ」
「え?」
「…あたしだよ」。
武士があたしのことを見初めて金のかわりにほしいと言うからそうしたらあたしはお屋敷の奥様になる。お前さんのことも雇ってもらえるように頼んでおくよ、と言うのがすごくおかしい。
そしてほんとに20両を使い切ったころに、頭と盛装した先生が入ってきて「あらやっぱり。じゃ、お世話になりました」と七兵衛に別れを告げるのがすごくおかしい。

お金と新しい豆腐屋を先生からいただいて「出世されたんだ!」と喜ぶ七兵衛さんがいいなぁ…。
楽しかった~。いいもの見られた。満足。

山上兄弟(暁之進さん) マジック
マジックを「やらない方」の弟くんだけの登場。
なかなか危なっかしいマジックだったけど、かわいいから許す(笑)。


夢花師匠「天狗裁き
静かなお客さんに合わせて、通常の4割ぐらいのテンションでの「天狗裁き」。
とてもよかった。
テンポがいいし人物もくっきり。
いつものハイテンション、超早口より、こっちのほうが好きかも。


寿輔師匠「ぜんざい公社」
平日の夜の池袋演芸場の深い出番で寿輔師匠って正直地獄…。
客席を見渡していじるいじる。寝てるお客さん、お茶を飲むお客さん、笑うお客さん、笑わないお客さん。
「今日は時計の進みが遅い」と師匠がつぶやいたけど、私も同じように感じましたよ…。
ほんとにあの客いじりさえなければなぁ。でも客をいじらない寿輔師匠なんて寿輔じゃないのか。
この番組、もう一度行きたいけど、あの地獄のタイムをまた過ごすのかと思うとうーん…。


夢丸師匠「宿屋の仇討」
ニコニコいつもの太陽のような笑顔で登場の夢丸師匠。
「今日何も知らないでふらっと入られた方にはなんの関係もないことでしょうが、今日は私が真打になって初めてのトリです」。
よかったよーーの想いをこめて拍手をすると場内あたたかい拍手でわーーと盛り上がってじーん…。
夜の部のトリというのは前に出てる人たちがしてない噺をしなければいけないので、準備ができない。
でも5日間あるし、しかもその間はおそらく毎日打ち上げをやるだろうし、だから5席分さらっておこう!と昨日は5席さらいました。
それも家でやると近所迷惑なので歩きながら。歩きながらやるとなぜか噺が頭に入ってくるんですね。
それで5席分歩いて稽古した結果…今朝起きたら膝が痛いです。噺はさらえたけど膝を痛めるという…。

…ぶわはははは。
でもかわいいなぁ。前の日に歩きながら稽古している夢丸師匠を思うと、もうそれだけでうれしくなっちゃうなぁ。
そんなまくらから「宿屋の仇討」。

ついはしゃいでしまう江戸っ子3人組がほんとににぎやかで楽しい。
宴会をやっているとこに伊八が入ってくると3人が大喜びで脱がそうとするのが(それも何度も!)ばかばかしくてたまらない。
侍と聞くとものすごい素早さで「やめます!」と静かになるのがかわいらしい。なのにすぐにそれを忘れて相撲をやれば大騒ぎ、色事の話を聞けば大騒ぎ。

色事をするような面じゃないと言われた源平のたしかにそうだろうなと思わせる顔が浮かんでくるんだなぁ。

にぎやかで楽しい「宿屋の仇討」だった。
夢丸師匠の初めてのトリの初日に来られてよかった~。

マチネの終わりに

 

マチネの終わりに

マチネの終わりに

 

 ★★★

天才ギタリストの蒔野(38)と通信社記者の洋子(40)。
深く愛し合いながら一緒になることが許されない二人が、再び巡り逢う日はやってくるのか――。

出会った瞬間から強く惹かれ合った蒔野と洋子。しかし、洋子には婚約者がいた。
スランプに陥りもがく蒔野。人知れず体の不調に苦しむ洋子。
やがて、蒔野と洋子の間にすれ違いが生じ、ついに二人の関係は途絶えてしまうが……。
芥川賞作家が贈る、至高の恋愛小説。

面白く読んだのだが、「素晴らしかった!」と素直に言いたい自分と、「気取りやがって、フン!」とアッカンベーしたい自分、両方がいる。
テロや紛争、そして震災がある中で、芸術家として生きること、ジャーナリストとして生きること。
また情報を持っている者は損をせず、情報を持っていない者がバカを見るという不平等な社会で「持っている側」として生きる者の道徳観念。
それが、天才ギタリスト蒔野とジャーナリスト洋子、二人の恋愛を軸に語られる。

例えば蒔野がギターを弾く場面などはその場の高揚が伝わってくるようで素晴らしい。また、洋子が早苗と対峙するシーンは崇高な美しさがにじみ出てるようで鳥肌が立つ。
しかし一方で2人がすれ違うシーンや早苗の描き方は、まるで安いドラマを見てるような安っぽさ。

登場人物に共感しなくても…またストーリー自体に引き込まれなくても、なんかすごいもんを読んだ!いいものを読んだ!と感動することがあるが、これに関しては「文学」という風呂敷で包まれているけれど、素直に受け止められない何か(いけ好かなさ?)があって入り込めなかった。

でも初めて読んだ平野啓一郎だったけど、意外にも読みやすかったので、他の作品も読んでみたい。