りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

末廣亭一月下席夜の部

1/23(月)、末廣亭一月下席夜の部に行ってきた。

雷蔵「ねぎまの殿様」
・松鯉「源平盛衰記 那須与一・扇の的」
~仲入り~
・歌春「鍋草履」
・Wモアモア 漫才
・南なん「不動坊」
・夢太朗「置き泥」
・喜楽・喜乃 太神楽
・茶楽「芝浜」


雷蔵師匠「ねぎまの殿様」
「目黒のさんま」のねぎま版のような噺。
前も雷蔵師匠で聴いたことがあったかも。

お殿様が三太夫を連れて向島へ雪見に出かけようとすると、上野広小路のあたりでいい匂いがする。
「このにおいはなんじゃ」と聞くと「煮売り屋でございます」と三太夫。
入ってみたいという殿にあれはごくむさい所だと三太夫が言うのだが入ると言ってきかない殿様。
仕方なく店に入るとごく汚い店で椅子は醤油樽。
主人の言う「ねぎま」を「にゃー」と聞き違える殿様だが、食べてみるとネギの芯が飛び出すので「鉄砲仕掛けになっておる」と驚きながらも味はうまいと気に入る。
酒を所望すると「だりにしますか三六にしますか」と聞かれ、「だり」の方が上等と聞きそちらを飲みそれも気に入る。
またあの「ねぎま」が食べたいと思った殿が、ご膳番の留太夫に「にゃーを持て」と所望。
意味が分からない留太夫に三太夫がいちいち指南をして、そのようなものをお出しする、という噺。

庶民の符丁を喜んで使う殿さまがとってもかわいい。
殿さまが入って来ても動じない店の主というのもなんか落語的で面白くて、好きだなーこういう噺。
雷蔵師匠、時々ギャグを入れながらの楽しい高座だった。

松鯉先生「源平盛衰記 那須与一・扇の的」
にこにこして出てきて決して声を張ったりしないのに、話し始めると空気がぎゅっと締まる。
この日はお客さんも少なくてなんとなくちょっとどんよりした雰囲気だったんだけど、そんな中でも手を抜かない松鯉先生が素敵だ。

義経にどうにか一矢報いたい平家がある日船縁に扇を立てた小舟を出す。この扇の的を射抜いてみよという挑発なのだが、そんなことができる腕の者はいないだろうという計算があった。
また義経が女に弱いことを知っていたので「玉虫の前」と呼ばれたよりすぐりの美女に舞を躍らせ気をそごうとした。
この美女がどれほどの美女だったかを、とてもユーモラスに語る松鯉先生。思わずぶわははと笑ってしまう。
誰もが怖気づいて名乗り出ない中、白羽の矢が当たったのが那須与一。まだ十代の少年だったが見事な弓の腕前で、義経が所望した通り、扇の要目がけて弓矢を放ち…。

後半は思わず息を止めてしまうぐらいの緊張感で夢中になって聞いた。
松鯉先生が仲入りってほんとに贅沢。

南なん師匠「不動坊」
仲入りの時に、茶楽師匠の応援隊のおじいさんたちがどっと入ってきて最前列に陣取ったのだが、お酒も入っていたこともあって、歌春師匠のまくらやWモアモアの漫才にいちいち答える。
中に「いいなー」って言うおじいさんがいて、歌春師匠のいつもの話(楽屋にいるとなんでもしてもらえる、気楽な商売、家に帰ると熱いお風呂が沸いていて…)全てに「いいなー」。
こりゃかなわんなぁと思っていたんだけど、南なん師匠が「不動坊」をやり始めるとぴたっと止んだ。えっへん。(←なぜか私が誇る)

この間見たばかりだったので、なんとなくおさらいをするような気持で見入ってしまった。
あんころを買ってきてバカ呼ばわりされたまんさんが「お前らだってばかじゃねぇか。だいたい利口なやつがこんなことするか?」というのが大好き。
何も聞かされてない前座が「なんの幽霊でしたっけ?…はいっ」といちいち向き直ってやるのが楽しい。
アルコールだと思って火をつけるしぐさもいいなぁ…と思いながら見ていた。

茶楽師匠「芝浜」
「紙入れ」ばっかりだーと思っていた茶楽師匠。
何をされるのかなぁと思っていたらまくらなしで「芝浜」。うひょー。

おかみさんがとても色っぽい。でもなよなよしているわけじゃなくしっかりしている。
旦那の方は最初は仕事に出るのを渋ったり、外に出てからも早朝に出ていかなければならない魚屋という仕事を愚痴ったり財布を拾うと「誰が仕事なんかでるかい」と言ったり。
でもあれは夢だったんだと聞かされると、「ああおれはなんてことを」と後悔しおかみさんに「おっかぁどうしよう。もうこうなったら死ぬしかない」。
「お前さんの腕なら絶対に取り戻せるよ」と言われると「わかった。もうおれは酒はやめる。一生懸命働くよ」とやる気を出す。

3年たった大晦日、おかみさんからあれは本当のことだったと聞かされて最初はげんこを振り上げかけるのだが、最後まで聞くと「おめぇはえれぇよ」と頭を下げる。
またこう語りが芝居くさくなくてスマートなんだけど気取ってるわけじゃなくてすごくすてき。
よかった。

立川談幸落語なじみ亭

1/21(土)、連雀亭で行われた「立川談幸落語なじみ亭」に行ってきた。


・幸之進「蔵前駕籠
・談幸「おすわどん」
・談幸「井戸の茶碗
~仲入り~
・談幸「鼠穴」


談幸師匠「おすわどん」
お正月は前座にお年玉を渡さなければならない。
この間も立川流の前座にお年玉をあげたんだけど、受け取った後に前座が「実は師匠私今月いっぱいでやめることになりまして」。
…なぜそれを先に言わない?!わはははは。

その前座に「なんでやめるの?」と聞いたら「噺家が自分には合わないと思ったので」と。
でもね。噺家が合ってる噺家なんていないんですよ、めったに。落語が好きで噺家になってるやつがほとんどで。合ってるわけじゃない。
私もそうです。合ってない。どちらかというとサラリーマンの方が合ってるかもしれない。でも自分は朝早く起きるのが嫌いで長時間働くのが嫌いで…そう考えたとき、選択できる職業の幅がぐっと少なくなって、いたしかたなく噺家になったんです。

ふふふ。確かにその職業に向いてるからやってるっていう人なんてほとんどいなくて、好きだったり他のことができないからただただ続けてるっていう人が多いんだろうな。なんでもそうだよね。
でも続けて行くってほんとに大変なことで。
そして噺家さんの場合は師匠にもよるんだろうな、続けて行けるのかどうかは。自分は続けたくても師匠にクビにされてしまったら続けたくても続けられないもんなぁ…。
そういう世界なんだとは思うけど、師匠によるアタリハズレも明らかにあるようで、ちょっと複雑な気持ちになる。いやこれは立川流の前座さんのことじゃないんだけど…。
でもきっとそういうアタリハズレも含めて噺家という生き方なのかなぁ。

噺に入って、あれ、これは聞いたことがない噺。いや、一度ぐらいはあったかも。なんだっけ。

正妻のおあきさんがとてもよくできた人で旦那の妾おすわを家に入れてやり妹のようにかわいがってやる。
しかしおすわは何かそれが気に入らなくて、おあきが自分をいじめているようなことを旦那に告げ口。旦那もそれを真に受けておあきに冷たく当たったりしていると、それを苦にしておあきが井戸に身を投げてしまう。
店の者は全員がおあきの味方だったのでたいそう嘆くのだが、旦那とおすわはこれ幸いと49日が過ぎると夫婦になる。
しかしそのうち毎晩丑三つ時になるとおもてで「おすわどーん」と呼ぶ声と、ぱたぱたぱたっと叩くような音がするようになる。
身に覚えがあるおすわは、おあきが祟って出てきたと言って患ってしまう。
心配した旦那が近所に住む腕に覚えがある浪人を家に呼び込んで化物の正体をあかしてもらおうとすると…。

 談幸師匠はいろんな噺をしてくれるからそこがまたたまらない魅力。
決まった噺しかしない噺家さんもいてそういう方には考え(一つの芸を追及…?親子酒で?)とか事情(覚えられない、自信がない、席亭からいつものアレを期待されて顔付けされている)があるのかもしれないけど、私はいろんな珍しい噺をしてくれる噺家さんが好きだなぁ。

談幸師匠によるとこの噺は歌丸師匠がよくやられていて、あとは先代の圓楽師匠がよく寄席でかけていたらしい。
談志師匠が圓楽師匠に「よくこんな面白くない噺をやるね」と言ったら、圓楽師匠がこの噺はサゲがすぱっときれるから降りやすいんだと言った、と。
なるほどー。たしかに。

普段何も考えずに聞いているけど、確かにそういう「お、みごと」っていう後味を残すときがあって、それってサゲの決まり具合によるところもあるんだな、と初めて気づいた。


談幸師匠「井戸の茶碗
最近結構いろんな師匠の「井戸の茶碗」を聞いているので、つい聴き比べ。
談幸師匠の清兵衛さんは茶目っ気があってチャーミング。
千代田氏が五十両を断る時に「売った品物に傷があったと言われたら、それはもう売ったものだから…といって受けないのに、金が出たと言われてその金を受け取るのは道理に合わない」。

おお、なるほど。そういう理屈か。
さらに「施しはうけない」ときっぱり。
そうだよな。生活に困窮してるからこそのプライドなんだよな、そこが。それがなかなかこちらに伝わってこないんだよな、いろんな人の井戸の茶碗を聞いてるけど。

井戸の茶碗のお金を折半して百五十両を受け取ってくれと千代田氏を訪ねた清兵衛さんが「今度も何か品物を出してなさいよ。楊枝かなんかを。楊枝ならいくらなんでも井戸の楊枝ってことはないでしょ」と言ったのがおかしかった。

明るくて楽しい「井戸の茶碗」だった。


談幸師匠「鼠穴」
わかっていても火事になってお兄さんにお金を借りに行って断られて困り果てて娘を吉原に売るシーンでいつも泣いてしまう。ううう。ひどいよう…。お兄さん…。
うなされている弟を起こした兄が夢の話を聞いて「え?俺、悪役?」と言ったのが面白かった。

何度見てもこの噺、お兄さんがどっちなのか分からないんだよなぁ。まぁ人間なんてわからないものだから。それをさらっと描いている落語ってやっぱり面白いなぁと思うのだった。

せめ達磨 vol.66

1/20(金)、中野小劇場で行われた「せめ達磨vol.66」に行ってきた。

・きく麿・めぐろ 前説
・あおもり『愛を詰め替えて』
・天どん『正月太り』
・ゲスト:バロン(ヴォードビル)
~仲入り~
・めぐろ『粗忽の韻』
・きく麿『いやじゃいやじゃ』

あおもりさん『愛を詰め替えて』
前座さんも新作をやるのがせめ達磨スタイル。あおもりさん、そうか、白鳥師匠のところに入ってるってことは新作派だったのか!
よく「稽古はどこでしますか」と聞かれますが、どこでもやるんです。自分の家でもやりますけどアパートなのであまり大きな声は出せないのでカラオケボックスに行ってもやりますし、道を歩きながらとか電車の中でとか。もちろん電車に乗ってる時はそんなに大きな声は出せないんですけど、やってるうちに力が入ってきて気が付くと結構大きな声を出していてまわりから人が一人減り二人減り…としていくことはよくあります。
この間も電車の中で「誰かと思ったらはっつぁんかい」なんてやってたら周りから人がいなくなっていったんですけど前に立っていた若い女性だけはいなくならなかった。そのうち彼女が「あの…あなたも、ですか」と聞いてきた。
見たことのない人だったのでプロじゃないなと思いつつ、でも大学の落研とかなのかな?私は落語協会ってところで前座やってるあおもりと申しますと名乗ろうとした時、彼女が言った。「あなたにも見えるんですか?」。
どうやら上下を振ってるあたりに、彼女には何かが見えていたらしい…。

そんなまくらから、シャンプーとコンディショナーの噺。
あなたと別れたくないとすがりつく女に「おれ中身がないんだ。からっぽなんだ」と男。
女の方がコンディショナーで男の方がシャンプー。
今まで詰め替えられて命をつないできた(?)ふたりだったのだが、この間住人が薄毛用のシャンプーのボトルを買って来ていたから、中身がなくなったらいよいよ捨てられる、と絶望しているのである。

なかなか微妙な(笑)新作だったけど、ちょっと暗めなのが独自な感じで面白いあおもりさん。二ツ目になったらきっとバリバリの新作派になるんだろうな。


天どん師匠「正月太り」
お正月、龍玉師匠と一緒に地方の仕事に行った時の話をつらつらと。
地域寄席に毎年呼んでもらっているんだけど世話人が結構熱心で村の住人の半分ぐらいが来るんだからすごい。それにしてもなんでああいうところの人たちは抽選に命をかけるんでしょう。なんであんなにもらいたがりあんなにあげたがるのか。
昨年は120名ぐらいのお客さんの中で60名ぐらいが当たったんだけど、そうすると当たらなかったと文句を言う人たちがでてきた。なので今年はあたりを100名にしました、って…。それは余計にもめるのでは?と思ったのだが、そうなると抽選に1時間半ぐらいかかる。さすがに付き合いきれないので後半の盛り上がるところで出て行くことにしたのだが、それだけ当たるとなると逆にお客さんはあっさり帰っちゃって、最後の方になるほどたいして盛り上がらなかった。
あと、自分たちの前に何が出るかが結構重要なんだけど、今までは熱心な素人さんたちによる獅子舞だった。これに音楽がかかるんだけどこれがやけに音が遠い。外でやってる獅子舞の音楽をラジカセで録音した?みたいな感じ。
で、それはそれでよかったんだけど、今年は獅子舞が手配できなかったらしく、なんと素人の手品。素人の手品や物まねというのはほんとに厄介。というのはこういうのをやる人というのはたいてい自分大好きな人が多くていつまででもやりがたる。
今回も素人手品でいや~な予感がしたんだけど、来てみれば75歳のおじいさん。最初から手が震えてるわ、ガチで失敗するわ、それを挽回しようとまた違う手品をやるわ…もう大変。

まくらというかぼやきが止まらない天どん師匠。
すごく面白いからいいんだけど、時間は大丈夫?と心配になってくる。
さすがにまくらが長すぎたと思ったのか「正月太りの噺をしますよ」と。

正月明け、出社した新入社員を見て「お前誰だ?」と部長。
正月に実家に帰って運動もせず出てくるものを食べて寝てを繰り返していたらこんなに太って人相が変わってしまった、と。
それは困る、と部長。というのは、取引先のお嬢さんが「あの人しゅっとしていて素敵」と彼のことを見初めて一緒に飲みに行くことになっているのだ、という。
そんなことを言われても…と困っていると、そいつの同期でやせている男がやってくる。じゃ、お前を身代わりにしよう、と部長。
そんなのばれるに決まってるじゃないですか!というと、しゃぶしゃぶにして湯気をぼーぼー立てればたいして顔も見えないだろうから大丈夫、という。

座布団の上で腹筋やったり腕立てやったりはてはポールダンス(!)の真似事をやったり…妙にアクティヴなのがおかしかった。


バロンさん ヴォードビル
ウクレレを弾きながら歌い、タップでリズムを刻み、客席をあおり、最後は帽子の曲芸まで。
うおお、好き好き!
選曲が絶妙でユーモアのセンスもあってものすごく好み。
「天どん師匠が長講だったので」と時間が短めだったのが残念!
楽しかった~。

めぐろさん『粗忽の韻』
学生時代、友だちとチームを組んでラップをやってたことがあるというめぐろさん。くくまさんにお金を貸したけど期日になっても返してくれないから一緒に取り立てにいってくれ、とご隠居。
言われたはっつぁんは「くまとは関わり合いになりたくない」とにべもない。
なんでも最近くまさんはラップにはまって「ヨーヨー」言ってるらしく、危なくてしょうがないのだという。
それでも返してもらえたらその半分の3両をやると言われたはっつぁんは、それなら…と言って一緒に吉原に乗り込んでいく。
ラップ対決をして勝ったら返してやるというくまさんと花魁とのラップ対決が始まる…。
花魁の「ずびずびずび…」というリズムで始まるラップ対決がなんともばかばかしい(笑)。私は花魁のラップが好きだったな。ちゃんと韻を踏みながらちょっと悲惨なやさぐれた人生をうたっていて。


きく麿師匠『いやじゃいやじゃ』
おばあさん(?)二人が会話をしている。

「お餅はどうやって食べるのが好き?」
「そうねぇ。私はお醤油につけて海苔をまいて食べるのが好きね」
「ああ、いいわよねぇ。お醤油に砂糖を入れて砂糖醤油もいいわよね」
「ああっ砂糖醤油ね!いいわね!あれを初めて食べた時は感動したわっなんかこれって究極!って思って」
「あら…究極じゃないわよ…」
「そ、そうね…言い過ぎたわ」

なんかこのほかにすることがないからどうでもいいことをしゃべってる感じがたまらない。な
私、きく麿師匠の新作のまったり続く会話が大好き。「陳宝軒」の冒頭部分とか「スナックヒヤシンス」のママとチーママの会話とか。
面白い人がやるとなんてことない会話が楽しくていつまでも聴いていたくなるけど、そんな感じ。

そんな二人の会話にちょいちょい挟まれるのが、「ごろうさんが餅を喉につまらせてくれてよかった」。
つい忘れて安易に餅を飲みこみそうになるんだけど、その時にごろうさんのことを思い出して「危ない」って気がつくことができる。ほんとによかった。ごろうさんのおかげ。

そのごろうさんが後半に登場して、この前半のまったりした餅の会話が壮大な(!)仕込みであったことがわかるのがもう…ばかばかしいやらすごいやら。最高。

 

末廣亭正月二之席夜の部

1/19(木)、末廣亭正月二之席に行って来た。


・志ん橋「居酒屋」
・権太楼「つる」
・美登・美智 マジック
・小団治「ぜんざい公社」
・金馬「孝行糖」
~仲入り~
・太神楽社中 寿獅子
・小袁治「長短」
・一朝「芝居の喧嘩」
・小さん「親子酒」
・正楽 紙切り
小三治粗忽長屋

志ん橋師匠「居酒屋」
居酒屋で働く小僧さんがかわいい~。こんなかわいい小僧さんだったら酔っ払いがついついからかいたくなる気持ちもわかる。
お酒の種類を判断するのに下から見上げたりお酌をしたがらなかったり、食べ物を頼まないと聞いてがっかりしたり…とってもチャーミング。
何回か聞いてるけど大好きだ。


金馬師匠「孝行糖」
そんなに面白い噺だとは思わないんだけど、サゲのところをすごく伸びやかな声で歌うように言って、その声が寄席中に響き渡らせながら幕が下りてきた。なんかぞくっとするぐらいよかった…。

ほんとに寄席に金馬師匠が出ているとそれだけで幸せになれる。

小袁治師匠「長短」
いつも末廣亭で聞くと声が聞き取りづらいなぁと思っていたんだけど、この日はマイクが近かったのかすごく聞き取りやすかった。
でももうそんなことよりもなによりも最高によかった、小袁治師匠の「長短」。

短さんも長さんもこれ見よがしに短気だったりゆっくり喋ったりしないんだけど、二人のペースが全然違うんだろうなぁというのがこう話し出す前から伝わってくる。
それでいて気が合うっていうのも伝わってきて、とってもほほえましい。

どこがどうって細かいところは私にはわからないんだけど、見ている間中幸せで楽しくてほかほかした。
うわーーー、マックくん、素敵!これは小袁治師匠のトリの芝居をぜひとも見に行かなければ!


一朝師匠「芝居の喧嘩」
この噺、一朝師匠以外で聞いたら絶対面白くないんじゃないかなぁ
次々喧嘩が起こるっていうだけでなんでこんなに陽気で楽しいのか。すごい。


小さん師匠「親子酒」
時間があったらしくいつもよりたっぷりの「親子酒」…。
 
正楽師匠 紙切り
切ってる最中に二階から「闇夜のカラス」という声。
…なんだかなぁ…と思っていたら、最初知らんぷりしていた師匠が「闇夜のカラス…ね」と言って次に切り始め「闇夜でカラスだったら見えないから切らなくてもいいんだけどね…ま、注文されたものはね切りますよ」。
「このカラスは用心深いカラスでね」と言って見せてくれたのが、カラスがくちばしで提灯を抱えてる!
ああっ、ほんとに正楽師匠って素敵。
 
この間と同じように一年に5回ぐらい寄席にいらしてください、小三治師匠。
かといって、しょっちゅう来ちゃだめですよ。ここは…来ていただいておわかりになったかと思いますけど、しょっちゅう来るようなところではございません。
 
…きゃー。この間の私のブログを読まれたのかしらー。(んなわけない)
 
あー今日の私は調子悪いです。すごく悪い。
で、何をやろうか決められてないんです。
ネタ帳見てね…やろうと思ってた噺が出ちゃっててね。…小袁治が「長短」…。
 
…わはははは。でも「親子酒」や「芝居の喧嘩」はないですよねぇ。
 
どうしようかなぁ。あ、やっぱりそうしよ。
そういいながら、「粗忽長屋」。
 
もう何回見たかわからない小三治師匠の「粗忽長屋」だけど、楽しいんだよなぁ。
「よっぽどきまりが悪いんでしょうね。だってほら、向こう向いて寝てる」
「え?死んでる?だってさっきからいきだおれって…。だったら死に倒れじゃねぇか」
聞きなれたセリフでも必ず「ぷっ」と吹き出してしまう。
 
兄貴分に言いくるめられて自分の死骸を引き取りに来たくまも「なんかちっともしらなかったもんですから。あたし夕べここに倒れちゃったそうで」。
ばつが悪そうな顔にまた笑う。
 
ほんとに何度見ても楽しい「粗忽長屋」。満足。
 
 
 

ろびぃ寄席

1/18(水)、シアターΧ で行われた「ろびぃ寄席」に行ってきた。

かわら版にも載っていないこの会、親切な南なん師匠ファンの方のtweetで知ることができた。
ああっ、南なん師匠、もっと情報をっ!(ばたっ)
初めて行く会場で不安もあったのだが、40分ぐらい見ておけば大丈夫だろうと思っていたらJRが人身事故で運休に!かんべんしてけろ!
迂回ルートで行ったけど駅まで遠いわ迂回だけあって距離も長いし駅から会場までも遠いし…ぜいぜい。
しかも会場がどこかわからずあてずっぽうでエレベータに乗ってオフィス階に行ってしまい焦る!!
どうにかシアターにたどり着いたのが開演時間5分後。
人身事故の知らせで若干開演を遅くしていてくださったでどうにかぎりぎりセーフ!


・南なん「不動坊」
・味千代 太神楽
~仲入り~
・南なん「居残り佐平次
・アフターミーティング

 

南なん師匠「不動坊」
普段はこの劇場のロビーでやってるんですけど、今日は予約が多かったのでホールに出世しました、と南なん師匠。
明後日は雪の予報です。今日じゃなくてよかった。と思っていたらなんですか人身事故でJRが止まってるって。
ロビーで係のお姉さんと喋ってたんですよ。
開演を30分遅らせようかとか仲入りなしで連続でやろうかとか。
でもみなさん頑張ってきていただいたのでね。いや、なかにはキャンセルされた方もいたとは思いますけど。義理で頼まれた人はね。ちょうどいいやって。
ほんとによくおいでいただきました。

私、寒いの苦手なんですよ。
平熱が34.6度ぐらいしかないもんで、冬の朝なんてほんとに起き上がれないんです。動作もすごく遅くなってね。
体温が低いってよくないんですよ。免疫力が低いから。
だから結構気を付けてます。
食べ物もね。ヨーグルトとか納豆とか。塩麹なんか自分で作ってますから。
あれ作るの大変なんですよ。こう…買って来たやつをこうやって伸ばして…あとは夏は1週間、冬は2週間寝かせておいてね。

塩麹を自作している南なん師匠を想像するとそれだけで落語みたいで笑っちゃうなぁ。
しかも自作してるんですよ!と胸を張る割に説明がもやもやっとしているのがおかしい。
そして普段はなかなかまくらを振らない師匠がこうして話してくれるの、すごくうれしい。

そんなまくらから「不動坊」。
南なん師匠の「不動坊」は何回か聞いたことがあるんだけど、結構刈り込んでる。
お滝さんが妄想上のおかみさんだったっていうのもないし、大家さんの家からわりとすぐに帰るし(笑)、お湯屋の場面から3人組が悪だくみをする場面に変わるのも早い。
前座に前もって幽霊のセリフも教えない。

できるだけこざっぱりやりたいのかな、南なん師匠って。
もちろんそんな簡単なものじゃないんだろうけど、なんとなくシンプルイズベストっていうような信念を感じる。

味千代さん 太神楽
きれいっ。そして客席をぐっと引き寄せるのが上手!すばらしい。

 

南なん師匠「居残り佐平次
大好き。南なん師匠の佐平次。
全体的に陽気なんだけど、時々どきっとするような暗さがちらっと見えるところがなんともいえない。

若い衆に向かって「お金の話はよしましょう!」と変なポーズをとるところ、何回見ても笑ってしまう。
手慣れた様子で布団部屋に入っていき、そのうち店で働きだすところとか、佐平次の憎めないキャラクターが浮かび上がってきて大好きだ。
歯の浮くようなお世辞に、ちょこっとだけ顔が緩むかっつぁんも素敵。

店の主人が確かにすごくお人よしというかだまされやすいキャラクターなのも面白い。
お金から着物、帯までどんどん巻き上げるところで、お客さんがどっとウケていたのがなんか面白かった。

アフターミーティング(南なん師匠、味千代さん)
会のあとはなんとロビーで「座談会」。
出演者に質問や感想などどうぞと言われ、何度か促されたんだけど、ダメダメな私は緊張のあまり頭がまっちろになってしまった。
なんてもったいない…。師匠に質問できるチャンスだったのに!
次回は質問をちゃんと用意して行こうっと。

南なん師匠の持ちネタが160席ぐらい。まだまだこれからも増やしていきたい。やりたい噺はたくさんあるけど最近は「夢の酒」が気に入っていて、あと「らくだ」をやってみたい(見たいっ!)。
一席目はいつも客席の雰囲気を見てから決めていて、もうこの会も何回かやっていてお客さんの落語レベルも上がってきているので、わかりやすい噺にこだわらなくても大丈夫だろうと思ったのと、女性のお客さんが多めだったので女性の出てくる噺をしようと思って「不動坊」。

味千代さんは入って六年目。この世界に入ろうと思ったきっかけは、もともと寄席が好きでよく見に来ていて、OLをやっていたんだけど、末廣亭で神楽の養成所のチラシを見つけて「これだ」と思ってその世界に飛び込んだ。最初から最後までHAPPYな芸なのでそこに惹かれている。

…もっといろいろ話をされていたけど緊張しちゃってあんまり覚えてない…。

鈴本演芸場正月ニ之席夜の部

1/16(月)、鈴本演芸場正月ニ之席夜の部に行ってきた。


・さん助「熊の皮」
・ダーク広和 マジック
・天どん「初天神
・白酒「お茶汲み」
~仲入り~
・ホームラン 漫才
・歌奴「棒鱈」
・楽一 紙切り
喬太郎井戸の茶碗

さん助師匠「熊の皮」
なんか元気がないっていうかバランスを崩しているような印象が…
十八番の噺なのに湧き上がってくる楽しさがないのはなぜなんだろう。落語って難しいものなんだねぇ…。
でも、だからこそ同じ噺家さんの同じ噺を何度も聞けるんだろうとも思う。
鈴本演芸場二月下席昼の部の主任が決まっているさん助師匠。がんばれ~。それにしてもすごい、この写真。リアル蒟蒻問答やで。偽住職か蒟蒻屋の親方か柳家さん助かってなもんだ。
割引チラシも!
 
天どん師匠「初天神
前に出た文菊師匠のことを「ねちっこい落語」「1席だから耐えられる」ってひどい言いようだけど、おかしくて思わず拍手したら「今拍手した人は同罪だからね!」。ひっ、巻き込み事故
浅い出番の時の天どん師匠は好きだな。(え?失礼?)
家を一歩出たとたん「あれ買ってくれ」が始まる金坊。長屋をぶちぬいて作られたテキ屋。飴玉にカラーひよこに凧屋。
親子の触れ合いや雑踏の景色が一切描かれない「初天神」。最高だった~。笑った~。
 
白酒師匠「お茶汲み」
寄席は懐が深い、と。
ホール落語だとちゃんとした人しか出られないけど、寄席は変な人やおかしな人も出られる。
さっきの天どんとか…ああいう落語で「え、ええ?」と思っても、他にちゃんとやる人もいるから「ま、いいか」と許せる。
この芝居、ひざ前に文菊を入れたのは本当に絶妙。
え?ええ?なにこれ?とお客さんがだんだん怒ってきても文菊の落語で浄化されて穏やかな気持ちで喬太郎を迎えられる。
へたすると始まってからもうずっと「え?」「えええ?」の連続になりますからね。
私ですら「ちゃんとしてた落語!」て思えるぐらい。
ホームラン先生も…まぁあれですけど、見た目がちょっとイケナイですからねぇ。
 
白酒師匠の毒吐きに大爆笑。
相当酷いことを言ってるんだけど毒々しくないのが不思議だ。
ほんとに頭のいい人だよなぁ。頭の良さと程の良さには悪魔的なものすら感じる。(←ほめてます)
楽屋で一番好まれるのがこんな店に行って失敗した話で一番嫌われるのが自慢話。
そういう意味でこの界隈は客引き、ポン引きがまだたくさん生息してますから。
「客引きにはついていかないでください」って放送を流しているけど付いて行っちゃう人がいますから。
この当たりの店で雑居ビルの二階以上にあるのは全部いかがわしい。ヘタすると一階でもやばい店ってことある。
ぜひともみなさん今夜この後付いて行っていただきたい。
 
そんなまくらから「お茶汲み」。
夕べ吉原に行ってバカにもてたという話をする男。
「え?なに?自慢?」と聞かれて「まあちょっと聞いてくれよ」。
自慢に聞こえる部分にいちいち反応する聞き役がおかしい。
そして吉原に行った男が、花魁の鼻のあたりにあるのがほくろじゃなくて茶殻って気が付くところが最高におかしい。
真似をする男の話を聞く花魁もなんともいえずうさん臭くて楽しい。
まくらが長すぎたのかかなり早口で飛ばしてたけど、楽しかった~


歌奴師匠「棒鱈」
正直、歌奴師匠は「棒鱈」率が大変高いので違う噺も聞きたいんだけど、でもやっぱり面白くて笑ってしまう。
おばさんがお大臣の歌を聞いて「もうなにこれ」と低い声で言ったり、ちょいちょい以前はなかったくすぐりが入っててそこに笑ってしまった。


喬太郎師匠「井戸の茶碗
富士そばのまくらで思ったほどウケなかったから?何をやろうか決めかねているような感じの喬太郎師匠。
「なんか今日のお客さんいいね。がっついてなくてまったりしてて。なんか…みんなで飲みにでも行く?」。
くーー。余裕のセリフだなぁ。でも確かになんだろう、ウケすぎるお客さんがいない感じで、でも別に冷えてるってわけでもなくて、ちょっと不思議な雰囲気だったな
 
3日連続新作やったのでもう新作飽きちゃった。でも古典をやる気力もない。
なんてことを言いながら「井戸の茶碗」。
喬太郎師匠の清兵衛さんは自分の欲望に正直な清兵衛さん。
パンチが効いているから集中力を途切れさせないし、笑いどころがそんなにないこの噺でも笑いどころを要所要所に作るのはすごいな、と思う。
でも私は南なん師匠のあの何も足さない素朴な「井戸の茶碗」の方が好き。あくまで好みの問題、ですが。

黒門亭2864回

 1/14(土)、黒門亭2864回に行ってきた。

・はまぐり 「たらちね」
・小んぶ 「新聞記事」
・甚語楼「松曳き」
~仲入り~
・たけ平「小田原相撲」
・今松「風の神送り」

小んぶさん「新聞記事」
黒門亭に来る前に産婦人科で行われた落語会に出てきたという小んぶさん。二ツ目さん何人かで行ったらしいのだが、着物姿で院内を歩いていると「あら、落語家さんよ」と言われ、「おお、ちゃんと落語家ってわかってもらえてる」と思っていると、小んぶさんを見て「あ、お相撲さんもいる」。
子どもが握手を求めてきたので、握手してあげなら「どすこい」。

…ぶわはははは。

「新聞記事」は確か小んぶにだっこで聞いたことがあったんだけど、サゲを聞いてもわかってない男の反応がとても面白い。
話したご隠居も「え?そんな反応?じゃ…忘れてくれ…」と戸惑うのだが、しばらくしてサゲの意味に気が付いて「面白い!!」。
「天ぷら屋だけに…じわじわきました」と言うとご隠居が「はぁ?」という反応。「え?おもしろくない?ご隠居が言ったサゲと同じようなもんだと思ったんだけど」。

友だちのところに行ってやってみるんだけど、「逆上」を間違えて「欲情」と言ってしまい、「え?欲情したの?それでどうなった?」「それで…まくらを交わしたんだな」「え?まくらを?!」。
その後に今度は「体をかわす」が出てこなくて「あれだよ、あれ…。まくらをかわしたんだよ」「え?やっぱりかわしたの?」。

ちょいちょい小んぶさんテイストが出ていておかしい~。小んぶさんの面白さが黒門亭の御常連さんたちに広まるといいなぁ。


甚語楼師匠「松曳き」 
もっと見てみたいと思ってる甚語楼師匠をこうして見られてうれしい。
一門でセブ島に行った時のこと。我太楼師匠と二人でサウナに入ったんだけど、そこに瓶が置いてあった。これはなんだろうと中の水をすくって匂いをかいでみると、ミントのいい匂い。種明かしをしますとこれサウナにじゅっとかけてミストにするための水だったんです。でも我太楼が「いい匂いがするからこれは体に擦り付けるんですよ」と言い、そうなのか!と二人ですくっては体にこすり付けていた。
後から入った外人さんたちがおかしな顔をして見ていたけど、考えみたらわかりそうなもんだけど「ここは外国」と思ったらこう…なんか緊張しちゃって、思い込んじゃったんですね。

そんなまくらから「松曳き」 。
おっちょこちょいの殿様も三太夫も妙にちゃんとしていて威厳があるのがおかしい。
「餅は餅屋というからな」と言って、植木屋を探すつもりが「餅屋を探せ」と言ってしまう三太夫。それを聞いた植木屋「あの三太夫さんは人を探す時だいたいいつも餅屋から探す」。
…ぶわははは。ばかばかしい~。

なんかこの師匠のクールなところがとても好きだ。


たけ平師匠「小田原相撲」
相撲ファンと相撲マニアは違う。ファンはどんな取組を見ても楽しんでる。でもマニアは取組なんか見ない。指導の方を見て「お、〇〇の腕時計が変わった」。
落語もそう。落語ファンはどんな噺家が出てきても楽しんで聴くけど、マニアは柳家と春風亭の落語は聴くけど…。

客をいじったり毒を吐きながら「小田原相撲」。面白かったけど、声がちょっと苦手かも…。とくに黒門亭みたいな小さい会場だと、ちょっと…。あと、毒のある客いじりは好きじゃないんだよなぁ。私はマニアじゃなくてファンだけど。


今松師匠「風の神送り」
今松師匠って気難しそうだけど、落語に温かみがあってそこがすごく好きだなぁ。
風の神送りをしようじゃないかということになり、奉加帳を用意する若い衆。字が書けるやつが「墨をすれ」「筆を洗って来い」とえばるんだけど、それを聞いて「なんだえらい手数がかかるんだな」とぶつくさ言いながらやってあげるところとか、奉加帳を持って寄付を求められた店の主人が「ああ、そういうことですか」と受け入れるところが、なんかほかっと温かい。
ケチで有名な大店に行って二文しか出さない番頭に文句を言う若い衆。それに対して番頭がまたなんだかんだとまくしたてると「もういいや、やめとこう。」とすっと引くところも、なんかさっぱりしていていいなぁ。

なんか聞いたことがあったなと思ったら、小満ん師匠で一度聞いたことがあったんだった。
いかにも落語らしい、バカバカしい噺。楽しかった!

 

柳家小満んの会

1/13(金)、お江戸日本橋亭で行われた「柳家小満んの会」に行ってきた。
二カ月に一回行われているこの会、毎回行きたいのはやまやまなのだが、他の会や寄席と重なったりしてなかなか行けない。
今年はこの会と関内ホールの会、できるだけ行きたいなぁと思っている。


・寿伴「真田小僧
・小満ん「成田詣り」
・小満ん「一刀成就」
~仲入り~
・小満ん「うどんや」


小満ん師匠「成田詣り」
酉年にちなんだ川柳や小噺。
上野動物園の売店をやってる方とお知り合いになってその方から聞いた話。
縁日で買って来たひよこが無事に育って雄鶏に。毎朝元気に鳴くのだがアパート暮らしなので近所に迷惑だろうと思い、子どもの学校に寄付することに。
数日後、校長先生から丁寧なお礼状が届いた。「いただきました雄鶏ですが、大変美味しくいただきました」。

それから漫画家の先生と知り合いになったのだが、そこでもやはり縁日で買ったひよこが育ってこちらは雌鶏に。
鳴く心配はないのだが糞に悩まされ、鶏におむつをして飼うことに。時々は首輪をつけて散歩に連れて行ったりしてご近所でも評判に。
旦那さんの方がこの鶏をとても可愛がって夜も自分の布団で一緒に寝ていたのだが、この鶏が卵を産んだもんだから奥さんが「亭主が鶏とできちゃった」と大変な焼きもち。
相談を受けた仲人さんが「鶏は無精卵だから」と説明したのだが「いいえ、あの人は手が早いんです。私の時もわからないうちにされたんですから」。この話を聞いた小満ん師匠が、なんて面白い奥さんだ!ぜひともお会いしてみたいというと、この奥さんはスナックをやってるからと教えてもらった。
訪ねてみると、奥さんが奥にいるおばあさんにああだこうだとガミガミ言っている。どうやらこのおばあさんがお姑さんらしいのだが、かなりきつい口のききよう。でもお客には「あーらいらっしゃい」と色っぽく。
鶏の話を聞いてみると「そうなんですよ。ほんとにうちの亭主は見境がないんだから」と、冗談なのか本気で信じてるのかわからない口調で言った、と。

いやぁもうおかしい~。
こういうことをにこにこと笑顔でお茶を飲みながらのんびり話されるからもう楽しくて楽しくて。
満員のお客さんたちが、子どもの頃に面白い話を聞かせてくれるおじさんのまわりに集まったみたいに、みんなキラキラした目で一心に聞いているのがたまらない。

お伊勢詣り、大山詣りについて話をしたあとに「もっと安直だったのが成田詣り」といって、「成田詣り」へ。
出入りしている店の主人の成田詣りにお供で行くことになった棟梁。お詣りに行く前日の夜、夜なべ仕事をしているおかみさんに「そんなのもうやめて布団に入ろう」と誘う。
明日の朝は早いから一番鳥が鳴いたら出かけなくちゃいけないから、と言う亭主なのだが、おかみさんはなかなか布団に入ろうとしない。
明日は早いんだ、一番鳥が鳴いたら出かけるんだ、7日間は帰ってこないんだ、だから「お暇乞い」をしないといけないんだ、と亭主。
気を残しちゃいけないとか生きて帰れないかもしれないと言って、誘っているのだ。

おかみさんが「亀(子ども)がまだ寝てないから」と言うと、「ほんとか?おい、亀」と亭主。すると亀が「あいよ!」。
「早く寝ろよ」と言うと「あいよ!」。
ほらもう寝たよ、と亭主が言うと「まだ寝てないよ」。
「まだ寝てないのか」「あいよ!」

サゲも下ネタで、くだらな~い(笑)。
あとで小満ん師匠が「バレ噺」と言っていたけど、なるほど~。面白かった。


小満ん師匠「一刀成就」
初めて聴く噺。
花魁のお蘭と駆け落ちした刀職人。まだ修業中の身の上だったので、師匠にも顔向けできなくなり親からも勘当され、田舎で鍛冶屋に身を落としている。
酒代も払えないような暮らしに文句を言いながらも惚れた弱みなのか、亭主のために嫌味を言われながら酒を都合してくるお蘭。酒が入って気が大きくなった亭主は「機会があれば刀を作ってみせる」と語る。
そんな話が耳に入ったのか、ある時領主に呼び出され、間に入ってくれた庄屋と出かけていくと、自分のために刀を作ってくれ、と言われる。前金として五十両を渡されて「名誉なこと」と大喜びの庄屋と、一方浮かない顔の亭主。
話を聞いてお蘭が喜ぶと「あの時は酒を飲んで大口を叩いたが、ほんとのことを言うと修業はしていたけれど刀を作ったことはない。大金を積まれたってこんな自分に刀なんか作れるはずがない」と泣き言を言う。
それを聞いたお蘭。「いいじゃないか。どうせあたしたちは駆け落ちした身なんだから、一度逃げるも二度逃げるも同じ。」と言い、酒を買ってきてその晩は二人で飲み床につく。
様子をうかがいに来た庄屋が声をかけると、まだ寝ていた亭主。起きてびっくり。五十両を手にお蘭は家を出てしまっていた。

事情を聞いた庄屋が、自分も間に入った手前があるから五十両は自分が用意する。その金で材料や手伝いを雇って意地でも刀を作り上げろ、と言う。
弱音を吐いていた亭主も、だめでもともとやってみるかと一念発起し、3年かけて刀を作り上げる…。

亭主に惚れているようだったお蘭。きっと刀が出来たという評判を聞いて帰ってくるんじゃないかな、と思って聞いていたんだけど、帰ってこず…。ええええ?そういう噺なのーとちょっとびっくり。

原作は幸田露伴の「一口剣 」という短編だとか。
古本屋で100円で買った本にこの話が載っていて、面白いと思って落語に仕立てたと…。
こんな噺を聴かせてくれるから、お話好きにはたまらないんだよなぁ…。


小満ん師匠「うどんや」
酔っぱらいの酔っぱらい加減がすごく良くてもうなんなのこれはと身悶えしたくなるほどの楽しさ。
みー坊の婚礼の話の繰り返しがくどくなくて、でも酔っぱらいのめんどくささが出ていて、たまらなくおかしい。
うどん屋に「如才ねぇな」と言ったり、突っかかったと思えば謝ったり、その加減がなんともいえず魅力的。

風邪ひきの客も最初からちゃんと風邪ひきらしくて、うどんを食べるところも短めで、いいなぁ。ほどがいいんだよなぁ…。
とても楽しい「うどんや」だった。この噺がこんなに面白いなんて。

ハリー・オーガスト、15回目の人生

 

ハリー・オーガスト、15回目の人生 (角川文庫)

ハリー・オーガスト、15回目の人生 (角川文庫)

 

 ★★★

1919年に生まれたハリー・オーガストは、死んでも誕生時と同じ状況で、記憶を残したまま生まれ変わる体質を持っていた。
彼は3回目の人生でその体質を受け入れ、11回目の人生で自分が世界の終わりをとめなければいけないことを知る。
終焉の原因は、同じ体質を持つ科学者ヴィンセント・ランキス。彼はある野望をもって、記憶の蓄積を利用し、科学技術の進化を加速させていた。
激動の20世紀、時を超えた対決の行方は?
解説・大森望  

ものすごーく期待して読んだけど「リプレイ」ほどのワクワク感はなかった。
おそらく世界の終わりを止めるということにあまり興味を持てなかったからだとおもう。
私が興味があるのは「人間」なんだな。世界の終わりを止めるより、繰り返し人生を送るハリーやヴィンセントがどういう人間でどんな体験をするのか、一度きりの人生を生きる人たちとの交わりがどうなのか、そっちに興味があったなぁ。

きっと夢中になってあっという間に読めると踏んでいたけどそうでもなかった。

末廣亭正月二之席夜の部

1/11(水)、末廣亭正月二之席夜の部に行ってきた。
 
喬太郎「茶代」
・南喬「牛ほめ」
・権太郎「代書屋」
・美登・美智 マジック
・小満ん「馬のす」
・金馬「七草
~仲入り~
・太神楽社中 寿獅子
・小袁治「紀州
・一朝「湯屋番」
・小さん「親子酒」
・正楽 紙切り
小三治 まくら
 
喬太郎師匠「茶代」
「寄席はまだお正月ですけどコンビニはもう恵方巻ですね。
コンビニではもうしょっちゅう恵方巻の予約やってる感じがします。3か月ぐらい。
だいたい恵方巻っていうのはなんなんですかね。
一方を向いて恵方巻をまるのまま何も言わずに食べるって…。
太巻きは切ってくれよ!それでお茶ぐらい飲ませろよ!」

場内大爆笑。
その後も、八千代銀行について熱く語り、これは落語はやらないのかなと思っていると「茶代」。初めて聴いた噺。
商用で江戸へやってきた二人。主人がお供の者に「江戸では六文から八文ぐらいは茶代を出さないといけない。これは八文出してもいいなと思う時と、こいつには六文で十分だんべと思うときがある。主人である私の思いがお前に伝わらないと面白くないからこれからは六文の時はお前のことを六助、八文の時は八助と呼ぶから。それを二人の間の暗号にしよう」と決める。
 
ある茶屋に入って主人が出て行こうとすると店の主が「雨が降って足元が汚れております」とわざわざ拭いてくれる。
これは八文だなと思い、「お代はお供の八助が払いますで」と言って先に出ていく。
それを聞いていたおかみさんが「お供の人は六助だったと思うんですが」というと、「そうか。それで茶代を伝えてるのか」と気づいた店の主。
お供の者に向かって「百助さん」と呼びかける…。
 
落語というより小噺だけど、喬太郎師匠がやるとこんな短い噺でも風景が浮かんできてすぐにその世界に入れる。すごい。
 
南喬師匠「牛ほめ」
いろんな噺をしてくれて、みんながやるような噺でも違ったバージョンで聞かせてくれる南喬師匠が大好きだ。
与太郎さんがにへにへご機嫌でかわいい「牛ほめ」。楽しかった。
 
権太郎師匠「代書屋」
ほんとに「代書屋」ばかりだなぁ…。
笑わないと「小三治の客は他の噺家では笑わない」と思われそうだけど、そうじゃなくていつもいつも同じ噺だからなんですよう。
 
小満ん師匠「馬のす」
出囃子が聞こえると胸がときめく。
酒を飲みながらなかなか馬の尻尾を抜いてどうなるかをしゃべらずに、「この間、髪結い床の親方に聞いたんだけどさ。毛が三本しかないお客が来たんだって。”七三に分けてくれ”って注文されて、仕方ないから何べんも二本と一本に分けてたら、一本抜けちゃってね。親方、謝ったんだけど、えらいね。怒らなかったって、その客。で、”真ん中わけにしてくれ”って言ったっていうじゃないの。」って話すのが、たまらなくおかしい。
すっと出てきてすっと噺に入ってすっと帰る小満ん師匠が素敵だった~。
 
金馬師匠「七草
鏡開きですから今日はめったにやられない噺をやりましょうか。
七草」っていうんですけどこれは今は私ぐらいしかやらないんじゃないかな。難しいから、じゃなくてあまりにばかばかしいから。
でもこういう日じゃないと出きない噺ですからお土産代わりに。
 
昔は鏡開きの日には家の前に新しいまな板を置いて家の主が七草トントン刻んだ。その時に節をつけて歌い、後ろに並んだ家族の者も声をそろえて歌った。
歌の内容は、中国から飛んできた鳥が悪い病を運んでこないように。悪い病を持ってる鳥は途中で落ちてくれ、っていうもの。
今はこういう風習はなくなりましたね。
マンションの玄関をあけて、七草を刻みながら家族で大声でこんな歌を歌ってたら、イカれちゃったかと思われますね。
 
そんなまくらから「七草」。
吉原に七越という花魁がいた。絶世の美女で芸事にも長けている。なのに裏を返す客がない。
おかしいと思って主が調べてみると、七越はつまみ食いをするという悪い癖があってそれが客に嫌われてるらしい。
主が七越を呼んで注意すると「申し訳ありません」と恥ずかしがった七越花魁。
それ以来つまみ食いをやめ、そのとたんお客の指名も増えて、あっという間に人気の花魁に。
 
あるとき、お大臣がたいこ持ちなどを引き連れて遊びに来た。
ちょっとはばかりへ…というと、みんなお供についていってしまい、部屋には七越花魁一人。
ちょうどほうぼうの焼いたのが手つかずでおいてあり、人がいないので悪い癖が出て思わずつまみ食いをした七越。
そこへお大臣たちが戻ってきたので慌てて飲み込むと、小骨がのどに刺さってえらい痛がりよう。
何があったか気づいたお大臣。後ろに回って七越の背中をとんとん叩きながら、鏡開きの時の歌を替え歌で…。
 
確かにだからなんなんだっていうようなとりとめもない噺なんだけど、こういう季節にあった噺を聞けるのってほんとに幸せ。寄席ってすばらしい。
 
太神楽社中 寿獅子
今日の獅子はなんかだるそう。これは勝丸さんじゃないかな、と思っていたらやっぱりそうだった。
いよいよ私も獅子を誰がやってるかわかるまでになってしまった…
 
小袁治師匠「紀州
政治の話を挟みながら「紀州」。面白かったんだけど、マックくん、声が小さいよー。あれじゃ後ろの方の人とか老人は聞こえないんじゃないかなぁ。
 
一朝師匠「湯屋番」
「湯屋番」ってたいていの人がやると「がんばってるね」って感じがしちゃうんだけど、一朝師匠だとただひたすらにばかばかしくて楽しい。
「ばかやろう!」と大きな声で言うだけでこんなに笑える噺家さんは他にはいないよなぁ。
ほんとに素敵。
 
小さん師匠「親子酒」
毎度毎度の「親子酒」だけど…。うーん。
 
正楽師匠 紙切り
連凧」の注文に「連凧…ってなに?連なってる?」と切り始め「連凧とは…気が付かなかったな」とつぶやいたのには大爆笑。しかも出来上がった作品がものすごく素敵っていう。すばらしい。
 
小三治師匠
お正月は必ず寄席に来るというお客様がいらっしゃいます。
毎年お正月は寄席に来てるんだ、のべつ来てるんだ、正月に寄席に来ないと始まらないんだとおっしゃってくださる。
それは大変ありがたいんです。ほんとにありがたい。
でも寄席は毎日やってるんです。1日来てもあとの364日は…。
それじゃ寂しいです。何が言いたいかというと、寂しいからもっと来てね、ってことです。
そうですねぇ。春は春の噺が出ますから、春に一度、夏、秋、冬、それからお正月。
…来てくださいね。
 
小三治師匠ににっこり笑われてそう言われたらもう来ます来ます来ますともー。
って言われなくてももっと行ってる。あほのように。もうやめてくれ、と言われかねないぐらい。ふっ。
 
今日、楽屋に入ってからなんか顔がべたつく感じがして、付いてくれてる女の子(マネージャーさん)に「脂取り紙を出してくれ」って言ったんです。
京都で買った脂取り紙を持ち歩いてるんで。
そうしたら女の子が「師匠の顔にはもう脂はありません。だから脂を取る必要はありません。むしろ塗った方がいいくらいです」って言うんです。
あんまりじゃないですか。嘘でもいいから拭いて「師匠、さっぱりしましたよ!」って言ってくれればいいじゃないですか。
 
…ぶわははは。面白い!でも小三治師匠、めんどくさいー(笑)。
 
年末から正月にかけてBSで美空ひばりの番組をやっていて見て、改めて本当にこの人は歌がうまいなぁと思った、と。
自分が歌謡曲を聞くようになったのは春日八郎の「別れの一本杉」を聞いてからと言って、作曲家の船村徹文化勲章を受章したことに触れ、この人がいかに素晴らしい作曲家かということを話す小三治師匠。
自慢ののどを聞かせつつ、途中で「あ、今日は落語はやりませんよ」と言うと拍手したお客さんがいたんだけど、すると「え?この拍手はどういう意味?落語聞きに来たんじゃないの?」
 
私も基本的には落語が聞きたいと思っているんだけど、小三治師匠ならまくらだけでもうれしい。
というのはまくらって元気な時じゃないとできないんだなぁと何年小三治師匠を見ていて感じているから。
結構その場の思い付きで話をするのって大変で、気力と体力があるときじゃないとできないのだろう。
私が小三治師匠を見始めた時、師匠の体調がかなり悪い時だったらしくて、まくらもほとんどなく噺に入ることが多かったから、こうやって話し出して止まらない師匠を見られるのはとてもうれしい。
小三治師匠のまくらは笑わせようとかウケるからやってるいつものアレとかじゃないし。
 
船村徹について熱く語った小三治師匠だったんだけど、なんとなくこう老いていくこととか、いろんなことを諦めながら一つのことをひたすら頑張ってきたっていうことに対するリスペクトや共感があったように感じた。
楽しかった!
 
 
 

桃月庵白酒独演会 本多劇場編

1/10(火)「桃月庵白酒独演会 本多劇場編」に行ってきた。
今年は白酒師匠の会にもっと行くどーと言ったとたんに独演会に行ってしまう私。
チケットサイト(オークションじゃない)をまめにチェックしていたらこの会のチケットを見つけたので行けてしまったのだ。ひゃっほい。

・はまぐり「手紙無筆」
・白酒「明烏
~仲入り~
・白酒「新版三十石」
・白酒「芝浜」

 

白酒師匠「明烏
本多劇場で落語ができるのはとても名誉だし、なかなかやれるもんじゃない、と白酒師匠。
普通じゃ借りられませんから。それなりの収入、社会的地位、信用ってものがないと。だからねこにゃ(この会の主催者さん)もついに信用されるようになったんですね。
昇太兄貴からも言われたことありますよ。本多劇場はやりやすい、すごくいい会場だ、って。紀伊国屋ホールとは大違いだって。
この頃は、落語をやらないような場所や会場でも落語をやるようになってありがたいです。
この間は私はZEPP東京でやりましたね。ひろーい会場ですよ。そこで落語をね。間に合わせで貼ったなっていういかにも安っぽい紙を高座の後ろに貼ってあってね。案の定時間がたったらはがれてきましたけど。
あと今度あるのが六本木での落語会。「ギロッポン寄席」って…もう名前だけで失敗だな、この企画!っていうのがありありですけどね。

…最初からガンガン毒を吐く白酒師匠。
すらすらすらすら言葉が出てくるからおかしくておかしくて。

あと、正月の鈴本の楽屋で春日部をディスった話などから、「裏原宿」「裏浅草」。
原宿なんかぼったくりの服屋がありますから、と。
絵具こぼしたようなTシャツが5000円。しかも穴が開いてるじゃん?え?USED?なにそれ?
もちろん買いましたけどね。
それを着て大学行ったら、だめですね、落研の連中なんて。「あれ?それ破れてるよ!」「違うよ。これUSEDなんだよ」「いやでもまじで破けてるって」
…こういうオシャレがわからないんだから。

白酒師匠と原宿って…全然想像つかないうえに、そのぼったくりの服屋で5000円のTシャツ買うんだ?!
なんかもうすごくおかしいんですけど。

そんなまくらから「明烏」。
基本的には普通の「明烏」なのだった。どうも白酒師匠だと変な期待をしちゃうから、普通だと「え?ふつう?」って思っちゃう。
でも時次郎が散歩に行って近所の子どもと太鼓を叩いて遊んだあと路地を飛んでいた白い蝶に誘われてふらふらっと迷い込んでしまい、八歳の子どもに家まで連れ帰ってもらったり、源兵衛太助のところにやってくる時に、スローモーションのように手を振りながら走ってきたリ(なんとなくこの走り方で、時次郎=ぽっちゃり、のイメージが)、ところどころひねってある。

茶屋のおばさんが無駄に(!)きちんとしていて丁寧なのがおかしい。
「お巫女頭」と呼ばれたおばさんにまわりから「頭コール」が起きるっていうのもばかばかしくて素敵。
さんざん嫌がっていた時次郎が一晩明けて大人になって、声がダンディになっていたのにも笑った。

白酒師匠「新版三十石」
お正月の寄席はいつも以上にその寄席の色合いがくっきり。
自分は鈴本、浅草、東洋館と出ていたんだけど、それぞれ全く違うお客さんで違う雰囲気だった。
鈴本は前売りなので「鑑賞しよう」という落ち着いたお客さん。「小三治まであと何人?」とプログラムをチェックする奥様も多い。
そういう時はわざとたっぷりやって「小三治は来ませんよ」と言ったりする。
この雰囲気に〇〇師匠なんかはみるみるやさぐれていくんだけど、舞台に上がるときにはきゅっと笑顔になるからさすがですね。
浅草はもういつも以上に浅草!何を言ってもきゃーきゃー喜んでる。こっちがなにやろうが何も聞いてない。持ち時間も短いから適当なところで「冗談言っちゃいけねぇ」で降りる。下手したら「こんちは」「おや、誰かと思えばはっつぁんかい」「冗談言っちゃいけねぇ」。これでも拍手がもらえる。
東洋館は浅草に入れなかったお客さんが仕方なく入って来てる。だから全体的にあきらめモード。それでも小朝師匠なんかが出てると「そこまでは我慢していよう」と思うらしい。だから小朝師匠が終わるとお客さんが帰っていく。でもこういうお客さんが帰った後の雰囲気がなんともいえずいい。

私もこの間、東洋館と鈴本のハシゴをしたから、この雰囲気の違いとってもよくわかる。そうそう!とうれしくなってしまった。

そんなまくらから「新版三十石」。これはこの間鈴本で見て大爆笑したんだけど、いやもうほんとにすごい破壊力。腹筋痛くなるぐらい笑った。
浪曲師が携帯に出るところ、マナーモードなんだよね(笑)。もうこういうところがたまらない。そして出たら「あー今高座中。ビレッジバンガードで待ってろ」って。ぶわははは!


白酒師匠「芝浜」
ネタ出しされていたこの噺。
おかみさんが旦那を起こす起こし方が激しくて最初から大笑い。
旦那が河岸に行きたくなくてグズグズいうんだけど、全然聞かないおかみさん。ああだこうだと言い訳をする旦那に、全然負けずに「行け行け」いうおかみさんがリアルでおかしい。挙句の果てには蹴り出してしまう。
旦那が出かけるとそのまま寝てしまうおかみさん。
財布を拾うシーンはなくて亭主が戸をどんどん叩く音で目が覚める
「お前、起こすのが早かったよ」と言われると「え?そうなの?あーだから眠かったんだ」。
「謝らないのかよ」
「なんで謝らなきゃいけないのよ。起こすのが遅かったら謝るけど早かったから間に合ったでしょ?」
「お前は…謝らないなぁ…」
なんかすごくちゃんと「夫婦」なんだよな。フツウの「芝浜」よりずっと夫婦感が出てる。

お酒飲んでどんちゃん騒ぎして次の朝、前の日以上の激しさで旦那を起こすおかみさん。
「仕事に行っておくれよ」。
財布を拾ったという旦那に「夢だよ」と言い張るおかみさん。
「ええ?だってあんなにはっきりした…そんな夢って」
「そういう夢、見ることもあるだろ?」
「うん。あるんだよな…」
説得されてしまう旦那がなんともいえずかわいい。

そして酒をやめて三か月働けば借金は返せる、でも酒をやめなければ三年かかるというおかみさんに「三か月か。三年は無理だけど三か月ならできるかもしれねぇな。酒をやめればほんとに三か月で返せる?」「返せるよ!」。
それから三年たった大晦日。
「三年前の晦日は大変だったな。借金取りをお前が黙ってにらんで帰して」に大笑い。
「働けばいいんだな。働く方が楽だな。」という言葉にすごい説得力がある。

おかみさんが財布を出して事情を話すと「そうだろ?やっぱりそうだよ。ほんとにあったんだよ。だってはっきりしてたもん」と旦那。
お前さん信じやすいから目を見て三回言えばたいてい信じるから。あの時は二回で信じたし」というおかみさんに、がははと笑う旦那。
おかみさんが謝ると「謝ることないよ。かかあ大明神だよ。お前はえらいよ。謝るところじゃないよここは。お前、謝らなきゃいけないときに謝らないのに、謝るところじゃないところで謝るんだな」

うううう。
ものすごく軽くて明るくてばかばかしいのに、すごくちゃんと夫婦で、最後のセリフもかっこつけてなくて、「てへ!」って感じなのに、なんかじーんときてしまった。

今まで聞いた「芝浜」でピカイチに好きだった。これだから白酒師匠はもう!

小んぶにだっこ

1/9(月)、小んぶにだっこに行って来た。
前々回が小んぶさん急病のため中止、前回他の落語と当たっていたため欠席で、久しぶりの小んぶにだっこ。
はりきりすぎてえらい早い時間に上野広小路に着いてしまい、一時間ほどタリーズで時間をつぶす羽目に。
最近ほんとによく時間を間違えるし見積もりを間違える…。年のせいかのう…しょぼしょぼ。

・小んぶ「寝床」
~仲入り~
・小んぶ「実録桃太郎(?)」
・小んぶ「禁酒番屋


小んぶさん「寝床」
ほとんどの方とはあけましておめでとうございますですね、と小んぶさん。
お正月といえば我々の世界ではお年玉ですね。
前座の頃はうれしかったですよ。いただく方でしたから。
特にテレビに出てるような師匠はね…私も前座の時に国立でしたか、元日に小遊三師匠に挨拶したら「ほい」っていただきましてね。
次の日になったらまた小遊三師匠が私を呼びつけて「お年玉だよ」ってくれるんです。
「あ、師匠、私は昨日いただきました」というと「いいんだよ。そんなの」。
すごく優しい師匠なんですね…。
それで次の日は自分から訪ねていきましてね。「またお前かっ!」って言われたりなんかして。
で、あの頃は、自分も先輩になったらあんな風にあげたいな、と思ったんですけどね…。
そんな気持ちもニツ目5年目ぐらいまででしたね。
これ、いつまで続くのか、と。いくらの赤字なんだ、と。
そういう計算しだしたらダメですね。
ええと…。もうやめましょう、この話は。

ぶわははは。
ちょっと話しかけて、やっぱりこんな話はやめよう!と逡巡する小んぶさんがおかしかったー。

そんなまくらから「寝床」。
そういえば私が初めて小んぶさんを見た時、「寝床」だったんだ。池袋の中華料理屋さんだったっけ。
あの時と比べるとだいぶ進化?していて、爆笑の「寝床」だった。

とにかく旦那が「うぉっほん」と咳ばらいをしたり「あ、あーー。おえーー」とのど慣らしをしたりが激しい。
そして「今日の私は絶好調だ」のつぶやき。

最初の旦那のご機嫌ぶりとテンションの高さが、繁蔵から話を聞くにつれどんどんテンションが下がって行くんだけど、それと同時に小んぶさんのテンションも下がっていったのが面白いような残念なような…。
そういう意味では最初飛ばしすぎになっちゃってたのかもしれない。

お豆腐屋さんが来られない言い訳に、銀杏の薄皮を剥くむずかしさを力説したのはおかしかった。
あれはどうやっても剥くのが難しい。そしてくさい。
でもずっと剥き続けているとそのうち臭さが気にならなくなってきて感じなくなってくる。
で、手を洗って、ふと手を匂って「くさい」と気づく時には2周ぐらいまわっていい思い出になっているって。
いかにも小んぶさんらしい変な理屈で笑った笑った。

言い訳をし続けているうちに繁蔵も投げやりになってきて「よしどんは屋根から落ちて死にました」
それを聞いた旦那も「ああ、そうか」。
スルーかよっ!(笑)

気を悪くして部屋にこもった旦那のところへ番頭がやってきたときに、旦那が「やっときたか。おそい」とつぶやいたのがおかしい。
何度も旦那を説得しようとしてあきらめかける番頭に旦那が「お前はなぜそこで諦める。でしょうけれども、を使えないのか。商売でもなんでもそうだよ。」。
そして「やりませんよ」と言ったあとに、ほらここだよと言わんばかりに目で合図するのがおかしい~。

集められた人たちが「ああ、今年もここまでか」「逃げ切れなかったな」と言いあいながら「でもあきらめちゃいけない。こうやって抵抗し続けていればいずれは革命を起こすことができる」と言ったのもおかしい。

とにかくすさまじくて大爆笑の「寝床」だった。
 
小んぶさん「実録桃太郎(?)」
毎回楽しみな小んぶさんの新作。
セオリーとかそういうの一切無視というか、ほんとに体当たりで作ってきた、っていう新作で、すごく小んぶさんらしくて面白い。
ご本人曰く、前回披露した新作は我ながら会心の作だったらしいのだけれど、今回は最初から「だめですね」と。そういってやり始めるって…シュール!

おとうさんが息子に実録桃太郎を聞かせてやるという話。
おじいさんは山に芝刈りには行かず暇つぶしに出かけ、おばあさんも川に洗濯にはいかず暇つぶしに出かけ、駅のコインロッカーから赤ん坊の泣き声が聞こえてきたので開けてみると中には赤ちゃん。
その子を「コインロッカー太郎」と名付けて育てる。
コインロッカー太郎が大きくなって鬼退治に出かけようとする…というと話を聞かされていた子どもが「お、おに?実録はどうなっちゃた?」。「いやまぁまて。そこはあとで」
きびだんごじゃなくコンビニのレジに並んでいてつい買ってしまったみたらし団子を持って歩いていると犬が声をかけてきて。「そこ…しゃべっちゃう?犬?実録は…?」
確かにこれは傑作ではないな(笑)という新作ではあったけれど、ちょいちょい入る小んぶさんらしい疑問の声がなんか面白かった。

小んぶさん「禁酒番屋
一席目の「寝床」と違って真っ当な「禁酒番屋」。
弾けた小んぶさんもいいけど、きちんとやる小んぶさんもいいな。
酒を飲んで気をよくした番屋の役人が「おお、酒屋、来たか」と嬉しそうな顔をするのが面白い。
小んぶさんの大胆さと繊細さが入り混じった「禁酒番屋」でとてもよかった。

黒門亭 2860回

1/7(土)、黒門亭2860回第二部に行ってきた。
時松さん、きく麿師匠、小満ん師匠を目当てに行ったんだけど、初めて生で見た右女助師匠もとても好みで、ものすごいお得感!寒空の下、長時間並んだ甲斐があったなぁ。

・市若「元犬」
・時松「河豚鍋
・右女助「真田小僧
~仲入り~
・きく麿「歯ンデレラ」
・小満ん「御慶」

時松さん「河豚鍋
時々うっかりネットで検索してお客さんの書いてるブログを読んでしまうことがある。
というのは私たちの仕事って半年ぐらい前に「この日空いてる?」と電話がかかってきて「空いてます」と言うと「じゃよろしくね~」と言われ、そのまま何の連絡もないまま何か月も過ぎることがある。
主催者側はおそらく演者のスケジュールを抑えたら安心してしまうのだろう。
でもそういう場合でもたいていお客様に向けてはチラシを作ったりサイトに情報を載せてたりするので、自分は何時ぐらいにあがるんだろう?どういう内容の会なんだろう?とネットで検索するのである。
すると個人でやってるブログで自分の高座をかなり辛辣に批判してる記事に当たってしまったりして、かなり痛手を受けてしまう。

ひぃ~。そそそうですよね。このネット社会。ご本人が私のようなド素人が好き勝手にパーパー書いてる記事を目にしてしまうこともあるんですよね。
自分としてはこんな極北ブログ誰も見てないさ~と思っているから好き勝手に書いてるわけで、批評のつもりもないしましてや貶めるつもりもないんだけど…き、気を付けよう。
基本的には「好き!」と思ったことだけ書くようにしてるんだけど、時々いらっとすると悪いことを書いてしまうこともあり…。反省。

そんなまくらから「河豚鍋」。お互いに河豚を食べさせようとする攻防がすごく楽しい。お調子者で猫にまでお世辞を言う一八が鍋の中身を執拗に確認しようとするのがおかしい。
そして鍋がほんとにうまそうで…じゅるり…。とても楽しい「河豚鍋」だった。
時松さんの真打披露目、絶対見に行こう。


右女助師匠「真田小僧
東日本大震災以来、すぐに逃げられるように三階より下に住むようにしていた右女助師匠。でも最近マンションの五階に引っ越しをした。同級生には「三階以下に住むって言ってたくせに」と言われたんだけど、これには訳があって。
自分の部屋のベランダのすぐ近くに電柱があるから、そこから降りることができるだろうと踏んだのである。
とはいえ、電柱の掴まるところって金属でできていて、万が一火事になったりすると持つところが熱いんじゃないかということを懸念。どうしたらいいだろうと考えた末、料理用のミトンがいいんじゃないかと思いついた。それでネットで探して注文。それもオレンジ色のミトン。なぜオレンジにしたかといえば、助けに来てくれた消防士さんの服とお揃いの色だから真っ先に助けてくれるんじゃないかと思って。
同窓会の時にそんな話をしたら「ミトンつけて電信柱は降りれられない」と一蹴された。

で、実はこのまくらは「二番煎じ」をやるつもりで用意してきたらしいんだけど、時松さんに「河豚鍋」をやられてしまったから、できなくなってしまった。
しょうがないから「真田小僧」を通しでやります、と。

右女助師匠を生で見るのは初めてだったんだけど、さらっとした語り口がとっても好み。
父親が金坊の話にどんどん前のめりになってきておかみさんが浮気をしたと思い込んで「チクショー」というのもおかしい。
テンポがよくてリズムというか呼吸というか…それがとても心地よくて聞いていて楽しくなってくる。
真打ちになった時にテレビで見たことがあってその時はちょっとシニカルに感じたんだけど、生で見るとそこも含めてとても楽しかった。
もっと見てみたい。


きく麿師匠「歯ンデレラ」
寿伴さんと花巻の仕事に行って、打ち上げで盛り上がって日帰りはやめて泊まっていくことにした。きく麿師匠は帰りの切符を買ってなかったんだけど、寿伴さんは買っていて、だったらその切符を払い戻してついでに二人分の帰りの切符を買ってきて、と使いに出したのだが、いつまでたっても寿伴さんが戻ってこない。
ようやく戻ってきたと思ったら、花巻駅では帰りの切符が買えなかったので新花巻駅まで行ってきた、と。
タクシーで新花巻まで往復したから金額もかなりかかりその費用も俺が払うんだぞ!とキレそうになったら、寿伴さんがタクシー運転手に「苦しいことから逃げたらだめだ」と励まされ、怒られるのを覚悟で死ぬ気で?帰ってきたと言うものだから、ますます腹が立った、と。

それから老人ホームで仕事をしたときのこと。
反応の薄いおじいさんおばあさんにいつも心が折れそうになるんだけど、そんな時に楽屋まで訪ねて来てくれて「面白かったよ」と言ってくれたおじいちゃん。90歳をこえるというのにとても元気。健康の秘訣を聞くと「歯が丈夫なこと」。歯がダメになると食べられなくなって徐々に弱っていってしまう。自分は歯が丈夫だから何でも食べられる、とがばっと入れ歯をはずして見せてくれた…。

そんなまくらから「歯ンデレラ」。
今から仕事に出るというお嫁さんにあれやこれやと指示をされているお姑さん。
おかあさんの料理は塩辛いから気を付けてくれだの、保育園のお迎えも行けだの、お迎えに行った時祖母だと分かると預けられなくなっちゃうから近所のおばあさんだと言えだの、言いたい放題言われて、ぶうぶう文句。
そんな嫁が出て行くと入れ替わりにやってきたのが近所の友だち。
久しぶりに会った彼女がなんか顔が変わったと思ったら「すごくいい入れ歯に変えた」と。いい歯医者さんだから紹介するわと言われて行ってみると、確かに今まで入れてた入れ歯とは大違いでぴったりきてまったく痛くない。
そんな時、その友だちから合コンに誘われて行ってみると、大金持ちのおじいさんと気があっていい感じに。お互いに盛り上がっていたのだがふと気が付くと夕飯の時間。遅れるとまた嫁にいびられる!と慌てて帰るおばあさん。その時口の中から入れ歯が飛び出して…。

もう最初から最後までおかしくて笑い通し。
嫁と姑の攻防がめちゃくちゃおかしい。「スナックヒヤシンス」もそうだけど、きく麿師匠の女の人たちの悪口って妙にリアルなんだけど相当きついことを言ってもなんか哀愁がちょっと漂っていてそこがたまらなく面白い。よく男の人がやる「あーら奥様」的な嘘くささがないんだ。

あと入れ歯をはずしたあとに口がくちゅっとなるしぐさ…。もうもう!あの顔がたまらない。
小満ん師匠の前の出番で何をやるんだろうねーと友だちと楽しみにしていたんだけど、期待以上の破壊力で楽しかった~。

小満ん師匠「御慶」
小満ん師匠の初夢。散歩していると突然の雨。あわててジャンプ傘を開くと、柄だけ残して傘がぴゅーん!と空高く飛んで行ってしまった。あの傘は…イスラエルにでも飛んで行ったんでしょうか。でも謎の物体がイスラエルに落ちた、というニュースはなかったからおそらく無事だったんでしょう。
くーー。かっこいいっ。なんなのこのかっこよさは。

そんなまくらから「御慶」。小満ん師匠の「御慶」は前に関内ホールの会で聞いたことがあったんだけど、お正月に小満ん師匠の「御慶」を聴ける幸せよ…。
富くじがあたって本当にめでたいお正月を迎えることになった八五郎。おかみさんや大家さんとのやりとりも微笑ましいし、古着屋に行って衣装や刀をそろえるところは見ているこちらもうきうきしてくるし、「ぎょけいっ!」と奇声をあげるのも楽しくて、おめでたさのおすそ分けをしてもらった気分。

落語でしか味わえない世界を満喫。
ほんとに大満足の黒門亭だった。

人生の真実

 

 ★★★★★

この子はあたしたちが面倒を見る。よそにはやらないよ――千里眼を持つ女家長マーサの決断により、赤ん坊はヴァイン家の八人の女たちに育てられることになった。フランクと名づけられた男の子は、戦争の残した傷跡から立ち上がろうとする街で、一風変わった一族に囲まれて大きくなってゆく。生と死のさまざまなかたちを見つめる家族の姿を、英国幻想小説界の巨匠が鮮やかに描き上げた、世界幻想文学大賞受賞作。  

千里眼の能力を持ちながらただひたすらに家族の幸せを願う肝っ玉母さんマーサを中心に、個性的で主張が激しい7人の娘たちとその配偶者からなるヴァイン家。姉妹の中で一番イカれているとされているキャシーが、生んだ赤ん坊を譲るために待ち合わせ場所にいるところから物語は始まる。

最初に生んだ子供も同じように他人に譲ったキャシーだったが、もう同じ過ちは犯したくないと待ち合わせ場所から家に帰ってくる。
家族は「お前に育てられるわけがない」と喧々諤々なのだが、母親のマーサの「分担して赤ん坊を育てることにしよう」という一言で、この赤ん坊は他人に譲らずに自分たちで育てていくことに決まる。
フランクと名付けられたこの赤ん坊は、マーサと姉妹たちの家を渡り歩きながら成長していく。

世界幻想文学大賞受賞の作品らしいが、SFでも幻想文学でもなく家族の物語に魔法の要素がちりばめられている。
第二次世界大戦の傷跡が残るコヴェントリーの町で、死や破壊の影に脅かされながらも、一家はマーサを中心にかたく結束し、さまざまな出来事を乗り越えていく。

戦争で破壊されたコヴェントリーが復興し生まれ変わるように、さまざまな出来事で傷ついた心や人間関係も家族で団結して修復させていく。
死さえも味方につけて生きる人たち。

年越しで読んだ本がこれで「当たり」な気分。
とてもよかった。

末廣亭初席夜の部

1/5(木)、末廣亭初席夜の部に行ってきた。


・遊馬「牛ほめ」
・茶楽「紙入れ」
・扇鶴 粋曲
・談幸「かつぎや」
・栄馬「茄子娘」
~仲入り~
・寿獅子
・笑遊「魚根問」&百面相
・ニュースペーパー
・南なん「狸札」
・小文治 小噺
北見伸 マジック
・文治「親子酒」


遊馬師匠「牛ほめ」
遊馬師匠の与太郎さんは声が大きくてにこにこしていてかわいい。
いいなぁと思ったのは、家をほめにおじさんの家に行って「ああ、ここか。立派になったなぁ」って家を見上げるところ。
教えられた通りに褒めるっていうだけじゃなくて、ちゃんと与太郎が家を見て立派になったと感心してるところ、初めて見た。とっても新鮮だった。
大きくて明るい声を生かした牛ほめ、とてもよかった。
あ!牛はほめなかったから「家ほめ」か。


茶楽師匠「紙入れ」
茶楽師匠で「紙入れ」以外のネタを見たことがない。たまには違う噺を見たいな。
と思ったんだけど検索してみたらまだ二回しか見たことがなかったみたい。
二回だけで「紙入れしかやってない」と言い切るのは失礼だな。
そして茶楽師匠の「紙入れ」は無駄にエロい。
無駄にって言い切るのも失礼か。


扇鶴先生 粋曲
いいわぁ…。
この日のお客さんは反応が薄いというか遅いというか…そんな雰囲気だったんだけど、意外にも(!)扇鶴先生の呼吸とは合っていて、さざなみのような笑い(それもいい感じの)が起きていた。
もう好きよ、ほんと。愛おしさしかない。

ちらりと横を見て「終わっていいそうです」って言うの、楽屋から前座さんが「もう終わっていいよ」の合図をしてるのが見えて、ほんとにしてるんだ!と笑ってしまった。

 

談幸師匠「かつぎや」
わーい、談幸師匠!
さん助師匠のは縁起の悪いことばかり言ってて、市馬師匠のは縁起のいいことばかり言う「かつぎや」。どう考えても縁起のいい方が本筋だろうとは思っていたんだけど、私の長年の(といってもたいした長年じゃない。2年位)疑問が解消された「かつぎや」だった。
年始の訪問客の読み合わせをしてる時に奉公人が縁起の悪いことばかり言うんだけど、さん助師匠はここで終わりにしていたのか。
「これはいかん」と番頭が舩屋を呼び入れて、その船屋が縁起のいいことばかりを言うんだけど、市馬師匠がやられていた時には読み合わせの場面がなかったから、縁起のいいこと尽くしで終わっていたんだな。
「かつぎや」なんだから、切るなら明らかに前半だろうに、後半を切るところが、いかにもさん助師匠らしい。(ほめてます?)

談幸師匠は流れるように全編通してやってくれて、しかももううきうきと楽しくなるような高座で素敵だった~。絶対的安定感。


栄馬師匠「茄子娘」
この師匠も「茄子娘」以外見たことがないんだけど、この風貌でこの語り口でいつでも「茄子娘」っていうの、一つのかたちとして完成しているからこれはこれでいいのかもしれない。
茄子娘が一人で寝起きしてると聞いて「危ないよ。宮崎がでたらどうする」っていうのも古い(でも古典的でもない)くすぐり…。


寿獅子
昨日鈴本で見た獅子に比べると動きがかなりもっさりしている獅子
お年寄りの人が入ってるのかなと思っていたら、小助くんだった。わはははは。


笑遊師匠「魚根問」&百面相
笑遊師匠の「魚根問」、オチを言う時のこれからくだらないことを言うぞ~感がたまらなくおかしい。
「するめいか」の隊をなして「進め!いか!」には吹き出したし、「くじら」の名前の訳を言う時に「あーー楽屋にいる南なんにバカにされる!」と言ったのもめちゃくちゃおかしかった。
そしてお正月らしく百面相。恵比須様と花咲かじいさん。かわいかった!


ニュースペーパー いつもの政治家のやつ
無理。

南なん師匠「狸札」
わーい!今年初南なん師匠。
まくらなしでショートバージョンの「狸札」。
なんか狸がとってもかわいい!
あと小僧に化けた狸が最初おかみさんに化けようとしたけど「親方のその面じゃおかみさんが来るわけないし」と言ったのがちょっと気になっちゃったなー。
「札が札をもってきちゃいけねぇ」っていうのなし。
「長短」もそうだけど、南なん師匠って終わり方にとってもこだわってる印象がある。


文治師匠「親子酒」
文治師匠らしい遊びがいっぱい入った「親子酒」。
塩辛の食べ方がとってもリアルだったのと、お酒の飲み方がいい意味で?下品だったな。