りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

立川談幸落語なじみ亭

1/21(土)、連雀亭で行われた「立川談幸落語なじみ亭」に行ってきた。


・幸之進「蔵前駕籠
・談幸「おすわどん」
・談幸「井戸の茶碗
~仲入り~
・談幸「鼠穴」


談幸師匠「おすわどん」
お正月は前座にお年玉を渡さなければならない。
この間も立川流の前座にお年玉をあげたんだけど、受け取った後に前座が「実は師匠私今月いっぱいでやめることになりまして」。
…なぜそれを先に言わない?!わはははは。

その前座に「なんでやめるの?」と聞いたら「噺家が自分には合わないと思ったので」と。
でもね。噺家が合ってる噺家なんていないんですよ、めったに。落語が好きで噺家になってるやつがほとんどで。合ってるわけじゃない。
私もそうです。合ってない。どちらかというとサラリーマンの方が合ってるかもしれない。でも自分は朝早く起きるのが嫌いで長時間働くのが嫌いで…そう考えたとき、選択できる職業の幅がぐっと少なくなって、いたしかたなく噺家になったんです。

ふふふ。確かにその職業に向いてるからやってるっていう人なんてほとんどいなくて、好きだったり他のことができないからただただ続けてるっていう人が多いんだろうな。なんでもそうだよね。
でも続けて行くってほんとに大変なことで。
そして噺家さんの場合は師匠にもよるんだろうな、続けて行けるのかどうかは。自分は続けたくても師匠にクビにされてしまったら続けたくても続けられないもんなぁ…。
そういう世界なんだとは思うけど、師匠によるアタリハズレも明らかにあるようで、ちょっと複雑な気持ちになる。いやこれは立川流の前座さんのことじゃないんだけど…。
でもきっとそういうアタリハズレも含めて噺家という生き方なのかなぁ。

噺に入って、あれ、これは聞いたことがない噺。いや、一度ぐらいはあったかも。なんだっけ。

正妻のおあきさんがとてもよくできた人で旦那の妾おすわを家に入れてやり妹のようにかわいがってやる。
しかしおすわは何かそれが気に入らなくて、おあきが自分をいじめているようなことを旦那に告げ口。旦那もそれを真に受けておあきに冷たく当たったりしていると、それを苦にしておあきが井戸に身を投げてしまう。
店の者は全員がおあきの味方だったのでたいそう嘆くのだが、旦那とおすわはこれ幸いと49日が過ぎると夫婦になる。
しかしそのうち毎晩丑三つ時になるとおもてで「おすわどーん」と呼ぶ声と、ぱたぱたぱたっと叩くような音がするようになる。
身に覚えがあるおすわは、おあきが祟って出てきたと言って患ってしまう。
心配した旦那が近所に住む腕に覚えがある浪人を家に呼び込んで化物の正体をあかしてもらおうとすると…。

 談幸師匠はいろんな噺をしてくれるからそこがまたたまらない魅力。
決まった噺しかしない噺家さんもいてそういう方には考え(一つの芸を追及…?親子酒で?)とか事情(覚えられない、自信がない、席亭からいつものアレを期待されて顔付けされている)があるのかもしれないけど、私はいろんな珍しい噺をしてくれる噺家さんが好きだなぁ。

談幸師匠によるとこの噺は歌丸師匠がよくやられていて、あとは先代の圓楽師匠がよく寄席でかけていたらしい。
談志師匠が圓楽師匠に「よくこんな面白くない噺をやるね」と言ったら、圓楽師匠がこの噺はサゲがすぱっときれるから降りやすいんだと言った、と。
なるほどー。たしかに。

普段何も考えずに聞いているけど、確かにそういう「お、みごと」っていう後味を残すときがあって、それってサゲの決まり具合によるところもあるんだな、と初めて気づいた。


談幸師匠「井戸の茶碗
最近結構いろんな師匠の「井戸の茶碗」を聞いているので、つい聴き比べ。
談幸師匠の清兵衛さんは茶目っ気があってチャーミング。
千代田氏が五十両を断る時に「売った品物に傷があったと言われたら、それはもう売ったものだから…といって受けないのに、金が出たと言われてその金を受け取るのは道理に合わない」。

おお、なるほど。そういう理屈か。
さらに「施しはうけない」ときっぱり。
そうだよな。生活に困窮してるからこそのプライドなんだよな、そこが。それがなかなかこちらに伝わってこないんだよな、いろんな人の井戸の茶碗を聞いてるけど。

井戸の茶碗のお金を折半して百五十両を受け取ってくれと千代田氏を訪ねた清兵衛さんが「今度も何か品物を出してなさいよ。楊枝かなんかを。楊枝ならいくらなんでも井戸の楊枝ってことはないでしょ」と言ったのがおかしかった。

明るくて楽しい「井戸の茶碗」だった。


談幸師匠「鼠穴」
わかっていても火事になってお兄さんにお金を借りに行って断られて困り果てて娘を吉原に売るシーンでいつも泣いてしまう。ううう。ひどいよう…。お兄さん…。
うなされている弟を起こした兄が夢の話を聞いて「え?俺、悪役?」と言ったのが面白かった。

何度見てもこの噺、お兄さんがどっちなのか分からないんだよなぁ。まぁ人間なんてわからないものだから。それをさらっと描いている落語ってやっぱり面白いなぁと思うのだった。