りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

名もなき人たちのテーブル

名もなき人たちのテーブル

名もなき人たちのテーブル

★★★★★

11歳の少年の、故国からイギリスへの3週間の船旅。それは彼らの人生を、大きく変えるものだった。仲間たちや個性豊かな同船客との交わり、従姉への淡い恋心、そして波瀾に満ちた航海の終わりを不穏に彩る謎の事件。映画『イングリッシュ・ペイシェント』原作作家が描き出す、せつなくも美しい冒険譚。

素晴らしかった。21日間の船旅。そこで育まれた友情、淡い恋心、そして一風変わった大人たちとのふれあい。11歳の少年の目を通して語られるのはワクワクする冒険の日々。

原題は「THE CAT'S TABLE」。最も船長のテーブルから遠く離されたテーブル。つまりは重要でない人々が座る下席だ。
落ちぶれたピアニスト、鳩を胸のポケットに連れている女性、植物学者、仕立て屋…。お金持ちじゃなくて一癖あるけど魅力的な大人たち。
そして同じ学校に通いながら交わることがなかった二人の少年。物静かなラマディンと怖いもの知らずのカシウス。徐々に距離を縮めた3人はかけがえのない友情を育んでいく。

さまざまなエピソードが少年の目を通して語られるので、全てのことが明らかにされるわけではなく、謎は謎のまま…なのだが、そこがとてもいい。
1つ1つのエピソードは短くてあっさりしているのだが、「おとな」の人たちがそれぞれに事情を抱え、旅の間に浮かれたり沈んだりしていくのが非常にリアルで、「おとな 側」にいる身としては身につまされる。

みずみずしさにうっとりしながら読んでいると、彼らを凍りつかせるような事件が起きる。
それは彼らの心に傷を残し彼らはみな大人になる前に大人にされてしまったのである。 その事件があったからこそ、あれだけ心を通わせた船上の人達と交流をとることもなかった日々。
物語は過去と今を行ったり来たりしながら、事件の真相に迫るための長いこと封印してきた記憶の蓋をあける…。

人間の脆さを描きながらも静かな暖かさに満ちた作品。素晴らしかった。 実はオンダーチェは以前「イギリス人の患者」を読んで挫折したことがあって苦手意識があったのだが、いやぁ…これは読んでよかった!ほかの作品にもまた挑戦してみようと思った。