カレーソーセージをめぐるレーナの物語
カレーソーセージをめぐるレーナの物語 (Modern & Classic)
- 作者: ウーヴェ・ティム,浅井晶子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2005/06/10
- メディア: 単行本
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え?と思うようなタイトルだけど、これは本当に素晴らしい小説だったよ。こんな素晴らしい小説に出会えたなんて本当にネットに感謝だ‥。これは私の大好きな翻訳本サイトで紹介されていた本なんだ。
カレーソーセージはベルリン、ハンブルクなどでは屋台で売っている庶民の味の代表らしい。
これをハンブルクの女性が発見した食べ物だと信じる「僕」が、発見のいきさつを聞くために、80歳を越して老人ホームに暮らすレーナ・ブリュッカーを訪ねる。これはレーナが「僕」に語った物語なのだ。
時は1945年、遊び人の夫に去られ息子も兵役にとられ、自分の若さが日々失われていくことをひしひしと感じながら淡々と日々を暮らしていたレーナ。当時40歳だったレーナが、ひょんなことから20代の脱走兵ブレーマーをかくまう。
密告に怯えながらもブレーマーと暮らす中で女としての輝きを取り戻したレーナは、ドイツの敗戦で戦争が終わったということを、どうしてもブレーマーに告げることができない。なぜなら戦争が終われば、彼が奥さんと子どものもとに帰っていくことがわかっているからだ。
戦争が終わったことを告げられないレーナの気持ち。痛いほどわかる‥。
不思議なことに、彼女を苦しめたのは彼が出ていったことではなく、なぜ降伏のことを黙っていたのかを、彼ともう話し合うことができないということだった。
(中略)
これは私にしか語れない話だ、と彼女は思った。
その物語には英雄はいない。
彼女がブレーマーと暮らすなかで、女としての最後の輝きを取り戻し、それが失われていくことをまたきちんと受け止め、たくましく生きていく姿に、涙涙‥。悲しい物語なんだけど、レーナのしたたかさとたくましさが際立っているおかげで、読み終わった後すがすがしい気持ちになれる。
どんな逆境にあってもこんな風に生きたいなぁ。美しくたくましくしたたかに。