りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

黄昏の彼女たち

★★★★★

1922年、ロンドン近郊。戦争とその後の混乱で兄弟と父を喪い、広い屋敷に母とふたりで暮らすフランシスは生計のため下宿人を置くことにする。募集に応じたのはレナードとリリアンのバーバー夫妻だった。ふとしたきっかけから、フランシスは自分よりも年下のリリアンとの交流を深めていくのだが…。心理の綾を丹念に描いて読む者を陶酔させる、ウォーターズの最新傑作ミステリ。

第一次対戦の後のロンドン。兄弟と父を失い、広い屋敷に母と二人で暮らすフランシス。 上流社会での暮らしが長かった母のプライドを気にしながらも、現実と向き合わなければならないフランシスは生計のために下宿人を置くことにする。
レナードとリリアンという若夫婦が下宿人として二階に住むようになり、彼らとの生活にピリピリと神経を張りつめながらも、フランシスはいつしかリリアンに惹かれていく。

その時代独特の空気と普遍的な人間の感情が克明に描かれている。
恋に落ちたと気が付くまでの心のざわめき、心が通じ合う時の高揚、破滅へ向かっているとわかりながらも止められない感情。
上巻ではフランシスの暗い過去や閉じ込められているように暮らしている現在と、彼女の心の動きが丁寧に描かれる。
誰にも内緒の関係がいつばれてしまうのか、だめになってしまうのか。物語が間違いなく悲劇へ進んでいくのだろうという予感とともに、はらはらしながらよみすすめる。

下巻では事件が起きて、その均衡が破られる。
事件が起きて離れ離れになってしまった二人の不安と不信。フランシスの微妙な心の揺れがとてもリアルで読んでいて苦しい。
もういっそ…という気持ちにもなるのだが、このラスト。こうきたか。うーん。やられた。

人間そのものが謎であるということをつくづく思い知らされる。
サラ・ウォーターズはやっぱりすごい。これからも読まなければ。