りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

アルグン川の右岸

アルグン川の右岸 (エクス・リブリス)

アルグン川の右岸 (エクス・リブリス)

★★★★

エヴェンキ族最後の酋長の妻、90歳の「私」は、仲間が定住地に移住していくのを見ながら、森の中で最後までトナカイと一緒に残ることを決意して、これまでの人生を語り始める。もともと民族はバイカル湖周辺に住んでいたが、ロシア軍が侵攻してきたため、アルグン川の右岸に渡る。そこは当時、清国だったが、やがて中華民国となる。そして日本軍の対ソ連前線基地となり、男たちは軍事訓練を受けるが、日本軍は敗退していく。やがて中華人民共和国内モンゴル自治区に変わり、社会主義体制のもと、政府は医療の改善と教育の充実、また動物保護を名目にして定住生活を推し進める。だが彼らのトナカイとの共存共栄の生活が理解されず、狩猟民としての生活が破壊されていく。都市での定住生活に適合もできず、将来を見出せない狩猟エヴェンキ族。民族は徐々に衰亡し、やがて絶滅してしまうのではないか、と危惧する…。

物語の舞台は中国最北端の村。アルグン川を渡ればそこはロシア領。日本がかつて「満州」と呼んで侵略した地でもある。
アルグン川一帯で狩猟と遊牧を行って暮らしていた少数民族エヴェンキ族。その最後の酋長の妻90歳の「私」が語る一族の衰退と自分の人生。
トナカイを追って部族ごとに移動しシーレンジュ(テント)で暮らす人びと。山の掟を守り自然と共存し暮らす彼らだが、戦争や国の政策によって蹂躙されやがては山を降りなければならなくなる…。

氏族は常に一緒に暮らしているため、嫉妬や遺恨も渦巻き、彼らの暮らしは決して「きれいごと」だけではない。
傷つけ合ったり争いがあったり揉め事があったりそれが悲劇を生み出したりもする。
しかしそんな彼らの暮らしにずかずかと踏み込んできて何もかもをぶち壊しにするのが戦争、侵略だ。
日本軍の登場には身の毛がよだつような嫌悪感を感じた。残酷な日本人の描写が今の政権と重なって見えて鳥肌が立った。

リアルな出来事とシャーマンや呪いといったファンタジックな出来事が融合して、物語としては非常に面白いのだが、弱っている時に読んじゃいけない本だった。死があまりにも多く訪れることに、読んでいて鬱に…。
他人を助け我が子を失い、守り続けてきた山を失う。
自然に逆らわずに生きることを正としながらもこれだけの死に見舞われることを思うと、私たちを待つ未来が明るいとは思えない。