りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

立川左談次のひとりでやる会vol.12

2/9(木)、日暮里サニーホールで行われた「立川左談次のひとりでやる会vol.12」に行ってきた。
行きたい行きたいと思いながら他の会と重なったりでなかなか行けなかったこの会。
この間浅草演芸ホールの帰りに友だちの行きつけのお店に行った時意気投合した女性がいて、酔った勢いもあって左談次師匠の素敵さを二人で熱く語り「じゃ私も行こうかな」ということになり会場で再会。わーいわーい。
そのせいなのか(んなわけない)、この日は何日か前に売り切れになっていた。


・左談次 御挨拶
・志ら門「子ほめ」
・談吉「天災」
・左談次「ガン病棟の人々」
~仲入り~
・左談次「厩火事

 

左談次師匠 御挨拶普段着姿の左談次師匠が出てきて御挨拶。普段はこういうことはあまりしないんですがと言いながら、弟子の左平次師匠が欠席されることと、今日の会の構成など。

ありのままでかっこつけなくてももう何から何まで素敵なんだ。


志ら門さん「子ほめ」
あらハンサム。
時々落語の中のくまさんの反応がおもしろい。


談吉さん「天災」
この日、兄弟子の左平次師匠が風邪で欠席。「まさかと思いました。だって…師匠は癌で出てるんですよ」には大笑い。

ザ・クロマニヨンズが大好きなんだけど、それは自分の中ではメインサイドではなくダークサイド。
普段の自分からするとライブで前の方に行くっていうのはないんだけど、せっかく好きなんだしまだ若いんだしと思い、この間のライブでは前方へ行ってみた。
そうしたら…みなさんの前ですけどあれですね…。前の方っていうのは違うんですね。もう純粋に音楽を楽しむというんじゃなくて…祭りですかね、祭り。もうぎゅうぎゅうぎゅうぎゅう押し合って、こう…始まる前にすでにこれはだめだと思いまして後ろへ下がりだしたんですけど下がりきれず…音楽を楽しみたくても腕も挙げられないから胸の前でこう…自分を守るようにして…。
ああ、自分の大好きな人たちがこんなに近くにいるのに、絶対友だちになれない人たちにこんな風に囲まれてって思いまして。
これからはもう後ろの方で見ることにしようと思いました。
そんなまくらから「天災」。

いやもうこれがすごい破壊力。すっごく面白い。
表情も強烈だけど、なんだろろ、時々独自な崩し方をするんだけどそれが結構冷静で、そこが左談次師匠っぽくもあって、とってもチャーミング。
私、この噺大好きなんだけど、若い人でこれをこんな風に面白くできるってすごいんじゃないだろうか。
ああ、今年はもっと談吉さんにも行きたい。

左談次師匠「癌病棟のひとたち」
これで入退院も4回目で、自分でもだいたい予測がつくようになってきた。
抗がん剤治療っていうのは副作用が酷いんだけど、それもだいたいペースがつかめるようになってきたので、退院して何日ぐらいたてばまあまあ元気になってるなっていうのがわかる。それでそのタイミングでこうやって会をしたりしている。

入院していると面白いことがたくさんあって。
噺家が結構お見舞に来てくれるんだけど、やっぱりおかしいね噺家っていうのは。普通じゃないんだよ。どう見ても。別に着物着てくるわけじゃなくて、普通の格好してるんだよ。ずぼんはいて上着着て。なのに普通じゃない。
まず笑いながら入ってくる。こんなふうに。と言って腰を屈めてひょいっとにこにこ顔をのぞかせるのがたまらない。
志の輔が来てくれたんだけどね。やっぱり売れてるやつは違うね。足音をさせずに来るんだよね。気配を消して。
それからキウィが来てくれたけど。俺は食道癌なんだよ。わかりそうなもんじゃない。食べ物はだめなんだな、って。それがよりにもよって固い食べ物を見舞いに持ってきた。
あと談吉ね。弟子だから俺のことわかってくれてるよね。「師匠、なんか本を持って行きましょうか」ときた。わかってるね。「外国のミステリーとかどうですか」って言うから、軽く読めてそれはいいな、と思ってたらね。
ジェフリーアーチャー持ってきた。ジェフリーアーチャーかよ。微妙だなぁ。失敗作もないけどものすごく面白くもないっていう…打率で言ったら2割ちょいのバッター。
しかも持ってきた本が下巻!なんで下巻からなんだよ。俺は上巻から読みたいよ!

それから同室の人たちのことやなんかをつらつらと。
あとこれからみなさんが癌になったひとを見舞いに行くことがあるかもしれないけど、参考になれば…。見舞いに来て言っちゃいけない台詞。「思ったより元気そうじゃない」。これはだめ。元気じゃないから入院してんだよ!

すべてを笑いにしてしまう強さとしなやかさ。なんて言ったら師匠におえーーってかゆいかゆいポーズをされそうだけど、ほんとに面白くってかっこよかった。

左談次師匠「厩火事
40年前に一度やったっきりでその時まったくうけなかったことの傷が癒えなくてやってなかったという左談次師匠。
ほぼネタおろしに近くて体力的にもちょっときつそうで「いい客だったら、もう無理しなくてもいいよと言ってくれる」と愚痴りながら…。

大家さんが「あたしはあいつが嫌いだ」とはっきり言うのも、おさきさんが微妙な女心をのぞかせるのも、そして亭主が遊び人ぽくもあり優しさもありそうなのも、左談次師匠にぴったりでとっても素敵。
「もう一生やらない」とおっしゃってたけど、すごく合ってると思うなぁ。
終わってから「あぶないところが二か所あった」とおっしゃってたけど、そんなこと全然問題にならない、とってもチャーミングな「厩火事」だった。

堆塵館 (アイアマンガー三部作1)

 

堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)

堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)

 

 ★★★★★

19世紀後半、ロンドンの外れの巨大なごみ捨て場。幾重にも重なる屑山の中心に「堆塵館」という巨大な屋敷があり、ごみから財を築いたアイアマンガー一族が住んでいた。一族の者は、生まれると必ず「誕生の品」を与えられ、一生涯肌身離さず持っていなければならない。15歳のクロッドは、聞こえるはずのない物の声を聞くことができる変わった少年だった。ある夜彼は屋敷の外から来た召使いの少女と出会う。それが一族の運命を大きく変えることに…。『望楼館追想』から13年、作者が満を持して贈る超大作。 

ロンドンの外れの巨大なゴミ捨て場の中心にある「堆塵館」という巨大な屋敷。
そこにはアイアマンガー一族が住んでいて巨大な富を築いていた。
アイアマンガー一族は生まれた時に必ず「誕生の品」を与えられ、それを肌身離さず身に着けなければならない。
15歳の少年クロッドは「物」の声が聞こえてしまうという特別な才能があった。そのため叔父が失くした誕生の品を見つけてあげたこともあるのだが、その才能を疑われて一族の者から疎まれ、彼自身もタミスという従弟以外には友だちもなく、いじめっこのモーアカスにひどい目に遭わされることを逃れるだけの日々を送っている。

一方街に暮らす貧しい人々の中で、突然「物」に変わってしまうという病気が流行り、ホテルで働く両親とともに幸せに暮らしていたルーシーも、ある日両親がこの奇病にかかり孤児になってしまう。
孤児たちは一生ゴミの山で暮らさなければならずそこから逃げる術はない。途方に暮れているとある日堆塵館から使いの者がやってきて、ルーシーはアイアマンガーの血が入っているため、召使として堆塵館で働くことができるという。
憧れの堆塵館に入ることができると聞いて喜ぶルーシーだったのだが、足を踏み入れたその屋敷はとても強烈な場所だった。
名前を奪われヘンテコな食べ物で無力化されそうになりながらも、持ち前の好奇心で屋敷をうろうろしていて、彼女が出会ったのがクロッド。
アイアマンガー一族と召使が接触することは許されないのだが二人は仲良くなり、それがこの一族の運命を変えることになる…。


読む前からきっと面白いに違いないと思っていたけれど、読んでみると想像を超える面白さ!
「誕生の品」がないと生命の危機を迎えてしまうアイアマンガー一族と、結集することで彼らに対抗しようとする元人間という図式は、「物」にこだわるケアリーの真骨頂ともいえる。
それよりもなによりも一族の中で特別な才能を持ちながらもとても「人間的」なクロッドと、反骨心に富んだルーシーの魅力的なこと。
読んでいて、このわくわくはなんだろう、何かと雰囲気がにている…と思っていたんだけど、解説を読んで「そうだ!」と思った。ディケンズの物語みたいなんだ!「オリバーツイスト」を初めて読んだ時のわくわく感。

ケアリーの作り出した奇妙な世界に入り込み、そのヘンテコなルールに飲み込まれる幸せ。
あーだから私はフィクションが好きなんだ!だってここには冒険が、ワクワクが、めくるめく世界があるんだもの。

「望楼館追想」も「アルヴァとイルヴァ」も大好きだったけど、この作品は少年少女に向けて書かれていることもあって、内省的ではなくて外に向かって開いている印象。

三部作ってことはまだここが1/3地点!二作目の出版が待ち遠しい。

第428回若手研精会

2/6(月)、第428回若手研精会に行ってきた。
夢吉さんが真打になってからすっかりご無沙汰だった若手研精会。この日は小はぜさんがトリをとるというので張りきって私にしたら早めに行ったのだが、会場はすでにかなり大勢の人が詰めかけていてびっくり。若手研精会ってすごく人気があるんだな。
 
・小多け「たらちね」
・正太郎「雛鍔
・志ん吉「 幇間腹
・わん丈「妾馬」
~仲入り~
・昇々「浮世床(夢)」
・小はぜ「提灯屋」
 
小多けさん「たらちね」
ちょっと陰気だけど素直な落語。すごく大きくていい声なので大きな会場に映える。
よく笑うお客さんでどんどんリズムが良くなっていく感じ。
 
志ん吉さん「幇間腹
一八がなよっとしているのが魅力的なんだけど、若旦那もなよっとしていて一八もなよっとしているから若干単調な感じかなぁ。
でも志ん吉さんの落語、好き。ぱきぱきしてて楽しい。
 
わん丈さん「妾馬」
お殿様は駕籠の中から「予はあの娘を好むぞ」と言っただけであとは家来がどうにかしてくれた。
噺家っていうのも殿さまと似たようなところがありますから。もし私が円丈と車に乗っていて円丈が「予はあの娘を好むぞ」と私に言って来たら弟子としたらあれですね…逆らえませんからね…”何言ってるんっすか、師匠!”って言って終わりですね」には笑った。
 
わん丈さんの「妾馬」は現代版「妾馬」っていう感じで、軽いところはいいんだけど、ちょっと泣かせるところになるとなんか芝居っぽくなっちゃうっていうか…花緑師匠っぽくなっちゃうんだな…。ちょっと私には無理だった。
 
昇々さん「浮世床(夢)」
新作の時は気にならないんだけど、古典だとあのサイボーグっぽい動きとヘンテコな口調が気になってしまう。
結構崩してたけど、むしろ思い切り崩した方がいいような気がする
 
小はぜさん「提灯屋」
初めてのトリをつとめる小はぜさん。見るからに緊張していてドキドキする~。
ニツ目になってこうして羽織を着られるようになりました、と小はぜさん。
何が嬉しいってお正月に紋付羽織を着て師匠のお宅に伺うことができたこと。
この紋というのも…私は小三治の紋を付けているんですが。これは師匠に相談して、師匠の紋になるのかなと思っていたら、小三治門だから小三治のつけてる紋にしなさい、と師匠から言われまして
自分で鏡を見た時にはっとするんですね。小三治と同じ紋だ!って
嬉しいようなプレッシャーなような重い十字架を背負ったような。
 
この紋というのも結構いろいろでして。
先代の小さんのお弟子さんたちはみな小さんの紋じゃなくて自分で変えてます。
師匠に聞いたら二ツ目の時は一門の紋にしたほうがいいけど真打になったら好きな紋にしていいよ、と。
だから紋辞典のようなものを買って「これがいいかな」「こっちもいいな」なんて…まだ付けるわけでもないのに見てるとうきうきします。
 
そんなまくらから「提灯屋」。
おおお、紋のまくらはこの「提灯屋」のためのものだったのか!
寄席でもめったにかからないし、私ももしかすると小三治師匠のCDでしか聴いたことがないかも。
トリで「提灯屋」って…小はぜさん渋いっ!
 
若い衆が集まってちんどん屋からもらったチラシを回し見。
字が読めるものが一人もいないので、これはどういう店ができたのか、うなぎ屋じゃないか蕎麦屋じゃないか洋食屋か。みんな好き勝手言っている。
いかにも読めそうなそぶりを見せながらも読めなかったり、聞かれもしないのに印刷についての蘊蓄を語ったり。
通りがかったご隠居にチラシを見せると、ご隠居も印刷についての蘊蓄を語りだすので「もしや隠居も字が読めないのでは」とざわつく若い衆がかわいい。
 
提灯屋に行って謎かけみたいな紋の説明をしては次々提灯をただでもらってきてしまう若い衆。
すっかり参ってしまった提灯屋が、儲けさせてやろうと行ったご隠居を「元締め」と決めてかかり、普通に注文した紋に悩みまくる様子がおかしい。
 
弾むようなリズムで聞いていて楽しい。あーやっぱり私は小はぜさんの素直な落語が好きだなぁ。
前座時代、一切まくらをふらなかった小はぜさん。落語も基本に忠実な、くすぐりなんかも入れない落語で、だけど全然「足りない」感じがなくて、噺だけで笑えてそこが好きだった。
そして小はぜさんってすごく端正できれいなんだけど素朴なあたたかみがあって、そこがじんわり落語ににじみ出ていて魅力になってる。
 二ツ目になってこれからきっとどんどん噺を増やしていって、また自分のカラーも徐々に出していくんだろうなぁ。
ほんとにこれから先が楽しみだ~。
 
 
 
 
 

第2回桂夏丸独演会「夏丸谷中慕情」

2/4(土)、カフェChi_zu2号店で行われた第2回桂夏丸独演会「夏丸谷中慕情」に行ってきた。

夏丸「質屋庫」
~仲入り~
夏丸「増位山物語」


夏丸さん「質屋庫」
淡々とした語りなのに飛び道具的にぱっと表情が変わったり変なポーズをとるのがもうおかしくておかしくて。
質屋の主人に「お前が蔵に入れ」と言われた番頭が、びっくりしてあらよっというようなポーズを取ったところでもう会場は大爆笑。
くまさんがお店からいろんなものをくすねていることを次々告白してしまったり、彫り物を江戸っ子口調で自慢したり、蔵に入れと言われてとたんにがたがた震えだしたり、ころころ変わる表情がとてもチャーミング。

後半とかちょっと展開が強引だったりして難しい噺だと思うんだけど、それがまったく不自然と感じさせない。
楽しかった。

 

夏丸さん「増位山物語」
真打が射程距離に入ってきた夏丸さん。
真打披露目には何回も行っているけど、パーティとか後ろ幕のプレゼントとかしたことのない私にはなかなか新鮮な話でしたわ…。
私もお金貯めますけどみなさんもこれから1年間こつこつお金貯めておいてね、はリアルな言葉…。

そんなまくらから「増位山物語」。
お相撲のあれやこれやや、途中で歌も入って、夏丸さんの十八番なのかな。
夏丸さんのコアなファンの方は歌のところでうちわ&ペンライトを振っていた(笑)。

落語の後は尻っぱしょりをして四股を踏んで見せるというサービスぶり。すばらしい!

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池袋演芸場2月上席昼の部

2/4(土)、池袋演芸場2月上席昼の部に行ってきた。


・たま平「牛ほめ」
・ひろ木「読書の時間」
・金朝「狸の鯉」
ロケット団 漫才
・小せん「野ざらし」
・百栄 漫談
・ぺー 漫談
・菊春「親子酒」
・金時「宮戸川(上)」
・正楽 紙切り
・志ん輔「紙入れ」
~仲入り~
・金也「普段の袴」
・歌司「長短」
・小円歌 三味線漫談
・金馬「藪入り」 

たま平さん「牛ほめ」
うまいんだけどちょっといろいろやろうとしすぎな気がする。せっかくの噺の面白さが薄れちゃうし、今は前座なんだから素直に落語をやったほうがいいのでは。
ってあたしもうるさいじじいみたいになってきた。

小せん師匠「野ざらし」
小三治師匠の「野ざらし」が好きすぎて、誰のを見ても満足できないんだけど、小せん師匠の「野ざらし」よかった。すごく伸びやかで楽しい。
糸を伸ばしたり竿を放つしぐさがとてもきれいで見てきて気持ちよかった。


百栄師匠 漫談
何度か聞いたことがある「いつもの」漫談なんだけど、楽しいなぁ。
最後におしゃべりな奥さんと寡黙な旦那さんがスピード違反で捕まる小噺をやったんだけど、これも何回か見ているけど、最高に面白い。
漫談家」を名乗る人の漫談は面白かったためしがないのに…。


歌司師匠「長短」
おお、脚が治ったんだ。よかった。
すごく楽しかった!長さんも短さんも全然無理がなくて歌司師匠そのもの、みたいな感じでとっても自然。
長さんがにや~っと笑うのがとてもかわいかった。


小円歌先生 三味線漫談
もうほんとにぱきっときれいで明るくて楽しい。ぱーっと舞台が華やかになって会場全体もあたたまる。最高の膝代わりだよなぁ…。


金馬師匠「藪入り」
私が小さいときは大学に行く人などいなかった。町内で何名か高校まで行く人はいたけれど、大学に行ってる人は一人も知らない。
学校に行かないでどうしたかといったら奉公に行った。
自分も小学校を卒業してすぐ先代のところへ弟子入りした。本当は中学に行きたかったけど中学の方で私をいらないというものだから仕方なかった。
よく、そんなに小さいうちから奉公してかわいそうと言う人がいるけどそんなことはない。
ご飯を食べて「まずい」と言うのは、「うまい」を知っている人。「うまい」を知らなければ「まずい」ということ自体がわからない。
それと同じで、修業がつらかったとしても、子どものうちはそれ以外を知らないから「こういうものだ」と思って受け入れることができる。
だから小さいうちに奉公に行くのがかわいそうということはない。

とはいうものの、やはりまだ子供だから両親と離れなければならないのはつらい。
昔はまったくお休みがもらえなかった。
それも3年ぐらいは「里心がつくから」と言って家に帰らせてもらえなかった。
だから初めての藪入りは親も子もそれはもう楽しみにしていたもので。

そんなまくらからの「藪入り」。
亀が帰ってきたらあれを食わせてやろう、これを食わせてやろう、あそこに連れて行こう、ここに連れて行こう…妄想が止まらないくまさん。何度もおかみさんに「今何時だ?」と聞く。
5時になったと聞いて表に駆け出して行って掃除をしていて近所の人に声をかけられると、喧嘩を売ってるような受け答え。亀ちゃんが帰ってくるのが楽しみすぎてそんなふうになってしまっているのが自然に伝わってくる。

ようやく帰ってきた亀ちゃんが大人びた挨拶をすると顔をあげることもできず顔を見ることもできないくまさん。
具合が悪くなった時に亀ちゃんからの手紙をもらってすっかり具合がよくなったこと。それ以来風邪を引くと薬代わりに手紙を取り出していること。
子どものようなくまさんの親心にじーんときて泣いてしまった。

財布に入っていたお金のことで誤解をして短気を起こして亀ちゃんが泣きながら訴えるところも、すごくさっぱりしていて子どもらしくて…それを聞いてけろっと気持ちがかわるくまさんがまたよくて…。

すごく自然でぽかぽかあたたかい「藪入り」だった。金馬師匠、ほんとに素敵。

末廣亭2月上席夜の部

2/3(金)、末廣亭2月上席夜の部に行ってきた。

この日は節分だったのでお客さんが大勢。特に前方は手拭いを取ってやるぜ!と気合の入った人たちでいっぱいだった。


・一九「厄払い」
・小菊 粋曲
・半蔵「代書屋」
・小里ん「粗忽長屋
・豆まきタイム(手拭いなげ)
~仲入り~
・きく麿「おもち」
・ニックス 漫才
・扇好「真田小僧
・ひな太郎「幇間腹
・ペペ桜井 ギター漫談
・小袁治「笠碁」


一九師匠「厄払い」
おお。節分の噺!うれしい!
通う身からすると、こういう季節の噺を聴けるのってすごい幸せ。


小里ん師匠「粗忽長屋
よどみなく粗忽なのがおかしい。自信満々なんだよな。気の短い方が。


豆まきタイム(手拭いなげ)
仲入り前に手拭い投げがあって場内騒然。
やはり前の方に座っている人たちはそれ目当てだったらしくぐわっと立ち上がり腕を伸ばして取る取る。
すっかり引いてしまい、ひゅるるるる…となってしまったのだが、近くにした女性の方が自分は二本取ったからと一本譲って下さった。しくしく…ありがとうございます…。


きく麿師匠「おもち」
間が命のような噺だから、こういう独特な雰囲気(目当ての豆まきタイムが終わって興奮さめやらないような気が抜けたような…)だとやりづらそう。
こういう噺ってやるのに勇気がいる噺だよね。一瞬しーんとなるから。でも私はこういうじわっとくる笑い、大好き。

この間せめ達磨で聞いた時と違っているところも多々あって、これからきっとまだまだ育っていく噺なんだろうな、と感じる。

小袁治師匠「笠碁」
おじいさん同士の意地の張り合いがかわいらしい。
笠をかぶってちらっちらっと見る練習をするところがとてもチャーミング。
実際に通る時にはそれを中から見ている方の視線で表現していて、そんなところも落語ならではで、好きだ。

末廣亭2月上席夜の部

2/2(木)末廣亭2月上席夜の部に行って来た。
ちょうど入った時、小菊さんがあがっていたんだけど、お客さんが少数精鋭(!)の時は普段やらない曲をどんどんやってくれる小菊さん。丸の内線で一目ぼれする曲とかもう素敵!
後ろに控えていた末廣亭のおねえさんが身を乗り出して聞いているのが印象的だった。
 
・菊丸「ふぐ鍋」
・小里ん「碁泥」
~仲入り~
・きく麿「首領が行く!」
・二楽 紙切り
・扇好「寄合酒」
・ひな太郎「紙入れ」
・翁家社中 太神楽
・小袁治「三年目」
 
菊丸師匠「ふぐ鍋」
楽しい!菊丸師匠の「ふぐ鍋」大好き。
猫にまでお世辞を言っちゃう一八がたまらない。
そして旦那と一八でふぐを嫌がっていたのに一口食べてぱららら~んとなるところ、何回見てもごっくん!ってなる。
途中で「お客さんが静かだからって何もそんなにやけくそになってやるこたぁない」と言ったのがおかしかった~。
 
小里ん師匠「碁泥」
碁将棋に凝ると親の死に目に会えない…と始まったので、「笠碁」かと思ったら違う展開。
うわーー。知らない噺だ。うれしいー。
いつものように旦那同士で碁を始めようとすると「奥さんから碁を禁止されちゃった」。
なんで?おかしいじゃないかともう一人が詰め寄ると、なんでも二人で碁に夢中になるあまり、煙草を畳に落としてしまっているらしく、畳が焼け焦げだらけ。このままじゃ火事になっちゃう、と言われたらしい。
だったら碁を打つ間は煙草はやらず、一番終わったら煙草、としましょう、とお客。
それはいい考えだということで始めるのだけれど、夢中になって打っていると煙草がすいたくなって…。
 
もうこの碁を打つ二人が夢中になっていくさまがおかしくて、すごく楽しい。
泥棒が入って来ても気付かないし、泥棒も荷物を背負っているのに碁をやっているのを見ると口を出さずにいられなくて、「あれ知らない人だ」と気づいても碁をやめられない二人がまたおかしくて。
楽しかったー。
小里ん師匠には謝楽祭の時に冷たくされて(笑)ちょっと嫌いになったけど落語が素晴らしいからやっぱり好き。
 
きく麿師匠「首領が行く!」
わーい、きく麿師匠!
きく麿師匠の出身地北九州ではやくざを多く産出しているというまくらから「首領が行く!」。
先生が生徒たちに映画を見てきましたかーと聞いて、最初の生徒が答える「愛と青春の旅立ち」と「カリブ海のシンフォニー」の感想が大好き。
ぶちゅーとキスするところだけが面白かったって…。神田正輝がって…。ぶわははは!
 
そして激しく任侠化された吉田くんと武井くん。
ものすごくなりきっているのにちょいちょい小学生らしいところがおかしい。
なんか久しぶりに聞いたから思わぬところでぐわはっと笑ってむせてしまった。
おとなしめのお客さんたちからも笑い声が聞こえてきて、なぜか私が「えへん!」と鼻の穴をふくらませちゃった。
 
小袁治師匠「三年目」
昔は頼まれて結婚式の司会をやった、と小袁治師匠。
身内の立場でやるから結構評判がよかった。気に入ってくれて2回目もお願いされたことがある。
その人は外人の奥さんをもらうのが夢で一回目は金髪の女性と結婚したのだが3か月で破局。なんでかと聞いたら、外人は結婚してからも「愛してるか」「私がきれいだと思うか」と聞いてくる。これが一生続くのかと思ったら無理だと思った、と。
 
自分をひいきにしてくれてる旦那がいて、その人はゴルフに誘ってくれたりおいしいものをごちそうしてくれたり。
家に遊びに行くとおかみさんが元気印のかたまりみたいな人。
そのおかみさんが言っていたんだけど、普段は何もしないその旦那が、彼女が風邪で寝込んだ時、峠の釜めしの釜でおいしいおかゆを作ってくれた。
優しい言葉一つかけてくれるわけじゃないけれど、自分が苦しい時にそういうことをしてくれたのは本当にありがたかった、と。
 
そんなまくらから「三年目」。

この噺、そんなによく聞く噺じゃないけど、結構好き。なんかとっても落語的だから。

小袁治師匠の「三年目」は怪談っぽい雰囲気はあまりなくて軽くて楽しい。
まくらもきいていて良かった。

 

 

 

浅草演芸ホール2月上席夜の部

2/1(水)浅草演芸ホール2月上席夜の部に行って来た。
が、この日はぼーっとしていて電車を乗り間違え、南なん師匠にはどうにか間に合ったんだけど4連続「不動坊」でへこみ、その後も出てくるのが苦手な人ばかりだったので、仲入りで出てしまった。なにしに行ったんだー。とほほのほ。
 
・南なん「不動坊」
・うめ吉 粋曲
・桃太郎「春雨宿」

狂気の巡礼

 

狂気の巡礼

狂気の巡礼

 

 ★★★★

日常に侵された脳髄を搔きくすぐる、名状しがたい幻視と惑乱。冥境から降り来たる歪形の奇想。ありふれた想像を凌駕する超越的感覚と神経症的筆致で描く14の短篇。〈ポーランドラヴクラフト〉による類なき怪奇幻想小説、待望の邦訳。

壁が包囲する入口のない庭園。漂う薔薇の芳香には、ある特別な《におい》が混じっていた。「薔薇の丘にて」
神経科医のもとへ診察を受けに訪れた精神病理学者の妻。彼女が打ち明けた夫の驚くべき秘密とは?「チェラヴァの問題」
筆を折り蟄居する作家を見つめる無人の向かい家からの不穏な視線。著者の自画像ともいうべき怪作。「領域」 

読みかけていた「ウインドアイ」が陰惨だったので、ちょっと気分転換にと読み始めたら、こっちがさらに陰惨で「うわーーー」っとなった。

残虐な事件があった場所に人間の残酷さや情念が残り、そこに居合わせたひとを巻き込んでいく。繰り返される絶望のイメージに、もうやめてー!と叫びたくなるほど。

何度となくもう読むのやめようかなと思いながらも、読むことをやめられない。なにか恐ろしいものが潜んでいるかもしれないと怯えながらも立ち止まらずにはいられないように、のぞきこまずにはいられないように、最後まで読んでしまった。

正気と狂気の境目はほんとに薄くて、自分もいつそちら側に引っ張られるか分からない。そんな読後感。

さん助ドッポ

1/30(月)、お江戸両国亭で行われた「さん助ドッポ」に行って来た。

・さん助「西海屋騒動」より第五回「鐵牛和尚」
~仲入り~
・さん助「ぞろぞろ」
・さん助「妾馬(通し)」


さん助師匠「西海屋騒動」より第五回「鐵牛和尚」
前回行かなかったので、入場の時にいただいた第四回「お照と義松」のあらすじと人物相関図を開演前にあわてて読む。

 

花五郎が郡伴蔵を殺したため、伴蔵の妾だったお照は幼子義松を連れて出奔する。
女だと泊めてくれる宿もなく困っていると声をかけてきたのが馬方の辰五郎と妻の小山。一夜の宿を提供してもらい感謝して床に就くのだが、実はこの夫婦、親切を装って旅人を泊めて惨殺し身ぐるみ奪う「ごまの灰」を稼業としている。
それに気が付いたお照は義松を連れて家を抜け出すのだが、辰五郎が追って来てお照を殺して地蔵堂に捨て置く。
通りかかった森田屋才兵衛が生き残った義松の泣き声に気が付き、このまま放っておくと獣に食べられてしまうと連れて帰る。
義松が伴蔵とお照の間に生まれた子で、二人とも殺されてしまったことを知った才兵衛は義松を自分の子どもとして育てることにする。

以上が前回までのあらすじ。
 
義松が10歳になった時、才兵衛が「お前に本当のことを教えよう」と言って話をする。
というのは、義松は性根が腐っていて家の金だけでなく奉公人の金にまで手をつけるため、もう家においてはおけないということで、高崎のとある夫婦に引き取ってもらうことにしたのだ。
話を聞いた義松は「拾ってくれと頼んだ覚えはないのを勝手に助けて今さら邪魔になって追い出すのか」と毒づき、才兵衛が間に入った男に金をやるところを見て「俺を売って儲けやがったな。割り前をいくらかよこせ」とまで言う。
才兵衛の実子である重太郎が飛び込んできて義松に殴りかかるが、男がまぁまぁとおさめて義松を連れて出る。
 
ある日、義松が剣術の稽古をしているとその日才兵衛宅に泊めてもらっていた乞食坊主(花五郎)が「腕が未熟だな」と声をかけてくる。
かっとなった重太郎が勝負を挑むのだが見事な腕前で重太郎はまるで歯が立たない。
才兵衛が割って入りどうにかその場をおさめる。
花五郎を部屋に招いて才兵衛が言うには、ある時武芸の達人である原田新十郎が脚気になって何日か逗留したおりに、重太郎に剣術の稽古をつけてくれた。それ以来熱心に稽古をしているのだが、村には教えてくれる人もおらずもっぱら我流。しかしこの村でかなうものがいないのですっかり天狗になり困っていたところだった、と。
新十郎の名前を聞き、実は自分は彼の門弟であると告げる花五郎。
それがなぜ坊主に?という問いに、今までのいきさつを語り、今は新十郎につけてもらった「鐵牛和尚」というのが自分の名前だという花五郎。
背中の彫り物を見せてくれと頼む重太郎に、真っ赤に焼けただれた背中を見せる花五郎。
自分は坊主になるときに、こうやって彫り物を焼き落として今までの自分とは別れを告げたのだ、という。
 
どうか自分の師匠になって剣術を教えてくれと頼む重太郎。「強くなりたいのです」との言葉に「お前は人を殺したことがあるか。人の血を受けたことがあるか。その痛みも知らずに強くなりたいなどと言うものではない。剣など持たないに越したことはない」と言う花五郎。
そういいながらも、才兵衛に懇願されて無下には断れず、結局幾日か逗留して重太郎に剣術の稽古をつけてやり、重太郎は最後には花五郎も驚くほどの上達を見せる。
 
一方高崎に売られた義松を引き取ったのは、お照を殺した辰五郎とお山の夫婦。
この続きは次々回。(次回は鈴本のトリの初日なので西海屋騒動はお休み)
 
うーむ。やっぱり花五郎って破たんしてる。
好き好んで人を殺してたとしか思えないのに「人の血を浴びたことがあるか」とか言っちゃってさー。それで剣など持たない方がいいと言いながら結局重太郎に教えちゃうしー。
そしてなんなの、義松が売られた先が自分の母親を殺した辰五郎夫婦って。イッツアスモールワールドすぎやろ…。
で、次回は鈴本のトリの初日だから西海屋騒動はお休みで、3月には陰惨なのをたっぷりやりますから、とのこと。
 
さん助師匠「ぞろぞろ」
わーーい。「ぞろぞろ」!やっぱり私はこういうばかばかしい噺が好きだなー。
おじいさんとおばあさんがほんとにおじいさんおばあさんらしくて笑ってしまう。
そして暇すぎて自分のひげを抜いてる床屋の親方がなんともいえず無精な感じでおかしい。
サゲも気持ち悪く(!)決まってナイス。
 
さん助師匠「妾馬(通し)」
「妾馬」を通しで聞いたの初めて!
井戸の錨がなくて八五郎が裸で井戸に飛び込んでびしょびしょになっているところに、お鶴に目を止めた殿さまの使いが訪ねてくるところから始まる。そしてこの錨が最後の方にも出てくる。
 
昨日稽古したら1時間かかったんだけど、それだと片づける時間がなくなっちゃいますので…とおそらくかなり刈り込みながら。
 
お殿様の使いが来て八五郎に話しかけるんだけど、八五郎がここがどんなに貧乏長屋か、大家がケチだから井戸の錨がなくなっても用意してくれないということをべらべらしゃべる。
侍が「いやその話はもういい」と言ってもまだべらべら喋ってる。
その後大家の家を教えてもらって侍が大家を訪ねていくと、八五郎が粗相をしたと思った大家が言い訳をべらべら。
侍が「そうではない。」と言ってお花のことを尋ねると、お花が間違いを犯したのかと思って「あれはまだ13歳。ほんの子供です」と庇う。
妾にしたくて声をかけられたとわかると急に「あれは18歳です」。
「どちらじゃ」と聞けば、悪い時には13歳でいい時は18歳に使い分けている、と。
話が止まらない大家に「なんだこの長屋は。おしゃべり長屋か」と侍が言うのがおかしい。
 
お鶴の母親のところを大家が訪ねていくと、借金取りだと思ってまたこの母親がべらべら言い訳をする。
大家さんを家に入れて「実は殿様が妾にしたいと言って」と聞くと、自分の事かと思って恥じらうのがばかばかしくもおかしい。

大家の家を訪ねた八五郎。
大家に妹の支度金をいくらにするかと聞かれて「女郎に売ったとしたら」と計算するのがひどいやらおかしいやら。
そしてお屋敷に行ってからの場面もわりとあっさり。
八五郎が飲み食いする席にお殿様は同席してないんだけど、確かにその方がリアルだなー。
酔っぱらって大声になってくる八五郎に対して、それを窘めながらも最後は「もっと大きな声で言え」という三太夫が素敵。
妹と再会するシーンもなく、おふくろが孫に会いたがってたというセリフだけ。
 
そして最後には出世した八五郎が馬に乗るシーン。だから「妾馬」っていうタイトルなんだ!
 
とにかくさん喬師匠の「妾馬」とは正反対。人情噺のかけらもないアンチ人情な「妾馬」。
そして八五郎がもうどこをどうみてもチンピラっぽい(笑)。
ひねくれ者のさん助師匠らしい「妾馬」だったなー。(←ほめてます)
 
あーでもなんかさん助師匠らしい突き抜けた明るさが戻って来ててよかった。
この数か月バランスを崩しているように見えてひやひやしていたのだ。(余計なお世話だが)

次回の「さん助ドッポ」 2/21(火) 両国亭 19時開演
明烏」「疝気の蟲」他
その後は、3/20、4/26、5/29

いとうせいこう×奥泉光「文芸漫談シーズン4」 谷崎潤一郎「鍵」

1/28(土)、日本近代文学館で行われた『いとうせいこう×奥泉光「文芸漫談シーズン4」 谷崎潤一郎「鍵」』に行ってきた。


「お正月はどうでしたか」とせいこうさん。
毎回、奥泉さんの夏休みやお正月の話を聞くのが恒例になっている。
「お餅なんか食べるんですか」と聞かれて「お餅はそんなにはね…お酒だね、もっぱら」と奥泉さん。

今日本で一番おいしい日本酒を売ってる店があってそこに正月用の酒を買いに行った。
その店は29日から6日までお休みということで、その間は買いに来られないからまとめて買っておかないといけなかった。
2日出かける用事があってその際にも酒を持って行くことを約束していたので都合3本。
でもこれは家では飲めない酒。
家用に何本必要だろうかと考えに考えて3本。あと電車で飲む用のワンカップ。これもおいしいワンカップを厳選して。
しかし日本酒6本を持って電車に乗って帰るのはさすがにしんどい。
奥さんに電話をして車で迎えに来てもらうことに。
文句たらたらで来てくれた奥さんと二人で車に乗り込んだのだが、その瞬間に「3本じゃ足りないかも」という不安がむくむくと。「ちょっと待ってて」と言ってもう一本買い求めた。

年末は新潟に帰省したのだが、電車で飲もうとそのうまいワンカップを二本持って出かけた。
新幹線では開けるのを我慢して、在来線で飲むことに。
二本じゃ足りないかもしれないけど新潟まで行けばホームでおいしいワンカップを買うこともできるし車内販売もあるだろう。
まずは一本を大事に飲んでいると、隣に座ったのが女性で通路を挟んで連れの男性。どうやら二人で女性の故郷に初めて帰るらしく、連れの男性に景色を楽しんでほしいからそんな座席をとったらしい。
女性の方が「海も見えてきて景色がよくなるから」とか「この電車もいいでしょ。雰囲気があって」などと言っている。
その邪魔をしないように、あまり酒の匂いをまき散らさないように…と気を使いながら、もう一本のワンカップを開けたら少しこぼれてしまった。ティッシュで拭こうと思ってワンカップを置いておいてポケットをがさごそやっていたら肘があたってワンカップが落ちてしまった!

床に酒がこぼれていくわ、匂いは充満するわ、楽しみにしていた最後の酒がおじゃんになるわで「ぎゃーー」と高い声の悲鳴をあげてしまった。
つまみにと用意していた乾き物のほたてもまだたくさん残っていたのに…。

…奥泉さんの話のおかしいことったら。
漫談家」を名乗っている人たちよりよっぽど面白い。最高すぎる。

そんな話から、今日のお題である谷崎潤一郎「鍵」へ。
この作品は谷崎晩年の作品、とのこと。70歳でこんな作品を書いてしまうんだから文豪って…!

この作品は三部構成になっている。
1.1月1日から4月16日 夫と妻の日記
2.4月17日から5月1日 妻の日記(夫は脳溢血で倒れる)
3.6月9日から6月11日 妻の日記(夫の死後)

・この作品は雑誌の連載小説。元旦から日記が始まるというエンタメ性。(い)
・タイトルの「鍵」は、夫が妻に日記を読ませたくてわざと落とした鍵。娘の敏子の部屋に鍵がたくさんある。
・夫の日記はカタカナ+漢字、妻の日記はひらがな+漢字。夫の方は窮屈げ、それに反して妻の日記はのびやかで楽しげ。(お)
・妻の日記で妻は夫の日記のありかは知っているが「読まないけどね」を強調している。読んでほしい夫を焦らす。Mを喜ぶ手口(い)
・夫の日記の読者は妻であり、妻の日記の読者は夫、さらに我々読者。日記には全部本当の事が書いてあるわけではない。
・夫は敏子の婚約者候補である木村をそそのかして、その嫉妬を利用して自分の性欲をどうにか機能させようと試みる。

・1/28(P26)妻が不省になる。ブランデーを飲んで酔っぱらい便所に籠りその後風呂に入り裸で倒れる。
木村と二人で介抱するのだが、上半身は木村に与え、自分は下半身を受け持つ。ぎりぎりをやりたい夫。「プレイ開始」
・1/29(P29)妻は本当に寝てるかどうかあやしい。夫は蛍光灯を持って寝室に入り、フェチを全開する。
・寝ている?妻の寝言「木村…」。最高。(い)
・観察者としての夫。一方的な視線。
・便所で倒れた時の描写。和式トイレでずっとしゃがんでいるというのはすごい体力。そしてわざと汚い描写を丁寧にしている。美しく書かないところに谷崎の魅力が。
・夫が読むのを前提で書く妻の日記。その日の行為を褒めながらもでも木村かもしれない、と書いてみたり。嫉妬心をあおる。

・2/9(P43)娘の敏子家を出る。両親が夜な夜な何をしてるか気付いている。敏子と木村も関係があり、敏子は郁子に嫉妬もしている。また木村に父母のことを話してもいる。
・木村がポラロイド写真のことを夫に話す。(明らかに敏子から話を聞いている。)
・「風呂場倒れ」(い)がルーチン化。ルーチン化するのが早い。3日に1回はやってる。

・2/27(P56)夫が妻も日記を書いていることに気づく。お互いに「読んでない」と言い張る。
・夫、日記に木村への気持ちは書かないでくれ、と頼む。
・妻は夫が日記を見たかどうか確認するために自分の日記帳をテープで仕掛け。その跡を拡大鏡で調べる。(絵として面白い)
・ポラロイドで撮った写真を日記に貼って妻に見せる夫。なにか写真のようなものがあったようだが見てない、と言い張る妻。

・3/10(P65)夫、脳の障害を起こしていることを日記に記す。「命を削りつつある」。
・3/14 敏子が写真を見る。新段階へ。

・3/24(P82)敏子の家で妻風呂場倒れ。夫は視覚が狂ってきていて死に近づいて行っている。

・3/31(P91)妻、酒なしで木村と関係を持ったことをにおわせる。そのあと、わざと日記に詳しく書かない。(焦らし)
・4/6(P96)具体的な描写。夫の嫉妬を掻き立てる。とことん嫉妬させておいて「狭義に解釈しての一線は越えずにいる」。
・4/10(P100)妻が自分も病気が悪くなっていて命を削ってやっているのだ、と書く。(嘘であると後に書いている)夫を死の淵へ追い込んでいく。

・夫が脳溢血で倒れたのちも日記を書く妻。誰に向けて?明らかに文章が変わる。夫の事も「あの男」。もしかすると木村に読ませるために?
・4/21(P137)倒れた夫が何か言っていて耳を近づけてみると「ビフテキ…」。大笑い(い)。いやそんなことはなく悲しい(お)。ビフテキを食べて性生活に励んでいた夫。またビフテキを食べてしたい、という気持ちのあらわれなのでは。

最初から最後までおかしくて笑い通しだった漫談。
でも「ロリータ」の時は、かなり引き気味だったお二方が、「鍵」にはノリノリで、「谷崎はすごい」「素晴らしい」「こういうところが谷崎の凄いところ」と言っていたのが印象的だった。

私も前半部分は妻が被害者のように見えて夫が気持ち悪かったのだが、読み進めるうちに妻の方が怪物に見えてきて小気味よく、突き抜けたユーモアも感じて面白く読んだ。

 

ウインドアイ

 

ウインドアイ (新潮クレスト・ブックス)

ウインドアイ (新潮クレスト・ブックス)

 

 ★★★★

妹はどこへ消えたのか。それとも妹などいなかったのか? 『遁走状態』に続く最新短篇集。最愛の人を、目や耳を、記憶を、世界との結びつきを失い、戸惑い苦闘する人びとの姿。かすかな笑いののち、得体の知れない不安と恐怖が、読者の現実をも鮮やかに塗り替えていく――。滑稽でいて切実でもある、知覚と認識をめぐる25の物語。ジャンルを超えて現代アメリカ文学の最前線を更新する作家による、待望の第2短篇集。

 

妹がいなくなる。いなくなったことに気付いているのは自分だけで、母はいなくなったことにさえ気付かず、もともと妹などいないと言う。いなくなった妹のことを繰り返し繰り返し考える人生。
もともとなかった耳をくっつけられる。それ以来自分が自分だけじゃなくなる。そもそもほんとの自分とはなんだったのか。
あるいは殺される。あるいは殺す。繰り返し繰り返し殺されてもちゃんとは死なない。父の脚を治したくてある家を訪れると全ての不幸が自分に降りかかる。ふと魔がさして踏み出した1歩のせいで取り返しのつかないことになる。

悪夢のような喪失の物語が次から次へ。読んでいるうちにどんどん鬱になってくる。でも目が離せない。

面白かったけど前作よりも読むのがしんどかった。

浅草演芸ホール1月下席夜の部

1/27(金)、浅草演芸ホール1月下席夜の部に行ってきた。

浅草演芸ホールは観光のお客さんが多くてわちゃわちゃしていてあんまり好きじゃないんだけど、この顔付けだったら行かないわけにはいかない!


・ペペ桜井 ギター漫談
・小満ん「尿瓶」
~仲入り~
・馬石「たらちね」
・今松「後生鰻」
・ぺー 漫談
・志ん輔「替り目」
・扇遊「狸賽」
・楽一 紙切り
・雲助「厩火事


ペペ桜井先生 ギター漫談
お元気そうでなにより。


小満ん師匠「尿瓶」
白酒師匠でしか聞いたことがなかった噺。
尿瓶を花瓶と間違えて買い求めようとする侍。道具屋の主人が「それは尿瓶です」と正直に言ったのだが、尿瓶自体を知らないため「しびんという者がこしらえたのか」と感心している。
だったら高く売ってしまえと五両で売りつける。
宿屋に帰った侍が尿瓶に花を活けて飾っておくと、懇意にしている本屋がそれを見てびっくり。これは尿瓶で…尿瓶というのはこれこれこういうもので…と説明。
真っ青になった侍が道具屋に殴り込みに行くと、道具屋は母親が長く患っていて五両の高麗ニンジンを与えれば治ると言われたのでつい…と言い訳。
侍はそれを聞いて「孝行のためであれば仕方ない」と刀をおさめて帰って行く。

ばかばかしいんだけど、侍がとても威厳があって、ああ…武士と庶民ではこうも生き方に違いがあるのか、と感じさせる。すてきだった。


馬石師匠「たらちね」
他の人の「たらちね」と全然違う。くまさんが遠慮がちでなんかとってもかわいい。お鶴さんも言葉は確かに丁寧すぎるんだけどなんともいえずかわいらしい。
ゆったりした空気が流れていてとても不思議な「たらちね」。かわいいとしか言いようがない。


今松師匠「後生鰻」
浅草でこの出番で今松師匠を見られるなんて。幸せすぎるでしょう。
独特の空気感。なんだろう、こう話し始めると今松師匠の世界にふわっと包まれる感じ。
またこのサゲの落語らしさ。たまらない。大好き。


ぺー先生 漫談
笑え笑えと言われても面白くなければ笑えない。忍。


扇遊師匠「狸賽」
一度下がったテンションを扇遊師匠で気持ちよく上げてもらう。サイコロになる狸と、それをウキウキ喜ぶ男がかわいい。


楽一さん 紙切り
なんと切った紙を見せるための素敵な機械(?)を持参。
後ろに映すために体を斜めに倒す姿も好きだったけど、えへん!とばかりに機械に挟んで見せて、恭しく電気を消すのもかわいい。
いつもの耳の遠い師匠が「ウエディングドレス」を「梅にうぐいす」と聞き違えた話をしたら、前の方のお客さんが「梅にうぐいす」を注文。
ウエディングドレスを着た女性と男性のカップルと、梅に鶯がとまっているのを切り抜いて、見事だった。


雲助師匠「厩火事
おさきさんがなんともいえずかわいい。
目をぎょろっと開けて、身体を斜めにぐいっと下げて「あーら、いやだ」と言うだけでめちゃくちゃおかしい。
今日という今日は別れると言いながら、大家さんに旦那の悪口を言われると、ついつい旦那を庇ってしまう女心。

またこの旦那がかっこいいんだ。ちょっと悪くて。
最初から最後まで楽しかった。

末廣亭1月下席夜の部

1/26(木)、末廣亭1月下席夜の部に行ってきた。
 
・松鯉「屏風の蘇生」
~仲入り~
・昇乃進「幽霊タクシー」
・Wモアモア 漫才
・南なん「不動坊」
・伸治「あくび指南」
・喜楽・喜乃 太神楽
・茶楽「富久」
 
松鯉先生「屏風の蘇生」
松鯉先生の「〇〇なんですな」という口調が大好き。
温かみのあるまくらでリラックスさせてくれて、話に入るとピンっと空気が変わって、講談の世界に引き込んでくれる。
「屏風の蘇生」は初めて聴く話だったけど、夢中になって聞いていると「ここからが面白くなるのですが」。思わず「ええええ?!」というと「…と昔の講釈師は切りましたけど私はそんな卑怯なことはいたしません」と最後まで。
楽しかった。
 
昇乃進師匠「幽霊タクシー」
初めて聴く新作だったので、噺がどういう方向へ転がっていくのかわからずちょっとドキドキしながら聞いていたけど、最後まで聞いてみればばかばかしい噺だった。面白かった。
 
南なん師匠「不動坊」
おお、三回続けて「不動坊」。
続けて聞いていると、あ、今日はここをちょっとわかりやすくやったな、とか、今日のお客さんに合わせてここはテンポをあげたな、とか細かいところがわかってくる。
こうやって噺を育てていくんだろうなと思いつつ、同じ噺が続くとやっぱり少しさみしい。
 
伸治師匠「あくび指南」
この代演はうれしい。
「いろいろ不思議な商売っていうのがありますけど、噺家っていうのもそうですね。私なんか今日6時半に家を出てきたんですよ。朝の、じゃないですよ。夜のですよ。お勤めの方は帰る時間ですよ。それが私の出勤時間でここで15分おしゃべりして今日の業務は終了なんですから。今東京に噺家が500名ぐらいですか、おりますけど、餓死したって話は聞きませんから。不思議ですねぇ。楽屋で仲間に会っても”仕事ある?””ないねぇ”なんて話をしてるんですよ。お互いに何で食ってるのかわからないんですから。そこはあえて触れないんですね、お互いに。なのに食えてる。不思議な商売です」
 
にこにこしてほんとに楽しそうで粋で風流で伸治師匠がリアルあくびの師匠に見えてくる。
こんな師匠にだったらあくびを稽古してもらいたくなるなぁ。
ふわふわっと身体が浮くのがまた楽しい。
 
茶楽師匠「富久」
冨くじと聞いて目の色が変わるところに久蔵の山っ気のようなものがにじみ出ている。
火事になったのが久蔵がしくじったお店の方じゃないかと気づいて久蔵を起こしてやる長屋の人たちのやさしさ…。後半部分もそうだけど、こうやってお互い気に掛け合って助け合うところがいいなぁ、落語の世界って。
お店に駆け付けるとものすごく喜んでくれる主人。さっそく手伝い始めた久蔵の姿に、幇間としてなかなか優秀なんだろうなというのがうかがい知れる。
そして酒を見るとすぐに飲みたがり、飲み始めるとどんどん飲んでしまうところに、飲み始めるとタガがはずれるんだろうなぁというのも伝わってくる
 
今度は自分の家が火事になったと分かってからの展開はまさに人生いろいろ。捨てる神あれば拾う神あり。
落語らしいこの噺、とても好きだ。
そして茶楽師匠、渋くてかっこよかった。好き。
 
 
 
 

二ツ目勉強会 第298回

1/24(火)、池袋演芸場で行われた「二ツ目勉強会 第298回」に行って来た。
前座の頃から見ていた小はぜさんが二ツ目勉強会デビュー!
今協会のページを見たら、小はぜさんってほんとに私が落語を見始めて間もなく前座になってるんだね。そうかー。じゃ私が好きになった時ってまだほんとに入りたてだったのかー。すごいな。
 
・喬の字「動物園の虎」
・花飛「鹿政談」
・志ん吉「王子の狐」
~仲入り~
・小はぜ「やかん泥」
・朝也「淀五郎」
 
喬の字さん「動物園の虎」
「動物園」じゃなくて「動物園の虎」なんだ。どこが違うんだろう
会社をくびになってからいろんな職業に就いたことをわりと詳しくやったところが?虎?(ぜったい違う)
通常のサゲを言ってから続きがあったけどあれはなんか喬の字さんのいつもの、のような気もする。
 
花飛さん「鹿政談」
前座時代に見て、なんて楽しくなさそうに落語をやる人なんだろうと思った覚えがあったんだけど、ほんとはこんな人だったんだね。
まくらで、幼稚園児のわが子の送り迎えをしているという話。
自分はかゑるさんと仲がよくてしょっちゅう飲んだり遊んだりしているんだけど、最近お迎えに行ったとき先生がため口になってきて、それが進んで園児にしゃべるかけるのと同じような口調になってきた。
なんでだろうと思ってわが子に聞いてみると「いつもお父さんが迎えに来てくれるけどお父さんは昼間何をしてるの?」と聞かれたわが子。「お父さんはいつもかえるちゃんと遊んでる」と答えたらしく、小さい子と同じ扱いになってしまったらしい、と。
 
そんなまくらから「鹿政談」。
どうにか救ってやろうとお奉行様があれこれ言うのに正直にこたえてしまう豆腐屋さん。
「これは鹿じゃなくて犬じゃ」で押し切ってしまうっていうのも強引なお裁きだけど、なんでも正しければいいってもんじゃないよね、こういう精神って大事だよなぁ、とこの噺を聴くといつもおもうのだった。

志ん吉さん「王子の狐」
噺家は、どうにか食えてる。餓死したっていう話は聞かない。
でもつくづく不思議なんです。どうして食えてるんだろうって。うちも。
多分おかみさんが…葉っぱを金に変えたりしてるのかもしれませんね。
そんなまくらから「王子の狐」。

面白い!
なんかすごく表情が豊かだしリズムもいいし安心して聴いていられる。
やっぱり落語って「間」なんだなぁ、って感じる。
さすが志ん橋師匠のお弟子さんだなぁ。好き。
 
小はぜさん「やかん泥」
小はぜさんがこんなに立派になって…うるうる。
なんかかわいいんだ。泥棒の子分が。
ちゃんと仕事しました!って言いながら、「それがばかな話で」って失敗談を話しながら自分でちょっと喜んじゃってたり、親分と一緒に夜中に歩いていてああだこうだと嬉しそうに喋ってたり。
親分に怒られて拗ねて、でも立派なお釜を受け取ったらご機嫌になって、親分がぼそっと「機嫌がなおりやがった」とつぶやくのがおかしい。
 
これからきっと小はぜさんがどんな人なのか…まくらとか噺から見えるようになってくるんだろうなぁ。すごく楽しみ。
 
朝也さん「淀五郎」
おおお、師匠譲りの「淀五郎」。
もちろん一朝師匠と比べるとまだまだ…ではあるけれど、淀五郎の未熟さと團蔵の皮肉なやさしさと仲蔵のきめ細かなやさしさは十分伝わってくる。
きっとこの噺、真打披露目でかける気がする。
朝也さんのお披露目も見に行きたいっ!