りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

いとうせいこう×奥泉光「文芸漫談シーズン4」 谷崎潤一郎「鍵」

1/28(土)、日本近代文学館で行われた『いとうせいこう×奥泉光「文芸漫談シーズン4」 谷崎潤一郎「鍵」』に行ってきた。


「お正月はどうでしたか」とせいこうさん。
毎回、奥泉さんの夏休みやお正月の話を聞くのが恒例になっている。
「お餅なんか食べるんですか」と聞かれて「お餅はそんなにはね…お酒だね、もっぱら」と奥泉さん。

今日本で一番おいしい日本酒を売ってる店があってそこに正月用の酒を買いに行った。
その店は29日から6日までお休みということで、その間は買いに来られないからまとめて買っておかないといけなかった。
2日出かける用事があってその際にも酒を持って行くことを約束していたので都合3本。
でもこれは家では飲めない酒。
家用に何本必要だろうかと考えに考えて3本。あと電車で飲む用のワンカップ。これもおいしいワンカップを厳選して。
しかし日本酒6本を持って電車に乗って帰るのはさすがにしんどい。
奥さんに電話をして車で迎えに来てもらうことに。
文句たらたらで来てくれた奥さんと二人で車に乗り込んだのだが、その瞬間に「3本じゃ足りないかも」という不安がむくむくと。「ちょっと待ってて」と言ってもう一本買い求めた。

年末は新潟に帰省したのだが、電車で飲もうとそのうまいワンカップを二本持って出かけた。
新幹線では開けるのを我慢して、在来線で飲むことに。
二本じゃ足りないかもしれないけど新潟まで行けばホームでおいしいワンカップを買うこともできるし車内販売もあるだろう。
まずは一本を大事に飲んでいると、隣に座ったのが女性で通路を挟んで連れの男性。どうやら二人で女性の故郷に初めて帰るらしく、連れの男性に景色を楽しんでほしいからそんな座席をとったらしい。
女性の方が「海も見えてきて景色がよくなるから」とか「この電車もいいでしょ。雰囲気があって」などと言っている。
その邪魔をしないように、あまり酒の匂いをまき散らさないように…と気を使いながら、もう一本のワンカップを開けたら少しこぼれてしまった。ティッシュで拭こうと思ってワンカップを置いておいてポケットをがさごそやっていたら肘があたってワンカップが落ちてしまった!

床に酒がこぼれていくわ、匂いは充満するわ、楽しみにしていた最後の酒がおじゃんになるわで「ぎゃーー」と高い声の悲鳴をあげてしまった。
つまみにと用意していた乾き物のほたてもまだたくさん残っていたのに…。

…奥泉さんの話のおかしいことったら。
漫談家」を名乗っている人たちよりよっぽど面白い。最高すぎる。

そんな話から、今日のお題である谷崎潤一郎「鍵」へ。
この作品は谷崎晩年の作品、とのこと。70歳でこんな作品を書いてしまうんだから文豪って…!

この作品は三部構成になっている。
1.1月1日から4月16日 夫と妻の日記
2.4月17日から5月1日 妻の日記(夫は脳溢血で倒れる)
3.6月9日から6月11日 妻の日記(夫の死後)

・この作品は雑誌の連載小説。元旦から日記が始まるというエンタメ性。(い)
・タイトルの「鍵」は、夫が妻に日記を読ませたくてわざと落とした鍵。娘の敏子の部屋に鍵がたくさんある。
・夫の日記はカタカナ+漢字、妻の日記はひらがな+漢字。夫の方は窮屈げ、それに反して妻の日記はのびやかで楽しげ。(お)
・妻の日記で妻は夫の日記のありかは知っているが「読まないけどね」を強調している。読んでほしい夫を焦らす。Mを喜ぶ手口(い)
・夫の日記の読者は妻であり、妻の日記の読者は夫、さらに我々読者。日記には全部本当の事が書いてあるわけではない。
・夫は敏子の婚約者候補である木村をそそのかして、その嫉妬を利用して自分の性欲をどうにか機能させようと試みる。

・1/28(P26)妻が不省になる。ブランデーを飲んで酔っぱらい便所に籠りその後風呂に入り裸で倒れる。
木村と二人で介抱するのだが、上半身は木村に与え、自分は下半身を受け持つ。ぎりぎりをやりたい夫。「プレイ開始」
・1/29(P29)妻は本当に寝てるかどうかあやしい。夫は蛍光灯を持って寝室に入り、フェチを全開する。
・寝ている?妻の寝言「木村…」。最高。(い)
・観察者としての夫。一方的な視線。
・便所で倒れた時の描写。和式トイレでずっとしゃがんでいるというのはすごい体力。そしてわざと汚い描写を丁寧にしている。美しく書かないところに谷崎の魅力が。
・夫が読むのを前提で書く妻の日記。その日の行為を褒めながらもでも木村かもしれない、と書いてみたり。嫉妬心をあおる。

・2/9(P43)娘の敏子家を出る。両親が夜な夜な何をしてるか気付いている。敏子と木村も関係があり、敏子は郁子に嫉妬もしている。また木村に父母のことを話してもいる。
・木村がポラロイド写真のことを夫に話す。(明らかに敏子から話を聞いている。)
・「風呂場倒れ」(い)がルーチン化。ルーチン化するのが早い。3日に1回はやってる。

・2/27(P56)夫が妻も日記を書いていることに気づく。お互いに「読んでない」と言い張る。
・夫、日記に木村への気持ちは書かないでくれ、と頼む。
・妻は夫が日記を見たかどうか確認するために自分の日記帳をテープで仕掛け。その跡を拡大鏡で調べる。(絵として面白い)
・ポラロイドで撮った写真を日記に貼って妻に見せる夫。なにか写真のようなものがあったようだが見てない、と言い張る妻。

・3/10(P65)夫、脳の障害を起こしていることを日記に記す。「命を削りつつある」。
・3/14 敏子が写真を見る。新段階へ。

・3/24(P82)敏子の家で妻風呂場倒れ。夫は視覚が狂ってきていて死に近づいて行っている。

・3/31(P91)妻、酒なしで木村と関係を持ったことをにおわせる。そのあと、わざと日記に詳しく書かない。(焦らし)
・4/6(P96)具体的な描写。夫の嫉妬を掻き立てる。とことん嫉妬させておいて「狭義に解釈しての一線は越えずにいる」。
・4/10(P100)妻が自分も病気が悪くなっていて命を削ってやっているのだ、と書く。(嘘であると後に書いている)夫を死の淵へ追い込んでいく。

・夫が脳溢血で倒れたのちも日記を書く妻。誰に向けて?明らかに文章が変わる。夫の事も「あの男」。もしかすると木村に読ませるために?
・4/21(P137)倒れた夫が何か言っていて耳を近づけてみると「ビフテキ…」。大笑い(い)。いやそんなことはなく悲しい(お)。ビフテキを食べて性生活に励んでいた夫。またビフテキを食べてしたい、という気持ちのあらわれなのでは。

最初から最後までおかしくて笑い通しだった漫談。
でも「ロリータ」の時は、かなり引き気味だったお二方が、「鍵」にはノリノリで、「谷崎はすごい」「素晴らしい」「こういうところが谷崎の凄いところ」と言っていたのが印象的だった。

私も前半部分は妻が被害者のように見えて夫が気持ち悪かったのだが、読み進めるうちに妻の方が怪物に見えてきて小気味よく、突き抜けたユーモアも感じて面白く読んだ。