りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

黒門亭2864回

 1/14(土)、黒門亭2864回に行ってきた。

・はまぐり 「たらちね」
・小んぶ 「新聞記事」
・甚語楼「松曳き」
~仲入り~
・たけ平「小田原相撲」
・今松「風の神送り」

小んぶさん「新聞記事」
黒門亭に来る前に産婦人科で行われた落語会に出てきたという小んぶさん。二ツ目さん何人かで行ったらしいのだが、着物姿で院内を歩いていると「あら、落語家さんよ」と言われ、「おお、ちゃんと落語家ってわかってもらえてる」と思っていると、小んぶさんを見て「あ、お相撲さんもいる」。
子どもが握手を求めてきたので、握手してあげなら「どすこい」。

…ぶわはははは。

「新聞記事」は確か小んぶにだっこで聞いたことがあったんだけど、サゲを聞いてもわかってない男の反応がとても面白い。
話したご隠居も「え?そんな反応?じゃ…忘れてくれ…」と戸惑うのだが、しばらくしてサゲの意味に気が付いて「面白い!!」。
「天ぷら屋だけに…じわじわきました」と言うとご隠居が「はぁ?」という反応。「え?おもしろくない?ご隠居が言ったサゲと同じようなもんだと思ったんだけど」。

友だちのところに行ってやってみるんだけど、「逆上」を間違えて「欲情」と言ってしまい、「え?欲情したの?それでどうなった?」「それで…まくらを交わしたんだな」「え?まくらを?!」。
その後に今度は「体をかわす」が出てこなくて「あれだよ、あれ…。まくらをかわしたんだよ」「え?やっぱりかわしたの?」。

ちょいちょい小んぶさんテイストが出ていておかしい~。小んぶさんの面白さが黒門亭の御常連さんたちに広まるといいなぁ。


甚語楼師匠「松曳き」 
もっと見てみたいと思ってる甚語楼師匠をこうして見られてうれしい。
一門でセブ島に行った時のこと。我太楼師匠と二人でサウナに入ったんだけど、そこに瓶が置いてあった。これはなんだろうと中の水をすくって匂いをかいでみると、ミントのいい匂い。種明かしをしますとこれサウナにじゅっとかけてミストにするための水だったんです。でも我太楼が「いい匂いがするからこれは体に擦り付けるんですよ」と言い、そうなのか!と二人ですくっては体にこすり付けていた。
後から入った外人さんたちがおかしな顔をして見ていたけど、考えみたらわかりそうなもんだけど「ここは外国」と思ったらこう…なんか緊張しちゃって、思い込んじゃったんですね。

そんなまくらから「松曳き」 。
おっちょこちょいの殿様も三太夫も妙にちゃんとしていて威厳があるのがおかしい。
「餅は餅屋というからな」と言って、植木屋を探すつもりが「餅屋を探せ」と言ってしまう三太夫。それを聞いた植木屋「あの三太夫さんは人を探す時だいたいいつも餅屋から探す」。
…ぶわははは。ばかばかしい~。

なんかこの師匠のクールなところがとても好きだ。


たけ平師匠「小田原相撲」
相撲ファンと相撲マニアは違う。ファンはどんな取組を見ても楽しんでる。でもマニアは取組なんか見ない。指導の方を見て「お、〇〇の腕時計が変わった」。
落語もそう。落語ファンはどんな噺家が出てきても楽しんで聴くけど、マニアは柳家と春風亭の落語は聴くけど…。

客をいじったり毒を吐きながら「小田原相撲」。面白かったけど、声がちょっと苦手かも…。とくに黒門亭みたいな小さい会場だと、ちょっと…。あと、毒のある客いじりは好きじゃないんだよなぁ。私はマニアじゃなくてファンだけど。


今松師匠「風の神送り」
今松師匠って気難しそうだけど、落語に温かみがあってそこがすごく好きだなぁ。
風の神送りをしようじゃないかということになり、奉加帳を用意する若い衆。字が書けるやつが「墨をすれ」「筆を洗って来い」とえばるんだけど、それを聞いて「なんだえらい手数がかかるんだな」とぶつくさ言いながらやってあげるところとか、奉加帳を持って寄付を求められた店の主人が「ああ、そういうことですか」と受け入れるところが、なんかほかっと温かい。
ケチで有名な大店に行って二文しか出さない番頭に文句を言う若い衆。それに対して番頭がまたなんだかんだとまくしたてると「もういいや、やめとこう。」とすっと引くところも、なんかさっぱりしていていいなぁ。

なんか聞いたことがあったなと思ったら、小満ん師匠で一度聞いたことがあったんだった。
いかにも落語らしい、バカバカしい噺。楽しかった!

 

柳家小満んの会

1/13(金)、お江戸日本橋亭で行われた「柳家小満んの会」に行ってきた。
二カ月に一回行われているこの会、毎回行きたいのはやまやまなのだが、他の会や寄席と重なったりしてなかなか行けない。
今年はこの会と関内ホールの会、できるだけ行きたいなぁと思っている。


・寿伴「真田小僧
・小満ん「成田詣り」
・小満ん「一刀成就」
~仲入り~
・小満ん「うどんや」


小満ん師匠「成田詣り」
酉年にちなんだ川柳や小噺。
上野動物園の売店をやってる方とお知り合いになってその方から聞いた話。
縁日で買って来たひよこが無事に育って雄鶏に。毎朝元気に鳴くのだがアパート暮らしなので近所に迷惑だろうと思い、子どもの学校に寄付することに。
数日後、校長先生から丁寧なお礼状が届いた。「いただきました雄鶏ですが、大変美味しくいただきました」。

それから漫画家の先生と知り合いになったのだが、そこでもやはり縁日で買ったひよこが育ってこちらは雌鶏に。
鳴く心配はないのだが糞に悩まされ、鶏におむつをして飼うことに。時々は首輪をつけて散歩に連れて行ったりしてご近所でも評判に。
旦那さんの方がこの鶏をとても可愛がって夜も自分の布団で一緒に寝ていたのだが、この鶏が卵を産んだもんだから奥さんが「亭主が鶏とできちゃった」と大変な焼きもち。
相談を受けた仲人さんが「鶏は無精卵だから」と説明したのだが「いいえ、あの人は手が早いんです。私の時もわからないうちにされたんですから」。この話を聞いた小満ん師匠が、なんて面白い奥さんだ!ぜひともお会いしてみたいというと、この奥さんはスナックをやってるからと教えてもらった。
訪ねてみると、奥さんが奥にいるおばあさんにああだこうだとガミガミ言っている。どうやらこのおばあさんがお姑さんらしいのだが、かなりきつい口のききよう。でもお客には「あーらいらっしゃい」と色っぽく。
鶏の話を聞いてみると「そうなんですよ。ほんとにうちの亭主は見境がないんだから」と、冗談なのか本気で信じてるのかわからない口調で言った、と。

いやぁもうおかしい~。
こういうことをにこにこと笑顔でお茶を飲みながらのんびり話されるからもう楽しくて楽しくて。
満員のお客さんたちが、子どもの頃に面白い話を聞かせてくれるおじさんのまわりに集まったみたいに、みんなキラキラした目で一心に聞いているのがたまらない。

お伊勢詣り、大山詣りについて話をしたあとに「もっと安直だったのが成田詣り」といって、「成田詣り」へ。
出入りしている店の主人の成田詣りにお供で行くことになった棟梁。お詣りに行く前日の夜、夜なべ仕事をしているおかみさんに「そんなのもうやめて布団に入ろう」と誘う。
明日の朝は早いから一番鳥が鳴いたら出かけなくちゃいけないから、と言う亭主なのだが、おかみさんはなかなか布団に入ろうとしない。
明日は早いんだ、一番鳥が鳴いたら出かけるんだ、7日間は帰ってこないんだ、だから「お暇乞い」をしないといけないんだ、と亭主。
気を残しちゃいけないとか生きて帰れないかもしれないと言って、誘っているのだ。

おかみさんが「亀(子ども)がまだ寝てないから」と言うと、「ほんとか?おい、亀」と亭主。すると亀が「あいよ!」。
「早く寝ろよ」と言うと「あいよ!」。
ほらもう寝たよ、と亭主が言うと「まだ寝てないよ」。
「まだ寝てないのか」「あいよ!」

サゲも下ネタで、くだらな~い(笑)。
あとで小満ん師匠が「バレ噺」と言っていたけど、なるほど~。面白かった。


小満ん師匠「一刀成就」
初めて聴く噺。
花魁のお蘭と駆け落ちした刀職人。まだ修業中の身の上だったので、師匠にも顔向けできなくなり親からも勘当され、田舎で鍛冶屋に身を落としている。
酒代も払えないような暮らしに文句を言いながらも惚れた弱みなのか、亭主のために嫌味を言われながら酒を都合してくるお蘭。酒が入って気が大きくなった亭主は「機会があれば刀を作ってみせる」と語る。
そんな話が耳に入ったのか、ある時領主に呼び出され、間に入ってくれた庄屋と出かけていくと、自分のために刀を作ってくれ、と言われる。前金として五十両を渡されて「名誉なこと」と大喜びの庄屋と、一方浮かない顔の亭主。
話を聞いてお蘭が喜ぶと「あの時は酒を飲んで大口を叩いたが、ほんとのことを言うと修業はしていたけれど刀を作ったことはない。大金を積まれたってこんな自分に刀なんか作れるはずがない」と泣き言を言う。
それを聞いたお蘭。「いいじゃないか。どうせあたしたちは駆け落ちした身なんだから、一度逃げるも二度逃げるも同じ。」と言い、酒を買ってきてその晩は二人で飲み床につく。
様子をうかがいに来た庄屋が声をかけると、まだ寝ていた亭主。起きてびっくり。五十両を手にお蘭は家を出てしまっていた。

事情を聞いた庄屋が、自分も間に入った手前があるから五十両は自分が用意する。その金で材料や手伝いを雇って意地でも刀を作り上げろ、と言う。
弱音を吐いていた亭主も、だめでもともとやってみるかと一念発起し、3年かけて刀を作り上げる…。

亭主に惚れているようだったお蘭。きっと刀が出来たという評判を聞いて帰ってくるんじゃないかな、と思って聞いていたんだけど、帰ってこず…。ええええ?そういう噺なのーとちょっとびっくり。

原作は幸田露伴の「一口剣 」という短編だとか。
古本屋で100円で買った本にこの話が載っていて、面白いと思って落語に仕立てたと…。
こんな噺を聴かせてくれるから、お話好きにはたまらないんだよなぁ…。


小満ん師匠「うどんや」
酔っぱらいの酔っぱらい加減がすごく良くてもうなんなのこれはと身悶えしたくなるほどの楽しさ。
みー坊の婚礼の話の繰り返しがくどくなくて、でも酔っぱらいのめんどくささが出ていて、たまらなくおかしい。
うどん屋に「如才ねぇな」と言ったり、突っかかったと思えば謝ったり、その加減がなんともいえず魅力的。

風邪ひきの客も最初からちゃんと風邪ひきらしくて、うどんを食べるところも短めで、いいなぁ。ほどがいいんだよなぁ…。
とても楽しい「うどんや」だった。この噺がこんなに面白いなんて。

ハリー・オーガスト、15回目の人生

 

ハリー・オーガスト、15回目の人生 (角川文庫)

ハリー・オーガスト、15回目の人生 (角川文庫)

 

 ★★★

1919年に生まれたハリー・オーガストは、死んでも誕生時と同じ状況で、記憶を残したまま生まれ変わる体質を持っていた。
彼は3回目の人生でその体質を受け入れ、11回目の人生で自分が世界の終わりをとめなければいけないことを知る。
終焉の原因は、同じ体質を持つ科学者ヴィンセント・ランキス。彼はある野望をもって、記憶の蓄積を利用し、科学技術の進化を加速させていた。
激動の20世紀、時を超えた対決の行方は?
解説・大森望  

ものすごーく期待して読んだけど「リプレイ」ほどのワクワク感はなかった。
おそらく世界の終わりを止めるということにあまり興味を持てなかったからだとおもう。
私が興味があるのは「人間」なんだな。世界の終わりを止めるより、繰り返し人生を送るハリーやヴィンセントがどういう人間でどんな体験をするのか、一度きりの人生を生きる人たちとの交わりがどうなのか、そっちに興味があったなぁ。

きっと夢中になってあっという間に読めると踏んでいたけどそうでもなかった。

末廣亭正月二之席夜の部

1/11(水)、末廣亭正月二之席夜の部に行ってきた。
 
喬太郎「茶代」
・南喬「牛ほめ」
・権太郎「代書屋」
・美登・美智 マジック
・小満ん「馬のす」
・金馬「七草
~仲入り~
・太神楽社中 寿獅子
・小袁治「紀州
・一朝「湯屋番」
・小さん「親子酒」
・正楽 紙切り
小三治 まくら
 
喬太郎師匠「茶代」
「寄席はまだお正月ですけどコンビニはもう恵方巻ですね。
コンビニではもうしょっちゅう恵方巻の予約やってる感じがします。3か月ぐらい。
だいたい恵方巻っていうのはなんなんですかね。
一方を向いて恵方巻をまるのまま何も言わずに食べるって…。
太巻きは切ってくれよ!それでお茶ぐらい飲ませろよ!」

場内大爆笑。
その後も、八千代銀行について熱く語り、これは落語はやらないのかなと思っていると「茶代」。初めて聴いた噺。
商用で江戸へやってきた二人。主人がお供の者に「江戸では六文から八文ぐらいは茶代を出さないといけない。これは八文出してもいいなと思う時と、こいつには六文で十分だんべと思うときがある。主人である私の思いがお前に伝わらないと面白くないからこれからは六文の時はお前のことを六助、八文の時は八助と呼ぶから。それを二人の間の暗号にしよう」と決める。
 
ある茶屋に入って主人が出て行こうとすると店の主が「雨が降って足元が汚れております」とわざわざ拭いてくれる。
これは八文だなと思い、「お代はお供の八助が払いますで」と言って先に出ていく。
それを聞いていたおかみさんが「お供の人は六助だったと思うんですが」というと、「そうか。それで茶代を伝えてるのか」と気づいた店の主。
お供の者に向かって「百助さん」と呼びかける…。
 
落語というより小噺だけど、喬太郎師匠がやるとこんな短い噺でも風景が浮かんできてすぐにその世界に入れる。すごい。
 
南喬師匠「牛ほめ」
いろんな噺をしてくれて、みんながやるような噺でも違ったバージョンで聞かせてくれる南喬師匠が大好きだ。
与太郎さんがにへにへご機嫌でかわいい「牛ほめ」。楽しかった。
 
権太郎師匠「代書屋」
ほんとに「代書屋」ばかりだなぁ…。
笑わないと「小三治の客は他の噺家では笑わない」と思われそうだけど、そうじゃなくていつもいつも同じ噺だからなんですよう。
 
小満ん師匠「馬のす」
出囃子が聞こえると胸がときめく。
酒を飲みながらなかなか馬の尻尾を抜いてどうなるかをしゃべらずに、「この間、髪結い床の親方に聞いたんだけどさ。毛が三本しかないお客が来たんだって。”七三に分けてくれ”って注文されて、仕方ないから何べんも二本と一本に分けてたら、一本抜けちゃってね。親方、謝ったんだけど、えらいね。怒らなかったって、その客。で、”真ん中わけにしてくれ”って言ったっていうじゃないの。」って話すのが、たまらなくおかしい。
すっと出てきてすっと噺に入ってすっと帰る小満ん師匠が素敵だった~。
 
金馬師匠「七草
鏡開きですから今日はめったにやられない噺をやりましょうか。
七草」っていうんですけどこれは今は私ぐらいしかやらないんじゃないかな。難しいから、じゃなくてあまりにばかばかしいから。
でもこういう日じゃないと出きない噺ですからお土産代わりに。
 
昔は鏡開きの日には家の前に新しいまな板を置いて家の主が七草トントン刻んだ。その時に節をつけて歌い、後ろに並んだ家族の者も声をそろえて歌った。
歌の内容は、中国から飛んできた鳥が悪い病を運んでこないように。悪い病を持ってる鳥は途中で落ちてくれ、っていうもの。
今はこういう風習はなくなりましたね。
マンションの玄関をあけて、七草を刻みながら家族で大声でこんな歌を歌ってたら、イカれちゃったかと思われますね。
 
そんなまくらから「七草」。
吉原に七越という花魁がいた。絶世の美女で芸事にも長けている。なのに裏を返す客がない。
おかしいと思って主が調べてみると、七越はつまみ食いをするという悪い癖があってそれが客に嫌われてるらしい。
主が七越を呼んで注意すると「申し訳ありません」と恥ずかしがった七越花魁。
それ以来つまみ食いをやめ、そのとたんお客の指名も増えて、あっという間に人気の花魁に。
 
あるとき、お大臣がたいこ持ちなどを引き連れて遊びに来た。
ちょっとはばかりへ…というと、みんなお供についていってしまい、部屋には七越花魁一人。
ちょうどほうぼうの焼いたのが手つかずでおいてあり、人がいないので悪い癖が出て思わずつまみ食いをした七越。
そこへお大臣たちが戻ってきたので慌てて飲み込むと、小骨がのどに刺さってえらい痛がりよう。
何があったか気づいたお大臣。後ろに回って七越の背中をとんとん叩きながら、鏡開きの時の歌を替え歌で…。
 
確かにだからなんなんだっていうようなとりとめもない噺なんだけど、こういう季節にあった噺を聞けるのってほんとに幸せ。寄席ってすばらしい。
 
太神楽社中 寿獅子
今日の獅子はなんかだるそう。これは勝丸さんじゃないかな、と思っていたらやっぱりそうだった。
いよいよ私も獅子を誰がやってるかわかるまでになってしまった…
 
小袁治師匠「紀州
政治の話を挟みながら「紀州」。面白かったんだけど、マックくん、声が小さいよー。あれじゃ後ろの方の人とか老人は聞こえないんじゃないかなぁ。
 
一朝師匠「湯屋番」
「湯屋番」ってたいていの人がやると「がんばってるね」って感じがしちゃうんだけど、一朝師匠だとただひたすらにばかばかしくて楽しい。
「ばかやろう!」と大きな声で言うだけでこんなに笑える噺家さんは他にはいないよなぁ。
ほんとに素敵。
 
小さん師匠「親子酒」
毎度毎度の「親子酒」だけど…。うーん。
 
正楽師匠 紙切り
連凧」の注文に「連凧…ってなに?連なってる?」と切り始め「連凧とは…気が付かなかったな」とつぶやいたのには大爆笑。しかも出来上がった作品がものすごく素敵っていう。すばらしい。
 
小三治師匠
お正月は必ず寄席に来るというお客様がいらっしゃいます。
毎年お正月は寄席に来てるんだ、のべつ来てるんだ、正月に寄席に来ないと始まらないんだとおっしゃってくださる。
それは大変ありがたいんです。ほんとにありがたい。
でも寄席は毎日やってるんです。1日来てもあとの364日は…。
それじゃ寂しいです。何が言いたいかというと、寂しいからもっと来てね、ってことです。
そうですねぇ。春は春の噺が出ますから、春に一度、夏、秋、冬、それからお正月。
…来てくださいね。
 
小三治師匠ににっこり笑われてそう言われたらもう来ます来ます来ますともー。
って言われなくてももっと行ってる。あほのように。もうやめてくれ、と言われかねないぐらい。ふっ。
 
今日、楽屋に入ってからなんか顔がべたつく感じがして、付いてくれてる女の子(マネージャーさん)に「脂取り紙を出してくれ」って言ったんです。
京都で買った脂取り紙を持ち歩いてるんで。
そうしたら女の子が「師匠の顔にはもう脂はありません。だから脂を取る必要はありません。むしろ塗った方がいいくらいです」って言うんです。
あんまりじゃないですか。嘘でもいいから拭いて「師匠、さっぱりしましたよ!」って言ってくれればいいじゃないですか。
 
…ぶわははは。面白い!でも小三治師匠、めんどくさいー(笑)。
 
年末から正月にかけてBSで美空ひばりの番組をやっていて見て、改めて本当にこの人は歌がうまいなぁと思った、と。
自分が歌謡曲を聞くようになったのは春日八郎の「別れの一本杉」を聞いてからと言って、作曲家の船村徹文化勲章を受章したことに触れ、この人がいかに素晴らしい作曲家かということを話す小三治師匠。
自慢ののどを聞かせつつ、途中で「あ、今日は落語はやりませんよ」と言うと拍手したお客さんがいたんだけど、すると「え?この拍手はどういう意味?落語聞きに来たんじゃないの?」
 
私も基本的には落語が聞きたいと思っているんだけど、小三治師匠ならまくらだけでもうれしい。
というのはまくらって元気な時じゃないとできないんだなぁと何年小三治師匠を見ていて感じているから。
結構その場の思い付きで話をするのって大変で、気力と体力があるときじゃないとできないのだろう。
私が小三治師匠を見始めた時、師匠の体調がかなり悪い時だったらしくて、まくらもほとんどなく噺に入ることが多かったから、こうやって話し出して止まらない師匠を見られるのはとてもうれしい。
小三治師匠のまくらは笑わせようとかウケるからやってるいつものアレとかじゃないし。
 
船村徹について熱く語った小三治師匠だったんだけど、なんとなくこう老いていくこととか、いろんなことを諦めながら一つのことをひたすら頑張ってきたっていうことに対するリスペクトや共感があったように感じた。
楽しかった!
 
 
 

桃月庵白酒独演会 本多劇場編

1/10(火)「桃月庵白酒独演会 本多劇場編」に行ってきた。
今年は白酒師匠の会にもっと行くどーと言ったとたんに独演会に行ってしまう私。
チケットサイト(オークションじゃない)をまめにチェックしていたらこの会のチケットを見つけたので行けてしまったのだ。ひゃっほい。

・はまぐり「手紙無筆」
・白酒「明烏
~仲入り~
・白酒「新版三十石」
・白酒「芝浜」

 

白酒師匠「明烏
本多劇場で落語ができるのはとても名誉だし、なかなかやれるもんじゃない、と白酒師匠。
普通じゃ借りられませんから。それなりの収入、社会的地位、信用ってものがないと。だからねこにゃ(この会の主催者さん)もついに信用されるようになったんですね。
昇太兄貴からも言われたことありますよ。本多劇場はやりやすい、すごくいい会場だ、って。紀伊国屋ホールとは大違いだって。
この頃は、落語をやらないような場所や会場でも落語をやるようになってありがたいです。
この間は私はZEPP東京でやりましたね。ひろーい会場ですよ。そこで落語をね。間に合わせで貼ったなっていういかにも安っぽい紙を高座の後ろに貼ってあってね。案の定時間がたったらはがれてきましたけど。
あと今度あるのが六本木での落語会。「ギロッポン寄席」って…もう名前だけで失敗だな、この企画!っていうのがありありですけどね。

…最初からガンガン毒を吐く白酒師匠。
すらすらすらすら言葉が出てくるからおかしくておかしくて。

あと、正月の鈴本の楽屋で春日部をディスった話などから、「裏原宿」「裏浅草」。
原宿なんかぼったくりの服屋がありますから、と。
絵具こぼしたようなTシャツが5000円。しかも穴が開いてるじゃん?え?USED?なにそれ?
もちろん買いましたけどね。
それを着て大学行ったら、だめですね、落研の連中なんて。「あれ?それ破れてるよ!」「違うよ。これUSEDなんだよ」「いやでもまじで破けてるって」
…こういうオシャレがわからないんだから。

白酒師匠と原宿って…全然想像つかないうえに、そのぼったくりの服屋で5000円のTシャツ買うんだ?!
なんかもうすごくおかしいんですけど。

そんなまくらから「明烏」。
基本的には普通の「明烏」なのだった。どうも白酒師匠だと変な期待をしちゃうから、普通だと「え?ふつう?」って思っちゃう。
でも時次郎が散歩に行って近所の子どもと太鼓を叩いて遊んだあと路地を飛んでいた白い蝶に誘われてふらふらっと迷い込んでしまい、八歳の子どもに家まで連れ帰ってもらったり、源兵衛太助のところにやってくる時に、スローモーションのように手を振りながら走ってきたリ(なんとなくこの走り方で、時次郎=ぽっちゃり、のイメージが)、ところどころひねってある。

茶屋のおばさんが無駄に(!)きちんとしていて丁寧なのがおかしい。
「お巫女頭」と呼ばれたおばさんにまわりから「頭コール」が起きるっていうのもばかばかしくて素敵。
さんざん嫌がっていた時次郎が一晩明けて大人になって、声がダンディになっていたのにも笑った。

白酒師匠「新版三十石」
お正月の寄席はいつも以上にその寄席の色合いがくっきり。
自分は鈴本、浅草、東洋館と出ていたんだけど、それぞれ全く違うお客さんで違う雰囲気だった。
鈴本は前売りなので「鑑賞しよう」という落ち着いたお客さん。「小三治まであと何人?」とプログラムをチェックする奥様も多い。
そういう時はわざとたっぷりやって「小三治は来ませんよ」と言ったりする。
この雰囲気に〇〇師匠なんかはみるみるやさぐれていくんだけど、舞台に上がるときにはきゅっと笑顔になるからさすがですね。
浅草はもういつも以上に浅草!何を言ってもきゃーきゃー喜んでる。こっちがなにやろうが何も聞いてない。持ち時間も短いから適当なところで「冗談言っちゃいけねぇ」で降りる。下手したら「こんちは」「おや、誰かと思えばはっつぁんかい」「冗談言っちゃいけねぇ」。これでも拍手がもらえる。
東洋館は浅草に入れなかったお客さんが仕方なく入って来てる。だから全体的にあきらめモード。それでも小朝師匠なんかが出てると「そこまでは我慢していよう」と思うらしい。だから小朝師匠が終わるとお客さんが帰っていく。でもこういうお客さんが帰った後の雰囲気がなんともいえずいい。

私もこの間、東洋館と鈴本のハシゴをしたから、この雰囲気の違いとってもよくわかる。そうそう!とうれしくなってしまった。

そんなまくらから「新版三十石」。これはこの間鈴本で見て大爆笑したんだけど、いやもうほんとにすごい破壊力。腹筋痛くなるぐらい笑った。
浪曲師が携帯に出るところ、マナーモードなんだよね(笑)。もうこういうところがたまらない。そして出たら「あー今高座中。ビレッジバンガードで待ってろ」って。ぶわははは!


白酒師匠「芝浜」
ネタ出しされていたこの噺。
おかみさんが旦那を起こす起こし方が激しくて最初から大笑い。
旦那が河岸に行きたくなくてグズグズいうんだけど、全然聞かないおかみさん。ああだこうだと言い訳をする旦那に、全然負けずに「行け行け」いうおかみさんがリアルでおかしい。挙句の果てには蹴り出してしまう。
旦那が出かけるとそのまま寝てしまうおかみさん。
財布を拾うシーンはなくて亭主が戸をどんどん叩く音で目が覚める
「お前、起こすのが早かったよ」と言われると「え?そうなの?あーだから眠かったんだ」。
「謝らないのかよ」
「なんで謝らなきゃいけないのよ。起こすのが遅かったら謝るけど早かったから間に合ったでしょ?」
「お前は…謝らないなぁ…」
なんかすごくちゃんと「夫婦」なんだよな。フツウの「芝浜」よりずっと夫婦感が出てる。

お酒飲んでどんちゃん騒ぎして次の朝、前の日以上の激しさで旦那を起こすおかみさん。
「仕事に行っておくれよ」。
財布を拾ったという旦那に「夢だよ」と言い張るおかみさん。
「ええ?だってあんなにはっきりした…そんな夢って」
「そういう夢、見ることもあるだろ?」
「うん。あるんだよな…」
説得されてしまう旦那がなんともいえずかわいい。

そして酒をやめて三か月働けば借金は返せる、でも酒をやめなければ三年かかるというおかみさんに「三か月か。三年は無理だけど三か月ならできるかもしれねぇな。酒をやめればほんとに三か月で返せる?」「返せるよ!」。
それから三年たった大晦日。
「三年前の晦日は大変だったな。借金取りをお前が黙ってにらんで帰して」に大笑い。
「働けばいいんだな。働く方が楽だな。」という言葉にすごい説得力がある。

おかみさんが財布を出して事情を話すと「そうだろ?やっぱりそうだよ。ほんとにあったんだよ。だってはっきりしてたもん」と旦那。
お前さん信じやすいから目を見て三回言えばたいてい信じるから。あの時は二回で信じたし」というおかみさんに、がははと笑う旦那。
おかみさんが謝ると「謝ることないよ。かかあ大明神だよ。お前はえらいよ。謝るところじゃないよここは。お前、謝らなきゃいけないときに謝らないのに、謝るところじゃないところで謝るんだな」

うううう。
ものすごく軽くて明るくてばかばかしいのに、すごくちゃんと夫婦で、最後のセリフもかっこつけてなくて、「てへ!」って感じなのに、なんかじーんときてしまった。

今まで聞いた「芝浜」でピカイチに好きだった。これだから白酒師匠はもう!

小んぶにだっこ

1/9(月)、小んぶにだっこに行って来た。
前々回が小んぶさん急病のため中止、前回他の落語と当たっていたため欠席で、久しぶりの小んぶにだっこ。
はりきりすぎてえらい早い時間に上野広小路に着いてしまい、一時間ほどタリーズで時間をつぶす羽目に。
最近ほんとによく時間を間違えるし見積もりを間違える…。年のせいかのう…しょぼしょぼ。

・小んぶ「寝床」
~仲入り~
・小んぶ「実録桃太郎(?)」
・小んぶ「禁酒番屋


小んぶさん「寝床」
ほとんどの方とはあけましておめでとうございますですね、と小んぶさん。
お正月といえば我々の世界ではお年玉ですね。
前座の頃はうれしかったですよ。いただく方でしたから。
特にテレビに出てるような師匠はね…私も前座の時に国立でしたか、元日に小遊三師匠に挨拶したら「ほい」っていただきましてね。
次の日になったらまた小遊三師匠が私を呼びつけて「お年玉だよ」ってくれるんです。
「あ、師匠、私は昨日いただきました」というと「いいんだよ。そんなの」。
すごく優しい師匠なんですね…。
それで次の日は自分から訪ねていきましてね。「またお前かっ!」って言われたりなんかして。
で、あの頃は、自分も先輩になったらあんな風にあげたいな、と思ったんですけどね…。
そんな気持ちもニツ目5年目ぐらいまででしたね。
これ、いつまで続くのか、と。いくらの赤字なんだ、と。
そういう計算しだしたらダメですね。
ええと…。もうやめましょう、この話は。

ぶわははは。
ちょっと話しかけて、やっぱりこんな話はやめよう!と逡巡する小んぶさんがおかしかったー。

そんなまくらから「寝床」。
そういえば私が初めて小んぶさんを見た時、「寝床」だったんだ。池袋の中華料理屋さんだったっけ。
あの時と比べるとだいぶ進化?していて、爆笑の「寝床」だった。

とにかく旦那が「うぉっほん」と咳ばらいをしたり「あ、あーー。おえーー」とのど慣らしをしたりが激しい。
そして「今日の私は絶好調だ」のつぶやき。

最初の旦那のご機嫌ぶりとテンションの高さが、繁蔵から話を聞くにつれどんどんテンションが下がって行くんだけど、それと同時に小んぶさんのテンションも下がっていったのが面白いような残念なような…。
そういう意味では最初飛ばしすぎになっちゃってたのかもしれない。

お豆腐屋さんが来られない言い訳に、銀杏の薄皮を剥くむずかしさを力説したのはおかしかった。
あれはどうやっても剥くのが難しい。そしてくさい。
でもずっと剥き続けているとそのうち臭さが気にならなくなってきて感じなくなってくる。
で、手を洗って、ふと手を匂って「くさい」と気づく時には2周ぐらいまわっていい思い出になっているって。
いかにも小んぶさんらしい変な理屈で笑った笑った。

言い訳をし続けているうちに繁蔵も投げやりになってきて「よしどんは屋根から落ちて死にました」
それを聞いた旦那も「ああ、そうか」。
スルーかよっ!(笑)

気を悪くして部屋にこもった旦那のところへ番頭がやってきたときに、旦那が「やっときたか。おそい」とつぶやいたのがおかしい。
何度も旦那を説得しようとしてあきらめかける番頭に旦那が「お前はなぜそこで諦める。でしょうけれども、を使えないのか。商売でもなんでもそうだよ。」。
そして「やりませんよ」と言ったあとに、ほらここだよと言わんばかりに目で合図するのがおかしい~。

集められた人たちが「ああ、今年もここまでか」「逃げ切れなかったな」と言いあいながら「でもあきらめちゃいけない。こうやって抵抗し続けていればいずれは革命を起こすことができる」と言ったのもおかしい。

とにかくすさまじくて大爆笑の「寝床」だった。
 
小んぶさん「実録桃太郎(?)」
毎回楽しみな小んぶさんの新作。
セオリーとかそういうの一切無視というか、ほんとに体当たりで作ってきた、っていう新作で、すごく小んぶさんらしくて面白い。
ご本人曰く、前回披露した新作は我ながら会心の作だったらしいのだけれど、今回は最初から「だめですね」と。そういってやり始めるって…シュール!

おとうさんが息子に実録桃太郎を聞かせてやるという話。
おじいさんは山に芝刈りには行かず暇つぶしに出かけ、おばあさんも川に洗濯にはいかず暇つぶしに出かけ、駅のコインロッカーから赤ん坊の泣き声が聞こえてきたので開けてみると中には赤ちゃん。
その子を「コインロッカー太郎」と名付けて育てる。
コインロッカー太郎が大きくなって鬼退治に出かけようとする…というと話を聞かされていた子どもが「お、おに?実録はどうなっちゃた?」。「いやまぁまて。そこはあとで」
きびだんごじゃなくコンビニのレジに並んでいてつい買ってしまったみたらし団子を持って歩いていると犬が声をかけてきて。「そこ…しゃべっちゃう?犬?実録は…?」
確かにこれは傑作ではないな(笑)という新作ではあったけれど、ちょいちょい入る小んぶさんらしい疑問の声がなんか面白かった。

小んぶさん「禁酒番屋
一席目の「寝床」と違って真っ当な「禁酒番屋」。
弾けた小んぶさんもいいけど、きちんとやる小んぶさんもいいな。
酒を飲んで気をよくした番屋の役人が「おお、酒屋、来たか」と嬉しそうな顔をするのが面白い。
小んぶさんの大胆さと繊細さが入り混じった「禁酒番屋」でとてもよかった。

黒門亭 2860回

1/7(土)、黒門亭2860回第二部に行ってきた。
時松さん、きく麿師匠、小満ん師匠を目当てに行ったんだけど、初めて生で見た右女助師匠もとても好みで、ものすごいお得感!寒空の下、長時間並んだ甲斐があったなぁ。

・市若「元犬」
・時松「河豚鍋
・右女助「真田小僧
~仲入り~
・きく麿「歯ンデレラ」
・小満ん「御慶」

時松さん「河豚鍋
時々うっかりネットで検索してお客さんの書いてるブログを読んでしまうことがある。
というのは私たちの仕事って半年ぐらい前に「この日空いてる?」と電話がかかってきて「空いてます」と言うと「じゃよろしくね~」と言われ、そのまま何の連絡もないまま何か月も過ぎることがある。
主催者側はおそらく演者のスケジュールを抑えたら安心してしまうのだろう。
でもそういう場合でもたいていお客様に向けてはチラシを作ったりサイトに情報を載せてたりするので、自分は何時ぐらいにあがるんだろう?どういう内容の会なんだろう?とネットで検索するのである。
すると個人でやってるブログで自分の高座をかなり辛辣に批判してる記事に当たってしまったりして、かなり痛手を受けてしまう。

ひぃ~。そそそうですよね。このネット社会。ご本人が私のようなド素人が好き勝手にパーパー書いてる記事を目にしてしまうこともあるんですよね。
自分としてはこんな極北ブログ誰も見てないさ~と思っているから好き勝手に書いてるわけで、批評のつもりもないしましてや貶めるつもりもないんだけど…き、気を付けよう。
基本的には「好き!」と思ったことだけ書くようにしてるんだけど、時々いらっとすると悪いことを書いてしまうこともあり…。反省。

そんなまくらから「河豚鍋」。お互いに河豚を食べさせようとする攻防がすごく楽しい。お調子者で猫にまでお世辞を言う一八が鍋の中身を執拗に確認しようとするのがおかしい。
そして鍋がほんとにうまそうで…じゅるり…。とても楽しい「河豚鍋」だった。
時松さんの真打披露目、絶対見に行こう。


右女助師匠「真田小僧
東日本大震災以来、すぐに逃げられるように三階より下に住むようにしていた右女助師匠。でも最近マンションの五階に引っ越しをした。同級生には「三階以下に住むって言ってたくせに」と言われたんだけど、これには訳があって。
自分の部屋のベランダのすぐ近くに電柱があるから、そこから降りることができるだろうと踏んだのである。
とはいえ、電柱の掴まるところって金属でできていて、万が一火事になったりすると持つところが熱いんじゃないかということを懸念。どうしたらいいだろうと考えた末、料理用のミトンがいいんじゃないかと思いついた。それでネットで探して注文。それもオレンジ色のミトン。なぜオレンジにしたかといえば、助けに来てくれた消防士さんの服とお揃いの色だから真っ先に助けてくれるんじゃないかと思って。
同窓会の時にそんな話をしたら「ミトンつけて電信柱は降りれられない」と一蹴された。

で、実はこのまくらは「二番煎じ」をやるつもりで用意してきたらしいんだけど、時松さんに「河豚鍋」をやられてしまったから、できなくなってしまった。
しょうがないから「真田小僧」を通しでやります、と。

右女助師匠を生で見るのは初めてだったんだけど、さらっとした語り口がとっても好み。
父親が金坊の話にどんどん前のめりになってきておかみさんが浮気をしたと思い込んで「チクショー」というのもおかしい。
テンポがよくてリズムというか呼吸というか…それがとても心地よくて聞いていて楽しくなってくる。
真打ちになった時にテレビで見たことがあってその時はちょっとシニカルに感じたんだけど、生で見るとそこも含めてとても楽しかった。
もっと見てみたい。


きく麿師匠「歯ンデレラ」
寿伴さんと花巻の仕事に行って、打ち上げで盛り上がって日帰りはやめて泊まっていくことにした。きく麿師匠は帰りの切符を買ってなかったんだけど、寿伴さんは買っていて、だったらその切符を払い戻してついでに二人分の帰りの切符を買ってきて、と使いに出したのだが、いつまでたっても寿伴さんが戻ってこない。
ようやく戻ってきたと思ったら、花巻駅では帰りの切符が買えなかったので新花巻駅まで行ってきた、と。
タクシーで新花巻まで往復したから金額もかなりかかりその費用も俺が払うんだぞ!とキレそうになったら、寿伴さんがタクシー運転手に「苦しいことから逃げたらだめだ」と励まされ、怒られるのを覚悟で死ぬ気で?帰ってきたと言うものだから、ますます腹が立った、と。

それから老人ホームで仕事をしたときのこと。
反応の薄いおじいさんおばあさんにいつも心が折れそうになるんだけど、そんな時に楽屋まで訪ねて来てくれて「面白かったよ」と言ってくれたおじいちゃん。90歳をこえるというのにとても元気。健康の秘訣を聞くと「歯が丈夫なこと」。歯がダメになると食べられなくなって徐々に弱っていってしまう。自分は歯が丈夫だから何でも食べられる、とがばっと入れ歯をはずして見せてくれた…。

そんなまくらから「歯ンデレラ」。
今から仕事に出るというお嫁さんにあれやこれやと指示をされているお姑さん。
おかあさんの料理は塩辛いから気を付けてくれだの、保育園のお迎えも行けだの、お迎えに行った時祖母だと分かると預けられなくなっちゃうから近所のおばあさんだと言えだの、言いたい放題言われて、ぶうぶう文句。
そんな嫁が出て行くと入れ替わりにやってきたのが近所の友だち。
久しぶりに会った彼女がなんか顔が変わったと思ったら「すごくいい入れ歯に変えた」と。いい歯医者さんだから紹介するわと言われて行ってみると、確かに今まで入れてた入れ歯とは大違いでぴったりきてまったく痛くない。
そんな時、その友だちから合コンに誘われて行ってみると、大金持ちのおじいさんと気があっていい感じに。お互いに盛り上がっていたのだがふと気が付くと夕飯の時間。遅れるとまた嫁にいびられる!と慌てて帰るおばあさん。その時口の中から入れ歯が飛び出して…。

もう最初から最後までおかしくて笑い通し。
嫁と姑の攻防がめちゃくちゃおかしい。「スナックヒヤシンス」もそうだけど、きく麿師匠の女の人たちの悪口って妙にリアルなんだけど相当きついことを言ってもなんか哀愁がちょっと漂っていてそこがたまらなく面白い。よく男の人がやる「あーら奥様」的な嘘くささがないんだ。

あと入れ歯をはずしたあとに口がくちゅっとなるしぐさ…。もうもう!あの顔がたまらない。
小満ん師匠の前の出番で何をやるんだろうねーと友だちと楽しみにしていたんだけど、期待以上の破壊力で楽しかった~。

小満ん師匠「御慶」
小満ん師匠の初夢。散歩していると突然の雨。あわててジャンプ傘を開くと、柄だけ残して傘がぴゅーん!と空高く飛んで行ってしまった。あの傘は…イスラエルにでも飛んで行ったんでしょうか。でも謎の物体がイスラエルに落ちた、というニュースはなかったからおそらく無事だったんでしょう。
くーー。かっこいいっ。なんなのこのかっこよさは。

そんなまくらから「御慶」。小満ん師匠の「御慶」は前に関内ホールの会で聞いたことがあったんだけど、お正月に小満ん師匠の「御慶」を聴ける幸せよ…。
富くじがあたって本当にめでたいお正月を迎えることになった八五郎。おかみさんや大家さんとのやりとりも微笑ましいし、古着屋に行って衣装や刀をそろえるところは見ているこちらもうきうきしてくるし、「ぎょけいっ!」と奇声をあげるのも楽しくて、おめでたさのおすそ分けをしてもらった気分。

落語でしか味わえない世界を満喫。
ほんとに大満足の黒門亭だった。

人生の真実

 

 ★★★★★

この子はあたしたちが面倒を見る。よそにはやらないよ――千里眼を持つ女家長マーサの決断により、赤ん坊はヴァイン家の八人の女たちに育てられることになった。フランクと名づけられた男の子は、戦争の残した傷跡から立ち上がろうとする街で、一風変わった一族に囲まれて大きくなってゆく。生と死のさまざまなかたちを見つめる家族の姿を、英国幻想小説界の巨匠が鮮やかに描き上げた、世界幻想文学大賞受賞作。  

千里眼の能力を持ちながらただひたすらに家族の幸せを願う肝っ玉母さんマーサを中心に、個性的で主張が激しい7人の娘たちとその配偶者からなるヴァイン家。姉妹の中で一番イカれているとされているキャシーが、生んだ赤ん坊を譲るために待ち合わせ場所にいるところから物語は始まる。

最初に生んだ子供も同じように他人に譲ったキャシーだったが、もう同じ過ちは犯したくないと待ち合わせ場所から家に帰ってくる。
家族は「お前に育てられるわけがない」と喧々諤々なのだが、母親のマーサの「分担して赤ん坊を育てることにしよう」という一言で、この赤ん坊は他人に譲らずに自分たちで育てていくことに決まる。
フランクと名付けられたこの赤ん坊は、マーサと姉妹たちの家を渡り歩きながら成長していく。

世界幻想文学大賞受賞の作品らしいが、SFでも幻想文学でもなく家族の物語に魔法の要素がちりばめられている。
第二次世界大戦の傷跡が残るコヴェントリーの町で、死や破壊の影に脅かされながらも、一家はマーサを中心にかたく結束し、さまざまな出来事を乗り越えていく。

戦争で破壊されたコヴェントリーが復興し生まれ変わるように、さまざまな出来事で傷ついた心や人間関係も家族で団結して修復させていく。
死さえも味方につけて生きる人たち。

年越しで読んだ本がこれで「当たり」な気分。
とてもよかった。

末廣亭初席夜の部

1/5(木)、末廣亭初席夜の部に行ってきた。


・遊馬「牛ほめ」
・茶楽「紙入れ」
・扇鶴 粋曲
・談幸「かつぎや」
・栄馬「茄子娘」
~仲入り~
・寿獅子
・笑遊「魚根問」&百面相
・ニュースペーパー
・南なん「狸札」
・小文治 小噺
北見伸 マジック
・文治「親子酒」


遊馬師匠「牛ほめ」
遊馬師匠の与太郎さんは声が大きくてにこにこしていてかわいい。
いいなぁと思ったのは、家をほめにおじさんの家に行って「ああ、ここか。立派になったなぁ」って家を見上げるところ。
教えられた通りに褒めるっていうだけじゃなくて、ちゃんと与太郎が家を見て立派になったと感心してるところ、初めて見た。とっても新鮮だった。
大きくて明るい声を生かした牛ほめ、とてもよかった。
あ!牛はほめなかったから「家ほめ」か。


茶楽師匠「紙入れ」
茶楽師匠で「紙入れ」以外のネタを見たことがない。たまには違う噺を見たいな。
と思ったんだけど検索してみたらまだ二回しか見たことがなかったみたい。
二回だけで「紙入れしかやってない」と言い切るのは失礼だな。
そして茶楽師匠の「紙入れ」は無駄にエロい。
無駄にって言い切るのも失礼か。


扇鶴先生 粋曲
いいわぁ…。
この日のお客さんは反応が薄いというか遅いというか…そんな雰囲気だったんだけど、意外にも(!)扇鶴先生の呼吸とは合っていて、さざなみのような笑い(それもいい感じの)が起きていた。
もう好きよ、ほんと。愛おしさしかない。

ちらりと横を見て「終わっていいそうです」って言うの、楽屋から前座さんが「もう終わっていいよ」の合図をしてるのが見えて、ほんとにしてるんだ!と笑ってしまった。

 

談幸師匠「かつぎや」
わーい、談幸師匠!
さん助師匠のは縁起の悪いことばかり言ってて、市馬師匠のは縁起のいいことばかり言う「かつぎや」。どう考えても縁起のいい方が本筋だろうとは思っていたんだけど、私の長年の(といってもたいした長年じゃない。2年位)疑問が解消された「かつぎや」だった。
年始の訪問客の読み合わせをしてる時に奉公人が縁起の悪いことばかり言うんだけど、さん助師匠はここで終わりにしていたのか。
「これはいかん」と番頭が舩屋を呼び入れて、その船屋が縁起のいいことばかりを言うんだけど、市馬師匠がやられていた時には読み合わせの場面がなかったから、縁起のいいこと尽くしで終わっていたんだな。
「かつぎや」なんだから、切るなら明らかに前半だろうに、後半を切るところが、いかにもさん助師匠らしい。(ほめてます?)

談幸師匠は流れるように全編通してやってくれて、しかももううきうきと楽しくなるような高座で素敵だった~。絶対的安定感。


栄馬師匠「茄子娘」
この師匠も「茄子娘」以外見たことがないんだけど、この風貌でこの語り口でいつでも「茄子娘」っていうの、一つのかたちとして完成しているからこれはこれでいいのかもしれない。
茄子娘が一人で寝起きしてると聞いて「危ないよ。宮崎がでたらどうする」っていうのも古い(でも古典的でもない)くすぐり…。


寿獅子
昨日鈴本で見た獅子に比べると動きがかなりもっさりしている獅子
お年寄りの人が入ってるのかなと思っていたら、小助くんだった。わはははは。


笑遊師匠「魚根問」&百面相
笑遊師匠の「魚根問」、オチを言う時のこれからくだらないことを言うぞ~感がたまらなくおかしい。
「するめいか」の隊をなして「進め!いか!」には吹き出したし、「くじら」の名前の訳を言う時に「あーー楽屋にいる南なんにバカにされる!」と言ったのもめちゃくちゃおかしかった。
そしてお正月らしく百面相。恵比須様と花咲かじいさん。かわいかった!


ニュースペーパー いつもの政治家のやつ
無理。

南なん師匠「狸札」
わーい!今年初南なん師匠。
まくらなしでショートバージョンの「狸札」。
なんか狸がとってもかわいい!
あと小僧に化けた狸が最初おかみさんに化けようとしたけど「親方のその面じゃおかみさんが来るわけないし」と言ったのがちょっと気になっちゃったなー。
「札が札をもってきちゃいけねぇ」っていうのなし。
「長短」もそうだけど、南なん師匠って終わり方にとってもこだわってる印象がある。


文治師匠「親子酒」
文治師匠らしい遊びがいっぱい入った「親子酒」。
塩辛の食べ方がとってもリアルだったのと、お酒の飲み方がいい意味で?下品だったな。

鈴本演芸場 正月初席第三部

1/4(水)、鈴本演芸場 正月初席第三部に行ってきた。

・紋之助 曲独楽
・さん助「雑俳」
ホンキートンク 漫才
・琴柳「海賊退治」
・夢葉 マジック
・一朝「初天神
・雲助「子だけほめ」
・白酒「新版三十石」
・小菊 粋曲
・権太楼「代書屋」
~仲入り~
・太神楽社中 寿獅子
・市馬「かつぎ屋」
・小猫 ものまね
喬太郎「コロッケそば」
・正楽 紙切り
・三三「元犬」


紋之助先生 曲独楽
ああ、正月だなぁという華やかさとめでたさ。素晴らしい。


さん助師匠「雑排」
ビミョーなまくらとは裏腹に噺に入るとのびやかになるところがいいなー。
「ねこのこのぅーー」もおかしいんだけど、普通のところ(「初雪や」のくだり)も面白い。
ほんと頭おかしくて好き。(さん助師匠の落語についての感想ってなんで全体的に失礼な感じになってしまうんだろう?)


琴柳先生「海賊退治」
前に池袋で聞いたことがあったんだけど、後半が聞きたいようー。どうなったんだー。気になるっ。


一朝師匠「初天神
おとうさんも子どもっぽいところがあるけどいかにも江戸っ子って感じでさっぱりしているし、子どももうるさいけど毒がなくてかわいい。
だんごをなめるしぐさも全然下品じゃないんだなー。大好き。


雲助師匠「子だけほめ」
おお、これは前にらくご街道で聞いた子どもだけ褒めるやつだ。
この八っつぁん、とんでもなく口が悪いんだけど、まるで憎めない。なんかほんとにすべるように暴言が出てくるのでそのリズムで笑ってしまう。
そしてこれだけよくやられている噺のちょっと違ったバージョンをかける雲助師匠ってほんとにすてき。ラブ。


白酒師匠「新版三十石」
もう最高におかしくって死ぬほど笑った。
雲助師匠の「新版三十石」も大好きだけど、またそれと一味違っていて違った面白さが生まれてる。
なまりのきっつい浪曲だけでもおかしいのに、やってる最中に浪曲師の携帯が鳴って出ちゃうっていうばかばかしさ。最高。
やっぱりいいなぁ、白酒師匠の落語は。べらぼうに面白い。今年はもっと行こう、白酒師匠の会に。


小菊先生 粋曲
かっこいい~。小菊先生を聴いちゃうと、他の人のがすごくまったりして聞こえるんだよなぁ。
都々逸でちょっと泣きそうになっちゃった。弱ってるのかな、わたし。


太神楽社中 寿獅子
この元気な獅子はもしかして…と思っていたら、仙成くん!
成長著しいったらありゃしない。もうかーさん涙が止まらない。


市馬師匠「かつぎ屋」
必ずこういう時に季節に合った落語をする市馬師匠が大好きだ。
さん助師匠の「かつぎ屋」は縁起に障るようなことばかり言うバージョンだけど(さすが天邪鬼←ほめてます?)、市馬師匠のはひたすらに縁起のいい言葉を並べるバージョン。楽しかった~。
東洋館で見た時は気が付かなかったけど、すごい鼻声。お風邪を召されているようだった。早く治りますように…。


小猫先生 ものまね
構成が素晴らしくてトークも上手だからものまねが引き立つんだなぁ。ほれぼれ。
小猫先生もお正月らしい華やかさとめでたさがあって素敵。


喬太郎師匠「コロッケそば」
ノリノリでキレキレの「コロッケそば」でどっかんどっかんウケる。
本当に面白かったんだけど、今その場で楽しくてウケてるというよりはyoutubeで見ていたアレを見られて笑ってるっていう感じのお客さんがかなりの数いたみたいで(それはそれで別にいいんだけど)、ちょっと引いた。なんだろ。私も寄席に通いすぎてああだこうだとうるせーじじぃになってきたのか。


正楽先生 紙切り
「尾長鳥」という注文に、鳥だけじゃなくそれを見ている親子、馬を切っても疾走感のある馬、と必ず「動」の要素を入れるから、正楽師匠の切ったものって生き生きしているんだな。
私もいつかリクエストを言ってみたい…。


三三師匠「元犬」
時そばに入ると見せかけてまくらだけで終わった喬太郎師匠のことを「本当に腰の低い先輩で、今日も申し訳なさそうに”時間がなかったから(落語には)入らずにすみません”と言っていたけど、昨年も同じことをして同じように謝られた記憶がある」と三三師匠。
毒を吐きながらの「元犬」。ええ?三三師匠がトリで「元犬」?って驚いたんだけど、最近結構やられているのかな。

上総屋がシロの扱いに困っているのがなんか妙におかしい。シロがすごく犬っぽいのだ。
ついついくるくる回ったりするシロだけど、上総屋さんが手を差し出すと、ひょいっと手を乗せてくるのがなんともいえずかわいくておかしい。ちょっとやりすぎで最後の方は「もうええわ」と思ったけど…。
ご隠居がシロの犬っぷりに惚れ惚れして面白がるのも楽しい。

その前に出た噺を取り入れたり、遊びたっぷりの「元犬」だった。楽しかった!

東洋館 29年初席 第二部

1/4(水)、東洋館 29年初席 第二部に行ってきた。
正月明け初出勤のこの日。17:30からの鈴本演芸場のチケットは取っていたんだけど、会社を12時で解放されたので、まだ時間がたっぷりある!
南なん師匠の交互出演の出番が当たっていれば上野広小路亭に行きたかったんだけど、残念ながらこの日はなし。
悩んだ末、メンツを見て東洋館の二部へ。
初めての東洋館!

・甚語楼 漫談
・歌之介 漫談
・三平 いつもの
ロケット団 漫才
・市馬「親子酒」
木久蔵金明竹
・小朝 いつもの
・正楽 紙切り
・一之輔「看板の一」
・菊志ん 漫談
・小円歌 三味線漫談
・権太郎「つる」

甚語楼師匠 漫談
この日、東洋館に来ようと思ったのは甚語楼師匠が出ていたからだったんだけど、一部が10分も押していて(あのつまらないいつもの漫談で10分押しって…がるるるる~)、そのおかげで甚語楼師匠は軽い漫談で下がって行った。とほほのほ。


ロケット団 漫才
ようやくちゃんと笑えてほっ…。
それでなくとも浅草演芸ホール以上にベタなお客さんで、テレビに出てる噺家さんやベタな漫談に大喜び。
みんなが笑っているとき私はちーっとも笑えない。私が笑ってるときまわりはほとんど笑わない。
それはまぁいいとしても、演芸中も地声で喋るしレジ袋がさがさし通しだし携帯鳴るしそれに出て地声で喋るし、もうオレだめぽ…。
心折れそうになっているときにロケット団が出てきてフツーに笑えて救われた。
ありがとう、ロケット団


市馬師匠「親子酒」
ようやく落語が聞けた…。
市馬師匠が「親子酒」って珍しい。
なんかあんまり酔っぱらってるようには見えなかったけど、でも安定の高座で気持ちを立て直す。ありがとう、市馬師匠。
高座の最中に携帯が大音量で鳴ってしかも全然止めてくれなかったら「おい、なんか鳴ってるよ」とおやじがおかみさんに言ったのがおかしかった。にこにこしながらのんびり言うから剣がないのね。


木久蔵師匠「金明竹
最近落語やるようになったんだねー。この間見たのと同じ「金明竹」だったけど、何年も同じ漫談よりはずっといいや。


小朝師匠 いつもの
いつ見てもほんとに同じ漫談ばかり…。
私は全然面白くないけど、他のお客さんはドカンドカンウケてたからきっとこれでいいんだろう?
落語がうまいとかすごいとかって聞くけど、一度もまともな落語に当たったことがない。
寄席には力を入れてない?大きなホールで高い入場料をとったときだけ本気を出すタイプなのかな。

一之輔師匠「看板の一」
短い時間でスピーディーに「看板の一」。やっぱりいいなぁ、一之輔師匠は。
説得力。
 
菊志ん師匠 漫談
地方の落語会で高座の作り方がわかってなかったりお客さんがどう聴いていいかわからなかったりするっていう話や各寄席のお客さんの質の話。
そこまで言うならよっぽど落語がうまいんだろう!と期待させておいて、漫談だけで下がるというのはどうなんだ?


小円歌先生 三味線漫談
浅草が似合うなぁ。
きれいだし楽しいし明るいしおめでたいし最高。毛羽立つ心を静めてくれた。すてき。


権太郎師匠「つる」
権太郎師匠がトリで「つる」!って驚いたけど、東洋館っていうのはそういう場所なんだね。
このつまんねぇー噺でも権太郎師匠がやるとこんなに面白いんだなぁ。
私はもうあの繰り返しのところで焦れてきちゃうんだけど、権太郎師匠は繰り返しが全然くどくなくてスピーディ。
だけど笑わせるところはくっきりと。
さすが。

というわけでココジャナイ感でいっぱいの私の東洋館デビューであったよ、よよよ…。
こんなことなら連雀亭に行けばよかった。上野広小路亭でもよかった。
でもまぁ2時間だったからそれほど疲れなくてよかったか。

2016年・年間ベスト

2016年に読んだ本が89冊、行った落語が213回。
213回て…。ばかでしょう?
好きになるとキチガイみたいになるという自覚はあったけど、この回数にはわれながら引くわー。
そして89冊は少ない。ついに100冊を切ってしまった…。なにせ落語とポコポコ(ゲーム)に時間をとられて…。反省。今年はもう少し読みたいなぁ。

まずは海外から。全15冊。
こうして挙げてみると、新潮クレスト・ブックスとエクス・リブリスがほとんどで、読書不調の時でもクレストとエクス・リブリスを選んでいれば間違いないということを実感。

1位:異国の出来事(ウィリアム・トレヴァー

異国の出来事 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

異国の出来事 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

 

トレヴァーの短編集が良くないはずがないのだが、期待を裏切らない素晴らしい作品だった。
誰にも気づかれることのなかった恋が生まれた瞬間と、それを一生引きずって生きていくことの甘やかさと苦さを描いた「版画家」。この作品が一番好き。
苦い物語が多いけれど、静かに慰められる。
トレヴァーが亡くなってしまったことが本当に悲しい。

2位:「キャロル」

キャロル (河出文庫)

キャロル (河出文庫)

 

ハイスミス=イヤミスの女王という私のイメージを見事に覆す作品だった。

キャロルという美しい人妻に一目ぼれしたテレーズ。恋が始まった時の高揚感、想いが実った時の無敵感、でもそれは永遠には続かなくて、何もかもを失って裸になった時に初めて見えてくる相手の本当の姿と自分自身。
むき出しの恋愛が丁寧に描かれるが、これはテレーズという一人の女性の成長物語でもある。素晴らしかった。

3位:「つつましい英雄」(マリオバルガス=リョサ

つつましい英雄

つつましい英雄

 

二つの物語が交互に語られ、過去の出来事や会話が現在の物語と同時に展開する。
ストーリーはかなり不穏なのだが、片方は揺るがない信念、もう片方はユーモア精神のある主人公なので、ハラハラしながらも楽しく読める。
タイトルにあるとおり、リョサらしくなく?物語がどこかつつましくて(笑)そこがまた面白かった。

4位:「優しい鬼」

優しい鬼

優しい鬼

 

苦手なテーマだったので内容を知っていたら恐れをなして読まなかったかもしれない。

かなりヘヴィな内容だったけれど、語りが静かで優しくそこに救われた。
独特な味わいがあった作品。


5位:「誰もいないホテルで」(ペーター・シュタム)

誰もいないホテルで (新潮クレスト・ブックス)

誰もいないホテルで (新潮クレスト・ブックス)

 

何の前知識もなく読んだのだが、ことのほか良かった。
圧倒的な孤独が際立つような作品が多かったが、今の自分の心情にマッチしていたのかやけに胸に染み入った。


6位:「ジュリエット」(アリス・マンロー

ジュリエット (新潮クレスト・ブックス)

ジュリエット (新潮クレスト・ブックス)

 

 今まで読んだマンロー作品の中で一番好きだった。短編集。
ほんの一瞬の決断や出会いが人生を変えていく。
出会いがあって想いが実ったとしても人生はそこで終わりではない。人生にハッピーエンドなんてなくて、誰もが最後は一人ぼっちになってしまう。
相変わらず苦い物語が多いけれど、静かな諦めの境地に不思議と励まされる。

アリス・マンロー、年齢を重ねるごとに好きになる予感がする。


7位:「レモンケーキの独特なさびしさ」(エイミー・ベンダー

 食べたもので作ってる人の感情がわかってしまうローズ。
9歳の時に母の作ったレモンケーキを食べて母の心の中の空虚を知ってしまう。

繊細でありすぎることは時に生きることを苦しみに変える。
寂しいけれど優しい物語。いままで読んだエイミーベンダー作品のなかで一番好きだった。


8位:「邪眼: うまくいかない愛をめぐる4つの中篇」(ジョイス・キャロルオーツ)

邪眼: うまくいかない愛をめぐる4つの中篇

邪眼: うまくいかない愛をめぐる4つの中篇

 

 容赦ない悪意に満ちた短編集。ひぇーーと引くほどの残酷さなのだけれど、げらげら笑いたくなるような爽快感もある。

面白かった!


9位:「軋む心 」(ドナル・ライアン)

軋む心 (エクス・リブリス)

軋む心 (エクス・リブリス)

 

21人それぞれが自らの境遇と心情を語る。
失業したり悲運に見舞われて絶望する人たちは攻撃的になったり他人の不幸を喜んだり自暴自棄になったり。
その不穏な空気がリアルでヒリヒリするが、人を見る目がある人もちゃんといてその確かさがこの暗い物語に少しだけ光を与えてくれている。


10位:「黄昏の彼女たち」(サラ・ウォーターズ

上巻では主人公フランシスの暗い過去や閉じ込められているように暮らしている現在と、彼女の心の動きが丁寧に描かれる。
下巻で事件が起こり、その均衡が破られる。

ミステリーの枠に収まりきらないような人間ドラマで、人間そのものが大きな謎であるということを思い知らされた作品。


11位:「ムシェ 小さな英雄の物語」(キルメン・ウリベ)

ムシェ 小さな英雄の物語 (エクス・リブリス)

ムシェ 小さな英雄の物語 (エクス・リブリス)

 

ノンフィクションをもとにしたフィクション。

ムシェという魅力的な人物が生き生きと描かれていて、そこには確かに時代や国を越える普遍的なものがあって、それこそが物語の力、文学の力だと思う。
最後まで読んで、大切なものを全て根こそぎ奪っていく戦争への憎しみが残る。

 

12位:「あの素晴らしき七年」(エトガル・ケレット)

あの素晴らしき七年 (新潮クレスト・ブックス)

あの素晴らしき七年 (新潮クレスト・ブックス)

 

 「突然ノックの音が」の作者による自伝的エッセイ。
戦闘の絶えない国で生きていくこと、守らなければならない家族を持つこと、それはもう他人事とは思えなくて読んでいて苦しくなってくる。
しかしどんな状況であってもこの人はユーモアを忘れない。何事も笑い飛ばす。戦争さえも。

国が戦争に向かって行ってしまったら、私たちはもうなすすべもなく受け入れて生き延びることだけを考えるしかないのだろうか。その時私はこの人のように生きられるのだろうか。


13位:「ミニチュアの妻」(マヌエル・ゴンザレス)

ミニチュアの妻 (エクス・リブリス)

ミニチュアの妻 (エクス・リブリス)

 

 奇想短編はかなりの数を読んできていて読み慣れている方だと自負(?)しているけれど、また一味違っていてとても面白かった。

不条理な出来事を感情を排した文章で淡々と描写しているのだが、なにか不思議な懐かしさが漂う。

人間の感情や行動の摩訶不思議。なんじゃそりゃ?という展開でも、それに向かっていく人の感情は身近で理解できるものだから、それが恐ろしくもありおかしくもある。
物語に引きずり込まれメタメタにされ放り出される楽しさを堪能した。

 

14位:「未成年」(イアン・マキューアン

 

未成年 (新潮クレスト・ブックス)

未成年 (新潮クレスト・ブックス)

 

 宗教上の理由から輸血を拒む少年の裁判という極めて難しい判決を行わなければならなくなった裁判官のフィオーナが主人公。
難しい案件に頭を悩ませるフィオーナに長年連れ添った夫が「夫婦関係はこのまま続けながら若い女性との不倫を認めてほしい」という信じられないような言葉を投げつけられる。

難しい裁判に真っ向から取り組みながらも、一方私生活では夫のことが赦せず感情的な行動に走ってしまうフィオーナ。

人間が人間に与えてしまう影響の大きさ。一歩踏み出してしまったために生まれる悲劇が描かれる。


15位:「夜、僕らは輪になって歩く」(ダニエル・アラルコン)

夜、僕らは輪になって歩く (新潮クレスト・ブックス)

夜、僕らは輪になって歩く (新潮クレスト・ブックス)

 

 主人公であるネルソンに何かが起きたことが示唆されているので、いつ何が起きるのかと不安な気持ちで読み進めることになる。
ここではない何処かに行くこと、偉大な何者かになること、若者ならではの選択がこんな悲劇を生むとは…。

語り手が当事者になるともう安全ではない。
読んでいる自分自身もその輪の中に巻き込まれていくようで、ぞくぞくと不安になるような読後感。

 

次は国内編。こちらも全15冊。


1位:「細雪」(谷崎潤一郎

細雪 (上) (新潮文庫)

細雪 (上) (新潮文庫)

 
細雪 (中) (新潮文庫)

細雪 (中) (新潮文庫)

 
細雪(下)(新潮文庫)

細雪(下)(新潮文庫)

 

2016年に読んだ本の中で圧倒的に面白かったのがこれ。
谷崎=お耽美というイメージがあったのと、「細雪」は映画にもなっているので、美人姉妹がきれいな着物を着てお上品に暮らしてる話なんでしょ、興味ないわーと思っていた。

ところがこれが読んでみるとものすごく面白かった。

今では没落してしまったのだが格式正しい旧家の4姉妹。
時代は昭和初期。戦争が始まる気配もあるのだが、姉妹は外の世界のことにはたいして興味も抱かず、何かに守られているように静かに暮らしている。

三女の雪子の縁談が主なテーマなのだが、お見合いの時にはお互いに身辺を調査したり、家柄を意識したりと、この時代特有な「常識」は存在するものの、彼らの感じ方や会話は今読んでもまるで古びていなくてとても楽しい。
旧時代的なようでいて案外さばさばとドライなところがまた楽しいのだが、なによりも文章が素晴らしくて今読んでもまったく古びていない。

素晴らしかった。圧倒的な一位。


2位:「そこのみにて光輝く」(佐藤泰志

そこのみにて光輝く (河出文庫)

そこのみにて光輝く (河出文庫)

 

組合に入りたくなくて会社を辞めた達夫が出会ったのが、バラックに住む姉弟。
底辺で虐げられながら生きてきた人間のあきらめや恨みの感情をのぞかせながらも、なににも汚されない純粋さや頑なさを持つ二人と親しくなるうちに、それまで傍観者でしかなかった達夫が変わっていく。

身動きできないような閉塞感に満ちているのだが、少しだけ希望の光も感じさせる作品。


3位:「流」(東山彰良

流

 

 満場一致の直木賞というのも納得。
莫言の作品といわれても、へ?そうなんだ!と納得してしまいそう。それぐらい日本人っぽくない中国とか台湾の香りのする作品だった。

戦争を描きながらもからっとしたユーモアがあってそこが好き。


4位:「戦場のコックたち」(深緑野分)

戦場のコックたち

戦場のコックたち

 

 戦場で現実から目をそらすために…あるいは正気を保つために、「日常の謎」を解いて探偵ごっこをするティムとコック仲間のエド。
物語が進むにつれて、戦場の過酷さがどんどん増し、彼らのささやかなユーモアや日常を奪っていく。

日常の謎系の話かなと思いきや、そんな日常が圧倒的な暴力で奪われていく物語だった。
読んでいる間中、戦争は嫌だ、絶対戦争はしちゃいけない。そんな思いでいっぱいになった。


5位:「貝がらと海の音」(庄野潤三

貝がらと海の音 (新潮文庫)

貝がらと海の音 (新潮文庫)

 

 何年か前に知り、それ以来、自分が精神的に弱ってきたなぁと思うと読むようにしている作家さん。
一家の穏やかな日常が淡々と日記風に綴られる。
こんな風に毎日を穏やかに感謝して過ごせたら本当に素敵だと思う。
淡々とつづられた日常に不思議と心が慰められる。


6位:「鯉のぼりの御利益」(瀧川鯉昇

鯉昇師匠の自伝エッセイ。
面白かった。まくらでおっしゃってたのは全てほんとのことだったのねという驚きと高座で見る師匠そのままがここに!という安堵と。

波乱万丈の前半も面白かったけど、落語について真面目に語った後半も素敵だった。


7位:「わたしの容れもの」(角田光代

わたしの容れもの

わたしの容れもの

 

 「自分の容れもの」である身体にまつわるあれこれを書いたエッセイ。
ほぼ同年代の角田さん。腰痛の苦しみ、どんなに頑張っても減らない体重なのに一度増えるとぴくりとも動かなくなる体重、更年期への恐れ、加齢の実感など、どれもこれも思い当たることばかりで、わかるわかる!というのと、そういう面白がり方もできるのか!という発見。


8位:「メタモルフォシス」(羽田圭介

メタモルフォシス (新潮文庫)

メタモルフォシス (新潮文庫)

 

 これでもかとSMのプレイを描きながら、性的な嗜好を越えて、働くこと生きていくことの意味さえも歌い上げる。
笑ったり呆れたり嫌になったりしながら最後まで読むとなんとなく腑に落ちてしまう。

表題作もすごいけど「トウキョーの調教」の方も面白い。
この作家の描く何か方向が間違った努力や我慢や鍛え方、癖になる。

9位:「坂の途中の家」(角田光代

坂の途中の家

坂の途中の家

 

 刑事裁判の補充裁判員になった里沙子が、子どもを殺した母親をめぐる証言にふれるうちに、自分の境遇を重ね、精神の均衡を崩していく。

子育ての経験のない角田さんがなぜこんなにも孤立した母親の気持ちをリアルに描けるのだろう。
読んでいる私も里沙子に共感しすぎておかしくなりそうだった。読んでて、うあーーーっ!と頭をかきむしりたくなるような追い詰められ感。

共感しまくりのエッセイとは裏腹に角田さんの小説は辛い物語が多いが、でもやっぱりいい。これからも読んでいきたい作家さんだ。


10位:「職業としての小説家」(村上春樹

職業としての小説家 (新潮文庫)

職業としての小説家 (新潮文庫)

 

作家がどのように小説を書き上げているのか、どんなきっかけで初めての小説を書いたのかなど興味深いハナシが満載でワクワクしながら読んだ。
ここで語られていることは小説家だけではなくどんな職業にも通じることだし、仕事だけじゃなく生き方とか自分のあり方についてもヒントになると思う。

分かるなぁ…!と腑に落ちるエピソードも多かったし、いいなぁ!となんか励まされる話も多かった。


11位:「独居45」(吉村萬壱

独居45

独居45

 

 坂下宙ぅ吉という作家が繰り返す自傷行為と奇行に巻き込まれていくフツウの人たち。

見たくないものをこれでもかと見せられたような感じなのだが嫌悪感は不思議となく、かなりおもしろかった。

12位:「大きな鳥にさらわれないよう」(川上弘美

大きな鳥にさらわれないよう

大きな鳥にさらわれないよう

 

滅びゆく世界で生きながらえるために小さな集団を作ってひそやかに暮らす人々。
最近こういう小説が多いなぁと思いつつ、読み終わってみればやっぱり川上弘美なのだよなぁ、という読後感。

最近の作品はちょっと読んでいてしんどいと感じるものが多かったのだが、これは好きだった。


13位:「彼女に関する十二章」(中島京子

彼女に関する十二章

彼女に関する十二章

 

 子育てを終えた主婦・聖子が主人公。
 ジャスト同世代なんだけど「わかるわかる」という部分と「いやでもそこはちょっと違うわ」という部分があって、それがまたゆるりと楽しかった。


14位:「『罪と罰』を読まない」(岸本佐知子,三浦しをん,吉田篤弘,吉田浩美

ドストエフスキーの「罪と罰」を読んだことがない4人が集まって読書会。
最初と最後のページだけ読んで物語を推理するというスタート地点から、このページ数でいうとここらあたりで事件が起きそう!という当てずっぽうのページ読みだけで、こういう小説なんじゃないかと4人で推理する。

面白かった! しをんさんの妄想力、岸本さんの絶妙な語呂合わせ、篤弘さんの冷静さ、そして浩美さんの影絵アドバイス。もう読んでいておかしくておかしくて何度も吹き出した。

文学作品を読む時にこういう面白がり方をしてもいいんだな、と励まされた。


15位:「赤へ」(井上荒野

赤へ

赤へ

 

 「死」を巡る短編集なのだがとても面白かった。
井上荒野さんの作品は時に何を伝えたかったの?と思うものもあるのだけれど、これはなんかわかるなーと思うものが多かった。

誰もいないホテルで

 

誰もいないホテルで (新潮クレスト・ブックス)

誰もいないホテルで (新潮クレスト・ブックス)

 

 ★★★★★

湖と丘陵の土地に暮らす人々に訪れる、日常を揺るがす出来事。研ぎ澄まされた文章、巧みな構成、温かな眼差し。世界で愛読されるスイス人作家による10の物語。  

 とてもよかった。
カップルは一緒にいながらも相手の気持ちや二人の関係がいつまで続くかという不安に苛まれ、男は仕事や配偶者からそっぽを向かれて途方に暮れ、女は誰のことも必要としていないかのように猛々しい。

荒涼とした風景と圧倒的な孤独が際立つような作品ばかりだったが、今の自分の心情にマッチしていたのかやけに胸に染み入った。
寂しさを感じずに生きている人などいないのかもしれない。でも寂しさを誰かに埋めてもらうことなどできないんだな。

フランボヤン寄席 隅田川馬石 独演会8

12/23(金)、内幸町ホールで行われた「フランボヤン寄席 隅田川馬石 独演会8」に行ってきた。


・ひしもち「真田小僧
・馬石「安兵衛狐」
・小ゑん「鉄の男」
~仲入り~
・馬石「鰍沢

ひしもちさん「真田小僧
面白い!
前は滑舌悪いなぁ…大丈夫かなぁと思っていたんだけど、最近滑舌の悪さも気にならないし、噺に白酒師匠のお弟子さんらしいちょこっとした改変を加えていてそれがめちゃくちゃ面白くてセンスを感じる。
二ツ目になったらきっと新作もやるようになるんだろうな。楽しみ。


馬石師匠「安兵衛狐」
ゲストの小ゑん師匠の思い出をあれこれ。
それほど接点はなかったけれど真打ちになりたての頃に小ゑん師匠が企画する会のメンバーに誘ってもらった。
第一回目の打ち合わせに行くと、小ゑん師匠から会のコンセプトとして「香盤は関係なく順繰りで番頭をやる」と発表され、それはいいな!と思った。しかしその後すぐに「で、番頭とは別に会計がいるんだけど、それを誰かやってくれないかな」と言って馬石師匠の方を見た。
その瞬間に他の噺家たちも一斉に馬石師匠の方を振り向いた。
メンバーの中では馬石師匠が一番の下っ端。香盤は関係ないと言われても上下関係が身に沁みついているので自分もその瞬間に手をあげて「やらせていただきます」。

そんなまくらから「安兵衛狐」。寄席で何度も聴いている十八番だけど何度見ても面白い。
墓見に今度安兵衛さんも誘ってみよう。きっと安兵衛さんなら喜んで来てくれるよ。「墓見、いかねぇか?」「行く行く!」。この間髪入れず「行く行く」の笑顔がたまらなくかわいくておかしい。
寄席よりたっぷりバージョンの「安兵衛狐」、堪能。

小ゑん師匠「鉄の男」
馬石師匠は先代の馬生師匠に似てる。と言って、馬生師匠の思い出。もう何度聞いても楽しい、馬生師匠の黒豹のエピソード。
こうやって思い出を楽しく語ることで亡くなった師匠の人柄が伝わって行くのってほんとに素敵だ。
寄席でネタをメモするお客さんや録音するお客さんのまくらから「鉄の男」。
鉄オタネタが全開のこの噺。もちろんまったくわからないんだけど、無駄に思えるほどの深ーい薀蓄と家庭にそれを持ち込むバカバカしさの対比がおかしくて笑いっぱなし。
攻める小ゑん師匠、かっこいい。


馬石師匠「鰍沢
ネタ出しされていたこの噺。
この間扇見た辰師匠の「鰍沢」ではお熊はかなり凄みがあって怖かった。
馬石師匠のお熊は悪女というよりは心中しそこなってにっちもさっちもいかなくなって追い詰められた悲哀がにじみ出ていて、怖いというよりはむしろ可愛そうな印象。
演者によって全然印象が変わるのが落語の面白いところだなぁ。だから同じ噺を何度も聴けるんだと思う。

そして筏に乗ってから芝居調になるところは、前に雲助師匠でみたのと同じ形。
ああ、こうやって師匠のかたちを継いでいくのね。そんなところも素敵だな、と思ったのだった。

池袋演芸場12月下席昼の部(3日目)

12/23(土)、池袋演芸場12月下席昼の部に行ってきた。

・小多け「たらちね」
・小かじ「真田小僧
・窓輝「ぞろぞろ」
・禽大夫「くしゃみ講釈」
・ストレート松浦 ジャグリング
・歌武蔵「後生鰻」
・市馬「掛け取り」
~仲入り~
・白酒「粗忽長屋
・小のぶ「時そば
笑組 漫才
・はん治「妻の旅行」

小かじさん「真田小僧
二ツ目になってからの小かじさんを見るのは初めて。ま、まくらを振ってる!って驚いちゃう。
前座時代はなんかつまらなそうっていうか無表情っていう印象だったけど、実は結構ぐいぐい系?
なんとなく面白くしようとするあまり言葉がはっきりしないところがあったような…。がんばれ~。

窓輝師匠「ぞろぞろ」
この日は満員のお客さんでお子さんもいてノリがよかったから、出てくる人がみな気合が入っていてすごくいい雰囲気。
そんな中の「ぞろぞろ」、めちゃくちゃ面白かった。この噺が好きっていうのもあるけど、なんかこう今まで聞いた「ぞろぞろ」とまたちょっと雰囲気が違っていてそこがすごく面白かった。
この師匠、好きだな。

禽大夫師匠「くしゃみ講釈」
ノリノリの高座は続いて「くしゃみ講釈」。すごく楽しかった。明るくて好き好き。

ストレート松浦先生 ジャグリング
やりながら「あれ、今気づいちゃったんですど。どうやら今日は腰の調子がよくないみたいです」。
確かになんかちょっと調子が良くなさそうで気の毒だった。
でもいつ見ても見事だし楽しいし色物にストレート松浦先生が入っているとそれだけでその芝居に行こうという気持ちになる。

歌武蔵師匠「後生鰻」
ノリノリの客席だからきっとまたいつもの恫喝漫談だろうと思っていたらまくらなしで「後生鰻」。
わーーい。この師匠、いつもの漫談をやらずに落語やってくれたら嫌いじゃなくなるんだけどな。
こういうちょっとダークな噺を、子どもがいるときにやるの、好き。

市馬師匠「掛取り」
年末には必ずこの「掛取り」で自慢ののどを聞かせてくれる。いいなぁ。
私の嫌いな借金を踏み倒すところも市馬師匠だと明るくバカバカしくて嫌な感じがしない。
私の隣に親子連れが座っていたんだけど小学生2年生ぐらいの男の子が落語にずっと笑っていてほんとにかわいかった。市馬師匠の「掛取り」でも大笑いしていて、帰る時に「あの、永谷園の幕を持ってぐるぐる回ってるっていうところが一番面白かった」とお父さんに向かって言っていて、ぎゅうってしたくなった。
狂歌とかわからなくても節だけでなんか面白いっていうのが分かる子には分かるんだな。
そういえば前に末廣亭に来ていたお子さん(やっぱり小学校低学年ぐらい)が市馬師匠の「二人旅」でキャッキャ笑っていてかわいかったのを思い出した。

白酒師匠「粗忽長屋
粗忽長屋も白酒師匠がやるとまた一味変わっていて楽しい!!
気の短い男が気の長い男を「お前の死体を引き取りに行こう」と言って二人で行って、気の長い男が死体を見ながら「やっぱりおれじゃないよ。これ、兄ぃじゃない?」というと気の短い方が「あーーーこれ、おれだーー」って。
すごいスピード感で駆け抜けてこれだけ爆笑をとるんだからほんとにすごいなぁ。

小のぶ師匠「時そば
このノリノリの雰囲気の中で小のぶ師匠の「時そば」を見られる贅沢さよ…。
分かりやすく笑っていたお客さんたちが「なんだろ、この師匠?」と固唾をのんで見守っているのがすごい緊張感でぞくぞくする。
それが二番目の男のべとべとのそばで大爆笑になる、このスリルがたまらない。

笑組先生 漫才
大好きな笑組先生だけどちょっと子どもをいじりすぎだったような…。
子どもっていじられるの苦手だから…ちょっとかわいそうだった、いじられた子が。

はん治師匠「妻の旅行」
開場前に並んでいる時から「この人数だと…今日は丁寧な鯛かな…」と思っていたら「妻の旅行」だった。
もうこの日のお客さんにはぴったりはまってドッカンドッカン。
私ももう何十回見たかわからないけど笑った笑った。