りつこの読書と落語メモ

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完全版 韓国・フェミニズム・日本

 

完全版 韓国・フェミニズム・日本

完全版 韓国・フェミニズム・日本

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2019/11/29
  • メディア: 単行本
 

 ★★★★★

ベストセラー小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者チョ・ナムジュによる傑作短編「家出」、シンガー・ソングライターのイ・ランによる初邦訳作「手違いゾンビ」、新世代のフェミニスト作家ユン・イヒョンの代表作「クンの旅」、性暴力をめぐり社会の現実を克明に暴くパク・ミンジョン「モルグ・ジオラマ」など、韓国文学の最前線をいち早く紹介!さらに、いま韓国で最も注目を集め、未来の文学を担う作家ファン・ジョンウンとチェ・ウニョンのふたりによる、本書のための書き下ろしエッセイを収録。他にも大注目の書き手たちによる書き下ろしと特別企画を加え、「文藝」の特集「韓国・フェミニズム・日本」がさらにパワーアップした、『完全版 韓国・フェミニズム・日本』としてここに誕生! 

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目次

【巻頭言】
斎藤真理子「未来から見られている」
【小説】
チョ・ナムジュ「家出」すんみ/小山内園子訳
イ・ラン「手違いゾンビ」斎藤真理子訳
ユン・イヒョン「クンの旅」斎藤真理子訳
パク・ミンジョン「モルグ・ジオラマ」斎藤真理子訳
【特別寄稿】
ファン・ジョンウン「大人の因果」斎藤真理子訳
チェ・ウニョン「フェミニズムは想像力だ」古川綾子訳
【対談】
斎藤真理子×鴻巣友季子「世界文学のなかの隣人 祈りを共にするための「私たち文学」」
【エッセイ】
小川たまか「痛みを手がかりに 日本と韓国のフェミニズム
倉本さおり「のっからないし、ふみつけない」
豊崎由美「斎藤真理子についていきます」
ハン・トンヒョン「違うということと、同じということ」
ひらりさ「街なかですれ違った(かもしれない)あなたへ」
渡辺ペコ「推しとフェミニズムと私」
MOMENT JOON「僕の小説は韓国文学ですか」
【論考】
江南亜美子「小説家が語りだす歴史」
姜信子「極私的在日文学論 針、あるいは、たどたどしさをめぐって。」
【特別企画】
斎藤真理子・選韓国文学極私的ブックリスト15
もっと読みたい、もっと知りたい! 厳選ブックガイド36冊
[完全版]わかる!極める!韓国文学一夜漬けキーワード集
現代K文学マップ『82年生まれ、キム・ジヨン』からBTSまで

「文藝」はまだ積んだままで、こちらの方を先に読んでしまった。

フェミニズム」と言われると腰が引けてしまう。自分も女として生まれ、女であるがために損したこと、危険な目にあったこと、不快な思いをしたこともあるけれど、得したことや目をつぶってもらったこともある。性差の話は極端に走ることも多く、見たくない嫌なものを見せられるのではないかという恐れは、例えばヘイトスピーチは聞きたくもないし議論もしたくないという気持ちに通じるものがあるかもしれない。

というわけで、ちょっとびくびくしながら読んだけど収められた作品はとてもナイーヴで身近で…「シングルストーリーではない」「多重性」という言葉が鴻巣さんと斎藤さんの対談の中に出てきたけれど、それがちゃんとあったのが良かった。
「小説」という形の中で表現されていると、理解しやすいし心の中にすっと入って行きやすいように思う。


「家出」チョ・ナムジョ
家長制度が長いこと根付いていた韓国では父親の権力は絶対。
家庭の中でのこまごまとした支払いなども「これは私の仕事だ」と言って母に何もさせてこなかった父がある日メモを残して家出してしまう。
いつか帰ってくるんじゃないかと娘や息子たちに言い出すことができなかった母だが、電気代やガス代などの支払期限が迫りやり方もわからず途方に暮れ、ついに子どもたちに連絡をとってくる。
物語は、父親が一番かわいがっていた娘の視点から語られるのだが、父がこの後にとる行動がなんともいえない余韻を残す。
ああ、お父さんも「役割」を演じていただけで、ほんとは強くもなければ立派でもなかったんだな…。
それが実家に集まる兄たちからもうかがえるところも面白い。


「モルグ・ジオラマ」パク・ミンジョン
収められている中ではこれが一番直接的でショッキングだった。
徐々に真相に近づいていくときの心臓のバクバク…。私にもこんな経験があったんじゃないかと思うほどのリアルさだった。

 

現代K文学マップはまさにお宝!ありがたい。