殺意・鬼哭
★★★★
殺人事件の被害者と加害者。双方から事件について語られる、異色のミステリー。
「エンターテインメントの域をはるかに越え出た力業である」と評され、事件の当事者の心理に深く食い込み、
それらを圧倒的な描写力で表出させる著者の真骨頂が発揮された傑作。
「殺意」は、中学生の頃の家庭教師でその後長いこと憧れの先輩、それから大人になってからは「親友」として付き合ってきた的場を殺した真垣の独白。
「鬼哭」は殺された的場の最期の3分間の精神世界。
「殺意」を読んでいて、真垣がなぜ的場から離れなかったのか…逃げようはいくらでもあっただろうにと思ったのだが、途中から真垣自身の異常性のようなものも垣間見えてきてぞぞぞ…。
そして「鬼哭」を読むと的場も可愛そうな人間に見えてくる。
誰かをはけ口にしてはいけないし、はけ口にされていると思ったら離れたほうがいい。
真垣が的場から離れなかったのは自分の中の殺意を熟成させるためだったのかもしれないと思うと、寒気がする。