りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

2015年・年間ベスト

2015年に読んだ本が148冊、行った落語が156回。
昨年に比べて両方とも若干減ってる。
これは、ツムツムにどハマリしたせいと思われ…。
ほんとにたんなる時間の無駄とわかっているけどやめられないんだよなぁ…ゲーム。むむむ。

2015年は新しい作品を結構たくさん読んだ気がする。
そして海外の小説に心に残るものが多かった。アジアの若い作家に魅力的な作品を書く人がたくさんいることが分かったのも収穫。
逆に日本では今まで苦手意識があって読んでいなかった川端康成井上光晴などの作家を読んで、やっぱり好きじゃないけど凄い!もっと読まねば!という気持ちにもなった。

というわけで、まずは海外作品。こちらは18冊。

1位:「ストーナー」(ジョン・ウィリアムズ

ストーナー

ストーナー

歴史に名を残すことのない一人の男の人生が淡々と描かれる。
時に歯がゆいようなストーナーの生き方に寄り添うようにして読み進める時間はまさに至福だった。
こんな地味な物語の読んだ人たちが同じように静かに深く感動しているのも嬉しく、本を読む幸せをしみじみと感じた作品。
文句なしの1位。

2位:「アフリカの日々」(イサク・ディネセン)

アフリカの日々/やし酒飲み (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-8)

アフリカの日々/やし酒飲み (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-8)

素晴らしかった。
この世界にいつまでも留まっていたくて私にしたら珍しくゆっくりと描写を楽しみながら読んだ。
何度も読み返したい一冊。

3位:「美しき廃墟」(ジェス・ウォルター)

美しき廃墟

美しき廃墟

イタリアの片田舎で芽生える小さなロマンスと、アメリカのショービジネス界ではスキャンダルさえ商売にして強かに生きている人たち。
この二つの物語が交互に語られ、様々な登場人物がそれぞれの視点から物語り、さらに私の大好きな物語中物語も展開される。
イタリアのパートはロマンティックで美しく、アメリカのパートはブラックな笑いに満ちていて、この物語自体が壮大な映画のような作りになっている。
この二つの物語が現在のパートで交差し伏線が回収されていく気持ちよさ。
物語を読む楽しさに溢れた素晴らしい作品。

4位:「海を照らす光」(M・L・ステッドマン)

海を照らす光

海を照らす光

ヤヌスの灯台に住み二人きりで暮らす夫婦のもとに、ある日漂泊したボートが流れ着く。
中には死んだ男と生後間もない赤ん坊が乗っていた。
何度目かの流産で悲しみの淵にあった夫婦は赤ん坊を二人で実子として育て始める。

辛い物語だったけれど素晴らしかった。
真っ暗な海を照らす灯台のように、離れてしまってもお互いを想う気持ちと幸せだった過去の時間が、彼らの人生を照らしているのだと思う。

5位:「北斎と応為」(キャサリン・ゴヴィエ)

北斎と応為 上

北斎と応為 上

北斎と応為 下

北斎と応為 下

「日本翻訳大賞」の推薦文を読んで手にとった本。
北斎の娘、応為の謎に包まれた生涯が描かれている。
不自由な世界にいながら絵を描いている時は自由。いろんなものに縛られて努力は報いられないのに決して不幸ではない。
これを詠んだら北斎のことも、応為のことも好きにならないではいられない。

6位:「地球の中心までトンネルを掘る」(ケヴィン・ウィルソン)

地球の中心までトンネルを掘る (海外文学セレクション)

地球の中心までトンネルを掘る (海外文学セレクション)

設定や状況はいわゆる「奇想」なのだが、語られるのは誰にでも覚えのある寂しさや心もとなさが描かれる。
2015年は「当たり」の短編集が多かったが、その中でもピカ一に好きだった。

7位:「愉楽」(閻連科)

愉楽

愉楽

ラテンアメリカもビックリの強烈な物語。
暴力、略奪の描写は目をそらしたくなるほど残酷なのだが、不遇や差別を弾き飛ばすようなユーモアと生命力に満ちている。
フィクションではあるけれどここに描かれる人間は中国でリアルなのかどうかがちょっと気になるところ。

8位:「女ごころ」(モーム

女ごころ (新潮文庫)

女ごころ (新潮文庫)

2015年はモームをたくさん読んだ。
大学生の頃に好きでよく読んだけれど、今読むとまた印象が違っていてそれがまた楽しい。
今年もモームをコツコツ再読していきたい。

「女ごころ」は学生時代に読んで「面白い!」と思ったけど、多分そのときの数十倍面白く感じた。
これぞ女ごころってやつだなぁ。分かる、分かりすぎる、分かりすぎて「わー」と声が出てしまうくらい。
登場人物の愚かしさが愛しく感じられる。
今読んでもまるで古びてないのがすごい!

9位:「人間の絆」(モーム

人間の絆 上巻 (新潮文庫 モ 5-11)

人間の絆 上巻 (新潮文庫 モ 5-11)

人間の絆 下巻 (新潮文庫)

人間の絆 下巻 (新潮文庫)

「人間の絆」も、学生時代に読んだときはまったく好きになれなかった主人公のフィリップが今こうして読むと愛しくてならなかった。
最後まで読んで一緒に長い旅をしたような満足感でいっぱいになった。

10位:「帰還兵はなぜ自殺するのか」(イヴィッド・フィンケル)

帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

ノンフィクションはめったに読まないし、すすんで読みたくなるようなタイトルではないのだが、大好きな古屋美登里さんの翻訳だったので読んでみた。
本書に登場するのは、5人の兵士とその家族。そのうち一人は戦死しているが、生きて帰ってきた兵士たちは重い精神的ストレスを抱えている。
戦争で手足を失い仲間を失い、敵とあらば用事をも殺し、どうにか生き延びて帰ってきた兵士たち。
壊れた心と体は癒されることなく、自分で自分を許すことができず、苦しみ続ける。

本当に戦争は地獄でしかないと思う。
読むのは辛いけど読むべき一冊。

11位:「恋と夏」(ウィリアム・トレヴァー

恋と夏 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

恋と夏 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

恋をすることの幸福と寂しさが描かれる。
81歳でこんなにもみずみずしい物語を書くトレヴァーって…。国書刊行会トレヴァーコレクション、今後も楽しみ。

12位:「黒ヶ丘の上で」(ブルース・チャトウィン

黒ヶ丘の上で

黒ヶ丘の上で

ウェールズの農場に暮らす双子の老人。
彼らの父親が物心つく頃から双子が揃って80歳を迎えるまでのほぼ100年間を綴る物語。
人間の織り成す決して美しくないドラマも全て洗い流すような壮大な自然を目に焼き付けて本を閉じる。

13位:「あなたを選んでくれるもの」(ミランダ・ジュライ

あなたを選んでくれるもの (新潮クレスト・ブックス)

あなたを選んでくれるもの (新潮クレスト・ブックス)

ほんとのことが一番面白いということを実感させてくれるノンフィクション。
出会う人には限りがあるし、もう一度会ってみたいと引き返したり、ましてや自分が愛情を注ぐ人はほんの一握り。
その取捨選択をここまで赤裸々に描くことで、作者の信じているものが浮かび上がってくる。

14位:「歩道橋の魔術師」(呉明益)

歩道橋の魔術師 (エクス・リブリス)

歩道橋の魔術師 (エクス・リブリス)

エキゾチックなのに肌にぴたっとくる感じがあって、なんとも不思議な読後感のある短編小説。
台湾の作家も、もっと読んでみたい。

15位:「パールストリートのクレイジー女たち」(トレヴェニアン

パールストリートのクレイジー女たち

パールストリートのクレイジー女たち

自伝的な要素もあるようなのだが、感傷的になりすぎることなく少年時代が生き生きと描かれていてわくわくしながら読んだ。
父親に見捨てられた母子が、持ち前の反骨精神とさまざまな工夫をして、貧しい暮らしの中でささやかな楽しみを見つけて生きる様子が描かれる。
悲劇を喜劇に変えるのはユーモアの精神だ。

16位:「紙の動物園」(ケン・リュウ

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

テッド・チャンに続く現代アメリカSFの新鋭」というキャッチコピーもむべなるかな。
抒情的なSFでとても好みだった。

17位:「カステラ」(パク・ミンギュ)

カステラ

カステラ

日本翻訳大賞受賞作品。
絶望的な状況をとんでもない奇想を交えてふわりと描いているところがとても好みだった。

18位:「ミニチュア作家」(ジェシー・バートン)

ミニチュア作家

ミニチュア作家

未来を予告するミニチュアのドールハウスというのが物語好きにはたまらない!
はらはらどきどき楽しく読める小説。

次は日本の作品。こちらは全部で12冊。

1位:「夕べの雲」(庄野潤三

夕べの雲 (講談社文芸文庫)

夕べの雲 (講談社文芸文庫)

しみじみ良かった。 昔の私だったら「…で?(それがなにか?)」と思ったかもしれない何気なさ。
特別な事件が起きなくても強烈な登場人物がいなくても淡々とした日常のひとこまで充分物語として楽しめる。
読んでいてとても慰められた。
他の作品も大切に読んでいきたい。

2位:「愛のようだ」(長嶋有

愛のようだ

愛のようだ

さりげない日常の一こまをあくまでも軽く面白く描いているのに、時々ドキッとするようなリアルを感じる。
読んでいるとなんか励まされる。
長嶋有、好きだ。

3位:「地の群れ」(井上光晴

地の群れ (河出文庫―BUNGEI Collection)

地の群れ (河出文庫―BUNGEI Collection)

ヘヴィな小説だった。そして感想が書きづらい…。何を書いても怒られそうで…。
人間の醜い面をこれでもかと見せつけられ、毒にやられたけれど、たしかにここには人間が描かれているのだと思った。

4位:「ボラード病」(吉村萬壱

ボラード病

ボラード病

原発事故を思わせる「なにか」が起こったあとの日本が描かれている。
現実を見ずに安全だ大丈夫だ幸せだと言い合い、そうじゃないという考えを持つ人間を逮捕し閉じ込める。

怖いけれど文学にはほんとのことを描き出す力が、人の心を動かす力があるのだということを教えてくれる。すごい作品だ。

5位:「愛をひっかけるための釘」(中島らも

愛をひっかけるための釘 (集英社文庫)

愛をひっかけるための釘 (集英社文庫)

宝物にしたいような言葉がたくさん。
中島らもさんの小説も読んでみたい。

6位:「オウリィと呼ばれたころ―終戦をはさんだ自伝物語」(佐藤さとる

私が子どもの頃に本を読んでこれはなんという人が書いたんだろうと初めて作者名を確かめた作家が佐藤さとる
コロボックルの物語には本当に衝撃を受けたし私もいつかこんな物語を書いてみたいと思った。 そんな佐藤さとるさんの自伝。 戦争や終戦後のことも辛かったとか苦しかったとは書かずに、むしろ楽しみだったことやよくしてもらったことを淡々と書いている。
それでも、戦争が終わってそれまで胸のなかに閉じ込めていた童話の種を取り出すところには涙が出た。

7位:「笹の舟で海をわたる」(角田光代

笹の舟で海をわたる

笹の舟で海をわたる

疎開の経験もないし身近に風美子のような存在もいないのに、左織の気持ちが痛いほど分かって読んでいる間ざわざわと不安で苦しかった。
戦争という異常事態が子供たちに強いたものの大きさを思い知らされる。

家族の物語でもあり女性の物語でもあるけれど、反戦の物語でもある。
苦い物語だけど読んでよかった。傑作。

8位:「永い言い訳」(西川美和

永い言い訳

永い言い訳

共感できない主人公なのになぜか他人事とは思えずやたらと身につまされた。
きれいごとで終わらないところも好き。

9位:「鹿の王」(上橋菜穂子

物語を読む楽しさがぎゅっと詰まっている。
正義の味方VS悪者ではない、深みのある物語。

10位:「デブを捨てに」(平山夢明

デブを捨てに

デブを捨てに

なんじゃこりゃな面白さ。
汚いわ醜悪だわグロイわで酷いものなのだが、突き抜けたユーモアがあって爽快でさえある。

11位:「眠れる美女」(川端康成

眠れる美女 (新潮文庫)

眠れる美女 (新潮文庫)

マルケスの「わが悲しき娼婦たちの思い出」がこの物語にインスパイアされて書かれたとあったので読んでみた。
マルケスの方にはユーモアとアクティヴさ(笑)があったけれど、こちらはユーモアも動きもなくて、じっとりと非常に濃密。
「わが悲しき娼婦たちの思い出」とこの作品、どちらが好きかと聞かれたら断然マルケスの方なのだが、いやしかし好き嫌いは別としてすごい作品であることには間違いがないし、読んだら忘れられない。読まなきゃ!

12位:「サラバ!」

サラバ! 上

サラバ! 上

サラバ! 下

サラバ! 下

私の大好きな「漁港の肉子ちゃん」に比べると爽快な話ではないけれど、西さんの全てを注ぎ込んだ作品という感じがした。
物語中に小説の名前が幾つも出てくるのだが、この作品は西加奈子版「ホテル・ニューハンプシャー」なのだと思う。
笑ったり泣いたりしながら楽しく読んだ。