りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

破壊者

破壊者 (創元推理文庫)

破壊者 (創元推理文庫)

★★★★★

女は裸で波間にただよっていた。脳裏をよぎるのは、陵辱されたことではなく手指の骨を折られたことだった。―そして小石の浜で遺体が見つかる。死体発見現場から遠く離れた町では、被害者の三歳の娘が保護されていた。なぜ犯人は母親を殺し、娘を無傷で解放したのか?凄惨な殺人事件は、被害者をめぐる複雑な人間関係を暴き出す。現代英国ミステリの女王が放つ、稀代の雄篇。

ミネット・ウォルターズは大好きな作家で、翻訳された作品は全て読んでいるのだが、これは中でもかなり好きな部類。
登場人物を最小限に絞り、多面的にその人たちのことを描いていくなかで、薄皮が剥がれていくように、少しずつ真実が明らかになっていく。
誰が犯人なのか。何が真実なのか。なぜ殺したのか。なぜ殺されなければならなかったのか。誰が悪いのか。誰が嘘を言っているのか。

次々事件が起こるわけでも、めくるめくストーリーが展開されるわけではないのに、この吸引力。見事としか言いようがない。
犯人が分かってからもその真意や人間性に様々な見方があって本当のところは分からないところもとてもリアル。
人間はその存在そのものが謎なのだな…。何もかもがすっきり爽やかに明らかになることなんかないのだ。

間に挟まれるイングラムとシーリア、マギーのエピソードがこの陰鬱な物語に明るさを与えていて、そこが凄くよかった。