りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

池袋演芸場7月上席夜の部

7/4(水)、池袋演芸場7月上席夜の部に行ってきた。

・圓馬「鮑熨斗」
・蝙丸「江の島の風」
~仲入り~
・コント青年団 コント
・枝太郎 ?
柳橋「大安売り」
・喜楽・喜乃 太神楽
・遊吉「井戸の茶碗


圓馬師匠「鮑熨斗」
最近は我々の業界にも若い人が大勢入ってくるようになりまして…。
それもわざわざ大学を出て入ってくるんです。私の弟子でも明治大学出なんていうのがおりますし、今話題の日大出身なんていうと楽屋にはもう佃煮になるぐらいおります。この楽屋の佃煮…ちょっと食べてみるとこれがもう塩辛いのなんの…。
今はいろんな大学に落語研究会なんていう悪の組織がありまして…そこでダメな人間を捕まえて…送り込まれてくるんです。

…ぶわはははは。
圓馬師匠が笑わずにそういうことを言うと、話がどう転がっていくのがわからなくてドキドキしちゃうよ。
落語研究会=悪の組織って…。おかしい。
そんなまくらから、「鮑熨斗」。

仕事に行かず帰ってきておまんまが食べたいという甚兵衛さんにお米はないよとおかみさん。
山田さんのところに行ってお金を借りてきな、と言うのだが、甚兵衛さんは「あ、それはだめなんだ」。
なんでだよ?と聞くと、この間道でばったり山田さんと会って、あ、そういえばお湯に行きたいなと思って「2銭貸してくれ」って言ったら「2銭はない」。「じゃ1銭でもいい」と言うと「1銭もない。細かいのがないんだよ」。「細かいのがないのなら大きいのでもいいよ」と言ったら「細かいのもないぐらいだから大きいのもない」。
そう言ってたから、今山田さんお金ないんだよ。
おかみさんが「大丈夫だよ。あたしが、って言えば貸してくれるから」。
それを聞いて「え?…ええ?」と考え込んだ甚兵衛さんがしばらくしてから斜めず座りでしなをつくって「…あ、あたしが…?」と言うのがすごいおかしい。
「違うよ。女房のあたしが。おみつがって名前を出すの」
「あ、ああっそうか。そういうことか。女にならないといけないのかと思った」って…ぶわははは。

お金を借りてきた甚兵衛さんにおかみさんが口上を教えるところ。
甚兵衛さんがうまくいえなくてやたらとみゃぁみゃぁ言うのがおかしい。
それを見ていたおかみさんが「お前は米丸か?!」。
…ぶわはははははは!
圓馬師匠からそんな言葉が飛び出してくるとは思ってないから不意打ちで大爆笑。

大家さんのところで口上を言っていて「うけたまたまたまたま…たまはありますか?」と聞くと大家さんが「ないよ」「え?た、たまはありますか?」「ないよ。モロッコで取ったんだよ」。
…ぶわはははははは!なんてひどいギャグ!最高。

時間が足りるかなとなんとなく時計をちらっと見た圓馬師匠、魚屋さんが熨斗の説明を教えるところはすごい早口ででも江戸っ子っぽく堂々と。甚兵衛さんがもう一度大家さんのところに行って、熨斗の根本について大家さんにぶつけるところまできっちりやって、おしまい。

くーーーっ。かっこええ~。
浅めの出番の時の圓馬師匠も楽しい~。好きだー。

 

蝙丸師匠「江の島の風」
圓馬さん、熱演でしたね、と蝙丸師匠。
今はどこも冷房完備ですから我々も安心して熱演できるんですね。
でもちょっと前までは冷房はぜいたく品でしたから。冷房が入らない会場が普通でした。
ましてや落語の世界には冷房はないですから。扇子で仰いだり…そういう工夫をして暑さをしのいでいたんですね。

…お、このまくらは「青菜」?と思っていると…。

今日いらしているようなお客様の中には…相当な落語マニアも混ざってますね。
落語マニアの方の中にはね、珍しい噺を聞きたがる方がいますね。
「もう普段聴く噺は同じのばかり、飽きちゃったよ。たまにはめったに聞けない珍しい噺をしてくれよ」っておっしゃるんです。
以前もマニアの方にそう言われたんでね、したんですよ、だれもかけない珍しい噺を。
そうしたらその方が終わってから楽屋を訪ねてきましてね。さぞや喜んでいただけたろうと思ったら、「師匠が今日やった珍しい噺を聞いて、普段かかっている噺がいかに面白いかがわかったよ」って。私の思うつぼのことをおっしゃって帰っていきました。
そうなんですよ。珍しい噺っていうのはえてして面白くないんです。
でも今日はマニアが多いようなので珍しい噺をしましょうか。

…きゃーーー。うれしいーー。珍しい噺、聞きたいっ!!

ある夏の暑い日に、芋問屋の主人・薩摩芋左衛門(?)のところへ田中三太夫が訪ねてきて、殿がこちらのお宅にいらっしゃるから涼しくなるような工夫をして迎えてくれ、と言う。
主は番頭を呼んで一緒に何か涼しくなる趣向を考えてくれ、と言う。
すると番頭は「では庭を雪景色にしましょう」。
もちろん夏に雪は降らせられないから、庭のあちこちに綿を置いて雪景色らしくしましょう。
それから炬燵に入っていただきましょう。
もちろんただの炬燵じゃない。ぎやまんに水を入れてそこに鯉を泳がせて、殿には素足になって入っていただく。
すると水がひんやりして、時々鯉が泳ぐと水がはねて気持ちがよいでしょう。

そして人足をやとって江の島の風をおかもちに入れて持ってこさせましょう。
100人ぐらい雇って早朝の江の島の風をおかもちに入れさせて、それを殿の前でぱーーーっと開けると、江の島の涼しい風が吹いて涼しくなります。
「100人も雇ったら弁当代が大変じゃないか」という主に番頭は「うちは芋問屋ですから芋をふかして持たせましょう。それならたいしておあしもかかりません」。

夜中に出発した100人の人足たち。早朝に江の島に着くや、風をおかもちに入れふたをして目張りをして、えっさえっさと江戸を目指す。
これでこのまま黙って帰ってくれば…この噺はこれでおしまいなんです、落語にはならないんです。
この人たちがこのあととった行動で、落語になってる…。


途中休んだところで一人の人足が「こうやって運んできたけどほんとに涼しい風が入ってるのか」と言い出し、たくさんあるから一つぐらいいいだろうと開けてみると、確かに涼しい風がすーーっと吹いてくる。しかしすぐに暑くなり「あちーーー」「じゃもう一つ開けてみるか」。
開けると涼しい風がすーーーー。でもすぐに暑くなりもう一つ開ける。それを繰り返しているうちに気が付くと全部の風を出してしまい、さあ、困った。
もう戻って入れなおす時間もないし、だったらいっそのこと江戸っ子らしくしくじろうじゃないか!ということになり、芋を食べてお腹が張っている人足たち、おかもちの中にみんなで屁を入れてふたをして目張りをして、えっさえっさと持ち帰る。
後ろめたいものだからおかもちを置いて人足たちはとっとと帰って行ってしまう。

さて、やってきた殿様。
雪景色と冷たい水の炬燵に大喜び。
それではこれが最後の趣向です。江の島の風におあたりください、と主がおかもちを開けてみると、これがくさいのなんの。
怒った主が番頭に殿に対してなんという失礼なことを!と怒ると、殿が粋な一言を…。

…いやぁーーー、確かにしょうもない噺だけど、蝠丸師匠のゆったりした語り口で、時折ばかばかしいギャグを入れて話されると、楽しい~。
珍しい噺が聞けて嬉しい。だから蝠丸師匠はやめられないんだよ~。最高。


遊吉師匠「井戸の茶碗
わーー、遊吉師匠の「井戸茶」が聞けるとはこれまたラッキー。
清兵衛さんはいかにも庶民らしい正直な男で、おしゃべりで軽くて遊吉師匠にぴったり。
高木作左衛門は若者らしく男らしい感じはするけど、あんまり武士らしくないかな。
千代田卜斎のめんどくささがあんまり出てなくてそこが残念。
というのは遊吉師匠の卜斎は、仏像から出てきた小判を清兵衛さんが持ってきたときに固辞するところで「わしは今はこんな暮らしをしていてその金は喉から手が出るほどほしい。でもだからこそこの金を受け取ったら私の武士としての最後の誇りもなくなってしまう」と自ら語るのだ。
それは遊吉師匠は親切だから、そのセリフを入れたんだと思うんだけど、そこまでの説明はいらないかなぁと思った。
というのは私それに気づいたの、この噺を聞き始めてずいぶん経って、南なん師匠の「井戸茶」を聞いた時だったのだ。
それまで、千代田氏ってなんかめんどくせぇやつだなぁ、ぐらいにしか思ってなくて。
それを南なん師匠の「井戸茶」を見た時に、ああ、そうか…お金がないからこそ受け取れないのだ、そこがプライドなのだ、と気が付いて、気づけたことにぞわぞわぞわっと感動したのだ。
だからそこまで親切に説明しなくてもいいような気がする。
でもそれって私のように何回も聞きに行く人間の感想だから、確かに初めて聴く人にはこの方が親切だな、とも思う。

千代田氏のことを清兵衛さんが高木に説明するときに「なんかお医者様をしてるみたいですよ。昼間は消毒をして夜は梅毒を治す」と言ったの、おかしかった~。
あとくずやさんたちが集まってあれこれ噂話をしている場面が楽しい!
「あれはね、親の仇を探してるんだよ」と話しているところにやってきた清兵衛さんが「多分私を探してるんでしょう」と言うと「え?親を殺したの?」って驚くばかばかしさ。
清兵衛さんが「くず~い~」と声を出すところ、思いのほか大きくてきれいな声にちょっとびっくり。

遊吉師匠らしい井戸の茶碗
やっぱりこの師匠の落語、好きだなぁとしみじみ。
行ってよかった!