笹の舟で海をわたる
- 作者: 角田光代
- 出版社/メーカー: 毎日新聞社
- 発売日: 2014/09/12
- メディア: 単行本
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あの日、思い描いた未来を生きていますか?豊かさに向かう時代、辛い過去を葬ったまま、少女たちは幸福になったのだろうか―。激動の戦後を生き抜いたすべての日本人に贈る感動大作!
なぜこんなに身につまされるのだろう。
疎開の経験もないし身近に風美子のような存在もいないのに、左織の気持ちが痛いほど分かって読んでいる間ざわざわと不安で苦しかった。
左織にとって風美子の存在は、支えであるし依存もしているけれど、もしかして私を破滅させるために現れたのではないか…時々そんな不安を抱かずにいられない。
夫のことも奪おうとしているのではないか。夫も風美子に惹かれているのではないか。
娘である百々子との関係がうまくいかないのも風美子のせいなのではないか。
疎開先でいじめられた事、家族をいっぺんに失ったことをバネにして生きている風美子は、疎開先での出来事を決して忘れない。
また自分を痛めつけた疎開先の友だちが近づいてきても決して拒まない。
一方左織はできれば疎開先での出来事は忘れてしまいたいと思っているし、現に忘れてもいたのだが、風美子といるといやがおうにも思い出してしまう。
戦争という異常事態が子供たちに強いたもの。
戦争に負けてそれらのことに全て蓋をしてどんどん豊かになっていき浮かれる人たち。
時代に追いついていけない左織は自分自身に重なって見える。
左織と百々子の親子関係も辛い…。読んでいてうぎゃーーと叫びたくなるほどだったけど、母と娘ってこういうことあるよなぁ…。
左織も辛かっただろうが、百々子だって辛かっただろう。
自分が育った環境や価値観から逃れられないのはある意味仕方のないことだけれど、風美子という存在があったことがこの母娘にとってマイナスだったのかプラスだったのか…考えないではいられない。
家族は持ったけれど、結局はひとりぼっちってリアル過ぎて怖い…。
子供は巣立つもの、そして長年寄り添った夫婦だっていつかは別々に旅立っていく。
いつも受身だった左織がようやく一人で立つことができた、と考えていいのかな。
これだけ鬱々とした物語なのに、最後はなにかこう清々しさが感じられてよかった。
家族の物語でもあり女性の物語でもあるけれど、反戦の物語でもあると思った。傑作。