フールズ・オブ・フォーチュン
- 作者: ウィリアムトレヴァー
- 出版社/メーカー: 論創社
- 発売日: 1992/09
- メディア: 単行本
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実は15年来の積ん読本だ、これ。
映画の原作本にはまった時期があった。映画になるような物語ってたいていドラマチックで面白いのだ。「黄昏に燃えて」「ジョニーハンサム」「ソフィーの選択」「カクテル」「羊たちの沈黙」「フライドグリーントマト」「ギルバートグレイプ」…。かなりたくさん読んだ。これもその流れで買ったような覚えがある。神田の古本屋で400円ぐらいだったか。
表紙には、いかにもお金持ちそうな家族の写真。帯には「動乱の歴史を超えた愛の物語」とある。
買ったはいいけど、「なんか大仰そうな小説だなぁ」と思い、なんとなく読む気がしないままずーっと本棚に積んであったのだ。それがこの間ふと見たら作者がウィリアム・トレヴァーだということに気づいたのだ。えええ?そ、そうなんだ?!ウィリアム・トレヴァーといったら「短編」というイメージがあったんだけど、こんな本格的な小説も書いていたんだ!じゃ読んでみるべー。
物語は第一次世界大戦がようやく終わろうとする1918年に始まる。アイルランドのコーク州に住む裕福なプロテスタントの家庭に生まれたウィリーは、愛する家族や自然に囲まれ幸せな少年時代を送っている。ウィリーの父はアイルランド人らしいナショナリズムの持ち主ではあるが、政治には積極的に関わらないようにしている。むしろイギリス人の母のほうが積極的にアイルランド共和軍への援助を勧めている。それが仇となって、一家は恐ろしい災厄に見舞われる。ウィリーの幸せな少年時代は、アイルランドという国の運命と同じように悲劇的な変化を遂げていく…。
アイルランドというのはなんて過酷な歴史を背負った国なんだろう。私はそれほどたくさんアイルランドの作家を読んだことがあるわけではないけれど、それでも今まで読んだ幾つかの作品に共通しているのは、暴力と貧困だ。この作品は裕福な家庭を描いているけれど、しかし彼らとて暴力の犠牲者であることにかわりはなかった。
しかし政治的な問題だけで終わらずに、人間の根本的な罪と愛を描いているところにこの小説のすばらしさがあるように思う。そうか。すごい作家だったんだ。ウィリアム・トレヴァーって。15年間ほったらかしにしていたけれど、今気づくことができてよかった。