りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

S.モームが薦めた米国短篇

 

S.モームが薦めた米国短篇

S.モームが薦めた米国短篇

 

 ★★★★★

 名作の案内人としても名高いサマセット・モームが、アメリカの大都市以外に住む、手軽に文学書が手に入らない読者のために選んだ20世紀初頭の英米短篇46篇から、米国作家の6篇を厳選して新訳!

 モームが選んだアメリカ人作家の書いた短編って、モーム好き、そしてアンソロジー好きにはたまらない。

既読は「エミリーに一輪のバラを」だけ。これを初めて読んだのはおそらく大学生のころだったと思うが、あの時の衝撃は大きかった。
フォクナー以外もフィッツジェラルドスタインベックヘミングウェイ、ウォートンと有名どころが名前を連ねているが、どの作品も面白い~。全然色あせてないのがすごいなぁ。
ヘミングウェイには苦手意識があったのだが、これを読んでちょっと他の作品も読んでみようかなという気持ちに。

末廣亭1月下席夜の部

1/23(火)末廣亭1月下席夜の部に行ってきた。

桃之助「熊の皮」
・ポロン マジック
・小助六「やかんなめ」
・柳太郎「おかえり」
・正二郎 太神楽
・小文治「田能久」


助六師匠「やかんなめ」
前の日の大雪についてのまくら(末廣亭をつとめた後、松戸まで。遅い時間だったせいか案外電車も混んでいなくてほとんど遅れもなし。松戸からのバスもたいして遅れず、また雪にまみれることもなく。しかし家に着くと雪かきがしてなかったため、玄関に入るまでの間で靴がえらい汚れてしまった。どこに落とし穴があるかわからない)から「やかんなめ」。
短い時間でまくら長めでも「やかんなめ」までできちゃうのがすごい。

助六師匠は語りも体の動きもしなやかだから見ていてほんとに気持ちいい。
といって「うまいだろ」という嫌味な感じが全くなくて、あくまでも軽くてふわふわと楽しい。
いいなぁー。また寄席で見る小助六師匠がいいんだなぁ。ふわふわっと軽くて明るくて。

声をかけられたお武家様の男らしい「あいわかった!」に笑い、「やかん頭をなめさせてくれ」と言われてぷるぷる怒る姿に笑い、振り返ってべくないに文句を言う姿に笑う。
楽しかった!

柳太郎師匠「おかえり」
前にも聞いたことがある新作。
お金を持ってないからって船頭に断られた男。はっと目覚めると箱の中。
漂うお線香の香りに母親の涙声。
しかし案外みんな冷たいっていうのがばかばかしくて笑っちゃう。
シュールな噺だなぁ(笑)。
この師匠、他にもいろいろ新作作ってるんだろうか。見てみたいな。


小文治師匠「田能久」
前にも聞いたことがある小文治師匠の「田能久」。
鳴り物入りなのも嬉しいし、花魁のしぐさや芝居のしぐさもきれいで、見ていてウキウキ楽しくなる。
こういう噺、好きだなぁ。
すごく楽しくてきいている間とても幸せだった。よかった。

鈴本演芸場正月二之席夜の部

1/19(金)、鈴本演芸場正月二之席夜の部に行ってきた。
前の日に少しげっそりしちゃったので気が進まかったのだが、会社の人と一緒に行く約束をしていたので、だったら気合を入れて開場前から並ぶか!と早退。
16時半前ぐらいに着くとすでに行列ができていて、ひぇー。
でも早退したおかげで前の方の席に二人で並んで座れたのでよかった。

 

・朝七「桃太郎」
・駒次「ガールトーク
・ダーク広和 マジック
・菊之丞「たらちね」
・白鳥「ナースコール」
・ホームラン 漫才
・さん助「もぐら泥」
・白酒「粗忽長屋
~仲入り~
・ペペ桜井 ギター漫談
・雲助「新版三十石」
・ストレート松浦 ジャグリング
喬太郎「ハンバーグができるまで」

 
朝七さん「桃太郎」
お友だちから「すごい前座さんだよ」とうわさには聞いていたけど、びっくりしたー。
菊之丞師匠のような外見に、とても前座とは思えないこなれた落語。
なんだろこの…おまいさん、あたしもいろいろ苦労してきたんだよ、聞いておくれでないかい?あたしのおしゃくじゃうまくないだろうけど…っていうたたずまいは…。
前の会社にいたとき、入ってきた新人で「おやじ」というあだ名のついた子がいたんだけど、電話をかけてる時の腰の低さとかたたずまいに貫禄がありすぎて「やっぱり社会の荒波をくぐってきた人は違うわねぇ」とつい言ってしまうほど。客先に連れていったら、お客さんに偉い人と間違えられて深々と頭を下げられたことがあったけど、それを思い出した。
「桃太郎」、普段聞いて面白いと思ったことがないんだけど、ちゃんと面白かった。すごし!


駒次さん「ガールトーク
師匠が亡くなったばかりだからなのだろう。羽織姿。
師匠の思い出を語ったりするのかなと思っていたけれど、いつものまくら(電車で携帯覗き見、師匠に連れられて中野のおいしいハンバーガー屋、学校寄席の感想)だった。
ガールトーク」、遭遇率が高い…。面白いけど他の噺も聴きたい。


白鳥師匠「ナースコール」
看護師不足なので「優秀」じゃないけど採用されちゃったミドリちゃん。
おバカなミドリちゃんの信じられないけど本人的は大真面目な言動が爆発的に面白い。
最初から最後まで笑いっぱなしだった。


さん助師匠「もぐら泥」
まくらなしで「もぐら泥」。
これがめちゃくちゃ面白かった。
泥棒が強気に出て脅したり、突っ込まれて「はい、その通りです」と引っ込めたり。
泥棒も店の主人もおかみさんも通りかかった男も、キャラが立っていて面白い。
この日のお客さんがすごくノリがよくてウケるから、相乗効果で面白くなっていく感じ。
たのしかった~。


白酒師匠「粗忽長屋
前日もしていた池袋演芸場にいた自由すぎるおばちゃん(寄席を自宅と思ってしまっていて、思ったことを全て口に出してしまう)のことを語ったあと、「こういう人のまわりからはまともな人は離れて行ってしまい、気が付くとこういう人のまわりにはさん助さんみたいのばっかりが集まるようになってしまう」。
…ぶわははは。
なにせさん助師匠の高座の後、「あれはいったいなんだったんだ?」という空気が若干流れるから、こうやっていじってくれると「あ、ああいうキャラなんだ。笑っていいんだ」とお客さんがほっとするのが伝わってきて、おかしい。

そんなまくらから「粗忽長屋」。
まめでそそっかしい男のスピード感のある粗忽ぶりがめちゃくちゃ面白い。
「行き倒れは隣に住んでるくまだ」という確信がすごくて笑ってしまう。
「死んでるよ」と言われたくまも「あにぃがそこまで言うんじゃまちがいないな」と静かに納得してしまうおかしさ。
二人が戻ってくると「戻ってきた!」と喜ぶ観衆がおかしすぎる。
最初から最後までおかしかった~。


雲助師匠「新版三十石」
二枚目のイメージが強い雲助師匠が、ものすごいなまったり入れ歯が外れたりふんがふんが言ったりするのがたまらない。
一緒に行った人も雲助師匠は人情噺というイメージがあったらしく、びっくりしていた。(爆笑する隣で「よっしゃ」と自分の手柄のようにガッツポーズ)


喬太郎師匠「ハンバーグができるまで」
ちょっと演劇っぽく見えてしまって実は少し苦手な噺。
喬太郎師匠の会に通っていた頃は、この噺に当たる確率が高く、当たるとちょっとがっかりしていた。
今も好きなタイプの噺ではないんだけど、でもほんとにさすがだなぁと思った。
普段自分の気持ちを表すことが苦手なマモルが別れた奥さんが自分の大好物のハンバーグを作ってくれて食べてみたら相変わらずおいしくて心がほぐれていくところ。
その後の展開をわかっているだけに見ていてたまらなく…自分一人気持ちが盛り上がっても相手に伝えなければ…そして相手も同じように思ってくれなかったら、なんにもならないんだよなぁ…と思う。
商店街の3人のちょっとずれた優しさに救われながらも、甘くて苦い人参の味で終わる。
うーん、すごい。

鈴本演芸場正月二之席夜の部

1/18(木)、鈴本演芸場正月二之席夜の部に行ってきた。

・彦いち「遥かなるたぬきうどん(前半)」
・ホームラン 漫才
・さん助「馬のす」
・白酒「松曳き」
~仲入り~
・ペペ桜井 ギター漫談
・雲助「豆屋」
・ストレート松浦 ジャグリング
喬太郎「白日の約束」

さん助師匠「馬のす」
噺家は高座で嘘ばかりついてる。前に出た彦いち師匠(まくらでヒマラヤに登ったのに楽屋連中が無関心。「ヒマラヤ行く」と言ったらわさびさんは「今から?」、歌之介師匠は「チョモランマでしょ?…蜘蛛?(それはタランチュラ)」など)が言ってたのもみんな嘘ですから。
寄席では高座に積もった嘘を年末掘り起こして川に捨てに行く…。

…って、柄にもなく毒を吐いて客席が微妙な空気に…。おいおい。
そんなまくらから「馬のす」。

枝豆じゃなくてそら豆だったり、馬の尻尾を抜いた男が下戸だったり、普段聞くのと違う形。
もったいぶって話をする男の方じゃなく、馬の尻尾を抜いた方の男のイライラに焦点が当たっていたのが、私的には残念だったな。
馬のしっぽを肴に上がり込んだ友だちが、出された酒を悠々と飲んでつまみ食べながら毒にも薬にもならない話をするところが好きなんだよ。
なんとなくさん助師匠もやっていて楽しくなさそうだったような。うーん。

白酒師匠「松曳き」
落語なんていうのは意味のないどうでもいいような噺がほとんど。
先ほどのさん助さんがした噺も「だからなんだよ!」と言いたくなりますけど、しょうがないんです、そういう噺ばかりなんですから。

…白酒師匠、いじりながらも少しフォローしてくれてるようでもあり、ちょっとじーんとした。
ちょっとむずかしめのお客さん(ツボにはまるとすごく笑うけど、そのツボが少し難しい印象)を徐々に自分のペースにもっていって、素っ頓狂なお殿様と三太夫で客席全体をぐわっと爆笑の渦に巻き込んだのはさすがだったなー。かっこよかった。


雲助師匠「豆屋」
あまりにも豆屋さんがかわいそうなので嫌いな噺なんだけど、すごく面白かった。
豆屋を呼び込む男がバカみたいに大声で脅しもなんか遊びっぽいからなのかもしれない。
なにより雲助師匠がすごく楽しそうにされていて、それが見ていて伝わって来て楽しくなったのかもしれないなぁ。

平日の夜の寄席って空いてるイメージがあったけど、寄席、落語ブームとトリの喬太郎師匠の効果で満員の客席。
18時15分ぐらいに着いたら空いてる席を探すのが大変なくらいだった。
あんまりがらがらなのも気づまりだけど、こんなにも混んでてこんなにもお客さんの目当てがはっきりしていると、なんか気軽に聴きに行けなくなっちゃうなぁ…。
なーんて勝手な言い分なんだけど、ちょっとテンション下がっちゃった。

鈴本演芸場正月二之席夜の部

1/17(水)、鈴本演芸場正月二之席夜の部に行ってきた。

・彦いち「ねっけつ! 怪談部」
・ホームラン 漫才
・さん助「やかんなめ」
・白酒「長屋の算術」
~仲入り~
・ペペ桜井 ギター漫談
・雲助「商売根問」
・楽一 紙切り
喬太郎「任侠流山動物園」


彦いち師匠「ねっけつ! 怪談部」
熱血先生の言葉を発するタイミングが絶妙なのですごくおかしい。
怪談部の部員が先生に怖い話をしろと言われて「ほんとにあったことを話してもいいですか?」。
「…いいねぇ!素晴らしい始め方だ!」
「成人式の晴れ着を着ようと思ったら店がなくなってたんですよ」
「そういう怖いじゃない!」
…ぶわははは。

のっぺらぼうを見て「はい!表情が消えてます!やりなおし!」。
笑った笑った。


さん助師匠「やかんなめ」
BS11寄席の楽屋で頭にパウダーを塗られた時の話。
「(パウダー)はげてない?」「はげてませんよ」「え?お前まだはげてないと思ってるの?」のやりとり、何度聞いてもおかしい。
そしてそんなハゲハゲしいまくらから「やかんなめ」。このつながり、いい!

さん助師匠の「やかんなめ」すごく久しぶり。
やかん頭の侍がほんとに気持ちのいい人物像で好きだなー。
奥様のために手打ちも覚悟でお願いに上がる女中がわちゃわちゃしていてそれもおかしい。
そしてなめおわった奥様の獣じみた姿がたまらない。
楽しかったー。


白酒師匠「長屋の算術」
お客さんの中に真剣に落語を聞く人がいる。
落語というのはたいていがどうでもいいような噺ばかりで、起承転結の結がなくて、「だからなに?」というものばかり。
それをまじめに聞いて「あのあとどうなったんでしょうか」とわざわざ楽屋を訪ねてくる人もいる。
無駄ですから!
そしてこちら側にいるのはまともじゃない人間ばかり。さきほどのさん助なんかもうギリギリですから。というかアウトですから。外に出た瞬間「不審者」ってお縄になるような…。

そんなまくらから「長屋の算術」。
長屋の連中がバカぞろいで世間から「バカ長屋」と呼ばれているのが嫌だという大家さん。
お前たちも算術ぐらいできなきゃいけないというのだけれど、「算術」と言われて「忍術の上?」と言ったり、「仮に店に行ってお金を払うとすると」と問題を出すと「お金を払うのは嫌だ!」と激しく抵抗してきたり。
ああいえばこう言う、こういえばああ言う、というそれだけの噺なんだけど、いちいち円陣を組んで話し合う長屋の連中がバカバカしくて大笑い。
楽しかった~!


雲助師匠「商売根問」
はっつぁんとご隠居の会話が隅々まで楽しい。
おばかな商売を考えてやってみるはっつぁんと、それを呆れながらも楽しそうに聞くご隠居。
どうってことない噺なのに楽しいなぁ。


喬太郎師匠「任侠流山動物園」
パンダの親分の笹を食べる様子の極悪なのに笑ってしまう。
後半になって「もうすぐ終わるけど心が折れかかってる」って言ってたけど、嘘でしょう?やってる師匠がすごく楽しそうに見えた。
前に見た時よりぐっとこなれていて楽しかった。 

 

大家さんと僕

 

大家さんと僕

大家さんと僕

 

★★★★★

1階に大家のおばあさん、2階にトホホな芸人の僕(カラテカ矢部太郎)。
一緒に旅行するほど仲良くなった不思議な「2人暮らし」の日々は、
もはや「家族」! ?

大切な人をもっと大切にしたくなる、
泣き笑い、奇跡の実話漫画!

大家さんと僕との絶妙な距離感がたまらなくいい。
「僕」は基本的には受け身だけれど、いろんなことを感じていろんなことを考えていろんなことを想ってる。
その想いは言葉にしなくてもそれはちゃんと大家さんに伝わっていると思う。

人との関わりに希望のようなものを感じるなぁ。とても素敵だ。いろんな人に勧めたい。
うちの母に読ませたら声を出して笑って、少し涙ぐんでいた。

年をとること、孤独と付き合うことも悪くない、と思わせてくれる。
だけどきれいすぎない。このバランス感が絶妙。でもそれが計算高くない。そこが魅力。

誰にでも書けそうだけど誰にも書けない。矢部さん、すごい。

池袋演芸場正月二之席昼の部

1/13(土)、池袋演芸場正月二之席昼の部に行ってきた。
最近の寄席ブームと小三治師匠トリの土曜日なので混むだろうとは予測していたけど、10時45分頃に行ってすでに70人ぐらい?並んでいたのには驚いた。
1時間強並んでいたけど、最初はそうでもなかったのにどんどん冷えてきて、入場券を買ってようやく入れる!と思ったらまだ開場じゃなくその後15分ほど待たされたのがつらかった…。
それでもどうにか座れてよかったけど、最初から最後まで立ち見だった人はほんとにきつかっただろうなぁ。私だったら最初から立ち見とわかったら入らないなぁ。

・門朗「雑排」
・歌る多・美るく 寿松づくし
・小かじ「馬大家」
喬太郎 漫談(「北」)
・ひびきわたる 漫談
・さん助「徳ちゃん」
・さん八「替り目」
・一琴「勘定板」
・アサダ二世 マジック
・一之輔「浮世床(本)」
・市馬「厄払い」
文楽「権兵衛狸」
笑組 漫才
花緑時そば
~仲入り~
・左龍「宮戸川(上)」
・小里ん「碁泥」
・小袁治「初天神
・橘之助 浮世節
小三治粗忽長屋


小かじさん「馬大家」
満員の客席を見て「ドンキホーテみたいですね…。圧縮陳列」と言ったのがツボでしばらく笑いが止まらなかった。
「馬大家」、珍しい噺だしおめでたいからウケるしいいよね。さすが三三師匠のお弟子さんだけあってツボを心得てる。
好き嫌いは別にして「できる」印象。前座の頃はあんなにつまらなそうだったのに。わからないものだなぁ。


喬太郎 漫談
満員の客席に「もはやここまでくると…あんたたちの問題だからね!こっちのせいじゃないからね!と言いたくなりますね」。
昨年の一文字「北」から始まって、「北」の先代が特撮好きだったことや、今の「大将」を止めるには太鼓持ちしかない、など…ぽんぽん飛び出すギャグに客席は大盛り上がり。
さんざん盛り上げた後に「圓朝という名人がおりまして圓朝が言うには…」と言うので、え?これからなにを?と思ったら「お時間です」で下がって行った。わははは。


さん助師匠「徳ちゃん」
浅草の初席で奇跡のような出来事がありました、とさん助師匠。
小菊姉さんという三味線と歌の師匠がいらっしゃってとても色っぽくてきれいな方なんですが、その小菊姉さんが楽屋で私のことをじっと見つめながら…いえ、正確に言うと私の頭を見つめながら「今夜はスーパームーンかしら…」と一言。
私思わず「そうです!」と答えてました。胸キュンでした。

…ぶわははは!なんだそのエピソード。おかしいぞ!

「これからするお話は我々の楽屋の先輩方が経験した実話をもとにしております。いわゆるドキュメンタリーノベルです」。
そんな前置きから「徳ちゃん」。

道行く人に片っ端から声をかける若い衆。いかにも軽薄で安い店っぽい感じ。
声をかけられた噺家二人。安さにつられて「じゃ入ってみるか」。
お見立ての時に「そこの色白のきれいな…」と言うと、それは女じゃなく置物?です。女はその横にうずくまってる黒いやつ。「え?それ人間なの?」

通された部屋は汚くて落書きだらけ。
廊下は穴だらけで、「離れ」というのは隣の家との間に板を渡しただけ。
そこに通されて大喜びした客が落ちて血だらけになったとか…。

そして部屋にやってきた花魁が、無言で芋をもしゃもしゃ食べてる様子がさん助師匠にぴったり。すごく異様で笑ってしまう。

面白かった~。
もう少しテンポよく進んだらもっと笑いが起きる気がするなー。


さん八師匠「替り目」
この何十年もかけてようやくわかりましたが、私は酒が苦手です。
あれこれ試して、これなら飲めるか、こっちはどうだとやってきましたけど、残念なことに清酒がからだに合わないようです。実に残念。
8合も飲むと具合が悪くなるから間違いありません。

…ぶわははは!この師匠下戸なんだ?と本気で思って聞いてたからまんまとだまされた。

そんなまくらから「替り目」。
これがもうべらぼうに面白かった。
酔っぱらい方がとってもリアルだし、おかみさんに対して強気に出たりびっくりしてちょっと引こめたりの加減が絶妙で、大笑い。
えええ?この師匠、こんなに面白かったんだ。(←失礼)

一之輔師匠「浮世床(本)」
両脇にぎゅうぎゅうに立つお客さんに向かって「これもいい思い出になる!物事は前向きに考えよう。立ち見と聞いてそれでも入ってきたんでしょ?しょうがない。でもこれで座ってる人と同じ料金…!立ち見は覚悟してたけど、こんなだとは思わなかったでしょ?」。
そんな客いじりから「浮世床(本)」。
テッパンですね。もう客席がどっかんどっかんウケてすごい。さすがだよなぁ。


市馬師匠「厄払い」
もしかして小はぜさんの「厄払い」は市馬師匠から教わったのかな。違うかな。
こういう席で必ずおめでたい噺をしてくれる市馬師匠、好きだなぁ。


小里ん師匠「碁泥」
大真面目に池で碁を打ちましょうと意見するご隠居に笑ってしまう。
サゲが大好き。


橘之助師匠 浮世節
ああ、きれい。そして前のように三味線漫談じゃなく「浮世節」なんだね。
正直、三味線がそんなに上手とは思わないんだけど(すびばせん!)、でも心意気が素敵だし、華があって明るくて楽しくて最高。
踊りが本当に素敵だった。


小三治師匠「粗忽長屋
客席を見て「こんなに大勢いらしてくださってありがとうございます」と頭を下げる小三治師匠。
「立ち見…大変でしょう。前の方に座ってる方はずいぶん早くから並んでくださったんでしょう。本当にこんなに寒い中…ありがとうございます。なにもそこまでしてみるようなものじゃ…。俺が客だったら嫌だよ」。
「今日初めて寄席に来たという方も、初めて小三治の落語を見に来たという方もいらっしゃると思います。言っておきますけど、今日落語を聞けると思ったら大間違いですよ」。

…ぶわははは!
小三治師匠のこういう軽口を聞けるの、ほんとに嬉しい。
身体の調子は決してよくはないんだろうけど、元気なんだな、と思えるから。

この二之席の初日、車の免許を返納してきました、と小三治師匠。
私は腕自慢だった。免許も教習所に通わずに試験を受けてもらった。一発合格でそれが自慢。でもぜったい一発で受かりたかったから、いろんな教習所に行って車庫入れを練習したりして腕を磨いた。
その免許を返すっていうのはね…。

私は40から50歳までバイクに乗っていて、それはもう毎日乗ってたし、生きがいだったけど、それもリュウマチになってやめた。
免許を返した時は切なかった。もうこれで二度と乗れないのかと思って。

車もね…。でもほんとにあぶねぇから。
この間もありましたね。85歳の人が運転していて人をひいて…。話を聞くとみんな「覚えてない」って言うんですね。
もちろんショックで頭がかーっとなって覚えてないっていうのもあるだろうけど。年をとると、そういうことあるんですよ。
私も落語をやっていて自分でなにをやってるか分からなくなる時がある。
なんとなく体で覚えていてふわっとやっちゃうと、ふと「あれ?仕込みちゃんと言ったっけ?」って。
落語だからいいですけどね。これが運転となったら…。

免許を返したら自分の足がふっと軽くなった感じがした。
ああ、気楽になったな、って。
免許を更新すると係の人が「安全運転でお願いします」と新しい免許を渡してくれるけど、今回は違いました。
「どうぞ事故に遭わないようにお気をつけて」。
上手いこと言うよね。思わず笑っちゃった。そうかこれからは自分がひいちゃう心配はなくなったけど、自分がひかれる心配をしないといけないんだ、って。

そんなまくらから「粗忽長屋」。
大勢の小三治師匠目当てのお客さんの熱にこたえるように、テンション少し高めの「粗忽長屋」。
声は決して大きくないのにとても聞きやすいのは、まくらで言っていたように子音をきちんと発音してるからなんだな。
やっぱりすごいんだ、小三治師匠って。

大変だったけど頑張った甲斐があった。よかった。

柳家はん治一門会

1/12(金)、小川町・多目的サロンレタスで行われた「柳家はん治一門会」に行ってきた。
はん治一門会って嬉しすぎる!
お友だちから「定員が少な目だから早めに予約しておいた方がいいよ」と言われ、年末に慌てて予約。
初めての会場だったので迷わないか不安だったけど、駅からとっても近くて、すごく素敵な空間。
始まる前にビールも飲めるし(!)高座も高くてとても見やすかった~。

・小はだ「転失気」
・はん治「子ほめ」
~仲入り~
・小はぜ「厄払い」
・はん治「猫の災難」


小はださん「転失気」
前座さんらしい余計なものをいれない素直な落語。
でもご本人の天然なキャラがちらっと見えるところがとても魅力的。
ちんねんさんが、お医者さまから「転失気」の意味を聞いた時に「へ?」と驚いたのが、間といい表情といい絶妙で大笑い。
とぼけたおかしさがあっていいなぁ。
二ツ目になるのが楽しみだなぁ。

はん治師匠「子ほめ」
毎年噺家がこの時期になると言うことは決まっていて「もう正月かよ」。
ほんとに年々1年が過ぎるのが早く感じるようになってきて、この間楽屋で雲助兄さんと喋った時もやっぱり同じことを言っていた。
うちの師匠は今年78歳だけど、師匠によれば「70過ぎたら笑っちゃうぐらい早く感じる」。

そんなまくらから「子ほめ」。
聞き飽きた噺もなんともいえずおかしい。
間、なのかな。それだけじゃないな。
物を知らないはっつぁんがほんとに知らないように見える。楽しい。

小はぜさん「厄払い」
初めての一門会をこうして開いていただけて本当にうれしい、と小はぜさん。
この一門会のことを知った時、ああ、小はぜさん嬉しいだろうなぁと思ったんだけど、やっぱり、ね。
でもこうして来てみると、楽屋で師匠をしくじることもありうるし、落語を間違えたりすると弟弟子の小はだに小言を言っても「でも兄さん落語間違えてたじゃないですか」と思われる可能性もあるわけで、喜んでる場合じゃなかった、というのが小はぜさんらしくて笑ってしまう。

この日、高座にははん治師匠の後ろ幕が張られていたんだけど、これは師匠が真打に昇進した時に地元のお客様たちが作ってくださったもの。
師匠の後ろ幕を背にして落語をできる機会なんて普通はないから嬉しい。
いいですよね、色合いといい…あんまりこういう色使わないですよね。八王子!って感じがします。さすが八王子だな、って。横浜だったらこういう色にはしないでしょう。

…ぶわははは。普通に聞いたら失礼にも思える発言だけど、小はぜさんだからそんなつもりは全くなくて素直にそう思ってるんだろうなぁ。
確かにとても素敵な後ろ幕だった。

そんなまくらから「厄払い」。
これで三連続「厄払い」。でも聞くたびにどんどんよくなっていってるから、「またか」と思わないんだよな。おもしろいもので。
そう考えると二ツ目なりたての噺家さんと何十年もやってる真打では、成長とか変化が全然違うってことなのかもしれない。
小はぜさんはほんとに今ぐんぐん成長していて、それを見るのを楽しんでいるのかもしれない、私も。


はん治師匠「猫の災難」
私事ですが昨年白内障の手術をしました、とはん治師匠。
群馬に腕のいい先生がいて噺家は結構大勢その先生のお世話になっている。
手術前は何日かお酒を控えていて手術してもらったあとに先生が「ところであなた今夜何か予定は?」。
一泊する予定なので特にないですと答えると、「じゃ飲みましょう」。
二人でしこたま飲んで次の日東京に帰ってきたんだけど、電車の中で少しなんか不穏な感じに。
その日は鈴本で代バネがあったんだけど、心臓が苦しくなってきてなんかおかしいぞ、と。
でもとりあえず楽屋に行けば人も大勢いるしどうにかなるだろうと鈴本へ。
支配人の方に話すと「それほどじゃないと思っても病院に行った方がいい」と言われ、病院へ。
調べてもらうと、脱水症状を起こしていたらしい。
点滴をしてもらってじきに具合はよくなった。

このことを師匠には内緒にしていたんだけど、じきに師匠の耳に入ってしまい、「お前もいい年なんだから酒を辞めろ」と言われてしまった。
あと自分は全然健康診断を受けてなかったんだけど、師匠に「ちゃんと一度検査を受けろ」と言われ病院まで紹介していただいてしまった。
その結果が出るのが明日。なので、今私はなんか…心配でもやもやしてるんです。

…ああ、楽しい。はん治師匠の話。
普段寄席では決まったまくらしか話さないはん治師匠。多分苦手意識があるんだと思うけど、こういう会で話してくれるともうなんともいえず楽しくて、もっとこういう話を寄席でもすればいいのになぁ、と思う。

そんなまくらから「猫の災難」。
はん治師匠の「猫の災難」、すごく聞きたかったから嬉しい!

「あー酒が飲みたい」ともだえるくまさんが本当に真に迫っていてたまらなくおかしい。
お隣から猫のおあまりの鯛をもらって、兄貴分が訪ねてきて酒を買ってきてくれることになって。
この兄貴分とくまさんとの関係が、すごく親しい友だちなんだなというのが伝わってきて、ちょっとびっくり。
今までそんなこと感じたことなかったのだ。

お酒を置いて兄貴が今度は鯛を買いに行ってしまったあと、飲みたくてたまらないくまさんが一人で飲み始めるんだけど、一杯目を飲み終わってからちらっと酒を見るその様子がもうたまらなくいじましくて…酒飲みの卑しさが出ていて、でもそれでいてかわいらしさがあって、すごくチャーミング。
こぼした酒を必死に吸い込むところもその酒を頭に塗りたくるところも、すごくおかしくて楽しくて。

こうなったらこれっぱかり残していても仕方ないと全部飲みほしてから、言い訳の稽古。
することがなくなると「早く帰ってくるがいいじゃないか」と勝手なことを言うんだけど、それも心からの言葉で笑ってしまう。

最初から最後までほんとに楽しい「猫の災難」。今まで見た「猫の災難」の中で一番好きだったなぁ。よかった。

星の子

 

星の子

星の子

 

 ★★★★

 主人公・林ちひろは中学3年生。
出生直後から病弱だったちひろを救いたい一心で、
両親は「あやしい宗教」にのめり込んでいき、
その信仰は少しずつ家族を崩壊させていく。
前作『あひる』が芥川賞候補となった著者の新たなる代表作。

またなんとも感想の書きづらい作品。

怪しげな宗教団体に入ってしまった両親に育てられたちひろ。
もとはといえばちひろの病気を治したい一心だったこと、生まれた時からそういう状態だったこともあって、ちひろは宗教も親もすんなり受け入れている。

傍から見たら明らかに異常な両親の行動も、当事者にしてみたら当たり前のことでそこには愛しかないわけで…。
同じ空を見ていてもお互いに見えるものが違うように、人間の行動や心の中も断罪することはできないものだよなぁ…。
異質を認めることの難しさを思い知らされるなぁ…。

ラストシーンはちひろが両親と決別していくことを暗示するようで胸が痛む。

浅草演芸ホール初席 第四部

1/8(月)浅草演芸ホール初席第四部に行ってきた。

・菊之丞「鍋草履」
・伯楽 「味噌豆」など
・にゃん子・金魚 漫才
・馬之助 百面相
・京二 漫談
・さん八 漫談(年金)
・正楽 紙切り
・駒三 小噺
・紋之助 曲独楽
・南喬 漫談(法事で野ざらし
・扇里「開帳の雪隠」
・雲助「子ほめ」
・ニックス 漫才
・吉窓 まくら&踊り
・白酒 小噺(交通事故で猿の証言)
・権太楼「代書屋」
・ダーク広和 マジック
・さん助 まくら
・左龍「英会話」
花緑「謎のビットコイン
・小菊 粋曲
・さん喬「ちりとてちん


お目当てがまくらのみの悲しみ…。
しかも「いつものまくら」でおもしろくもなんとも…(すびばせん)。
せめて自分の会でやってる立ち話みたいの、やってほしかったなー。持ち時間がすごく短いのはわかるけどさー。ちぇーっ。

こういうときに白酒師匠みたいにテッパンの小噺持ってるといいよねぇー。
他の人もやってるありきたりのやつだけど、何回見ても絶対笑えるもんなー。
あの交通事故で猿が証言するやつ。

権太楼師匠はほんとにいつでも必ず「代書屋」で、こんな短い時間でもそうでがっかり。
聞きすぎていてもう全然笑えないんだよなー。
同じ歌を歌いすぎて崩しすぎて発酵しちゃってなんの良さも伝わらなくなってるヒット曲が一曲しかない歌手みたいだよなぁ。
たくさん噺を持ってるのにどうして寄席では「代書屋」ばっかりなんだろう。
どういうこだわりなんだろう。
インタビューで「寄席が大好き」っておっしゃってるけど、なんかそういうのが伝わってこないんだよなぁ、同じ噺ばかりされると。ぶうぶう。
ってとんでもなく失礼な物言いだけど。

短い時間で短く落語やった菊之丞師匠、扇里師匠、雲助師匠、かっこよかった。
左龍師匠の「英会話」もすごくばかばかしくて楽しかった。
あと踊りとか百面相とか、ワンパターンと言えばワンパターンだけど、いいよね。お正月らしくて。
ってえらそうだな、おい。

さん喬師匠は「ちりとてちん」。
わりとくさくやられていて、お客さんに合わせたのか、それとも最近「くさくやる」ようになってきたのか。ちょっとどきどき。面白かったけど。


この日は雨で連休最後の日で体調もあんまりよくなくてあんまり出かけたくない気持ちで、でも行かないと後悔しそうな気がして行ったんだけど、正直ちょっとがっかりしちゃった。
でもこういうコンディションじゃなかったら楽しめたかもしれないから、あくまでもこちら側の問題なのかも。
ま、こんな日もあるさ。

ドレス

「ドレス」(藤原可織)

 愛しかったはずの誰かや確かな記憶を失い、見知らぬ場所にやって来た彼女たちの物語。文学と奇想の垣根を軽やかに超える8編。

 ★★★★

わかりあえないんだけどそのことすらもうどうでもいいような、自分が見たいものしか見ないと決めてかかっているような、そんな人たちの物語が収められている。
彼らのとんでもない無関心がやけにリアルで怖い。

怖いけどキラリと美しくもあって、なんだろうな、この感じは。
自分の肌にシミができていく過程をじーっと息を殺して感じ続けている作品があったけど、全体的にそのイメージがあった。自分の中から生まれてくる感情や感覚にだけ意識を研ぎ澄ましている感じ。

他者に対する圧倒的な無関心。でも嫌いじゃない。

第133回 初笑い 武蔵野寄席

1/6(土)、武蔵野公会堂で行われた「第133回 初笑い 武蔵野寄席」に行ってきた。
かわら版が届いて好きな噺家さんの出る会をチェックするんだけど、そこで見つけたこの会。すでに「完売」になっている。えーん。
でも諦めきれずにチケットサイトをチェックしたらなんと1枚出ていてしかも前の方の席!ラッキー。

・金かん「寄合酒」
・さん助「御慶」
・柳好「崇徳院
~仲入り~
・花 紙切り&踊り
・さん喬「妾馬」


金かんさん「寄合酒」
わーい、金かんさんだー。
今の前座さんの中で一番好きかもしれない、金かんさん。
独自のギャグなどは一つも入れてないのにちゃんと面白い。テンポがよくて間がよくて。楽しかった。

さん助師匠「御慶」
こちらの会に前回出たのが4年前。その時も柳好師匠と一緒でした。
それで今回も一緒。こんなことはほんとに珍しいことなので「運命の赤い糸」で結ばれているのでは?と言ったら「そんな糸は出してない」とばっさり切られました。

そんなまくらから「御慶」。
おお、考えてみたら、さん助師匠の落語納めがこの噺で落語初めもこの噺。
なんかめでたい(笑)。

「その番号おれの!」の必死の訴えに笑い「ぎょけー」の大声に笑う。
たわいないけどおめでたくて楽しい。


柳好師匠「崇徳院
この師匠、まくらは声も小さくて控えめだけど、落語になるとハイテンションになってわちゃわちゃして…少しさん助師匠と似たタイプ?(え?
にぎやかで楽しい「崇徳院」だった。


さん喬師匠「妾馬」
なんとなく今日は「妾馬」じゃないかなーと思っていたらやっぱり!
さん喬師匠の「妾馬」は何回も聴いているけど、今回はちょっと泣かせにかかった?「妾馬」だった。
兄貴の優しさが前面に出ていて、あちこちからすすり泣きが…。
お客さんの年齢層が高かったし、前半がわちゃわちゃしてたから余計に映えた感じ。

 

こしらの集い

1/5(金)、お江戸日本橋亭で行われた「こしらの集い」に行ってきた。

・かしめ「まんじゅうこわい
・こしら「山崎屋」
・こしら「宿屋の富(改)」


会場に入ると、かしめさんが「私とじゃんけんして買ったらミキを差し上げます」と。
ミキっていうのはお米で作ったらしいんだけどまずいらしい(笑)。
いさんでじゃんけんしたけど死ぬほどじゃんけんが弱い私は負けてあーあ…。
そのあともお客さんとじゃんけんしていたかしめさん。「想定外に私が強いです。勝率7割ぐらいになっていて全然ミキをお渡しできてません!まずいです!あ、じゃあ負けてしまった方、また私とじゃんけんしましょう。まだもらってない方、ぜひ!」。
あら…ほしいけどなんか悪いからいいわ、と座っていると、「ほしくないんですか、みなさん!」

…ぶわははは。もう始まる前から面白いんだけど。
じゃんけんしに行くとかしめさんが小さい声で「ぼく、グー出しますから」。
勝たせてもらってミキをもらえちゃった。わーい。

かしめさん「まんじゅうこわい
いやぁびっくりしたなぁ。めちゃくちゃ面白かった。
かしめさんを初めて見た時、もう全然「落語」になってなくて、見ていてしんどくて、これを毎回見なきゃいけないのかーと思ったんだけど(すまない!)、その後見るたびにどんどん面白くなってきて、でもおもしろいの方はいいけど落語として聞きにくいところがあって…だったのが、声も聞きやすくなってるしテンポもよくてそこにギャグが入るから面白くて。うひょー。すごいな。ちゃんとこしらイズムが入っていて、でも独自の面白さも出てきていて。できるひとなんだ、かしめさんって。びっくり。


こしら師匠「山崎屋」
この会は何が楽しみって「ここで聞いたことは一切書いちゃダメ」という、まくら(近況報告)。
立川流の新年会に行った話からお年玉の話になって、かしめさんがお年玉を直接もらいたいというからまだあげてない…じゃここで渡すかとかしめさんを呼んでお年玉。
「今年の抱負を言え」と言われたかしめさんがフツウの協会だったら模範解答な抱負を語ると「はぁ?おまえばかじゃないの?おまえ、俺の弟子っていうのがどういうことかまだわかってないな。あのね、こういうピラミッドがあったらここ(下)だからね。底辺よ底辺。それをちゃんとわかってないとお前大変なことになるからね」。

そのあと、年越しを大阪で過ごした話もめちゃくちゃ面白かった。

すごくふざけているようだけど結構ほんとのことも言っていて、やっぱりこの人はおもしろいなぁ…。魅力のかたまりみたいな人だなぁ。

ながーいまくら(?)から噺に入ろうとすると、すっと立った人がいて。
「あ、トイレですか?どうぞどうぞ。戻ってくるまで待ってましょうか?あ、いい?」。
その人がトイレに行くと「まさかこんなにまくらが長いとは思わなかったんだろうね。しかもそこから続けて噺に入るっていうのがね。この構成に慣れてないと驚くよね」。

「山崎屋」、番頭の弱みにつけこむ若旦那がいかにも遊び人風なんだけど、この番頭が悪い悪い。それに若旦那がたじたじになるのがおかしい。
鳶の親方の棒読みや脇の甘いのもおかしくて、嫌な噺だけどくだらなくて面白かった。


こしら師匠「宿屋の富(改)」
客引きしている宿屋の主人が、向かいの宿屋で屏風に描かれた雀が抜け出すから自分のところに客が来なくなった、というのに大笑い。
一文無しの大ぼらもおかしいんだけど、それを聞いた主人が「千両箱がそんなに!42両で年末噺家が大騒ぎしているのに」にまた笑う。
千両当たった後の展開はこしら師匠独自のもので、そういう商売たしかにありそう~。

楽しかった!

末廣亭初席第二部、第三部

1/4(木)末廣亭初席第二部(途中)、第三部に行ってきた。

第二部
・可楽 漫談(イスラム教の国で落語をすれば)
・今丸 紙切り
小遊三金明竹(前半)」
~仲入り~
・米福「宝船」
・歌若 漫談(東北弁)
・まねき猫 ものまね
・幸丸 漫談(年賀状)
・米助 漫談(ガッツ石松長嶋茂雄)、「猫と金魚」
・喜楽・喜乃 太神楽
・竹丸 漫談、「西郷隆盛

第三部
・竹わ「味噌豆」
・宮治「反対俥」
・真理 漫談
・可風 漫談(かわいいおじいちゃん)
今輔「バーバーばば」
・小天華 マジック
・柏枝 踊り(どうぞ叶えて)
・京丸・京平 漫才
・富丸 漫談
・金遊「出張中」
・うめ吉 俗曲
・夢太朗 酒のまくら
~仲入り~
・寿獅子
・南なん「羽織の紐」(?)
雷蔵「やかん」
Wモアモア 漫才
・右左喜 漫談
・蝠丸「弥次郎」
・伸 マジック
・文治「鈴ヶ森」

可楽師匠 漫談
自分は持ちネタがたくさんあったのにもうみんなできなくなって、今できるのは1つか2つ。
それでもこうして出てきたらお客さんをなんか言って笑わせなきゃなんない。
そんなことを言いながら、若いころに行った海外公演の話。
イスラム教の国にも日本人はいて落語を聞きたいと言うので回ったことがある。
そこで落語をするときは、頭に白い布をまいて…。今日持ってきたんだ。

と言って、白い木綿の布を頭にのせて、「これだけじゃだめ。」と言って、黒い紐?のようなものをぱかっとはめて、「まだ足りない。男はひげがないとだめ。ひげがないとおかまと思われちゃうから」と言って付け髭。

…ぶわははは。
まさか可楽師匠からこんな話を聞けるとは思わなかったので、びっくりしたし、大笑い。
なんかすごいなー。

小遊三師匠「金明竹(前半)」
こういう顔見世興行でもまくらはほとんどふらずに落語をやる小遊三師匠が大好き。
小遊三師匠の「金明竹」は何回も見ているけど、与太郎がほんとに楽しそう。
くいっと身体を斜めにする動きがおかしい。


まねき猫先生 ものまね
小さい犬から大きい犬への変身(鳴き声)や、初代猫八先生のレコードで聞いたにわとりの鳴き声、最後はおめでたく(!)さかりがついた猫(雄と雌)の鳴き声。いつもと一味違っていてそれがすごく楽しかった。


竹丸師匠「西郷隆盛
いつも同じ漫談で、その中で弟子が来た時に「たくさん噺家さんを見たけど、竹丸師匠が落語が一番上手だった」と言われたと言っていて、「あなたの落語はどこで見られるの?」と思っていたんだけど、ついに見た!
と言っても、ほぼ全部漫談で、その中に自分の故郷は鹿児島で、鹿児島と言えば西郷さんで…という流れから「西郷隆盛」の噺。
正直言って、いつも同じ漫談で全然おもろない…手抜き!と思っていたけど、大勢のお客さんを巻き込んで、ゆるーい漫談から落語、また漫談という流れ。初めてちょっと面白いと思った。
ってすごい失礼な物言いだな。すびばせん。


竹わさん「味噌豆」
聴きやすいし面白い。豆もおいしそうだったな。


今輔師匠「バーバーばば」
自分がよく行くラーメン屋の強烈な話(値段設定がおかしい、メニューの日本語がカタコト、店が汚い)から「バーバーばば」。
この日のお客さんにはあんまり合わなかったのか笑いが少な目だったけど、私は面白かった。
好きなんだ、今輔師匠。


柏枝師匠 踊り(どうぞ叶えて)
落語をやらずに踊ります、っていうのにも驚いたけど、この踊りがまたすっごくおかしくて。
「どうぞ叶えて」最初はかわいい娘さん編。
好きな人に会えますようにと神様にお祈りする娘さん。帰り道、意中の人とすれ違って、うれしはずかし…上目遣いでちらちら見て「こっちを向け」と念を送る。
なよなよした動きがすごくきれいで女性らしくてびっくり。
しかもそのあと今度は同じ曲でおばあさん編。
やる前に「これはスミ師匠に教わったものでして伝統芸能なので…決して老人をバカにしているというわけではありませんどうぞお怒りになりませんように…。」と。
着物をぐっと着崩して(「おばあさんというのはこういうふうに着物が上がって…おっぱいも見えちゃったりします」)よぼよぼ歩き。
すごく強烈なんだけど、全然下品じゃなくてきれいで、でもばかばかしくて、びっくりしたー。
ほんとにこの師匠にはいつもびっくりさせられるなぁ。


金遊師匠「出張中」
いつもの「5にこだわる男」のまくらのあと、「出張中」。
金遊師匠が「出張中」っていう意外性がたまらない。
動きも声も小さめだけど、面白い。好き。


南なん「羽織の紐」(?)
出囃子が聞こえた時、ちょっと泣きそうに…。
会いたかったよー南なん師匠ー。
でも行くたびに「不動坊」にばかり当たってしまい、それでがっかりする自分が嫌で、しばらく南なん断ちをしていたのだった。
ほんとにファンって勝手なもので、好きで追いかけて何度も見に行って、同じ噺が続くと落ち込んで、でも行ってない時に聞きたかった噺をしたことがわかるとまた落ち込んで…こんな自分がめんどくさいよ、ふんとにもう…。
短い持ち時間でなんと初めて聞く噺。タイトルも不明。

家に帰ってきた子どもが服をひどく汚しているので怒るおかあさん。
すると子どもは「かあさん、ぼくをぶつでしょ」と覚悟している様子。
いったいどうしたらこんなに汚れるのだと聞くと、野球をやった、と。
でも一緒に野球をした友だちは誰もあんたみたいに汚れないとおかあさんが言うと「みんなはグローブを持ってるから。僕はグローブがないから体で球を受けるしかないんだ。グローブがなくて僕が球を落としてチームが負けるとみんなに申し訳ないから体で受けてるんだ。だから僕だけ汚れてるんだ」。
「だったらグローブを貸してもらえばいいじゃない」とおかあさんが言うと「みんな自分のグローブを大事にしていて手入れをして使ってるから軽々しく借りれない。先生もむやみに人にものを借りるなって言ってた。だから僕は体で受けるしかない。球に当たってたとえ腕が折れても…胸に当たって骨が折れても…頭に当たって頭蓋骨が砕けても」。

「だったらグローブを買ってあげるわよ」とおかあさんが言うと「ほんと?!ほんとに?でも安いやつでいいからね。一番安いやつ。ペラペラの生地ですぐに穴が開いても繕って大事に使うから」
「…一番いいやつを買ってあげるから」
「ほんとに?」

息子が去った後「あら。うまい具合にやられちゃったわ」とおかあさん。
「でも同じことを亭主にやったら私も買ってもらえるかもしれない」。

帰ってきた亭主に「羽織の紐が切れちゃったの。困ったわ。だけどどうにか一本の紐を結んで使うわ」と言うと「だったら羽織の紐を買えばいい」。
「ほんと?うれしい。あ、でもやっぱりいいわ…」
「なんで?」
「紐はあっても羽織がないもの…。羽織なしで私は紐をこうやってこうやって…どうにかやるわ」
「だったら羽織も買ってやるよ」
「ほんと?うれしい。あ、でもやっぱりいいわ…。だって羽織はあっても着物がないもの…」
「だったら着物も…」
「あ、でもいいわ…。だって…」

…短くてシュールでばかばかしくて楽しい。
南なん師匠がこういう新作っぽい噺(芸協噺なのかなぁ)をするのも意外だったし、奥さんがなんともいえずチャーミングで楽しかった~。


蝠丸師匠「弥次郎」
座るなり「北海道は寒いっ!」と大きな声。
言った後に「あ、噺に入りました」。

ぶわはははは。もう出だしから最高なんだけど。

何かと思ったら弥次郎。
そしてやりとりを1つしたあとに「こういうのが延々続きます。ダジャレの連続です。」

ただの弥次郎じゃなく、ちょいちょい蝠丸師匠らしいギャグが入るのがなんか意表をついていて、もうおかしくておかしくて。
なのにお客さんが結構ポカーンなのがまたおかしくて。
しかも途中で終わった?みたいになって腰を浮かせて下がりかけてまた戻って来て「まだ終わってません」。
フェイクの極みみたいな高座で楽しかった~。


これが私の2018年落語はじめ。
二部の途中から入ったんだけど、二階席も開いていていっぱいのお客さん。
持ち時間が短いから漫談だけの人も多かったけど、面白いのもあればクソつまらないのもあり…。
幸丸師匠って正直好きなタイプではないけど、年賀状の漫談、めちゃくちゃ面白かった。笑った笑った。
そして面白くない人ほど「まだお分かりでない方がいらっしゃる」「わからない人置いていきますよ」を連発するんだよな…。
わからないわけじゃなくてつまらないんですけど。つまらないってわからないでいつも同じのをやってるあなたがすごいよ、むしろ。

二部が終わったらお客さんがどっと帰ったのでそれにもびっくり。
一部と二部は入れ替え制だから、みんな出ないといけないと思ったのか?あるいは休みの日の午後のイベントっていう感覚なのか。
混んでる寄席に行くのはやだなー初席は行かなくてもいいかーと思ったけど、獅子舞も楽しいしやっぱり行ってよかった。満足。

2017年・年間ベスト

2107年に読んだ本95冊、行った落語が218回。
昨年が読んだ本が89冊、行った落語が213回だったから、少しだけ読書が復活した感じか。
落語はペース的には昨年よりもっと上がっていたんだけど、12月に体調崩して行けなかったので、かろうじてこの回数。
行き過ぎを実感していて、特に好きな噺家さんを追いかけすぎて「また同じ噺」とがっかりしたり、落語にすれちゃって新鮮な気持ちで聞けなくなっていたりするので、少し控えようと思いながらも、欲に勝てずこの回数。
今年はもう少し控えめに行こう。
そして本ももっと読みたい。

まずは海外から13冊。

1位:「堆塵館」「穢れの町」(エドワード・ケアリー) 

堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)

堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)

 
穢れの町 (アイアマンガー三部作2) (アイアマンガー三部作 2)

穢れの町 (アイアマンガー三部作2) (アイアマンガー三部作 2)

 

 
2017年はアイアマンガー三部作の一部と二部を読んだ。三部もすでに入手はしているので、近いうちに読む予定。
ケアリーは大好きな作家だけど、作品が出なくなって久しい。出版されていた本も絶版で寂しい限り。
でもそんなケアリーの渾身の作品がこうして翻訳されて出版されて、話題になって(大々的にではないにしても)嬉しい!
「堆塵館」が発売になった時は、三部作がどうか全部出版されますようにと祈っていたのだが、無事出版されてよかった。

ゴミで巨大な富を築いたアイアマンガー一族として生まれ「物」の声が聞こえるという才能を持っているものの、その才能ゆえに一族から疎まれているいじめられっ子の少年クロッド。
両親が「物」に変わってしまったため孤児になってしまった反骨心溢れるルーシー。
ルーシーがアイアマンガーの屋敷に召使として入り、偶然出会った二人が心を通わせ、それがこの一族の運命を狂わせることに…。

「誕生の品」がないと生命の危機を迎えてしまうアイアマンガー一族と、結集することで彼らに対抗しようとする元人間の「物」たちという図式は、「物」に強いこだわりのあるケアリーの真骨頂。
でもこの作品は少年少女に向けて書かれたせいか、エンタメ性が高くスピード感があって非常に読みやすい。

ケアリーの作り出した奇妙な世界に入り込み、そのヘンテコなルールに飲み込まれる幸せを満喫できる作品。
文句なしの1位。


2位:「神秘大通り」(ジョン・アーヴィング) 

神秘大通り (上)

神秘大通り (上)

 
神秘大通り (下)

神秘大通り (下)

 

 大好きなアーヴィングの新刊。好きな作家がこうして元気でいて次々新しい作品を発表してくれるというのは本当に幸せなことだ。
アーヴィングは「ガープの世界」の頃がピークと思っている人もいるようだけど、なんのなんの。作品には力があってまだまだ書きたいことがあふれ出てくるというのが読んでいるとわかる。たのもしい限り。

宗教をテーマにしているため、前半は読みにくくてなかなかページが進まなかったのだが、後半は加速をつけるように面白くなった。
アーヴィングの小説はいつも、大切な誰かを失うことは生きているなかで一番辛いことだけど人間はそのことをも乗り越えていける、そしていつか自分もそうやって死んでいくということを教えてくれる。
この作品もそうだった。

読んでいる最中に訳者である小竹由美子さんと角田光代さんのトークショーでこの作品に関する話を伺えたのもラッキーだった。
話ながら角田さんがじわっと涙があふれてきたのを見て胸がいっぱいになったのだった。


3位:「すべての見えない光」(アンソニー・ドーア

すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)

すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)

 

 2016年に出版された時から評判になっていたのできっと素晴らしいんだろうなと思いながら読みそびれていて、読んでみたらやっぱり素晴らしかった。ドーアは短編もいいけど長編もいいんだなぁ。
「堆塵館」にしてもそうだけど、出版された年に読んだら、twitter文学賞とか翻訳大賞とかにも出せるからいいんだろうけど、なかなか読むのが追い付かないんだよな…。

フランス人の盲目の少女とドイツ人の孤児。何の接点もない二人がラジオでつながる。
彼らのささやかな幸せが戦争によって壊されていく。彼らのひたむきさが戦争の残酷さをより際立たせ、読んでいてたまらない気持ちになる。
戦争をやりたがっている(ようにしか見えない)人たちは、この物語を読んでも何も感じないのだろうか。


4位:「死すべき定め――死にゆく人に何ができるか」(アトゥール・ガワンデ)

死すべき定め――死にゆく人に何ができるか

死すべき定め――死にゆく人に何ができるか

 

死は避けては通れない問題だけど、希望を持つことに慣れた私たちにとって死を宣告されることほど恐ろしいことはない。
自分の親が倒れた時、医者からどうしたら治るかではなくどう死なせてやりたいかともし言われたら、おそらく怒りを覚えると思う。
しかし治る望みがほぼないのに手術をすることや副作用に苦しむことに本当に意味があるのか。
どうやって死んでいきたいかということを考えるのは決して後ろ向きなことではないのかもしれない。

とても難しい問題に正面から取り組んで、自分なりの結論を出しているところが素晴らしい。必読の書だと思う。


5位:「人生の真実」(グレアム・ジョイス

人生の真実 (創元海外SF叢書)
 

世界幻想文学大賞受賞の作品らしいが、SFでも幻想文学でもなく、家族の物語に魔法の要素がちりばめられている、というところがとても好み。
戦争で破壊された町が復興し生まれ変わるように、さまざまな出来事で傷ついた心や人間関係も、家族で団結して修復させていく。
死さえも味方につけて生きる人たちのたくましさが描かれていて、とても素晴らしかった。


6位:「キャッツ・アイ」(マーガレット・アトウッド

キャッツ・アイ

キャッツ・アイ

  • 作者: マーガレットアトウッド,Margaret Atwood,松田雅子,松田寿一,柴田千秋
  • 出版社/メーカー: 開文社出版
  • 発売日: 2016/12
  • メディア: 単行本
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画家として成功したイレインという女性の半生が語られる。
少女時代をトロントで過ごしたイレインはそこでいじめに遭い、その傷が大人になった今も疼く。
一方いじめの主犯格であったコーデリアとは高校生になってからも関係は続き、ある時から二人の立場が逆転する。

アトウッドの自伝的要素もあったのではないかと思える、静かだけど凄みのある物語だった。


7位:「ある婦人の肖像」(ヘンリー・ジェイムズ

ある婦人の肖像 (上) (岩波文庫)

ある婦人の肖像 (上) (岩波文庫)

 
ある婦人の肖像 (中) (岩波文庫)

ある婦人の肖像 (中) (岩波文庫)

 
ある婦人の肖像 (下) (岩波文庫)

ある婦人の肖像 (下) (岩波文庫)

 

身もふたもない言い方をすれば、金持ちと結婚することが女性にとって一番の「勝ち」だった時代、頭でっかちで高慢で美人の女が数々の求婚を足蹴にしながら選んだ相手は…という話。
テーマに全く興味を惹かれないし、出てくる登場人物誰にも特に共感も好意も持てないのに、とても面白くて夢中になって読んだ。
時代背景や倫理観など明らかに異質に感じる部分もあるが、それでもなんというかとても生々しく人間が描かれていて躍動していてそこにたまらない魅力を感じる。これぞ文学という作品だった。


8位:「湖畔荘」(ケイト・モートン

湖畔荘 上

湖畔荘 上

 
湖畔荘〈下〉

湖畔荘〈下〉

 

 読んだときの自分のコンディションもあるのだろうが、ハマるときとそうでもないときとがあるケイト・モートン
今回はぴたっとはまって、読書の楽しさを堪能。
ミステリーとしての面白さもあるから、真相は?という興味でページをめくる手が止まらないし、描写や展開をじっくり楽しむこともできる。
やはりケイト・モートンにはずれはないのかも。


9位:「私たちが姉妹だったころ」(カレン・ジョイ・ファウラー

私たちが姉妹だったころ

私たちが姉妹だったころ

 

 内容的には驚きの連続なのだが、それが決して奇をてらったところがなく、不思議と静かな印象を残す。
結局のところこれは家族の物語で、一人の女性の成長の物語なのだと思った。
「真ん中から話す」という構成がとても効いていて、面白かった。


10位:「夜のサーカス」(エリン・モーゲンスターン)

夜のサーカス

夜のサーカス

 

サーカスの物語が好きだ。サーカスの華やかさともの悲しさ、胡散臭さ、人間臭さに心惹かれる。
この作品、未熟さが目につかないこともないのだが、登場人物が魅力的で生き生きしていて、魔法の力で成り立っている夜のサーカスの描写が素晴らしかった。
作者が舞台美術を勉強していたということもあってか、描写が丁寧でリアルで視覚的にも楽しめる。

この世界に浸っていられる時間が幸せだった。


11位:「丁庄の夢―中国エイズ村奇談」

丁庄の夢―中国エイズ村奇談

丁庄の夢―中国エイズ村奇談

 

凄まじい物語で、良く言えば生命力、悪く言えば人間の浅ましさがこれでもかこれでもかと描かれている。
実話をもとにした小説だが、たんなる「告発」ではなく、文学に昇華されているのがすごい。


12位:「四人の交差点」

四人の交差点 (新潮クレスト・ブックス)

四人の交差点 (新潮クレスト・ブックス)

 

フィンランドを舞台に、ある一家の100年をそれぞれの視点から描いた物語。
家族ってこんなに寂しいものだったっけと胸が痛んだけれど、フィンランドの風景や家の描写なども含めて楽しんだ。


13位:「結婚のアマチュア」(アン・タイラー

結婚のアマチュア (文春文庫)

結婚のアマチュア (文春文庫)

 

 大好きなアン・タイラー。大好きと言いながら、新刊が出なくなって久しいこともありずいぶん長いこと読んでいない。
ふだんあまり再読をしないのだけれど、少しずつ再読していこうとおもい、2017年「ブリージング・レッスン」「夢見た旅」「結婚のアマチュア」と読んだ。
この三冊、どれも甲乙つけがたくよかったのだけれど、特にぐっときたのがこの作品。
タイトルといい、驚きの展開といい、もうほんとにたまらない。
2018年も再読していこうと思う。

 

次は国内編。こちらは全10冊。


1位:「スウィングしなけりゃ意味がない」 

スウィングしなけりゃ意味がない

スウィングしなけりゃ意味がない

 

2017年、佐藤亜紀さんの作品はこちらと「吸血鬼」を読んで、両方ともとても面白かったのだが、余韻と言う意味ではこちらに軍配が上がる。

ナチス政権下のドイツで甘やかされたボンボンが自由な音楽のスウィングとユダヤ人の血を持つ友人と付き合ううちに、ナチスへの軽蔑と怒りを抱くようになっていく様は、読んでいて我がことのようにリアルに感じられた。
政治の裏をかきながらしたたかに生きる主人公だが、彼らとて無傷のままではいられず、彼らとて無傷のままではいられず、地獄を目の当たりにすることになるのだが、ボロボロになり果てても、それでも生き延びることに希望を見出す彼らがとても眩しく素敵だった。


2位:「デンジャラス」(桐野夏生

デンジャラス

デンジャラス

 

細雪のモデルとなった女たちと谷崎の物語。
どこまでが真実なのかはわからないけれど、その世界を壊さずに別の小説としての世界をつくりあげていて、素晴らしかった。

小説家の側にいてインスピレーションを与え描かれることの悦びと捨てられる哀しさ。したたかに生きる女たちが良かった。


3位:「僕が殺した人と僕を殺した人」(東山彰良

僕が殺した人と僕を殺した人

僕が殺した人と僕を殺した人

 

台湾を舞台に家庭に問題がある少年3人が友情を育み心を通わせそして悲劇へと向かっていく。
冒頭に「サックマン」と呼ばれる殺人鬼が逮捕されるシーンが出てくるのだが、この冒頭と少年3人の物語がどうつながっていくのか。
後半になって目線が入れ替わるところとこのタイトルが実に巧妙に効いていて、うぉーーーとなる。
少年たちの成長の物語でもありミステリーとしての面白さもたっぷり。面白かった。


4位:「忘却の河」

忘却の河 (新潮文庫)

忘却の河 (新潮文庫)

 

初めて読んだ福永作品。

父から始まって、二人の娘、母親、長女が淡い想いを寄せた男の独白が各章で語られる。
愛されたい満たされたいと思いながら自分の胸のうちを明かすことができず孤独に生きている人たち。
最終章が本当に素晴らしくて、宗教的なことはわからないけれど、大罪を犯した者でも最後はみな救われるのだと思った。すばらしかった。


5位:「草の花」(福永武彦

草の花 (新潮文庫)

草の花 (新潮文庫)

 

 同じ作家をベスト10の中に入れてしまうのも…という気もしたけれど、両方とも甲乙つけがたく素晴らしかったので。

いろいろな読み方ができる作品なのだろうと思う。
おそらく私も何年か後に読んだらまた今回とは全く別の感想を持つような気がする。

文章がとても美しくて何度も読み返したくなる。


6位:「今夜、すベてのバーで」(中島らも

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

 

らもさん自身の早すぎる死を知っているだけに、どこまでらもさん自身の体験なのだろうと思ったり、なんて破滅的な生き方なんだろうと思ったりしながら読んだ。
何かに依存せずにはいられない弱さと愛する人のために立ち直ろうと決意する優しさ。両方あるのが人間で、特にアルコールについては自分も決して他人事ではなく…。こわいこわい。
人間の弱さや脆さを見せつけられるが、どこか達観した明るさとユーモアがあってそこがとても好きだった。


7位:「森へ行きましょう」(川上弘美

森へ行きましょう

森へ行きましょう

 

最近わりと湿度高めの小説が多かった川上弘美さん、久しぶりにからっと乾いた小説で、私は乾いた川上さんの方が好みなのだなと思った。
どんな選択をしたとしてもそれが自分の人生だし、それがまぎれもない「自分」であることに変わりはない。
過去は変えられないけど未来は変えられる。
そんなメッセージを受け取った。


8位」「もう生まれたくない」(長嶋有

もう生まれたくない

もう生まれたくない

 

訃報小説。 
気楽だけど少し不穏な私たちの毎日は、忘れているけど死と隣り合わせだということを教えてくれる。
震災の後の世の中の変わり方に何かこうざわっとした不安を感じ続けているのだが、見事に表現されていると思った。

面白かった。と書きながら、面白がっていてほんとに大丈夫なんだろうか、という不安も。


9位:「その姿の消し方」(堀江敏幸

その姿の消し方

その姿の消し方

 

 初めて読んだ堀江作品。
私には理解できないんじゃないかと腰が引けてなかなか手を出せずにいたのだが、面白かった。

偶然見つけた絵葉書に書かれた詩の意味を長い年月をかけて読み解いていく。ゆらゆらと思索を漂うような小説で、文学ってこういうふうに人生を豊かにしてくれるんだ、と感じた。


10位「浮遊霊ブラジル」(津村記久子

浮遊霊ブラジル

浮遊霊ブラジル

 

津村さんは「これからお祈りにいきます」も良かったけど、この短編集がとても津村さんらしいと感じたのでこちらを。

どれもみなふわっとした物語なのに地に足がついてる感がある。
漂うように生きて死んだ後も漂う。そんな世界が楽しかった。