りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ドレス

「ドレス」(藤原可織)

 愛しかったはずの誰かや確かな記憶を失い、見知らぬ場所にやって来た彼女たちの物語。文学と奇想の垣根を軽やかに超える8編。

 ★★★★

わかりあえないんだけどそのことすらもうどうでもいいような、自分が見たいものしか見ないと決めてかかっているような、そんな人たちの物語が収められている。
彼らのとんでもない無関心がやけにリアルで怖い。

怖いけどキラリと美しくもあって、なんだろうな、この感じは。
自分の肌にシミができていく過程をじーっと息を殺して感じ続けている作品があったけど、全体的にそのイメージがあった。自分の中から生まれてくる感情や感覚にだけ意識を研ぎ澄ましている感じ。

他者に対する圧倒的な無関心。でも嫌いじゃない。

第133回 初笑い 武蔵野寄席

1/6(土)、武蔵野公会堂で行われた「第133回 初笑い 武蔵野寄席」に行ってきた。
かわら版が届いて好きな噺家さんの出る会をチェックするんだけど、そこで見つけたこの会。すでに「完売」になっている。えーん。
でも諦めきれずにチケットサイトをチェックしたらなんと1枚出ていてしかも前の方の席!ラッキー。

・金かん「寄合酒」
・さん助「御慶」
・柳好「崇徳院
~仲入り~
・花 紙切り&踊り
・さん喬「妾馬」


金かんさん「寄合酒」
わーい、金かんさんだー。
今の前座さんの中で一番好きかもしれない、金かんさん。
独自のギャグなどは一つも入れてないのにちゃんと面白い。テンポがよくて間がよくて。楽しかった。

さん助師匠「御慶」
こちらの会に前回出たのが4年前。その時も柳好師匠と一緒でした。
それで今回も一緒。こんなことはほんとに珍しいことなので「運命の赤い糸」で結ばれているのでは?と言ったら「そんな糸は出してない」とばっさり切られました。

そんなまくらから「御慶」。
おお、考えてみたら、さん助師匠の落語納めがこの噺で落語初めもこの噺。
なんかめでたい(笑)。

「その番号おれの!」の必死の訴えに笑い「ぎょけー」の大声に笑う。
たわいないけどおめでたくて楽しい。


柳好師匠「崇徳院
この師匠、まくらは声も小さくて控えめだけど、落語になるとハイテンションになってわちゃわちゃして…少しさん助師匠と似たタイプ?(え?
にぎやかで楽しい「崇徳院」だった。


さん喬師匠「妾馬」
なんとなく今日は「妾馬」じゃないかなーと思っていたらやっぱり!
さん喬師匠の「妾馬」は何回も聴いているけど、今回はちょっと泣かせにかかった?「妾馬」だった。
兄貴の優しさが前面に出ていて、あちこちからすすり泣きが…。
お客さんの年齢層が高かったし、前半がわちゃわちゃしてたから余計に映えた感じ。

 

こしらの集い

1/5(金)、お江戸日本橋亭で行われた「こしらの集い」に行ってきた。

・かしめ「まんじゅうこわい
・こしら「山崎屋」
・こしら「宿屋の富(改)」


会場に入ると、かしめさんが「私とじゃんけんして買ったらミキを差し上げます」と。
ミキっていうのはお米で作ったらしいんだけどまずいらしい(笑)。
いさんでじゃんけんしたけど死ぬほどじゃんけんが弱い私は負けてあーあ…。
そのあともお客さんとじゃんけんしていたかしめさん。「想定外に私が強いです。勝率7割ぐらいになっていて全然ミキをお渡しできてません!まずいです!あ、じゃあ負けてしまった方、また私とじゃんけんしましょう。まだもらってない方、ぜひ!」。
あら…ほしいけどなんか悪いからいいわ、と座っていると、「ほしくないんですか、みなさん!」

…ぶわははは。もう始まる前から面白いんだけど。
じゃんけんしに行くとかしめさんが小さい声で「ぼく、グー出しますから」。
勝たせてもらってミキをもらえちゃった。わーい。

かしめさん「まんじゅうこわい
いやぁびっくりしたなぁ。めちゃくちゃ面白かった。
かしめさんを初めて見た時、もう全然「落語」になってなくて、見ていてしんどくて、これを毎回見なきゃいけないのかーと思ったんだけど(すまない!)、その後見るたびにどんどん面白くなってきて、でもおもしろいの方はいいけど落語として聞きにくいところがあって…だったのが、声も聞きやすくなってるしテンポもよくてそこにギャグが入るから面白くて。うひょー。すごいな。ちゃんとこしらイズムが入っていて、でも独自の面白さも出てきていて。できるひとなんだ、かしめさんって。びっくり。


こしら師匠「山崎屋」
この会は何が楽しみって「ここで聞いたことは一切書いちゃダメ」という、まくら(近況報告)。
立川流の新年会に行った話からお年玉の話になって、かしめさんがお年玉を直接もらいたいというからまだあげてない…じゃここで渡すかとかしめさんを呼んでお年玉。
「今年の抱負を言え」と言われたかしめさんがフツウの協会だったら模範解答な抱負を語ると「はぁ?おまえばかじゃないの?おまえ、俺の弟子っていうのがどういうことかまだわかってないな。あのね、こういうピラミッドがあったらここ(下)だからね。底辺よ底辺。それをちゃんとわかってないとお前大変なことになるからね」。

そのあと、年越しを大阪で過ごした話もめちゃくちゃ面白かった。

すごくふざけているようだけど結構ほんとのことも言っていて、やっぱりこの人はおもしろいなぁ…。魅力のかたまりみたいな人だなぁ。

ながーいまくら(?)から噺に入ろうとすると、すっと立った人がいて。
「あ、トイレですか?どうぞどうぞ。戻ってくるまで待ってましょうか?あ、いい?」。
その人がトイレに行くと「まさかこんなにまくらが長いとは思わなかったんだろうね。しかもそこから続けて噺に入るっていうのがね。この構成に慣れてないと驚くよね」。

「山崎屋」、番頭の弱みにつけこむ若旦那がいかにも遊び人風なんだけど、この番頭が悪い悪い。それに若旦那がたじたじになるのがおかしい。
鳶の親方の棒読みや脇の甘いのもおかしくて、嫌な噺だけどくだらなくて面白かった。


こしら師匠「宿屋の富(改)」
客引きしている宿屋の主人が、向かいの宿屋で屏風に描かれた雀が抜け出すから自分のところに客が来なくなった、というのに大笑い。
一文無しの大ぼらもおかしいんだけど、それを聞いた主人が「千両箱がそんなに!42両で年末噺家が大騒ぎしているのに」にまた笑う。
千両当たった後の展開はこしら師匠独自のもので、そういう商売たしかにありそう~。

楽しかった!

末廣亭初席第二部、第三部

1/4(木)末廣亭初席第二部(途中)、第三部に行ってきた。

第二部
・可楽 漫談(イスラム教の国で落語をすれば)
・今丸 紙切り
小遊三金明竹(前半)」
~仲入り~
・米福「宝船」
・歌若 漫談(東北弁)
・まねき猫 ものまね
・幸丸 漫談(年賀状)
・米助 漫談(ガッツ石松長嶋茂雄)、「猫と金魚」
・喜楽・喜乃 太神楽
・竹丸 漫談、「西郷隆盛

第三部
・竹わ「味噌豆」
・宮治「反対俥」
・真理 漫談
・可風 漫談(かわいいおじいちゃん)
今輔「バーバーばば」
・小天華 マジック
・柏枝 踊り(どうぞ叶えて)
・京丸・京平 漫才
・富丸 漫談
・金遊「出張中」
・うめ吉 俗曲
・夢太朗 酒のまくら
~仲入り~
・寿獅子
・南なん「羽織の紐」(?)
雷蔵「やかん」
Wモアモア 漫才
・右左喜 漫談
・蝠丸「弥次郎」
・伸 マジック
・文治「鈴ヶ森」

可楽師匠 漫談
自分は持ちネタがたくさんあったのにもうみんなできなくなって、今できるのは1つか2つ。
それでもこうして出てきたらお客さんをなんか言って笑わせなきゃなんない。
そんなことを言いながら、若いころに行った海外公演の話。
イスラム教の国にも日本人はいて落語を聞きたいと言うので回ったことがある。
そこで落語をするときは、頭に白い布をまいて…。今日持ってきたんだ。

と言って、白い木綿の布を頭にのせて、「これだけじゃだめ。」と言って、黒い紐?のようなものをぱかっとはめて、「まだ足りない。男はひげがないとだめ。ひげがないとおかまと思われちゃうから」と言って付け髭。

…ぶわははは。
まさか可楽師匠からこんな話を聞けるとは思わなかったので、びっくりしたし、大笑い。
なんかすごいなー。

小遊三師匠「金明竹(前半)」
こういう顔見世興行でもまくらはほとんどふらずに落語をやる小遊三師匠が大好き。
小遊三師匠の「金明竹」は何回も見ているけど、与太郎がほんとに楽しそう。
くいっと身体を斜めにする動きがおかしい。


まねき猫先生 ものまね
小さい犬から大きい犬への変身(鳴き声)や、初代猫八先生のレコードで聞いたにわとりの鳴き声、最後はおめでたく(!)さかりがついた猫(雄と雌)の鳴き声。いつもと一味違っていてそれがすごく楽しかった。


竹丸師匠「西郷隆盛
いつも同じ漫談で、その中で弟子が来た時に「たくさん噺家さんを見たけど、竹丸師匠が落語が一番上手だった」と言われたと言っていて、「あなたの落語はどこで見られるの?」と思っていたんだけど、ついに見た!
と言っても、ほぼ全部漫談で、その中に自分の故郷は鹿児島で、鹿児島と言えば西郷さんで…という流れから「西郷隆盛」の噺。
正直言って、いつも同じ漫談で全然おもろない…手抜き!と思っていたけど、大勢のお客さんを巻き込んで、ゆるーい漫談から落語、また漫談という流れ。初めてちょっと面白いと思った。
ってすごい失礼な物言いだな。すびばせん。


竹わさん「味噌豆」
聴きやすいし面白い。豆もおいしそうだったな。


今輔師匠「バーバーばば」
自分がよく行くラーメン屋の強烈な話(値段設定がおかしい、メニューの日本語がカタコト、店が汚い)から「バーバーばば」。
この日のお客さんにはあんまり合わなかったのか笑いが少な目だったけど、私は面白かった。
好きなんだ、今輔師匠。


柏枝師匠 踊り(どうぞ叶えて)
落語をやらずに踊ります、っていうのにも驚いたけど、この踊りがまたすっごくおかしくて。
「どうぞ叶えて」最初はかわいい娘さん編。
好きな人に会えますようにと神様にお祈りする娘さん。帰り道、意中の人とすれ違って、うれしはずかし…上目遣いでちらちら見て「こっちを向け」と念を送る。
なよなよした動きがすごくきれいで女性らしくてびっくり。
しかもそのあと今度は同じ曲でおばあさん編。
やる前に「これはスミ師匠に教わったものでして伝統芸能なので…決して老人をバカにしているというわけではありませんどうぞお怒りになりませんように…。」と。
着物をぐっと着崩して(「おばあさんというのはこういうふうに着物が上がって…おっぱいも見えちゃったりします」)よぼよぼ歩き。
すごく強烈なんだけど、全然下品じゃなくてきれいで、でもばかばかしくて、びっくりしたー。
ほんとにこの師匠にはいつもびっくりさせられるなぁ。


金遊師匠「出張中」
いつもの「5にこだわる男」のまくらのあと、「出張中」。
金遊師匠が「出張中」っていう意外性がたまらない。
動きも声も小さめだけど、面白い。好き。


南なん「羽織の紐」(?)
出囃子が聞こえた時、ちょっと泣きそうに…。
会いたかったよー南なん師匠ー。
でも行くたびに「不動坊」にばかり当たってしまい、それでがっかりする自分が嫌で、しばらく南なん断ちをしていたのだった。
ほんとにファンって勝手なもので、好きで追いかけて何度も見に行って、同じ噺が続くと落ち込んで、でも行ってない時に聞きたかった噺をしたことがわかるとまた落ち込んで…こんな自分がめんどくさいよ、ふんとにもう…。
短い持ち時間でなんと初めて聞く噺。タイトルも不明。

家に帰ってきた子どもが服をひどく汚しているので怒るおかあさん。
すると子どもは「かあさん、ぼくをぶつでしょ」と覚悟している様子。
いったいどうしたらこんなに汚れるのだと聞くと、野球をやった、と。
でも一緒に野球をした友だちは誰もあんたみたいに汚れないとおかあさんが言うと「みんなはグローブを持ってるから。僕はグローブがないから体で球を受けるしかないんだ。グローブがなくて僕が球を落としてチームが負けるとみんなに申し訳ないから体で受けてるんだ。だから僕だけ汚れてるんだ」。
「だったらグローブを貸してもらえばいいじゃない」とおかあさんが言うと「みんな自分のグローブを大事にしていて手入れをして使ってるから軽々しく借りれない。先生もむやみに人にものを借りるなって言ってた。だから僕は体で受けるしかない。球に当たってたとえ腕が折れても…胸に当たって骨が折れても…頭に当たって頭蓋骨が砕けても」。

「だったらグローブを買ってあげるわよ」とおかあさんが言うと「ほんと?!ほんとに?でも安いやつでいいからね。一番安いやつ。ペラペラの生地ですぐに穴が開いても繕って大事に使うから」
「…一番いいやつを買ってあげるから」
「ほんとに?」

息子が去った後「あら。うまい具合にやられちゃったわ」とおかあさん。
「でも同じことを亭主にやったら私も買ってもらえるかもしれない」。

帰ってきた亭主に「羽織の紐が切れちゃったの。困ったわ。だけどどうにか一本の紐を結んで使うわ」と言うと「だったら羽織の紐を買えばいい」。
「ほんと?うれしい。あ、でもやっぱりいいわ…」
「なんで?」
「紐はあっても羽織がないもの…。羽織なしで私は紐をこうやってこうやって…どうにかやるわ」
「だったら羽織も買ってやるよ」
「ほんと?うれしい。あ、でもやっぱりいいわ…。だって羽織はあっても着物がないもの…」
「だったら着物も…」
「あ、でもいいわ…。だって…」

…短くてシュールでばかばかしくて楽しい。
南なん師匠がこういう新作っぽい噺(芸協噺なのかなぁ)をするのも意外だったし、奥さんがなんともいえずチャーミングで楽しかった~。


蝠丸師匠「弥次郎」
座るなり「北海道は寒いっ!」と大きな声。
言った後に「あ、噺に入りました」。

ぶわはははは。もう出だしから最高なんだけど。

何かと思ったら弥次郎。
そしてやりとりを1つしたあとに「こういうのが延々続きます。ダジャレの連続です。」

ただの弥次郎じゃなく、ちょいちょい蝠丸師匠らしいギャグが入るのがなんか意表をついていて、もうおかしくておかしくて。
なのにお客さんが結構ポカーンなのがまたおかしくて。
しかも途中で終わった?みたいになって腰を浮かせて下がりかけてまた戻って来て「まだ終わってません」。
フェイクの極みみたいな高座で楽しかった~。


これが私の2018年落語はじめ。
二部の途中から入ったんだけど、二階席も開いていていっぱいのお客さん。
持ち時間が短いから漫談だけの人も多かったけど、面白いのもあればクソつまらないのもあり…。
幸丸師匠って正直好きなタイプではないけど、年賀状の漫談、めちゃくちゃ面白かった。笑った笑った。
そして面白くない人ほど「まだお分かりでない方がいらっしゃる」「わからない人置いていきますよ」を連発するんだよな…。
わからないわけじゃなくてつまらないんですけど。つまらないってわからないでいつも同じのをやってるあなたがすごいよ、むしろ。

二部が終わったらお客さんがどっと帰ったのでそれにもびっくり。
一部と二部は入れ替え制だから、みんな出ないといけないと思ったのか?あるいは休みの日の午後のイベントっていう感覚なのか。
混んでる寄席に行くのはやだなー初席は行かなくてもいいかーと思ったけど、獅子舞も楽しいしやっぱり行ってよかった。満足。

2017年・年間ベスト

2107年に読んだ本95冊、行った落語が218回。
昨年が読んだ本が89冊、行った落語が213回だったから、少しだけ読書が復活した感じか。
落語はペース的には昨年よりもっと上がっていたんだけど、12月に体調崩して行けなかったので、かろうじてこの回数。
行き過ぎを実感していて、特に好きな噺家さんを追いかけすぎて「また同じ噺」とがっかりしたり、落語にすれちゃって新鮮な気持ちで聞けなくなっていたりするので、少し控えようと思いながらも、欲に勝てずこの回数。
今年はもう少し控えめに行こう。
そして本ももっと読みたい。

まずは海外から13冊。

1位:「堆塵館」「穢れの町」(エドワード・ケアリー) 

堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)

堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)

 
穢れの町 (アイアマンガー三部作2) (アイアマンガー三部作 2)

穢れの町 (アイアマンガー三部作2) (アイアマンガー三部作 2)

 

 
2017年はアイアマンガー三部作の一部と二部を読んだ。三部もすでに入手はしているので、近いうちに読む予定。
ケアリーは大好きな作家だけど、作品が出なくなって久しい。出版されていた本も絶版で寂しい限り。
でもそんなケアリーの渾身の作品がこうして翻訳されて出版されて、話題になって(大々的にではないにしても)嬉しい!
「堆塵館」が発売になった時は、三部作がどうか全部出版されますようにと祈っていたのだが、無事出版されてよかった。

ゴミで巨大な富を築いたアイアマンガー一族として生まれ「物」の声が聞こえるという才能を持っているものの、その才能ゆえに一族から疎まれているいじめられっ子の少年クロッド。
両親が「物」に変わってしまったため孤児になってしまった反骨心溢れるルーシー。
ルーシーがアイアマンガーの屋敷に召使として入り、偶然出会った二人が心を通わせ、それがこの一族の運命を狂わせることに…。

「誕生の品」がないと生命の危機を迎えてしまうアイアマンガー一族と、結集することで彼らに対抗しようとする元人間の「物」たちという図式は、「物」に強いこだわりのあるケアリーの真骨頂。
でもこの作品は少年少女に向けて書かれたせいか、エンタメ性が高くスピード感があって非常に読みやすい。

ケアリーの作り出した奇妙な世界に入り込み、そのヘンテコなルールに飲み込まれる幸せを満喫できる作品。
文句なしの1位。


2位:「神秘大通り」(ジョン・アーヴィング) 

神秘大通り (上)

神秘大通り (上)

 
神秘大通り (下)

神秘大通り (下)

 

 大好きなアーヴィングの新刊。好きな作家がこうして元気でいて次々新しい作品を発表してくれるというのは本当に幸せなことだ。
アーヴィングは「ガープの世界」の頃がピークと思っている人もいるようだけど、なんのなんの。作品には力があってまだまだ書きたいことがあふれ出てくるというのが読んでいるとわかる。たのもしい限り。

宗教をテーマにしているため、前半は読みにくくてなかなかページが進まなかったのだが、後半は加速をつけるように面白くなった。
アーヴィングの小説はいつも、大切な誰かを失うことは生きているなかで一番辛いことだけど人間はそのことをも乗り越えていける、そしていつか自分もそうやって死んでいくということを教えてくれる。
この作品もそうだった。

読んでいる最中に訳者である小竹由美子さんと角田光代さんのトークショーでこの作品に関する話を伺えたのもラッキーだった。
話ながら角田さんがじわっと涙があふれてきたのを見て胸がいっぱいになったのだった。


3位:「すべての見えない光」(アンソニー・ドーア

すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)

すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)

 

 2016年に出版された時から評判になっていたのできっと素晴らしいんだろうなと思いながら読みそびれていて、読んでみたらやっぱり素晴らしかった。ドーアは短編もいいけど長編もいいんだなぁ。
「堆塵館」にしてもそうだけど、出版された年に読んだら、twitter文学賞とか翻訳大賞とかにも出せるからいいんだろうけど、なかなか読むのが追い付かないんだよな…。

フランス人の盲目の少女とドイツ人の孤児。何の接点もない二人がラジオでつながる。
彼らのささやかな幸せが戦争によって壊されていく。彼らのひたむきさが戦争の残酷さをより際立たせ、読んでいてたまらない気持ちになる。
戦争をやりたがっている(ようにしか見えない)人たちは、この物語を読んでも何も感じないのだろうか。


4位:「死すべき定め――死にゆく人に何ができるか」(アトゥール・ガワンデ)

死すべき定め――死にゆく人に何ができるか

死すべき定め――死にゆく人に何ができるか

 

死は避けては通れない問題だけど、希望を持つことに慣れた私たちにとって死を宣告されることほど恐ろしいことはない。
自分の親が倒れた時、医者からどうしたら治るかではなくどう死なせてやりたいかともし言われたら、おそらく怒りを覚えると思う。
しかし治る望みがほぼないのに手術をすることや副作用に苦しむことに本当に意味があるのか。
どうやって死んでいきたいかということを考えるのは決して後ろ向きなことではないのかもしれない。

とても難しい問題に正面から取り組んで、自分なりの結論を出しているところが素晴らしい。必読の書だと思う。


5位:「人生の真実」(グレアム・ジョイス

人生の真実 (創元海外SF叢書)
 

世界幻想文学大賞受賞の作品らしいが、SFでも幻想文学でもなく、家族の物語に魔法の要素がちりばめられている、というところがとても好み。
戦争で破壊された町が復興し生まれ変わるように、さまざまな出来事で傷ついた心や人間関係も、家族で団結して修復させていく。
死さえも味方につけて生きる人たちのたくましさが描かれていて、とても素晴らしかった。


6位:「キャッツ・アイ」(マーガレット・アトウッド

キャッツ・アイ

キャッツ・アイ

  • 作者: マーガレットアトウッド,Margaret Atwood,松田雅子,松田寿一,柴田千秋
  • 出版社/メーカー: 開文社出版
  • 発売日: 2016/12
  • メディア: 単行本
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画家として成功したイレインという女性の半生が語られる。
少女時代をトロントで過ごしたイレインはそこでいじめに遭い、その傷が大人になった今も疼く。
一方いじめの主犯格であったコーデリアとは高校生になってからも関係は続き、ある時から二人の立場が逆転する。

アトウッドの自伝的要素もあったのではないかと思える、静かだけど凄みのある物語だった。


7位:「ある婦人の肖像」(ヘンリー・ジェイムズ

ある婦人の肖像 (上) (岩波文庫)

ある婦人の肖像 (上) (岩波文庫)

 
ある婦人の肖像 (中) (岩波文庫)

ある婦人の肖像 (中) (岩波文庫)

 
ある婦人の肖像 (下) (岩波文庫)

ある婦人の肖像 (下) (岩波文庫)

 

身もふたもない言い方をすれば、金持ちと結婚することが女性にとって一番の「勝ち」だった時代、頭でっかちで高慢で美人の女が数々の求婚を足蹴にしながら選んだ相手は…という話。
テーマに全く興味を惹かれないし、出てくる登場人物誰にも特に共感も好意も持てないのに、とても面白くて夢中になって読んだ。
時代背景や倫理観など明らかに異質に感じる部分もあるが、それでもなんというかとても生々しく人間が描かれていて躍動していてそこにたまらない魅力を感じる。これぞ文学という作品だった。


8位:「湖畔荘」(ケイト・モートン

湖畔荘 上

湖畔荘 上

 
湖畔荘〈下〉

湖畔荘〈下〉

 

 読んだときの自分のコンディションもあるのだろうが、ハマるときとそうでもないときとがあるケイト・モートン
今回はぴたっとはまって、読書の楽しさを堪能。
ミステリーとしての面白さもあるから、真相は?という興味でページをめくる手が止まらないし、描写や展開をじっくり楽しむこともできる。
やはりケイト・モートンにはずれはないのかも。


9位:「私たちが姉妹だったころ」(カレン・ジョイ・ファウラー

私たちが姉妹だったころ

私たちが姉妹だったころ

 

 内容的には驚きの連続なのだが、それが決して奇をてらったところがなく、不思議と静かな印象を残す。
結局のところこれは家族の物語で、一人の女性の成長の物語なのだと思った。
「真ん中から話す」という構成がとても効いていて、面白かった。


10位:「夜のサーカス」(エリン・モーゲンスターン)

夜のサーカス

夜のサーカス

 

サーカスの物語が好きだ。サーカスの華やかさともの悲しさ、胡散臭さ、人間臭さに心惹かれる。
この作品、未熟さが目につかないこともないのだが、登場人物が魅力的で生き生きしていて、魔法の力で成り立っている夜のサーカスの描写が素晴らしかった。
作者が舞台美術を勉強していたということもあってか、描写が丁寧でリアルで視覚的にも楽しめる。

この世界に浸っていられる時間が幸せだった。


11位:「丁庄の夢―中国エイズ村奇談」

丁庄の夢―中国エイズ村奇談

丁庄の夢―中国エイズ村奇談

 

凄まじい物語で、良く言えば生命力、悪く言えば人間の浅ましさがこれでもかこれでもかと描かれている。
実話をもとにした小説だが、たんなる「告発」ではなく、文学に昇華されているのがすごい。


12位:「四人の交差点」

四人の交差点 (新潮クレスト・ブックス)

四人の交差点 (新潮クレスト・ブックス)

 

フィンランドを舞台に、ある一家の100年をそれぞれの視点から描いた物語。
家族ってこんなに寂しいものだったっけと胸が痛んだけれど、フィンランドの風景や家の描写なども含めて楽しんだ。


13位:「結婚のアマチュア」(アン・タイラー

結婚のアマチュア (文春文庫)

結婚のアマチュア (文春文庫)

 

 大好きなアン・タイラー。大好きと言いながら、新刊が出なくなって久しいこともありずいぶん長いこと読んでいない。
ふだんあまり再読をしないのだけれど、少しずつ再読していこうとおもい、2017年「ブリージング・レッスン」「夢見た旅」「結婚のアマチュア」と読んだ。
この三冊、どれも甲乙つけがたくよかったのだけれど、特にぐっときたのがこの作品。
タイトルといい、驚きの展開といい、もうほんとにたまらない。
2018年も再読していこうと思う。

 

次は国内編。こちらは全10冊。


1位:「スウィングしなけりゃ意味がない」 

スウィングしなけりゃ意味がない

スウィングしなけりゃ意味がない

 

2017年、佐藤亜紀さんの作品はこちらと「吸血鬼」を読んで、両方ともとても面白かったのだが、余韻と言う意味ではこちらに軍配が上がる。

ナチス政権下のドイツで甘やかされたボンボンが自由な音楽のスウィングとユダヤ人の血を持つ友人と付き合ううちに、ナチスへの軽蔑と怒りを抱くようになっていく様は、読んでいて我がことのようにリアルに感じられた。
政治の裏をかきながらしたたかに生きる主人公だが、彼らとて無傷のままではいられず、彼らとて無傷のままではいられず、地獄を目の当たりにすることになるのだが、ボロボロになり果てても、それでも生き延びることに希望を見出す彼らがとても眩しく素敵だった。


2位:「デンジャラス」(桐野夏生

デンジャラス

デンジャラス

 

細雪のモデルとなった女たちと谷崎の物語。
どこまでが真実なのかはわからないけれど、その世界を壊さずに別の小説としての世界をつくりあげていて、素晴らしかった。

小説家の側にいてインスピレーションを与え描かれることの悦びと捨てられる哀しさ。したたかに生きる女たちが良かった。


3位:「僕が殺した人と僕を殺した人」(東山彰良

僕が殺した人と僕を殺した人

僕が殺した人と僕を殺した人

 

台湾を舞台に家庭に問題がある少年3人が友情を育み心を通わせそして悲劇へと向かっていく。
冒頭に「サックマン」と呼ばれる殺人鬼が逮捕されるシーンが出てくるのだが、この冒頭と少年3人の物語がどうつながっていくのか。
後半になって目線が入れ替わるところとこのタイトルが実に巧妙に効いていて、うぉーーーとなる。
少年たちの成長の物語でもありミステリーとしての面白さもたっぷり。面白かった。


4位:「忘却の河」

忘却の河 (新潮文庫)

忘却の河 (新潮文庫)

 

初めて読んだ福永作品。

父から始まって、二人の娘、母親、長女が淡い想いを寄せた男の独白が各章で語られる。
愛されたい満たされたいと思いながら自分の胸のうちを明かすことができず孤独に生きている人たち。
最終章が本当に素晴らしくて、宗教的なことはわからないけれど、大罪を犯した者でも最後はみな救われるのだと思った。すばらしかった。


5位:「草の花」(福永武彦

草の花 (新潮文庫)

草の花 (新潮文庫)

 

 同じ作家をベスト10の中に入れてしまうのも…という気もしたけれど、両方とも甲乙つけがたく素晴らしかったので。

いろいろな読み方ができる作品なのだろうと思う。
おそらく私も何年か後に読んだらまた今回とは全く別の感想を持つような気がする。

文章がとても美しくて何度も読み返したくなる。


6位:「今夜、すベてのバーで」(中島らも

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

 

らもさん自身の早すぎる死を知っているだけに、どこまでらもさん自身の体験なのだろうと思ったり、なんて破滅的な生き方なんだろうと思ったりしながら読んだ。
何かに依存せずにはいられない弱さと愛する人のために立ち直ろうと決意する優しさ。両方あるのが人間で、特にアルコールについては自分も決して他人事ではなく…。こわいこわい。
人間の弱さや脆さを見せつけられるが、どこか達観した明るさとユーモアがあってそこがとても好きだった。


7位:「森へ行きましょう」(川上弘美

森へ行きましょう

森へ行きましょう

 

最近わりと湿度高めの小説が多かった川上弘美さん、久しぶりにからっと乾いた小説で、私は乾いた川上さんの方が好みなのだなと思った。
どんな選択をしたとしてもそれが自分の人生だし、それがまぎれもない「自分」であることに変わりはない。
過去は変えられないけど未来は変えられる。
そんなメッセージを受け取った。


8位」「もう生まれたくない」(長嶋有

もう生まれたくない

もう生まれたくない

 

訃報小説。 
気楽だけど少し不穏な私たちの毎日は、忘れているけど死と隣り合わせだということを教えてくれる。
震災の後の世の中の変わり方に何かこうざわっとした不安を感じ続けているのだが、見事に表現されていると思った。

面白かった。と書きながら、面白がっていてほんとに大丈夫なんだろうか、という不安も。


9位:「その姿の消し方」(堀江敏幸

その姿の消し方

その姿の消し方

 

 初めて読んだ堀江作品。
私には理解できないんじゃないかと腰が引けてなかなか手を出せずにいたのだが、面白かった。

偶然見つけた絵葉書に書かれた詩の意味を長い年月をかけて読み解いていく。ゆらゆらと思索を漂うような小説で、文学ってこういうふうに人生を豊かにしてくれるんだ、と感じた。


10位「浮遊霊ブラジル」(津村記久子

浮遊霊ブラジル

浮遊霊ブラジル

 

津村さんは「これからお祈りにいきます」も良かったけど、この短編集がとても津村さんらしいと感じたのでこちらを。

どれもみなふわっとした物語なのに地に足がついてる感がある。
漂うように生きて死んだ後も漂う。そんな世界が楽しかった。

臣女

 

臣女(おみおんな) (徳間文庫)

臣女(おみおんな) (徳間文庫)

 

 ★★★★

夫の浮気を知った妻は身体が巨大化していった。絶望感と罪悪感に苛(さいな)まれながら、夫は異形のものと化していく妻を世間の目から隠して懸命に介護する。しかし、大量の食料を必要とし、大量の排泄を続ける妻の存在はいつしか隠しきれなくなり、夫はひとつの決断を迫られることに──。恋愛小説に風穴を空ける作品との評を得、満票にて第22回島清恋愛文学賞を受賞した怪作! 

夫の浮気がきっかけで巨大化していく妻。
どんどんどんどん大きくなっていき、時に不均衡になり言葉も発しなくなり獣化したかに見えるのだが、成長?の過程で美しくなったり感情を現せたりする瞬間もある。

糞尿にまみれた物語でにおってきそうでげんなりもするのだが、こうなって初めて夫婦が本当に心を通わす瞬間を得たりもして、究極の愛の物語と言えなくもない。

夫の心の動きがとてもリアルで嫌悪感を抱くような言動もあるのに他人事には思えない。すごい作品だった。

これが私の2017年の読み納め本。

新宿末廣亭12月下席夜の部

12/28(木)、新宿末廣亭12月下席夜の部に行ってきた。


・ダーク広和 マジック
・錦平「寝床」
・歌之介「お父さんのハンディ」
~仲入り~
・蔵之助「ぜんざい公社」
笑組 漫才
・小袁治「長短」
・一朝「厳流島」
・正楽 紙切り
・今松「芝浜」


蔵之助師匠「ぜんざい公社」
楽しみにしていた蔵之助師匠、「ぜんざい公社」で残念…。この噺、好きじゃないんだよなー。
独自のギャグは面白かったけど、でも違う噺が聞きたかった。


小袁治師匠「長短」
長さんがことさらゆーっくり喋ったりするわけじゃないけど気の長いのが伝わってくるし、二人の仲のいいのも伝わってくる。
楽しかった。


一朝師匠「厳流島」
一朝師匠の「厳流島」大好き。船頭さんがいいなぁ。
リズム感がよくて明るくて軽くて最高。


今松師匠「芝浜」
とても自然で芝居っぽいところやいやらしいところが全くなくてでも最後まで聞いて「ああ、本当にいいものを見た…」と思える「芝浜」だった。
お酒が好きで仕事に支障をきたしてしまうところなんかもとてもリアルで、おかみさんもいたって普通のおかみさんで、それでも出入り禁止にしていたお得意さんが、「これからは本当に心を入れ替えて…」とやってきたのを厳しく「だめだよ。帰りなよ」と追い払うのに、持ってきた魚を見て「お、ちょっと見せてみな。ああ、いいねぇ。こういうのを持ってこないんだよなぁ、他の魚屋は」と言うところ。なんかぐっときた。

大みそか、お湯から帰ってきて畳が新しいのに気が付いて、しみじみ今の幸せを噛みしめるところ。
おかみさんから酒を勧められて心底嬉しそうにするところ。
なのに口をつけようとして、はっとしてやめるところ。
普通の人の普通の生活がとても貴くて美しいんだなぁと感じた。すばらしかった。

これが私の落語納め。最高。

さん助ドッポ

12/27(水)お江戸両国亭で行われた「さん助ドッポ」に行ってきた。

・さん助「嘘つき村」
・さん助「雪の地蔵堂~西海屋騒動より~」
~仲入り~
・さん助「御慶」

さん助師匠「嘘つき村」
いつものように立ち話より。
兄弟子の喬太郎師匠の番組に一門で呼んでいただいた。
毎年、この時期に一門の真打が呼んでいただき、1月に放送してもらってありがたい限り。
師匠は別の部屋で、他は全員同じ楽屋。
収録の時、メイクのようなものをしてもらえるんだけど、自分は顔のテカリを抑えるパウダーを頭の方にまで付けられる。
これが汗で剥げたんじゃないかと左龍師匠が「(パウダー)はげてない?」と聞くので「いいえ。はげてないです!」と答えると、それを聞いていた喬之助師匠が「え?お前…(自分が)はげてないと思ってるの?!この期に及んで?」。
「いや…頭がはげてないって言ったんじゃなくて、パウダーがはげてないって言ったので…」とさん助師匠。
その後2時間ぐらいの間、「はげてない?」「はげてません」「え?お前はげてないと思ってるの?」の会話を何度となく繰り返した…。そんな一門なんです。

…ぶわはははは!
びっくりまなこで「まだはげてないって思ってる?」とツッコんでくる喬之助師匠の顔が目に浮かんでくる。最高。

この間、池袋にある高級居酒屋に行きました。
「ふくろ」というお店で。とさん助師匠。
先輩に連れて行ってもらってカウンターに座ったんだけど、隣にOLとその上司の二人組。
この上司がOLの腰に手を回しちゃって、どう見てもセクハラ。OLの方は新入社員なのか部下なのかあからさまには断れない風。それをいいことに「このあとカラオケボックスに行こうよ」とささやいたりしている。
彼女が嫌がっているのは伝わってくるので、いらいらしながら見ていたら、その後に彼女が言った一言がすごかった。
「課長、今日は本当に楽しかったです。どんなに楽しかったかを明日部長に報告しますね!」。
そう言われた瞬間、課長が彼女の腰に回していた手がすっと離れた。
溜飲が下がるとはまさにこのこと!

…ぶわはははは!すごいな、それ。
うちの会社では考えられないけど、でも確かに居酒屋で他の会社の忘年会に遭遇するとトイレに行こうとする女性を無理やり自分の膝の上に乗せようとしたり、隣の女性に触ったりするのを目にすることがある。
そういう時はこう言えばいいのか。賢い女性だなー。ブラボー。

そんな立ち話から高座へ。

「嘘つき村」、これは先代の柳枝師匠がやられていた噺で、私この間お話しした通りそのお弟子さんの栄枝師匠から許可をいただいたので、やらせていただきます。
以前は使われていた慣用句で今は使われなくなったものって結構あります。
「化けの皮がはがれる」という言葉がありますが同じような意味で「嘘の皮がはがれる」という言葉があった。今は使われなくなりました。
そんなまくらから「嘘つき村」。

ご隠居さんのところに訪ねてきたくまさん。
会話をする二人の表情がとても生き生きしていて楽しい。
くまさんはうそをつくのが大好きで、これがもうほんとにしょうもない。
本気にして聞いていたご隠居がオチを聞いて「なんだい」とむっとすると、「うぇーーーーい!」と喜びの奇声を上げて出ていくくまさん。
この「うぇーーーい」がすごくばかばかしくて楽しい。
そんなやりとりを他の家でも3回やったあと、くまさんはまたご隠居の家に戻って来て、自分は嘘の名人だと言う。
するとご隠居がお前さん程度の嘘つきは世の中に五万といる。それよりも向島の先の方(だったか?)に嘘つき村というのがあってそこは住んでる人が全員嘘つき。その中でもナントカ(忘れた)という人は嘘つき中の嘘つき。この人こそが嘘つきの名人だ、と言う。
それを聞いたくまさんは嘘つきの名人に嘘で勝てば自分こそが名人を名乗れるようになる、といさんで出かけていくのだが…。

前半の「これは面白そうだぞ」の期待感からの後半の失速ぶりに既視感(笑)。
でもこれ面白い。もう少し短くすれば寄席でもかけられるんじゃないかな。
さん助師匠って大声だしただけですっごくおかしいから、それが強みだよなー。

あとで「わすれてください」と言ってたけど、忘れないから!ぜひ寄席で!
これ、速記で見つけたらしいんだけど、ほんとに速記本に「うぇーい」って書いてあるらしい。
「うぇい」がやりたくてやったようなもん、と言っていた。最高。

さん助師匠「雪の地蔵堂~西海屋騒動より~」
連続物でやっている西海屋騒動、いつか相関図もあらすじもなしである部分だけ切り取って寄席でかけたい、というさん助師匠の野望への挑戦、ということで、幼子の義松を連れて大雪の中、お照が出奔するシーン。
親切そうな馬子に声をかけられて最初は断るもののどこの宿屋でも断られ弱り切っていたため、義松を連れて馬子の家へ付いていく 。
自分の身の上を話すお照に、馬子・辰五郎も妻とのなれそめなどを話す。
疲れ切ったお照が寝入ると、夫婦はひそひそ話。実は二人は追いはぎで身なりのいいお照に目をつけ最初から殺すつもりで連れて来たのだった。
妻のお山は自分たちにも同じぐらいの年の子どもがいることもあって、子どもだけは助けてやってくれと辰五郎に頼む。辰五郎は最初は「今まで何人もの命を奪ってきていまさら…」と言うのだが、最後にはお山の言うとおりにする、と言う。
夫婦の会話を聞いたお照は、義松を連れて壁の穴から逃げ出し、ようやく地蔵堂を見つけここに隠れていれば助かる…と思ったのもつかの間、先回りした辰五郎に見つかり、無残に殺される。
義松にも手をかけようとしたところ、「御用」という声を聞き、辰五郎は逃げていく。

雪と血しぶきの表現とかが印象的ではあるけれど、やっぱりちょっとまだ完成度は低いかなぁ…。
人物の相関がわからないと「???」って感じだし、とにかく嫌な話だからなー。
これを寄席のトリでかけたら、いや~な気分で帰ることになるよなぁ…。うーむ。


さん助師匠「御慶」
めでたい夢を見たからその番号の富を買うんだといさんででかけた男。
すでにその番号は買われちゃったと聞いても「それおれの番号なんだから!」と言い張る。この言い張る顔が漫画みたいで笑っちゃう。
そして「ぎょけいっ!」のおたけび。
御慶やるって聞いた時からきっとそうだろうと思っていた通りのばかばかしさ。楽しい!

ちょっともたもたっとしたところもあったけど(笑)年末に御慶聴けるって幸せだなー。
楽しかった。

連雀亭きゃたぴら寄席

12/26(火)連雀亭きゃたぴら寄席に行ってきた。

・遊かり「看板の一」
・ふう丈「野ざらし
・明楽「幇間腹
・昇也「武助馬」


遊かりさん「看板の一」
この年になると初めての体験ってなかなかできない、と遊かりさん。
一通りおいしいと言われるものは食べたし、USJもディズニーランドも行ったし、旅行も行ったし…。
でもそんな私、最近初体験をしました。
それは…袋とじを開けたんです。

楽屋で先輩たちが熱く袋とじについて語っているのを聞くことがあったけど、確かにあれは興奮します。
私があけたのが「壇蜜の全て」。
これは興奮しますよ。見たいですよね、壇蜜のすべて。これは女性でも見たいです。素敵ですから。
しかも袋とじって、とじてない部分にも予告というか写真があって、開けたくなるようになっていて。最初のショットは白い木綿の着物を着て素肌がちょっと透けているショット。次が男の人が大好きな、たっぷりしたセーターを着て肩とか胸のあたりは出ているけど手がすっぽり袖の中に入っていて甘えるような表情のショット。その次が下着のショット。となると…袋を開けると…というのを想像させるつくりになってるんですね。

私ももう次が見たくて震える手で丁寧に袋とじをあけて…見たんです。
結論から言うと…裸よりその前のショットの方が興奮しました。なんか…そういうもんなんですね、きっと。前の3枚が「看板」なんです。本編より看板の方がよくできてる。それが私の袋とじを見た結論です。

そんなまくらから「看板の一」。
ぶわははは。このまくらからのつながりでこの噺っていうのもすごいな。遊かりさん、腕をあげたな(笑)。

前座の頃はまじめな感じの落語だったけど、少しぞろっぺな感じになっていて、これが遊かりさんのカラーなのかな。袋とじのまくらといい…話のわかる女キャラ?

ふう丈さん「野ざらし
おお、「野ざらし」。ふう丈さんの古典、久しぶり。
少な目のお客さんであまりノリもよくなかったので大変そうだったけど(笑)がんばってた。

明楽さん「幇間腹
お目当ての明楽さん。
なんとなく最初は陰気に始まり、およおよ大丈夫か?と心配していたけど、徐々に調子が上がってきて、楽しかった~。
なんかぼそっという一言がすごくおかしくてツボなんだよなぁ。センスを感じる。
とてもナイーブな人なんだろうな。自虐が過ぎてお客さんを引かせてしまって自分も沈んでしまっているような…。
明楽さんの落語、すんごく面白いから、もっと自信持って明楽さんカラーをがんがん出したらいいと思うの。がんばれ~。
来年はもっと明楽さんを見に行こう。

 
昇也さん「武助馬」
前に出た3人をいじりながら噺にも取り入れながら「武助馬」。
貫禄あるなー…。弟子入り志願者が出るのもわからないではない。でも二ツ目だってこともわからないでメールで弟子入りをお願いするって…やっぱり相当失礼な話だな(笑)。

「武助馬」…これ地味な噺だよねぇ…。多分みんな鯉昇師匠から教わっているんだろうけど。むー。

アンチクリストの誕生

 

 ★★★★

 20世紀前半に幻想的歴史小説を発表し広く人気を博した作家ペルッツの中短篇集。史実を踏まえた奔放なフィクションの力に脱帽。解説 皆川博子

ペルッツの短編を読むのは初めて。
ペルッツの小説は、世界観や宗教観に慣れるまでに時間がかかるので短編だとより理解が難しい印象。

牧歌的な物語なのかと思って読んでいるとものすごい不穏な展開に進んで行ったり、宗教的な何かなのかと思って読んでいると妙に身につまされる結末が待っていたり。
きっと自分は100%は理解できてないだろうなと肩を落としつつ…それでも物語を読む楽しさはたっぷり。

読むのに結構時間がかかったけれど楽しかった。

本寸法・噺を聴く会~第73回~. 林家正雀・柳家蝠丸二人会【その3】

12/23(土)、武蔵境商連ファミリースタンプ会議で行われた「本寸法・噺を聴く会~第73回~. 林家正雀柳家蝠丸二人会」に行ってきた。

 

正雀「一人酒盛り」
・蝠丸「死神」
~仲入り~
・蝠丸「安兵衛狐」
正雀文七元結

正雀師匠「一人酒盛り」
お酒のしくじりのまくら。
いただいたご祝儀をいくらあるんだろうと電車の中でとり出してそのままお札を手でつかんだ状態で寝入ってしまった。
すると誰かが自分を揺り動かして声をかけてくる。なにごと?と思って目を開けると「それ、しまったほうがいいですよ」。
お札をさっと抜き取ることもできただろうに、わざわざ起こして注意をしてくれた人がいた。ありがたい。
自分は寝上戸なので、酒を飲んでこういう失敗はしょっちゅう。

先輩の小里ん師匠と志ん橋師匠は大の仲良し。二人で渋谷で飲んでいたら朝の3時になってしまった。2時間待てば始発が動き出すからとそのまま飲み続け5時になって別れてそれぞれ始発へ。
小里ん師匠は家が浅草なので渋谷から銀座線。乗り込んで「やれ、これで帰れる」とほっとして、ハッと気づいたら1時間がたっていて、渋谷にいた。
浅草まで行って戻ってきてしまったのだ。
浅草へ行くには階段を使って別のホームへ行かないといけない。
やれやれと思いながらまた電車に乗り込んで今度こそ家へ…と思っていて、ハッと気づいたらまた渋谷。
これを繰り返し3回渋谷に戻ってきた。

…ぶわはははは。最高。
そんなまくらから「一人酒盛り」、初めて聞く噺。
知り合いから「酒のもと」をもらったという男。友だちのとめさんを呼んで「一緒に飲もう」と言いながら、とめさんに刺身を買いに行かせたり火をおこさせたり漬物を切らせたり…あれこれ言いつけてとめさんを持ち上げるだけ持ち上げて酒は一人で飲んじゃう。
何度か飲めそうになるのに結局飲めないとめさんがかわいそう!
一人で飲んで一人で気持ち良くなる男の気持ちのよさそうなこと。
正雀師匠ってかたい噺をかたくやる師匠っていうイメージが強かったから、こんなに面白いとは思わなかった。楽しかった。

蝠丸師匠「死神」
久しぶりの蝠丸師匠。うれしい~!
歌丸師匠と一二を争うほど痩せている蝠丸師匠。今までの人生で一度も太ったことがないんだけど健康そのもの。病気一つしたことがないので行きつけの病院を持っていない。
2年ぐらい前に原因不明の病で何を食べてももどしてしまい仕事も休むはめに。
行きつけの病院がないので地元駅前の病院に駆け込んだ。
するとそこの先生、蝠丸師匠の顔を見るなり、「ひでぇ顔してるなぁ…!」。
具合が悪いから行った病院で医者に「ひでぇ顔してる」って言われるって!「大丈夫ですよ。治りますよ」と言ってほしいのに…そう言うべきじゃないですか、医者だったら。それを「ひでぇ顔」って…!
さらにお腹を見ましょうと言われて裸になるとまたこの医者が「ああ、どうしてこんなになるまで放っておいたの!」。
い、いえ、べつに放っておいたわけじゃなくて、ずーーっとこういう痩せた体で元気に生きてきたわけで、病のせいで「こんな体」になったわけじゃありません!
そう思いながらも思わず口をついて出たのは「どうもすみません」。

…ぶわはははは。おかしい~。
そんなまくらから「死神」。
ちょこちょこ入るくすぐりがたまらなく楽しくてくすくす笑える。
なんたって呪文が「あじゃらかもくれんバイアグラ」。足元から死神がいなくなって元気になった病人が「吉原に行きたいー!」「お、バイアグラが効いたんですな」。
蝋燭のある場所に連れて行かれた時も「お、あそこに集団で元気に燃え盛っている蝋燭が」「あ、あれは、武蔵境に落語を聞きに来てる人たちの寿命です」。

蝠丸師匠らしい、軽くて楽しい「死神」だなぁ。この師匠のほどの良さが好きだなぁ。


蝠丸師匠「安兵衛狐」
トリがたっぷりなのでここは軽めにと「安兵衛狐」。
源兵衛さんの変人ぶりが強調されていて、最初から墓見に行くつもりで谷中へ出かけ、女の墓の前であれこれ喋りながら酒を飲む。
女房をもらったなら言ってよ~と安兵衛が訪ねてくるのは次の日。
いい女だった~と羨ましがる安兵衛に「女房をもらうなら幽霊に限るよ」とのろける源兵衛。

短めだったけど、なんかふわふわと楽しい「安兵衛狐」。それにしてもなんか定まらない噺だな、これって(笑)。


正雀師匠「文七元結
今まで正雀師匠って寄席でしか見たことなかったけど、結構表情豊かできびきびしているんだな、とちょっとびっくり。
なんとなく寄席で見ると他の噺家さんに比べてかためで控えめ、という印象だったのだ。

店の主人が貫禄があって品があっていい感じ。
こんなにいい旦那だったら、ちゃんと話せば赦してもらえる、と思いそうなもんだけどな…。文七って…。
お金を返すと言われた時には激しく拒むのに、お酒は喜んでもらう親方が好きだな(笑)。


二人で二席ずつ、たっぷり聞けて満足満足。
武蔵境って遠い!と思ってたけど、そんなでもなかったし、お買物券もいただいたから、また行きたいな。

末廣亭12月下席夜の部

12/22(金)、末廣亭12月下席夜の部に行ってきた。


・蔵之助「猫と電車」
笑組 漫才
・小袁治「紀州
・一朝「看板の一」
・仙三郎社中 太神楽
・今松「らくだ」

蔵之助師匠「猫と電車」
初めて見る噺家さん!と思ったら、前にやはり今松師匠トリの末廣亭で見ていて「佃島」という珍しい噺を聞いて、面白い!と思っていたのだった。ああ、記憶力…。
私に何席持ってますか?とか聞かないでくださいね。今松師匠のようにたくさん噺を持っている噺家さんは別ですけど、私なんかはほんとにたいしてもってないので。それって、「年収はいくらですか」と聞くのと同じですから。
落語はおおよそ800席ぐらいあるんじゃないかと言われますけどそのうちかかる噺は100席かそこら。かからなくなった噺はどういう噺かといえば、面白くないかくだらなすぎる。
で、今からする噺はその両方を兼ね備えた噺です、と「猫と電車」。

飼っていた猫が6匹子猫を生んで困っている旦那。貧乏そうな友だち?に、かつおぶしをつけてやるからと一匹押し付ける。
猫を風呂敷に入れて電車に乗って帰ろうとすると「猫を連れて乗っちゃダメ」と断られる。
仕方ないのでお腹に隠して電車に乗るのだが、猫がにゃーにゃー鳴き始め、近くにいた人たちが「ここに隠せばわからないよ」と男の頭の上に猫を載せてその上から帽子をかぶせるのだが…。

…確かにしょーもない噺だけど、なんか芸協噺みたいで楽しい。
語りが少し遊雀師匠っぽくて、好きかも。もっと見てみたいな。


小袁治師匠「紀州
小里ん師匠のことも談志師匠のこともマックくん好きなのになんであんな物言い…?
そして「紀州」も、ふつうにやればいいのに…。
ちょっと残念な高座だったな。私的には。


一朝師匠「看板の一」
一朝師匠の「看板の一」って珍しい!って調べたら前に一度聞いたことがあった。
隠居のかっこよさと若い連中のくだらなさの対比がおかしい。かっこいいと言ってもそんなにでもなく(笑)かるーくかっこいいところがいいな。
最初から最後まで気持ちよく楽しい。好き好き。


今松師匠「らくだ」
「らくだ」、決して好きな噺じゃないんだけど、最初から最後までとても良くて楽しかったなぁ。楽しい噺じゃないのに不思議だなぁ。

屑屋さんがすごくいいんだな。兄貴分に脅されてぶつくさ文句を言いながら用事をこなすんだけど、それがかわいそうすぎなくて楽しい。この噺って立場が逆転してからは笑えるけど前半が楽しくないのが普通なのに、今松師匠の「らくだ」は前半も楽しめた。

屑屋さんが3杯目のお酒を飲んで様子が変わっていくところがとっても好き。2杯目までは味わうようなところが皆無だったのに、「あ、うまい酒だな」って気が付いて、だんだん軽口を叩くようになってだんだん楽しくなってきて無敵になってくる。いいんだよね、この「飲んだら無敵」感が。お酒って。

兄貴分に寺の相談をされて「しょうがねぇな」ってなるところ、立場の逆転をことさら激しく強調しているのではないけど、屑屋さんの面倒見の良さと、根無し草のようならくだや兄貴分にはない強さが出ていてとっても好きだ。

私のようなミーハーに今松師匠の素晴らしさを語れるわけがないんだけど、人物造詣やストーリーがこう…腹に落ちる感じがする。だから落語の世界に浸ってその世界を楽しめる。説明調なところや演技っぽいところがこれっぽちもないのに。

楽しかった~。
今週は体調が悪くて落語に全然行けなくてようやく行けたのがこの芝居。幸せだった。

 

死体展覧会

 

死体展覧会 (エクス・リブリス)

死体展覧会 (エクス・リブリス)

 

 ★★★★

 現実か、悪夢か。現実性と非現実性が交錯する14の物語。イラクにはびこる不条理な暴力を、亡命イラク人作家が冷徹かつ幻想的に描き出す。現代アラブ文学の新鋭が放つ鮮烈な短篇集。PEN翻訳文学賞、英国インディペンデント紙外国文学賞受賞。既刊2冊から14篇を選んでアメリカで出版された英訳版からの翻訳。

悪夢のような物語がつらなる短編集。

正義や信仰や善意ではなく暴力が制する世界。
テロが多発し次々人が死んでいく中で、ヤラれないために自らも暴力をふるう人、亡命したものの祖国の呪縛から逃れられず狂気に向かう人…。

表紙の女性のように嫌だ見たくない聞きたくないと目を背けてみても、読んでいる私たちも否応なくこの世界に巻き込まれていく。

こわい。こんな世界でどう希望を持ってどう正気を保って生きていけばいいのだろう。

10年前なら面白いと思って読めたかもしれないが、今は…。面白がれていたあの頃の自分は平和ボケだったのかもしれないなぁ…。

死すべき定め――死にゆく人に何ができるか

 

死すべき定め――死にゆく人に何ができるか

死すべき定め――死にゆく人に何ができるか

 

現役外科医にして「ニューヨーカー」誌のライターである著者が描く、迫真の人間ドラマ。人生の終盤をよりよくするために奔走した人々のエピソードが圧倒的な取材力と構成力で綴られた本書は、読む者に自らの終末期の選択について多くの問いを投げかけるだろう。終末期をどう生き、最期の時をどう迎えるのか。私たちは豊かに生きることに精いっぱいで、「豊かに死ぬ」ために必要なことを、こんなにも知らない―。

★★★★★

病気になって病院に行くとき誰もが治ることを期待しそのためなら費用も副作用もどうに我慢しようと考える。これは本人だけでなく治療する側も同じで、だからこそ治らない患者に副作用の酷い治療を施したり、終末を迎えようとする患者に心無い言葉をかけてしまうことにつながっている。

作者自身が医師であることもあって、勉強したりいろんなケースを見てきたことと、自分の親を看取った体験からの感じたこともあり、知と情その両方から語られているので、非常に客観的かつ心に触れる内容になっていて素晴らしい。

「人間は一度しか死ねないのだから、死の経験から学ぶことはできない」という言葉が胸に沁みる。
避けては通れないことなだけに、家族にも読んでほしいし話しあいたいと思った。

素晴らしい本だった。まわりの人にもすすめたい。

柳家小のぶ独演会

12/14(木)、お江戸日本橋亭で行われた「柳家小のぶ独演会」に行ってきた。

・市朗「狸札」
・市楽「野ざらし
・小のぶ「宮戸川(上)」
~仲入り~
・小のぶ「芝浜」


小のぶ師匠「宮戸川(上)」
隅田川は場所によって呼び方がいろいろ違っていた、と。
宮戸川も隅田川のことだとは知らなかった。
噺をする前に小のぶ師匠からいろいろ普段は聞くことができない蘊蓄を聞かせてもらえるのがとてもうれしい。
また長い噺は寄席で全部をかけることができないので途中で切ることが多く、これからするお話も後半はあまり面白くないのでめったにやられることはありません。今回もそうです、と。

そんなまくらから「宮戸川(上)」。
正直この噺好きじゃなくて寄席でもこれがかかると「あーあ」と思うくらい聞き飽きちゃってるんだけど、これがもうひっくりかえるほど面白くてびっくり。
もしかして今寄席でかかってるかたちって小のぶ師匠からなのかな。
基本的にはよく聞くかたちなんだけど、いやらしさがぜんぜんなくてカラっと明るくて、でもめちゃくちゃ面白い。

はんちゃんを追いかけるお花ちゃんのしぐさはないんだけど、はんちゃんが袖をひっぱられて後ろを振り向く、っていうその繰り返しがたまらなくおかしい。
元遊び人というおじさんがはんちゃんに扉を叩かれておばあさんを起こそうとして寝顔を見て「しわだらけになったもんだな…。顔にしわができたんじゃないな。しわの間に顔が入ってる」とつぶやくおかしさ。
おじさんとおばさんの会話もなんともいえず楽しい。

はんちゃんとお花ちゃんのシーンもごくあっさりしていていやらしさがなくて楽しかった!


小のぶ師匠「芝浜」
この噺は昔は「馬入」とタイトルがついていた。
「馬入」というのはぼてふりの魚屋さんがお金を入れていた袋のこと。
ぼてふりも少なくなって馬入もわからなくなってきたため「芝浜」とタイトルが変わった。
そんなまくらから「芝浜」。

おかみさんがくまさんを起こすところから。
「くまさん、くまさん、起きておくれよ。くまさん、くまさーん」とおかみさんが激しく揺り起こすのがすごくおかしい。
もうこの始まり方だけで、好き!と思う。

約束したじゃない。だから夕べお酒を飲ませたのに。あれは嘘だったのかい?
おかみさんに言われ、用意もしてあって、仕方なくいやいや河岸に行くくまさん。
おかみさんが時間を間違えたことがわかり仕方なく芝浜で煙草を一服。財布の紐が目に留まり財布を手繰り寄せて…。
そこからもうびっくりするぐらい激しく(笑)家に走って帰る。
だけど扉を叩くのはあくまでも静かに、ひそひそ声で「おい、開けてくれ」。

財布の中が50両あると分かった時、くまさんは嬉しそうになり、おかみさんは不安そうな表情を見せる。
お酒をすすめるときの顔で、おかみさんがどうにかこのお金をなかったことにしようと決めていることがわかる。

 3年経って、くまさんが借金なしで年末を迎え、新しい畳に心底嬉しそうなのが、見ているこちらも清々しい。
あれは嘘だったと告げるおかみさんがめそめそしてなくて素敵だ。

最後のセリフも人のいいくまさんのおっちょこちょいがにじみ出るようで、とてもよかった。
いやぁいいもの見たー。幸せー。