りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

第370回圓橘の会

12/22(土)、深川東京モダン館で行われた「第370回圓橘の会」に行ってきた。

・まん坊「時そば
・圓橘「二番煎じ」
~仲入り~
・圓橘 太宰 治 原作『新釈諸国噺』 「赤い太鼓」大岡政談風に

まん坊さん「時そば
おおお。「時そば」って意外と難しい噺なんだな、とまん坊さんの高座を見て思った。
お世辞のきかせかた、そばの食べ方、会話のテンポ。
後から出てきた圓橘師匠が「あれに教えた時、最初のそばは食べて温かく、二番目のそばは食べても温まらない感じにと教えたんですが、できてなかったですね」「ニツ目になることがもう決まっているのでこういう噺もできるようにならなきゃいけない。勉強です」と。なるほど。


圓橘師匠「二番煎じ」
集まったのがいかにも大店の大旦那という感じ。威厳があって品がある。
それだけに寒さに身を縮めて拍子木を懐の中で鳴らしたり提灯を着物の中に入れているギャップが楽しい。
また大宮の旦那が歌うように言われると「私の芸をどこで誰が聞いてるかわからない」と言いながら気取って三味線の口真似をしたり、黒川の旦那の謡いの調子がものすごく大仰だったりするのがとてもおかしい。
また若いころは吉原にいて火の回りをやっていたという辰さんがいかにも粋で素敵。
番小屋に帰って来てから黒川の旦那が酒を出すと月番が怒り出すの、威厳があるだけにとても怖くて、それだけに「土瓶から出る煎じ薬ならいい」と言う茶目っ気が嬉しくなる。
また月番が黒川の旦那に「口火を切ってくれたから出しやすくなった」と感謝するのも素敵だ。
肉を食べる段になって「私、歯が悪いものですから」と言ってはもぐもぐもぐもぐやって「あなた、歯が悪くないですよ!」と突っ込むのもおかしい。
侍もとてもコワモテなのでそれが「いい煎じ薬だ」「明日も持ってきなさい」と言うおかしさ。
「二番煎じ」はこうでなきゃ!という「二番煎じ」だった。かっこいい!!


圓橘師匠 太宰 治 原作『新釈諸国噺』 「赤い太鼓」大岡政談風に
これこれ、これをたのしみにしてきたのだ。
井原西鶴の原作を太宰治がパロディにしたもの、らしい。長い話なのでこれをいかに刈り込むかが課題、とおっしゃいながら。

昔、都の西陣に徳兵衛という染物屋がいた。女房以外の女を知らず趣味も将棋を指すぐらいのもの、酒も二合以上飲むことはなく、染物屋にしては珍しく期日を守る実直な男。
それがなぜか貧乏神にとりつかれたようにいつも金に困っていて、ある年の暮れにもうどうにもままならなくなったので夜逃げをするしかなくなってしまった。
町内の者は徳兵衛の困窮ぶりに気づき、いったいいくら借金があるのだと聞けば八十両と言う。それならみんなで10両ずつ出し合って助けてやろうということになり、大みそかの夜に男が10名徳兵衛の家にやってきて、百両を手渡す。
また男たちは酒や肴も持ち寄ってきており、感涙にむせぶ徳兵衛とその妻に、一緒に宴会をして楽しい年越しにしようと言う。
女房はいただいた百両をありがたく神棚にあげ、男たちは大宴会。女房は戸締りが大事と思い、家じゅうの戸の鍵を締めて回る。
あくる日になって男たちは帰って行くが、神棚にあげたはずの金がなくなっている。戸締りもしたし泥棒が入った形跡もなく、これはあの男たちがやったのではないかと騒ぐ女房。
徳兵衛はあんなによくしてくれた男たちのことを疑うのか?と女房をたしなめ、なかったことにしようとするのだが、この噂が大岡様の耳に入り、徳兵衛と女房、それからそこにいた男と女房、もし女房がなければ最も近親の女を連れて出頭せよとのお達し。
大岡様は集まった男たちに向かい「それだけの金を持って行ったならなぜそこで帰らなかったのだ。宴会をするのがいけない」と小言。それから、くじで10名の男に順番を付けて、その順に毎日一組ずつ赤い太鼓を担いで村を決まった順番に従ってぐるりと回って戻ってくるように申し遣わす。
物見高い江戸っ子が見物にやってきてヤンヤとはやし立てる中、太鼓を担ぐ男とその女房(女房がないものは姉妹や娘)。村はずれまでやってくるとさすがに見物人もいなくなりそのあたりに来ると女房の小言が始まる。
「お前がかっこつけて金をめぐんだりするからこんなことになるのだ。うちだって金に余裕があるわけじゃないのに。」
「あなたのせいでこんな見世物みたいになって恥ずかしい。それをあなたは恥ずかしいとも思わず得意になって」
「いつもはケチなお前がこんな風に金を出したのは徳兵衛の女房に色目を使いたかったからだろう。そのせいであたしまでもこんな目にあって」

10名全員が担いで戻ってくると上機嫌の大岡様。
「この中で一組だけ女房に”まぁそう怒るな。この騒ぎがおさまったらかくしておいた百両をお前に渡すから”と言った者がいる。その者は命は助けてやるから盗んだ百両を徳兵衛の家の前に置くように。」そう言い渡してお裁きは終わった。

…うわーーー。面白い!!話自体がとても面白いし、女房が旦那をなじる部分がめちゃくちゃおかしい!!
楽しい~!こういう噺を聞かせてくれるから圓橘師匠ってほんとにたまらない。

噺が終わって頭を下げたあとに、圓橘師匠「お裁きものはもたついちゃいけないのに…今日はお見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません」。
え??と驚いていると「実は…お聞き及びのお客様もいらっしゃるとは思いますが、一番弟子の小圓朝が先週亡くなりました」と。

インフルエンザから肺炎をこじらせて入院していて…それでも一時は容体も安定してきたのでお見舞いに行って「4月にはお前の会をここでやるから。頑張るんだぞ」と声をかけたら「ありがとうございます。頑張ります」とはっきりした声で返事をしたのに、そのあと悪化して亡くなってしまった。
亡くなったという知らせを聞いた時は全身の力が抜けてへなへな…と崩れ落ちるようになって…今もその状態が続いている。
それでも通夜には仲間が大勢詰めかけてくれて、弟弟子の萬橘は挨拶しながら今まで見たことがないほどの号泣をして…噺家には友情というものは育たないものだと思っていたけれど、小圓朝を慕う噺家が大勢いること、弟弟子にもこんなにも慕われていたということを目の当たりにして、そのことは嬉しかった。
きっと圓橘一門はこれからいい方向に行くよな。
今まで小圓朝を見守ってくださってありがとうございました。

…私は小圓朝師匠は見たことがなかったのだが、訃報を聞いて、ええ?49歳の若さで?圓橘師匠、辛いだろうなぁと思った。
でもまくらでも何もおっしゃらなかったし、そのことには触れないんだなと思っていたので、まさかこんな風に挨拶をされるとは思ってなくて、もう涙涙だった。
弟子に先に死なれてしまうってきっと親が子供に先に死なれたぐらいのショックがあると思う。
師匠が上の方を見上げて「これからいい方向にいくよな」と語りかけたのが悲しくて…でも優しさがにじみ出ていて泣けた…。