りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

第372回圓橘の会

3/23(土)、深川東京モダン館で行われた「第372回圓橘の会」に行ってきた。

・まん坊「古着買い」
・圓橘「百年目」
~仲入り~
・圓橘 圓朝作 怪談「牡丹燈籠」その2 新三郎とお露


まん坊さん「古着買い」
まん坊さんの挨拶が萬橘師匠とそっくりでいつも微笑んでしまう。
そして前座さんだけど結構珍しい噺をされて、それも圓橘師匠に教わっていることが多く、いいなぁと思う。
こすっからいから買い物が上手とおかみさんに言われてくまさんを買い物に誘いに来た男。何を買うんだい?と聞かれて「羽織」。え?羽織?水瓶じゃなくて?
「古着買い」は志ん丸師匠で一度だけ聞いたことがあった。

くまさんが古着屋の番頭とうまい具合に話を進めるんだけど、当人があまりにバカでくまさんが怒り出してしまい「お前が(番頭と)交渉しろ」と言う。
男の値切り方があまりにすごいものだから番頭があからさまにバカにして男を罵り出し、それに怒った兄貴分と喧嘩になるところまで。
本当はこの後、騒ぎに気が付いて店の主人が出てきて番頭を諫めるんだけど、そこはカット。


圓橘師匠「百年目」
ただいままん坊が申し上げましたのは「古着買い」という噺でして…と圓橘師匠。
ここに出てくる番頭はどうしようもないですね。口の利き方を知らない。古着屋だからしょうがないのかもしれないですけど、番頭がこれじゃいけません。
私が初めて大店の番頭というのを目の当たりにしたのは、私が深川に住むようになった最初の頃。当時長者番付で1位になったハセマンさんの店が近所にあってそこを訪ねた時のこと。
店に入ると、番頭さんは店の一番奥に座ってる。だけどものすごいオーラと威圧感があって、彼がそこにいるだけで店中がぴーーんと張りつめて緊張していて、彼が席を外すとようやくみんなほっとして肩の力が抜ける、というわけで。
とても器用で頭もキレて芸事もなんでもこなす…すごいもんだなぁ、と思った。

そんなまくらから「百年目」。
番頭がピリピリしていて威厳があって怖い。何一つ見逃さない感じ。
小言をくらう店の者は番頭を怖がってはいるんだけど、子どもだったり擦れていたりして恐縮してるだけじゃないのが面白い。
吉原の件で最後に小言を食らう奉公人の「ほら来なすった」がおかしい。
番頭が店を出た途端、扇子をパチパチ言わせながら近づいてくる一八。それまでピリピリしたムードがあっただけに、いかにも芸人らしいお気楽な態度がおかしい。
女たちはいかにも華があるし、「旦那」と甘える様子も手慣れた雰囲気。
舟の障子を全て閉めさせて女たちが「これじゃお花見の意味がない」と言うと「花なんて昨年と同じだ」だの「匂いだけかいで楽しめ」だの「どうしても見たければ障子に穴を開けてみろ」だの…。
それが大きい器でお酒をがぶがぶ飲むにつれ、「なんだ暑いな。障子をそんなにピタッと閉めて。開けなさない」と言うのが楽しいし、開けた瞬間にふわーーっといい風が入ってきていい景色が広がったのが見えた。

向島を玄白先生と歩く旦那は番頭に比べるともっと鷹揚。
「あそこで派手な長襦袢を着て芸者と鬼ごっこをしている者がいるが…ああいうのは傍で見てるとバカみたいだがやってみると楽しいもんだよ」と懐かしむ様子。
玄白先生が「あれはお宅の番頭さんじゃ…」と言うと「あれは堅すぎるから困ったものだ」。
それが鉢合わせして顔の前に付けていた扇子を番頭が外した瞬間。ものすごい驚いて動揺する番頭に「まあまあそんなに慌てないで」と諫める旦那。
丁寧すぎる挨拶がリアルでおかしい。

その後の番頭の逡巡はそれまでの威厳があった様子がすっかりはがれてすごくおかしい。
下の様子をうかがいながら逃げようかと着物を3枚羽織ったり脱いだり悪夢を見たり…。等身大で楽しい。
旦那に呼ばれて相まみえた時の旦那の言葉には涙が出てしまった。それぐらい番頭に共感していたのかもしれないなぁ。
よかったー。素晴らしい「百年目」だったなぁ。


圓橘師匠 圓朝作 怪談「牡丹燈籠」その2 新三郎とお露
今日申し上げる「新三郎とお露」、私は素人の時に圓生師匠で聞いたことがあります、と圓橘師匠。
その時はずいぶん色っぽくやられているなぁと思ったことを覚えてます。
私も以前はこういう女性の噺をするときにはその女性に思い入れたっぷりでやったもんですけど、このごろはそういう色っぽい女性をやるよりも、意地悪なじいさんをやる方が楽しくなってまいりました。これも年のせいなのかなんなのか…。
そんなまくらから「新三郎とお露」。

幇間医者の山本志丈は、平左衛門とも親しく、また浪人の荻原新三郎のことも父親から頼まれていたこともあり気にかけている。
山本は家にこもってばかりの新三郎を誘い亀戸の臥龍梅を見に行く。一人で酒を飲んでいた山本は男二人でこうして梅を見ていても仕方がない。自分の知り合いの平左衛門の娘が女中と二人で柳島に済んでいるので訪ねてやろう、と新三郎を連れ立って屋敷へ行く。
最初は乗り気でなかった新三郎だが、屋敷で平左衛門の一人娘お露の姿を一目見るとその美しさに目が釘付けになってしまう。
お露の方でも美男の新三郎に一目ぼれし、新三郎が手水を使うのを手伝い触れ合う手と手に胸を熱くする。
別れるときにお露は新三郎に「また来てくれなければ私は死んでしまいます」と言う。
この噺は何回か聞いているけど、このお幇間医者の山本っていったいどういう人間なのかなぁといつも疑問が。
調子が良くて軽くて遊び人だが適当に間を取りもつけれどそれより深入りはしない。
ちょっとぐらい遊ぶのはいいけど面倒は起こさないでくれよという感じなのだろうか。
また女中のお米は最初から新三郎とお露をくっつけようとしている風にも見えるのだが、圓橘師匠はそこを「こんな場所に追いやられてしまったお嬢様がたまには少し刺激があってもいいだろうとあくまでも主人を思う気持ちからの行動だったのだが、それが度を過ぎてしまった」と説明されていた。
なるほど…。
なんにしてもおどろおどろしい展開への布石が打たれた今回の噺だった。