りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

生存者の回想

生存者の回想 (フィクションの楽しみ)

生存者の回想 (フィクションの楽しみ)

★★★★★

ノーベル賞作家ドリス・レッシングの1974年の作品。
私にとったら2冊目のレッシング。

ジャンルで言ったらSFになるのだろう。
背景となる時代や場所ははっきりとは記されていないのだが、おそらく近未来。終末が迫っている危機の時代。
都市生活は破壊され、公共の業務もストップし、政府も機能していない。 終末を生き延びた「生存者」であるこの主人公が、過ぎ去った過去を語る、という物語。

主人公は中年(初老?)の女性。
アパートの一階に住み、特になにをするでもなく、名前も与えられず、観察者としてのみ存在している。
彼女のもとにある日見知らぬ男が「あなたがこの子を世話するのだ」と言って12歳の少女エミリを置いて行く。
エミリと暮らし始めてまもなく、彼女は壁の後ろにある現実を超えた世界を見るようになる。

SFという形態をとってはいるが、刺激的な出来事が次々起こって、登場人物がそれに巻き込まれていく、というわけではない。 むしろ、異常な状態に適応していく人間の姿を中心に描いている。 それがものすごくリアルだ…。実際に自分もこういうふうにして終末を迎えるのではないか、と思わされる。

非常に重層的で思索的な物語なので、私は十分理解できたとは思えないのだが、非常に面白くて考えさせられた作品だった。