りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

アコーディオン弾きの息子

 

 ★★★★★

1999年、カリフォルニアで死んだ男が書き残した「アコーディオン弾きの息子」という回想録。親友である作家は、バスク語で書かれたこの手記を元に、彼ら二人の物語を紡ぎはじめる。死んだ幼なじみが、家族にも読めない言葉で綴り、向きあおうとした過去とは何だったのか。故郷の美しい自然、朴訥で生気あふれる人びと、名士として知られた幼なじみの父のもう一つの顔…。スペイン内戦とフランコ独裁、そしてテロの時代へ。暴力の歴史にさらされた若者たちの震える魂、痛ましい記憶を力強く繊細に描きだす。多彩な人物が躍動する、バスク語現代文学の頂点。 

バスクに生まれ育ったダビがカルフォルニアで亡くなる。幼馴染で作家のヨシェバが彼の妻からダビが生前バスク語で書いていたという回想録を受け取り、それを元に二人の共著として物語を書く、それが本書(という設定)。

前半はダビの幼少時代、少年時代が丁寧に描かれる。
自分の属している階級の子どもたちと遊ばせようとする父親に反発しながらも、学校の友だち(裕福な家庭の子どもたち)とも遊び、叔父の農園でそこに住む農民の子に馬の乗り方を教わったり森を探検したり秘密の鍾乳洞を教えてもらったり。
しかしそんな無邪気な日々の中で、遠くはない過去に内戦があり父と地元の名士になっている友だちの父親が非道な行動をとったことを知る。そのことを彼は「彼の第二の目」と表現している。今まで見えなかったもの、見ようとしてこなかったものが見えるようになっていく…。
父への反発と友だちの農民ルビスが父にされたことを知り、独立闘争に係わっていく。

ダビの物語とヨシェバの物語という多重構造が物語に深みを与えている。
ダビの物語で語られなかった部分、ぼかして描かれていた部分が、ヨシェバの言葉で補完され真実が見えてくる。


過激化していく政治活動で人間性が奪われていく過程、二人が最後に行きつく境地に胸を打たれる。
政治を変えることも大事なことだけれど、自分の人生を生きなければいけない、というメッセージが伝わってきた。
素晴らしかった。