りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

十二月の十日

 

十二月の十日

十二月の十日

 

 ★★★★★

愛する長女のために素敵な誕生パーティを開こうと格闘する父親(「センプリカ・ガール日記」)、人間モルモットとして感覚を増幅する薬を投与される若者たち(「スパイダーヘッドからの脱出」)、中世テーマパークで働き、薬の力で思考も語彙も騎士となる男(「わが騎士道、轟沈せり」)、戦地から帰還して暗い暴力の衝動を膨れ上がらせる若き元軍人(「ホーム」)…ダメ人間たちが下降のはてに意外な気高さに輝く、現代アメリカ最重要作家の傑作短篇集。 

語り口は軽くてノリノリなんだけど語られる内容はかなりヘヴィだ。

「センプリカ・ガール日記」は貧困の中にあってどうにか子どもに夢を、明るい未来を与えてやりたいと願う父親が語り手。
閉塞感がリアルで叫びだしたくなるほど。そして富の象徴ともいえる「SG」の正体が分かったときのショック。なんてグロテスクな…と思うも、「それを庭先に飾るのがステータス」という世界に生きていたら、違和感を感じなくなってしまうのかもしれないという恐怖も感じる。

一番好きだったのは表題作。絶望の中にあってほんの少しの希望の光が見えたのは良かった。