りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

秋の恒例 柳家さん喬一門会

11/4(土)、よみうり大手町ホールで行われた「秋の恒例 柳家さん喬一門会」に行ってきた。


昼の部
・市若「道灌」
・やなぎ「真田小僧
・小んぶ「幇間腹
・小太郎「疝気の虫」
・喬の字「元犬」
・さん若「不動坊」
~仲入り~
・大座談会(全員)
・さん喬「掛取万歳」


やなぎさん「真田小僧
今回の会が、さん喬師匠の芸歴50周年記念ということで、師匠との思い出。
自分は弟子の中では一番下で師匠との付き合いも一番短いですけど、それでももう師匠に教わったことや思い出はたくさんあります。
私が一番印象に残っているのは、まだ前座でもない見習いの時に、師匠のカバン持ちでホールの落語会に行った帰り、師匠とお寿司屋さんに入りました。廻らないお寿司です。カウンターに座ってそれだけでもテンションが上がっているのに師匠が「今日はなんでも好きなものを頼んでいいぞ」と言って下さった。
「え?ほんとですか?ほんとになんでもいいんですか」
「なんでもいいよ」
「じゃ…あの…サーモン20貫!」
「ばかやろう!!」

あ、サーモンはダメなんだ、と思った、と。

…ぶわはははは。
真田小僧」はあんまり好きな噺じゃないし、やなぎさんもあんまり好きなタイプの噺家さんじゃないんだけど、ところどころに入るくすぐりが結構ツボで面白かった。


小んぶさん「幇間腹
師匠の思い出というと、うちの師匠は消防車が好きなんです、と小んぶさん。
この間三鷹で行われる師匠の会に出させていただいた時、車で行こうということになり、師匠と小太郎兄さんと私の3人で車に乗った。
私も小太郎兄さんの免許を持ってないものですから、運転は師匠。上下関係より日本の法律が優先されるわけです。
そうしたら対向車線に消防車が。すると師匠が助手席の小んぶさんに向かって「おい、消防車だぞ」。
わかってるよと思いながらも「はい、そうですね」。
「かっこいいなぁ…。」としみじみ言う師匠に小んぶさんも「そ、そうですね。かっこいいですね」。
大きな火事だったらしくその後も何台も消防車が来たのだがそのたびに師匠が「おい、消防車だ」「かっこいいなあ」「あ、今度ははしご車。あれで高いところの火を消すんだな」。
師匠がこんなにも消防車を好きだとは知らなかった。これが私にとっての一番の思い出です。
…って、小んぶさん…。

誰に教わったんだろうといつも思う小んぶさんの「幇間腹」。初めて聞いた時は度肝を抜かれたけど、もう慣れた(笑)。
カルテ取りのばかばかしさにいつも笑っちゃうんだけど、それがサゲにもつながっていることに初めて気が付いた。ばかだー。

小太郎さん「疝気の虫」
面白かった!小太郎さんの「疝気の虫」。
テイトで小太郎小んぶの会を見た時はあくの強さが苦手だなぁと思っていたんだけど、大きなホールでも十分にお客さんを惹きつけていてすごいと思った。


さん若さん「不動坊」
また不動坊!え?今「不動坊」流行ってるの?
若々しくてメリハリのある「不動坊」。とても生き生きしていて楽しかった。
真打になったらなんか化けそうだな、この方も。

大座談会(全員)
師匠を囲んで弟子11人が並ぶ大座談会。司会は喬太郎師匠でテーマが「師匠に聞きたいこと」。
45分の予定で1時間10分。でもその時間が本当にあっという間で、いいものを見たなぁという満足感でいっぱい。
ふざけた質問から師匠をえぐるような質問まで。答えるさん喬師匠が本当に素敵で何回か、こんな話を聞けるとは、うぉぉおおおーーーっとなった。

・あげてもらってないのにやってる噺は?
・苦手なタイプの噺は?
・自分ではいいと思っているけどお客さんにウケなくてやらなくなった噺は?
・趣味は?
・私の名前どうしましょう?
などなど。

さん喬師匠が二ツ目の時に得意にしていた噺があったんだけど、これをある時「これってありえないんじゃない?」と思ったとたんにお客さんに全然ウケなくなったという話をされて、噺家の理屈はお客さんに伝わるから噺に広がりがなくなってしまう。理屈を考えすぎない方がいい、という深~い話になった時、喬之助師匠が「ここに理屈抜きのやつがいる」とさん助師匠を指さして、そうしたらそれまで一言もしゃべってなかったさん助師匠が「はい」と手を挙げて、マイクを渡されたら「プライベートで師匠の初デートは?」とそれまでの流れを全く無視した質問を放ったのがほんとにおかしかった。
…理屈抜き(笑)。


趣味を聞かれた師匠が何かを作るのが好き、とおっしゃっていたのも面白かったな。昔は踊りに使う小道具なども凝って作っていた。あ、そういえば、喬太郎のスカートを作ったこともあったよな。
ああ、ありましたね、なんて。なんかいいなぁ…。こういうの。

あとさん若師匠が「名前どうしましょう」と聞いて師匠がこういう名前がある、ああいうのがあると言っていたとき、さん若さんはそれほどストレートに「え、それは…」と言えない風だったんだけど、喬之助師匠が「〇〇〇?さん若が?!ぶわはははは!」と笑うのがすごくおかしかった。この一門の明るい雰囲気ってこの師匠のおかげっていう気がする。

あと噺を教わるという話題の時に、さん喬師匠が「この師匠のこの噺がいい」とか「ここをこういう風にやっているところが好き」とかそういうことで教わりにいけ、と言っていたのが印象的だった。
敷居が高いとか自分がいくのはおこがましいとか思うだろうけど、自分はこういうのが好きでこういうところを知りたいと聞かれて、答えない噺家はいない、と。
あと例えば先輩に教えてくれと言われて教えてその人の方がずっと面白かった時、悔しいけどすごく勉強になる、って言っていたのも面白かったなぁ。

とにかく喬太郎師匠の司会が絶妙でまじめとふざけのバランスもよくて、どんな質問に対しても師匠がこちらが思っているよりたっぷり答えて下さるので、本当に楽しくて素晴らしかった。満足。

夜の部
かな文「金明竹
小傳次「悋気の独楽
喬之助「堀ノ内」
左龍「花筏
~仲入り~
喬志郎「のっぺらぼう」
喬太郎「スナックランドぞめき」
さん喬「笠碁」
~仲入り~
さん助「三助の遊び」
さん喬「中村仲蔵

喬之助師匠「堀ノ内」
浅草の代演に行った時に楽屋のピンク電話に天どん師匠から電話が入り、「今から飲みましょうよ」と。
二人で池袋のもつ焼き屋に行ってくだらないことをああだこうだと喋っていると、隣に座っていたカップル。男の方がトイレに行ったとたん、女の方が「あの…天どん師匠、ファンなんです」と話しかけてきた。
自分大好きな天どん師匠はファンと言われて気を良くしてご機嫌で話していたところに帰ってきた彼氏。
自分の彼女が自分がいない間に男たちと親しげに話していたので、なんとなく不機嫌に。
その後「他は誰が好きなの」という禁断の質問に「喬太郎師匠が好きです」と答えた途端、今度は天どん師匠が不機嫌に。その子に対する態度がどんどんぞんざいになってきて、それを見ていた喬之助師匠は「すげーなこの子。15分足らずの間に二人の男を不機嫌にした…」と思った、と。

そんなまくらから「堀之内」。
おっちょこちょいの男のぱーぱーしたところが喬之助師匠にぴったりでおかしいおかしい。
途中男がほんとだったらポストを人と間違えるところ。
「なんだこれ。赤いな。やけに。…げっ、酔っぱらった川柳川柳じゃねぇか!あぶね!」には大笑い。
楽しかった。


喬太郎師匠「スナックランドぞめき」
おお、噂の「スナックランドぞめき」をようやく聞けた。
子どもの頃、都会といえば池袋だったので、喬太郎師匠が言っていた池袋駅の風景はよく覚えている。
そうそう。なんかうらぶれた立ち食いソバとかが集まってるエリアがあるなと思っていたけどあれが「スナックランド」という名前とは知らなかった。
長丁場で落語落語だから一門会の時の喬太郎師匠はいつも激しくはっちゃけている。
たくさん笑ってすっきりした。


さん喬師匠「笠碁」
この笠碁がとてもよかった。
さん喬師匠の落語ってわりとみんな静かに喋るから、おじいさんたちの意地の張り合いもキンキンしてなくて品が良くてそれだけに顔で「おねがい」したり、むくれたりするのがかわいくて楽しい。

前にも見たことがあったと思うんだけど、二人が仲直りするシーンには涙が出てしまった。
サゲも違っていて、よかったなぁ…。


さん助師匠「三助の遊び」
この日、休憩コーナーでさん喬師匠の本の物販があったんだけど、そののぼりの近くに立ってお客さんに声をかけていたさん助師匠。
きれいな女性がカメラを持って近づいてきて「あの…写真をいいですか」と言われ、うひょー!俺も捨てたもんじゃない?と喜んだら「あ、あののぼりをとりたいので…(どいてください)」。
ですから私は今、ハートブレイクです。には笑った。

そして先代さん助師匠のまくらから「三助の遊び」。
寄席で見るのとこういう大きなホールで見るのとではまた印象が違う。
動きも少ないし地味というかレアな噺だよなぁ。でもすごくさん助師匠らしくていいなぁと思う。

花魁がひそひそ話をしているところ、妙に色っぽくて笑っちゃう。
楽しかった!


さん喬師匠「中村仲蔵
さきほどのさん助がやったのはずいぶん珍しい噺ですね、とさん喬師匠。今日は自分の弟子の噺を本当に久しぶりに聞いた。
自分は前座の時は基本的には毎日弟子を家に来させていた。そうすると自分のプライベートもなくなるわけで、そうするには自分の方にも覚悟が必要になる。でもそういうことを引き受けるのが弟子をとることでもあるわけで。
弟子というのは自分の子どもとは全く違うわけで、でもだからといって弟子の方への情のかけ方が薄くなるというのでも決してない。
でも高座に上がればみなライバルでもある。そこがまた面白い。

そんなまくらから「中村仲蔵」。
なんかこういう一門会で…弟子との座談会なんかもあったあとに最後に「中村仲蔵」っていうのにじーんとしてしまう。

役を見て肩を落とす仲蔵をおかみさんが励ますと声をあらげるところ。静かな語り口なだけにどきっとする。
いい工夫が思いつかずにいたところに雨に濡れた浪人を見て「これだ!」とくいつくところ。芸に熱心なところがうかがえて面白い。
鳴り物も入って台詞なしで芝居のポーズをとるだけのところもあったりしてたっぷりの「中村仲蔵」。

とてもよかった。

たっぷりさん喬一門漬けの一日、途中で気を失うかも、と思っていたけどそんなこともなく最初から最後まで楽しんだ。