りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

大英博物館が倒れる

大英博物館が倒れる

大英博物館が倒れる

★★★★

子持ちの大学院生アダムは、今日もおんぼろスクーターに乗って大英博物館の閲覧室に出かけたが、次々と珍無類の事件に捲き込まれていく。性の悩みの悲喜劇を描く、ロッジ会心の出世作。

久しぶりのデヴィッドロッジ。多分これは読んでなかったはず…(記憶がもやもや)。
主人公のアダムは大学院生だがすでに結婚し3人の子持ち。
奨学金も切れそうで論文も遅々として進まず生活はキュウキュウなのに、妻が4人目を妊娠したかもしれない、という大ピーンチ!
カトリック信者であるアダムは避妊ができないため、リズム法といういわゆる基礎体温をつけることによって、これ以上子どもが増えないようにと最新の注意を払っているわけだが、この方法がなんとも心もとない。
お金もないし、アパートも狭いし、これ以上子どもはふやしたくない。
かといって教義にそむくこともできない。
そんなアダムくんが、義理の父から譲り受けたおんぼろスクーターに乗って今日も論文を書くために大映博物館に出かけるのだが、珍事件に次々巻き込まれへろへろに…。

とにかくこれでもかこれでもかのドタバタ劇。
そうか、ドタバタは英国小説のお家芸のようなものなのか、とはたと気付いたりして。

家を出るまでのアダムくんがもう最高に笑える。
着替えをしようとするとパンツがない!なんと全部洗濯しちゃって乾いてないというのだ。
妻のバーバラを責めると「今日だけ履かないで行けばいいじゃない」なんていう。
「ズボンがちくちくするから無理なんだ」と言うと、「じゃあたしのパンティ履けば…?」
いやまさか俺が女物のパンツを履いていくわけにはいかないよ!いやしかし何も履かないよりはましか…なんてやってると、娘のクレアが「服装倒錯者ってなに?」と質問してくる。

家を出ようとすれば大家に呼び止められるが、大家には「これだけ子だくさんなのは旦那が我慢ができないから」と白い目で見られておりなんともいたたまれない。
おんぼろスクーターをばふばふ言わせながら町を走っていると子どもに笑わられ、牧師にヒッチハイクされる。
博物館に着いたら着いたで…

まぁ次々巻き起こる珍事に、徹頭徹尾とほほなアダムくん。
しかし読んでいてあまりかわいそうに思えないのは、アダムくんの虚栄心や「誰かがどうにかしてくれるのでは」と期待する依存心や「ぼくちゃんちょっといい目にあってもいいのでは?」というあまあまちゃんぶりが鼻につくせいか?
まあとにかく一筋縄ではいかないのでアダムくんと一緒によれよれになりながら楽しく読んだ。

ヘンリージェイムスやグレアムグリーンなどの文体を織り交ぜたり、アカデミックネタをちょいちょい混ぜてきたりとロッジ節全開で、味のある小説をゆっくり読みたい今の気分にはぴったりな小説だった。