りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

最終目的地

最終目的地 (新潮クレスト・ブックス)

最終目的地 (新潮クレスト・ブックス)

★★★★★

南米ウルグアイの人里離れた邸宅に暮らす、自殺した作家の妻、作家の愛人と小さな娘、作家の兄とその恋人である青年。ナチスの迫害を逃れてきた先代が、ドイツ風の屋敷をたてたこの場所で、人生を断念したかのように静かな暮らしが営まれていた。そこへ突然、作家の伝記を書こうというアメリカの大学院生がやってくる。思いがけない波紋がよびさます、封印した記憶、あきらめたはずの愛―。全篇にちりばめられたユーモアと陰翳に富む人物像、それぞれの人生を肯定する作者のまなざしが、深く暖かな読後感をもたらす。英国古典小説の味わいをもつ、アメリカの傑作小説。

ピーターキャメロンといえば、「ママがプールを洗う日」と「うるう年の恋人たち」。
どちらかというとライトでユーモラスな小説を書く人というイメージがあったんだけど、こういう小説を書くようになったのか…。成長したんだねぇ…(←何ゆえ上から目線?)

登場人物も少なくて、ものすごくドラマティックなことが起きるわけでもない、淡々とした物語なんだけど、なんかとってもロマンティックで深刻な中にもユーモアがあって、とても私好みだった。
私自身、この数ヶ月(1年ぐらい?)コンスタントに本を読んではいたけれど、なんとなく気もそぞろっていうか片手間っていうかそんな感じでいたのが、少しずつ本を読む気持ちが戻ってきているようで、自分のフィーリングとこの小説の淡々とした味わいがほどよくマッチしたような…そんな感じ。

現実から取り残されたような静かな暮らしをおくる作家の遺族のもとに、その作家の伝記を書きたいという大学院生がやってきて、彼らの静かな生活が乱されていく。
隠したい過去、愛情とエゴ、そして愛し愛されたいという想い。
出てくるのはみんな不完全でちょっと壊れた変人ばかり。だけど優雅で辛辣で大人な彼らも、心の奥に孤独や生きることへの渇望を宿していて、それが痛々しくもあり愛おしくもある。

なんといっても主人公の大学院生オマーがとても魅力的だ。
優柔不断で本当にぱっとしないんだけど、抱きしめたくなるような純粋さがあって、それがとても愛おしい。
私は後半のオマーの感情の動きや彼のとった行動がとっても好きだったなぁ…。

以下ネタばれ。



キャロラインを説得したあとに、がっくりきてしまったオマーがものすごく好きだ。
悲しくてベッドで涙を流すシーンは、それまでのオマーのダメダメさを全て打ち消すくらいとても美しくて、たまらない。
ミッツィ(犬)がいなくなってまた戻ってくるエピソードもすごくいい。こんなことで人間は自分の将来を捨てるほど絶望したり、けろっと立ち直ったりするのだよなぁ…。そんなはかなさとバカバカしさがユーモラスに美しく描かれていて、すごくいい。こういう何気ない日常のシーンがツボだなぁ。
最後のハッピーエンドは私にとってはオマケみたいなものだったかな。