りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

箱の夫

箱の夫

箱の夫

★★★★

夫を運ぶのにちょうどいい大きさの箱はあるかしら?“小さな”夫との奇妙で幸福な日々。しかし、ある日…。たしかな手ごたえを持っていたはずの現実が、ふとあやうくなる瞬間を鮮やかに描き出す、待望の作品集。

川上弘美さんの書評を読んで気になっていた作品。
奇想、ホラー、不条理に日本的な湿度がじっとりと。
読みやすい文章だし、短編だから1つ1つの話は短いのだが、読むのがしんどくて時間がかかってしまった。

「箱の夫」は、”小さな”夫と姑と同居する妻の話。
姑はかわいい息子のために毎日新聞から記事を切り取る。小さい息子が読めるように。 家から出ない夫がある日妻が行きたがっていたコンサートのチケットをプレゼントしてくれる。一緒にコンサートに行こうと言うのだ。
こんなチャンスはめったにない!とウキウキと支度をする妻。
さて、夫をどうやって持って行こう?ちょうどいい大きさの箱はあるかしら?

途中までフツウの話だと思っていたので、夫を入れるのに清酒の箱がちょうどいいかしら?入るかしら?と、こっそり夫の高さと幅を確認する描写にびっくり!
え、ええ?そんなに小さいの?

しかも初めての外出で気を良くした夫がその後買い物等にも付いてきたがるようになる。
夫を連れて出ると買い物もままならないので、断りたいがなかなか許してくれない。
さらにそれまで家事に協力的だった姑が何が気に入らないのか何もしてくれなくなる。 仕方なく夫を連れてスーパーに行くのだが、若者がぶつかってきて夫が転がってしまった!慌てて救急車を呼ぶのだが、医者たちは小さな夫を遠巻きに見つめるばかりで治療をしてくれない。
困り果てて姑に電話をすると、姑は慣れた感じで「ああ、ときどきこうなるの」と言って、夫を部屋に連れて行ってしまい…。

小さな夫という時点で非常にユーモラスなのだが、母と息子の関係はグロテスクでもあり、息子を取り戻そうとする姑の反撃にはぞくっとするような気味の悪さがある。

母の留守中に母の友だちが尋ねてくる「母の友達」も、最初はフツウの話に思えるのだが、途中から「あれ?」とぐらっときて、また終盤にさらにぐらっ。
当たり前に見えていた世界がぐらっときて歪んで見える、この気持ち悪さ…。

どの作品もユーモアもなくはないのだが、笑ったあとにいやな余韻が残る。
こんな作家が日本にはいるのだなぁ。知らなかった。絶版なんて勿体ない。