りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

君のためなら千回でも

君のためなら千回でも(上巻) (ハヤカワepi文庫)

君のためなら千回でも(上巻) (ハヤカワepi文庫)

君のためなら千回でも(下巻) (ハヤカワepi文庫)

君のためなら千回でも(下巻) (ハヤカワepi文庫)

★★★★★

全世界八〇〇万人が涙に濡れた衝撃のデビュー長篇。マーク・フォースター監督映画の原作。
君のためなら千回でも!」召使いの息子ハッサンはわたしにこう叫び、落ちてゆく凧を追った。同じ乳母の乳を飲み、一緒に育ったハッサン。知恵と勇気にあふれ、頼りになる最良の友。しかし十二歳の冬の凧合戦の日、臆病者のわたしはハッサンを裏切り、友の人生を破壊した。許されざる仕打ちだった。だが二十六年を経て、一本の電話がわたしを償いの旅へと導くーー。
『カイト・ランナー』改題。

主人公はカブールの裕福な家に生まれた少年アミール。母はアミールの出産の時に亡くなり、父であるババに育てられる。男らしく厳格なババは世間からも尊敬を集めていて、アミールも父の愛情を得たくて必死だ。
アミールはババの召使の息子ハッサンと同じ乳母に育てられ大の仲良しで、ババもハッサンのことはわが子のようにかわいがっていて、アミールとハッサンは深い絆で結ばれていた。
しかし2人の階級の違い、民族や宗派の違いが、いつしか暗い影を落とし、アミールが12歳のときに決定的な出来事が起こる。アミールは弱さゆえにハッサン親子を傷つけ、アミールはその後の人生を後悔したまま送ることになるのだが…。

原題は「THE KITE RUNNER」で、2006年に刊行されたときは「カイト・ランナー」というタイトルだったらしいが、このタイトルにかえたのは正解だったと思う。私はこのタイトルに惹かれて読んだから…。

「全米が涙した」なんて聞くと「けっ」と思ってしまうのだけれど、いやこれはもうほんとに泣いた…。本を読んでこんなに泣いたのは久しぶり。泣けるからいい!とか感動できる!とかは言いたくないけれど、でもこれはたくさんの人に読んでもらいたい小説だと思った。全米でベストセラー、結構じゃないか!日本でも多くの人に読まれるといいなぁ…。

アフガニスタンという国で生まれ育つことはとてつもなく過酷で自分には到底理解できないだろうと思っていたけれど、この本を読んで、そんなことは決してないのだということがよくわかった。

弱い自分、卑怯な自分に負けてしまうことがある。それは棘のように刺さったまま、いつまでも自分の中に残っている。そんな自分だけは誰にも知られたくない。命をかけてもそれは秘密にしておかなければと思う一方で、いっそ誰かに指摘されて辱められてしまえばいいのに、そんな思いにかられることもある。しかし、知られたくないと秘密にするのも、知られて罵られればそれでご破算にできるというのも、同じくらい卑劣な気がするのだ。アミールの気持ち、痛いほどわかる。

自分の罪は自分で背負わなければならないけれど、それを力づくで償うことをできるのも自分なのだ。希望を感じさせてくれるこのラストが大好きだ。