りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

あとは切手を、一枚貼るだけ

 

 ★★★★

かつて愛し合い、今は離ればなれに生きる「私」と「ぼく」。失われた日記、優しいじゃんけん、湖上の会話…そして二人を隔てた、取りかえしのつかない出来事。14通の手紙に編み込まれた哀しい秘密にどこであなたは気づくでしょうか。届くはずのない光を綴る、奇跡のような物語。 

小鳥の羽音に耳をすませるような、暗闇の中で小さな光の粒を見つめるような、とてもひそやかな手紙のやりとり。
読んでる側も二人の男女の人物像や離れてしまった理由など何もわからない手探りの状態で、二人の静かな語りに身を任せるしかない。

まぶた、視力、切手、閉じ込められる人、アンネ、湖、ボート、小鳥…そして幼い人。

二人を分かつことになった出来事に胸が痛むが、そのことも超越した次元に二人がいるような印象も受ける。

お二人の作家がどういうふうにしてこの物語を書き進めていったのかも気になった。 

さん喬・権太楼 特選集

8/14(水)、鈴本演芸場で行われた「さん喬・権太楼 特選集」に行ってきた。

・さん助「黄金の大黒」
・紋之助 曲独楽
・ほたる「真田小僧
・市馬「芋俵」
・一之輔「短命」
・のだゆき 音楽
喬太郎「同棲したい」
・露の新治「鹿政談」
~仲入り~
・ダーク広和 マジック
・権太楼「笠碁」
・正楽 紙切り
・さん喬「ちきり伊勢屋」


さん助師匠「黄金の大黒」
開口一番。
金ちゃんの「ごちそうっていうことは普段食べられないようなものが出ますか?」「白いおまんまにかつおぶしをのっけてその上に醤油をかけて…」の切実さに笑う。
羽織がないとごちそうにありつけないぞとなったときに金ちゃんが「みなさーん、おねがいしまーす。羽織お願いしまーす」「選挙演説かよ」に笑う。
大好きなサゲも聞けて満足。
明るくて軽くてよかった!


一之輔師匠「短命」
「普段寄席は当日券でぼーっとしたお客さんが多い。今日は前売りでこの時間から満員で。前のめりの客は…いやだ!」に笑う。
こちらは本気なんか出しませんよ。だらっとやって帰りますからぼーっと聞いてくださいよ、と言って「短命」。
前半部分はテンション低めでささっと流して中盤からぐわっと面白くなってくる。
もう「短命」がなんでこんなに面白いの?!って驚くほど面白くて笑いどおし。
一之輔師匠らしいクスグリがたくさん入ってて最高だった。


喬太郎師匠「同棲したい」
一門会やさん喬師匠がトリの芝居だと新作で思い切り弾ける喬太郎師匠。
この日も「かんぱーい!」「うまいっ!」「やっぱり発泡酒発泡酒だな!」
と最初からノリノリ。
自由自在で満員のお客さんをぎゅうっと惹きつける。すごい。
笑った笑った。


露の新治師匠「鹿政談」
大好きな師匠。
品があって芸がきれいで明るくて軽くて楽しい。
「鹿政談」も上方弁だとまた違った味わいがあっていいなぁ…。うっとり。
時々ギャグが入るのも楽しい。素敵だったー。


権太楼師匠「笠碁」
今まで見た権太楼師匠の高座の中で一番好きだったかもしれない。
強情なおじいさんもわがままなおじいさんもなんてチャーミングなんだ!
表情が豊かで動きがきゅっとしてるのがとってもかわいい。
喧嘩の激しさとその後の「言わなきゃよかった」の対比が見事で、お互いに「あいつは俺としか打てない碁だ」という確信がおかしい。
とても陽気だけど最後はじんわり。楽しかった!


さん喬師匠「ちきり伊勢屋」
初めて聴く噺。
1時間に渡る長講だったけれど素晴らしかった。物語の中に完全に引き込まれて目の前に苦しむ若旦那とそれを見守る番頭さん、彼が助ける父娘、親しくなった幇間の姿が次々浮かんでくる。
情感たっぷりなんだけどそれを引いて見ている視線もあるからほんとに目の前でお芝居を見ているよう…。
終わったときはしばし呆然。
これも落語なんですね…。長講より圧倒的に短くてばかばかしい噺が好きな私だけど、これはほんとにすごいものを見られた!という気持ちでいっぱいに。
素晴らしかった。

 

小んぶにだっこ

8/13(火)、落語協会で行われた「小んぶにだっこ」に行ってきた。

・小んぶ「持参金」
~仲入り~
・小んぶ「松曳き」


小んぶさん「持参金」
一門で九州に行ってきたときの話。
昼夜公演だったんだけどその中でらくご体操をやることになっていた。
これ、一門の弟子全員がTシャツ、短パン、ソックスを履いて、落語の所作を体操としてやるというもので、東京でやるといつもバカうけ。
今回も「あれやっちゃう?」「ちょっと卑怯だけどな」なんて言いながらやったんだけど…。
やはりあれですね、これってよく落語を知っている人でないと面白くない。
見事にすべりました。
一番ウケたのが、全員がその格好で舞台に登場したとき。
あとは善良なお客様たちが…ええと?どこで笑えば?笑う所教えてくれたら笑うんだけど?みたいな戸惑いの表情。
すっかり心が折れたんですが、プログラムに書いてあるからやらないわけにいかない。
楽屋でみんなであれこれ案を練ったんですが、いまさら何か変えることもできない…。そもそも11人みんなで合わせるような時間もないですし。
「いいんだよ!これはうけるためにやるわけじゃないんだ。体操なんだから。一門全員の顔を見ていただくっていうことが大事なんだ」って…。誰ともなくそんなことを言って…慰めあいました。

…ぶわはははは!!!おかしい~。

それから一門会のあとも九州に残って、やなぎさんと小太郎さんと3人でいくつか会をやってまわった話。
茶番をやるために和助さんのところに教わりに行ったり、本番でやらかしたり、それが思わぬお客さんの感動?につながったり…。
まぁまくらが止まらない止まらない。
そしてなんか急に懺悔を始めたり…それでお客さんが引いてしまった!と思った小んぶさんが少し挙動不審に(笑)。
こんな小んぶさんは初めて見たんだけど、どどどうした?

そんなながーいまくらのあと「持参金」。

もしかしてお客さんに引かれたと思ってやけになってこの噺を?…というわけじゃないだろうけど、女性の容姿の描写が酷いので嫌いという人も多いこの噺。
小んぶさんのはおなべさんの眉毛が太くてつながっていて「はちまき?」。
ひどいけどおかしい。まくらが長かったので噺は刈り込んでショートバージョン。


小んぶさん「松曳き」
「侍」の精神を持っているのにどこまでも粗忽な三太夫
小んぶさんが飄々としているのでそれも相まってめちゃくちゃ面白かった。

小んぶさんのまくらって本当に面白くて毎回爆笑なんだけど、自分をさらけ出し過ぎると落語に入りにくくなっちゃうんだな。
まぁ小んぶさんもこういう自分主催の会でなければそんなにまくらを長くしゃべることもないわけだから、これはこれで全然ありだと思います!

続 横道世之介

 

続 横道世之介

続 横道世之介

 

 ★★★★★

バブルの売り手市場に乗り遅れ、バイトとパチンコで食いつなぐこの男。横道世之介、24歳。いわゆる人生のダメな時期にあるのだが、彼の周りには笑顔が絶えない。鮨職人を目指す女友達、大学時代からの親友、美しきヤンママとその息子。そんな人々の思いが交錯する27年後。オリンピックに沸く東京で、小さな奇跡が生まれる。 

よかった~。やっぱりいいなぁ、横道世之介は。

世之介は決して強い人間ではなく小心なところも優柔不断なところもある普通の人だけど、いざとなったとき…追い詰められたときに本能的にぱっと助けに走り出すところがあって…それが善良さということなんだと思う。

いつもは頼りないけど本当に苦しんでいる時は一緒にいてくれて決して手を離さないでいてくれる。

恋人としては物足りないと思われて別れて疎遠になってしまっても、時々その優しさや温かさが思い出されて忘れられない。そんな人物。

世之介にまた会えてよかった。続々も出るといいな。

第四回 柳家さん助の楽屋半帖

8/12(月)、駒込落語会で行われた「第四回 柳家さん助の楽屋半帖」に行ってきた。


・さん助「迷子パンダの夏」の続編
~仲入り~
・さん助「かぼちゃ屋
・さん助「臆病源兵衛

さん助師匠「迷子パンダの夏」の続編
ちょっと怖い顔で高座に上がったさん助師匠。
出囃子が鳴り始めても主催者がずっとおしゃべりをしていたので怒ってる?と思ったら、いきなり顔をゆがめて「がぉーーーーー」。
ぶわはっ。もももしや前回の「迷子パンダの夏」の続き?!

東京湾に現れた巨大なパンダ。がぉーがぉーと叫びながら時折「シャンシャーン。シャンシゃーン」。
どうやらこのパンダ、シャンシャンのお母さん。シャンシャンに会いにはるばる中国からやってきたらしい。
自衛官が二人で話をしている。
「あのパンダはいったいどうやって…」
「泳いできたんだよ!中国から。こうやって(溺れてるようにしか見えないしぐさ)。あっ、貴様、何をやってる!」
スマホをいじるしぐさをしながら)「ウィキペディアで調べてます。パンダは泳がないそうですが」
「飛んできたんだよ。パンダは飛べるんだよ!羽があって。こう…(ばさーばさーーっと飛ぶしぐさ)。あ!またスマホ!やめろ、スマホ!」
ウィキペディアによればパンダは飛びません!」
「密漁船で来たんだよ!」
そう言った後に「さぁそろそろ出発だ!とっとと乗りねぇ!」
「え?いきなり江戸弁?」
「船頭は江戸っ子なんだよ」

この東京湾から上がったシャンシャンのおかあさんが向かった先がなんと駒込
駒込では落語会をやっていて…まさにさん助師匠が「時そば」をやっている最中。
「それを見ておりましたが我々同様…と言いたいところですが、さらにぼーっとした男」、さん助がそう言うと、お客が「おい、巨大パンダが駒込に向かってるそうだぞ!」「落語どころじゃないよ!」。
「それを見ておりましたのが我々同様…」
「巨大パンダがくる!」
「それを見ておりましたのが…」
「やめろ!」

おかあさんパンダの気配に気づいたのか、シャンシャンも上野動物園を飛び出して、母子は不忍の池で再会。
「シャンシャーン」
「おかあさーん。なんでここに?」
「実は借金で首が回らなくなってて、日本で人気者になってばかすか稼いでるお前に金を借りたいと思って」

(「今、理由を言ったらお客さんどん引きしましたね…」とさん助師匠。)
「えええ?そんな理由?私が自由に使えるお金なんてないわよ」
「そうだと思ったからお金はいいのよ。保証人になってくれればいいから。ハンコはここにあるわ」

ハンコをシャンシャンに押させようとしてもみ合う二人。
これを見ていた自衛官が官邸に連絡。官房長官からは「撃て!」の命令が。
撃とうとするとそこに登場したのがソープランド太閤のひとみさん。
仲間のソープ嬢とともに襲撃を阻止。

場面が変わって、さん助が一席終えると「はい。これ、会でやっていいわよ」「ありがとうございます!」。
さん助がひとみさんのところに上げの稽古に来ている。
で、サゲへ。(ここらへん記憶があいまい)

…激しくてバカバカしくて笑った…。

さん助師匠「臆病源兵衛
この間のように後半しょんぼりすることなく(笑)、最後まで明るく楽しかった。
あにぃの家に向かう源兵衛がはちと手をつなぎたがったり、指をからめたりするところがおかしい。
自分が死んだと思い込んだはちが「あー、俺、源兵衛に殺されちゃったんだ。あんのやろうー。あいつのところに行ってとりついてやる!」と言った後に「やめた。めんどくせぇ」というところが大好き。
いま絞めた鶏の羽をばさーーっばさーーっとむしるおばあさんのおかしいこと。
楽しかった!
次は9/23、10/7とのこと。

 

柳家小三治独演会

8/12(月)、有楽町ホールで行われた「柳家小三治独演会」に行ってきた。
 
・三三「五目講釈」
小三治ちはやふる
~仲入り~
小三治「長短」
 
三三師匠「五目講釈」
道楽が過ぎて勘当になって居候している若旦那。その家の主に「なにか商売をしたらどうか」と言われて「だったら自分は考えていることがあるから長屋の連中を集めてくれ」。
何かと思ったら長屋の連中を前に若旦那が講釈を披露。
これが最初のうち素人と思えないほどの名調子なのだがそのうちどんどん話があやしくなって…。

めちゃくちゃ面白かった。
三三師匠の講釈がうまいだけに内容がどんどんめちゃくちゃになっていくのがすごく面白い。
時代設定がめちゃくちゃになっていきそのうち「ごほんといえば龍角散」からジェネリックがどうしたこうした…。
笑った笑った。楽しかった。
 
この日のまくらがめちゃくちゃ面白かった!
 
錦帯橋に行ってきました、と小三治師匠。
なんでも若いころにやなぎ句会のメンバーで行ったことがあったんだけど、錦帯橋にはいい印象がない。なぜかっていうと扇橋ですよ。
 
それから、やなぎ句会のメンバーの話や扇橋師匠の俳句が凄かった話や扇橋師匠にはどれだけ迷惑をかけられたかという話(引っ越しを手伝ったときに買ったばかりの三輪車(オートバイ?)を扇橋師匠の「オーライオーライ」を信用してバックしてたら思い切り右側をこすってしまった、とか、NYに落語会で行った時射撃場で扇橋師匠がとんでもない行動に走った話や扇橋師匠がとんでもない女好きだった話など)になり、同窓会の話になり…そうしているうちに舞台袖からマネージャーさんの声「師匠!もう時間がありません!!」。
 
「お前ねぇ…文句があるなら舞台に出てきたらどうだ!」にも笑ったけど「やるよ。落語も。やりますよ。」にも笑った。
で仕方なく?「知ったかぶり」のまくらに入ったんだけど、どうしてもまくらのオチを言いたかったらしい小三治師匠。
またさっきの続きを話し始めて、なぜ錦帯橋が扇橋師匠のせいで悪印象になったかを言ったんだけど、なんとまさかの下ネタ!(笑)
もう笑った笑った。大好きだ。
 
そしてこの日の「ちはやふる」がまたとっても面白かったのだ。
小三治師匠のまくらが止まらない時っていろんな面白いことが次々浮かんでくる時だから、そういう時の落語はたいてい面白いんだよなー。
時間がない!と思って刈り込みながらスピードもアップして。これがとっても面白い!
楽しかった。
 
小三治師匠「長短」
一席目が長かったのでもしやこのまま終演?と思ったのだが、ちゃんと仲入りがあって二席目も。
まくらなしで「小言念仏」かと思ったら、そうではなく。
扇橋師匠の話。一席目では私とあいつは「親友」だってまわりからは言われてましたけどそうだったんですかねぇ、なんて言っていたけど…「やっぱり親友だったのかもしれません」「なんか今日は扇橋のことが浮かんできますね」と。
そんなまくらから「長短」。
 
この流れからの長短ってほんとにたまらない。
長さんと短さんが小三治師匠と扇橋師匠に見える。
長さんのすることがじれったくてしょうがない短さん。短さんがじれてることがわかっているけどどこまでもマイペースな長さん。
気が合わないのにいないと寂しい。そんな余韻が残る長短にじーん…。
 

圓橘一門会

8/11(日)、深川モダン館で行われた「圓橘一門会」に行ってきた。


・じゃんけん「無精床」
・楽麿呂「劇中の圓朝
・圓橘「ぽん太と圓朝
~仲入り~
・ぽん太「彰義隊とぽん太」
・圓橘「心眼」

じゃんけんさん「無精床」
じゃんけんさんを見るのは久しぶりだったけど、師匠にとっても似てきた!
ぱきぱきっとしたところとか、ギャグがすっと入るところとか。テンポと間がいいので思わず「ぶほっ」と笑ってしまう。
面白かった。

 楽麿呂師匠「劇中の圓朝
初めて見る師匠。
2年前に松竹の行った「 妖麗 牡丹燈籠 二幕」というお芝居で、圓朝役をやったときの話。
電話がかかってきてから、初顔合わせ、そして稽古を重ねて、巡業へ。
主演が山本陽子、佐藤B作って…すごい!
その時のエピソードをギャグ等を交えながら…ちょっと面白かったのが、この近くがちょうど深川まつりのお神輿の休憩所になっているらしく、わっしょいわっしょいの声が徐々に近づいてきたかと思ったら、三三七拍子。気が散るといえば気が散るんだけど、タイミングといいなんかぴったりでおかしい。
後半に自分が演じた圓朝とぽん太との会話の部分をやってくださったんだけど、なんか圓朝の言葉が心に沁みた。

圓橘師匠「ぽん太と圓朝
圓橘師匠はよくまくらで圓朝のエピソードを話してくださってそれがとても楽しい。

30人もの弟子を抱えて彼らが食べていけるように計らったり何度も引っ越しを重ねてどんどん邸宅を大きくしたりしただけのことはあって、商売上手な一面も。
そんな圓朝のエピソードにぽん太を絡めた新作。
圓朝のきれいで隙のない佇まいと、いかにも与太郎さんなぽん太の対比がとても落語らしくて楽しかった~。

ぽん太さん「彰義隊とぽん太」
ちょうど小説の「圓朝」を読んだばかりだったので、ぽん太という名前を付けてもらうってすごい!!と思ってしまう。
初代ぽん太はほんとの与太郎みたいな人物で圓朝にとても愛された弟子で、だから師匠に言いづらいことはみなぽん太に言わせていた、というエピソードがあったけど、このぽん太さんは与太郎っぽくない。機敏で気が利いて器用で「できる」イメージ。
彰義隊とぽん太」はぽん太さんの自作とのこと。
上野を官軍が囲み戦争状態に入りそこかしこが封鎖状態になり寄席に向かうことができなくなった圓朝
師匠が寄席に来ないことを心配した弟子たちが師匠宅へ向かおうとしたがやはり封鎖されていて向かうことができない。
事情をまるで呑み込めてないぽん太が周りが止めるのも聞かずに出かけていくと、案の定官軍に捕まってしまう。
しかし官軍の中に落語の好きな者がいて「これは圓朝の弟子のぽん太だ」と言って庇ってくれる。
そしてせっかくだからここで落語をやれと言われたぽん太は…。

おおお。面白い。本当にあったエピソードを使って、噺家ぽん太を登場させる…メタ落語とは。


圓橘師匠「心眼」
この噺も圓朝作だとは知らなかった。
プログラムを渡されて今日のトリネタが「心眼」だと知って、圓橘師匠の「心眼」…これはすごくいいだろうなぁと思っていたのだが、想像通り…いや想像以上に素晴らしかった。
梅喜の心の変化がもうとてもリアルで人間臭くて…。
目が見えるようになってからのあれこれは見ていて「ああっ」と声が出てしまうほどなんだけど、でもこれが人間だよなぁ…というなにかこう愛おしさのようなものもわいてくる。
サゲもさらっと言ったのが鳥肌もんだった。よかったーーー。

国語教師

 

国語教師

国語教師

 

 ★★★★★

十六年ぶりに偶然再会した、元恋人同士の男女。ふたりはかつてのように物語を創作して披露し合う。作家のクサヴァーは、自らの祖父をモデルにした一代記を語った。国語教師のマティルダは、若い男を軟禁する女の話を語った。しかしこの戯れこそが、あの暗い過去の事件へふたりを誘ってゆく…。物語に魅了された彼らの人生を問う、ドイツ推理作家協会賞受賞作。 

とても面白かった!

いわゆるイヤミスなのかと思って読み始めたのだがなんのなんの…。(この表紙にこのタイトルだったら…そう思うよなぁ…。)

16年ぶりに再会した元恋人同士の男女。クサヴァーは作家として成功をおさめ、マティルダは国語教師として一人で生きている。
大学で出会った二人。マティルダは作家の卵だったクサヴァーを陰ひなたなく支え、いずれは結婚して二人の子供を持つことを夢見ていたが、クサヴァーはそんな彼女を捨てて金持ちの女とスピード結婚し子どもをもうける。

お互いに送りあうメール(現在)、お互いに語り合う物語(過去の物語)、二人の物語(現在)、という構造が見事。「物語ること(フィクション)」がテーマになっているのでお互いに語り合う物語が現実とどうリンクしているのか、何をお互いに伝えようとしているのか、それを読み解く面白さ。

またマティルダとクサヴァーの人物造形も一筋縄ではいかなくて面白い。
構造、仕掛けの面白さはもちろんあるのだけれど、人間の多面性、誰かを愛し愛されることの不思議が際立っていて、そこがとても好きだった。

昼八ツ落語会

UNA galleryで行われた「昼八ツ落語会」に行ってきた。

・さん助師匠 ご挨拶
・さん助「かぼちゃ屋
・さん助「臆病源兵衛

さん助師匠 ご挨拶
先週末、一門で九州に行ってました、というさん助師匠。
うちの一門では落語体操というやつをやります。落語の所作を体操にしてやるんですけど、この時は白Tシャツに白い短パン、白いソックスを履くことになってます。
私が楽屋で白T着て短パンを履いてるとうちの総領弟子が…「え?お前それ…ステテコ?」っていうんです。
「いや兄さん、これはステテコじゃありませんよ。短パンですよ」
「いやいや、それステテコだろ?」
「違いますよ。短パンですよ。さすがに間違えませんよ」。
何度かそんな会話をして改めて見てみたら…ステテコでした…。
ちょっと言い訳させてもらうと、私がその時履いてたのは少しこじゃれたステテコで…ウエストのところに黒い線が入ってたのでステテコだと思わなかった…。いやでも下着ですからね…間違えないですね、ふつう。
楽屋にいた人間がみんなあっけにとられてましたね…。

…ぶわははは。
すごいな、さん助師匠。さすがです。

さん助師匠「かぼちゃ屋
与太郎のけだるさが独特で面白い。結構あれこれ理屈を言うんだけど、めちゃくちゃなところもあるけど、言いえて妙ということもあって、それがおかしい。
与太郎を見送るおじさんが「売り声は大きな声で」「裏通りを行け」「上を見ろ!」などと大声でいつまでも叫んでいるのがエキセントリックで、え?おじさんは常識人じゃなかったの?(笑)
さん助師匠らしい、ちょっとエキセントリックな「かぼちゃ屋」で面白かった。

さん助師匠「臆病源兵衛
私は間違いなくビビりです、とさん助師匠。
なにせ、待ち合わせしていて待ち合わせしてる人が現れるとびっくりしちゃうんですから。
そんなまくらから「臆病源兵衛」。
源兵衛がキャーキャー言って怖がるのがやたらとおかしい。
夕方になって部屋を閉め切って蚊帳の中で震えている源兵衛が、はっつぁんに「あにぃの所に源兵衛のことを見初めた女が来ている」と言われると、「行く」と急に低い声で答えるのが、はっつぁんが言ってた通り源兵衛の女好きが伺えて面白い。
そのくせ扉のところまで出てくると「うわぁ、はっつぁん!!」って驚くのが、まくらと繋がっていて面白い。

その後、兄貴の家に行ってからのやりとりや、不忍の池のくだりになって、少しテンションが下がったのはなんでだろう?ちょっと疲れちゃった?
でもすごくさん助師匠に合ってる噺だと思ったので、また見たいな。

圓朝

 

圓朝

圓朝

 

 ★★★★★

裏切り、怨念、なんのその! 落語の神様――三遊亭圓朝の激動の人生を、新田次郎賞&本屋が選ぶ時代小説大賞W受賞の奥山景布子が描いた傑作長篇。「牡丹灯籠」「真景累ヶ淵」など数々の怪談、人情噺を残し、江戸と明治を駆け抜けて、芸能の怪物となった三遊亭圓朝。しかし、その実人生は「まさか」の連続だった。師匠に嵌められ、弟子は借財まみれ、放蕩息子は掏摸で逮捕。売れない修行時代から、名人にのしあがった晩年まで、不屈の魂に燃えた〈大圓朝〉、堂々たる一代記。落語の神様もつらいよ! 

今でも大ネタとしてかけられることの多い圓朝物がどういう風にしてできたか、時代の空気や圓朝の生きざまが生き生きと描かれていて、とても読みやすく面白かった。
また自分の師匠との軋轢や大勢いた弟子との関係も興味深かった。変に気取って書かれていないところが好きだな。そして自分が好きな噺家さんや慣れ親しんでいる名前が次々出てきて(圓馬、圓橘、萬橘、圓太郎、ぽん太)、おおお!となる。こうやって名前が引き継がれていくっていいなぁ…。

読み終わった次の日が圓朝の命日でその日に圓橘一門で圓朝ゆかりの噺が聴けたのもとてもよかった。

落語のまくらやなにかで圓朝のエピソードを聞くことはあったけれど、こういうふうに人生を物語で読んで、私のもやもや頭でも少し理解が深まった気がする。
圓朝物はだいたい苦手なんだけど、苦手意識が少しなくなったかもしれない。(ような気がする)

ある一生

 

ある一生 (新潮クレスト・ブックス)

ある一生 (新潮クレスト・ブックス)

 

 ★★★★★

20世紀初頭、幼くして母を亡くし、アルプスの農場主のもと過酷な労働をしいられて育ったアンドレアス・エッガーはある日、雪山で瀕死のヤギ飼いと出会い、「死ぬときには氷の女に出会う」と告げられる―。生まれてはじめての恋、山肌に燃える文字で刻まれた愛の言葉。危険と背中合わせのロープウェイ建設事業に汗を流す、つつましくも幸せな日々に起こったある晩の雪崩。そして、戦争を伝えるラジオ。時代の荒波にもまれ、誰に知られることもなく生きた男の生涯。その人生を織りなす瞬くような時間。恩寵に満ちた心ゆすぶられる物語。 

とてもよかった。

私生児として生まれ母の義兄に引き取られたエッガー。愛情や関心をむけられることなく「働き手」として厳しい労働を課せられながら逞しく育ち、独立した後は貧しい土地に「我が家」を持ち、そして初めての恋を知る。

エッガーの人生…それは掴みかけた幸せがあっという間に去り、その後は諦念とともにあったように思えるが、彼が老人になってから至る境地には驚きと感動を覚えずにはいられない。

アルプスの自然を全身で受け止め生き抜いたエッガーの一生。そこを観光で訪れた人たちは決してエッガーの境地に達することはできないのだろう。

鈴本演芸場8月上席昼の部

8/3(土)、鈴本演芸場8月上席昼の部に行ってきた。

・ひこうき「狸札」
・あんこ「道具屋」
・ダーク広和 マジック
正蔵「味噌豆」
・志ん輔「豊竹屋」
・ニックス 漫才
・玉の輔「お菊の皿
・一朝「鮑のし」
・ペペ桜井 ギター漫談
・小ゑん「ミステリーな午後」
~仲入り~
笑組 漫才
・琴調「清水次郎長外伝 小政の生い立ち」
・金馬 漫談&小噺
・正朝「蔵前籠」
・小菊 粋曲
・しん平「茗荷宿」&ガイコツかっぽれ

 

あんこさん「道具屋」
笛に指を突っ込んだお客の指が抜けなくなる、というのは初めて聞いた。
サゲも面白かった。


正蔵師匠「味噌豆」
結構難しいお客さん(おじいさんが多くて聞き取りづらかったりわかりづらいと笑わない)だったんだけど、幼稚園ぐらいのお嬢さんが前の方にいてその子が小噺にけらけらけらけらかわいらしい笑い声。これですっかり気を良くした正蔵師匠が「味噌豆」に入ったら、小僧が豆をつまみ食いするところでまたけらけらけらけら。もう嬉しくて「いつまででも食べていたくなっちゃう」と言ったのがおかしかった~。


一朝師匠「鮑のし」
一朝師匠の「鮑のし」なんてめったに聞けないし嬉しい~。と思ったけど、おじいさんたちにはわかりづらかったらしい。
でも私はとっても面白かった。人のいい甚兵衛さんがとってもチャーミングで、魚屋の大将の威勢のよさが気持ちいい!


小ゑん師匠「ミステリーな午後」
おじいさんたちにはペペ先生もわかりづらかったらしいんだけど、小ゑん師匠はまくらから惹きつけて落語もどっかんどっかん!大うけだった。すごい!!
挙動不審な鈴木係長。のり弁、鮭弁、コロッケ弁のローテーションも、寿司政で上握りを出前したと思われたくて小僧寿しを詰めちゃうところも、楽しい楽しい。
寿司を詰めるところで一つずつ駄洒落を言うのがすごくおかしくてお客さんもノリノリに。
楽しかった!
仲入りでトイレに向かう時、おじいさんたちが「さっきの新作は面白かったな!」と話していて、よっしゃ!となぜか自分の手柄のように喜ぶワタクシ。

 

琴調先生「清水次郎長外伝 小政の生い立ち」
このお客さんに講談は無理かも…と思っていたんだけど、「講談師がカタカナを使っちゃいけない。普段から使ってると高座で思わずポロっと出る」のまくらでどっかん!まさにつかみはオーケー。
小政の生い立ちというわかりやすい話だったのもあるだろうけど、お客さんが物語に聞き入って啖呵にすかっとするのが感じられて、すごい!
かっこよかった~。

 

金馬師匠 漫談&小噺
座れないということで立ったままの高座。
「お客様の心配は伝わってきてますけど、まだ生きてます」が第一声。

昨年は心不全で倒れてその後脳溢血も起こしさすがにもうだめだと思った。
言葉もうまくでないしとにかく体が全く動かない。
それでもありがたいことに落語は忘れらなかった。全く。全部覚えてた。これはありがたい。
それから始まったリハビリについての話。

こんな大変な出来事もすでにネタとして確立させてるというのがほんとにすごいと思った。

その後、間男の小噺。聞きなれた小噺でも十分面白い。
よかった、金馬師匠の高座をまた見ることができて。襲名披露も見に行きたい。

 

小菊師匠 粋曲
出てくるなり「三の糸が切れちゃったんですよ」「ほんとは楽屋でつけてきたかったんですけど間に合わなかったのでここでやらせていただきます。めったに見られるものじゃないからいいでしょ?」。

説明しながら糸をしごいて張り替えて調子を合わせる。これがもうすっごくかっこいい。
ギタリストが弦を張り替えているところとおんなじで慣れていて早くて動きに無駄がない。
し、しびれる…。

両国風景も糸の調子を合わせながら…で、いつもより落ち着かなかったけど、それもまたいいものを見られたという気持ちでいっぱいに。
きれいな人は何をしてもきれいなんだな…所作に品があって美しかった。


しん平師匠「茗荷宿」
私はこの師匠のハイテンションな漫談が好きで好きで。
この日も携帯を初めて持った時の話やマナーモードでぶるぶる震えるのが怖いというような話など…「まぁどうでもいい話なんだけどなっ」と言いながらするのが楽しくて楽しくて大笑い。
それからハイテンションなまま「茗荷宿」へ。
しん平師匠の「茗荷宿」は、飛脚が泊まろうとすると宿屋の主人が「うちには泊まらない方がいい」と断る。
すごいにぎやかでバカバカしい茗荷宿。笑った笑った。

そしてその後に場内を暗くしてがいこつかっぽれ。初めて見たけど、バカバカしい~。
女のがいこつが二人出てたけど、あんこさんともう一人は誰だったんだろう?
面白かった!

悪意

 

悪意

悪意

 

 ★★★★

「トム」、夜中にかかってきた一本の電話、それは二十二年前に死んだはずの息子からのものだった。「レイン」、亡くなった著名な作家の遺作には母国語での出版を禁じ、翻訳出版のみを許可するという、奇妙な条件が付されていた。「親愛なるアグネスへ」、夫の葬式で久し振りに会ったかつての親友、二人の交わす書簡はやがて……。デュ・モーリアの騙りの妙、シーラッハの奥深さ、ディーヴァーのどんでん返しを兼ね備えた傑作短編集。 

サスペンスの中・短編集。2段構えだし楽しい話じゃないので読むのに時間がかかってしまった。嫌な話だけどどれも面白かった。

「トム」
ヒッチコックの映画のような、クラッシックなサスペンス。読んでいて、この夫婦には何か裏がありそうだなと思っていたら、やはり…。
ラストにぞぞぞ。


「レイン ある作家の死」
2つの物語が交錯していて、語り手の翻訳家も今一つ信頼できなくて、現実なのか物語なのかもやもやするところもあったが、読み応えがあって面白かった。

「親愛なるアグネスへ」
女同士のこういう歪んだ友情って結構よくあることで、特に気の強い者同士…小中学生ぐらいにはあることだけど、それがずっと続くとこんな風に…。
二人の手紙とアグネスの一人語りのパートが交互に綴られ、この結末。見事。

 

サマリアタンポポ
これだけは、読んでいて真相がわかったぞ。わかると嬉しいけど、たいしたことなかったなと侮ってしまう、読者の勝手さよ。

小満ん夜会

8/2(金)、日本橋教育会館で行われた「小満ん夜会」に行ってきた。

・朝七「たらちね」
小満ん「応挙の幽霊」
・龍志「小言幸兵衛」
~仲入り~
小満ん「大山詣り

 

朝七さん「たらちね」
わーい、朝七さん。前座が朝七さんだとものすごい得した気分。
うまくてきれいというだけじゃなくて、ちょっとハズした面白さみたいのがあって大好き。
新妻が言葉が丁寧というだけじゃなくて絢爛豪華さがにじみ出てるのがおかしい。
そして新妻を置いてすぐに帰っちゃう大家さんの「じゃね!」の意外な軽さ。
楽しい~。

 

小満ん師匠「応挙の幽霊」
大好きな噺を大好きな師匠で聞けるヨロコビ。
小満ん師匠の「応挙の幽霊」は道具屋さんがほんとに洒脱でのんびりしてて商売っ気がなくてチャーミング。
あれこれ蘊蓄を繰り広げながら一人で飲んでるところも楽しいし、出てきた幽霊がお酒好きでウィスキーを「ワンスモア」と何度も催促するのも楽しい。
もうずっとこの二人の飲んでるところを見ていたいと思うような、のんびりした贅沢な時間。
すーてーきーー。
どなたかのブログで読んでずっと見たいと思っていた小満ん師匠の「応挙の幽霊」を見られて大満足。


龍志師匠「小言幸兵衛」
ゲストが龍志師匠っていうのがめちゃくちゃうれしい。かっこいい師匠だよなぁ。
私は面食いじゃないけど、好きなタイプの顔というのがあって、龍志師匠は本当に好みで、数少ない顔から好きになった噺家さん。
またこのこざっぱりした人柄といかにも噺家さんらしい佇まいがほんとにかっこいい。

龍志師匠は「小言幸兵衛」率が高くて、できれば違う噺が聞きたかった!
でも言いっぱなしの小言も神経質な感じが全然なくてただ言いたくてぱーぱー言ってるだけというのが伝わってくるので、嫌な感じは全くしない。

サゲもばかばかしくてとても楽しかった。


小満ん師匠「大山詣り
決め式は先達さんが言い出すのではなく、若い連中の方から言い出す、というのは初めて聞いた。
でもたしかにこれだと後味の悪さが少ないかも。自分たちから言い出して、自分たちもそうされる覚悟があったっていうことだから。

それにしても自分が坊主にされたとわかった途端、すぐに籠を呼ぶあたり…くまさんも頭の展開が早いというかなんというか。
「自分のところのかみさんだけしっかり黒髪を残してやがる!」には笑った。