末廣亭7月下席昼の部
7/21(金)、末廣亭7月下席昼の部に行ってきた。待望の南なん師匠のトリ!トリの南なん師匠!ふぉー!
夜の部なら毎日通えるのにー。といいながら昼でもとにかくどうにかして見られるようであれば見に行きたいのだ。頼む、この時間に打ち合わせの予定をいれないでー。とは言えない(当たり前)。
とりあえず初日は行けて、ほっ。
・南なん師匠「死神」
貧乏神の祭りをやったら誰も集まらなかったというまくら。誰も来ないので一計を案じ、「この日の祭りに来なかったら、こちらから(貧乏神が)お訪ねいたします」とビラを配ったら、来られちゃたまらない!というのでお客さんが集まってきた、と。
そんなまくらから「死神」。
南なん師匠の「死神」は何回か見ているけどそのたびに印象が違う。
今回はちょっとコミカルな感じ。
サゲも前に聞いた時と違っていて後味が悪くないようにされていて、お客さんの中に元気のいいよく笑う男の子がいたからなのかな。
見ていないようでお客さんの方をちゃんと見てくれている南なん師匠。くーーー。たまらん!
最愛の子ども
★★★★
日夏(ひなつ)と真汐(ましお)と空穂(うつほ)。
夫婦同然の仲のふたりに、こどものような空穂が加わった。
私立玉藻(たまも)学園高等部2年4組の中で、
仲睦まじい3人は〈わたしたちのファミリー〉だ。
甘い雰囲気で人を受け入れる日夏。
意固地でプライドの高い真汐。
内気で人見知りな空穂。
3人の輪の中で繰り広げられるドラマを、
同級生たちがそっと見守る。
ロマンスと、その均衡が崩れるとき。
巧みな語りで女子高生3人の姿を描き出した傑作長編。
おそろしく繊細で、だけど少し皮肉なユーモアもあって、なんとも感想の書きづらい作品。
例えば女子高などで女子同士が疑似恋愛をする、などという話も聞くけれど、そういう経験がないのでその「空気」というのが私にはよくわからない。
この物語に出てくる少女たちの独特の空気、刺さる人には刺さるのかなぁと思いつつ、正直ちょっと引き気味に読んだ。
学生時代のグループには必ず力関係があって押したり引いたりするものだけど、ここに出てくる少女たちは「集団」に関心はなく、あくまでも「個人」、そこにある「恋愛の空気」や「物語」に惹かれている、というところには共感を感じる。
誰もが誰かの物語を見る側でもあるし見られる側でもある。
物語の中心にいる少女3人による「家族」だけでなく、彼らを見つめ見守る少女たち、そしてその親たちの語られなかった物語の方も気になった。
コードネーム・ヴェリティ
★★★★
第二次世界大戦中、イギリス特殊作戦執行部員の女性がスパイとしてナチスの捕虜になった。彼女は親衛隊大尉に、尋問をやめる代わりに、イギリスに関する情報を手記にするよう強制される。その手記には、親友である女性飛行士マディの戦場での日々が、まるで小説のように綴られていた。彼女はなぜ手記を物語風に書いたのか?さまざまな謎が最後まで読者を翻弄する傑作ミステリ。
第二次世界大戦時、飛行機の操縦士とスパイになった女性二人。生まれも育ちも性格も全く異なる二人が出会い友情を育む。
前半はスパイだった女性がナチスに捕らえられ尋問を受けながら書いた手記。女性飛行士マディとの出会いから軍での活動などが語られる。
ナチスの将校はなぜこのような小説風の手記を書くことを許したのか、この手記に書かれていることはどこまでが真実なのか…。
後半はマディの側の手記。こちらを読んで「そういうことだったのか」とわかることもあって、ミステリーとしての面白さも。
面白かったけれど後味は苦かった。
第40回 夏丸・伸三だしぬけ二人衆
7/18(火)、お江戸両国亭で行われた「第40回 夏丸・伸三だしぬけ二人衆」に行ってきた。
会社をぎりぎりに出たら総武線が止まっていることに気が付いてあわてて別のルートで両国へ。どうにかこうにか間に合って汗だくだく。ぜいぜい。
それにしても素敵な二人会。二人会ってたいてい二席ずつだから、一人が好きでももう一人が苦手だと行きづらいんだよね。この組み合わせはほんとに俺得。ブラボー。
・夏丸「猫と僕/猫と金魚」
・伸三「盃の殿様」
~お仲入り~
・伸三「千早ふる〜深川」
・夏丸「代書屋」
夏丸さん「猫と僕/猫と金魚」
真打になることが決まった夏丸さん。一緒になるのが講談の蘭さんということで二人だけの真打。たくさんトリがとれていいなぁ…でも大変そうだなぁ…チケットとか打ち上げとかパーティとか…。
「これからお披露目のチケットも届くので、この後私の会は”落語を聞いていただく会”じゃなくて”チケットを買ってもらう会”に変わります」と言っていたけど、確かに…前に夢丸師匠も「凶器になるぐらいの厚みで来た」と言っていたからなぁ…。
でも自分が応援していた二ツ目さんが真打になるってすごく嬉しい。私なんかはただの客だけどそれでもちょっとこう…感無量。
なんていうと、それを形で示せと言われそうだな…。どきどき。
それから猫好きで有名な夏丸さんが今まで実家で飼っていたペットについての話。
夏丸少年の命を救ったチビの話とか…そのまま新作になりそう。
そして頭がよくてすばしっこかった一代目のタマ、今も生きている頭のよろしくない二代目のマルの話が楽しい~。夏丸さんって淡々と語るんだけどそれがなんともこう味わいがあって楽しいんだよね。このまくらにも「猫と僕」という名前が付いていたぐらいだから…完成度が高い。
そんななが~いまくらから「猫と金魚」。
この番頭さん…黒い…そしてくまさん、最初から弱そう(笑)。
猫好きの夏丸さんが猫を怖がる噺って…シュール。
伸三さん「盃の殿様」
久しぶりの伸三さん。うれしい。
視力をよくしたいと思い続けているので「これをやれば目が良くなる」という本を見かけるとついつい買ってしまう。
この間もそういう本を買って読んだら、近眼というのは目の筋肉の衰えなので、毎日これさえやればよくなるという体操?が書いてあった。簡単だからこれならできると思い、やっているんだけど。
それが、目をつぶって明るいものを見る。それから目をぐるぐる激しく動かす。
これだけでいいっていうんで、自分は信号待ちをしているときとかよくやっている。目をつぶってお日様を見上げて、それから目をぐるぐるっと回して…。
これってまるで「かぼちゃ屋」の与太郎さん…。
…うーん。当たり前のように「目をよくしたい」って…「みんなもそうでしょ」ぐらいの勢いで言うんだけど、仮性近視になったばかりの小学生ならまだしも…この年になってそれに全力で取りかかっている人ってそんなにいないような…。やっぱり伸三さんって面白い。
そんなまくらから「盃の殿様」。前に聞いたことがあったっけと自分のブログを検索したら、喜多八師匠で聞いていたんだった…ああ…。
仮病を使っていろいろなことを断って家にこもっているうちにほんとに具合が悪くなってきてしまった殿様。どうにか殿様に元気を出してもらおうと花魁の絵が描いている札を見せてみると、「こういう女が実際に存在するのか」と一気にノリノリに。
吉原などは悪所だから殿が行くようなところではないとお目付け役に禁じられるとすねてしまって始末に負えない。
仕方ないので「見るだけ」の約束で吉原へ行って花魁道中を見ると、今度は話してみたい。話してみると今度は泊まって行きたい。お気に入りの花魁もできていい仲になるのだが、参勤交代で国元へ帰ることに…。
駄々をこねる殿様が「きもちわるい」の一歩手前ぐらいな感じで、でもなんかかわいらしいようなかわいそうな感じもあって、それが伸三さんとも重なってなんともいえない繊細な面白さ。
うひょー。伸三さん、いいなぁ。前からいいなと思っていたけどとてもいいなぁ。しかもこういうレアな噺をするところがいい!
伸三さん「千早ふる〜深川」
前半がたっぷりめだったので後半はわりとあっさりと。
きょとんとしている伸三さんと「先生」の嘘話に「え?なんかおかしくない?」と言いながらも「あーなるほどね」と丸め込まれてしまう男が重なって面白い。
この会はトリじゃない方が何かしないといけないのでと「深川」を。所作がきれい!
夏丸さん「代書屋」
この間浅草で見たのと同じ、途中に五木ひろしショーが入る「代書屋」。楽しい!
夏丸さんってすごくまじめそうで繊細そうなんだけど、ちょっと何を考えてるかわからないようなつかみどころのなさがあって、それが落語に底知れない魅力を与えていて、なんかもっと見たい、もっと知りたい、という気持ちにさせる。
真打になったらもっとすごいことになる気がするなぁ。
真打披露目、楽しみだ~!
池袋演芸場7月中席昼の部
・やなぎ「まんじゅうこわい」
・さん助「胴斬り」
・世津子 曲独楽
・うん平「浮世床(将棋、本)」
・歌笑「親子酒」
・ホンキートンク 漫才
・小里ん「へっつい幽霊」
・小はん「馬のす」
・仙三郎社中 太神楽
・権太楼「蜘蛛駕籠」
~仲入り~
・菊之丞「町内の若い衆」
・左龍「長短」
・アサダ二世 マジック
こういうヘンテコな世界、好きなんだよー。
70歳になりました、と権太楼師匠。
鈴本なんかに出ると…いや鈴本だけじゃない他の寄席でもそうだけど、顔付けを見て「げ。俺がこの中で一番年上だ」ってことが多くなってきた。
なのに今日のこの顔付けはなんですか!あれ、俺、お茶入れないといけない?って思っちゃった。
歌笑師匠の「親子酒」、袖で見てたけどね、もういいよね、あれをずっとやってて今もやってるんだから。あと「馬のす」、あれね。もうなんなのあれは。凄いでしょ、今日は。見ておいた方がいいよ、ほんと、今のうちに!そうすりゃ後で自慢できるから。「おれ、生で見たよ」って。
このしぶーいメンツの中にあってすごく若々しさを感じた。
ごくごくあっさりとしていて素敵な「青菜」。植木屋さんが江戸っ子らしくさっぱりしていて素直にお屋敷の雰囲気に憧れているのが伝わってくる。おかみさんも口が悪くてえばってるけど、亭主の遊びにつきあってあげる気の良さがあってすてき。
池袋演芸場7月中席昼の部
7/15(土)、池袋演芸場7月中席昼の部に行ってきた。
小のぶ師匠がトリで小里ん師匠、小はん師匠、小燕枝師匠、小満ん師匠って素敵すぎるラインナップ!毎日でも行きたいよ!
・ひしもち「転失気」
・歌太郎「子ほめ」
・たけ平「金色夜叉」
・世津子 曲独楽
・うん平「替り目」
・栄枝 漫談(ブラジル小噺など)
・ホンキートンク 漫才
・小里ん「碁泥」
・小はん「二人旅」
・仙三郎社中 太神楽
・小燕枝「ちりとてちん」
~仲入り~
・菊太楼「幇間腹」
・小満ん「粗忽長屋」
・アサダ二世 マジック
・小のぶ「風呂敷」
歌太郎さん「子ほめ」
歌太郎さんは好きな二ツ目さんなんだけど、あれ?こんなにこってりしてたっけ?それともこの渋いメンツに満員のお客さんで力が入りすぎちゃった?
ちょっとこってりしすぎな「子ほめ」だった。
たけ平師匠「金色夜叉」
客いじりと攻撃的な高座がちょっと苦手だなと思っていたんだけど、この日は面白さの方が勝った。思わずふきだしてしまうようなくすぐりが満載で楽しかった~。
うん平師匠「替り目」
「ブス」のまくらでどん引き…。いやあのまくら自体はよく聞くからなんてことないんだけど、それをわざわざ説明したのがなんともかんとも…。
「替り目」も酔っぱらいの毒々しさの方が目についてしまって楽しめず。絶対あのまくらのせいだと思うなぁ…。
栄枝師匠 漫談
この日は膝を悪くしてということで釈台を出して落語しないで漫談だけだったんだけど、そして喋り方もちょっとふがふがしてて漫談もこうピリっと面白いとかではないんだけど、なんか好きなんだよねこの師匠。ブラジル小噺、好きだった。
小里ん師匠「碁泥」
楽しいっ!碁を打つ二人の様子が目に浮かんできてたまらない。
謝楽祭で冷たくされたことも忘れるほど(←まだ言ってる。全然忘れてない(笑))。
小はん師匠「二人旅」
大好き!ふがふがしてるところも含めてほんとに全てが「落語」で最高。
この噺に出てくる店のおばあさん。小はん師匠がやると「ホンモノがキターー!」って感じで全然無理がない。対する旅の二人はすごく若々しくていかにも江戸っ子って感じ。
この噺はこういうふうにやるんだよ、というお手本のような…というより、もう小はん師匠が「二人旅」そのものだったな。
小燕枝師匠「ちりとてちん」
最初から最後まで最高に面白かった。
作った感じのところが一つもないんだよなぁ。こう…お世辞のうまい人のお世辞に対する旦那の受け答えとかが。すごく自然なんだ。演じてる感がないの。落語なんだ。そこがたまらなく好き。
いちいちつっかかる男の方のやりとりはごくあっさりしていて、それだけに「ちりとてちん」を食べるところのしぐさに大笑い。
楽しかった~!
菊太楼師匠「幇間腹」
こんなメンツに挟まれて緊張するだろうなぁと思ったんだけど、すごくまたよくて。
一八の調子のよさととほほ加減が絶妙で、わかりやすく面白くて若さもあって(笑)最高だった。
小満ん師匠「粗忽長屋」
小満ん師匠の落語は小満ん師匠にしかない世界だなぁ…。言いよどみがあるからどうだとかこうだとかいう人もいるけど、そんなのほんとにどうでもいいことだよなぁ、と私は思う。
行き倒れを見つけた男があまりにも自信満々だから、最初は「よせやい」なんて言ってたくまさんが「そうか、俺は死んだのか」と信じてしまうところがすごくおかしい。
死骸を引き取りにいくところでもくまさんが控えめなのがばかばかしくて楽しい。
何度も何度も見ている噺なのに、噺家さんによってまた面白いと思わせてくれる、不思議な噺だなぁ。
小のぶ師匠「風呂敷」
この噺の中に出てくる兄貴分が間違って語る薀蓄をまくらで語る小のぶ師匠。話しているうちにちょっとごっちゃになっちゃって、「あれ?私今間違った方を言っちゃいました?」「ああ、いつもやらないことを急にやるから…ま、いいか、やらなくても」。
ぶわははは。前にお江戸日本橋亭で見た時を思い出すけど、それすらも落語っぽくて楽しいからいいよ~。
仕込みは80%ぐらい(笑)で「風呂敷」。
兄貴分のところに相談に来た女房も、兄貴分も、焼きもちやきの旦那も、みんな激しくて大笑い。
特に兄貴分が相談に来た女にえらそうに間違った薀蓄を語るところ、自分の女房とのやりとりがばかばかしくて最高だ。兄貴分のおかみさん、すごく気が強い(笑)。
わりと若い人で聴くことが多いこの噺だけど、小のぶ師匠の「風呂敷」はどの若手よりも威勢がいい。
いいなぁ、小のぶ師匠。大好きだ。
ふたりらくご
7/14(金)、ユーロライブで行われた「ふたりらくご」に行ってきた。
二回目のしぶらく。
この日、職場で使っているPCのハードディスク増設で17時からPCが使えなくなったのでこれ幸い!と18時始まりのこの会へ。
志ん八さん「粗忽の釘」
師匠である志ん橋師匠の話。
師匠のお宅で一緒に「サウンドオブミュージック」を見ていた時。かわいがってる猫が師匠の膝の上に乗ってきて「だめだよ。いま映画見てるからね」と師匠が言うと、ちゃんと理解したのか膝から降りて行った猫ちゃん。
でもまたしばらくすると甘えたくて乗ってくると、今度は師匠が「ノー!」。
映画が字幕だったので思わず英語になったらしい…。
前にも聞いたことがあるけど、いいなぁ…志ん橋師匠って。そしてそんな風に自分の師匠の事を語る志ん八さんもいいなぁ。ほのぼの。
そんなまくらから「粗忽の釘」。
いいな、志ん八さんの古典。のんびりしてて。
お隣の家に行ってのろけるくまさんがかわいい。
馬石師匠「厩火事」
500円札の思い出。
小学生の頃、仲のいい友だちと3人で隣の町で行われる釣り大会へ行った。そして3人で帰りにこっそり喫茶店でフルーツパフェを食べる約束。
学区外に子どもだけで出ることも喫茶店に入ることとも禁止されていたので、これは彼らにしてみたら大冒険。
釣り大会ではいい場所を陣取ろうと夜明けともに出かけて行って3人でいい場所を探していたのだが、そうしているうちに友だちの一人が突然川に落ちてしまった!
落ちた!と思ったら首までつかってしまって、川ってこわい!と思ったのだが、どうにか引き上げることができた。
でもこれは3人にしたらものすごいショックな出来事でテンション駄々下がり。それでも「大丈夫!乾くよ!」「うん、乾くって!」
その時の自分たちにとって、「乾く」ってことが何よりも重要だった。
釣り大会では一匹も釣ることができず、それでも参加しただけでとても楽しくて、3人でうきうきと喫茶店へ。
フルーツパフェはとてもおいしくて3人でおいしいおいしいと大興奮。
さてお金を払おうとしたら、一人の子が出した500円札が濡れている。
ああそうだ、さっき川に落ちたからだ!みんなそう気づいたけれど、それは言ったらいけないこと、とこども心に理解していたので、誰もそのことには触れなかった…。
…ぶわはははは。なんだ、そのエピソード?!
馬石師匠は嬉しそうにわやわやと喋るんだけど、とんでもないオチがあるわけでもないし、なんか最後まで聞くとすごくささやかな出来事で…それがもうすごくかわいらしい(笑)。いいな、馬石師匠って。
そんなまくらから「厩火事」。
このまくらと噺のつながりもいまいちナゾなのがまたおかしい。
おさきさんがなよっとするところがとても色っぽくてかわいらしい。演者によっては、ほんとにめんどくせぇ女だなぁ…と思うこともあるから、これは強味だよなぁ。
とんとんっとリズムが良くて楽しい「厩火事」だった。
夫婦の中のよそもの
★★
はちゃめちゃな家族、理不尽な戦争。それでも人生捨てたもんじゃない。映画『アンダーグラウンド』『黒猫・白猫』など、愛と厳しさと生命力に満ちた独特の感性で世界中を巻き込んだクストリッツァ。天才映画監督による、連作短編4作、独立短編2作の魅惑の短編集。
タイトルはいかにも私が好きそうな感じがしたんだけど、文体が妙にハイテンションで馴染めなかった。
ちょっと寓話的な雰囲気のある「すごくヤなこと」と映画の原案になったという「蛇に抱かれて」はよかった。ヘヴィな出来事をテンション高く寓話っぽく書くのがこの作者の持ち味なのかな。
カレム少年を主人公にした連作は、感情の振れ幅の大きさと極端に思える行動について行けず…。私にはちょっと合わなかった。
浅草演芸ホール7月中席夜の部
大好きな談幸師匠が初めてのトリをとるというこの芝居。
さん助師匠が初めてトリをとった時は嬉しさよりも心配の方が勝っていたけれど、談幸師匠は心配より嬉しさの方が勝る。ふふふ。
「私は二ツ目の時に落語協会を師匠と共に離れたのでもちろん寄席でトリをとったことはありませんでした。だから今日は私の本当に初めてのトリです」と談幸師匠。
いつものように軽くさらっとおっしゃっているけど師匠がそのことをとても嬉しく光栄に思っていることが伝わってきて、見ているこちらもじーん…。
私はただの素人だけど、でもこういう時に「いかにも」な噺じゃなくて「質屋庫」をやるっていうところにぐっとくる。いいっ!
菅原道真のことをまくらで話されていたので、私はようやくこの噺のサゲがちゃんとわかった!(どんだけ歴史に疎いんだ…。)
よかったなぁ。なんかいつもの談幸師匠っぽくないところも含めてとてもよかった。いいものを見たなぁーという感動で胸がいっぱいになった。
スウィングしなけりゃ意味がない
★★★★★
1939年ナチス政権下のドイツ、ハンブルク。軍需会社経営者である父を持つ15歳の少年エディは享楽的な毎日を送っていた。戦争に行く気はないし、兵役を逃れる手段もある。ブルジョワと呼ばれるエディと仲間たちが夢中なのは、“スウィング(ジャズ)”だ。敵性音楽だが、なじみのカフェに行けば、お望みの音に浸ることができる。ここでは歌い踊り、全身が痺れるような音と、天才的な即興に驚嘆することがすべて。ゲシュタポの手入れからの脱走もお手のものだ。だが、そんな永遠に思える日々にも戦争が不穏な影を色濃く落としはじめた…。一人の少年の目を通し、戦争の狂気と滑稽さ、人間の本質を容赦なく抉り出す。権力と暴力に蹂躙されながらも、“未来”を掴みとろうと闘う人々の姿を、全編にちりばめられたジャズのナンバーとともに描きあげる、魂を震わせる物語。
ナチス政権下のハンブルグで、甘やかされたボンボンだったエディがジャズに魅了されて警察の目を盗んでパーティを楽しんだり海賊盤を作って売ったり…。
自由な音楽のスウィングと半分ユダヤ人の友人マックスと付き合ううちにエディはナチス政権への軽蔑や怒りを抱くようになっていく。
兵隊に行くよりは刑務所に入る方を選ぶエディは、ナチスの言っていることや国のしていることには軽蔑しか感じていない。かといって彼に政治的な主張があるのかといえばそんなものはなく、ただ自分たちが自分たちらしく生きていたいだけだ。気持ちのいいスウィングを聞けば自然と身体が動き出して気持ちが高揚することを、馬鹿げた主義主張で封じ込められたくないだけなのだ。
その「軽さ」がどんどん悲惨になっていく時代の中で輝いていて、今この時代にこの作品を読めてよかったなぁと思ったのだった。
政権の裏をかきながらしたたかに生きるエディたちも決して無傷ではいられず、地獄を目の当たりにすることになるのだが、ボロボロになり果てても、それでも生き延びることに希望を見出す彼らがとても眩しく素敵だった。
すばらしかった。
第四回 夢丸の〇〇
7/10(月)、上野広小路亭で行われた「第四回 夢丸の〇〇」に行ってきた。
夢丸 ご挨拶
金かん「道灌」
夢丸「羽織の遊び」
夢丸「夢八」
~お仲入り~
夢丸「木乃伊取り」
夢丸師匠 ご挨拶
いつものように開演前に夢丸師匠が出てきての御挨拶。
今回は船の仕事に行った時のお話。ブログにも書いてあったけど、短い上陸時間の間にお風呂屋さんに行ったり、地元の漁師さんがとってきた魚を網焼きしているのを一緒に食べさせてもらったり(ちゃんとお金を払うところが律儀な夢丸師匠らしくて素敵)…そういうことがみなこの人の血となり肉となっているんだろうなぁ、というのが伝わってきてとても素敵だ。
夢丸師匠を見ていると、自分もいつの間にかニコニコ顔になっているんだよなぁ…。
そしてこの後にあがる前座の金かんさんのことを紹介。
彼はすごい人でして。年末に芸協の寄合があってそこで前座さんは余興をやらないといけないんですけど、もうこれが地獄なんです。私も前座の頃やりましたけどもう二度とやりたくない…。まぁウケるものといったら師匠方の物まねぐらいなもんなんです。
ところが彼は違った。
兄弟子の金の助さんが元ボクサーでグローブをつけてパンチするんです、それを金かんさんがミットで受けるんですけど、それをお囃子に合わせてやって音楽を演奏したんです。これがもう絶妙で。優勝でした。
だから彼はしばらくの間伝説の前座でした。
でも考えてみたら金の助さんは元ボクサーだけど金かんさんはただの素人なわけで、ミットで受けただけっていえばそうなんですけど…。
…ぶわははは。最高だな、そのエピソード。
そういえば金の助さんがこの会に前座で出た時に、元ボクサーって紹介してたな。
こうやって前座さんにも気を使う夢丸師匠、素敵…。
特にこの金遊一門の前座さんってまくらもふらないしニコリともしないで渋く落語だけして帰って行くから、こういうエピソードを聞かせてもらうのってすごくありがたい。
金かんさん「道灌」
そうだそうだこの人だ。思ってた通り、まくらなしで「道灌」。前にも金かんさんの「道灌」は聞いたことがあったけど、いいなぁ…。さすが金遊師匠のお弟子さんだ。渋い(笑)。
夢丸師匠「羽織の遊び」
初めて聞く噺。
この会は夢丸師匠が二席ネタ卸しをするんだけど、こうやって変わった噺を聴けるからほんとに楽しい。
町内の若い衆が集まって金はないけど遊びに行きたいなぁと話しているとそこにやってきたのが若旦那。この人が気障で何言ってるかわからない人物なんだけど(「酢豆腐」に出てくる若旦那)この人をおだてて吉原に連れて行ってもらおうと企む若い衆。
思惑通り連れて行ってくれることなるんだけど、羽織は着て来てくれと若旦那。羽織を着てこなければ吉原に行けないと聞いて、さてどうしようと困った男。自分の親方の家に行っておかみさんをどうにかごまかして羽織を借りて行こうとするのだが…。
好き嫌いは分かれるだろうけど、私はこの若旦那が大好き。「コンツワ」とか「セツは…」とか、もうなんなの、これ?っていつも大笑いしてしまう。
最初から最後までバカバカしくて楽しかった!
夢丸師匠「夢八」
おおお、またこういうブラックな噺を。この噺も大好き。だけどなかなか寄席でもかけづらいだろうなぁ…。生では一琴師匠でしか聞いたことがない。
酷い噺だけどおかしいなぁ。この「つり」の番をする八つぁんが眠りが浅くて毎晩変な夢ばかり見ているっていうのがこの噺の伏線になっているのか!というのが今回ようやくわかった!
3席目のまくらで夢丸師匠が、この落語をやるにあたって鳴り物入りでやってみたくて金かんさんにお願いをして、会の前に合わせてみようと言ったら、「いえ、練習して来たんで大丈夫です」と言われ「え?」と言ったら「youtubeで名人の夢八をたっぷり見て練習してきました」と。
…名人をたっぷり見た後に…やりづらいわ!と言っていたのがおかしかった。
夢丸師匠「木乃伊取り」
飯炊きの清蔵が夢丸師匠にぴったり。
そして番頭も頭も、旦那に頼まれた時から遊ぶ気満々だったっていうのと、旦那が本当に堅くてそういうことがまったくピンときてないっていうことが、見ていて初めてわかった。
たっぷり3席、どれも楽しくてまくらも面白くて満足~。
七夕金原亭夏夜噺
7/7(金)、日本橋社会教育会館で行われた「七夕金原亭夏夜噺」に行ってきた。
・駒六「うなぎ屋」
・白酒「千両みかん」
・馬好「らくだ」
~仲入り~
・馬治「豊志賀」
・雲助「汲みたて」
駒六さん「うなぎ屋」
前座さんでこの噺?!というのにも驚いたけど、ちゃんと面白くてそれにも驚いた。
きちんとした前座さんらしい落語なのに間で笑わせるってすごい。
白酒師匠「千両みかん」
「千両みかん」でも白酒師匠がやるとこんなにも面白くなるのか。
スピードがあって無駄なところが全然なくて、だけどたっぷり面白い。やっぱりすごいな、白酒師匠は。
みかん問屋で次々みかんを開けていくところのフェイントが最高にバカバカしくておかしかった。
馬好師匠「らくだ」
おおお、レアな師匠が!
馬好師匠といえば、2014年に末廣亭で行われた「十代目金原亭馬生三十三回忌追善興行」で初めて見て度肝を抜かれ「うおおお…馬生一門…おそるべし」と思ったのだが、最近名前を聞いた覚えが…と思ったら、談吉さんが馬好師匠の話をされていたのだった。
寄席でもめったにお目にかかることができない師匠。その師匠に一番噺を教わっているという談吉さんが最高だなー。しかも「どういう師匠ですか」と聞かれて「噺を教えてくれる時の顔の位置が近い」って…。ぶわははは!
まくらなしの「らくだ」、面白かった。
らくだやその兄貴分がいかに乱暴で人を脅しつけて生きてきたかを前半でたっぷり描いているので、くず屋が酔っぱらい始めてからの立場の逆転がとても爽快。
くず屋が3杯目の酒を少な目に入れてもらって、それを飲んでるうちに饒舌になってきて、あれ?なんか少ない?といぶかしげにするところがいかにも酒飲みらしくおかしかった。
馬治師匠「豊志賀」
この位置でこの噺で最初のうちとてもやりづらそう?な印象があったんだけど、徐々に乗ってきてとても面白かった。
この噺を聴いたことがなかったので、いったいどうなっていくのかとほんとに固唾をのんで聞いていた。
馬治師匠の女性はいいなぁ…。とてもきれいですっとしていて色気があって…それだけに嫉妬に狂って病気になって美貌が失われて、自分を見失っていく豊志賀が哀れで辛い。
豊志賀といい仲になる新吉がまた絶妙な人物像で…豊志賀が疑うほど移り気なわけじゃないけれど、嫉妬に狂って病に伏せっている豊志賀の面倒を見ながら徐々にうんざりしてきていて「もうここまでやったんだからいいだろ」と言うのがリアルでぞくぞく…。
こんなに暗い噺なのにちゃんと笑いどころもあって、すばらしい。よかった~。
雲助師匠「汲みたて」
今からやる噺、さきほどの噺と若干「付く」し、金原亭でこの噺をやるものもいないんであれなんですけど、主催者からのリクエストなので、と言いながら「汲みたて」。
いやもうこれがほんとにひっくり返るぐらいおかしくて笑った笑った。
雲助師匠も実に楽しそうにされていて…そして「豊志賀」と付くところがあるのにまるで違うところがまたすごくおかしくて。
お師匠さんとできてる半公のことを「片栗粉の袋みたい」っていう台詞。目に浮かんできて大爆笑だった。
いい会だったー。絶妙の組み合わせで、噺も絶妙のチョイスで。大満足。
池袋演芸場7月上席夜の部
7/6(木)、池袋演芸場7月上席夜の部に行ってきた。
・宮田陽・昇 漫才
・夢丸「富士詣り」
・圓馬「小言幸兵衛」
・正二郎 太神楽
・遊吉「化け物使い」
宮田陽・昇先生 漫才
ネタがまた新しくなってる!
最初から最後までほんとに面白くて笑いっぱなし。
陽先生の非人間的な面白さと、昇先生の絶妙のツッコミ。寄席で見る漫才の中で一番面白いと思う。
夢丸師匠「富士詣り」
笑顔で出てきただけでぱーーーっと明るくなる。夢丸さんは太陽のような人だ。
この位置で「富士詣り」をやってくれる夢丸師匠が大好き。
先達さんのおかみさんとの膝のつねりっこを楽しそうに語る若い衆が最高だった。楽しい!
圓馬師匠「小言幸兵衛」
わーい、圓馬師匠!またここでもトリじゃないのにトリネタをやってくれる圓馬師匠が最高すぎる。すごいな。
遊吉師匠「化け物使い」
遊吉師匠のトリは初めて。いつもの大学で学生が作ってきた(ぱくってきたのもあるかも?)小噺からの「化け物使い」。
明るくて軽くて楽しい。ちょっと小言が付くような気がしないでもないけど(笑)、用事を頼もうと化物が出てくるのを心待ちにしているご隠居が楽しい。
好きな人ばかりで俺得な仲入り後の池袋演芸場だった。
私の名前はルーシー・バートン
★★★★★
ルーシー・バートンの入院は、予想外に長引いていた。幼い娘たちや夫に会えないのがつらかった。そんなとき、思いがけず母が田舎から出てきて、彼女を見舞う―。疎遠だった母と他愛ない会話を交わした五日間。それはルーシーにとって忘れがたい思い出となる。ピュリッツァー賞受賞作『オリーヴ・キタリッジの生活』の著者が描く、ある家族の物語。ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー。
主人公のルーシー・バートンが盲腸で入院し思いがけず入院が長引いていたときに、疎遠だった母親が見舞いに来て5日間滞在する。このときの母娘の何気ない会話(ほとんどが近所の噂話)を中心に、貧しくて仲間はずれにされていた少女時代や作家として歩みだすきっかけ、離婚して娘たちと離れ離れになったことをルーシが語る。
人との付き合い方がよくわからないため、なかなか思うような関係を築くことができないルーシー。
愛しているとは決して言ってくれない母を激しく求めながらも、自分も娘たちに寂しい想いをさせてしまう。
そんな自分自身のことを突き放した視線で見つめ容赦なく書くルーシーの作家としての生き方。
作家の物語なのでどうしてもルーシーと作者を重ねて見たくなってしまうのだが、この物語はそういうことすら拒んでいるように思える。
タイトル同様、孤独な作家としての生き様がすがすがしくも感じられる。
面白かった。