りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ふたつの人生 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

 

ふたつの人生 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

ふたつの人生 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

 

 ★★★★★

施設に収容されたメアリー・ルイーズの耳には、今もロシアの小説を朗読する青年の声が聞こえている――夫がいながら生涯秘められた恋の記憶に生きる女の物語「ツルゲーネフを読む声」。ミラノへ向かう列車内で爆弾テロに遭った小説家ミセス・デラハンティは同じ被害者の老人と青年と少女を自宅に招き共同生活を始める。やがて彼女は心に傷を負った人々の中に驚くべき真相を見いだしていく……「ウンブリアのわたしの家」。ともに熟年の女性を主人公にした、深い感銘と静かな衝撃をもたらす傑作中篇2作を収録。

中編が2編収められている。一作目の「ツルゲーネフを読む声」は読む女、二作目の「ウンブリアのわたしの家」は書く女。共通するのは現実で満たされないから想像に身を任せているということ。

ツルゲーネフを読む声」のメアリーは、町の生活に憧れて求婚してきた商店主エルマーと結婚するが、待っていたのは貧しい農民との結婚を反対する二人の姉との同居生活で、その二人からいびられる日々。エルマーは決して冷たいわけではないが姉から守ってくれないし、自分の世界にこもりっきりでメアリーに触れようとさえしない。
満たされない日々の中、唯一の楽しみは週に一度実家に帰ることだったのだが、ある日ふと思い立って従弟のロバートの家を訪れ、そこで自分の淡い初恋が実は両想いであったことを知る。
病弱で家にこもりきりの生活を送っているロバートのお気に入りの場所を一緒に散歩し、彼が朗読するツルゲーネフの物語を聞いていると、愛し愛されることが自分の手の届くところにあったことに気づくメアリー。
ロバートもメアリーの不幸な結婚生活について聞き、彼女が幼い頃自分に恋をしていたと聞かされて、諦めていた情熱を燃やし始める。
しかし二人の逢瀬は長くは続かない。恋の炎が心臓には耐えきれなかったかのようにロバートは急死してしまう。

たった一回の甘い思い出にすがり、その思い出をたよりに生きていこうとするメアリーの姿が悲しい。
会っている時よりその後一人で思い出してその時間を生き直す時の方が幸せというのはよくわかるだけに、それに没頭するために自ら狂気の中に飛び込むメアリーの幼さと孤独が辛い。

それでも現実だけではなく想像の世界に足をおくことで人間が豊かな生を生きていくことができるのも事実。
そしてしたたかなメアリーは、その思いを全うすることができそうだということを予感させるラスト。

二話ともいつも通り苦いトレヴァーだった。でもやはり素晴らしい。大好きだ。