りつこの読書と落語メモ

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双眼鏡からの眺め

双眼鏡からの眺め

双眼鏡からの眺め

★★★★★

〈全米批評家協会賞・PEN/マラマッド賞受賞〉
双眼鏡で隣人宅をのぞく少女が見た重い現実とは――切り詰めた描写のうちに底知れないものがひそむ表題作。
第二次世界大戦中のロンドンで難民の保護活動に携わるソーニャと、それぞれの道に進みゆく人々との束の間の交流を描く「愛がすべてなら」。
風変わりな客が集う山麓のホテルで、物静かな経営者の心を揺さぶる事件が起きる「ジュニアスの橋で」。
O・ヘンリー賞を三度受賞したたぐいまれな才能を持つ短篇作家が、簡潔な文章で切り取る毅然として生きる人々の鮮やかな一瞬。厳選された三十四篇を収録する傑作短篇集。

恐ろしく良い。とても静かでとりとめがないようなのにぞっとするほど良いのだ。なんだこれは。
一話目を読みだしてすぐに、これはいいぞ間違いないぞという予感…ではなく確信が。
共感とは違う、理解したとは言わないけれど少しだけ理解してると言わせてね、とおずおずと手を差しのべたい気持ちになる。

「上り線」 三歳で本が読めるようになった聡明なソフィーは七歳。
妹のリリーは二歳だがダウン症でいまだに姉の名前を覚えられない。
「リリーのおかげで生活が澄みわたってきた」と語る父親に対して、リリーが生まれてから家族がぐちゃぐちゃべとべとになったと感じているソフィー。
家族で美術館へ行った帰りにソフィーが迷子になってしまい…。

日常のなかに忍び込む破滅に繋がる裂け目。
それを決して大げさではなく静かに語っているのだが、ぞくぞくっと鳥肌がたつほどの恐ろしさとぐっときて涙があふれるようなあたたかさと。それを日常の何気ない出来事で描いている。
このラストシーンの素晴らしさよ…。

介護をするためにやってきたアジア人との日々を描いた「族長」や、重度の障害を持って生まれてきた赤ちゃんとその母を描いた「テス」、難民キャンプで働くソーニャの連作、死を前にした友人を描いた「女房」、電車の事故で一晩をともに過ごした男女を描く「自制心」、引退した女医が癌を宣告されて行動をおこす「自恃」。

どれも素晴らしかったが「自恃」がとりわけ好きだ。
死に近いところにある生を描いた作品が多い中でこの作品が最終話に選ばれているところが…。
特に痛々しいまでの闘病を描いた「女房」を読んだ後にこれを読むと、この主人公の選んだ結末を否定する気持ちになれない。
人間は弱い生き物で、弱いからこそ誰かと寄り添ったりして生きていくものなのだけれど、死んでいくときはみな一人なのだなぁ…。

ところでこの作品は大好きな古屋美登里さんの翻訳。
読んでみようと思ったのも古屋さんの翻訳だったからだ。
素晴らしい作品を訳してくださって本当にありがとうございます、としか言いようがない。