りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

猫とともに去りぬ

猫とともに去りぬ (光文社古典新訳文庫)

猫とともに去りぬ (光文社古典新訳文庫)

★★★★

光文社古典新訳文庫の特色のひとつは「本邦初訳」作品への挑戦。その第1弾がジャンニ・ロダーリのこの作品である。ロダーリは、既訳のある『ファンタジーの文法』『チポリーノの冒険』でも知られる、イタリアの詩人・児童文学者。「愉快な作風で、人の心を包みこみ、明晰であふれるようなユーモアの感覚を持つ」と評される。本書は代表的な短編集であり、20世紀イタリア文学の古典とされる。

楽しい!
毒気のない奇想って珍しいのではないか?
著者が児童文学作家だからなのだろうか。そこに物足りなさを感じる人もいるだろうが私は好きだなー。

表題作が好きだ。駅長を引退したアントニオ氏はなんだか家で居場所がない。
息子にも嫁にも話しかければうるさがられ孫にも相手にされず、さてどうするかというと、家を出て猫になっちゃうのだ。
そして広場にはアントニオ氏のような元人間猫がうじゃうじゃ。
はじめから猫ともきちんと距離を保ちつつ仲良く暮らすアントニオ氏らはなんか楽しそうだ。
猫の集会を見かけたら半分くらい元人間かも?と想像するのも楽しい。

ほかにも、魚になってヴェネチアを救ったり、ロダーリ版白雪姫やシンデレラも味があるし、庭やピサの斜塔の話もおかしい。
ニヤリとするユーモアに皮肉と寂しさのスパイスがピリリときいている。

解説を読むと著者ロダーリは共産党員。政治的なことはわからないけれど、世の中を斜めから見るところや、あらゆることを面白がる姿勢には共感した。