りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

夢宮殿

夢宮殿 (創元ライブラリ)

夢宮殿 (創元ライブラリ)

★★★★

名門出の青年が職を得たのは、〈夢宮殿〉。迷宮のような建物の中には、選別室、解釈室、筆生室、監禁室などが扉を閉ざして並んでいた。ノーベル文学賞候補作家による幻想と寓意に満ちた傑作。

タイトルからめくるめくファンタジーを想像していたのだがまるで正反対であった。
夢までも国家に管理されるまさにここはディストピア

主人公マルク=アレムは大臣を務める叔父がいたりする名家の生まれ。
しかしこの一家、国で重要なポストを占めて権力を握ることもあれば、突然逮捕されたりすることもある。
なぜそういう目にあうのかという理由もはっきりしておらず(一族が叙事詩にうたわれているため目の敵にされているというようなことがもやっと書かれている)、しかしかといってそのことに激しく反発するわけでもなく、全体にあきらめムードが漂っているのである。
マルク=アレムの母はこの一族の不幸な運命に我が子がさらされないようにと細心の注意を払っているのだが、それも意味があるのかないのかわからない。

自分の就職も自分で決めるのではなく一族の話し合いによって決められ、それが夢宮殿なのである。
物語はマルク=アレムの夢宮殿への初出社で幕を開ける。
冒頭からマルク=アレムは不安にかられている。夢宮殿で自分がどのような仕事をすることになるのかもわからなければ、はたしてこの就職が正しいのか間違っているのかもわからないのだ。
夢宮殿に入ってからも右へ行ったらいいのか左に行ったらいいのかもわからない。夢宮殿の建物自体が迷子になることを推奨するような造りになっている。
はとにかく目の前にある仕事をこなし、自分の一族にふりかかる災難をかわしていこうとするのだが…。

何一つ把握できないままマルク=アレムは夢選別課から夢解釈課へ異動になり(出世!)そうしているうちになにやら周囲に不穏なムードが漂い始める。
出世してしまい夢宮殿の灰色の世界に埋没していくマルク=アレム。絶望ムードが漂うのだが、馬車の中から春の訪れに気付くラストシーンが不気味なほど美しい。
なんとも独特のムードに包まれた小説だった。